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2017年1月24日 (火)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが58: オリゴペプチド・ポリペプチド

本格的にタンパク質の話題に入る前に、構成要素であるアミノ酸の数が少ないだけの、いわば弟分にあたるオリゴペプチド・ポリペプチドについてみておきましょう。オリゴペプチドは数個、ポリペプチドは数十個までのアミノ酸で構成されています。

1928年アレクサンダー・フレミング(1881-1955)は、研究のために培養していたブドウ球菌の培養皿に青カビ(ペニシリウム)が生えていることに気がつきました。初歩的な失敗でしたが、よくみると青カビの周辺ではブドウ球菌が生育していないことに気がつきました。

フレミングはこの青カビの毒素を抽出・精製することに成功しませんでしたが、ハワード・フローリー(1898-1968)とエルンスト・チェイン(1906-1979)は1940年に、このブドウ球菌の生育を阻止する毒素を精製し、いくつかの成分があることをつきとめました。それらを総称してペニシリンと言います。

これらは20世紀最大の医薬品であり、開発の功績によって3人は1945年にノーベル医学生理学賞を受賞しました(図1)。現在でもよく使われるセフェム系の抗生物質はペニシリンと構造が類似した、同じグループの医薬品です。

 

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ペニシリンのひとつであるペニシリンNの合成過程と構造式を図2に示します。アミノアジピン酸+システイン+バリンのトリペプチドであることがわかります。ただしアミノアジピン酸が遺伝暗号表にはないアミノ酸であること、青点線で示したような環状構造(β-ラクタム4員環+5員環)をつくること、バリンがもとはL型なのに、ペプチドに取り込まれたときにはD型になっていることなどの特異な性質を持っています。

ペニシリンはもともとペニシリウムが生存競争のために産生する毒素(アロモン)なので、生物が簡単には分解解毒できないように特殊な構造を持っていると考えられます。

 

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ペニシリンはペプチドですが、リボソームで作られるのではなく、細菌が持つ酵素によって合成されます。遺伝暗号表に書き込まれていないものは、リボソームでは合成できません。ペニシリンは細菌の細胞壁の合成を阻害する作用を持っていますが、真核生物にとっては基本的に毒物としての作用はありません。

ただもともと真核生物の体内に類似物質があるわけではなく、しかも特異な分子形態なので、強いアレルギー反応がおきやすいことがわかっています。私の父も直接的にはペニシリンショックで命を落としました。当時は現在のような十分な配慮なく投与されていたと思われます。交通事故や医療事故で突然人生が終了するというのは誠に理不尽なことです。

米国NIHはペニシリンの効果と人体への安全性を確認するため、1946年から1948年にかけてグアテマラで人体実験を行ったことが、最近になって発覚しました。オバマ大統領は2010年にグアテマラに謝罪しました(2)。

 

A_3真核生物にもペプチド性の毒素を持つものは多く、例えばテングタケの α-アマニチンは8つのアミノ酸からなるオリゴペプチドです。α-アマニチンはRNAポリメラーゼIIに結合し、タンパク質の合成に必要なmRNAの合成反応を阻害します。蛇毒やヒキガエルの毒もペプチド性のものです。

α-アマニチンの構造を図3に示しました。まるで駐車禁止のマークのような奇妙な分子デザインです。

最初にいくつか毒ペプチドについて述べたわけですが、もちろんオリゴペプチドにも有用な生理作用を持つものは数多く存在します。まずグルタチオンについてみてみましょう。図4のようにグルタチオンはグルタミン酸+システイン+グリシンからなるトリペプチドです。青丸のHによって過酸化物や活性酸素を還元無毒化する機能があります。

 

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生物は酸素を利用するようになってから、酸素の毒性=あらゆるものを酸化しようとする(サビさせようとする)性質、からいかにして逃れるかが大きな課題だったわけですが、そのひとつの解決策がグルタチオンでした。

生体内に還元型のグルタチオンをためておいて、活性酸素が発生するとすばやく還元し、結果生成した酸化型のグルタチオンは、ただちにグルタチオンリダクターゼとNADPHの作用によってまた還元型にもどすというサイクルによって、体の「サビ」を防ぐことができます(図4)。

ただしグルタチオンは多量にあればあるほどよいわけではなく、代謝のバランスを保つことも必要ですし、タンパク質が持つSS結合を切断する作用もあるため、濃度は適切に調節される必要があります。

