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2018年7月 9日 (月)

やぶにらみ生物論108: 視覚の進化

前稿では視覚の生化学的基盤について述べました(1)。光が当たることによってロドプシン分子が構造変化し、それが引き金となってイオンチャンネルの開閉が行なわれ、脱分極や過分極によって発生する電気信号が視覚の基盤となります。この原理はあらゆる動物で変わりません。一方受光するための装置はカンブリア紀がはじまる頃から、様々な形で進化してきました。まず Michael  F. Land (図1)の説(2)にしたがって、眼の進化をみていきましょう。図1は原図を省略表示し、改変し、日本語化しました。

図1の系統樹の根元にある扁形動物は、数億年の昔からこの地球に生きているにもかかわらず、視覚は最小限のままで特に発達させることはありませんでした。その理由は彼らの大部分が寄生生活に乗り換えたことにあると思われますが、自由生活をするプラナリアなどは捕食されても一部の体が残っていれば再生できるという驚異的な能力を獲得したため、高度の視覚・素早い運動・防具としての甲殻などは必要とせず、ゆっくり日陰に移動するという能力さえあれば生きて行けたというのも一つの理由でしょう。

彼らにとってはタイプa(図1)の眼で十分だったのでしょう。プラナリアの眼は眼房もなければレンズもない原始的なものですが、シェード付きなのでひとまわりすれば明るさだけでなく光が来る方向を感知することができます(1)。

扁形動物より原始的なグループである刺胞動物は、扁形動物よりはずっとアクティヴな自由生活をしてきたので、中にはハコクラゲやアンドンクラゲのように1段階進化したタイプcの眼を持つグループも出現しました。たとえばミツデリッポウクラゲは24個の眼を持っていて、そのうち2個は水晶体を持っているというのですから、これはもうLandが記載したタイプcを越えています(3)。しかも彼らは脳らしきものを持っていないので、神経環で眼からの情報を処理していると思われますが、よほど効率的な処理を行なっているのでしょう。図1ではタイプ c+としました。

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進化系統樹では扁形動物以降、原口陥入部が口になる旧(前)口動物群と肛門になる新(後)口動物群に分かれますが、前者の場合ヒトと同等な眼を持つ軟体動物の頭足類から、複眼を極限まで発達させた節足動物の昆虫類まで様々なタイプが存在します。複眼は図1のタイプb、eですが、eタイプは個々の眼にレンズがついています。*の部分が短いと解像度の高い像が得られ、長いとより明るい像が得られる傾向があります(他の眼に入射した光もセンサーにはいってくる可能性が高いので)。蛾などの夜行性昆虫は後者に該当します。

単眼タイプと複眼タイプの両者を持っている生物もいれば、眼がほとんど退化したような生物もいます。基本的に眼の進化はそれほど長い時間を要しないと考えられています。光信号を化学信号から電気信号に変換する機構は、動物の場合、進化の過程で1度だけつくられてそのまま使われていますが、眼という光学装置は何度も個別に進化した結果、結果的に類似した装置をそれぞれの生物が装備することになった場合もあるようです(4)。

少し前まで旧口動物の光受容細胞は微絨毛が進化した装置を持ち、新口動物の光受容細胞は繊毛が進化した装置を持つと考えられていましたが、例外があることが明らかになったので(5、6)、旧口動物・新口動物というようなおおざっぱな分類においても、あるときに微絨毛型と繊毛型という別々の戻れない道に別れたとは言えなくなりました。なお繊毛は本来細胞の表面積を増やすためのものではなく、これを動かして細胞を移動させたり水流を起こすためのものです。つまり光受容装置としての繊毛は、後の時代に流用されたと考えられます。

脊索動物門と最も近縁な棘皮動物門は非常にユニークな視覚を持っています。ウニの場合無数の棘と管足があるわけですが、光受容細胞は管足にあり、それぞれの管足は棘で仕切られているので、体全体が特殊な複眼のような構造になっているわけです(7、8)。これにたいして脊索動物門の生物は複眼を棄て、a → c → d という比較的単純な眼の進化を遂行したようです(図1)。両生類より系統樹の上位の生物は基本的に陸上で生活するので、網膜の乾燥を防ぐために透明な被膜(角膜)で被うのは必須で、それがレンズに進化したのもよく理解できます。

脊索動物門の生物は最初から眼を持っていたかというと、それは疑問です。カンブリア紀のピカイア(図2)は眼を持っていません(9)。ピカイアは脊索はもっていますが脊椎は持っていないので、脊索動物門の中では原始的なグループだと考えられます。しかし同じカンブリア紀のハイクイクシスは脊椎動物であり、明らかに眼を持っています(10)。カンブリア紀以前には眼を持つ生物は発見されていないので、短い期間に図2(右図)のレベル1からレベル4または5あたりまでの進化が進行したと思われます。

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現代魚類の眼(11、図2)はレベル5くらいで、角膜はありますが光量調節機能を持つ虹彩はありませんし、レンズ(水晶体)の厚みを変えてピントをあわせることはできません。図3はヒトの眼の構造です。平滑筋のはたらきによって、光量に応じて自動的に虹彩が開閉して適当な明るさに調節できますし、見たいものの遠近に応じて自動的に毛様体が収縮し、レンズの厚みを調節してピントを合わせることができます。また多数の随意筋(横紋筋)によって目玉が向く方向を自在に調節できます(図3)。参天製薬のサイトでアニメーションを使ってわかりやすく説明しています(12)。

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哺乳類の眼と頭足類の眼は、図1でわかるように系統樹上は離れた位置にありますが、非常に似た構造になっています(図4)。図4はウィキペディアから持ってきましたが(13)、多分間違っていると思うのは、頭足類の眼は焦点を合わせるためにレンズを前後に動かすので、この毛様体の付き方ではそれはできそうもありません。一つ注目していただきたいのは、図4でヒトの場合視細胞の裏側に網膜があるのに対して、タコの場合視細胞の表側に網膜があります。このことは発生の過程が全く異なっていることを意味しており、両者のルーツが別にあることを示唆しています。

タコの場合視細胞の表側(外界側)に網膜(ロドプシン集積部位)があるので盲点が発生しませんが、ヒトの場合視神経が眼房に出てくるあたりは構造的に網膜が作れないので(図4の4)、盲点が発生します。もうひとつタコの方が優れているのは偏光を検出できると言う点です。ヒトでもなかには偏光が見えるという人がいるそうです(ハイディンガーのブラシ、14)。

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ヒトの眼には桿体細胞と錐体細胞という2種類の視細胞があります(図5)。ウィキペディアによると眼一つについて、桿体細胞は1億個、錐体細胞は7百万個あるそうです。哺乳類は恐竜と同時代に生まれて生き延びてきたという歴史があるので、恐竜全盛時代には夜行動せざるをえなかったわけです。ですから哺乳類はロドプシンを1種類しか持たない桿体細胞で、モノクロの視界を得るので十分な時代が長かったのです。圧倒的に桿体細胞が多いのは、そういう歴史を背負っているからでしょう。

桿体細胞・錐体細胞共に外側にシナプス形成部位があり、その内側に核があり、さらに内側に内節があります。内接の内端に結合繊毛という部位があり、そこでロドプシンが集積する特殊な棚状の構造が内側に押し出されるようにつくられ外節が形成されます(15)。網膜はその外節がぎっしり並んでいる部分のことです(顕微鏡で見ると層状に見える)。ロドプシンは光情報を化学情報に変換するだけでなく、外節構造(網膜)をつくるためにも必要です(16)。

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ヒトの場合錐体細胞は3種類のロドプシンを発現していて、それぞれどの波長の光に反応するかを図6に示しました。生物は最低でも2種類のロドプシンが存在することによって、はじめて色彩を感じることができます。ロドプシンAとロドプシンBの反応のレベルの違いを色という形で認識するのです。ですからAとBが最大に反応する波長が離れているほど色の種類を多く識別することが出来ます。

多くの哺乳類は2種類のロドプシンしか持っていませんが、ヒトは3種類のロドプシンを持っているため白という色を認識できます。宮田隆によれば「南米に住む新世界ザルには色覚に関して興味深い性差がある。オスは2色の色覚しか持たないが、メスには3色の色覚を持つ個体がいる。この色覚に関する性差は、X染色体がメスでは2本あるが、オスでは1本しかないことと関係がある。」 だそうです(17)。旧世界ザルは3色の色覚があるので、3色の色覚はサルの進化の過程で獲得されたのでしょう。これは多くの木の実が赤い・・・したがって赤い色を認識できれば生存に有利だった、ということと関係があるようです(17)。

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ヒトよりすぐれた色覚を持っているのは鳥類で、彼らは4種類のロドプシンを持っている上に、そのうちのひとつは紫外線を感知できます(18)。昆虫も紫外線を感知できるロドプシンを持っています。昆虫は私達にはない複眼という別種の眼を持っています。図7にトンボとハエの複眼を示します(19)。

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複眼に含まれるひとつひとつの眼を個眼といいます。トンボの複眼は約5万個の個眼で構成されています。複眼の場合ひとつの個眼を1画素としたデジタルカメラに例えられますが、5万画素のデジタルカメラは優秀なのでしょうか? 

