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2017年6月29日 (木)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが78: リソソームとオートファジー

電子顕微鏡で細胞を観察していると、しばしば細胞内に何かわけのわからない内容物を含んだ閉じた袋のような構造体をみかけます。たとえば図1の細胞Aや細胞B(ラット真皮の細胞)の矢印の構造体です。矢印以外にも数多くみられます。これらの構造体は外界から取り込んだ固形物や液体、あるいは細胞内で生じた不要物などを集めて分解し、無害化したり、栄養として再利用したりするための、リソソーム(英語ではライソソーム)を主役とした「ごみ処理・再利用システム」の一部と考えられています。

 

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Dermis: 真皮、Dermal sheath: 真皮性毛包、Hair follicle: 毛包

 

リソソームはすでに1950年代にクリスチャン・ド・デューブ(図3)によって発見されており、ド・デューブは1974年にノーベル賞を受賞しています。彼のグループはラットの肝臓をすりつぶし、遠心力で分画して、マイクロソームとミトコンドリアの中間の画分にリソソームというオルガネラ(細胞内小器官)が存在し、その画分には酸性で稼働する加水分解酵素が多く含まれていることを証明しました。さらにファゴソームと名付けられた小胞が細胞質成分を包み込み、それがリソソームと融合して消化されるというシステムの存在を示唆しました(1、2)。

現在わかっていることを大まかに示すと図2のようになります。細胞膜ではファゴサイトーシスやピノサイトーシス(まとめてエンドサイト-シス)によって、細胞外からウィルスなどの固形物や、溶液などを取り込むという活動が行われています。ファゴサイトーシスが細胞外に浮遊する粒子(細胞破片、細菌、ウィルス)を選択的に細胞内に取り込むことを指すのに対し、ピノサイトーシスは細胞外液を非選択的に細胞内に取り込むことを指します。ファゴは食べる、ピノは飲むという意味です。

これは細胞近傍の有害物質を無害化したり、高分子の栄養物質をとりこんだりするために行われています。細胞膜の1部を使ってしまいますが、考えようによっては細胞膜一部を更新するという新陳代謝を行っているともいえます。

集めた外界の物質などはエンドソームに集められ、次に内部がpH5のリソソームと融合してファゴリソソームとなり、ゴルジ体からリソソームやエンドソームに供給された数十種類の加水分解酵素が働いて消化活動を行います。これらの酵素はpH5周辺が至適の酵素なので、細胞質に漏れ出ても細胞を破壊することはありません。ファゴリソソームでの消化が終了すると、ファゴリソソームはリソソームに戻って次の機会を待ちます(図2)。

ゴルジ体で作られた酸性が至適pHの加水分解酵素群はそれぞれマンノース6リン酸と結合し、マンノース6リン酸がマーカーとなってレセプターと結合し、ゴルジ体から分離した小胞でリソソームなどに運ばれます。ここでレセプターから離れた加水分解酵素は仕事をはじめます。エンドソームもリソソームほどではなくてもpHは酸性になっているので加水分解は可能ですが、もちろんリソソームと融合すると効率的に消化がすすみます(図2)。

 

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リソソームシステムは細胞外の物質だけではなく、細胞内の物質も消化することがわかっています(1-4)。この場合ファゴソームはオートファゴソーム、ファゴリソソームはオートリソソームといいます(オートは自分自身という意味)。そしてこのような自己消化活動全体を指してオートファジーといいます。ド・デューブの時代からオートファジーという現象があると言われていたのですが、その後細胞外から貪食作用(ファゴサイトーシス)によってとりこまれたものはリソソームシステムによって消化されるが、細胞内のものは消化されないとか、タンパク質のターンオーバーにはリソソームは関与しないという批判があり、さらにプロテアソームによる不要タンパク質分解機構が発見されるに至って、オートファジーは冬の自体を迎えることになりました(3)。

そのような冬の時代にも、出芽酵母(お酒やパンをつくるのに使われる酵母です)のオートファジーに関心を持っていたのが大隅良典(図3)で、彼は出芽酵母の突然変異体を5000体作成し、そのなかからたったひとつのオートファジーを行わない突然変異体を分離しました(3)。この変異体は通常は普通に増殖しますが、栄養状態が悪くなると早死にしてしまいます。すなわちオートファジーとは飢餓時に自食することによって生きながらえるためのメカニズムであることが示唆されました。

 

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最新科学や先進技術もその歴史をひもとくと、実は知らない人から見ると全く個人の趣味・カルトな興味・重要性が全く見いだせないとしか思えない研究に行き着く場合が多いのです。DNAを切り貼りしてゲノムを編集するなどという技術も、もとをたどれば、細菌がいかにしてウィルスの攻撃を逃れるかという「細菌の免疫機構」の研究から生まれた代物であって、最初からDNAの改変を目的として開発された技術ではありません。大隅先生がよく基礎科学の重要性を強調されるのはそういうことだと思います。

もっとはっきり言えば、研究費はばらまくことが必要なのです。どんな研究が科学の飛躍的発展につながるかなんて、神様しか知ることはできないのです。ですから私は少額の科学研究費は抽選にしましょうと昔から主張しています。まともな研究者はそういうことがよくわかっているので、同じ研究分野の貧困研究者にこっそり30万円づつ配っていた先生もおられました。

出芽酵母は図4のようにゲノムが1セットのn世代と2セットの2n世代があり、n世代のα タイプと a タイプが接合することによって2n世代がはじまります。このn世代(ゲノムが1セット)でも2n世代と同様な状態で普通に生きられる生物であることが味噌です。1ヶ所の遺伝子の傷によって表現型が変化する可能性が高いので、遺伝学の世界では重宝されています。哺乳類だと精子・卵子以外はすべて2nなので、1ヶ所の傷だと+/+が+/-になるだけで、健全な遺伝子が傷ついた遺伝子の働きを代替する場合が多く、遺伝子型と表現型は1:1に対応しません。研究に都合の良い素材を選ぶことは重要です。

出芽酵母の2n世代は胞子をつくることができます。非常に興味深いことに、オートファジーができないミュータントは胞子をつくることができないそうです(3)。胞子は飢餓など環境の悪化に抵抗性の高い状態です。すなわち酵母のような10億年前から生きているプリミティヴな生物においても、オートファジーは自食だけでなく、もっと複雑なサバイバル戦略の要になっていることがわかります。