図4のグルタチオンの構造をよく見ると、一番左側にアミノ基とカルボキシル基があります。通常のペプチドだと左端はアミノ基、右端はカルボキシル基なので、これは普通ではありません。すなわちグルタミン酸の側鎖(γ位)のカルボキシル基を使って、隣のシステインとペプチド結合を形成しています。したがってL-γ-glutamyl-L-cysteinyl-glycineという名前が正式名になります。

ペプチド結合を切断する酵素は数多くありますが、ほとんどは側鎖を使った結合を切断することができないので、グルタチオンは切断されにくくなっています。ペニシリンと同様、グルタチオンもリボソームではなく専用の酵素によって合成されます。

オキシトシンはペニシリンやグルタチオンより多い、Gly-Leu-Pro-Cys-Asn-Gln-Ile-Tyr-Cys の9個のアミノ酸で構成されています。図5に構造式を示します。末端のシステインが中間部のシステインとSS結合を形成して環状構造になっています(3)。通常のペプチド鎖と異なり、カルボキシル末端が存在しません。

 

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オキシトシンの9個のアミノ酸の配列は遺伝子に刻まれており、ペニシリンやグルタチオンと違ってリボソームによってまず前駆体が合成され、複雑な加工の過程を経て図5のような構造の分子がつくられます。生体内では脳の視床下部でつくられ、脳下垂体からホルモンとして血流に放出されます。オキシトシンの作用によって、分娩時に子宮筋の収縮が促され、また出産後には乳腺の筋肉を収縮させ乳汁分泌が促進されます。

女性だけではなく男性でも分泌され、仲間内での親密さを増す作用があることが知られています(4)。一方で仲間でない者には反発心が強まるという副作用もあると言われています。右翼的心情のベースになる物質かもしれません。

ペプチドホルモンとしてはじめてオキシトシン・バソプレッシンを同定し構造解析と合成を行った功績で、ヴィンセント・デュ・ヴィニョーが1955年にノーベル化学賞を受賞しています(5)。脳がホルモンを合成するということで、当時は非常な驚きを持ってむかえられた研究でした(5)。タレントでもある脳科学者中野信子がオキシトシンの作用を研究していることでも知られています(6)。この他にもペプチド性のホルモンは多数知られています(下記)。ペプチドホルモンの作用機構などについては、いずれ稿をあらためて述べるつもりです。

天然のオリゴペプチド・ポリペプチドの代表的なものを並べてみますと、次のようになります。

 

1.ペプチドホルモン:インスリン、グルカゴン、オキシトシン、バソプレッシン、アンジオテンシン、成長ホルモン、ガストリン、セクレチン、TRH、GnRH

2.抗生物質:ペニシリン、グラミシジンS

3.真核生物の抗菌性ペプチド(7,8):マガイニン、タチプレシン、ディフェンシン

4.酵素阻害ペプチド:ロイペプチン, ペプスタチン,植物トリプシンインヒビター

5.神経伝達物質:エンケファリン、エンドルフィン、ダイノルフィン

6.毒ペプチド:アマニチン,コブラトキシン

7.細胞内還元剤:グルタチオン

 

TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)やGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン 図6)はいずれも視床下部で放出されて、脳下垂体の機能を調節するホルモンですが、これらの構造決定についてはロジェ・ギヤマンとアンドリュー・シャリーの歴史的死闘とも言える競争があったことは業界では有名なお話でした。興味のある方はサイト(9)または書籍(10)を参照して下さい。なお二人とも1977年のノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

 

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人工甘味料のアスパルテームも N-L-α-aspartyl-L-phenylalanine 1-methyl ester というオリゴペプチドです(図7)。これは天然には存在しないものですが、無害の食品添加物として広く用いられています。

 

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参照:

 

1)Howard Markel, The real story behind penicillin.PBS newshour.(2013)
http://www.pbs.org/newshour/rundown/the-real-story-behind-the-worlds-first-antibiotic/

2)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%83%86%E3%83%9E%E3%83%A9%E4%BA%BA%E4%BD%93%E5%AE%9F%E9%A8%93

3)https://en.wikipedia.org/wiki/Oxytocin

4)上田 陽一、“オキシトシン”の多彩な生理作用 公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団 内分泌に関する最新情報 pp. 1-7 (2015)
こちら

5)Vincent du Vigneaud et al., The synthesis of an octapeptide amide with the hormonal activity of oxytocin. . Am. Chem. Soc., vol.75, pp 4879–4880 (1953)

