カテゴリー「生物学・科学(biology/science)」の記事

2019年6月13日 (木)

やぶにらみ生物論128: GABA その2

GABA作動性シナプス周辺の模式図を図1に示しました(1)。シナプス前後細胞の他にアストログリア細胞が描いてありますが、これはシナプス周辺のアストログリア細胞がグルタミンをシナプス前細胞に供給するという役目を担っているからです。この細胞はさらにシナプス間隙から過剰なGABAを回収してグルタミンに変換することもできます。

アストログリア細胞からグルタミンを受け取ったシナプス前細胞は、リン酸活性化グルタミナーゼ=PAG(phosphate-activated glutaminase)という酵素を使ってグルタミンを加水分解してグルタミン酸を合成し、パート1に記したようにGABAを合成します。

その1:http://morph.way-nifty.com/grey/2019/06/post-f82bd2.html

A_42

抑制性神経伝達物質の場合、シナプス後細胞の興奮を阻止するのが役割ですから、シナプス後細胞のGABA受容体がナトリウムイオンチャネルではなく塩素イオンのチャネルであれば話は簡単です。塩素イオンが細胞内に流入すると、通常外界(+)/細胞内(-)となっている電位差がますます大きくなるので、細胞は過分極状態となり脱分極は阻止されます(図1)。

GABA受容体あるいは同様なはたらきを持つグリシン受容体の精製は1980年初頭に英国のバーナード(図2)のグループと、ドイツのベッツ(図2)のグループで激しい先陣争いが繰り広げられました。前者は牛の脳、後者はラットの脊髄を材料としました。両者が成功したのは、GABAやグリシンというリガンドそのものではなく、より強力で特異的に結合するベンゾジアゼピンやストリキニーネという代役の化合物を放射能でラベルし、精製の際のマーカーとして用いたからと言えます(2)。両陣営がそれぞれレビューを出版しているので、興味のある方はご覧ください(3、4)。

A_43

バーナードが精製したのは現在ではGABAと呼ばれるGABA受容体で、これは実際に塩素イオンのチャネルです。GABAが結合することによってアロステリックな構造変化を行い、塩素イオンを細胞内に取り込みます(5)。

GABA受容体タンパク質は4回膜貫通型で細胞膜に局在します。N末、C末共に細胞外に出ており、C末側露出部にSS結合が存在します(5、図3)。このようなSS結合を持つ受容体タンパク質群はCysループ受容体ファミリーと呼ばれ、ベッツが精製したグリシン受容体もこのファミリーに所属しています。

GABA受容体タンパク質はサブタイプが多くて、α1-6、β1-3、γ1-3、δ、ε、θ、π と ρ1-3 の少なくとも19種類の分子種が知られており、イオンチャネルはこれらから5分子が集合して形成されます(6、7、図3)。脳内にはα型1個-β型2個-γ型2個の5量体が多いとされています(7)。GABA受容体は実質無限のバラエティを持っているわけですが、なぜそうなっているのか、理由は不明です。

A_44

GABAの受容体にはもうひとつのタイプ、GABAが存在します。GABAはバウリーが発見し(8、図2)、彼らによって遺伝子構造も解明されました(9)。GABAの構造についての模式図は図4に示しました(脳科学辞典10から改変)。

GABAは7回膜貫通GPCR(G protein-coupled receptor=Gタンパク質共役受容体)なのですが、R1、R2という二つの分子が協働してその役割を果たすという一風変わった構造になっています(図4)。すなわち図4のように、R1がGABAと結合する役割、R2がGタンパク質と結合するという役割を持っています。

R1とR2は細胞膜に隣接して埋め込まれていますが、細胞質内の長い両者のC末部分で複雑に絡まり合っており(図4)、ここでR2はR1の構造変化を検知して活動を開始すると思われます。またこの絡まり合った部分で、Gタンパク質だけでなくさまざまな制御因子や情報伝達因子と相互作用を行うことができます(11、12)。このことがわざわざ2分子でGPCRの仕事をやっている理由なのでしょう。

A_45

R2に結合しているGαタンパク質はi型で、GABAのシグナルによって遊離し、アデニル酸シクラーゼを阻害してcAMP合成を妨げる働きがあります。これによってタンパク質のリン酸化が低下します。また同じく遊離したGβγタンパク質によって、カリウムチャネルが開き、カルシウムチャネルが閉じられます。K+は細胞内濃度が高いので細胞外に流出し、過分極の方向にコントロールされます。またカルシウムの流入が妨げられるのも同じ効果があります(12,図5)。

GABA受容体はGABAシグナルに対する即時(ミリ秒単位)の反応を受け持ち、GABA受容体はやや遅い反応または継続的な反応を受け持つと思われます。GABAB受容体にもさまざまなアイソタイプがあるようですが(12)、ここではパスします。

A_46

さて図1にもどると、GABAによる情報伝達に関しては、まだいくつかの重要な因子があることがわかります。まず🌕で示されているGABAトランスポーター(GAT)です。これにはいくつかのタイプがあり、シナプス前細胞にはGAT1型、シナプス周辺アストログリア細胞にはGAT3型、脳以外の臓器の細胞にはGAT2型が概ね局在しています。

GATは膜12回貫通型の細胞膜に埋め込まれたタンパク質で、C末・N末共に細胞内に露出します(図6)。

GATがGABAを細胞内に取り込む際にGABA1分子につきナトリウムイオン2個と塩素イオン1個が移動しますが(13、図6)、ATPは使用しません。といってもナトリウムを取り込むと、ATPを使って排出することになるので、間接的にはATPのエネルギーを利用していることになります。

GABAが通過する部分はシーソーのような構造になっており、図6のように立体構造を変えることによってGABAを移動させます(13)。GABAを放出後、シナプス間隙の不要なGABA濃度が高まると、シナプス前細胞のGAT1がGABAをすみやかに回収します。アストログリア細胞のGAT3もGABAの回収に使われるようです。この両者によって約75%のGABAを回収できるとされています(13)。

アストログリア細胞が回収したGABAはグルタミン酸からグルタミンに変換され、トランスポーターを通してシナプス前細胞に受け渡されて再利用されます。シナプス前細胞は自ら回収したGABAと、アストログリア細胞から受け取ったグルタミンから合成したGABAを使用することができます。GABAが長時間シナプス間隙に残留するとまずい場合が多いので、このような回収システムがすみやかに稼働すると思われます。

A_47

図1にもうひとつの役者VGATが●で登場しています。VGATとは小胞GABAトランスポーター(vesicular gaba transporter) の略称で、GATとは全く異なるトランスポーターです。VGATはアミノ酸配列から9回膜貫通型のトランスポーターと考えられていて、細胞質のGABAとグリシンをシナプス小胞内に取り込むことができます(14)。小胞内にため込まれた神経伝達物質は、必要時にエキソサイトーシスによってシナプス間隙に排出されます(15)。

 

参照

1) from wikipedia, original source is Nissen-Meyer LSH and Chaudhry FA., Corrigendum: Protein Kinase C Phosphorylates the System N Glutamine Transporter SN1 (Slc38a3) and Regulates Its Membrane Trafficking and Degradation. Front. Endocrinol. vol.8: p.190.(2017) doi: 10.3389/fendo.2017.00190
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fendo.2017.00190/full

2)Stephenson FA, Mukhopadhyay R.,Classics How the glycine and GABA receptors were purified., J Biol Chem. vol.287(48), pp.40835-40837.(2012) doi: 10.1074/jbc.O112.000006.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23180805

3)Barnard EA, Darlison MG,Seeburg P., Molecular biology of GABAA receptor:The receptor/channel superfamily. Trends Neurosci vol.10: pp.502-509.(1987)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0166223687901305

4)Grenningloh G, Gundelfinger ED, Schmitt B,Betz H, Darlison MG, Barnard EA, Schonfield PR, Seeburg PH.,  Glycine vs GABA receptors. Nature vol.330: pp.25-26.(1987)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2823147

5)GABAA受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/GABAA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

6)脳科学辞典 GABA受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/GABA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

7)Macdonald R.L. Olsen R.W., GABAA receptor channels. Annu. Rev. Neurosci. vol.17: pp.569-602 (1994)

8)Bowery N.G., GABAB receptors and their significance in mammalian pharmacology. Trends Pharmacol. Sci., vol.10: pp.401-407 (1989)

9)Bowery, N.G. and Brown, D.A., The cloning of GABA(B) receptors. Nature vol.386, pp.223-224. (1997)

10)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/GABA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

11)Burmakina, S., Geng, Y., Chen, Y. and Fan, Q.R.,  Heterodimeric coiled-coil interactions of human GABAB receptor. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. vol.111, pp.6958-6963.(2014)

12)Miho Terunuma, Diversity of structure and function of GABAB receptors: a complexity of GABAB-mediated signaling., Proc. Jpn. Acad., Ser. B 94, pp.390-411 (2018)
file:///C:/Users/User/Desktop/GABAb%20terunuma%20pjab-94-390.pdf

13)Sadia Zafar and Ishrat Jabeen, Structure, Function, and Modulation of γ-Aminobutyric Acid Transporter 1 (GAT1) in Neurological Disorders: A Pharmacoinformatic Prospective. Front Chem. vol.6: article 397. pp.1-19 (2018)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6141625/

14)脳科学辞典 小胞GABAトランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9EGABA%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

15)脳科学辞典 シナプス小胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9%E5%B0%8F%E8%83%9E

 

| | コメント (0)

2019年6月 4日 (火)

やぶにらみ生物論127: GABA その1

  神経伝達物質をざっと概観しようとしてきましたが、これまでにアセチルコリン、各種モノアミン類を取り上げてきました。今回からアミノ酸関連因子に進みます。図1にそのなかでも重要な2つの要素が出てきますが、まず右側の γ-アミノ酪酸(GABA=γ-amino butyric acid)から見ていきましょう。

GABAはグルタミン酸からグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD=L-glutamic acid decarboxylase)によって産生されます。材料のグルタミン酸は細胞外からグルタミン酸トランスポーターを用いて取り込む場合と、細胞内でTCAサイクルの α-ケトグルタル酸から合成する場合があります(1)。

GADにはふたつのアイソフォーム(GAD65,GAD67)があり、GAD67が細胞質全体に存在するのに対してGAD65は神経終末部に豊富に存在することから、GAD65が抑制性シナプス伝達を担うGABA合成に主として関与すると考えられています(1)。

A_36

タンパク質の構成要素となるアミノ酸はαの位置にアミノ基がありますが、GABAの場合図1のようにγの位置にアミノ基があります。したがってGABAはタンパク質の構成要素としてのアミノ酸ではありません。

GABAの発見者はアッカーマンという人で、細菌による腐敗の結果生ずるものと報告されているそうです(2、3)。現在も発行されている Zeitshrift fur Physikalische Chemie のホームページを見てみましたが、アッカーマンの論文の紙面は提供されていませんでした。

その後GABAはカビや植物からも抽出されましたが、ロバーツ(図2)はマウスの脳にGABAが存在することを発見しました(4、5)。ロバーツは自伝を書いていますので(3)、少し彼の人生をたどってみましょう。

A_37

ユージン・ロバーツは1920年に黒海沿岸で生まれましたが、1917年にロシア革命が勃発し、いわゆるブルジョアジーだった彼の一家は1922年にラトヴィア経由で、親戚を頼って米国のデトロイトに移住しました。彼は高校時代にアンドレという女性教師に実験室を自由に使わせてもらってゾウリムシの研究を行い、それが生物学へ傾倒するきっかけとなったそうです。高校教師も科学の進歩に関係がないわけではありません。

彼はウェイン州立大学を卒業後、ミシガン大学で学位をとりましたが、太平洋戦争中ということもあって、学位取得前からニューヨークのロチェスター大学でマンハッタンプロジェクトに参加し、ウラニウムのダストをどのくらい吸い込むと危険かという研究に携わりました。

戦後の1949年になって、彼は2次元ペーパークロマトグラフィーの技術を使って、脳に大量のGABAが存在することを発見しました。これは「正常細胞とがん細胞で、フリーのアミノ酸の含量に差があるかどうか調べる」という目的の研究の副産物として発見されました。「目的指向的研究をやれ」とよく役人やその尻馬に乗る人々が言うわけですが、実際には所期の目的とは「はずれた」副産物の方が重要だったということはよくあることです。テクノロジーの進化には目的指向をはっきりさせることが大事かもしれませんが、サイエンスにとって多くの場合、当初の研究目的はきっかけに過ぎません。

脳にGABAが存在するという研究結果は、1950年に共同研究者のサム・フランケルと共に発表し論文にもまとめました。同じ年に Udenfriend(6)と、Awaparaのグループ(7)も同様な結果を発表していますが、前者はロバーツからサンプルの提供を受けて、ラジオアイソトープを使った別法で成分を確認したもの(ロバーツは Fed. Proc.の中でこのことに言及しています 参照5)。後者はプライオリティーの点でやや遅れをとったとみなされています(8)。ただアワパラ側がどう考えていたのかについては情報が得られなかったので、本当のところ真実は藪の中です。

発表後ロバーツはアッカーマンから祝福の手紙を受け取ったそうです(3)。アッカーマンがGABAを発見してから40年が経過しているので、もうリタイアしていたと思いますが、心温まるエピソードだと思います。その後ロバーツのグループは、GABAがほ乳類の脳における主要な抑制性神経伝達因子であることを示すうえで大きな貢献をしました。

現在では脳のニューロンのうち約30%がGABA性(ギャバージック)の抑制性ニューロンであることが知られていますが(9)、そもそも抑制性ニューロンなどというものがあることは誰が発見したのでしょうか?