 

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大隅らの研究によって、オートファジーができないミュータントはApg1というタンパク質が欠損していることがわかりましたが、次にはその他にオートファジーに関与しているタンパク質(遺伝子)はないのかということになります。この研究を実行したのが埼玉大学から東大駒場の大隅研にやってきた大学院生の塚田美樹でした(図3)。5000体の変異体からわずかひとつだけしか分離できなかったオートファジーのミュータントを、彼女は38,000体の変異体から何と15体も分離し、FEBS lett. に発表しました(5)。この論文がその後のオートファジー研究の出発点となりました。私もこの論文を読む機会があって、大変感動したことを覚えています。大隅は2016年のノーベル生理学医学賞を受賞しましたが、当時の研究室の思い出を弟子の方々がつづった思い出文集「駒場での大隅研究室」がウェブサイトで公開されています(6)。

塚田・大隅の論文が出版された頃にはもうヒトやマウスの全DNA配列が解明されてきていて、酵母でオートファジーを担う遺伝子に対応した哺乳類の遺伝子も明らかになり、2000年前後から一瀉千里に研究は発展しました。

オートファジーは真核生物全般に見られ、原核生物にはみられません。まず細胞質に脂質2重膜が2枚重なったようなお椀のような構造体が現れ、やがて球形に閉じて中身を閉じ込め(オートファゴソーム)、その外側の膜とリソソームの膜が融合してオートリソソームが完成します(図5、参照7よりコピー)。そのなかで構造体の分解消化が行われます。哺乳類でも酵母と同様、飢餓状態になると盛大にオートファジーが行われます。図5Cは飢餓状態にしたラットの肝臓のオートファジーを観察したものです。

 

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水島(図3)によると、哺乳類では受精直後(卵巣から離れると、着床するまでしばらく母親が残したタンパク質を栄養源として生き延びる)、出生直後(へその緒からの栄養供給がなくなるので自食で補う)、成体が飢餓状態・・・のような時にオートファジーが特に活発になるそうです(8)。もちろんオートファジーのシステムは普段から細胞内の老廃物を分解し、再利用したり廃棄したりするゴミ処理場の役割を果たしています。変性したタンパク質はオートファジーだけでなく、プロテアソームシステムでも排除できますが、不良ミトコンドリアはオートファジーまたは未知のシステムを使わなければ排除できません(4)。赤血球からミトコンドリアを排除する際にも、オートファジーのシステムが使われているようですが、未知のシステムが関与している可能性も残されています(4、9、10)。

タンパク質を分解するシステムは前記のようにプロテアソームというのがあるのですが、プロテアソームは多糖類や糖脂質を分解することはできません。したがってこれらを分解するリソソーム酵素が欠損すると、細胞内に不要な多糖類や糖脂質が蓄積して病気が発生します。どんな病気があるかは Lyso Life というサイト(11)を参照し、主要なものだけ列挙しておきます。詳しくはサイト(11)をご覧下さい。

ゴーシェ病
グルコセレブロシダーゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グルコセレブロシドという物質が分解されにくくなります。肝臓や脾臓が大きくなる、貧血や血小板の減少、骨症状などがみられ、けいれんや斜視(左右の目の視線が一致しない)などの神経症状が現れることもあります。

ファブリー病
α−ガラクトシダーゼ(α‐GAL)という酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グロボトリアオシルセラミド(GL-3)という物質が分解されにくくなります。手足の痛みや汗をかきにくいといった症状や、腎機能障害、心機能障害、脳血管障害などが現れます。

ポンペ病(糖原病Ⅱ型)
酸性α−グルコシダーゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グリコーゲンという物質が分解されにくくなります。骨格を支える筋肉や呼吸に必要な筋肉の力が弱くなり、体重が増えにくい、心臓の働きが悪くなるなどの症状が現れることもあります。

ムコ多糖症Ⅰ型
α−L−イズロニダーゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)という物質が分解されにくくなります。関節のこわばり、骨の変形、肝臓や脾臓が大きくなる、むくむくとした顔立ち、水頭症(頭の中に水がたまる)などの症状がみられ、知的な発達の遅れなどが現れることもあります。

ムコ多糖症Ⅱ型
イズロン酸−2−スルファターゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)という物質が分解されにくくなります。関節のこわばり、骨の変形、肝臓や脾臓が大きくなる、むくむくとした顔立ちなどの症状がみられ、知的な発達の遅れなどが現れることもあります。

 

参照

1)C. De Dube, B. C. Pressman, R. Gianetto, R. Wattiaux and F. Applemans. Tissue Fractionation Studies. 6. INTRACELLULAR DISTRIBUTION PATTERNS OF ENZYMES IN RAT-LIVER TISSUE. Biochem J. vol. 60(4): pp. 604–617.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1216159/

2)Alex B. Novikoff, H. Beaufay,  and C. De Duve. ELECTRON MICROSCOPY OF LYSOSOME-RICHFRACTIONS FROM RAT LIVER.  J. Biophys. Biochem. Cytol., Vol. 2, NO. 4, Suppl. pp.179-190 (1956)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2229688/pdf/179.pdf

3)荒木保弘・大隅良典 「オートファジーを長き眠りからめざめさせた酵母」 領域融合レビュー, 1, e005 (2012) DOI: 10.7875/leading.author.1.e005
Yasuhiro Araki & Yoshinori Ohsumi: Awakening the hibernation of autophagy research using yeast.
http://leading.lifesciencedb.jp/1-e005/

4)水島昇 「細胞が自分を食べる オートファジーの謎」 PHPサイエンスワールド新書 PHP研究所 (2011)

5)Miki Tsukada, Yoshinori Ohsumi., Isofation and characterization of autophagy-defective mutants of Saccharomyces cerevisiae., FEBS lett. Volume 333, number 1,2, pp. 169-174 (1993)
http://www.selectividad.pt/uploads/8/7/4/5/87451854/tsukada_et_al-1993-febs_letters.pdf

6)大隅良典先生ノーベル賞受賞記念思い出文集「駒場での大隅研究室」
http://bio.c.u-tokyo.ac.jp/file/OHSUMI.pdf

7)https://en.wikipedia.org/wiki/Autophagy

8)水島昇 哺乳類胚発生におけるオートファジーの役割を解明-マウス受精卵、自身の細胞内たんぱく質を分解して栄養に-
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20080704/index.html?newwindow=true

9)H. Takano-Ohmuro, M. Mukaida, E. Kominami, K. Morioka., Autophagy in embryonic erythroid cells: its role in maturation. Eur. J. Cell Biol., vol. 79, pp. 759-764 (2000).