6)http://morph.way-nifty.com/grey/2015/01/post-b78b.html

7)小林聖枝、抗菌性ペプチドMagainin 2 とTachyplesin Iの細菌選択的相乗効果 カクテル療法への可能性、YAKUGAKU

ZASSHI vol.122, pp. 967-973 (2002)

8)富田哲治・長瀬隆英、生体防御機構としてのディフェンシン、日老医誌, vol.38, pp. 440-443 (2001)

9)http://www.org-chem.org/yuuki/aminoacid/hormone.html

10)Nicholas Wade著 丸山工作・林 泉 訳、 ノーベル賞の決闘、岩波書店 (1984)  ISBN 978-4002601243

 

 

 

 

 

 

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2017年1月19日 (木)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが57: ペプチド結合・αヘリックス・βシート

Ahermann_emil_fischer2タンパク質はアミノ酸が脱水縮合して合成される物質です。このことを発見したのはエミール・フィッシャー(1852-1919、図1)です。エミール・フィッシャーはむしろ糖やプリン誘導体の研究者として有名で、それらに関する研究業績を評価されて、1902年にファント・ホッフに続いて2人目のノーベル化学賞を受賞しています。

彼は有機化学・生化学の父とでも言うべき人で、糖やプリン誘導体以外にも多方面に業績があり、1901年にはエルネスト・フォルノー(1872-1949)と共に、グリシンとグリシンを脱水縮合させてグリシルグリシンを合成しています(1)。これがタンパク質化学のはじまりでしょう。

彼はその後18個のアミノ酸をつないで、ポリペプチドと言えるような高分子を合成することに成功しました。その性質は天然のタンパク質とよく似ていたそうです(2)。100年以上前の文献で私は読んでいませんが、現在でも7000円くらい支払えば読むことができます。

フィッシャーはタンパク質合成に成功したとき、これで近未来に人類の食糧問題は解決するだろうと考えましたが、残念ながら現代に至っても食糧問題は人類にとって深刻な課題のまま残されています。

フィッシャーは膨大な業績を残しましたが私生活には恵まれず、奥方は結婚後7年で病死、息子3人のうちひとりは戦死、ひとりは自殺で失っています。彼自身も1919年に自殺しました(3)。リヒテンターラーが彼の生涯や業績についてレビューを出版しています(4)。自殺の原因は不明ですが、彼自身が開発して糖の構造解析に用いていたフェニルヒドラジンによって、癌になったことが原因だという説があります。

アミノ酸の脱水縮合は図2のように、カルボキシル基COOHのOHとアミノ基NH2のHがH2Oとなって離脱し、残されたCOとNHがO=C-N-Hという形で結合し(ペプチド結合)、2つのアミノ酸を連結する形で行われます。したがって反応生成物はH2N-HCR-ペプチド結合-HCR-COOH(Rはそれぞれのアミノ酸によって異なる)という形になります。図3のように4つのアミノ酸が連結されるとH2N-HCR-ペプチド結合-HCR-ペプチド結合-HCR-ペプチド結合-HCR-COOHとなります。

 

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図3では具体的にバリン-グリシン-セリン-アラニンのテトラペプチドの構造を記してあります。連結されたアミノ酸の数が数十個以内の場合、タンパク質ではなくポリペプチドと呼ばれる場合が多いです。またより小数の場合オリゴペプチドとも呼ばれます。図3の青い丸印のついたCはアミノ酸が連結されたあとでも不斉炭素です。ポリペプチド(タンパク質)の両端はそれぞれアミノ基とカルボキシル基が露出していて、それぞれN末・C末(N端・C端)などと呼ばれることがあります。

 

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A_3タンパク質構造研究の次のエポックは、ライナス・ポーリング(1901–1994、図4)によって創られました。彼は貧困家庭の生まれで、ハイスクールを卒業できなかったそうですが、苦学してオレゴン農業大学を卒業しました。そして第二次世界大戦中に、マンハッタン計画の化学部門のヘッドにハントされるほどの量子化学部門での重鎮となりました(そのポストに就くのは断ったそうです)(5)。

ポーリングは化学結合に関する研究で1954年にノーベル賞を受賞していますが、タンパク質の構造については50才も近づいた頃から研究をはじめて、たちまちαヘリックス(6)やβシート(7)という概念を提唱するなど卓越した業績を残しました。これらの論文および現代的観点から見た解説は無料で読むことができます(8)。