最初にこのことに気づいたのは、ロシアの「生理学および科学的心理学の父」といわれるセチェノフでした。彼はカエルの脊髄反射は脳を除去することによって促進され、脳を刺激することによって抑制されることを報告しました(10、11、図3)。まだ19世紀のなかばの頃です。脳を科学的に考えるにはあまりに時期が早かったため、唯物論を広めキリスト者としてのモラルを低下させたかどで、迫害されたこともあったようです(12)。条件反射などの研究で1904年にノーベル生理学医学賞を受賞したパヴロフも、もともとの定義に反することであっても、後に反射に脳がかかわっていることを認めて報告しています(13)。

英国の生理学者シェリントン(図3)は膝蓋反射のように感覚神経と運動神経が単純に反応するような反射もあるが、ひっかき反射(14)などでは、感覚神経・運動神経以外の神経、すなわち複数のシナプスがかかわっていることを示しました。すなわち犬の肩をこすると、こすった側の後ろ足の屈筋が刺激されますが、同時に伸筋は抑制されるのです(15)。このことは抑制性の神経系の存在を強く示唆するものです。これらの業績によって、シェリントンは1932年にノーベル生理学医学賞を受賞しました。

A_38

その後グルタミン脱炭酸酵素(GAD=L-glutamic acid decarboxylase)の抗体を用いて、GABAを産生する細胞を同定する試みは、ロバーツを含む多くの研究者によって、徹底的に行われました(16、17)。

文献(17)によると、GADが局在する部域は、cerebellum(小脳), spinal cord(脊髄), retina(網膜), habenula(手綱), olfactory bulb(嗅球), substantia nigra(黒質), corpus striatum(線状体), red nucleus(赤核), arcuate nucleus(視床下部弓状神経核),lateral cervical nucleus, tuberomammillary nucleus(結節乳頭体神経核), cochlear nucleus(蝸牛神経核), vestibular nuclei(前庭神経核), dorsal column nuclei(後索神経核), nucleus reticularis thalami(視床網様体神経核), globus pallidus(淡蒼球) and nucleus entopeduncularis(脚内神経核), visual cortex(視覚野), dentate gyrus(歯状回), superior colliculus(上丘), sensory-motor cortex(感覚運動皮質), septal area(中隔野), hypothalamus(視床下部), hippocampus(海馬), geniculate complex(膝状複合体), and nucleus tractus solitarii(孤束神経核)と広汎にわたっています。

それぞれの部域については、図4、図5に赤で示しました。

A_39

A_40

これらの多くは後に学んでいくことになると思いますが、とりあえず大脳基底核周辺における GABAergic な伝達系がウィキペディアに出ていたので、図6にコピペしました(18)。GABAergic なシナプス前細胞は、シナプス後細胞を過分極させて脱分極を抑制する方向に作用します。線状体から淡蒼球や黒質に情報が投射していることが示されています。抑制性の神経細胞は、自身が抑制性の神経細胞とシナプスをつくると、シナプス後細胞による抑制作用を抑制することになり、結果的に促進細胞に変身することもあり得ます。

A_41

 

参照

1)脳科学辞典 GABA
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/GABA

2)Ackermann, D. Uber ein neues, auf bakteriellem Wege gewinnbares Aporrhegma. Z. Physiol. Chem. vol.69, pp.273-281. (1910)

3)Eugene Roberts (autobiography), in "The History of Neuroscience in Autobiography" VOLUME 2, Ed.Larry R. Squire, Academic Press (1998)
file:///C:/Users/User/Desktop/GABA/Eugene%20Roberts.pdf

4)Roberts, E. and Frankel, S. γ-Aminobutyric acid in brain: Its formation from glutamic acid. Journal of Biological Chemistry vol.187: pp.55-63,(1950)
http://www.scholarpedia.org/w/images/2/29/GABA_abstract.jpg

6)Udenfriend, S. Identification of gamma-aminobutyric acid in brain by the isotope derivative method. Journal of Biological Chemistry vol.187: pp.65-69 (1950)

7)Awapara, J., Landua, A.J., Fuerst, R., and Seale, B. Free gamma-aminobutyric acid in brain. Journal of Biological Chemistry vol.187:pp.35-39,(1950)

8)Eugene Roberts, Gamma-aminobutyric acid., Scholarpedia, vol.2(10), p.3356.(2007)
http://www.scholarpedia.org/article/Gamma-aminobutyric_acid

9)小幡邦彦 GABAのはたらき、Riken BSI news vol.37, 10月号 (2007)
http://bsi.riken.jp/bsi-news/bsinews37/no37/special.html

10)"Refleksy golovnogo mozga." Meditsinsky vestnik 47-48 ("Reflexes of the brain", in Russian) (1863)

11)K.Obata, Synaptic inhibition and γ-aminobutyric acid in mammalian central nervous system. Proc.JPN.Acad., Ser.B89, No.4, pp.139-156 (2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/89/4/89_PJA8904B-03/_article/-char/ja

12)https://en.wikipedia.org/wiki/Ivan_Sechenov

13)Pavlov,I.P., Conditioned Reflexes (translated by Anrep,G.V.). Dover Publications, Mineola, NY, pp.1-430 (1927)

14)Scratch reflex of dog
https://www.youtube.com/watch?v=VzCwXaU_tJ0

15)Sherrington, C.S., The Integrative Action of the Nervous System. Yale Univ. Press, New Haven, CT, pp.1-413 (1906)

16)E. Roberts amd Kinya Kuriyama, Biochemical-physiological correlations in studies of the γ-aminobutyric acid system. Brain Res., vol.8, pp.1-35 (1968)
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/C8FQEO1U/first-page-pdf.pdf

17)17)Elling Kvamme, Glutamine and Glutamate Mammals. Vol.1, CRC Press (1988)
VI Identification and localization of L-glutamate decarboxylase.
こちら

18)https://en.wikipedia.org/wiki/Striatum

 

 

 

 

| | コメント (0)

2019年5月17日 (金)

やぶにらみ生物論126: ヒスタミン

ヒスタミンはイミダゾール骨格にエチルアミンの側鎖がついている構造の化学物質で、哺乳動物のほとんどすべての組織に含まれています。アミノ酸のひとつであるL-ヒスチジンから、L-ヒスチジン脱炭酸酵素による脱炭酸反応により生合成されます(1、図1)。

この反応は細菌でも行うことができるものがあることが知られています。細菌がなぜこのような反応をおこなうかについては、一般的には酸性になった細胞内環境を中性にもどす役割が想定されていますが、そのほかの役割もあるようです(2)。人の立場からいえば、細菌が産生するヒスタミンは、ヒスタミン中毒の原因物質なので困りものです。

A_27

1907年にウィンダウス(図2)とフォークトによってヒスタミンが化学的に合成されたことが、ヒスタミン研究の出発点となりました(3)。ウィンダウスは1927年にノーベル化学賞を受賞していますが、それはコレステロールやビタミンの研究が評価されたものです。しかしノーベル財団のバイオグラフィーをみると、彼がヒスタミンを発見したことにも少しだけ触れてあります(4)。

合成ヒスタミンが使えるようになったので、デイルとレイドロー (図2)はまず10mgのヒスタミンをカエルの背中のリンパ嚢に注入したところ、カエルは大口を開けて、手足は伸びきり、明らかに中枢神経系の活動が抑制されたことが示されました。次に2mgのヒスタミンをウサギの静脈に注射すると、ウサギは平伏し、心臓の鼓動が不整で弱くなり、さらに2mg追加すると死亡するという結果を得ました。またヒスタミンがアナフィラキシーショックを引き起こすことがあるとも指摘しています(5)。

デイルはレーヴィとともに神経伝達物質(アセチルコリン)を発見したことで有名で、その業績で1936年のノーベル生理学医学賞を受賞しています。このブログでも以前にとりあげました(6)。

A_28

ヒスタミンは特定の内分泌器官から放出されるものではないので、ホルモンの定義からは逸脱していますが、主にマスト細胞(肥満細胞)、好塩基球、マクロファージ、神経細胞などが放出し、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進、アレルギー反応・炎症の促進などの生理作用を持っている上に、神経伝達物質でもあります(1、図3)。マクロファージの場合だけ、ヒスタミンは細胞質にある顆粒内にストックされずフリーのまま放出されます。

図3に示したマスト細胞や好塩基球ではヒスタミンを含む顆粒が染色されて、はっきり見えます。

A_29

ヒスタミンが過剰に作用すると、じんましん・皮膚炎・鼻炎・ぜんそくなどのアレルギー反応や、ひどい場合にはアナフィラキシーショックを引き起こすこともあるので、それらを抑制するための抗ヒスタミン薬はほとんどの人がお世話になっているはずです。

ヒスタミンの受容体は、現在知られているものはすべてGPCR(細胞膜7回貫通型Gタンパク質共役受容体)です(7)。ウィキペディアに美しい説明図がありました(7)。この図の一番左をみると、Gタンパク質(青)と受容体(赤)が離れた位置にあり、ヒスタミンが結合してはじめてGタンパク質と受容体が接近して結合するような印象を受けますが、これは議論の余地があるでしょう。

ともあれ受容体の立体構造の変化を受けてGタンパク質がGDPをリリースしてGTPと結合し、Gαが解離してエフェクター(H2受容体の場合はアデニル酸シクラーゼ)に作用するわけです。これによりアデニル酸シクラーゼは活性化されてcAMPが産生されます。

A_30

英語版のウィキペディアをみると、日本語版とは少し異なる解説図がみつかります(8、図5)。左図ではGαだけでなくGβGγもエフェクターに結合するとしています。またGタンパク質は最初から受容体と結合しています。右図では日本語版と基本的に同じ解説になります。いったん受容体から離れたGαが元の位置にもどってくるとすると、受容体と結合しないのなら、GβGγが元の位置にあって目標になる必要があるので、係留用杭(ボラード)となるGβGγは独自に行動することは許されません。

A_31

ヒスタミンの受容体は現在4種類が知られており、それぞれの特徴をとりあえずウィキペディアからコピペしておきます(図6)。このあと述べるように、ヒスタミン受容体はヒスタミンと結合すると細胞の脱分極を誘導するはずですが、このメカニズムは私が調べた限りではよくわかりませんでした。イオンチャネル型の受容体はみつかっていないようです。

A_32

ヒスタミンが脳神経系に存在することを最初に示したのはクフィアトコフスキで、1943年のことですが、この論文にはフリーでアクセスできます(9)。その後 Garbarg(発音不明)らはヒスタミンが脳の灰白部、特に神経末端に局在していることをつきとめました(10)。ヒトの脳ではヒスタミン系の神経伝達経路は、視床下部外側結節乳頭核から脳全体に投射していることがわかっています(11、図8)。この総説を書いたハースはヒスタミン系神経伝達経路研究の中心人物のひとりで図7に写真を貼っておきました。

ヒスタミン神経系の実在を証明する上で、大阪大学の和田博と門下の渡邉建彦(図7)、遠山正彌らは大きな貢献をしました。彼らはヒスチジン脱炭酸酵素の抗体を作成して、脳におけるヒスタミン神経系の可視化に成功しました(12)。ただヒスタミンを大量に産生するマスト細胞が脳にも存在するのでまぎらわしい点があり、最終的にはマスト細胞を持たないミュータントマウスを使って証明することができたとのことです(12)。