10)S. Honda et al., Ulk1-mediated Atg5-independent macroautophagy mediates elimination of mitochondria from embryonic reticulocytes. Nat. Commun.  Jun 4; vol. 5: 4004. (2014) doi: 10.1038/ncomms5004

11)http://www.lysolife.jp/about/about/kind.html

 

 

 

 

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2017年6月21日 (水)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが77: ミトコンドリア

ミトコンドリアは「呼吸」について述べたところで、やや詳しくとりあげました(1)。ここではミトコンドリアという構造体について、もっと基本的なところからあらためて展開したいと思います。

ミトコンドリアを発見したのは、ミーシャーの協力者であり、「nuclein ヌクレイン」 を正しく 「nucleic acid 核酸」 と改名したリヒャルト・アルトマンです。ミトコンドリアは光学顕微鏡による観察ではサイズが小さすぎて見えないのですが、適切に固定・染色すれば細菌と同様観察することができます。アルトマンはその固定法や染色法を工夫して、あらゆる細胞の中に細菌のような生物が棲息していることを示唆しました。1890年頃のことです。アルトマンはそれをバイオブラストと命名し、シンビオント(共生体)であることを早くも予想していました(2、3)。

現在ではゲノムの解析などから、ミトコンドリアが αプロテオバクテリア にその起源を持つことは一般的に認められていますが、当時ではまさに荒唐無稽な説であり、アルトマンが言うところのバイオブラストは固定・染色のアーティファクトだとされて、全く相手にされなかったようです。そのためアルトマンは晩年は自室に引きこもって隠遁生活を余儀なくされたそうです(2、3)。アルトマンは21世紀になってから再評価されて、著書も復刻されました(図1)。彼はわずか48歳で他界していますが、その肖像は異様に年老いてみえます(図1)。悩みの多い人生だったことがうかがえます。

しかし当時から小数ながら彼を支持する研究者もいて、1898年にカール・ベンダはアルトマンのバイオブラストが、あるときには糸(mito in Greek)、あるときには顆粒(chondros in Greek)に見えることから、改めてミトコンドリオン(複数はミトコンドリア)と命名しました。さらに1900年にはレノア・ミカエリスが生細胞をヤヌス・グリーンという色素で染めてミトコンドリアを観察することに成功し、しだいにミトコンドリアはその存在を認められるようになりました(3)。

1960年代にはリン・マーギュリスがミトコンドリア=シンビオント説を再興し(4、図1)、現在ではそれが広く認められるようになりました。参照文献4の著者のファミリーネームがセーガンとなっているのは、当時彼女がカール・セーガン(映画「コンタクト」の原作者:主演ジョディ・フォスターが素晴らしく、ストーリーもうまくできているのでおすすめします)の奥様だったからです。

 

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ウィキペディアによると、ヒトの場合ミトコンドリアの総重量は体重の約10%を占めるとされています(5)。確かに肝臓の細胞などを観察していると、そのことが納得できるくらい頻繁にミトコンドリアをみつけることができます。ヒトの場合ひとつの細胞に、平均すると数百個のミトコンドリアが存在すると言われています。ただ酸素を運ぶのが仕事の赤血球では、おそらくミトコンドリアが途中で酸素を使ってしまうのを防ぐために、ミトコンドリアを消滅させています(6、7)。消滅させるメカニズムは、大隅先生のノーベル賞授賞で有名になったオートファジーなどです(6、7)。角質化した細胞(表皮上層部・爪・毛など)にもミトコンドリアはみられません。

ミトコンドリアは図2のように、いちばん外側は進化上真核生物に由来すると思われる外膜に包まれ、その内側に細菌(シンビオント)由来と思われる内膜が存在します。内膜は外膜をぴったりと裏打ちしているわけではなく、ときおり細胞内に突出する場合があり、この構造をクリステといいます(図2)。外膜と内膜の間やクリステには膜間腔という狭い空間があります。内膜の内側にはマトリックスと呼ばれる細胞質があり、核はなくミトコンドリアDNAがあります(図2)。ひとつのミトコンドリアには通常数コピーのミトコンドリアDNAがあるようです(5)。DNAは裸ではなくタンパク質でラップされている状態にあるようです。

 

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ヒトを含めて多くの動物のミトコンドリアDNAに含まれる遺伝子は、リボソームRNAが2個、トランスファーRNAが22個、その他ATP合成酵素などが13個、計37個(8、図3)で、大腸菌が約4000個の遺伝子を持つことを考えると、シンビオントが共生をはじめてから、進化の過程でほとんどの遺伝子がホスト(ヒト)のゲノムに移行または吸収されてしまったことが示唆されます。これはおそらくミトコンドリアが独立した生物として、勝手に増殖や機能発現を行わないように制御するためと思われますが、ここまで徹底的に移転させたのには、それなりの理由または特別なイベントがあったのかもしれません。ミトコンドリアの呼吸鎖複合体4つのすべては、ホストのゲノムにコードされているタンパク質がなければ活動できないので、ミトコンドリアにおけるATP産生はホストによって決定的に規制されています。

 

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ミトコンドリアDNAは円形(サーキュラー)でかつ非常に小さいので、ウィルスやプラスミドが行うようなローリングサークル型DNA複製を行います。これは図4のように、トイレットペーパーを引き出すような形で、とりあえず片側のDNAだけをタンデムに複数コピーして作成し、切断・二重鎖化・環状化はそのあとゆっくり進行させるというやり方です。

このやり方のひとつの利点は、1個のミトコンドリアに「変異が蓄積して不要なDNA」と「無傷のDNA」が共存した場合、ミトコンドリアが分裂したときに無傷のDNAをローリングサークルで多数複製し、それを娘ミトコンドリアに送り込むことができるということです。これは1種のクローニングで、そうしてできた娘ミトコンドリアは新品同様なので、卵母細胞などメスの生殖細胞ではこのようなミトコンドリアが使われていると考えられます(9)。

 