水波誠の本によると(20)、身長と眼の解像度は比例しているというキルシュフェルトの理論というのがあるそうで、それならば昆虫の複眼の解像度は悪いとはいえないそうです。ただトンボやミツバチなどは身長から考えると超高速で飛翔する動物なので、解像度よりむしろ衝突をさけるための情報処理の速さが重要であるとは言えるのではないでしょうか。実際ハエは一秒間に150回の点滅を認識できるそうです(20)。

昆虫の複眼の構造を図8に示します。レンズ(水晶体)のすぐ下に視細胞があり、個眼は光がまじらないよう色素細胞のシェードで分離されています。個眼8個(または9個)でひとつのユニットが形成されおり、それらが花弁のように並んだ中央に桿状体というロドプシンが集積した部位が見られます(図8)。個眼8個のユニットは最大感知波長が緑・青・紫外の3種類の色素細胞で構成されているので、ユニットごとに色彩を感知することが出来ます(20)。

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昆虫が色彩を認識できることをはじめて示したのはカール・フォン・フリッシュ(図9)でした。彼は若い頃に魚が色を識別できることを証明し、さらにミツバチも色を識別できることを証明しました(20、21)。

図9のヒトとミツバチが認識する光の波長を示した図は Webexhibits というサイトからの引用です(22)。これによるとヒトほどはっきりではなくてもミツバチにも赤い色が見えていると思われます。しかし紫外線領域はミツバチにははっきり見えていてもヒトには全く見えていませんので、ミツバチの見ている色彩はかなりヒトとは異なるようです。図9の花の色彩は左がヒト、右がミツバチです(23)。ミツバチの見ている色なんて、ヒトには見えないのだからこのようなプレゼンテーションは意味が無いという向きもあり、Hamiltonも "Because we cannot see UV light, the colours in these photographs are representational, but the patterns are real. " と書いていますが、その筋の研究者から、ミツバチには多分図9のように見えているという話を聞いたことがあります。

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鳥は昆虫と同じくらい紫外線領域が見えるので、かなりミツバチなどと同じ色彩感覚だと思われます。ログミというサイトに鳥の見え方を示した記事がありました(24)。

この中でヒトが精細にみることができる範囲(例えば文字を読んだりする)はせいぜい10度くらいの角度に限定されている(実際モニターの画面の中央を読んでいると端っこの文字は、なにか文字があるということはわかっても。目玉か首を動かさないと読めません)、という記述があります。ところが、カモメは水平に見えているすべての物を、広角にわたって精細に見ることができるそうです。つまり眼の性能で言えばカモメはヒトよりはるかに優れています。

参照

1)生物学茶話@渋めのダージリンはいかが107: 視覚とは (やぶにらみ生物論107: 視覚とは)
http://morph.way-nifty.com/lecture/2018/06/post-651d.html

2)Michael F. Land and Dan-Eric Nillson., Animal eyes. Oxford University Press (2002)
https://books.google.co.jp/books?id=aAZ_YfVoCywC&pg=PA1&hl=ja&source=gbs_toc_r&cad=3#v=onepage&q&f=false

3)ナショナルジオグラフィック日本版2016年2月号 不思議な目の進化
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/magazine/16/012200005/012200001/?img=ph3.jpg&P=2

4)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%BC%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96

5)中川将司,堀江健生、ホヤ幼生の光受容器 -脊椎動物の眼との比較- 比較生理生化学 vol. 26 No.3 pp. 101-109 (2009)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/26/3/26_3_101/_article/-char/ja/

6)片桐展子 & 片桐康雄. イソアワモチの多重光受容系:(1)4種類の光受容細胞の特徴と光応答 比較生理生化学 25, 4-10 (2008).
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/25/1/25_1_4/_pdf/-char/ja

7)Ullrich-Lüter EM, Dupont S, Arboleda E, Hausen H, Arnone MI., Unique system of photoreceptors in sea urchin tube feet., Proc Natl Acad Sci U S A. vol. 108(20): pp. 8367-8372. doi: 10.1073/pnas.1018495108. (2011)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21536888

8)ナショナルジオグラフィック日本版2011年5月号 ウニは全身が“眼”だった
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4200/

9)Morris SC, Caron JB., Pikaia gracilens Walcott, a stem-group chordate from the Middle Cambrian of British Columbia., Biol Rev Camb Philos Soc.  May; vol. 87(2): pp. 480-512. (2012)  doi: 10.1111/j.1469-185X.2012.00220.x. Epub 2012 Mar 4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22385518

10)D.-G. Shu et al., Head and backbone of the Early Cambrian vertebrate Haikouichthys., Nature vol. 421, pp. 526–529 (2003)
https://www.nature.com/articles/nature01264

11)裳華房 目のしくみ (Structure of Eye)
https://www.shokabo.co.jp/sp_opt/observe/eye/eye.htm

12)参天製薬 目のピント調節のしくみ
https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/products/otc/sante_medical/eyecare/focus.jsp

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%BC%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96

14)https://en.wikipedia.org/wiki/Haidinger%27s_brush

15)今西由和 脊椎動物の視細胞をモデルとしたタンパク質輸送および膜構造形成の時間空間的解析 生物物理 vol.56(1),pp. 18-22, (2016)
DOI: 10.2142/biophys.56.018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/56/1/56_018/_pdf

16)http://www.oyc-bio.jp/products/view/service004

17)宮田隆 眼で進化を視る -その2- (2006)
https://www.brh.co.jp/research/formerlab/miyata/2006/post_000004.html

18)杉田昭栄 鳥類の視覚受容機構 バイオメカニズム学会誌 vol. 31, no.3,  pp.143-148 (2007)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/31/3/31_3_143/_pdf

19)https://en.wikipedia.org/wiki/Arthropod_eye

20)水波誠 「昆虫-驚異の微小脳」 中公新書 (2006)

21)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5

22)Webexhibits: What colors do animals see?
http://www.webexhibits.org/causesofcolor/17.html

23)Michael Hamilton, A bees-eye view: How insects see flowers very differently to us., (2007)
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-473897/A-bees-eye-view-How-insects-flowers-differently-us.html

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2018年6月23日 (土)

やぶにらみ生物論107: 視覚とは

脳は何のために必要だったのでしょうか? 多くのクラゲは海流に流されるまま、あるいは多少遊泳してエサを採り消化して、何億年も暮らしてきました。そういう生活をする生物にとっては、ある程度の情報統合は必要であっても、脳と言えるような多数の神経細胞の集積は必要なかったわけです。

脳はおそらく視覚から得た情報を統合・解析し、やるべき行動を指示するために必要だったのでしょう。クラゲの中にも高度な眼を持っているグループがいるので、一部は高度な情報処理をしているかもしれません。まず視覚のはじまりから考えていきたいと思います。

最近はヒトの食べ物としても注目されているミドリムシという単細胞の真核生物がいます。ミドリムシは長短2本の鞭毛を持っており、動き回って細菌を食べたりもしますが、一方で体内に葉緑体を保持していて光合成も行なうという一風変わった生き物です。この生物は眼点という赤い点の構造体を持っており、これが光感覚をになうと考えられていましたが、現在では本当の光受容体は鞭毛の基部付近にある傍鞭毛体(または副鞭毛体、図1の8)であることがわかっています(1)。

ミドリムシは光に集まる性質を持っています。それは彼らが光合成を行なうことから目的にかなった行動です。景色や生物を認識するための眼はカンブリア紀にできたと考えられていますが(2、3)、それよりずっと以前から、明るい場所に移動して光合成を行なうために、明るさを測定するための道具として眼がつくられたことは容易に想像できます。

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伊関らはミドリムシの傍鞭毛体にある光受容蛋白質をFADを含むフラビンタンパク質と同定し、このタンパク質がアデニル酸シクラーゼ活性を持つことを報告しています(1)。フラビンタンパク質を光センサーとして用いているのはミドリムシだけではなく、多くの植物で光屈性や気功の開閉などに関わっているフォトトロピンもフラビンタンパク質です(4、5)。数億年にわたる植物の進化の過程で、フラビンタンパク質は光センサーとして連綿と引き継がれてきたというわけです。

図1の右側にはミドリムシ(ユーグレナ)と似て非なるコナミドリムシ(クラミドモナス)という単細胞生物が描かれています。この生物もミドリムシと同様、栄養源を内包する葉緑体によって作りだすことができます。一方で酢酸を栄養源として従属栄養的に生きることもできます(6)。鞭毛は片方が小さくなることなく立派に2本あります(バイコンタ)。そして傍鞭毛体はなく、光は眼点で検知します。名前は似ていますし、独立栄養でも従属栄養でもいきられるという点でも似ていますが、ミドリムシ(ユーグレナ)とコナミドリムシ(クラミドモナス)は構造的には全く異なる生物です。

ユーグレナはフラビンタンパク質を光センサーとして用いていると前述しましたが、クラミドモナスやある種の古細菌(7)は私達と同じロドプシンを持っています。ロドプシンは分子の内部に補因子として、フラビンではなくレチナールを抱え込んでいて、レチナールの構造変換を光を感知する手段として用います(8、9)。ロドプシンについては後に詳述しますが、すべての動物の光センサーはロドプシン-レチナールの構造変換が基本となっています。

ユーグレナは眼点ではなく傍鞭毛体で光を検知すると前述しましたが、ではユーグレナの眼点は何のためにあるのでしょうか? 眼点にはカロテノイドという色素があり、傍鞭毛体への光のシェードのようになっています(図2A)。これによってどの方向から光がきているのか判定しやすくなり、鞭毛がどう動けば良いのか指示を出しやすくしていると考えられます(10、11)。

このような方式は、多細胞生物であるプラナリアの眼にも受け継がれており(図2B)、色素細胞によるシェードは光の方向を判断する上で重要な役割を果たしていると思われます。また複眼の一つ一つをカメラの1画素のように用いる生物、たとえばある種の環形動物(図2C)や昆虫などは複眼と複眼の間を色素細胞のカーテンで遮断しており、解像度が高められています。

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ロドプシンはこのブログでもお馴染みの7回膜貫通タンパク質(12、13)の1種です。通常膜貫通タンパク質は細胞外に化学物質の受容部位があり、細胞外から来た情報を細胞内に伝達する役割を持っています。ロドプシンはこの種のタンパク質ですが、ちょっと変わっているのは細胞外に化学物質の受容部位はなく、そのかわり分子内部にレチナールというビタミンA(レチノール)がアルデヒド化された光感受性物質を保持しており(図3)、この分子を使って細胞が受けた光情報を細胞内に伝達する役割を持っているところです。

レチナールがロドプシン分子から離れた場合、残されたタンパク質をオプシンと呼びます。すなわち、オプシン+レチナール=ロドプシンです。

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具体的には図4のように、シス型レチナールが光照射によってオールトランス型レチナールに変換され、その結果ロドプシンの立体構造が変化して、その後の連鎖的化学変化の起点となります。

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ロドプシンには大きく分けて、タイプ1(微生物型ロドプシン):原核生物、藻類に存在、およびタイプ2(動物型ロドプシン):真核生物以上に存在 の2種類があり、クラミドモナスなどにあるのは前者、私達にあるのは後者ということになります。このほか古細菌などにも別のタイプのもの(バクテリオロドプシン)があり、動物型ロドプシンはGタンパク質を使ってイオンチャンネルを開閉することによって細胞を過分極・脱分極させてパルスを発生し、神経細胞によって視覚情報を伝達する目的で使われています。微生物型はさまざまな目的で使われており、まとめて議論するわけにはいきません。

図5左に動物網膜の桿体細胞が示してありますが、この細胞の受光側(上側)は細胞膜の面積を増加させるべく折りたたまれたような構造をとっており、そこに多数のロドプシン分子が埋め込まれています。受光の結果オールトランス型となったレチナールは結局ロドプシン分子から解離してフリーとなり、ATPを消費するレチナールイソメラーゼの酵素作用によって11-シスレチナールに変換され、11-シスレチナールはオプシンと再結合してロドプシンが再生されます(14、図5)。

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図6(ウィキペディアより)を使って、動物の場合光照射によってなぜ神経にパルスが発生するかを時系列で箇条書きすると次のようになります。