ポーリングらがこれらの重要な発表を行った当時、米国ではマッカーシ-イズム(レッドパージ)が吹き荒れており、マンハッタン計画参加を断ったポーリングは反政府勢力とみなされてパージされそうになっていたのですが、これらの業績によって地位を保つことができたようです(8)。ポーリングはその後も反核運動を続けて、1962年にはノーベル平和賞を受賞しています。ノーベル賞を2回受賞した人は、マリ・キュリー(1903年に物理学賞、1911年に化学賞) 、ジョン・バーディーン(1956年と1972年に物理学賞) 、フレデリック・サンガー(1958年と1980年に化学賞) 、ライナス・ポーリング(1954年に化学賞、1962年に平和賞)の4人です。

 

A_4ポーリングはタンパク質の構造形成において水素結合が重要な役割を果たしていることを示しました。水素の原子核は小さく弱体で、保有する電子を強い(陽子の多い)原子核を持つ原子に奪われがちです。

水の分子における水素も原子を酸素に奪われがちで、その結果水素原子はプラスのチャージを持つようになります(図5左)。

一方酸素原子は過剰な電子でマイナスチャージを帯びるので、水分子は片側が+、反対側が-のチャージを帯び、水分子同士が引き合って安定した構造を保ち、その結果比熱が高くなって、熱を加えてもなかなか気体になりません(図5左)。

酸素分子以外でも水素は電子を奪われて+にチャージしがちなので、他の原子を引き寄せることができます。結果的に水素をはさんで他の2原子がブリッジをつくるような形になります(図5右)。これが水素結合です。

DNAの塩基対ATおよびGCは水素結合によって形成され、DNAを適度に安定化しています。水素結合は分子同士ばかりでなく、分子の内部でも形成されます。タンパク質の場合はそれによってαヘリックス(図6)やβシート(図7)が形成され、分子が安定化します。αヘリックスは1本のペプチド鎖によって形成されますが、βシートは2本のペプチド鎖によって形成されます。図7のように分子内で鎖が折れ曲がって行ったり来たりすることによって、同じ分子内でβシートを形成することが可能になります。

 

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水素結合のエネルギーは5~30KJ/モルであり、数百KJ/モルの共有結合と比べると非常に小さいので弱い結合と言えますが、DNAには分子が持つ塩基対の2~3倍の数の水素結合があるわけですし、タンパク質分子内にあるαヘリックスやβシートそれぞれにおいても非常に多数の水素結合があるので(図6、図7)、分子の安定性には相当寄与しています。

またDNAを読み取るには水素結合を引きはがして単鎖にしなくてはいけないわけですし、タンパク質が他の因子によって機能を制御されたり、自身が酵素の機能を発揮するような場合には分子の形を変えなくてはいけないので、水素結合が弱い結合であることにはそれなりに意義があるわけです(9)。

ポーリングは晩年癌のビタミンC大量投与療法の研究などでバッシングを受けて、研究ができないような状況に追いやられましたが、死後彼の研究を支持する結果も報告されて、名誉は回復されました(10)。

彼自身マキシマムヘルスを実現するため、マルチビタミンの摂取を実行し、現在でも「ライナス・ポーリン博士のスーパーマルチビタミン」「ライナス・ポーリン博士のビタミンC」などという商品が販売されています。

 

 

参照:

1)Emil Fischer and Ernest Fourneau, Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft, vol.34, p.2868 (1901)

2)Emil Fischer, Synthese von Polypeptiden, Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft, vol.36,pp.2982-2992 (1903) doi:10.1002/cber.19030360356.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cber.19030360356/abstract

3)Top 5 suicide chemists. 1) Emil Fischer (1852-1919)
http://syntheticenvironment.blogspot.jp/2007/04/top-5-suicide-chemists.html

4)Emil Fischer, His Personality, His Achievements, and His Scientific Progeny, Frieder W. Lichtenthaler, European Journal of Organic Chemistry
Volume 2002, Issue 24,  pages 4095-4122 (2002)
http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1002/1099-0690(200212)2002:24%3C4095::AID-EJOC4095%3E3.0.CO;2-2/full

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0#.E7.94.9F.E4.BD.93.E5.88.86.E5.AD.90.E3.81.AE.E7.A0.94.E7.A9.B6

6)Linus Pauling, Robert B. Corey, and H. R. Branson、The structure of proteins: two hydrogen-bonded helical configurations of the polypeptide chain. Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.37, pp.205-211 (1951)
http://www.pnas.org/content/37/4/205.full.pdf?sid=d8637919-9b62-43f1-b1f3-7e675806b4a5