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ミトコンドリアは静的な存在ではなく、しばしば融合や分裂を繰り返す動的な存在です。ミトコンドリアを縊り切って分裂させる装置の主役となるタンパク質は、細菌のチュブリンファミリーや真核生物のアクチンファミリ-ではなく、なんとダイナミンファミリーの Drp (哺乳類の場合)です(10、11、図5)。驚くべき事に彼らは過去に装備していた分裂装置を捨て去り、かと言ってホストの分裂装置も借りないで、全く新しい生き方を選びました。ホストの細胞内という環境の中で、ホストと自分自身の生存に有利な方向に進化してきたのでしょう。

しかも新しい分裂装置を獲得する中で、ミトコンドリア同士を融合するシステムを獲得しました(図5)。図5に示したダイナミンファミリーの Drp、 Mfn、Opa、の他にも多くのタンパク質が細胞融合にかかわっているようです(11)。獲得したと言いましたが、もちろんミトコンドリアが独自に進化したのではなく、これらのダイナミンファミリーの遺伝子はすべてホストのゲノムに存在しているので、ホストの進化といっても良いわけです。

 

ミトコンドリアの融合がなぜ有用なのかは、まだ完全に理解されているわけではありませんが、例えばDrp1の突然変異が重篤な新生児致死の原因となる、Mfn2 に変異が生じると末梢神経に障害をもつ神経変性疾患である Charcot-Marie-Tooth 病に罹患する、Opa1 の変異は視神経形成異常となるDominant Optic Atrophy の原因となるなどが報告されています(11、12)。ローリングサークルで大量のDNAを合成した場合、その事後処理のため大型のミトコンドリアが必要とも考えられます。心筋などでは多量のATPが必要とされるので、ミトコンドリアが巨大化し、かつびっしりと繋がって存在する場合があります(13)。

 

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ミトコンドリアは現在ではリボソームRNA遺伝子やシトクロムc遺伝子の構造比較から、αプロテオバクテリアに起源するとされており、そのなかでもリケッチアあるいはその祖先に近いとされるペラジバクター(現在でも海洋に浮遊する普通種)が起源ではないかと言われています(5)。

話は変わりますが、ミトコンドリアは母親から受け継がれるので、ミトコンドリアDNAの塩基配列を解析し系統樹を作成すると、最初の一人の母親にたどりつくという研究があります。そのアフリカに住んでいたとされる母親はミトコンドリア・イヴと呼ばれることもあります。ただし聖書のようにその母親からすべての人類が生まれたわけではなく、たまたま20万年もの間、子供に必ず女性がいたというとてもめずらしい家系の頂点にいる女性ということです。ミトコンドリアが母親から受け継がれるというのは真実で、それなら精子のミトコンドリアは受精後どうなってしまうのでしょうか?

図6のように受精後しばらくは精子のミトコンドリアも受精卵の中で生きているのですが、融合や増殖は禁止されています。そして受精卵が分裂を繰り返し個体に発生していく過程で、父系のミトコンドリアはオートファゴソームという袋につつまれて分解(オートファジー)されてしまいます(14、15)。父系のミトコンドリアをすべて殺してしまうというのが生物にどんなメリットを与えるのかはよくわかっていません。卵子ではミトコンドリアの品質がきちんと管理されているが、精子では管理されていないということも考えられます。

 

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ミトコンドリアは酸素を使って代謝を行っている上、鉄も多く含むため、活性酸素が発生しやすい条件が整っています。活性酸素はタンパク質・脂質・核酸などの生体物質と反応して変質させることがあります。したがってミトコンドリアは常に劣化する危険にさらされています。劣化したミトコンドリアは通常オートファジーによって排除されますが、それでも間に合わない場合、ミトコンドリア内部からシトクロムcというタンパク質が放出され、ホストの細胞ごと自殺に導くという究極のプロセスが発動します。

このプロセスはアポトーシスと呼ばれており、もともと細胞が修復不能なダメージを受けたとき、p53というタンパク質がシグナルとなってミトコンドリアに情報を伝え、それにミトコンドリアが反応してシトクロムcを放出するというメカニズムがあるのですが(図7)、それを利用してミトコンドリアの品質管理が行われることもあり得るということです。

真核生物はミトコンドリアからほとんどの遺伝子を奪い取りましたが、一方で自らの生死をミトコンドリアの指令によって決めるというメカニズムを構築しました。不思議な進化の物語です。

 

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ミトコンドリア遺伝子の異常、ミトコンドリア品質管理の異常などが原因の疾患はいろいろ知られています。詳しくはウィキペディアのミトコンドリア病の項などを参照していただきたいですが、アルツハイマー病やパーキンソン病にミトコンドリアの機能不全が原因とおぼしきものがあるらしいそうで、これはちょっとした驚きです(16)。

 

参照

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2017/05/post-d4be.html

2)Brian O'Rourke, From Bioblasts to Mitochondria: Ever Expanding Roles of Mitochondria in Cell Physiology., Front Physiol., vol. 1: article 7, pp. 1-4 (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3059936/pdf/fphys-01-00007.pdf

3)Carolyn Csanyi, Discovery of the Mitochondria, Sciencing (2017)
http://sciencing.com/discovery-mitochondria-20329.html

4)Lynn Sagan  On the origin of mitosing cells. J. Theoretical Biology vol. 14(3), pp. 255-274. (1967) PMID 11541392 doi:10.1016/0022-5193(67)90079-3

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2

6)H. Takano-Ohmuro, M. Mukaida, E. Kominami, K. Morioka., Autophagy in embryonic erythroid cells: its role in maturation. Eur. J. Cell Biol., vol. 79, pp. 759-764 (2000).