1.ロドプシンが光照射を受けると、前述のようにレチナールが解離しオプシンとオールトランスレチナールとなります。

2.オプシンは3量体G蛋白質であるトランスデューシンを活性化します。この結果トランスデューシンは結合していたGDPを失い、代わりにGTPを結合します。

3.トランスデューシンのα サブユニットにGTPが結合すると、α サブユニットはβγ サブユニットから解離し、GTPを結合したまま単独行動をとります。

4.α サブユニット-GTP複合体はフォスフォジエステラーゼを活性化し、その結果細胞内の cGMP(サイクリックGMP) はGMPに転換し、cGMPの濃度が低下します。

5.この結果 cGMP の作用で開いていたナトリウムチャンネルが閉鎖されます。

6.ナトリウムチャンネルが閉鎖されているにもかかわらず、カリウムチャンネルは開いているのでカリウム(細胞内の濃度が高い)が細胞外に放出され、細胞は過分極状態となります。その後の過程で脱分極がおこります。詳細を知りたい方は文献14~16を参照して下さい。

図はクリックすると拡大できます。

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高度好塩菌は光照射によってロドプシンが構造変化をきたすことを利用して、細胞内の水素イオンを細胞外に能動輸送するというシステムを持っています(15、図7)。これはミトコンドリアでの電子伝達系と似たメカニズムで、水素イオンが細胞内にもどるときにATPを合成することができます。すなわちロドプシンを使って、光エネルギーを化学エネルギーに変換するメカニズムです。

真核生物はミトコンドリアを取り込んだので、ロドプシンはいらなくなったかもしれないのですが、それから数十億年後私達はロドプシンでいろんな物を見て識別しています。眼ができるまでにロドプシンが何をしていたのか、それに興味をひかれます。

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ロドプシンの発見などについて脳科学辞典に記載がありました(17)。以下引用しておきます。
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「ロドプシンについて初めて報告があったのは1876〜77年頃である。ドイツのFranz Boll (1849-1879)、続いてFriedrich Wilhelm (通称Willy) Kühne(1837−1900)がカエル網膜の桿体視細胞の外節にある赤い物質の感光性を報告した。 Kühneはこの色を“Sehpurpur”と呼び(英:Visual Purple, 日:視紅)その基となる化学物質をRhodopsin と名付けた。初期の視物質研究では視物質のことをVisual Purpleと呼んでいたが、しだいにRhodopsinが多く使われるようになり現在ではRhodopsinというのが一般的である。 ウシロドプシンの一次配列は1982年に決定され、その翌年にはクローニングされている。」
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発見者のボ-ルとキュ-ネ、および一次構造を明らかにしたオヴチニコフ(18)の肖像を図8に貼っておきます。なお遺伝子構造はネイサンスとホッグネスによって1983年に発表されています(19)。

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ボ-ルはカエルを暗いところに置いておくと網膜が赤くなり、光を当てると褪色することから光感受性物質の存在に気が付きました(20)。彼は30歳の若さで夭逝してしまったので、キューネが仕事を引き継ぐことになりました。彼らの業績は20世紀後半の分子生物学の勃興によって、花開くことになりました。

参照

1)伊関峰生 ミドリムシにおける光センシングの分子機構 Jpn. J. Protozool. Vol. 40, No. 2. , pp. 93-98 (2007)
http://protistology.jp/journal/jjp40/093-100Iseki.pdf

2)アンドリュー・パーカー 眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く 草思社 (2006)

3)渋めのダージリンはいかが 眼の誕生とカンブリア爆発1
http://morph.way-nifty.com/grey/2007/06/post_9cc6.html

4)Masayoshi Nakasako, Kazunori Zikihara, Daisuke Matsuoka, Hitomi Katsura, Satoru Tokutomi., Structural Basis of the LOV1 Dimerization of Arabidopsis Phototropins 1 and 2., Journal of Molecular Biology 381 (3), 718-733 (2008)
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2008/080821/

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%94%E3%83%B3

6)高橋裕一郎、福澤秀哉 モデル生物として注目される緑藻クラミドモナス
蛋白質 核酸 酵素 vol.45, no.12, pp. 1937-1945 (2000)
http://www.molecule.lif.kyoto-u.ac.jp/pdf/pne2000.pdf

7)Bacteriorhodopsin, protein databank japan.,
https://pdb101.rcsb.org/motm/27

8)Oleg A. Sineshchekov, Kwang-Hwan Jung, and John L. Spudich., Two rhodopsins mediate phototaxis to low- and high-intensity light in Chlamydomonas reinhardtii., PNAS,  June 25, vol. 99 (13) pp. 8689-8694 (2002); https://doi.org/10.1073/pnas.122243399
http://www.pnas.org/content/99/13/8689?ijkey=9610ff22c274cb08d7b261283e27286899e851ee&keytype2=tf_ipsecsha

9)Hongxia Wang, Yuka Sugiyama, Takuya Hikima, Eriko Sugano, Hiroshi Tomita, Tetsuo Takahashi, Toru Ishizuka, and Hiromu Yawo., Molecular determinants differentiating photocurrent properties of two channelrhodopsins from Chlamydomonas. J. Biol. Chem. 284, 5685 - 5696. (2009)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19103605

10)https://en.wikipedia.org/wiki/Euglena

11)https://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/9e6b34a2218709d79a2024bec3f60ebb

12)http://morph.way-nifty.com/grey/2017/05/post-38c0.html

13)http://morph.way-nifty.com/lecture/2017/05/post-e9c6.html

14)https://en.wikipedia.org/wiki/Visual_phototransduction

15)https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2012/03.html

16)Stefano Costanzi, Jeffrey Siegel, Irina G. Tikhonova,1and Kenneth A. Jacobson., Rhodopsin and the others: a historical perspective on structural studies of G protein-coupled receptors., Curr Pharm Des. vol.15 (35): pp. 3994–4002. (2009)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2801150/

17)松山 オジョス 武、七田 芳則、 ロドプシン 脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%B3

18)Yu.A. Ovchinnikov., Rhodopsin and bacteriorhodopsin: structure—function relationships., FEBS lett., vol.148, no.2, pp. 179-191 (1982)
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1016/0014-5793%2882%2980805-3

19)Nathans J, Hogness DS., Isolation, sequence analysis, and intron-exon arrangement of the gene encoding bovine rhodopsin., Cell., vol. 34 (3): pp. 807-814. (1983)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6194890

20)http://neuroportraits.eu/portrait/franz-christian-boll

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2018年6月10日 (日)

やぶにらみ生物論106: 昆虫の微小脳

ウィキペディアに哺乳類の体重と脳重量のグラフが出ていました(1、図1)。脳が巨大だと知能が高いという単純な比例はありませんが(だとゾウやクジラはヒトより知能が高いはず)、グラフの斜めの実線より上ということは体重当たりの脳重量が比較的高いということを意味し、霊長類やイルカが線より上ということは脳/体重比はある程度の指標にはなるのかもしれません。

脳化指数=Kx(脳の重さ/体重の2分の3乗)などという指標を考えた人もいますが(2)、それが知能を比較する上できちんとした科学的根拠になるかというとそんなことはありません。通常ネコの脳化指数を1としてKを決めます。ウィキペディアによるとネコを 1 とすると、ヒトは 7.4-7.8 となるそうです。

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図1を哺乳類以外まで拡張したのが図2です。種も指定していないので精密な図ではありませんが、魚類を標準とすると(点線で囲まれたブルーの領域)、知能の高そうなヒト・カラス・イカや無脊椎動物でもアリ・ショウジョウバエ・ミツバチなどは上にきています。体重と脳重量について詳しくデータを出しているサイトがあります(3)。

注意すべきは、鳥類などは特に空を飛ぶために体重は極力軽くするように進化した動物です。ですからスズメの脳重量は体重の4%もあり、ヒトの2.4%よりも上ですが、だからといってスズメの方がヒトより知能が上というわけではありません。

ただ鳥類の中でも、カラスは針金を曲げて道具を作ってエサをとることができますし、秋にエサをとって隠しておき冬に食べる鳥もいます(長期記憶)。これらは霊長類に匹敵する能力といえます。

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アリやハチの脳は非常に小さいですが、なかでもアザミウマタマゴバチというアザミウマに寄生するハチは世界最小のハチで(体長<200µm)、脳も極端に小さいです(4~6)。このハチの脳にはニューロンがわずかに4600個程度しかありません。ちなみにミツバチの脳には85万個のニューロンがあるのだそうです(4)。寄生蜂でも普通このハチより一桁多いニューロンを保有しています。それでも形態は普通のハチと変わらず(羽の形は特殊ですが、図3)、ちゃんと宿主をさがして卵を産み付け、成虫になったら交尾して子孫をつくることができます。

驚くべきはアザミウマタマゴバチのニューロンのうち95%が細胞核を失っているということです(6、7)。私達の体にも核の無い細胞は結構あって、表皮・毛髪・赤血球などは核を持っていません(8、9)。表皮や毛髪の核は分解によって(8)、赤血球の核は細胞質分裂によって(9)核を失います。しかしニューロンはすべて核を持っています。アザミウマタマゴバチはさなぎの時代にはニューロンが核をもっており、羽化するときに核が分解します。

核が分解することによって細胞の容積は小さくなり、小さな脳に多数のニューロン(といってもたかだか4600個ですが)を詰め込むことが可能になります。このことは重要な事実を示唆します。つまり空を飛び、えさや水を採取し、交尾し、宿主を探し、卵を産み付けるという活動にはニューロンのDNAは無用かもしれないということです。それでも5%の細胞はDNAをもっているので断言はできませんが、おそらく分解しきれなかったというだけで不要なのでしょう。むしろそこまで特殊な処理を行っても、寄生蜂としての活動を行なうためには、最低でも4600個のニューロンの確保が必要だったと思われます。

クモの1種 Anapisona simoni は体長が0.6mmほどしかなく、頭に脳が入り切りません。そこで脚や胸まで脳がはみ出しているという報告があります(10、11)。このクモは体重の5%を脳の重量が占めており、脳/体重の比率はヒトの2倍です。昆虫の脳は非常に効率の良い構造になっていることが知られていますが、アザミウマタマゴバチやこのクモの脳は、これ以上小さいと種を保存するために必要な数のニューロンを収容しきれない限界を示していると思われます。

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こうしてみると、微小脳とはいえ多くの昆虫の脳には余裕の数のニューロンが存在していることがうかがえます。これらを使って昆虫が知的活動を行うとしても不思議ではありません。