7)Linus Pauling, and Robert B. Corey、The pleated sheet, A new layer configuration of polypeptide chains. Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.37, pp.251-256 (1951)
http://www.pnas.org/content/37/5/251.full.pdf?sid=585970d7-d233-401b-84a1-c5a4668381d9

8)David Eisenberg、The discovery of the α-helix and β-sheet, the principalstructural features of proteins. Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.100, pp.11207–11210 (2003)
http://www.pnas.org/content/100/20/11207.full

9)J. D. Watson et al., Molecular Biology of the Gene 6th edn, Chapter 5, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2008)

10)Padayatty S, Riordan H, Hewitt S, Katz A, Hoffer L, Levine M (2006). “Intravenously administered vitamin C as cancer therapy: three cases”. CMAJ vol.174 (7), pp.937-942. PMID 16567755.

 

 

 

 

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2017年1月13日 (金)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが56: アミノ酸

しばらく核酸のお話がつづきました。かなりつっこみましたので、このあたりで少しタンパク質の話題にワープしようと思います。核酸とタンパク質は生命現象をささえる両輪と言えます。

タンパク質は約20種のアミノ酸からなる生体高分子ですが、まずその構成要素であるアミノ酸のお話から始めましょう。最初にアミノ酸を発見したのはフランスの薬剤師・化学者ルイ=ニコラ・ヴォークラン(1763 - 1829)と彼の助手だったピエール=ジャン・ロビケ(1780 – 1840、図1)です。彼らは1806年にアスパラガスから高純度のアミノ酸を抽出し、その性質を研究してアスパラギンと命名しました(1,2)。またアンリ・ブラコノー(1780 - 1855、図1)は1820年にゼラチンの分解物からグリシンを発見しました(3)。

結局ほぼすべてのアミノ酸が発見されるまでには100年の歳月を要しました。日本のアミノ酸研究者としては池田菊苗(1864 - 1936)が有名です。彼はグルタミン酸の発見者ではありませんが、このアミノ酸のナトリウム塩が「だし」のうまみ成分であることを発見しました(4)。

 

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A_2最初にタンパク質の一次構造、すなわちアミノ酸が並ぶ順番を解明したのはフレデリック・サンガー(1918 - 2013、図2)でした。これによって、アミノ酸のみがつながってタンパク質を構成していることもわかりました。

後になって、すでにふれたsnRNPの構成要素であるRNA(snRNA)や補酵素・補欠分子族などを分子に含むものも見いだされましたが、基本的にタンパク質はアミノ酸がつながってできています。

サンガーはこの業績によって1958年のノーベル化学賞を受賞しましたが、後にDNAの塩基配列を決定する方法も開発して、1980年に2度目のノーベル化学賞を受賞しています(5、6)。

サンガーが解明したのはインスリン分子におけるアミノ酸の配列ですが、その前にアミノ酸の略号による表記を図3に示しておきます。3文字を用いる場合と1文字を用いる場合があります。

 

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図3の1文字による表記を使ってインスリン分子の構造を示したのが図4です。サンガーが使用したインスリンのサンプルは牛の膵臓から抽出して、何度も結晶化することによって精製されたものです。アミノ酸の配列は動物種によって多少異なります。ですからヒトなどほかの生物のインシュリンのアミノ酸配列が教科書などに出ている場合、この配列とは異なる可能性があります。

インスリン分子は単にアミノ酸がタンデム(直列)につながったものではなく、A鎖(21アミノ酸)・B鎖(30アミノ酸)の2列のアミノ酸が、システインのところでS-S結合(ジスルフィド結合)を形成し、接続された構造になっています(図4)。

 

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タンパク質の構造については後にまた述べることとして、まずタンパク質の構成要素であるアミノ酸についてみていきましょう。生物に含まれるアミノ酸はいろいろバリエーションはありますが、基本的には図3に示した20種類です。すべてのアミノ酸分子は炭素原子を中心として、これにカルボキシル基(COOH)、アミノ基(NH2)、水素(H)、側鎖が結合しています(図5)。この4つの要素がすべて異なる場合、図6のように鏡像の構造体=エナンティオマー(対掌体)が存在し得ます。4つの要素の中心になる炭素を不斉炭素(アシンメトリックカーボン)と呼びます。

 

 