A_33

A_34

ヒスタミンの作用は図6からも広汎であることがわかりますが、ひとつ注意すべきは免疫反応を促進するため、ぜんそく、じんましん、発熱などのアレルギー反応などを引き起こす悪者として扱われることもよくあります。しかしそれらはあくまでも生体防御反応の結果ですし、ヒスタミンは上記のように神経伝達物質として脳の機能に深く関わっているほか、平滑筋収縮、血小板凝集、胃酸分泌を促進するなどの重要な機能も持ち合わせています。

脳でのヒスタミンのはたらきのなかで、特に注目すべきはその覚醒維持作用です。ヒスタミン神経系は、眠らせようとするアデノシン-GABA系の神経系と拮抗しており、覚醒を維持するために重要なはたらきがあります(13、14)。三島先生の記事を引用すると「脳を最も強力に覚醒させる神経伝達物質の一つであるヒスタミンは結節乳頭核から大脳に投射されている。腹側外側視索前野はその結節乳頭核の活動を抑え込むことで眠気(睡眠)を誘発する。アデノシンは自身が産生されたクモ膜下腔のすぐ近くにある腹側外側視索前野を活性化し、結果的に眠気をもたらす(13)。」ということになります。

ですから抗ヒスタミン剤(ドリエルなど)を投与されると、当然眠くなります(15)。この薬を服用した場合は、翌日も眠くなる可能性があるので、車の運転をしないなど行動には十分注意する必要があります(16、17)。睡眠を誘導するアデノシン-GABA系神経を抑制しても目が覚めるわけですが、カフェインにはそのような効果があります。

参照

1)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3

2)小栁喬 細菌たちよ,アミノ酸をなぜ脱炭酸する? 生物工学 第 95巻 第9号(2017) 
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/CFQW7HJS/9509_biomedia_3.pdf

3)Windaus A, Vogt W. Synthese des Imidazolyl-athylamins. Ber. Dtsch. Chem. Ges. vol.40, pp.3691-3695 (1907)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/cber.190704003164

4)Adolf Windaus Biographical  MLA style: Adolf Windaus Biographical. Nobe lPrize.org. Nobel Media AB 2019. Mon. 13 May 2019. 
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1928/windaus/biographical/

5)Dale HH, Laidlaw PP. The physiological action of beta-iminazolylethylamine. J Physiol., vol.41(5):pp.318-344 (1910)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1512903/

6)http://morph.way-nifty.com/grey/2019/02/post-e2ed.html

7)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

8)https://en.wikipedia.org/wiki/G_protein-coupled_receptor

9)Kwiatkowski H. Histamine in nervous tissue. J Physiol vol.102: pp. 32-41, (1943).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1393435/

10)Monique Garbarg, Gilles Barbin, Jean Feger, Jean-Charles Schwartz., Histaminergic Pathway in Rat Brain Evidenced by Lesions of the Medial Forebrain Bundle.
Science Vol. 186, Issue 4166, pp. 833-835 (1974)  DOI: 10.1126/science.186.4166.83307 
https://science.sciencemag.org/content/186/4166/833?ijkey=7306dedf001ced6e0be14ccae7aea614ae2907&keytype2=tf_ipsecsha

11)Helmut L. Haas, Olga A. Sergeeva, AND Oliver Selbach., Histamine in the Nervous System., Physiol Rev vol.88: pp.1183-1241 (2008);  doi:10.1152/physrev.00043.2007.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18626069

12)T.Watanabe and H.Wada (eds), Histaminergic neurons: Morphology and Fundtion. CRC Press (1991) Boca Raton, Florida

13)三島和夫 睡眠の都市伝説を斬る ナショナルジオグラフィック
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/082900048/?P=3

14)筑波大学 報道資料 睡眠と覚醒を制御する神経回路を解明 ~視床下部睡眠中枢と覚醒中枢の神経接続の解明~ (2018)
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/PVA09UPG/180717sakurai-3.pdf

15)エスエス製薬 睡眠改善薬のメカニズム
https://www.ssp.co.jp/condition/insomnia/mechanism/

16)https://kotobank.jp/word/%E7%9D%A1%E7%9C%A0%E6%94%B9%E5%96%84%E8%96%AC-187116

17)https://www.min-iren.gr.jp/?p=5526

 

 

 

 

| | コメント (0)

2019年4月30日 (火)

やぶにらみ生物論125: セロトニン

セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HTという略称を用いることもあります)は生理活性アミンの1種で、トリプトファンから5-ハイドロキシトリプトファンを経て生合成されます(図1)。

A_19

血清中に筋肉を収縮させる活性のあるホルモン様因子が存在することは20世紀初頭から知られていました。その第一候補はアドレナリンでしたが、その因子と異なりアドレナリンは腸の平滑筋は弛緩させました。オコナーはこの因子が血漿では検出できないことから、血液凝固の過程で血小板から血清中に漏れ出したと考えました(1)。

血液凝固がおこるということは負傷したということです。負傷すると血管の平滑筋が収縮して出血を防ぐというのは、生命維持のために重要なメカニズムです。

このホルモン様因子の分子的実体はなかなか解明されませんでしたが、20世紀半ばになってようやくラポルト(図2)らによって、謎の血清因子がセロトニンであることが明らかにされました(2、3)。ラポルトらは900リットルのウシ血清から2~3mgの因子結晶を得て、構造を解明することができました。そしてエルスパメル(図2)らのグループがエンテラミンと呼んでいた胃粘膜由来の平滑筋収縮因子が同じ物であることがわかりました(4)。

そして1953年にはウェルシュ(写真がみつかりません)らがセロトニンが神経伝達物質であることを示唆する論文を発表しています(5、6)。彼らは二枚貝のガングリオン(神経節)が心臓の拍動を制御するに際して、アセチルコリンが拍動抑制、セロトニンが拍動促進という役割を持っていると考えました。その後ドーパミンの記事で述べたファルク-ヒラープの方法(7)によってセロトニンも可視化され、神経細胞での存在が確認されました。

A_20

セロトニンの受容体については、図3に示したような7種類の分子の存在が知られています。このうち6種類は7回膜貫通型3量体Gタンパク質共役型受容体(GPCR=GTP-binding protein-coupled receptor )ですが、5-HT3だけはイオンチャネル型です(8)。

A_21

代表的なセロトニン受容体の立体構造を図4に示しました。左はGPCR型の5-HT1B(9)、右はイオンチャネル型の5-HT3(10)です。GPCR型の機能は例によって結合しているGタンパク質の種類によって異なります。図3および図5にリストアップしておきました。イオンチャネル型はセロトニンが結合することによって、受容体を持つ細胞が脱分極を起こします。

A_18

ここではそれぞれのセロトニン受容体の詳細な局在や機能についてまだ深入りしませんが、概略は図5に示しました(11)。血管・消化管・中枢神経系がこの受容体の主な活動場所です。

A_22

モノアミン系神経伝達因子のトランスポーターは、ドーパミンとノルアドレナリンについてはそれぞれについて特異性が低いトランスポーターがあり、セロトニンについては特異性が高い専用のトランスポーターがあります。これらのトランスポーターによって、外界のモノアミンは細胞内のシナプス小胞に取り込まれます。シナプス間隙の神経伝達因子を取り込むと、リサイクルと伝達の停止というふたつの意味を持つことになります。

キルティらによって最初にドーパミントランスポーター遺伝子のクローニングが行なわれ、その構造が研究されました(12、13)。他のトランスポーターと同様、膜12回貫通型のタンパク質で、N末・C末ともに細胞内にあります。細胞膜に埋め込まれていないループが細胞外にも細胞内にも複数あるようです(図6)。

B

モノアミンはナトリウム・カリウム・塩素などのイオンと共にトランスポーターがつくる膜内の小室に取り込まれ、外界側のドアを閉めた後で細胞内へのドアを開けて細胞内に移動するようです(14、図7)。

A_24

セロトニンの作用についてもうひとり忘れてはならないパイオニアがいます。それはベティー・トゥワログで(図8)、彼女は前記のウェルシュの研究室で学位をとったのですが、不可解なことにその研究をウェルシュとは別々の論文に書いて発表しています(15、16)。これはおそらくトゥワログの論文が投稿から発表までに2年もかかった(17)ことが関係しているのでしょう。編集部が受理する自信がなかったためにこのようなことになったと思われます(17)。

その内容は、ホンビノスガイ(もともとは北アメリカの大西洋側にしかいませんでしたが、現在は世界中に広がり東京湾にもいるそうです、図8)の神経による心臓の調節に関する物もので、この2枚貝の神経は心臓の鼓動を調節するためにアセチルコリンを放出しますが、アセチルコリンは鼓動の頻度や強度を抑制する働きがあります。しかしアセチルコリンアンタゴニストあるいはセロトニンは鼓動の頻度や強度を強める働きがあることを彼らは示しました。トゥワログとページはさらに哺乳類にもセロトニンが存在し、同様な働きを持つことを報告しました(18、19)。

A_25

ヒトでセロトニンが欠乏するとどんなことが起こるのでしょうか? 安原こどもクリニックのサイトをみると次のような病状が発生するそうです(20)。

#すぐキレル
#摂食障害
#過食
#拒食
#パニック障害
# うつ
#睡眠障害(眠れない)
#寝覚めがはっきりしない
#筋収縮障害

ここで注意すべきは、セロトニンはメラトニンというホルモンの前駆体でもあるので(図9)、セロトニンが欠乏するとメラトニンも欠乏します。したがってセロトニン欠乏症なのかメラトニン欠乏症なのかは慎重に検討する必要があります。これらについてはおいおい調べていくことにします。

A_26

 

参照

1)O’Connor JM: Uber den Adrenalingehalt des Blutes. Arch Exp Pathol Pharmakol (founding name of “Naunyn-Schmiederberg’s Arch Pharmacol”), vol.67, pp.195-232.(1912)

2)Rapport MM, Green AA, Page IH: Crystalline serotonin., Science,vol.108, pp.329-330.(1948)

3)Rapport MM: Serum vasoconstrictor (serotonin). V. The presence of creatinine in the complex: a proposed structure of the vasoconstrictor principle. J Biol Chem,
vol.180, pp.961-969.(1949)

4)Erspamer V, Asero B: Identification of enteramine, the specific hormone of the enterochromaffin cell system, as5-hydroxytryptamine. Nature, vol.169, pp.800-801. (1952)

5)Welsh JH: Excitation of the heart of Venus mercenaria.Naunyn-Schmiedebergs Arch Exp Pathol Pharmakol,vol.219, pp.23-29.(1953)

6)Welsh JH, Taub R: The action of acetylcholine antagonists on the heart of Venus mercenaria. Br J PharmacolChemother, vol.8, pp.327-333.(1953)

7)Falck B, Hillarp N. A, Thieme G, Torp A: Fluorescence of catechol amines and related compounds condensed with formaldehyde. J Histochem Cytochem,vol.10,pp.348-354.(1962)

8)Peroutka SJ, Snyder SH: Multiple serotonin receptors:differential binding of [3H]5-hydroxytryptamine, [3H]lysergic acid diethylamide and [3H]spiroperidol. Mol Pharmacol, vol.16, pp.687-699.(1979)

9)S. Jähnichen,  https://en.wikipedia.org/wiki/5-HT_receptor

10)G Hassaine et al.,  Protein Data Bank,  https://www.rcsb.org/structure/4PIR

11)日本血栓止血学会用語集 https://www.jsth.org/glossary_detail/?id=263

12)Kilty JE, Lorang D, Amara SG. Cloning and expression of a cocaine-sensitive rat dopamine transporter. Science. 1991; 254(5031):578–579. [PubMed: 1948035]

13)https://en.wikipedia.org/wiki/Monoamine_transporter

14)Jacob Eriksen,  PhD thesis - Københavns Universitet  (2009)

15)Welsh JH, Taub R: The action of acetylcholine antagonists on the heart of Venus mercenaria. Br J Pharmacol Chemother, vol. 8, pp. 327–333.,  (1953)

16)Twarog BM: Responses of a molluscan smooth muscle to acetylcholine and 5-hydroxytryptamine. J Cell Physiol, vol. 44, pp. 141–163., (1954)

17)Patricia Mack Whitaker-Azmitia., The Discovery of Serotonin and its Role in Neuroscience., Neuropsychopharmacology., vol. 21, no. 2S,
(1999)
https://www.nature.com/articles/1395355

18)Twarog BM, Page IH: Serotonin content of some mammalian tissues and urine and a method for its determination., Am J Physiol, vol. 175, pp. 157–161., (1953)

19)Manfred Göthert., Serotonin discovery and stepwise disclosure of 5-HT receptor complexity over four decades. Part I. General background and discovery ofserotonin as a basis for 5-HT receptor identification., Pharmacological Reports, vol.65, pp.771-786 (2013)
http://www.if-pan.krakow.pl/pjp/pdf/2013/4_771.pdf