昆虫が自分の巣のまわりの景色を記憶して帰巣することを証明したのはニコラース・ティンバーゲンでした(12、1952年)。彼が実験動物として使ったジガバチ(ツチスガリ)のメスはえげつない生物です。まず地面に穴を掘っておき、巣穴が完成すると狩りに出かけます。エサとなる蝶や蛾の幼虫を毒針で刺して毒を注入し、麻痺させた状態で巣穴に持ち帰ります。獲物を巣穴に引きずり込み、その上に卵を産み付けます(13)。産み付けられた卵は孵化したあと、親が残してくれた獲物を食べて成長し「さなぎ」になり、やがて成虫になって飛び立ちます。

したがってジガバチの母親は、自分が掘った穴の位置を記憶しておかないといけません。ティンバーゲンはジガバチが巣穴で休んでいるときに、穴の周りに松かさを置きました(図4)。ジガバチは巣から出るときに数秒間巣の周りをぐるぐると飛び回り、「景色を記憶してから」飛び去りました。そのあとティンバーゲンは松かさを取り去り、それを同じ配列で少し離れた他の場所に置きました。やがてジガバチが獲物を捕らえて戻って来ると、本当の巣の入り口ではなく移動した松かさのサークル中心に着地しました。ジガバチは巣の入り口のまわりに松かさがあったことを覚えていたのです。

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ティンバーゲンはさらに、松かさの間に松のオイルを塗りつけたボードを配置しました。ひょっとするとジガバチは松かさのサークルを覚えていたのではなく、松の匂いにひかれたのかもしれません。この場合もジガバチは巣穴の近くに配置した松の匂いのするボードには戻ってこなくて、松かさのサークルの方に戻ってきました(図5)。このことからジガバチはやはり松かさの配置を記憶していたのだと考えられました。

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昆虫の形態(図6、ウィキペディアより 14)をみていると、4足歩行の哺乳類と同様、本当に素晴らしいボディプランだと感動します。彼らの唯一の弱点は肺を持たないということです。そのため今日のような酸素濃度の低い大気の中では小型の種しか生み出すことができません。

このことによって当然脳のサイズも制限されて、小型の脳=少数のニューロンで効率的に個体を制御するべく進化してきました。彼らの中枢神経の構造はプラナリアと同様、腹側に神経索(ヒトの場合は背側にあり脊髄と呼ばれる)が尾部まで伸びていて、頭部では消化管とクロスする形で背側に至る脳を形成しています(図6)。

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ここでもう一度系統樹をながめて復習してみましょう(15)。生物の中には数億年もの間、脳をもたずに生活してきた海綿動物や刺胞動物がいます。彼らの中には活発に海を泳ぎ回り積極的な摂食を行なうクラゲのような生き物もいますが、神経環のような脳に至らない統合組織で十分事足りる生活でずっと生きてきました。

プラナリア(扁形動物)は脳をもっていますが、系統樹の同じ幹の線形動物や環形動物は脳らしき臓器は持っていません。ただ彼らも感覚ニューロン・介在ニューロン・運動ニューロンは保持していて(16)、図7のように数としてはきわめて少ないニューロンによって活動を維持しています。このような生物に比べると、プラナリアは脳を発達させて革命的な進化を遂げたと言えます。

昆虫はプラナリアの幹とは別の幹に位置する節足動物のグループなのですが(15)、この幹で最初に脳を持ったのはどの門の生物なのかはよくわかりません。節足動物は素晴らしい脳を獲得して現代に至っています(図7)。

私達脊索動物の幹では脊椎動物が突出して発達した脳を持っていますが、脊索動物門の中でも頭索動物のナメクジウオは脊椎動物に比べるとわずかな数のニューロンしか持っていませんし(図7)、尾索動物は成体になる過程で中枢神経系が衰退してしまって脳を持ちません。尾索動物は進化の過程で中枢神経系が不要な生活様式を選択したため、中枢神経系が退化したといわれています(18)。

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図8はクロオオアリの脳の構造ですが、西川道子氏の図を模式化させていただきました(19)。昆虫の脳はヒトの脳と比べると随分形態が異なります。なかでも前部にキノコ体という奇妙な葉が左右に突出しています。ここでは何が行なわれているのでしょうか?

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ミツバチは脚や触覚が砂糖水に触れると、口吻を延ばして飲もうとします。そこで砂糖水を脚や触覚に触れさせる直前に特定の匂いをかがせることを繰り返すと、その匂いをかいだだけで口吻を延ばすという条件反射を行なうようになります。ところが冷却した針をキノコ体に刺してその活動を抑制すると条件反射は成立しません。このような実験を行なったメンゼルらは、キノコ体が匂いの記憶にかかわっていることを示唆しました(20、21、図9)。またショウジョウバエでもド・ベル、ハイゼンベルクらの研究によって、キノコ体を破壊すると記憶の能力を失うことがわかりました(22、図9)。

水波とシュトラウスフェルトは壁に模様をつけた小部屋にゴキブリを閉じ込め、床に熱い部分とそうでない部分をつくりました。ゴキブリは試行錯誤をくりかえして熱くない部分に集まります。何度も繰り返しているうちに、ゴキブリたちは短時間で熱くない部分にたどり着けるように学習します。ところが壁の模様を取り去ると、ゴキブリたちは目指す場所になかなかたどり着けなくなります。つまりゴキブリは壁の模様を記憶して場所を覚えていたわけです。ところがキノコ体を脳から切り離すと、いくらくりかえしても壁の模様を記憶できなくなることがわかりました。このことからキノコ体が視覚情報の記憶にかかわっていることがわかりました(23、図9)。

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参照

1)https://en.wikipedia.org/wiki/Brain-to-body_mass_ratio

2)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E5%8C%96%E6%8C%87%E6%95%B0

3)http://akaitori3.web.fc2.com/nou.html

4)Dangerous Insects:
http://dangerous-insects.blog.jp/archives/7285835.html/%E3%82%A2%E3%82%B6%E3%83%9F%E3%82%A6%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%83%9E%E3%82%B4%E3%83%90%E3%83%81

5)神無久 サイエンスあれこれ
http://blog.livedoor.jp/science_q/archives/1581784.html

6)Megaphragma mymaripenne:
https://en.wikipedia.org/wiki/Megaphragma_mymaripenne

7)Alexey A. Polilov, The smallest insects evolve anucleate neurons., Arthropod Structure & Development., vol. 41, pp. 29-34 (2012)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803911000946?via%3Dihub

8)Kiyokazu Morioka et al., Extinction of organelles in differentiating epidermis. Acta Histochem Cytochem., vol.32, pp. 465-476, (1999)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ahc1968/32/6/32_6_465/_article/-char/en

9)Hiromi Takano-Ohmuro, Masahiro Mukaida, Kiyokazu Morioka., Distribution of actin, myosin, and spectrin during enucleation in erythroid cells of hamster embryo., Cell Motil & Cytoskel., vol.34, pp. 95-107 (1996)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/%28SICI%291097-0169%281996%2934%3A2%3C95%3A%3AAID-CM2%3E3.0.CO%3B2-H

10)Rosannette Quesada et al., The allometry of CNS size and consequences of miniaturization in orb-weaving and cleptoparasitic spiders., Arthropod Structure & Development., vol. 40, pp. 521-529 (2011)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803911000727

11)William G. Eberhard., Miniaturized orb-weaving spiders: behavioural precision is not limited by small size. Proceedings of the Royal Society B., doi:10.1098/rspb.2007.0675  Published online
http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download;jsessionid=1C3A5F0462B5FD66E9153209AEE260DC?doi=10.1.1.512.3545&rep=rep1&type=pdf

12)Paul Kenyon., Interactive learning activity: Home location by digger wasps.
http://www.flyfishingdevon.co.uk/salmon/year1/psy128ethology_experiments/wasp_learning_activity.htm

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%81

14)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%86%E8%99%AB%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0

15)http://morph.way-nifty.com/lecture/2018/05/post-fca7.html

16)http://molecular-ethology.bs.s.u-tokyo.ac.jp/labHP/J/JNematode/JNematode03_circuit.html

17)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E7%89%A9%E3%81%AE%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%95%B0%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7

18)有賀純 脳を捨てた動物たち 理研BSIニュース No.27 (2005)
http://www.brain.riken.jp/bsi-news/bsinews27/no27/network.html

19)https://invbrain.neuroinf.jp/modules/htmldocs/IVBPF/Ant/Ant_brain.html?ml_lang=ja

20)Menzel R., Erber J., Masuhr T., Learning and memory in the honeybee. in Experimental analysis of insect behaviour, ed Barton-Browne L. (Springer, Berlin, Germany), pp 195–217. (1974)

21)Martin Hammer and  Randolf Menzel., Multiple Sites of Associative Odor Learning as Revealed by Local Brain Microinjections of Octopamine in Honeybees. Learning Memory vol. 5, pp. 146-156 (1998)
http://learnmem.cshlp.org/content/5/1/146.full

22)Belle J.S., Heisenberg M., Associative odor learning in Drosophila abolished by chemical ablation of mushroom bodies. Science vol. 263: pp. 692–695. (1994)
http://science.sciencemag.org/content/263/5147/692?ijkey=3261ad7369a4512a5caec4d6b87f24c323039c90&keytype2=tf_ipsecsha

23)Makoto Mizunami, Josette M. Weibrecht, Nicholas Strausfeld., Mushroom Bodies of the Cockroach: Their Participation in Place Memory., The Journal of Comparative Neurology vol. 402(4): pp. 520-537  (1998)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/%28SICI%291096-9861%2819981228%29402%3A4%3C520%3A%3AAID-CNE6%3E3.0.CO%3B2-K
https://www.researchgate.net/publication/13426406_Mushroom_Bodies_of_the_Cockroach_Their_Participation_in_Place_Memory

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2018年5月23日 (水)

やぶにらみ生物論105: 脳のはじまり2

刺胞動物は海綿動物と違って泳いだりエサを触手で捕まえたりという、かなり多くの細胞が協調し、統合された機能を発揮しないと実現しない複雑な動きをする動物です。そのために神経細胞を発展させ、多くの細胞から情報を集めたり、筋肉組織を使って統合的な行動を行なうようになりました。

もう一度進化系統樹を眺めてみると(図1)、刺胞動物のルーツはかなり系統樹の根元の方から枝分かれしています。枝分かれしてから数億年以上経過しますが、いまだに2胚葉であることから、かなり昔の生物の状態を残したいわゆる「生きた化石」のような側面もあると想像できます。化石が残っているわけではありませんが、「刺胞をもたないヒドラ」のような生物はカンブリア紀以前から存在していたのではないでしょうか。

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神経という観点を中心にヒドラ(図2)とはどのような生物かをおおざっぱにみると、

1.ヒドラには8種類の細胞が存在します。上皮筋細胞・消化細胞・腺細胞・神経細胞・刺胞細胞・間細胞・精子・卵がその全てです。間細胞は自己複製するほか、刺胞細胞・神経細胞・腺細胞などに分化することができます(1)。

