アグーチ (agouti) 遺伝子の機能
猫の縞模様を発現する遺伝子はいろいろ知られています。いわゆる縞模様を形成するマックレル遺伝子、アメショーのようなクラシックタビーの形成に関与する遺伝子、スポット(斑点)をつくる遺伝子、アビシニアンやソマリのような縞模様を部分化するティックド遺伝子、そして様々な縞模様に関与するアグーチ遺伝子などがあります。
アグーチの語源はアグーチという天竺ネズミの種の名前で、写真のようにフェオメラニン(橙)とユーメラニン(黒)のまだら模様の生物です。この動物の体毛は写真の右下の挿入図のように、1本の毛の一部ではフェオメラニン優勢、一部はユーメラニン優勢となっており、1本の毛がまだら模様になっています。猫を含む他の動物でも、アグーチ遺伝子型がAAまたはAaとなっている個体はこのような毛を持っています。うちのサラとミーナも持っています。
ところがこの写真の動物を見ても、ヒゲ(Vibrissa)はアグーチになっておらず黒一色です。これが不思議です。私はヒゲがアグーチになっている生物をみたことがありません。サラとミーナもヒゲは白一色でアグーチにはなっていません。猫はすべて白ヒゲかというとそんなことはなくて、私はペットショップで黒ヒゲの猫を見たことがあります。
確かにヒゲの毛根は、ヒトのようにその感覚毛としての機能を失っている種を除いて、すべて血液のプールのような個室に収納されていて、そこに神経が伸びてきて動きを感知するようにできているので、普通の毛根とは異なります。しかしその構造の違いとアグーチになるかならないかはさっぱり結びつきません。
アグーチ遺伝子は毛と脳で発現していることが知られていて、毛ではアグーチカラーを誘導する作用があることがわかっていますが、脳では何をしているのでしょうか? ヒトでは体毛ではアグーチ遺伝子の発現がなく、したがって縞模様のヒトは存在しませんが、脳では発現しているようで遺伝子がないわけではありません。
最近理研では野生に近いマウスを使って、クリスパー/キャス9という技術でアグーチ遺伝子を無効化すると、性格がおとなしくなり、まるで実験用マウスのようにヒトを避けないようになったという研究結果を得たそうです。さらに調べると、このマウスの中脳でドーパミントランスポーター遺伝子の発現が上昇していることがわかりました。これが性格の変化に関係しているようです。
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170214_3/
ただ猫の場合、アグーチ遺伝子が発現していない(aa)黒猫などが特に人なつこいという結果は得られていません。
https://sippo.asahi.com/article/11928822
アグーチ遺伝子がつくるタンパク質は研究用に販売されています。脳に注入すると食欲が増進するようです。
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/339-43661.html
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