20)http://www.y-c-c.jp/drbear/?p=41

 

 

| | コメント (0)

2019年4月 4日 (木)

やぶにらみ生物論124: ドーパミン

ドーパミンは前記事「アドレナリンとノルアドレナリン」でも示したように、生体内ではチロシンからドーパ(L-ドーパ)を経て合成されますが(1、図1)、これ以外のマイナーな別経路も発見されています(2)。いずれにしてもアドレナリン生合成のための中間生成物という位置づけであって、ドーパミン自体が生理的に重要な作用をもっているとは、20世紀半ばまでは考えられていませんでした。

 

A_11

モンタギュー(図2)は人を含む数種の生物の脳などの組織にドーパミンが存在し、これはアドレナリンやノルアドレナリンのように季節によって変動することはないと報告しました(3)。この1957年の論文がドーパミン自体の意義に関する最初の報告とされています(4)。カールソン(図2)らもモンタギューに遅れて報告していますが、彼らの報告にはモンタギューの論文は引用されていません(5、6)。データもきちんと示されておらず、おそらく慌てふためいて学会アブストラクトのような論文を書いたものと思われます。これはフェアーな態度ではありませんが、その後カールソンはドーパミンなど神経伝達物質の機能に関して詳細な研究を行ない、2000年にノーベル生理学医学賞を受賞しました(7)。彼が1994年に日本国際賞を受賞した際の講演要旨が日本語で読めます(8)。

A_15

ファルクとヒラープはファルク・ヒラープ蛍光法というモノアミンを高精度で検出する方法を開発し(9、図2)、モノアミンが神経伝達物質であることの証明に絶大な貢献をしました。ノーベル委員会もカールソンにノーベル賞を授与する際に「It was not Arvid Carlsson who had discovered that dopamine is a signal substance in the central nervous system」と述べているそうです(10)。ファルク・ヒラープ法による研究の実例をひとつ引用しておきます。この論文では、ジュウシマツの膵臓に3種のモノアミン含有細胞が存在することが示されています(11)。

ホーニケヴィツはパーキンソン病の原因が、脳におけるドーパミンの欠乏によるものであることを証明しました(12、13、図2)。またL-ドーパの投与によって症状が改善されることを示しました(14)。ドーパミンは脳-血液関門を通過できませんが、L-ドーパは通過できるので、脳にドーパミンを与えたいときには前駆体であるL-ドーパを投与します。

ドーパミンもアドレナリンやノルアドレナリンと同様、その受容体は7回膜貫通型3量体Gタンパク質共役型受容体(GPCR=GTP-binding protein-coupled receptor )です(15、16、図3)。なので何が起こるかという引き金はGタンパク質のαサブユニットで、ドーパミン受容体の場合、αサブユニットがs型の場合アデニル酸シクラーゼの活性を上昇しさせることによってcAMP 濃度が上昇し、i型の場合アデニル酸シクラーゼの活性を抑制し、フォスフォジエステラーゼの活性を上昇させることなどによって cAMPが分解されるなどの反応で、その濃度は低下します。

なおドーパミンのトランスポーターは特異性の低いモノアミントランスポーターとされているので、これについては別項で取り扱うことにします。

A_17

ドーパミンの受容体にはD1型~D5型があり、このうちD1・D5型にはGαsが結合しており、D2~D4型にはGαiが結合しています。ドーパミンが受容体に結合することによって、これらのGタンパク質が細胞質にリリースされて機能を発揮します。すなわちドーパミン自体がどのような生化学反応のカスケードがおこるべきかを指定するわけではなく、受容体が指定するのです。ですからどの部域の細胞がどんなGPCRを持っているかというタイプの分布の問題が大きな意味をもつことになります(図4、図5)。

これはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの合成経路が直接繋がっていることを考えれば当然とも言えます。つまりアドレナリンを大量に合成すると、必然的にドーパミンとノルアドレナリンも大量に合成することになってしまうからです。

Gαsは受容体タンパク質のC末に、Gαiは5番目と6番目の膜貫通部位の間で細胞質に露出しているループの部分に結合していることがわかっています(図4)。ドーパミンが受容体に結合するとGαは結合しているGDPをGTPに変換し、Gβ・Gγから遊離してフリーとなり、細胞質内を移動して機能を行使します。

A_12

GPCRはヒトゲノムのなかに800種類以上の遺伝子が存在し、中には機能がまだわかっていないものもあります(16)。Gタンパク質の中でGαだけが機能を果たしているのではなく、Gβ・Gγもそれぞれ機能を果たしていると思われますが、αタイプと比べるとまだ未知の部分が多いようです。

脳のドーパミン受容体がそれぞれどんな役割を果たしているかのリストを Anmol Bhatia と Abdolreza Saadabadi が表にまとめているので(17)、そのまま図5に示しますが、どんな手順で、どんな経路を経てこのような機能に繋がっているのかは脳科学の中心課題のひとつでしょう。

A_9

Gαsの機能として最もよく知られているのは、アデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPの濃度を上昇させることです(図6)。cAMPが細胞外からの情報伝達物質のメッセージによって細胞内の生化学的プロセスを変動させる、いわゆるセカンドメッセンジャーの役割を果たしていることを明らかにしたエール・サザランドは1971年にノーベル生理学医学賞を受賞しました。彼は貧しい農家の出身で出身大学も無名ですが、運良くセントルイスのワシントン大学の大学院でカール・コリ教授の薫陶をうけることによって未来が開けました(18)。第二次世界大戦では軍医を務めましたが、終戦後も医師にはならず研究の道に進み、cAMPの発見と機能の解明に成功しました。彼はノーベル賞受賞講演の中で「Cori convinced me, not so much by anything he said so much as by his example, that research was the right direction for me to take」と述べています(18)。

A_14

アデニル酸シクラーゼ(またはアデニリルシクラーゼ)は12回膜貫通タンパク質で、N末・C末ともに細胞質側に出ています。アデニル酸シクラーゼには多くのアイソフォームがあり、それぞれGαsで活性化されたり、Gαiで抑制されたりするようです(19)。

A_13

cAMPの作用で最もよく知られているのはプロテインキナーゼAの活性化です。Gタンパク質の影響でアデニル酸シクラーゼの活性が高まり、cAMPの濃度が上昇すると、不活性複合体を形成しているプロテインキナーゼAの制御タンパク質にcAMPが結合して、活性化されたプロテインキナーゼAが複合体から分離してさまざまなタンパク質のリン酸化をおこないます(20、図8)。ただ複合体が解体されるほどcAMPの濃度が高くない場合でも、ある程度の濃度に達すると複合体を形成したまま活性を発揮するとされています(21)。

A_10

さて私達はドーパミンという部屋の扉を開いたばかりですが、ドーパミン研究の歴史とは切っても切れない関係にあるパーキンソン病について、最後にもう少し触れておきます。パーキンソン病は19世紀の初頭にジェームズ・パーキンソンによって報告された病気で、ふるえ、動作や姿勢の異常、筋固縮などがその症状です。20世紀の半ば以降になって、前記したホーニケヴィッツやその他の研究者の努力により、その原因が中脳黒質のドーパミン産生細胞の減少によることが明らかとなってきました(22)。実際L-ドーパの投与により症状は改善されます(23)。ただ長期にわたって投与すると、効かなくなったり逆に悪化する恐れもあります(23)。ドーパミンD1受容体を介する情報伝達の消失が、パーキンソン病の症状の一つである「無動」を引き起すという報告があります(24)。

パーキンソン病の存在によって、ドーパミンの機能が明らかになったという側面はあります。ただそれは入口と出口がわかったというだけで、途中のメカニズムはまだまだわからない点が多いと思います。判明した部分についてはこのあとまた取り上げる機会があると思います。このほか昔からドーパミンが統合失調症にかかわっているという説(ドーパミン仮説)がありますが、この関係についてもまだまだわからない点が多く残されています(25)。このブログでも宿題として残しておきましょう。

参照

1)やぶにらみ生物論123: アドレナリンとノルアドレナリン
http://morph.way-nifty.com/grey/2019/03/post-3143.html

2)ドーパミン:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%9F%E3%83%B3

3)K.A. Montagu, Catechol Compounds in Rat Tissues and in Brains of Different Animals. Nature vol.180, pp.244-245 (1957) 
https://www.nature.com/articles/180244a0

4)Kathleen Montagu: 
https://en.wikipedia.org/wiki/Kathleen_Montagu

5)A. Carlsson, M. Lindqvist, T. Magnusson., 3,4-Dihydroxyphenylalanine and 5-Hydroxytryptophan as Reserpine Antagonists., Nature, vol. 180, p.1200 (1957)

6)A. Carlsson et al., On the presence of 3-hydroxytyramine in brain. Science vol. 127, p. 471 (1958)
http://science.sciencemag.org/content/127/3296/471.1.long

7)The novel prize. Avid Carlsson Biographical. 
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2000/carlsson/biographical/

8)1994年 日本国際賞受賞記念講演会 脳におけるドパミンの研究: 過去、現在及び将来
アーヴィド・カールソン博士
http://www.japanprize.jp/data/prize/summary/1994_j.pdf

9)Falck B, Hillarp N-Å, Thieme G, Torp A.,  "Fluorescence of catechol amines and related compounds condensed with formaldehyde" .   J. Histochem. Cytochem. vol. 10 (3): pp. 348–354. doi:10.1177/10.3.348 (1962)

10)Nils-Åke Hillarp
https://en.wikipedia.org/wiki/Nils-%C3%85ke_Hillarp

11)Katsuko KATAOKA, Keisuke SHIMIZU and Junzo OCHI., Fluorescence Histochemical Demonstration of Monoamine-Containing Cells in the Pancreas of the Finch, Uroloncha striatavar. domestica. A Preliminary Study., Arch. histol. jap., Vol. 40, No. 5, pp. 431-433 (1977)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aohc1950/40/5/40_5_431/_pdf

12)Hornykiewicz O. Topography and behaviour of noradrenaline and dopamine (3-hydroxytyramine) in the substantia nigra of normal and Parkinsonian patients.(In German) Wien Klin Wochenschr 1963;75:309-312.

13)Hornykiewicz O. Dopamine (3-hydroxytyramine) and brain function. Pharmacol Rev vol. 18: pp. 925-964. (1966)

14)Oleh Hornykiewicz., Some Thoughts on Memories., The History of Neuroscience in Autobiography. Vol. 4, Ed. L. R. Squire, Academic Press (2004)

15)Missale C, Nash SR, Robinson SW,  Jaber M, Caron MG., Dopamine receptors: from structure to function., Physiol Rev. vol. 78(1): pp. 189-225. (1998)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9457173

16)足立 直子、齋藤 尚亮:  脳科学辞典 Gタンパク質共役型受容体
こちら

17)https://www.statpearls.com/kb/viewarticle/20660/

18)Earl W. Sutherland., Hormon Action (Nobel Lecture), December 11, 1971
https://www.nobelprize.org/uploads/2018/06/sutherland-lecture.pdf

19)https://en.wikipedia.org/wiki/Adenylyl_cyclase

20)https://courses.washington.edu/conj/gprotein/cyclicamp.htm

21)https://en.wikipedia.org/wiki/Protein_kinase_A

22)こちら

23)Neuroinfo Japan  脳神経外科疾患情報ページ
https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/502.html

24)南部篤、知見聡美: ドーパミン神経伝達は、大脳基底核における運動情報伝達と、運動発現に不可欠
-ドーパミンD1受容体を介する情報伝達の消失が、パーキンソン病の「無動」を引き起す-
https://www.nips.ac.jp/release/2015/10/_d1.html

25)有波忠雄 脳科学辞典 ドーパミン仮説(統合失調症)
こちら

| | コメント (0)

2019年3月 7日 (木)

やぶにらみ生物論123: アドレナリンとノルアドレナリン

神経伝達物質のうち、まずアセチルコリンについて前稿で述べましたが(1)、生体内にはその他にも多くの神経伝達物質があります。おおざっぱに分類するとアセチルコリン、モノアミン、アミノ酸、ペプチド、その他ということになりますが(図1)、これから順次みていきましょう。

種類は多くても、これらの神経伝達物質はシナプス小胞に蓄えられ、必要な場合にシナプス間隙に放出され、シナプス後細胞の受容体にトラップされることによって情報伝達を行なうというメカニズムに変わりはありません(図1)。