2.ヒドラの個体は10万個位の細胞から成り立っていますが、そのうち5~15個の細胞集塊から個体を復元できます。これはプラナリアよりも強力な復元力です(2)。

3.神経細胞は感覚ニューロン・運動ニューロン・介在ニューロン(感覚ニューロンから運動ニューロンへへの情報伝達を中継)・神経分泌細胞を兼任しています(3)。

4.ヒドラの神経細胞には軸索と樹状突起の分化はありませんが、シナプスがあり、神経伝達には方向性があります(4)。

5.神経伝達物質はペプチドですが、刺胞動物特有の多数の分子からなっています。神経細胞の種類によって分泌する神経ペプチドの種類は異なっています(5)。例えば胴体にはRFamide ペプチドが認められませんが、それより下部の足盤に近い部分には多量のRFamideペプチドが認められるなどです(5)。

6.アセチルコリン・モノアミン類・アミノ酸などペプチド以外の神経伝達物質はおそらく使われていません(6)。

というところでしょうか。

ただ 1.の間細胞というのがくせ者で、藤澤千笑によると間細胞には(精子に分化)(卵に分化)(精子+刺胞・神経・腺に分化)(卵+刺胞・神経・腺に分化)の少なくとも4種類の細胞があるそうです(7)。刺胞細胞・神経細胞は失われやすく常時間細胞の分裂と分化によって補給されないとヒドラは生きていけないようです。有性生殖は温度が下がったり、飢餓状態になったときなどに行ないます。それ以外の場合、体細胞の分裂によってポリプを生じて無性生殖を行ないます。

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藤澤は間細胞の研究過程で、(精子に分化)または(卵に分化)の単能性間細胞しかもたない個体を作成することに成功しました(7)。この個体は刺胞細胞や神経細胞を補給できないため「寝たきりヒドラ」と呼ばれ、無理矢理エサを口からつっこみ、胃の清掃も人が行なうことによって、なんとか生きていくことができます。はからずもヒドラの神経細胞の主要な機能(エサを捕獲する、口で捕食する、胃を動かして消化する)が明らかになったわけです。

Charles N.David はヒドラを単細胞に解離して放射能でラベルしたあと、ラベルした1個の細胞を非ラベルの多くの細胞と再集合させて増殖・分化させる実験系を用いて、ヒドラの間細胞は自己複製する場合と「自己+分化する細胞」に不等分裂する場合があり、後者によってすべての種類の分化した細胞を作成できることを証明しました(8、9、図3)。

すなわちヒドラは体内に受精卵と同様なすべての体細胞に分化できる全能性の幹細胞を保持していると言えます。

この全能性の幹細胞は自己複製できるので、不等分裂しなくても幹細胞が枯渇することはないわけですが(分化して消失した細胞の分だけ自己複製によって補充すればよい)、それでも不等分裂するのは、おそらく特定の位置に幹細胞があることによって、特定の部域に分化した細胞を遅滞なく供給できるというメリットがあるからだと思います。

このような全能性幹細胞が存在することは、生命の存続にとって非常に有利だと思いますが、どうして多くの生物がこのようなメリットを放棄せざるを得なかったかと言えば、それは他の生物のエサにならないなどの目的があって、様々な特殊機能を発達させようという方向に向かったという事情があるためでしょう。たとえば閉鎖血管系を持つ私達のような生物は、体が切断されるとたちまち出血多量で死亡するので、全能性幹細胞を持っていても宝の持ち腐れになってしまいます。

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多くの生物が全能性幹細胞を放棄することになったのはカンプリア紀でしょう。眼と高度な移動能力を持ち、細菌やプランクトン以外の生物をも補食する肉食動物の誕生は、生命のあり方を根本的に変えました。

刺胞動物より一つ上の進化系統の分岐点から扁形動物・線形動物・輪形動物の幹が形成されます(図1)。扁形動物であるプラナリアはこの分岐点から現在まで進化してきました。

彼らはひとつの個体の中に多数の幹細胞をもっていて、体を二つに分けるという方法で何十年も無性生殖だけで生き延びられるので、その間に変異したゲノムを持つ幹細胞からバラエティに富む遺伝的背景を持った個体が生まれます(10)。そのためDNAの塩基配列から進化系統の位置を決めることがなかなか難しいグループです。ただプラナリアは数個の体細胞から1個の個体をつくることはできないので、それなりにヒドラより再生能力は低下しているとは言えます。

扁形動物は一応線形動物・輪形動物と同じ系統樹の幹にはいっていますが、後2者は原口がそのまま口になり反対側に肛門ができるので前口動物としてまとめられています。

これにたいして、扁形動物は肛門をもたない(あるいは口と肛門が同じ)ので、形態学的に見れば前口動物でも後口動物でもない原始的な生物と言えます。ただ刺胞動物・有櫛動物・海綿動物と異なり、扁形動物は左右相称性を持っています。遺伝学的研究からは扁形動物は前口動物に近いとされています。

毛顎動物と扁形動物は図1では左右の遠い位置にありますが、両者とも肛門を持たず左右相称であり、最近の遺伝学的研究によると両者の祖先は意外に進化的に近い位置にあるのかもしれません(11、図1の赤点線)。

これは私の想像ですが、現在でも大繁栄している刺胞動物のグループから、なぜ扁形動物のような特殊な生物がわかれて生まれてきたのかと言えば、おそらく彼らはなんらかの生存競争に不利な条件をもっていて、プランクトンの少ない不利な場所、たとえばわき水の近くの清流などに追いやられたグループではないでしょうか。そのような場所でえさを見つけるために、彼らは脳や発達した神経系を持つことになったのでしょう。まさに「革命は辺境から」起きたのかもしれません。

プラナリアの脳は図4Aでは腹側神経索の一部が肥大した臓器のように見えますが、実際には図4Bのように眼と脳は背側にあって、独立した神経によって腹側神経索と連絡しているにすぎません。プラナリアの脳はまず右脳と左脳に分かれており、それぞれから9対の神経束が周辺に伸びています(図4A)。それぞれの神経束が収納するニューロン群が集積してドメイン構造(葉、ローブ、コンパートメントなど呼び方はいろいろ)を作っています。

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脳は前後にならんだドメインにわかれているだけでなく、表層と内部でも機能分化がみられ、図5のように外側から機械刺激受容(痛圧覚)、化学刺激受容(臭覚)、介在ニューロン、光刺激受容(視覚)の各部域となっています。これは梅園らが部域特異的に発現する遺伝子をマーカーとして色分けしたものです(12)。マーカーとして用いたのは各種ホメオボックス遺伝子の発現です。ホメオボックス遺伝子群は生物の発生における指揮者のような役割を持っており、これらの遺伝子が発現する転写因子がDNAに製造すべき構造タンパク質などの種類を指示します。

このほか井上らによれば温度を感知する神経も全身に分布していて、情報は脳に集められ行動が決定されます(13、14)。温度が低い方に、光が当たらない方に移動するというのは辺境生物らしいプラナリアの特性です。

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前稿「脳のはじまり1」で、欠損すると体全体に脳ができるという ndk遺伝子を紹介しましたが、この遺伝子は体の前後軸(したがって脳の位置)を決定する元締めではないであろうことや、さまざまな遺伝子が前後軸の決定に関与していることが最近明らかになってきました(15、16)。ヒルとピーターセン(図6)はプラナリアの体の前後軸を決定しているメカニズムの枢要が wnt と notum の相互の作用抑制によるコラボレーションであることを提唱しました(15)。

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通常notumは頭部の一部の細胞に、wnt1は尾部の一部の細胞にしか発現していません(図7)。プラナリアの体が切断されると前端に主としてnotum、後端に主としてwnt1が発現し、その後の頭部発生と尾部発生を統括するわけです。

wnt1を欠損する個体では尾部は形成されず、本来尾部が形成されるべき位置に頭部が形成されたりします。notumの作用を抑制すると逆の効果となります。なぜ断片の前端と後端でそれぞれnotumとwnt1が発現するのかは謎ですが、wnt1はβカテニンの安定化、したがってその転写因子としての役割をサポートするのに対して、notumはwnt1の作用を抑制するのでβカテニンが不安定化し分解されてしまいます。

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notumとwnt1以外にも前後軸形成に関与する因子は数多く報告されつつあり(16、図8)、急速に研究は進展しています。腹背軸の形成に関与する因子も一部明らかになりつつあるようですが、今回はパスしました。前後軸が決定された後にndkなどFGF受容体関連因子、wnt、otx、netrinなどの作用によって脳形成がおこなわれるようです。

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参照

1.C N David and H MacWilliams., Regulation of the self-renewal probability in Hydra stem cell clones.,PNAS February 1, 1978. 75 (2) 886-890;
https://doi.org/10.1073/pnas.75.2.886
http://www.pnas.org/content/75/2/886

2.Ulrich Technau et al., Parameters of self-organization in Hydra aggregates., PNAS October 24, 2000. 97 (22) 12127-12131;
https://doi.org/10.1073/pnas.97.22.12127
http://www.pnas.org/content/97/22/12127

3.阿形清和・小泉修共編 「神経系の多様性 その起源と進化」第1章 p.14 培風館(2007)

4.清水裕 高等動物の消化,循環機構の進化的起源を腔腸動物ヒドラに探す 比較生理生化学 Vo1.20,No.2, pp.69-81 (2003)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika1990/20/2/20_2_69/_pdf/-char/ja

5.阿形清和・小泉修共編 「神経系の多様性 その起源と進化」第1章 pp.22-23., 培風館(2007)

6.宗岡洋二郎 神経ペプチドの比較生物学 化学と生物 Vol. 36, No. 3,  pp. 153-159 (1998)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/36/3/36_3_153/_pdf

7.藤澤千笑 ヒドラ性決定及び性転換における間幹細胞の役割 JAIRO
http://jairo.nii.ac.jp/0201/00000897

8.Charles N. David., Interstitial stem cells in Hydra: multipotency and decision-making., Int. J. Dev. Biol. 56: 489-497 (2012)
doi: 10.1387/ijdb.113476cd
http://www.ijdb.ehu.es/web/paper.php?doi=10.1387/ijdb.113476cd

9.http://www.cellbiology.bio.lmu.de/people/principal_investigators/charles_david/

10.西村理 京都大学学位論文 プラナリアDugesia japonicaのゲノム解析による、脳の進化および無性/有性生殖サイクルに関する考察 (2016)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/215189/1/yrigr01554.pdf

11.https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AF%9B%E9%A1%8E%E5%8B%95%E7%89%A9

12.Umesono, Y., Watanabe, K. & Agata, K., Distinct structural domains in the planarian brain defined by the expression ofevolutionarily conserved homeobox genes. Dev. Genes Evol. vol. 209, pp. 31-39. (1999)