7)S. Honda et al., Ulk1-mediated Atg5-independent macroautophagy mediates elimination of mitochondria from embryonic reticulocytes. Nat. Commun.  Jun 4; vol. 5: 4004. (2014) doi: 10.1038/ncomms5004
http://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/329
http://www.nature.com/articles/ncomms5004

8)Jeffrey L. Boore, Animal mitochondrial genomes., Nucleic Acids Res., vol. 27 (8): pp. 1767-1780 (1999),  DOI: https://doi.org/10.1093/nar/27.8.1767
https://academic.oup.com/nar/article/27/8/1767/2847916/Animal-mitochondrial-genomes

9)Feng Ling, Rong Niu, Hideyuki Hatakeyama, Yu-ichi Goto, Takehiko Shibata and Minoru Yoshida, "ROS stimulate mitochondrial allele segregation towards homoplasmy in human cells", Molecular Biology of the Cell, vol. 27:10 pp. 1684-1693 (2016)  doi: 10.1091/mbc.E15-10-0690
http://www.molbiolcell.org/content/27/10/1684.full.pdf+html?sid=f44cb659-f009-4cb0-9842-939478677381
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160428_1/#note5

10)石原直忠、 融合と分裂によるミトコンドリアの形態制御の分子機構と生理機能 生化学 vol. 83, no.5, pp. 365-373 (2011)

11)伴 匡人,後藤雅史,石原直忠、ミトコンドリアの融合と分裂 その意義と制御機構 化学と生物 vol. 53, no.1, pp. 27-33 (2015)

12)H. R. Waterham, J. Koster, C. W. T. van Roermund, P. A. W. Mooyer, R. J. A. Wanders & J. V. Leonard:  A Lethal Defect of Mitochondrial and Peroxisomal Fission.  N. Engl. J. Med., vol. 356, pp.1736-1741, (2007).

13)http://www.cellimagelibrary.org/images/7567

14)佐藤美由紀  父由来のミトコンドリアが消されるしくみ 生命誌 vol.84-87 「つむぐ」 新曜社 pp. 100-105 (2016)
http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/085/research/2.html

15)佐藤美由紀、佐藤健  ミトコンドリアゲノムの母性遺伝のメカニズム オートファジーによる父性ミトコンドリアの分解 化学と生物 vol. 50 (7) pp. 479-480 (2012)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/7/50_479/_pdf

16)田中敦、Richard J Youle  ミトコンドリアの品質維持とパーキンソン病 細胞工学 vol. 29 (5) pp. 431-437 (2010)

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2017年6月12日 (月)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが76: 細胞骨格3

これまでにも述べてきましたように、マイクロフィラメントや微小管は細胞骨格というより、細胞移動・細胞内輸送・細胞分裂などを実行するためのツールであり、変動も激しくそのためにATPやGTPを大量に使用します。それらと比較すると中間径繊維は安定で、形成にATPやGTPを必要としないので、細胞骨格という名前にふさわしいかもしれません。中間径というのは、約6nm径のマイクロフィラメントと約25nmの微小管の中間のサイズ=約10nmという意味です。

図1はケラチンを例にとりましたが、Ⅰ型とⅡ型のケラチンがヘテロ2量体をつくり、そのヘテロ2量体がアンチパラレルに結合して4量体を形成し、それらが4本集まってプロトフィブリルを形成します。プロトフィブリルが多数集まって、中間径繊維ができあがります。このような構造を形成するためにATPやGTPは消費しません。

 

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中間径繊維も伸長や短縮を行いますが頻繁ではなく、基本的には細胞の形態を決めるのに役立っているとも言えますが、実際にはそんなに単純ではなくて、例えばケラチンの場合、その生理的意義・機能は多岐にわたっており、角化によって水分の蒸発を防ぐ、細菌やウィルスの侵入を防ぐ、紫外線のダメージを吸収する、体温を維持する、捕殺や負傷を防ぐ、敵を突き殺す、指先に力を与える、蹄で体重をささえて走る、羽毛で空を飛ぶ、など数えきれません。

中間径繊維を構成するタンパク質は図2のように多数のグループがあり、通常それぞれのグループに複数の種類のタンパク質が所属します。グループを越えて複合的な繊維をつくることは一般的にはありません。ケラチンは上皮組織、ビメンチンは間充織、デスミンは筋肉、ニューロフィラメントは神経など特定の組織で発現するタンパク質が多いのですが、ラミンだけは例外的に広汎な組織にみられます。

 

2a

 

各タンパク質の分子構造をみていきますと、図3のように、すべてNH2側(N末)とCOOH側(C末)にαヘリックスやβシートを形成しない領域があり、中央にαヘリックスからなるロッド領域があるという形で、3つのドメインで構成されています。ロッド領域は2~3ヶ所の非αヘリックスリンカーで分断されています。

ロッド領域で多数の分子がパラレルに結合することによって太いケーブルが形成され、C末とN末がタンデムに結合して長いケーブルとなります。他の分子はすべて細胞質にありますが、ラミンだけは核にあるのでC末ドメインに核局在配列が存在します。(分子量は5万~7万です)。

 

3a

 

ケラチンは注意深くない生化学者には嫌われているタンパク質です。というのはラーメン店でスープを指にかけながら持ってくるウェイトレスのような研究者もいて、電気泳動槽のバッファに指をちゃぽちゃぽ浸しながら移動させることがあるので、そうなると皮膚のケラチンが検出されます。頭を洗っていない研究者だとフケが落下したりもします。

ケラチンにはSHが多く(髪が焦げると硫黄の臭いがします)、となりの分子のSHと結合してSS(ジスルフィド結合)を形成するので、分子の独立性は失われ、やや大げさに言えば毛髪・爪・角・鱗などはひとつで1巨大分子ということになります。ケラチンは肝臓のような柔らかい組織にもあるので、存在場所に応じて多くの種類があります。ヒトを含めて動物は数十種類のケラチン分子種すなわち遺伝子を保有しています。

ケラチンを発見したのは誰だか判りませんが、16世紀の中国の薬草学者李時珍(Li Shih-chen 図4)が治療に用いていたことが、私は未読ですが、彼の大著「本草綱目Compendium of Materia Medica」から読み取れるそうです(1、2)。最初にケラチン遺伝子の配列を決めたのはハヌコグルとフックスです(3、図4)。

 

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これはややめずらしいことだと思いますが、たとえばヒトの場合、I 型ケラチングループの各遺伝子は第17染色体の特定部位に、II 型ケラチングループの各遺伝子は第12染色体の特定部位にぎっしりかたまって存在しています。しかも上皮ケラチン・毛根鞘ケラチン・毛&爪ケラチンはそれぞれクラスターを形成しています。偽遺伝子もいくつかみつかっています(図5)。ケラチンの大きな特徴として、表皮・毛髪・爪・角・鱗などの死細胞においても、垢・雲脂・生え替わりなどで外界に廃棄されるまで、その機能を果たしていることが上げられます。

 