A


まずモノアミン類ですが、主要な分子はノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、セロトニン、ヒスタミンの5つです。アセチルコリンがコリンの酢酸エステルであるのに対して、これらは水酸基のついているベンゼン環またはインドール環をもつ芳香族で、ローンペアのある窒素を含むアミンです。アセチルコリンの窒素原子は電子を供与できません。ヒスタミンについては後に記すことにします。

A_2


渋谷駅の東口を出て六本木通りを六本木方向に進むと、すぐクロスタワーが見えてきます。クロスタワーの前を通り過ぎて少し歩くと長井薬学記念館というビルがあります。日本薬学会の事務所があるビルですが、この長井という名前は日本の近代薬学の創始者であり、薬学会の初代会頭である長井長義の名にちなんだものです。

長井長義は波乱に満ちたアドレナリン物語の起点となる人物でもあります。上中啓三(図3)は東京大学医学部薬学科に入学し、長井長義の研究室で薬学者としてのスタートを切りました(2)。長井らはエフェドリンの結晶化と構造決定に成功しており、上中もここで有機物質の抽出結晶化の技術をきっちりと身につけることができました。しかも図3に示すようにエフェドリンとアドレナリンの構造は似ており、ほぼ同じ方法で抽出結晶化ができたことが、上中の成功の要因でした。

ちなみにエフェドリンは今でも使われている鎮咳薬で、塩酸エフェドリンやその誘導体が風邪薬によく含まれています。アドレナリンにも鎮咳作用はありますが、医薬品としては主に強心剤として使われます。

A_3


アドレナリンは上中がかかわるよりかなり前にその存在が確認されていましたし(3、4)。1895年にはムーアが血圧上昇作用を持つ副腎抽出物が塩化第二鉄と反応して緑色になるというヴルピアン反応を示すことを確認していました。アルフレッド・ヴルピアン(図3)は19世紀半ばに、副腎が塩化第二鉄で緑色、ヨードで桃色もしくはバラ色を呈することを発見していました。これはカテコール関連物質に特異的な反応で、アドレナリンの同定にも有用でした。

しかし上中が米国の高峰譲吉研究室に留学した頃(1899年)になっても、その構造は明らかになっていませんでした。

当時高峰はタカジアスターゼの製造でパーク・デービス社という大企業とコラボしていて財力があり、9kgという大量の副腎を集めることができたので、上中としては非常に良い条件で仕事を始めることができました(5)。高峰はもともと研究者というよりビジネスマンであり、大学をでたあとしばらく役人をやって、その後現日産化学を設立したりしていました。

アドレナリンの構造決定は世界的な大競争となり、上中-高峰もそこに参入したわけです。米国生化学会の重鎮エイベルもそのひとりで、1899年にはその副腎由来活性因子の名をエピネフリンと命名し、精製と構造決定を試みていましたが、その方法がまずかったので、結局成果は得られませんでした。上中はエイベルのサンプルがヴルパイン反応を示さないことから、それはアドレナリンではないことを確認しました。

上中は渡米翌年の1900年に、はやくも長井研で鍛えた腕で見事にアドレナリンの結晶化に成功し、高峰は世界中の学会で発表を行ないました。そして高峰のスポンサーだったパーク・デービス社は1903年にはアドレナリンを全世界に販売開始しました(5)。

ところが高峰が1922年に亡くなった後、エイベルは高峰らの業績は自分たちの成果を盗んだものだと言い放ち(5、6)、その後100年以上米国と米国の影響が強かった日本ではアドレナリンという名は使われず、エピネフリンが正式名となっていました。日本薬局方でアドレナリンと改正されたのは2006年で、なんと100年以上も間違った名前が使われていました(7)。

上中・高峰の名誉回復のきっかけとなったのは、上中の実験ノートが公開されたことだそうです(8、9)。元岡山大学教授で上中氏と同郷(兵庫県西宮市名塩)の僧侶中山沃氏が、自坊の境内に石碑を建立されています(8、図4)。

上中氏は1916年に帰国しましたが、決してエイベルの中傷でひどい目にあったわけではなく、高峰氏が社長だった第一三共製薬(当時は三共製薬)に入社し、監査役にまで上り詰めるというよい人生だったようです(10)。とはいっても、自動車も走っていない馬車時代に、ホルモンであり神経伝達物質でもあるアドレナリンの精製純化と構造決定をなしとげた上中・高峰が、ノーベル賞の栄誉に浴さなかったというのは残念であり、ノーベル財団の大失敗だったのでしょう。

A_4


アドレナリン(高峰は adrenalin というスペルを用いましたが、現在では adrenaline というスペルが一般的です)はアミノ酸のひとつであるチロシンから合成されます(図5)。ドーパミンやノルアドレナリンは中間生成物ですが、単なる中間生成物ではなく、それぞれ別個の神経細胞で神経伝達物質としての機能を発揮します。

A_5


アドレナリンとノルアドレナリンは細胞ごとに棲み分けている場合も多いですが、機能的には類似しており受容体は共通です。その受容体とはもうこのブログでも何度も登場してお馴染みの、7回膜貫通型3量体Gタンパク質共役型受容体(GPCR=GTP-binding protein-coupled receptor )です(1、11、図6)。アドレナリン・ノルアドレナリンをトラップするGPCRには、α型とβ型の2つのタイプがあり、それぞれがさらにいくつかのサブタイプに分かれています。

A_6

GPCRは生物が発明したタンパク質の中でも最大級に重要なタンパク質であり、「薬のすべてがわかる!薬学まとめ」によると、「医療に用いられている薬の約半数は、直接的もしくは間接的にGPCRを標的としている。世の中にある薬の半分はGPCRが関わっているということである。」・・・だそうです(11)。細胞を家に例えればGPCRはポストに例えられるでしょう。注意すべきは、同じ手紙が投函されても家に住んでいる人(Gタンパク質)によってとる行動は異なるということです。

α型には3量体Gタンパク質のαサブユニットがGqのもの(α1型)とGiのもの(α2型)があり、α1型はアセチルコリン受容体のM1、M3、M5型の場合と同様に、GqがPLC(フォスフォリパーゼC)を活性化し、PLCがイノシトール4,5-ビスリン酸をイノシトール3リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)に分解し、IP3はERからのカルシウム放出、DAGはプロテインキナーゼCを活性化します。これらの反応が筋収縮などの引き金となり、下記のリストのような反応を引き起こします(12)。これらは生物が活発に活動するあるいは戦闘態勢にはいるための準備といえます。

眼: 瞳孔散大筋 収縮
血管平滑筋: 収縮
肝臓: グリコーゲン分解 血糖上昇
膵臓: β細胞 分泌抑制
膀胱: 括約筋 収縮
唾液腺: 粘稠性増加、少量分泌
脂肪細胞:脂肪分解促進

α2型はシナプス前細胞にも存在し、放出されたアドレナリン・ノルアドレナリンをトラップして、これらの情報伝達因子が後細胞や作動細胞にいかないように抑制する役割があります。α2型はアセチルコリン受容体のM2、M4型と同じく、共役するGタンパク質のαサブユニットはGiであり、これはアデニルシクラーゼの活性を阻害してcAMPのレベルを低下させ、cAMP依存性プロテインキナーゼの活性を抑制するほか、グリコーゲンや脂肪の分解を抑制する、心筋を弛緩させる、血小板を活性化するなど、生物が休養・食事・睡眠などを行なうのに適した状態を維持するはたらきがあります(6、12)。

β型は共役するGタンパク質のαサブユニットがGsであり、GsはGiと正反対にアデニルシクラーゼを活性化する作用を持ち、cAMPの濃度を上昇させます。したがってβ型はα2型とは正反対の生理作用をもたらします。心筋を収縮させ、異化代謝を活性化しますが、平滑筋は弛緩させます。腸を動かすのは平滑筋ですが、食事している場合じゃないということでしょうか。β型にもサブタイプがありますが、ここでは述べないことにします。

アドレナリンの特徴は神経伝達物質であると同時に、副腎髄質から分泌されるホルモンでもあるということです。これはあまり好ましいこととは思えませんが、何が起こるかは受容する細胞のGタンパク質によるというメカニズムが優れていて、特に問題は発生しません。

参照

1)やぶにらみ生物論122: アセチルコリンによる神経伝達
http://morph.way-nifty.com/grey/2019/02/post-5a95.html

2)上中啓三:wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E4%B8%AD%E5%95%93%E4%B8%89

3)Vulpian, E.F.A., Note sur quelques reactions propres a la substance des capsules surrenales. Comptes rendus hebsomadarires des seances de

l'academie des sciences, vol.43., pp. 663-665 (1856)

4)Napoleon Cybulski: wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Napoleon_Cybulski

5)山嶋哲盛 アドレナリンの発見と高峰譲吉
https://www.slideshare.net/waii/ss-4357821

6)アドレナリン(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%B3

7)山野ゆきよし メルマガ 「アドレナリン」もう一つの名誉回復
https://blog.goo.ne.jp/yamano4455/e/385f8411bf242d68e525efcb2ef29a4a

8)中山 沃(なかやま そそぐ) 上中啓三のアドレナリン実験ノート
教行寺所蔵となった経緯
http://www.chemistry.or.jp/know/doc/isan002_article.pdf

9)山下愛子 上中啓三 : アドレナリン実験ノート Adrenaline Research Note of Uyenaka Keizo (1900)
https://ci.nii.ac.jp/naid/110007577369

10)三共(株)『三共六十年史』(1960.12) 渋沢社史データベース
https://shashi.shibusawa.or.jp/details_nenpyo.php?sid=3750&query=&class=&d=all&page=14

11)薬のすべてがわかる!薬学まとめ  Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
http://kusuri-yakugaku.com/pharmaceutical-field/pharmacolory/receptor/membrane-receptor/gpcr/

12)管理薬剤師.COM
https://kanri.nkdesk.com/hifuka/sinkei25.php

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2019年2月19日 (火)

やぶにらみ生物論122: アセチルコリンによる神経伝達

前稿(1)でレーヴィとデイルが、迷走神経を刺激して放出された液体によって、カエルの心収縮が抑制されることを見いだし、その活性を持つ物質がアセチルコリンであることを証明したことを記しました。これがはじめての神経伝達物質の発見だったわけです。

現在では数多くの神経伝達物質が報告されていますが、まずアセチルコリンから見ていきましょう。アセチルコリンはコリンとアセチルCoAを材料として、コリンアセチルトランスフェラーゼという酵素によって合成されます(図1)。アセチルCoAは生物が呼吸を行なっている限りミトコンドリアが産生する物質で、通常細胞質に存在します。

コリンはアセチルコリン合成の材料だけではなく、細胞膜の成分でもあり生合成も可能ですが、それでは足りないので栄養として摂取することが必要です。レバー・卵黄・大豆・赤飯用のササゲなどに豊富に含まれています。

A


神経細胞も必要な量のコリンを産生できないので、細胞膜に高親和性トランスポーターという装置を設置して、コリンを外界から取り込んでいます。コリンの取り込みに成功すれば、コリンアセチルトランスフェラーゼは常に十分な活性が存在するので、直ちにアセチルコリンを供給することが可能です(2、図2)。

アセチルコリンは小胞アセチルコリントランスポーターによって、シナプス小胞に取り込まれます(図2)。驚くべき事に小胞アセチルコリントランスポーターの遺伝子は、コリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子のイントロンの中に存在しており、エンハンサーやプロモーターを共有していることが報告されています(3)。

興奮が軸索末端に伝わるとカルシウムが取り込まれ、前稿(1)のようなプロセスを経て、シナプス小胞が細胞膜と融合して中身がシナプス間隙に放出されます。シナプス小胞ひとつにつき1000~50000分子のアセチルコリンが放出されるようです(2)。

A_2

神経伝達に必要なコリンの大部分は細胞外からとりこまれるわけですが、それを実行する細胞膜のコリントランスポーターは長い間謎に包まれた存在であり、全貌が明らかになったのは最近のことです(4)。1990年頃に後述する様々な神経伝達物物質のトランスポーター遺伝子が次々とクローニングされる中で、コリントランスポーターの研究は屍累々の有様でした(5)。

その突破口は思わぬところにありました。1998年にC.エレガンス(線虫)の全ゲノムが解明され、C.エレガンスもコリントランスポーターを持つことから、奥田等は線虫のゲノム塩基配列情報を利用してcDNAの発現クローニングを行なうことにしました。彼らは候補のcDNAをひとつづつアフリカツメガエルの卵母細胞にいれて発現させ、ついにコリントランスポーターの遺伝子をつきとめました(6)。

奥田等は当初高親和性コリントランスポーターは膜12回貫通蛋白質だと考えていたようですが(5)、最近の文献をみると、13回膜貫通蛋白質とされているようです(7、図3)。この場合N末は細胞外、C末は細胞内に突き出していることになります。