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対掌体は光線を当てたときの回折方向が異なるので、以前は光学異性体と呼ばれていました。対掌体のふたつの化合物はそれぞれD体、L体と呼ばれます。アミノ酸の場合、生物はほぼL体のみを用いてタンパク質を合成します。ただ希にD体を使用する場合もあるので、DL変換を行なうアミノ酸ラセマーゼという酵素も存在します(7、8)。

アミノ酸のうちグリシンは図5のRの部分が水素(H)なので、図7のように鏡像を構成する物質は120度回転すると同じになってしまいます。したがって対掌体は存在しません。またプロリンは通常のアミノ酸と構造が異なりますが、対掌体(光学異性体)は存在します(9)。

 

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アミノ酸は側鎖R(図5)の構造によって、異なる性質をもつグループに分類できます。図8に示したのは中性で疎水性のグループです。球形のタンパク質をつくる場合、外側の水と接する部分を親水性のアミノ酸、内側を疎水性のアミノ酸にすれば、うまく球状の分子構造を形成することができます。また細胞膜の外側と内側に親水性、細胞膜内部に疎水性のアミノ酸を配置すれば、細胞膜を貫通するタンパク質のデザインとして好適となります。疎水性のアミノ酸をさらに細かく分類すると、芳香族のトリプトファンとフェニルアラニン、それ以外の脂肪族のグループに分けられます。

 

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次に中性で親水性のグループを図9に示します。1級アミド(CONH2)や水酸基など水と親和性が高い分子パーツを持っています。極性分子グループと分類されることもあります。

極性とは分子の片側に電子が偏って存在することを意味します。水も極性分子で、電子は酸素側に偏っています。したがって水に極性分子を混ぜると、電子が豊富な部位と、足りない部位が引き合ってうまく混合し、溶解度は高くなります。酵素は通常水に溶解した状態で作用するので、特に表層は親水性のグループで被われている必要があります。

 

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図10には塩基性、図11には酸性のアミノ酸を示します。塩基性のアミノ酸は特に核酸との相互作用を行なう上で重要です。酸性のアミノ酸はその反応性の高さを利用するため、酵素の活性中心に位置する場合があります。

図11に示したプロリンは特異なアミノ酸で、アミノ基がありません。その代わり5員環のNHがアミノ基の役割をしていて、他のアミノ酸のカルボキシル基と反応して結合することができます。これによってアミノ酸鎖の角度を変えることができるので、球形分子などを形成するときには重要な役割を果たします。タウリンはカルボキシル基を持たず、代わりにスルホン基(-SO3H)を持っていますが、タンパク質には含まれず単独分子で機能します。

 

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植物のような独立栄養生物はすべてのアミノ酸を自前で合成できますが、従属栄養生物はアミノ酸をエサとして取り込む必要があります。ヒトの場合一般に、図12に示される9種類のアミノ酸を外界から摂取する必要があります(10、11)。

ヒスチジンは体内で作られますが、急速な発育をする幼児の食事に欠かせないことから、1985年からこれも必要なアミノ酸として加わるようになりました(12)。なお、アルギニンは体内でも合成され、成人では非必須アミノ酸ではありますが、成長の早い乳幼児期では体内での合成量が十分でなく不足しやすいため、準必須アミノ酸とされています。

 

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一般に肉食動物は自分とほぼ同じアミノ酸バランスの食事なので栄養的には優れていますが、それを続けていると次第にアミノ酸合成を行なう酵素に進化的欠陥が発生し、必須アミノ酸が増える可能性が高くなります。図13で猫とヒトを比較していますが、アルギニン・チロシン・システインなどについては、ヒトと比べて猫は要求性が高くなっているようです。

また猫はタウリンを合成できません。タウリンは、心臓の筋肉や目の細胞に多く含まれ、タウリンの欠乏は 網膜の異常(失明につながることもあり) 拡張型心筋症(発病すると死に至る…)や子猫の発育異常、免疫不全などの原因になります(13、14)。

 

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とはいえ草食動物でも羊がシステインを合成できないなどということもあり、腸内細菌にアミノ酸合成を行わせる(草食動物の腸は長い)場合もあって、必須アミノ酸のお話もそう単純ではありません。アブラムシはその細胞内にブフネラという細菌を飼っていて、必須アミノ酸をつくらせているというような極端な場合もあります(16)。シロアリはなんと窒素固定細菌を腸内に飼っていて、空気中の窒素からアミノ酸をつくらせているそうです(17)。

 

参照

1)http://www.a-creation.jp/basic/history/

2)http://andantelife.co.jp/aminoacids/aminoacids.htm

3)https://glycine-corp.com/2016/08/11/what-is-glycine/

4)大越 慎一:うま味の発見と池田菊苗教授、東京大学理学部広報
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/treasure/02.html