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ビメンチン(分子量57,000)は発見者がはっきりしています。ドイツのマックス・プランク研究所の Franke WW, Schmid E, Osborn M, and Weber K. です(4)。オズボーンとウィーバー(夫妻)は生化学に手を染めた者なら誰でも使ったことがある米の飯のような「SDS-PAGE」という分析法を開発したことで有名な研究者です(図6)。フランケは近年はアンチ・ドーピングの研究者としても有名です(5、図6)。

 

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図7Aはマウス胎児の皮膚で私が撮影したものですが、ビメンチンが茶色に染まっています。表皮や毛包の上皮性組織はほとんど染まらず、間充織である真皮や毛乳頭はよく染まっていることがわかります。違いが明白なので、腫瘍が上皮性か間充織性かを判別するのに、ビメンチンの染色が使われています。図7Bは細胞内におけるビメンチンの分布です。核を包み込むような感じですが、ミトコンドリアや小胞体と結合する場合もあるようです(6)。

 

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ビメンチンの機能はかなり微小管が代替することができるようではっきりとわかっていませんが、細胞に弾力を与えたり、オルガネラを保護するような役割があるようです(6)。ビメンチンの遺伝子を欠損すると負傷からの回復が遅れるという報告もあります(7)。

デスミン(分子量53,500)は筋細胞に特異的に存在するタンパク質で、デスミンがつくる繊維は細胞骨格と言うより筋組織のパーツとしての役割を担っています。。ラザリデスのグループによって発見され(8)、遺伝子配列はLi Zhenlin(9)らによって解明されました。デスミン遺伝子を欠損させたマウスでは、正常な筋肉組織が形成されないことが明らかになっています(10)。デスミン遺伝子の突然変異によるヒト筋肉疾患も報告されていま(11)。

デスミン繊維は横紋筋細胞では図8のように配置されていて、筋原繊維のZディスク同士、Zディスクと筋鞘(サルコレンマ)のコスタメア、Zディスクとミトコンドリアや核を連結しています(12、図8)。

 

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ニューロフィラメントは神経細胞に特異的に出現する中間径繊維で、発見者は F.C. Huneeus & P.F. Davison です(13)。構成しているタンパク質は3種類の分子量がかなり異なるアイソフォームで、それぞれNF-H (分子量 200-220 kDa)、 NF-M (分子量145-160 kDa)、 NF-L (分子量68-70 kDa)と命名されています。軸索の内径を広げて、神経伝達がスムースに行われるようにするという説があります(14)。

類似したタンパク質にα-インターネキシン(分子量66kDa)というのがありますが、図9のようにニューロフィラメントタンパク質(グリーン)とは異なる細胞(図9の場合は未分化な神経細胞 レッド)に発現する場合があります。神経細胞にはこの他にネスチン、ペリフェリンなどの中間径繊維形成タンパク質も発現します。

 

9a

 

最後にラミンですが、ラミンだけは核に局在しているタンパク質で、ラミン繊維は核ラミナと呼ばれる核膜を裏打ちしている構造となっています。初期の研究は Aaronson RP と Blobel G によって行われました(15)。10年後には遺伝子配列も明らかになりました(16)。

ラミンは真核生物が出現すると同時に生まれたのではないようです。ヒドラからヒトまですべての動物(後生生物)にあるのですが、植物・カビ・単細胞生物は持っていません。このことはラミンが動物独特の体細胞分裂に関与していることを示唆しています(17、18)。また核内での染色体の位置決めとかDNAの転写にも関与しているかもしれません(18)。

ラミンにはAタイプとBタイプがあり、それぞれ別の遺伝子にコードされています。これ以外にCタイプというのがあるのですが、CタイプとAタイプは同じ遺伝子にコードされており、Cタイプは選択的スプライシングによって生成されたものです。Cタイプも含めたAタイプは胎生期にしか発現しません。一方BタイプはB1・B2が別の遺伝子にコードされており、これらはすべての細胞に認められます。AタイプはBタイプから進化的に派生したと考えられています(17、18)。

とは言っても、Aラミンの機能をBラミンが代替できるわけではなく、マウスではAタイプラミンの欠損によって、成長が著しく遅れ、筋ジストロフィーが発生するそうです。またラミンBの欠損は致死です(18)。ラミンの局在に関心がある方は、参照に記載したサイトをご覧ください(19-22)。

 

参照

1)Compendium of Materia Medica:https://en.wikipedia.org/wiki/Compendium_of_Materia_Medica

2)The discovery of keratin. http://keratininformation.weebly.com/discovery.html

3)Hanukoglu, I.; Fuchs, E., "The cDNA sequence of a human epidermal keratin: divergence of sequence but conservation of structure among intermediate filament proteins". Cell. vol. 31 (1): pp. 243–252.  (1982) doi:10.1016/0092-8674(82)90424-X. PMID 6186381.

4) Franke WW, Schmid E, Osborn M, Weber K. Different intermediate-sized filaments distinguished by immunofluorescence microscopy. Proc Natl Acad Sci USA vol. 75: pp. 5034-5038 (1978)

5)http://www.sueddeutsche.de/sport/anti-doping-experte-werner-franke-in-der-zweiten-halbzeit-wirkt-sich-epo-fantastisch-aus-1.2379897

6)https://en.wikipedia.org/wiki/Vimentin

7)Eckes B, Colucci-Guyon E, Smola H, Nodder S, Babinet C, Krieg T, Martin P., "Impaired wound healing in embryonic and adult mice lacking vimentin.". Journal of Cell Science. vol. 113: pp. 2455–2462. (2000) PMID 10852824.