コリントランスポーターの構造解明が遅れたのは、これが他の神経伝達物質のトランスポーターとの類似性がなく、意外なことにグルコーストランスポーターと類似していたことに、構造が解明されるまで誰も気が付かなかったことが大きな要因でした(5)。コリンはもともと栄養物質であり、進化の過程で神経伝達物質として流用されたからこのようなことになったのでしょう。

A_3


ここまで述べてきた神経伝達に関与するコリントランスポーターは高親和性トランスポーター(CHT1)のことですが、コリンはフォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、S-アデノシルメチオニンの合成などにも寄与しており、中親和性トランスポーター(CTL1~CTL5)、低親和性トランスポーター(OCT1~OCT2)が知られています(8)。これらのトランスポーターは血液脳関門においても重要な役割を果たしていると思われますが(8)、神経伝達に直接関与してはいないようなので、ここでは文章の脈絡上触れないでおきます。

さてシナプス間隙に放出されたアセチルコリンを、シナプス後細胞や組織の細胞が受け取らなければなりません。シナプス間隙はわずか20~40nmというリボソーム一つ分くらいの距離なので、瞬時に受け取ることができると考えられます。アセチルコリンを受け取るための受容体には大別してムスカリン性受容体とニコチン性受容体の2種類があります。前者はムスカリン、後者はニコチンがアセチルコリンのアゴニストとして機能します(9、図4)。化学式をみるとニコチンはアセチルコリンとは似ても似つかない化合物ですが、立体構造が似ているのかアゴニストとして作用します。

A_4


ムスカリン性アセチルコチン受容体には5つのサブタイプがあり、それぞれM1~M5と命名されています。組織によって主に存在するサブタイプに違いがあります(10)。また組織によって作用が異なります。図5に一覧を示しました。

ムスカリン性アセチルコチン受容体は、7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体(GPCR=G protein-coupled receptor)であり(11)、主に副交感神経の活動に関与しています。リガンドを受け取ると、細胞内ドメインに結合している3量体Gタンパク質(αβγ)を解離することによってその役割を果たします。結合している3量体Gタンパク質のαサブユニットには2つのタイプがあり、その違いによってM1、M3、M5が持つG蛋白質はGq型、M2、M4が持つG蛋白質はGi型とよばれます(9、図5)。

A_5


アセチルコリンまたはムスカリンが受容体に結合すると、Gq型の場合受容体に結合していた3量体G蛋白質がα と β+γ に解離し、GDPと結合していた α はGDPと解離してGTPと結合します。GTPと結合したα (Gq型α-GTP)はフォスフォリパーゼCを活性化します。この酵素の作用によって、フォスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸がジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール3リン酸(IP3)に分解され、DAGはプロテインキナーゼCを活性化し、各種のタンパク質のリン酸化が促進されます。またIP3は小胞体のIP3受容体に結合して、細胞質にカルシウムを放出させます(12、図6)。

A_6

Gi型の場合、αサブユニットがGTPと結合するところまでは同じですが、Gi型α-GTPはアデニルシクラーゼ活性を阻害し、ATPからサイクリックAMP(cAMP)が合成される反応を抑制します。この結果cAMPプロテインキナーゼの活性が抑制され、様々なタンパク質のリン酸化が抑制されます(13、14、図7)。ですから図5のM2、M4の場合など、筋収縮やさまざまな異化的代謝を抑制するなど、生物が休養・食事・睡眠などをとるのに適した働きをします。

A_7

ニコチン性アセチルコリン受容体はムスカリン性のものと全く違って、Gタンパク質共役受容体(GPCR)ではなく、受容体そのものがイオンチャネルです。ニコチン性アセチルコリン受容体にも3つの型がありますが・・・(筋肉型(NM) : 神経筋接合部に分布、末梢神経型(NN):自律神経節、副腎髄質に分布、中枢神経型(CNS):シナプスに分布、9)・・・それらの3つの型は、Gq型とGi型のようにメカニズムが異なるわけではなく、リガンドの結合によってチャネルが開くというメカニズムに変わりはありません。

ニコチン性アセチルコリン受容体の構造は、宮澤らによる極低温高分解能電子顕微鏡を用いた研究によって解明されました(15、16、図8)。この分子は(α、α、β、γ or ε、δ)の5つのサブユニットからなり、それらが環状に配置されてイオンチャネルを形成しています。それぞれのサブユニットは細胞膜を1回貫通しています。

A_8


アセチルコリンまたはニコチンが受容体に結合すると、受容体のサブユニットがアロステリックな構造変化を起こしてイオンチャネルが開放されます(15、16)。このチャネルは、カチオンでありサイズが大きすぎなければ非選択的にイオンを通過させます。したがってリガンドが結合するとチャネルが開放され、ナトリウムやカリウムが細胞内に流入し、ただちに活動電位が発生します。

A_9


参照

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2019/02/post-e2ed.html

2)脳科学辞典 アセチルコリン
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%82%BB%E3%83%81%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%B3

3)Lee E. Eiden.,The Cholinergic Gene Locus., Journal of Neurochemistry., vo.70, no.6, pp. 2227-2240 (1998)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9603187

4)Takashi Okuda et al., Transmembrane Topology and Oligomeric Structure of the High-affinity Choline Transporter., J. Biol. Chem., vol.287, no.51., pp. 42826-42834 (2012)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3522279/

5)奥田隆志、芳賀達也: 高親和性コリントランスポーター -ゲノム情報を利用したクローニング-
蛋白質 核酸 酵素 45巻 10号 pp 1722-1727 (2000)

6)Takashi Okuda et al.,  Identification and characterization of the high-affinity choline transporter., Nature Neuroscience, vol. 3, pp. 120-125 (2000)

7)Haga, T., Molecular properties of the high-affinity choline transporter CHT1.,  J. Biochem. vol. 156(4): pp. 181–194  (2014) doi:10.1093/jb/mvu047
https://www.researchgate.net/publication/264390083_Molecular_properties_of_the_high-affinity_choline_transporter_CHT1

8)岩尾 紅子、稲津 正人: 血液脳関門におけるコリントランスポーターの機能発現 Functional expression of choline transporters in blood-brain barrier., 東大医誌 vo.75 (1), pp. 74-77 (2017)

9)アセチルコチン受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%BB%E3%83%81%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

10)Brian Piper: Muscarinic agonists and antagonists (2012)
https://www.slideshare.net/bpiper74/muscarinic-agonists-andantagonists

11)Kubo T. et al., Cloning, sequencing and expression of complementary DNA encoding the muscarinic acetylcholine receptor. Nature vol. 323: pp. 411-416.   (1986)
https://www.nature.com/articles/323411a0

12)https://ja.wikipedia.org/wiki/G%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/G%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

14)https://www.jst.go.jp/pr/announce/20060623/zu1.html

15)Miyazawa A, Fujiyoshi Y, Unwin N., Structure and gating mechanism of the acetylcholine receptor pore. Nature. 2003 Jun 26;423(6943):949-55.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12827192

16)宮澤淳夫、藤吉好則: ニコチン性アセチルコリン受容体の構造と機能 蛋白質 核酸 酵素 col.49 no.1 pp. 1-10 (2004)
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.phpyear=2004&number=4901&file=mndiLGM3FM1ZjMmfEFUUKA==


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2019年2月 5日 (火)

やぶにらみ生物論121: 化学シナプスの発見とカルシウムチャネル

シナプスといえば、通常は図1のような化学シナプスを意味しますが、広義では前稿(1)のようなギャップ結合も含まれます。この様な場合、ギャップ結合は電気シナプス、軸索先端と樹状突起・筋肉などが接する通常のシナプスは化学シナプスと呼ばれることになります。ギャップ結合ではイオンや電子は細胞間のトンネルを拡散によってダイレクトに往来しますが、化学シナプスでは細胞と細胞で神経伝達物質を受け渡しするという複雑なプロセスを経て情報が伝わります。

心臓の拍動のように生まれてから死ぬまで同じことをやっているのなら、ギャップ結合での伝達で大丈夫かもしれませんが、その心臓にしても運動すれば拍動を増やさなければなりません。そしてやめれば元に戻す必要があります。睡眠時・冬眠時には拍動は低下します。新たな記憶を蓄積し、日々中身が変化していく脳では、とてもギャップ結合だけではやっていけません。

A

化学シナプスの存在を予言したのはカハール(図1)で、その後デ・ロバーティスやパラーデの電子顕微鏡を用いた研究によってその実在が形態学的に証明されました(2)。さらにシナプスにおける情報伝達が、なんらかの水溶性化学物質で行なわれていることを証明したのはオットー・レーヴィです(図2)。

レーヴィはストラスブルク大学の医学部を卒業後いったん臨床医になりましたが、あまりに多くの患者の死を見て自分が無力であることを思い知らされ、臨床医をやめて基礎医学を志しました(3)。

彼はユダヤ系のドイツ人ですが、1902年にオーストリアのグラーツ大学に職を得て、そこで図2の重要な実験を行ない、1921年に発表しました。彼は2匹のカエルから心臓を取り出し、片方には迷走神経をつけたまま、片方は迷走神経を取り除いた状態にしました。両者ともリンゲル液(ナトリウム、カリウム、カルシウムを含む生理食塩水)に浸し、迷走神経に電気刺激を与えると心臓の拍動が低下しました。そしてそのときに心臓をひたしていた液を吸い取り、別のリンゲル液に浸しておいた迷走神経を除去した心臓に滴下するとやはり心臓の拍動が低下することを発見しました。

A_2

レーヴィの実験結果は、迷走神経の刺激によってリンゲル液に溶け出した水溶性の化学物質に、心臓の拍動を低下させる活性があることを意味します。後にこの物質はデイルによってアセチルコリンであることが証明されました。神経伝達物質の発見です。これらの業績によってレーヴィとデイル(図2)は1936年のノーベル生理学医学賞を受賞しました(4)。

レーヴィは運の良い人で、彼の実験は迷走神経の働きが活発な冬のカエルを用いた場合だけ再現できることがあとで分かりました(5)。夏に実験していたらこの発見はなかったことでしょう。

その運の良いはずのレーヴィはその後とんでもない不運に遭遇します。ノーベル賞受賞の2年後にドイツ軍がオーストリアに侵攻し、レーヴィは逮捕されてポストや財産をすべて剥奪されることになりました。しかしなんとか収容所送りは免れ、米国に亡命して1961年に亡くなるまでニューヨークで暮らしました。

バーナード・カッツ(図3)もオットー・レーヴィと同じくユダヤ系のドイツ人でしたが、彼はライプチッヒ大学の医学部を1934年に卒業すると、いちはやく英国に実質亡命し、ロンドン大学で研究を行ないました(6)。その後オーストラリアに移住し、シドニーでエクレスとカフラーという共同研究を得ました。カッツは彼らと共に、アセチルコリンエステラーゼの阻害剤であるエゼリンを用いた実験で、筋収縮が神経筋接合部からの電気刺激によって直接おこるのではなく、神経筋接合部(シナプス)での神経伝達物質の作用によって間接的に活動電位が発生することを示し、レーヴィとデイルの理論を実証しました(7、8)。

カッツはその後オーストラリア国籍を獲得し、第二次世界大戦中はオーストラリア空軍に入隊しました。ニューギニアで航空管制部隊の将校として、日本航空部隊によるポートモレスビーやダーウィン攻撃をレーダーで監視していたようです。戦後ロンドンに戻って研究に復帰しました(8)。

カッツの最大の業績はシナプス前細胞において、神経伝達物質が袋に包まれて保管されており、それが袋単位で膜から放出されてシナプス後細胞を興奮させる役割を持っていることを示したことです(9、10)。文献10にはシナプス前細胞に多数のシナプス小胞が存在することを示す電子顕微鏡写真が掲載されています。カッツのアイデアはその後多くの研究者によって実証され、図3のようなシナプスの模式図が描かれるようになりました。カッツは1970年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。

A_3


ニューロン軸索での電気的情報移動は主としてナトリウムチャネルの働きによるものですが、ニューロン末端での化学的情報移動においては主役がカルシウムチャネルに変わります。このメカニズムはウィキペディアで簡潔にまとめてあるので、コピペしておきます(11)。

1.前シナプス細胞の軸索を活動電位が伝わり、末端にある膨らみであるシナプス小頭に到達する。
2.活動電位によりシナプス小頭の膜上に位置する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開く。
3.するとカルシウムイオンがシナプス内に流入し、シナプス小胞が細胞膜に接して神経伝達物質が細胞外に開口放出される。
4.神経伝達物質はシナプス間隙を拡散し、後シナプス細胞の細胞膜上に分布する神経伝達物質受容体に結合する。
5.後シナプス細胞のイオンチャネルが開き、細胞膜内外の電位差が変化する。