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%87%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%BC

6)Antony O. W. Stretton、The First Sequence: Fred Sanger and Insulin、Genetics vol.162, pp.527–532 ( 2002)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1462286/pdf/12399368.pdf
http://www.genetics.org/content/162/2/527

7)山根隆 D-アミノ酸の効率的合成に関係する酵素の構造と機能  Japanest NIPPON (2011)
http://japanest-nippon.com/jp/mbinfo/mb_detail1.php?cid=1&id=12

8)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%B8%E3%83%A9%E3%82%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BC

9)http://www.tennoji-h.oku.ed.jp/tennoji/oka/OCDB/Protein/proline.htm

10)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%85%E9%A0%88%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%8E%E9%85%B8

11)馬渕知子 タンパク質を構成する9種類の「必須アミノ酸」とは? 
http://www.skincare-univ.com/article/011704/

12)山口迪夫 食事:ヒスチジンが必須アミノ酸と考えられる理由
http://www.nutritio.net/question/FMPro?-db=question-bbs.fp5&-lay=main&-Format=detail.htm&hatugenID=97&-Find

13)岩田麻美子 猫の栄養学講座 タンパク質
https://allabout.co.jp/gm/gc/69259/all/

14)http://lifecuration.link/post-2725-2725

15)http://www.weblio.jp/wkpja/content/%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%B3_%E7%BE%8A

16)理化学研究所 プレスリリース(2009)
http://www.riken.jp/pr/press/2009/20090310_2/

17)理化学研究所 プレスリリース(2015)
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150512_2/

 

 

 

 

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2017年1月 5日 (木)

生物学茶話@渋めのダージリンはいかが55: mRNAへの道2

前稿「mRNAへの道1」で述べたように、シャープやレダーらによって真核生物の遺伝子がイントロンによって分断されていることが明らかになり、これは真核生物の特徴であるとしばらく考えられていましたが、それは主要なモデル生物である大腸菌がたまたまイントロンを持っていなかったことの影響が強かったからと思われます。しばらくするとイントロンは細菌や古細菌にも存在し得ることがわかりました(1)。このうち古細菌のイントロンはわが国の研究者達が発見したものです(2)。

図1に各種イントロンのリストをまとめて記しておきます。真核生物においてもミトコンドリアや葉緑体の遺伝子には細菌型のイントロンが存在します。またrRNAには細菌型の、tRNAには古細菌型のイントロンが存在します。細菌型のイントロンは転写されたRNA自身が酵素の機能を持っていたり、イントロンの内部に酵素の遺伝子を持っていたりして、自力でスプライシングを行うことができます。

 

1a

 

細菌のイントロンには様々なものがありますが、いずれも構造は複雑です。本来は蛋白質である酵素の役割をRNAが代替しようというわけですから、それは当然と言えます。ここではウィキペディアからグループIIイントロンの構造を拝借して、図2として示しておきます。

 

2a

 

古細菌型のイントロンはリボヌクレアーゼとRNAリガーゼによってスプライシングが行われます。真核生物でもtRNAのイントロンでは古細菌型のスプライシングが行われますが、オルガネラやリボソーム遺伝子以外の大部分の遺伝子はスプライソソームというメカニズムでスプライシングが行われます。

イントロンというのはDNAの病気であり、スプライシングとはそのひとつの治療法です。DNAレベルでは治療不可能なので、転写されたときにRNAレベルで治療を行うわけです。参照文献(1)によると、クラミドモナスという藻類ではミトコンドリアのある酵素が1~2億年の間に核に移転したことがわかっていますが、その間に真核生物型のイントロンが、この酵素の遺伝子に15個も挿入されていたそうです。1000万年に1遺伝子あたり1個のイントロンが挿入されるという計算ですね。ヒトの遺伝子は約2万あるので、1000万を2万でわると500ですから、約500年にひとつイントロンが増加する計算になります。

えらい迷惑な話ですが、イントロンも長い間「ホスト」のDNAに棲み着いていると、その内部にエンハンサーが挿入されたり、イントロンの塩基配列が変わるとスプライシングに失敗したりするので、それなりに役割を主張しはじめる、言い換えれば進化的保存を要求することになります。

 

3ajoansteitz1941ともあれイントロンはタンパク質合成の際にアミノ酸配列として反映されることはないので、タンパク質をコードするRNA(すなわちmRNA)においては、必ずなんらかのメカニズムによって取り除かれなくてはいけません。