8) Izant JG, Lazarides E.,  "Invariance and heterogeneity in the major structural and regulatory proteins of chick muscle cells revealed by two-dimensional gel electrophoresis". Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. vol. 74 (4): pp. 1450–1454. (1977) PMC 430794 Freely accessible. PMID 266185. doi:10.1073/pnas.74.4.145

9)Li Zhenlin, Alain Lilienbauma, Gillian Butler-Browneb, Denise Paulin., Human desmin-coding gene: complete nucleotide sequence, characterization and regulation of expression during myogenesis and development., Gene, vol. 78, Issue 2,  pp. 243–254 (1989)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0378111989902278

10)Capetanaki Y1, Milner DJ, Weitzer G., Desmin in muscle formation and maintenance: knockouts and consequences., Cell Struct Funct., vol. 22(1): pp. 103-116. (1997)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9113396

11)デスミンミオパシー,デスミン遺伝子の突然変異による心筋ミオパシーを伴った骨格筋ミオパシー: 
http://www.nejm.jp/abstract/vol342.p770

12)Panagiotis Koutakis et al., Abnormal Accumulation of Desmin in Gastrocnemius Myofibers of Patients with Peripheral Artery Disease: Association with Altered Myofiber Morphology and Density, Mitochondrial Dysfunction and Impaired Limb Function., Journal of Histochemistry and Cytochemistry (2015)
https://www.researchgate.net/publication/270705709_Abnormal_Accumulation_of_Desmin_in_Gastrocnemius_Myofibers_of_Patients_with_Peripheral_Artery_Disease_Association_with_Altered_Myofiber_Morphology_and_Density_Mitochondrial_Dysfunction_and_Impaired_Li

13)F.C. Huneeus. and P.F. Davison,  Fibrillar proteins from squid axons: I. Neurofilament protein, Journal of Molecular Biology, vol. 52, Issue 3, pp. 415-418 (1970).
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022283670904109#

14)https://en.wikipedia.org/wiki/Neurofilament

15)Aaronson RP, Blobel G., Isolation of nuclear pore complexes in association with a lamina. Proc Natl Acad Sci vol. 72: pp. 1007–1011 (1975)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2964183/

16)McKeon FD, Kirschner MW, Caput D., Homologies in both primary and secondary structure between nuclear envelope and intermediate filament proteins. Nature 319: 463–468 (1986)

17)https://en.wikipedia.org/wiki/Lamin

18)Thomas Dechat, Stephen A. Adam, Pekka Taimen, Takeshi Shimi,and Robert D. Goldman, Nuclear Lamins., Cold Spring Harb Perspect Biol;2:a000547 (2010)

19)http://www.abcam.co.jp/lamin-b1-antibody-nuclear-envelope-marker-ab16048.html

20)http://www.abcam.co.jp/lamin-a-antibody-ab26300.html

21)https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/antibodies/primary-antibodies/cell-marker-antibodies/lamin-ac-antibodies.html

22)http://ruo.mbl.co.jp/bio/dtl/A/?pcd=PM064

 

 

 

 

 

 

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2017年6月 4日 (日)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが75: 細胞骨格2

真核生物のチューブリン・アクチン・ケラチンについて、基本的なことはすでに以前に述べています(1)。従ってここではもう少し進んだ話題、または別の話題を取り上げます。

まずチューブリンについて。チューブリンにはいずれも分子量約5万の α と β があり、通常 α と β が結合してαβ の形で存在します。このほか動原体にある γ 、中心体にある δ と ε などが知られています。微小管はαβ がタンデムに連結したプロトフィラメント(αβαβαβαβ・・・)同士がパラレルに11~16本結合して、中空のチューブを形成しています(図1)。微小管は細胞分裂の際には紡錘体を形成し(図2)、鞭毛・繊毛においても特殊な配列をとりますが(図2)、一般的には細胞質全体にひろがって存在します(図1)。

 

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α  と β はヘテロダイマーとして行動し、αβαβαβαβ・・・という形でプロトフィラメントが形成されるので、プロトフィラメントには極性が存在します。しかもフィラメント同士はパラレルなので、微小管全体として極性が発生し、β側を+末端、α側を-末端と呼びます。β 側でフィラメントが伸長し、α 側で崩壊するという意味での+-なのですが、-末端は比較的安定で、+末端は-末端より頻繁に大規模な崩壊(カタストロフ)や修復(レスキュー)を繰り返していることがわかってきました(2-3、図3)。

カタストロフの過程では、プロトフィラメントの末端からGTP結合チューブリンの脱落からはじまるフィラメントの短縮だけでなく、フィラメント同士の接着もはがれるようです(図3、参照 3)。

 

3a

このような微小管の動態を制御しているタンパク質群はMAPS(microtubule-associated proteins、4、5)、+TIPS(6)など非常に数多く、微小管の機能や制御の多彩さを示しています。あまりに複雑怪奇なので、それ故に現在でもまだ未知の現象が多い宝の山かもしれません。

もうひとつ微小管の重要な役割は、細胞の中の道路として機能することです。ダイニンやキネシンはATPをエネルギー源として微小管上を袋(ベシクル)をかついで「歩行」し、細胞の隅々まで物質を届けます(図4)。神経細胞の軸索などは1mくらいの場合もあるので、ダイニンやキネシンのようなモータータンパク質を使わないと、必要な物質を末端まで短時間では供給できません。

 

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次はアクチンです。チューブリンを発見・精製・命名したのは戦後間もない日本の毛利秀雄でしたが、アクチンの発見者も当時科学では辺境の地であったハンガリーのブルノ・フェレンツ・シュトラウプでした。彼はハトの筋肉をすりつぶし、アセトンにいったん溶かして乾燥し、アセトンパウダーを作成して、そこからアクチンを抽出・精製しました。今でもアクチンの精製には、基本的にシュトラウプの方法が使われています(7)。

アクチンは単独の分子の場合G-アクチンともいい、G-アクチンが連結して線維を形成している場合F-アクチンといいます。Fアクチンにざまざまな制御タンパク質が結合してマイクロフィラメントが形成されますが、図5ではアクチンのポリマーとして示してあります。

マイクロフィラメントには微小管と同様+末端と-末端があり、ATPが結合したGアクチンが+末端に結合してフィラメントを伸ばし、ADP-Gアクチンが-末端から脱落してフィラメントを縮めるということになります。図5の下図をみると、マイクロフィラメントは細胞がある方向に伸長している場合、その伸長方向に平行に伸びている場合が多いことがわかります。また細胞膜近傍に顕著に観察されます。

 

5a

 

真核生物が誕生したとき、生物の生き方に関するひとつの革命が起きました。それは水中を浮遊したり泳いだりして生きるのではなく、固体に密着して生きるということです。そして移動には鞭毛ではなく、アメーバ運動を利用する生物が生まれました。アメーバ運動をするためには仮足が必要です。仮足には図6Bのような糸状仮足(フィロポディウム)と図6Cのような葉状仮足(ラメリポディウム)があります。いずれも仮足の先端部にはマイクロフィラメントが密集していて、マイクロフィラメントの伸長・短縮によって仮足が動いていることが示唆されます。