図3で興味深いのは、シナプス間隙に放出された神経伝達物質のうち、シナプス後細胞にトラップされなかった余剰分子は、シナプス前細胞の自己受容体や能動的再吸収で回収されるという機構の存在です。これは単にもったいないから再利用しようというだけでなく、拡散によって周囲のニューロンに影響を与えるとノイズになってしまうからだと思われます。

カルシウムは昔から筋収縮に必要であることは知られていました。このあたりの話は江橋節郎の自伝にいろんなエピソードが書かれてあり、楽しく読ませていただきました(12)。そのなかでリンゲル液で有名なリンゲルが、早くも1883年に筋収縮にカルシウムが必要であることを示す実験をやっていたことが書いてあります。またポツラーがカルシウムキレート剤によって筋肉が弛緩することを発見したとも記されてあります。

細胞内のカルシウムイオン濃度は通常10の-8乗から-7乗モルという非常に低い濃度ですが、血清中の濃度は10の-3乗モルという高濃度であり、この著しい濃度差をカルシウムチャネルが維持しているわけです(13)。活動電位が神経末端に到達すると、カルシウムチャネルが開いて一気にカルシウムが細胞内に流入するわけです。この電位依存性カルシウムチャネルの構造は、ウィリアム・キャテラルらが中心となって解明しました(14、図4、図5)。

骨格筋のカルシウムチャネルはα1、α2、β、γ、δ の5つのサブユニットからなり、α2とδはSS結合で共有結合しています。カルシウムの通り道となるチャネル自体は膜貫通α1サブユニットにより形成され、δ は細胞外、β は細胞内にあります。このほか膜を貫通するα2とγ がα1に隣接しています(図4)。

A_4


α1サブユニットは6回づつ膜を貫通するドメインを4つ持つ、アミノ酸の数約2000で分子量190キロダルトンの巨大タンパク質です(図5)。β サブユニットとγ サブユニットはどちらも4つのαヘリックス部位を持っていますが、γ が膜を4回貫通しているのに対して、β は一度も貫通せず、細胞内に存在します(図5)。脳神経系におけるカルシウムチャネルの構造もこれに類似していますが、γ  サブユニットについてはチャネルに含まれるかどうかまだ議論があるようです(14)。

A_7

β サブユニットやα1サブユニットの細胞内領域は神経伝達物質の放出制御、シナプス小胞の移動、遺伝子発現の調節などに関与しているとされています。例えばβサブユニットはRIM1という足場タンパク質と結合し、RIM1がシナプス小胞のタンパク質Rab3に結合することが報告されています(15)。このことはカルシウムチャネル複合体が、シナプス小胞を膜近傍に引き寄せる働きを持っていることを示唆しています。シナプス小胞が膜に接近すれば、エキソサイトーシス機構によって神経伝達物質がシナプス間隙に放出されます(図6)

A_8


図7はシナプス前後細胞の電子顕微鏡写真です(16)。シナプス前細胞に多数のシナプス小胞が蓄積されていることがわかります。シナプス後細胞のシナプス側には非常に電子密度の高い部分がありますが、これは神経伝達物質を受け取り、細胞内に取り込む機構が集積しているためと思われます(図7)

A_9


図7は神経と神経の接合部ですが、図8は神経と筋肉の接合部です。同じシナプスですが、その構造には違いがあります。左の電子顕微鏡写真をみると筋細胞のシナプス領域には、効率よく神経伝達物質をトラップするためと思われる多数のひだがみられます(図8)。神経伝達物質が取り込まれることによって、ナトリウムチャネルが開いて活動電位が発生し、筋収縮の引き金が引かれます(17)。

A_10


参照

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2019/01/post-b533.html

2)http://morph.way-nifty.com/grey/2018/04/post-a2b0.html

3)ウィキペディア:オットー・レーヴィ
https://en.wikipedia.org/wiki/Otto_Loewi

4)Otto Loewi, Novel lecture: The Chemical Transmission of Nerve Action.
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1936/loewi/lecture/

5)Elliot S. Valenstein, The Discovery of Chemical Neurotransmitters., Brain and Cognition vol. 49, pp. 73–95 (2002)
doi:10.1006/brcg.2001.1487
https://pdfs.semanticscholar.org/f7ba/4a5c744019d8e93347a9a04991d8d729a2f7.pdf#search=%27Walter+Dixon

+neurotransmitter%27

6)Sir Bernard Katz, Biographical
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1970/katz/biographical/

7)JC Eccles, B Katz, and SW Kuffler., Effect of eserine on neuromuscular transmission. J. Neurophys., vol.5, no.3, pp. 211-230

(1942)
https://www.physiology.org/doi/abs/10.1152/jn.1942.5.3.211?journalCode=jn

8)Bert Sakmann, Sir Bernard Katz: 26 March 1911 - 20 April 2003., Biogr Mem Fellows R Soc. vol. 53., pp. 185-202. (2007)
https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rsbm.2007.0013

9)J del Castillo and B Katz., La base ‘quantale’ de la transmission neuromusculaire. Colloques Int. C.N.R.S. vol. 67, pp. 245–

256. (1957)

10)R. Birks, H. E. Huxley, and B. Katz., The fine structure of the neuromuscular junction of the frog., J Physiol., vol. 150(1):

pp. 134–144. (1960)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1363152/pdf/jphysiol01288-0154.pdf

11)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9

12)江橋 節郎: カルシウムと私
http://brh.co.jp/s_library/interview/12/

13)千勝典子、松本俊夫: カルシウム代謝とその調節
http://www.nara-gyunyuya.com/contents/ca/15.htm

14)William A. Catterall、Voltage-Gated Calcium Channels., Cold Spring Harb Perspect Biol 2011;3:a003947 (2011)
doi: 10.1101/cshperspect.a003947
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3140680/pdf/cshperspect-CAL-a003947.pdf

15)清中茂樹,瓜生幸嗣,三木崇史,森泰生、神経伝達物質放出におけるCa2+チャネル複合体形成の生理的意義
生化学 第80巻 7号 pp.658-661 (2008) 
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-07-08.pdf

16)Zacharie Taoufiq, OIST2013
https://www.oist.jp/ja/news-center/photos/11850

17)Neuromuscular junction (wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Neuromuscular_junction

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2019年1月12日 (土)

やぶにらみ生物論120: ギャップ結合チャネル

多細胞生物が出現したのはいつなのかはわかりませんが、単細胞生物が多細胞になるためには、ともかく細胞分裂がおこったときに2つの娘細胞が離れないでくっついているためのメカニズムを構築することが重要でした。その上で生殖細胞を分化させ、生殖細胞は本体から分離しなければなりません。

細胞を接着させる機構は、図1に示すようにいくつかあってそれぞれ特徴がありますが(1)、ここでは興奮の伝達というブログの流れから、ギャップ結合とその構成要素であるコネクシンに着目します。図1・図2にみられるようにギャップ結合部位にはトンネルがあって、分子量約1000以下の水溶性低分子はここから隣接した細胞に移動することが可能です。

A


ギャップ結合の構造は1967年にレベルとカルノウスキーによって発見されました(2)。 この構造にギャップ結合(Gap junction)という名前を与えたのは、ブライトマンとリーゼとされています(3)。これが細胞と細胞を結ぶトンネル様の構造であることは、X線解析や電子顕微鏡観察によって1970年代に明らかにされました(4)。また構成タンパク質であるコネクシンも報告されました(5)

細胞興奮(アクションポテンシャル)の本質はイオンの移動ですから、このトンネルを通してイオンが移動すれば興奮も隣の細胞に移動します。神経伝達の基本はシナプスですが、これはいったん細胞から出たシグナル分子が隣接細胞のレセプターを介して情報の受け渡しをおこなうプロセスであり、制御可能で正確な伝達ではあっても時間を要します。

これに対して、たとえば心臓のように多くの細胞が常時連動して興奮すべき器官では、関連する細胞がギャップ結合で連結していて、イオンや電子が直接移動することによって興奮の伝達を行なうことができれば、非常に効率的です。ギャップ結合はこのような目的にふさわしい構造です。

図2にギャップ結合の大まかな構造を示します。トンネル部分を分子が通過することからギャップ結合チャネルとも言われます。チャネルとは水路という意味です。6分子のコネクシンというタンパク質が集合してパイプのような構造を形成し細胞膜を貫通します(6)。この6量体をコネクソンといいます。

A_2


コネクソンは隣接細胞のコネクソンと結合してギャップ結合チャネルを形成します(図2)。ギャップ結合チャネルは細胞と細胞を接着させる機能と、細胞から細胞への分子量約1000以下の分子の移動をサポートするというふたつの機能を持っています。他の細胞接着構造は細胞間の分子移動をサポートしていません(図1)。

ヒトやマウスにはそれぞれ20のコネクシン遺伝子があり、それに対応して20種のタンパク質がコネクシンとして機能しています。同じタンパク質6個が集合してコネクソンを形成することもあれば(ホモマー)、別種のタンパク質が集合してコネクソンを形成することもあります(ヘテロマー)(図3)。ホモマーのコネクソン同士が結合してギャップ結合チャネルを形成することもあれば、ヘテロマーとホモマー、ヘテロマーとヘテロマーという組み合わせの場合もあります(7、図3)。

A_3

図4にギャップ結合の電子顕微鏡写真を示します(8、東京医科歯科大学講義資料より)。細胞と細胞の間には通常10~20nmくらいの隙間があるのですが、ギャップ結合部位では2~4nmに狭まっており、多数のギャップ結合チャネルが存在して留め金のように細胞と細胞を接着させています(9)。

A_4

前田らはギャップ結合を構成しているコネクシンが電位の変化によって分子構造を変化させ、チャネルを閉鎖できることを示しました(10、11、図5)。このことによってギャップ結合を介した興奮伝達も、アクションポテンシャルのように一過性であることが可能になります。

A_5


随意筋である骨格筋は数千個の筋細胞が融合してできたシンシチウム(多核細胞体)であり、ひとつのニューロンのアクションポテンシャルがシナプスを介してシンシチウムに伝えられると、このひとつのシグナルによって数千個の細胞に相当するシンシチウムが統合された筋収縮を行なうことができます(12)。

一方不随意筋からなる心臓は個々の細胞が個別に連携して筋収縮を行なう必要があります。19世紀には心臓の収縮は神経によって支配されるという神経原説と、心臓自体に自動収縮能があるという筋原説が対立していましたが、エンゲルマン(図6)はカエルの心筋を分断しても、ごく一部の筋束で繋がっていれば分断された双方が同調して収縮することから、筋原説を提唱しました(13)。

A_6


田原(図6)は心臓の刺激伝達系を詳しく解析し、刺激は房室結節に発し、房室束からプルキンエ線維に伝えられて心臓全体が動くことを示しました(14、図7)。田原の発表の翌年には、房室結節の上流に洞房結節という組織があり、ここがシグナルの源泉すなわちペースメーカーであることがキースとフラックによって発見されました(15、図6、図7)。田原としては大魚を逸したということで、大変残念だったことと思います。

A_7


前記したようにコネクシン(コネキシン)には多くの種類があり、それぞれトンネルのサイズや特異性、どのくらいの電位差で開閉するかなどに違いがあります。図7のようにそれぞれが組織特異的に分布しています(16)。心臓の中でも部位によって各分子の局在が異なります。いずれにしても神経によって直接活動が制御されていない心臓の活動は、ギャップ結合チャネルによって統合されることによって秩序のある収縮が行なわれていると考えられています。

無脊椎動物にもコネクシンに相当するタンパク質は存在し、イネクシンと呼ばれています。しかしイネクシンが分子進化によってコネクシンができたわけではなく、脊索動物が持つコネクシンは別系統の4回膜貫通タンパク質から進化したと考えられています(17、図8)。

脊索動物にはコネクシン以外に、イネクシンに近縁のパネクシンというタンパク質が存在し、これはカエルなどではギャップ結合チャネルをつくりますが、哺乳類ではつくりません。では何をやっているかというと、細胞と外界とを結ぶ膜チャネルとして機能しています。コネクシンも連結するコネクソンがない場合、膜チャンネルをつくることもあります(17)

A_8


ギャップ結合チャネルには興奮の伝達以外にも重要な働きがあることが知られています。ある細胞にある化学物質が情報を伝えたとします。その情報を核に伝えるシグナル因子がつくられた際に、その細胞とギャップ結合をしている細胞にはそのシグナル因子が伝わり、同じ遺伝情報が発現されることになります。