ジョアン・スタイツ(1941-、図3)らのグループは、small nuclear RNA という機能が不明だった核内のRNAが、タンパク質と複合体をつくって1群の small nuclear ribonucleoproteins (snRNP) をつくり、このsnRNPがmRNAのスプライシングにかかわっていることを示唆しました(3)。その後このsnRNP複合体はスプライソソームあるいはスプライセオソームなどとよばれています。

イントロンが取り除かれるプロセスを簡単に示したのが図4ですが、多くの場合イントロンはキャップ側の端がGU、ポリA側の端がAGとなっています。また中間部分に存在するAが重要な役割を果たします。その他ピリミジンリッチな配列とか、それぞれのsnRNPに親和性がある配列などがありますが、厳密には定められていません。

 

 

4a

 

第1のステップでは、キャップ側のGUがはずれて中間部のAと結合します。これはAの2の位置のOHがエクソン1右端の 3'-5' 結合を攻撃して切断し、AG結合をつくることによって実現します。この結果投げ縄のような構造が形成されます(図4)。第2のステップでは、エクソン1右端の3OHがエクソン2左端を攻撃して切断し、エクソン1とエクソン2が結合し、同時に投げ縄構造となったイントロンが切り離されます(図4)。

真核生物のイントロンの転写物は、細菌のような複雑な構造をとっているわけではなく、リボザイム(酵素機能を持つRNA)ではないので、図4のようなダイナミックな反応(スプライシング)は外部因子の力を借りて行われます。スプライシングを実行する外部因子とは U1、U2、U4、U5、U6 という snRNP で構成されるスプライソソームです。

snRNPとは small nuclear ribonucleoprotein (核内低分子リボ核タンパク質)の略称で、RNAとタンパク質の複合体です。真核生物でもスプライシングを行うためには、RNAの助けが必要です。他の因子もかかわっていますが、ここでは省略します。詳細な知識が必要な方は参照文献(4)などを参照して下さい。

図5のようにまずU1がイントロンとエクソン1の境界部に結合します。U1はこの位置に結合するためのRNAを含んでいます。図ではぴったりイントロンのキャップ側(5' 側)の塩基配列と対合していますが、ぴったり対合する必要はありません。同時に中間部にあるAの近傍にU2が結合します。これにU4+U5+U6の複合体が結合してイントロンRNA(pre-mRNAの内部)にテンションを発生させ、Aをエクソン1の右端に接近させてエクソン1とイントロンを切断します。

ここでU4がはずれ、U5+U6がエクソン1の右端とエクソン2の左端を接近させて連結させます。この反応によって、イントロンの投げ縄構造とそれに結合しているsnRNP群がはずれて、mRNAが完成します。

 

5a

 

こうして完成したmRNAですが、蛋白質合成に使用するためにはもう一手間かけなければなりません。それは核膜というバリアを抜けて、リボソームのある細胞質まで行かなければならないからです。核膜には核膜孔という関所のようなトンネルがあって、生体高分子はそこを通らないと核に入ったり核から出たりすることはできません。

ここを通過するためにmRNAが持つべき通行手形とその作成過程はまだ未知の部分があって、ワトソンの教科書などでもあっさりと通り過ぎています。Tapとp15という二つの蛋白質の複合体(ヘテロダイマー)が、mRNAにべったりくっつくことが重要だという説は正しいようですが(5)、まだわかっていない部分も多いと思われます。

 

参照

1)大濱武 遺伝子の中の厄介者、イントロンはどうしてなくならないか 生命誌 29号 (2000)
https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/029/ex_1.html

2)渡邊洋一、横堀伸一、河原林裕、原核生物遺伝子のイントロン 古細菌タンパク質遺伝子のイントロンの発見 蛋白質・核酸・酵素 vol.47, pp.833-836 (2002)

3)M.R. Lerner, J.A. Boyle, S.M. Mount, S.L. Wolin & J.A. Steitz, Are snRNPs involved in splicing? Nature vol.283, pp.220 - 224 (1980); doi:10.1038/283220a0
http://www.nature.com/nature/journal/v283/n5743/abs/283220a0.html

4)J.D. Watson et al. Molecular Biology of the Gene 6th edn.  (2008) or 7th edn (2013)

5)大阪大学大学院 米田研究室のサイト: 
http://www.anat3.med.osaka-u.ac.jp/research/research3_1.html

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