13.Takeshi Inoue, Taiga Yamashita, and Kiyokazu Agata.,  Thermosensory Signaling by TRPM Is Processed by Brain Serotonergic Neurons to Produce Planarian Thermotaxis.,  The Journal of Neuroscience,  vol. 34(47): pp. 15701-15714 (2014)
http://www.jneurosci.org/content/34/47/15701

14.温度を感じる神経系の基本的なしくみ、解明される。 京都大学HP
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141119_1.html

15.Eric M. Hill, and Christian P. Petersen, Wnt/Notum spatial feedback inhibition controls neoblast differentiation to regulate reversible growth of the planarian brain., Development,  vol. 142:  pp. 4217-4229;  (2015)  doi: 10.1242/dev.123612
http://dev.biologists.org/content/142/24/4217
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4689217/

16.Sushira Owlarn and Kerstin Bartscherer, Go ahead, grow a head! A planarian's guide to anterior regeneration. Regeneration., vol. 3(3)., pp. 139-155, (2016)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27606065

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2018年5月 4日 (金)

やぶにらみ生物論104: 脳のはじまり1

さまざまな動物門のなかで海綿動物だけは脳・神経系をもっていません。彼らは心臓血管系などの臓器ももっていないので最も原始的な多細胞生物のグループだと考えられています。ただ彼らもカンブリア紀あるいはそれ以前から何億年もかけて、それなりに進化しているので原始的という言葉は適切ではないかもしれません。おそらく私達には想像もつかないような生き方を創造して、現代でも繁栄しているのでしょう(1)。

現在生きている動物のグループで、最もシンプルな神経系をもっているのは刺胞動物門(ヒドラ・クラゲ・イソギンチャク)と有櫛動物門(クシクラゲ)の生物です。最もシンプルとは言っても、何度も言うように彼らもカンブリア紀あるいはそれ以前から何億年もかけて進化しているので、それなりに必要十分な神経系なのでしょう。ヒドラの触手と私達の手とどちらが器用かというと一概には言えないかもしれません。そもそも彼らの触手には毒針が装備されていて、触るだけでエサが麻痺して食べられるのを待つだけになるのです(2)。弓矢や鉄砲を使わないとエサがとれなかった私達より素晴らしいと思います。

図1はヒドラの神経を神経特異的に存在する RFamide peptide (3)の免疫染色で可視化したものです(4-6)。ヒドラの神経細胞は口の周囲に特に密集しています(図1B、C)。触手の動きと連携してエサをとることが最も神経系の重要な役割なのでしょう。おそらく周口神経環(図1B)が口と触手の動きを統合しているのでしょう。小泉らはこれを中枢神経系としています(6)。

刺胞動物や有櫛動物には、まだ脳らしき臓器は存在しません。胴体にも神経細胞は存在し、しっかり連絡もしているようですが、口の周囲に比べると数は少ないようです(図1D)。

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図2はクラゲの場合ですが、これも図1と同様な方法で神経を可視化したものです(5、7)。クラゲの場合、口の周りにも神経細胞の集中はみられますが、むしろ傘と触手の境目にぐるりと集中している部分があり、神経環が形成されています(図2)。固着生物であるヒドラと違って、クラゲの場合は泳ぐことが重要であることが推測されます。神経環は内側と外側の2重構造になっています(図2B)。外側は触手、内側は傘の動きを統合する役割なのでしょうか?

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刺胞動物は2胚葉動物であるにもかかわらず、立派な筋肉を持っていて触手を自在に動かしています。この筋肉は3胚葉動物の筋肉とは異なり、皮膚を兼ねた役割を果たしています。おそらく独自に進化したものなのでしょう(8)。

現存する生物の中では、プラナリアが最も最初に脳らしき臓器を獲得したと考えられています。彼らは腹部神経索と脳からなる中枢神経系をもっています(9、図3)。図3では、Proprotein convertase 2 という神経特異的に存在する蛋白質分解酵素のmRNAを染色して、神経組織を可視化したものです。ここで明らかなように、プラナリアの眼の腹側頭部に、神経細胞が集中した脳らしき構造が見えます。

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理研の Cebria、小林ら(阿形研究室、図4)によって、プラナリアの脳形成に必要な遺伝子である nou-darake(ndk) が発見されています(10)。この遺伝子の発現を阻害すると、頭部だけでなく体の各所に脳ができてしまいます(図4)。遺伝学では、その遺伝子が欠損するとどのようなことが起こるかということを遺伝子名にすることが多いので、この遺伝子は「脳だらけ(ndk)」と命名されました。Cebria氏 はカタルーニャ人で、現在はバルセロナ大学生物学部の教授です(11)。小林氏は奈良県立医科大学・永渕研のスタッフをしておられるようです(12)。

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普通に考えれば、ndkは脳の形成を阻害する因子なので、頭部には少なく尾部に多いはずだと思われますが、実際には頭部に多く尾部に少ないという驚くべき分布になっています(図5)。なぜでしょう? 

ndk遺伝子がコードする蛋白質は、FGF受容体ファミリーと相同性のある、2つのイムノグロブリン細胞外ドメインをもつ1回膜貫通型蛋白質ですが、細胞内ドメインにはキナーゼ活性は存在していないとされています(13)。このことからFGF受容体に結合して脳形成を促す因子が、とりあえずndk蛋白質に結合して頭部に局在することになり、その後なんらかの機構によってFGF受容体に受け渡されて脳形成が行なわれると考えられているようです(9)。

ただ図5ではndk遺伝子の発現を阻害した場合、咽頭より後部の脳形成活性は急激にゼロとなっていますが、図4のように尾部端まで脳らしきものが見られる場合もあるようで、一筋縄ではいきそうにもない感じもします。実際最近では研究が進展して、頭尾の決定にはwnt遺伝子がより決定的な役割を果たしており、様々な関連遺伝子も報告されるようになりましたが、詳細は次記事「脳のはじまり2」で述べる予定です。

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プラナリアの脳というのは何をするために必要なのでしょうか? ひとつはプラナリアは眼をもっていて、光を当てるとそこから逃げて暗い安全な場所に移動しようとします。このためには眼という感覚器官からの情報を解析して、筋肉を逃避という行動に向けて統合的に動かさなければなりません(9)。もっと重要なのは、エサから出る化学物質を検知して、エサに接近する行動をとらなければなりません(14)。また体がさまざまな構造体に接触することを感知し、安全な場所に移動したり、エサの場所を記憶したりするのでしょう。この他全身の温度感知細胞の情報を脳に集めて、低温の方向に移動するという行動も知られています(15)。

それではプラナリアを頭部と尾部に切断すると、頭部はエサの場所を覚えて居るけれども、尾部は忘れてしまうということになるのでしょうか? この疑問についてショムラットとレビンは非常に洗練された実験で答えを出しました(16)。

プラナリアは光を避けて暗い方に移動する性質があり、またオープンスペースを避けて壁際など狭い場所に潜り込む傾向があります。ショムラットとレヴィンはシャーレの縁を除く大部分を削りザラザラにして、そのスペースに出て行ったらエサがあるという状況を学習させます。さらにそのエサにスポットライトを当てて、光があってもそこにエサがあることを学習させます。学習していないプラナリアはシャーレの縁ばかりをぐるぐる回ってなかなかエサにたどりつきませんが、学習したプラナリアは短時間でエサにたどりつきます(図6)。学習効果は少なくとも2週間は認められました。

驚くべきは切断した尾の方から頭を再生した個体も、切断される前の学習効果が完全に失われてはいなかったことです。これはプラナリアの神経索か末梢神経に記憶が残っていることが示唆されます。これは脳をもたないヒトデが景色を覚えているということを考えると、それほど不思議なことではないかもしれません。あるいはプラナリアは情報の統合や行動の決定は脳で行なうにしても、記憶は脳と神経索でシェアしているのかもしれません。脳で行なうことすべてを神経索も一部行なっている可能性、さらには末梢神経が記憶に関与している可能性もあります。

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京都大学の西村はプラナリアの中枢神経系の発生に関わる82個の遺伝子を同定し、このうち91%が同じ扁形動物である住血吸虫のゲノムにも相同配列が存在することを確認し、プラナリアは住血吸虫との共通祖先から分岐する以前に中枢神経系を獲得していたことを示唆しています(17)。またこのうち3分の1は住血吸虫では発現が検出されなかったことから、寄生生活を続けるうちに住血吸虫はある意味退化したものと思われます。

プラナリアは自切によって無性生殖を繰り返すうちに、その全能性幹細胞に多数の変異が発生するそうです(17、18)。そうすると無性生殖を繰り返す中で、環境に適応した幹細胞が選択されて(細胞レベルでのクローニングと言えます)、その遺伝子が有性生殖によってまた子孫に伝達されるというシステムが存在することになり、これはわれわれのような有性生殖しか行なわない生物にくらべて、環境に適応しながら種を保存するという目的からみると、圧倒的に有利であることは明らかです。こうしてみると私達が高等生物で、プラナリアは下等生物と言うのはちょっと傲慢かなとも思います。

参照

1)世界の不思議 海綿 
https://ameblo.jp/jiyon7125/entry-10192505717.html

2)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%89%E3%83%A9_(%E7%94%9F%E7%89%A9)

3)大杉知裕、脊椎動物の脳におけるRFamideペプチドの起源を探る—円口類からのアプローチ—、比較内分泌学 vol.36, no.136, pp. 31-38 (2010)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nl2008jsce/36/136/36_136_31/_pdf

4)https://invbrain.neuroinf.jp/modules/htmldocs/IVBPF/Hydra/hydra-nervous-system.html

5)小泉修 神経系の起源と進化: 散在神経系よりの考察、比較生理生化学 vol.33, no.3, pp. 116-125 (2016)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hikakuseiriseika/33/3/33_116/_pdf

6)Koizumi O. et al, The nerve ring in cnidarians: its presence and structure in hydrozoan medusae., Zoology (Jena). vol.118, no.2 pp. 79-88. (2015)
doi: 10.1016/j.zool.2014.10.001. Epub 2014 Nov 8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25498132

7)小泉修 刺胞動物の神経系 Nervous System of Cnidaria、Invertebrate Brain Platform
https://invbrain.neuroinf.jp/modules/htmldocs/IVBPF/Hydra/Cnidaria-nervous-system.html

8)Patrick R. H. Steinmetz et al., Independent evolution of striated muscles in cnidarians and bilaterians., Nature vol. 487, pp. 231–234 (2012)
doi:10.1038/nature11180

9)Umesono Y and Agata K.,  Evolution and regeneration of the planarian central nervous system. Dev Growth Differ. 2009 Apr;51(3):185-95. doi: 10.1111/j.1440-169X.2009.01099.x
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19379275