このことは生物がその発生過程のなかである臓器を作る場合、ギャップ結合でつながっている細胞群がその臓器に分化し、つながっていない細胞群は別の臓器に分化することを意味します(17)。ですからギャップ結合チャネルは多細胞生物が形態形成をおこなう上で有意義なツールだと言えるでしょう。


参照

1)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E6%8E%A5%E7%9D%80

2)J. P. Revel, M. J. Karnovsky., Hexagonal array of subunits in intercellular junctions of the mouse heart and liver. J. Cell Biol., vol.33 C7-C12 (1967)

3)M.W. Brightman and T.S. Reese., Junctions between intimately apposed cell membranes in the vertebrate brain. J. Cell Biol., vol.40,  pp.648- 677 (1969)

4)J.C. Saez et al., Plasma membrane channels formed by connexins: Their regularion and functions. Physiol. Rev., vol. 83., pp. 1359-1400 (2003)
https://www.physiology.org/doi/pdf/10.1152/physrev.00007.2003

5)Daniel A. Goodenough., Bulk isolation of mouse hepatocyte gap junctions. Characterization of the principal protein, connexin., J Cell Biol. vol.61(2): pp. 557–563. (1974)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2109294/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2109294/pdf/557.pdf

6)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%8D%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%B3

7)Gulistan Mese, Gabriele Richard and Thomas W. White., Gap Junctions: Basic Structure and Function., J. Invest. Dermatol., vol. 127, pp. 2516–2524 (2007); doi:10.1038/sj.jid.5700770

8)東京医科歯科大学講義資料 細胞膜
http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/pdf/cellmemb.pdf

9)https://en.wikipedia.org/wiki/Gap_junction

10)Shoji Maeda, So Nakagawa, Michihiro Suga, Eiki Yamashita, Atsunori Oshima, Yoshinori Fujiyoshi & Tomitake Tsukihara., Structure of the connexin 26 gap junction channel at 3.5 A resolution
Nature 458, 597-602 (2009)
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/achievement/papers/connexin-26-gap-junction-channel-structure
http://ipr.pdbj.org/eprots/index_ja.cgi?PDB%3A2zw3

11)前田将司 ギャップ結合チャネルの構造基盤 日本結晶学会雑誌 52巻 第1号 pp.25~30、(2010)

12)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E8%83%9E%E4%BD%93

13)https://en.wikipedia.org/wiki/Theodor_Wilhelm_Engelmann

14)Tawara S : Das Reizleitungssystem des Saeugertierherzens. Eine Anatomisch-Histologische Studie ueber das
Atrioventrikularbuendel und die Purkinjeschen Faeden. Gustav Fischer Jena, (1906).

15). Keith A, Flack M., The form and nature of the muscular connections between the pri-mary divisions of the vertebrate heart. J Anat Physiol, vol. 41, pp. 172–189. (1907)

16)九州大学学術情報リポジトリ 柴田洋三郎 「ギャップ結合:コネキシン分子の多様な発現 : 『田
原結節』の分子解剖学」 (2010)
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/16985/fam101-1_p001.pdf

17)Eric C. Beyer and Viviana M. Berthoud., Gap junction gene and protein families: Connexins, innexins, and pannexins., Biochim Biophys Acta., vol. 1860(1), pp. 5–8. (2018)  doi:10.1016/j.bbamem.2017.05.016.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28559187
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5704981/pdf/nihms885096.pdf

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年12月15日 (土)

やぶにらみ生物論119: 跳躍伝導

生物にとって神経の伝達速度を上げると、他の生命体より早く知覚し早く行動することができるので、生存にとって明らかに有利です。また周囲からの干渉を遮断・絶縁することや漏電を防ぐことも、正確な伝達には必要なことでしょう。脊椎動物はそのためにミエリン鞘(髄鞘)という神経を被覆する組織を獲得しました(1、図1)。ただし脊椎動物の専売特許ではなく、脳科学辞典によるとエビやミミズも類似した組織を持っているようです(1)。

ミエリン鞘は軸索を完全に被っているわけではなく切れ目があって、その部分をランヴィエ絞輪とよびます(図1)。ミエリン鞘とランヴィエ絞輪はそれぞれルドルフ・フィルヒョウ(2、図1)とルイ・ランヴィエ(3、図1)によって19世紀に発見されました。

すべての神経にミエリン鞘やランヴィエ絞輪があるのではなく、有髄神経に限って存在します(1)。無髄神経では、たとえば皮膚の痛覚神経では伝達速度は1m/秒くらいですが、同じ皮膚でも有髄神経の触覚神経では50m/秒と著しくアドバンテージがあります。伝達速度は有髄・無髄の差以外に、神経線維の太さが関係します(4)。イカの巨大軸索は直径が1mmくらいあり、伝達速度は30m/秒と、無髄神経であるにもかかわらず脊椎動物の有髄神経にも匹敵する高速伝達を行ないます。

A


ミエリン鞘の実体は末梢神経系ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイトです。シュワン細胞は毛布のような細胞で、軸索に巻き付いています(図2)。オリゴデンドロサイトについては後述します。これらの細胞が何重にも巻き付くことによってミエリン鞘が形成され、有髄神経ができあがります(図2)。ミエリン鞘の一番外側の部分を神経鞘ともいいます。断面をみればミエリン鞘の多層構造がよくわかりますが、これらの層はすべて同じ細胞で連続しています(図2)。

毛布がきちんとたたまれてはがれないようにするためには、高度に硫酸化された糖鎖を持つP0(ピーゼロ)というタンパク質が必要だとされています(5)。ミエリン鞘は単に電源コードのシールドのようなものではなく、神経細胞とさまざまな相互作用を行なって、神経細胞を健全に保つためにも有用であるようです(6)。

A_2


さて今回のテーマは跳躍伝導ですが、これを理解するためにはコンデンサというものを理解する必要があるようです。ウィキペディアにはいろいろなコンデンサを並べた写真がでていました(7、図3)。世界で年間に2兆個も制作されているとのことです。

村田製作所のサイトによると、コンデンサは 1)電圧を安定させる、2)ノイズを取り除く、3)信号を取り出すなどの用途に用いられます(8)。要するに充電式電池のようなものですが、電池が化学式で書けるような化学変化すなわち分子の変化を基盤としているのに対して、コンデンサは分子の整列や分子内での構造変化を基盤とするものです。生物はみずから体内にコンデンサの役割を果たす組織を制作・設置し、神経伝達に使っています。

A_3


コンデンサは絶縁体の両側を2枚の金属板ではさんだような構造になっています(8-10、図4A)。ここに電池を使って電圧をかけると、2枚の金属板にはそれぞれ+および-の荷電が蓄積します(図4充電)。このとき絶縁体内部でも非通電時にはランダムだった分子の並びが整列した状態になり、各分子の内部でも電子密度が偏った状態になります(9)。この状態は電池をはずしても変わりません(図4B、蓄電)。ところが導線を電池の代わりに電球につなぐと、ここに電流が発生し、電球は点灯します(図4C、放電)。

電球が点灯してエネルギーが消費されると、コンデンサにおける金属板の帯電と絶縁体での分子の状態がもとのランダムな状態にもどります(図4A)。ここでまた電池をつなぐと再び充電されます。

図4をよく見ていただくと、絶縁体があるにもかかわらず、あたかも充電時には電池プラス極→導線→金属板→絶縁体→金属板→導線→電池マイナス極、放電時には電球→導線→金属板→絶縁体→金属板→導線→電球と逆回りに電流が流れているような状況が生まれます。

A_4


神経細胞の軸索は図5のようにミエリン鞘で被われており、その切れ目にランヴィエ絞輪があります。このどの部分がコンデンサかというと、それはミエリン鞘と軸索の細胞膜がそれに当たります(図5)。

ランヴィエ絞輪には多数のナトリウムチャネルが集中していて、これがいわば図4の電池のような役割を果たしているわけです。ここに刺激がきて一時的にチャネルがフリーパス状態になると、ナトリウムイオンが軸索に流れ込み、これらはミエリン鞘に被われた部分のマイナスチャージにひかれて移動し、電流が流れます。一方外側はナトリウムイオンが減少するので、ミエリン鞘の外側からランヴィエ絞輪の方向に電流が流れます。神経標本の周囲の電解液が導線の役割を果たします。

電流が隣のランヴィエ絞輪に届くと、隣のランヴィエ絞輪のナトリウムチャネルが開放されます。このようにランヴィエ絞輪から隣のランヴィエ絞輪へと刺激は伝達されます。ランヴィエ絞輪につつまれた部分の軸索には、ほとんどナトリウムチャネルはありません。つまりチャネルの開放部位が順次軸索内でドミノ倒しのように移動しなくても、ランヴィエ絞輪単位でステップワイズに(飛び飛びに)神経伝達が行なわれます。これが跳躍伝導です。このシステムによって、有髄神経は前述のような桁違いの高速伝達を可能にしました。

A_5


慶應義塾大学の田崎一二らは第二次世界大戦前に、図6に記したような方法などで、実際にミエリン鞘というコンデンサから発生する電流を測定し、跳躍伝導を証明しました(図6)。

杉晴夫によると(9)、第二次世界大戦中に彼らが論文をドイツの雑誌に投稿したところ、ベルリンが廃墟になっているにもかかわらず、ちゃんと雑誌に印刷発表されたそうです(10、11)。日本ではほとんどの学術雑誌は戦争で休刊せざるを得なくなりました。図6は簡略化したものなので、詳細を知りたい方は文献10、11をあたってください。

田崎一二の業績も含めて、跳躍伝導などについてはすでにやぶにらみ生物論102でも述べていますが(12)、記述が足りなかったのであらためて仕切り直しました。重複する部分が発生しましたがご容赦下さい。田崎一二は戦後まもなく渡米し、米国に帰化して97才までNIHで働いていました。これはNIHのレコードだそうです(13)。

A_6


イカなどは巨大神経線維をつくって神経伝導の速度をはやめましたが、脊椎動物は有髄神経による跳躍伝導のシステムをつくることによって、細い神経線維でも高速な伝達速度を確保することに成功しました。このことは脳を発達させる上で非常に重要なエポックだったと思われます(9)。なぜなら脳にそんな太い神経が鎮座すると、脳に多くの情報を詰め込むための容量が損なわれてしまいます。

脳ではシュワン細胞に代わって、オリゴデンドロサイトというグループのグリア細胞がミエリン鞘を形成します(14、15、図7)。ひとつのオリゴデンドロサイトがいくつもの軸索のミエリン鞘をかけもちするところが、末梢でのシュワン細胞とは違うところです(図7)。

A_7


参照

1)http://humancell.blog.jp/archives/%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%AF%E3%83%B3%E7%B4%B0%E8%83%9E.html

2)https://en.wikipedia.org/wiki/Rudolf_Virchow

3)https://en.wikipedia.org/wiki/Louis-Antoine_Ranvier

4)神経線維の信号伝達のスピード
http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/12/index-12.html

5)T. Yoshimura et al., GlcNAc6ST-1 regulates sulfation of N-glycans and myelination in the peripheral nervous system., Scientific Reports vol. 7, Article number: 42257 (2017)
https://www.nature.com/articles/srep42257

6)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB

%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E7%97%85

7)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B5

8)村田製作所 コンデンサとは?
https://www.murata.com/ja-jp/campaign/ads/japan/elekids/compo/capacitor

9)杉晴夫 「生体電気信号とはなにか」 講談社ブルーバックス (2006)

10)Ichiji Tasaki und Taiji Takeuchi, Der am Ranvierschen Knoten entstehende hktionsstrom und seine Bedeutung fiir die Erregungsleitung., Pflügers Archive vol.244, pp. 696- (1941)
https://link.springer.com/article/10.1007%2FBF01755414

11)Ichiji Tasaki und Taiji Takeuchi, Weitere Studien über den Aktionsstrom der markhaltigen Nervenfaser und über die elektrosaltatorisehe Übertragung des Nervenimpulses.,  Pflügers

Archive., vol. 245, pp. 764-782 (1942)
https://science.nichd.nih.gov/.../Myelinated_nerve_fiber.pdf

12)http://morph.way-nifty.com/grey/2018/04/post-a2b0.html

13)NIH record - mile stones - Biophysicist Tasaki Leaves Extraordinary Scientific Legacy
https://nihrecord.nih.gov/newsletters/2009/02_20_2009/milestones.htm

14)https://en.wikipedia.org/wiki/Oligodendrocyte

15)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%AB%84%E9%9E%98

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