一方でマイクロフィラメントの基部には微小管が集結しています。あたかもマイクロフィラメントの枝を微小管の幹がささえているようなイメージです。糸状仮足が伸びるということは、マイクロフィラメントの+末端にGアクチンが次々と結合している状態に他なりません。

6BC図と異なり、6A図ではマイクロフィラメントが赤になっていることに注意してください。動いていない6Aのような細胞では、マイクロフィラメントは細胞膜の裏打ち構造を形成しています。細胞質のマイクロフィラメントは太い束にならず、細胞全体に分散しているように見えます。ただし方向はランダムではなく、パラレルな感じで分布しています。一方微小管(緑)は核の周辺に密集し、そこから部分的に細胞の辺縁に伸びているように見えます。

 

6a

 

アクチンは細胞の形態を決める細胞骨格としての役割以外に、細胞運動にもかかわっていますが、さらに細菌や古細菌ではFtsZが担っていた細胞分裂の主役も、真核生物ではアクチンが担うようになりました。図7のようにアクチンが分裂溝に集結しています。

 

7a

 

私達のような動物では、アクチンはミオシンという別グループのタンパク質と協力して筋肉という組織を形成して、これを使って歩行したり、キーボードをたたいたり、胃腸を動かしたり、心臓を収縮させたりしています。横紋筋にはサルコメア(筋節)という収縮の単位構造があり、この中にアクチン線維とミオシン線維が交互に配置されていて、その相互作用により筋収縮が行われています(図8)。

 

8a

 

このことは1954年に Andrew Fielding Huxley ら(8、図9)と Hugh Esmor Huxley ら(9、図9)によって同時に発表されました。しかしミオシン線維の中にアクチン線維が滑り込むといういわゆる「すべり説」は、現在でも基本的に正しいとされているにもかかわらず(10)、二人ともこの件ではノーベル賞を授与されていません。江橋節郎(図9)がカルシウムが筋収縮のシグナルであることを発見したにもかかわらずノーベル賞を授与されなかったのも、このことが影響していると思われます。

 

9a

江橋節郎は「カルシウムと私」という文のなかで、カルシウム説を学会で発表した当時の様子を次のように述べています:

「“座長のハンス・ウェーバーが 「討議の結果、カルシウム説は明らかに否定された」と宣言するや、娘のアンネマリー・ウェーバーは激昂して絶叫し、エバシは日本語でわめいた。皆は腹をかかえて笑った” 。座長は、皮肉なことにアンネマリーの父であり、当時筋研究の泰斗として世界に知られるハンス・ウェーバーだった。アンネマリーが激昂して絶叫したのも本当だし、私がわめいたのも本当である。しかし、いかに興奮したとはいえ、日本語を使うはずがない。私の英語が誰も理解できなかったのである。この会議で、2人はまさにピエロだった。厳格な父親のウェーバーは、娘が変な日本人に引っ掛かって困っていると言っていたそうだ。」(11)。

勿論現在ではカルシウムがトロポニン・トロポミオシンを介して筋収縮を制御している・・・細胞内のカルシウム濃度が上昇する際に収縮し、下降するとき弛緩する・・・ということは明らかとなっています(図10)。

 

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「すべり」は当然ミオシンとアクチンの分子的相互作用によっておこるわけですが、そのメカニズムについては当初ミオシン分子がATPのエネルギーを用いて変形し、そっれに伴ってアクチンが動くという「首振り説」(図8)が有力でしたが、その後柳田敏男らがミオシン分子滑走モデルを提出し(12、図8)、激烈な論争になりました。

私には詳細はよくわかりませんが、首振りのような動作ではなくても、ミオシンの分子変形がアクチンの動きに関与していることは否定しがたい事実のようです(13、14)。ただし1個のミオシン分子の変形によって、接するアクチンの移動する距離を説明することはできないので、さらなる研究が必要です(15)。

 

参照

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2017/02/post-ef6b.html
  http://morph.way-nifty.com/lecture/2017/02/post-2862.html

2)Tim Mitchison & Marc Kirschner, Dynamic instability of microtubule growth., Nature vol. 312, pp. 237 - 242 (1984); doi:10.1038/312237a0

3)伊藤知彦: 微小管 動態の基礎 in  「細胞骨格と細胞接着」 蛋白質 核酸 酵素 vol. 51, pp. 529 - 534 (2006)

4)小谷 亨、松島一幸、久永眞市: 微小管結合タンパク質の構造と機能 蛋白質 核酸 酵素 vol. 51, pp. 535 - 542 (2006)

5)https://en.wikipedia.org/wiki/Microtubule-associated_protein

6)Anna Akhmanova and Michel O. Steinmetz, Microtubule +TIPs at a glance.,  J Cell Sci., vol. 123(10), pp. 3415 - 3419 (2010)
https://pdfs.semanticscholar.org/3f9f/197f841548e9cd9f886ca76e58bfe77b7942.pdf

7)水野 裕昭、山城 佐和子: アセトンパウダーからのATP, ADPアクチンの精製 日本細胞生物学会HP
http://www.jscb.gr.jp/protocol/protocol.html?id=25

8)HUXLEY AF, NIEDERGERKE R., Structural changes in muscle during contraction; interference microscopy of living muscle fibres. Nature. Vol. 22;173(4412): pp. 971-973. (1954)

9)HUXLEY H, HANSON J., Changes in the cross-striations of muscle during contraction and stretch and their structural interpretation. Nature. Vol. 22;173(4412): pp. 973-976. (1954)

10)W. O.Williams, Huxley’s Model of Muscle Contraction with Compliance., Journal of Elasticity, Vol. 105, Issue 1,  pp. 365–380 (2011)
http://www.math.cmu.edu/~wow/papers/complmusc.pdf

11)生命誌ジャーナル12号 JT生命誌研究館

12)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1140

13)上田太郎、ミオシン首振り説:部位特異的変異による検証から構造遺伝学によるメカニズム解明へ。生物物理 Vol. 37 No.1 pp.331-335 (1997)

14)Lauren J. Dupuis, Joost Lumens, Theo Arts, Tammo Delhaas, Mechano-chemical Interactions in Cardiac Sarcomere Contraction: A Computational
Modeling Study., PLOS Computational Biology,  | DOI:10.1371/journal.pcbi.1005126 October 7, (2016)

15)http://brownian.motion.ne.jp/16_FlexibleMolMachine/03_IsMascleMorter.html

 

 

 

 

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