10)Francesc Cebria, Chiyoko Kobayashi (equal contribution) et al., FGFR-related gene nou-darake restricts brain tissues to the head region of planarians.Nature vol. 419, pp. 620-624 (2002)  doi:10.1038/nature01042
https://www.researchgate.net/publication/11085010_FGFR-related_gene_nou-darake_restricts_brain_tissues_to_the_head_region_of_planarians

11)http://www.ub.edu/planaria/

12)http://www.naramed-u.ac.jp/~biol/site/members.html

13)小林 千余子 et al.,  プラナリア頭部に特異的に発現する721HH遺伝子の役割
http://www2.jsdb.jp/kaisai/jsdb2002/edpex104.bcasj.or.jp/jsdb2002/abst/PD3-094.html

14)下山せいら プラナリアの摂食行動の解析; 摂食を誘起する化学物質の探索と定量的投与 つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2011) 10, 40
http://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol10No1/TJBvol10no1_ver20110217.pdf#search=%27%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AE+%E8%84%B3%E5%86%8D%E7%9B%A4%27

15)https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2014/11/20141120_01.html

16)Tal Shomrat, Michael Levin, An automated training paradigm reveals long-term memory in planaria and its persistence through head regeneration
Journal of Experimental Biology  2013  :  jeb.087809  doi: 10.1242/jeb.087809  Published 2 July 2013
http://jeb.biologists.org/content/early/2013/06/27/jeb.087809
http://jeb.biologists.org/content/jexbio/early/2013/06/27/jeb.087809.full.pdf

17)西村理 京都大学学位論文 プラナリアDugesia japonicaのゲノム解析による、脳の進化および無性/有性生殖サイクルに関する考察 (2016)
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/215189/1/yrigr01554.pdf

18)Nishimura O.et al., Unusually Large Number of Mutations in Asexually Reproducing Clonal Planarian Dugesia japonica.
PLoS One., vol.10(11) (2015) :e0143525. doi: 10.1371/journal.pone.0143525. eCollection 2015.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4654569/

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2018年4月25日 (水)

やぶにらみ生物論103: プラナリアの再生

神経系の進化を見ていく前に、生物の分類と進化を復習しておきましょう。動物門と進化について図1を示しますが、この図のオリジナルは調べましたがわかりませんでした。多分米国の大学で教育用に作成したものだと思います。私が若干改変して、日本語訳もつけました。この様にパネルにしてあると、いかにもこれで確定というようにみえますが、実は現在でもあいまいな部分もあるので、これからの科学の進歩に応じてこのパネルも進化するべきものです。字が細かいですが、クリックすると拡大できます。

このパネルをみると非常にインテリジェントで高等な生物と、原始的な生活をずっと続けている生物があるようにみえます。しかし今生きている生物はすべて数十億年の進化を経て生き残っている生物なので、一見単純で原始的と思われる生物であっても、それなりに幾度もの大絶滅時代を生き抜き、環境に適応しながら子孫を残してきた強者ばかりなので、どれが高等生物でどれが下等生物などとは言えません。

むしろホモ属などは最近地球に現われた新参者なので、地球環境の変化には弱いグループかもしれません。実際ホモ属で生き残っているのはサピエンスだけで1属1種という情けない状況です。ただ遺伝子も生活も比較的保守的に維持してきたグループと、大幅に変更してきたグループは存在します。

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多細胞動物は大きく分けて無胚葉・2胚葉(内胚葉と外胚葉)・3胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)の3つのグループに分類できます。無胚葉の生物ではそれぞれの細胞の役割分担はありますが、組織らしいものはありません。神経も形成されません。2胚葉の生物は体の内側(内胚葉)と外側(外胚葉)に別の細胞群を配置し、内側は主に消化管で栄養をとるために存在し、外側は皮膚と感覚器官、そして神経を形成します。3胚葉になるとこれに中胚葉が加わり、骨・筋肉・血管などを形成します。

神経が形成されるためには2胚葉が分化して、その外胚葉が必須ですが、無胚葉の生物であるカイメンも「くしゃみ」ができるという報告があります(1、2)。これは神経らしい組織が形成される以前から電気信号による情報伝達が行なわれ、組織的な反応がみられたということを示唆しており、興味深い知見です。さらにカイメンどころか単細胞生物であるゾウリムシも、物体に衝突して方向転換したり、捕食者から逃げようとするときに膜電位変化を利用しているという報告があり、神経の萌芽はすでに単細胞生物でもみられるようです(3)。

まあそれはさておき、図1の2胚葉性の生物である刺胞動物と有櫛動物は散在神経系という中枢の無い神経系を持つとされています。刺胞動物のひとつであるヒドラの神経系の図(コトバンクより)を図2に示しました。「ヒドラの神経系は、どこかを触るとその刺激は全方向に広がり体が縮む。この神経系にはシナプスによる方向性の規定がない。」などと現在でも記載されることがありますが、アンダーソンとスペンサーははやくも1989年に、そんなことはなく、ヒドラやハチクラゲの神経系にもちゃんと方向性を規定するシナプスが存在することを証明しています(4)。小泉修によると、「刺胞動物の散在神経系は、神経系の要素の全てを持ち合わせている」そうです(5)。

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神経系のシステムは発達した中枢神経系をもつ脊椎動物、小さくても優秀な中枢神経系をもつ節足動物、中枢神経系をもたない刺胞動物などすべての生物で、基本的に同じルールで作動しているので、ルーツはひとつと思われていましたが、ひとつ例外があることが報告されています。それは刺胞動物と近縁とされている有櫛動物(クシクラゲ類)で、このグループのニューロンは他の生物で発現しているニューロン特異的な遺伝子が発現されていなくて、かつ神経伝達物質も他の生物とは全く異なるということです(6)。おそらくこのグループは刺胞動物とはかなり離れた進化的位置にある生物なのでしょう。

図2をみると、扁形動物のプラナリアは明らかに散在神経系を逸脱して、規則的な神経系をもっていることがわかります。見た目いわゆるはしご型神経系をもつとされる環形動物や節足動物よりはしごらしくみえますが、体節をもたない生物なのではしご型とはいわず、かご状神経系とよびます(5)。プラナリアにも脳があり、これはカエルの発生初期に一過性に現われる神経系の分布パターンに似ているそうです(7)。

プラナリアの主要な神経系は腹側にあり、このタイプの神経系は扁形動物・線形動物・環形動物・節足動物・軟体動物などに共通しています。一方主要な神経系を背側にもつのは尾索動物・頭索動物・脊椎動物です。後者の神経系は管状神経系と呼ばれています(図2、カエル)。前者のなかでも、イカの神経系などはとてもはしご状という言葉とはかけはなれた構造で、むしろ脊椎動物に近いような構造になっています(図2、イカ)。

脊椎動物に近縁な門である棘皮動物の神経系は、なんと中枢神経系・脳をもっていないので散在神経系とされています(図2、ヒトデ)。しかしヒトデは腕の先端に眼をもっていて、周りの景色を認識しているそうなので、脳らしきものがないからといって、極めて機能が低いとはいえないようです。珊瑚礁から1メートル離しておいても景色を見て直線的に帰ることができるので、当然記憶もあるのでしょう(8)。見た目ショボくても、周口神経環が脳の代わりをしているのかもしれません(図2)。

さて脳の研究を行なうにあたって、最もベーシックな材料としてプラナリアは適切そうに見えます。神経系の構造も「かご状」と名付けられているとはいえ、実際にははじご状でガングリオンもなく、シンプルで解析しやすい素材と思われます。プラナリアという生き物は水槽で熱帯魚を飼育している人にはお馴染みらしく、特に有害でも無いと思うのですが、水槽に妙な虫が張り付いているのは美観を損ねるので、様々な駆除剤や道具が発売されています(9)。

プラナリアは扁形動物門のウズムシ綱に属していますが、他の綱の扁形動物はほとんどが寄生虫です(図3)。そもそも硬い皮膚もなく、攻撃手段も毒もない生物なので、普通に自然の中で生きていくのは困難だったのでしょう。そのような仲間の中で、どうしてウズムシ綱の生物、たとえばコウガイビルやプラナリア(図3)の仲間だけが他の生物に寄生しないで生き延びられたのでしょう? それは彼らが驚異的な再生能力を持っていることが大きな要因だったと思われます。

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すなわちコウガイビルやプラナリアは、たとえば捕食者に半分に食いちぎられても、その部分が食べられているうちに残りの半分が逃げ延び、再度フルの体を再生できる能力によって生き延びてきたと考えられるわけです。

プラナリアの再生能力について、最初に詳しい研究を行なったのは John Graham Dalyell という人物で、1814年に研究結果をまとめて本:「Observations on some interesting phenomena in animal physiology, exhibited by several species of Planariae」 にしており、現在フリーで読むことができます(10)。さすがに200年前の古めかしい英語なので、辞書をひきながらでないと読めませんでした。

彼は"the Society of Arts for Scotland" のプレジデントを務めたほどの人で、むしろ文学者であり(11)、この本の序文でも自分は自然科学者ではないし、自然科学者の手も借りていないが、記述はありのまま観察したことであり、不十分であっても真実であると述べています。プラナリアの再生について彼が記載していることの一部を図4にコピペしました。肖像画を探しましたが見つかりませんでした。

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その後、プラナリア再生研究者として意外な人物が登場します。それは以前にこのサイトでも取り上げた(12)遺伝学者のトーマス・ハント・モーガン(図5)で、彼はショウジョウバエの遺伝学にのめりこむ以前の若い頃、プラナリアの再生実験をやっていて、論文を少なくとも11遍は書いているそうです。The node が忘れられた古典論文のひとつとして取り上げています(13)。

モーガンとチャイルドは再生に必要な物質の勾配という概念を提出し(14)、それは一世紀以上の年月を経て、Reddien, Almuedo-Castillo、梅園、阿形(図5)、その他多くの研究者達の努力によって証明されました(15-17)。プラナリア切断と再生の様子は理研のサイトから借用しました(図5)。プラナリアの再生の様子をアップしているサイトがあります(18)。

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そのメカニズムの概要は、図6のようにERK蛋白質とβ-カテニン蛋白質は体の前後軸に沿って相反する活性勾配を形成し、その結果、体の異なる領域(頭、首、腹と尾)が再生できるということだそうです。ERK蛋白質(細胞外シグナル調節キナーゼまたは古典型マップキナーゼ)は蛋白質中のセリンまたはスレオニンをリン酸化する酵素ですが、活性化されることにより、細胞質から核に移行して遺伝子発現に影響を及ぼします。

梅園のサイトの記載をコピペすると「プラナリアの幹細胞はERK蛋白質の活性化によって, もともと頭部の細胞に分化するように指令されますが, nou-darake 遺伝子や Wnt/ß-カテニン経路が ERK蛋白質の活性化レベルを抑制することによって, その指令を首や腹や尾部の細胞へとそれぞれ運命転換させていると結論づけました」だそうです(19) 。Nou-darake 遺伝子については次の記事でとりあげる予定です。そのほかにも頭部・尾部の再生を制御する因子はありそうですが、そう遠くない時期に全容が解明されるのではないでしょうか。

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ヒトの場合臓器を作成するには、通常さまざまな人為的操作を行なってES細胞とかiPS細胞を作成しなければなりません。しかしプラナリアは体内に多数の自動的に機能を発揮する多能性幹細胞をもっていて(20)、体が切断されるとそれらが活性化して増殖・分化を繰り返し、新しい個体をつくりだすことができます。幹細胞がどのような種類の細胞に分化するかは図6のような因子の濃度勾配などによって決定されるというわけです。

ヒトも体中に多能性幹細胞を埋め込んでおけば、切られても再生できるかというと、それは無理です。血液循環で細胞に栄養供給を行なっている生物は、ヒトに限らず再生する前に出血多量で死亡します。

 

参照

1)Danielle A Ludeman, Nathan Farrar, Ana Riesgo, Jordi Paps and Sally P Leys., Evolutionary origins of sensation in metazoans: functional evidence for a new sensory organ in sponges. BMC Evolutionary Biology vol. 14., no. 3., (2014)
https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/track/pdf/10.1186/1471-2148-14-3
https://doi.org/10.1186/1471-2148-14-3

2)脳のない海綿動物も“くしゃみ”をする national geographic
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8741/

3)Eckert, R. and Naitoh, Y. (1972) Bioelectric control of locomotion in the ciliates. J. Protozool. 19:237-243.

4)Peter A. V. Anderson, Andrew N. Spencer., The importance of cnidarian synapses for neurobiology., Developmental Neurobiology vol.20., no.5, pp. 435-457 (1989)

5)小泉修 神経系の起源と進化:散在神経系よりの考察 比較生理生化学 vol. 33, no.3, pp.116-125 (2016)

6)Leonid L. Moroz et al., The ctenophore genome and the evolutionary origins of neural systems., Nature vol. 510, pp. 109–114 (2014) doi:10.1038/nature13400
http://www.nature.com/articles/nature13400

7)阿形清和 プラナリアの脳は何を語るのか 生命誌24号
https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/024/ex_2.html

8)ヒトデの目はみえていた National geographic (2014)
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8726/

9)プラナリア駆除
https://www.amazon.co.jp/gp/search/ref=sr_gnr_fkmr0?rh=i%3Apets%2Ck%3A%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%A2&keywords=%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%82%A2&ie=UTF8&qid=1524371589

10)John Graham Dalyell, Observations on some interesting phenomena in animal physiology, exhibited by several species of planariae.  Archibald Constable & Co. Edinburgh (1814)
https://www.biodiversitylibrary.org/item/40487#page/11/mode/1up
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=uc2.ark:/13960/t3hx16x5z;view=1up;seq=9

11)Online Books by John Graham Dalyell
http://onlinebooks.library.upenn.edu/webbin/book/lookupname?key=Dalyell%2C%20John%20Graham%2C%201775%2D1851

12)http://morph.way-nifty.com/grey/2016/10/post-152f.html
http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=86091564&blog_id=204154

13)Morgan, T.H. (1898) Experimental studies of the regeneration of Planaria maculata. Archiv fur Entwicklungsmechanik der Organismen 7, 364-397
http://thenode.biologists.com/forgotten-classics-t-h-morgan-planarian-regeneration/research/

14)Meinhardth, H (2009) Beta-catenin and axis formation in planarians. Bioessays 31: 5-9.

15)Umezono et al. The molecular logic for planarian regeneration along the anterior-posterior axis.  Nature vol. 500, pp. 73-76 (2013)
http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2013/130725_1.htm

16)Almuedo-Castillo M, Salo E, Adell T.,  Dishevelled is essential for neural connectivity and planar cell polarity in planarians. Proc Natl Acad Sci USA vol. 108: pp. 2813-2818 (2011)

17)Petersen C.P., Reddien P.W.  Wnt signaling and the polarity of the primary body axis. Cell vol. 139: pp. 1231-1241. (2009)

18)プラナリアの再生  https://youtu.be/vXN_5SPBPtM

19)http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/life/regeneration/LRB/research_yu.html

20)Rink J.C., Stem cell systems and regeneration in planaria., Dev Genes Evol., vol. 223(1-2): pp. 67-84. (2013) doi: 10.1007/s00427-012-0426-4. Epub 2012 Nov 9.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23138344

 

 

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2018年4月11日 (水)

やぶにらみ生物論102: ニューロン

脳神経組織の主役はニューロンという細胞(神経細胞)です。どんな細胞なのでしょうか? この細胞は電気的および化学的に情報を伝達する能力に長けていることが特徴であり、典型的なものを図1に示します。とりあえずここではニューロンの細かい分類などは避けて、おおざっぱにどういうものかをみていきましょう。

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細胞核周辺の神経細胞体と呼ばれる部分から樹状突起や軸索という細長い枝がでたような構造の細胞です。これらの枝には数マイクロメーター以下の樹状突起から、脊髄にある1メートルに及ぶ軸索突起まで、10の6乗のバラエティーで様々な長さのものがあります。

軸索はシュワン細胞による鞘のような構造(ミエリン鞘=髄鞘)で被われていますが、皮膚の痛覚神経のようにこのような被覆組織で被われていない軸索もあります。鞘が途切れている部分をランヴィエ絞輪(こうりん)と呼びます。これは発見者であるルイ=アントワーヌ・ランヴィエ(1、図8)にちなんで命名されました。

ニューロンはみんな図1のような形態かというとそうではなくて、たとえば軸索が枝分かれしているとか、複数の軸索があるとか、樹状突起がないとか、様々なバラエティーがあります(2、3)。ニューロンの構造を精細に記載し、その機能について正しく指摘したのはスペインの神経科学者カハールでした(図2)。

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それまで中枢神経は多核の細胞が切れ目の無い網のような構造とっていると考えられていたのですが、カハールは図1のようなニューロンが多数集合した、非連続的な細胞の集合体であるという・・・いわゆる「ニューロン説」・・・を唱えました。さらにニューロン同士はシナプスという特殊な接合部で連絡すると考えました(図5)。

カハールは1906年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。ニューロン説は後にシナプスの構造が電子顕微鏡で明らかにされることによって、正しい学説であることが証明されました(図6)。

さて、ではニューロンはどのような方法で情報を伝達するのでしょうか? それは軸索とシナプスで大きく異なります。軸索での情報伝達に主役として関わるのは NaK-ATPase という細胞膜にはめ込まれた酵素です。この酵素を発見したのはロバート・ポストとイェンス・スコウです。

イェンス・スコウは麻酔薬の作用機構を研究していて、麻酔薬がナトリウムチャンネルを解放することによって神経細胞内のイオン濃度を変化させ、麻酔の効果が現われると考えていました。チャンネルというのは水路という意味ですが、細胞にはさまざまなチャンネルがあり、それぞれ水門を持っていて開けたり閉じたりすることができます。ただし水位(濃度)が低いところから高いところへは水(イオンなど)を移動させることはできません。そのためにはポンプが必要です。

イェンス・スコウは1958年にウィーンの学会でロバート・ポストに会い、ポストが赤血球で2分子のカリウムイオンが細胞内に汲み入れられると同時に3分子のナトリウムイオンが細胞外に汲み出されることを発見していたことを知りました。ポストはそのポンプの阻害剤としてウアバインを使っていましたが、スコウが研究していた神経細胞のナトリウムポンプ酵素もウアバインで阻害されることがわかり、スコウの酵素NaK-ATPaseがNaKポンプの実体であること判明しました(4、図3)。

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イェンス・スコウはNa+K+-ATPaseの発見の功績によって、1997年のノーベル化学賞を受賞していますが、この発見にはロバート・ポストも大きく貢献したことは間違いありません。これを端緒として、軸索における情報伝達は何らかの刺激によってNa+チャンネルが解放されて、Naイオンが細胞内に流入することによって活動電位が発生し、それが軸索に沿って伝播することによって情報が伝達されることがわかりました(図4)。

ニューロンは通常はNa+を細胞外に排出するために(ナトリウムポンプを動かすために)、生成したATPの70%を消費しています(5)。カリウムはNa+K+-ATPaseのはたらきで細胞内にとりこまれますが、実はカリウムイオン漏洩チャンネルという常時開放している穴を通って外に出てしまうため、イオンの密度勾配にはあまり貢献せず、実質ナトリウムの濃度勾配が電位を決めています(6)。ナトリウムイオンのチャンネルは通常は閉じていて、活動電位を発生させるときに開きます(6、図4)。

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活動電位は両側に伝播しますが、神経細胞体が刺激を受けた場合、軸索が1本の細胞では軸索と反対側は行き止まりで、実質軸索内を軸索末端の方向に伝播します(図4)。軸索まで到達したシグナルは、さらに軸索末端からシナプスを通じて隣接する細胞に受け渡されます(図5)。シナプスでの信号伝達は後記するように一方通行なので、活動電位が両側性であっても、神経系における信号の流れは結果的に一方通行になります。

シナプスはカハールのニューロン説の基盤になっていたわけですが、その名付け親はカハールではなくシェリントン(Charles Scott Sherrington 1857-1952)です。シェリントンは筋が収縮すると、その逆側の筋(拮抗筋)が弛緩するという「シェリントンの法則」を発見したことで有名ですが、「脳は多数の反射を有機的に統合して複雑な運動を作り上げる作用をもっている」という学説を提唱して、近代神経生理学の基礎を築いた人です(7)。1932年にアクションポテンシャルの研究で有名なエドガー・エイドリアンとともにノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

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ニューロン説やシナプスが19世紀から唱えられ、また発見されていたにもかかわらず、20世紀の半ば以降にシナプスが電子顕微鏡で観察されるようになるまで、それらは一般に認知されませんでした。このあたりの事情は齋藤基一郎と佐々木薫の総説などに詳述されています(8、9)。カハールのニューロン説を勝利に導いたのは、エドゥアルド・デ・ロバーティス、ジョージ・パラーデらによる電子顕微鏡観察の研究結果でした(10、11、図6)。

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文献8によると、デ・ロバーティス、パラーデ達の研究結果から「これによるとシナプス前膜とシナプス後膜は二枚の離れた厚さ7nmの膜であり,両者はシナプス溝(幅約20nm)の間隙によって隔てられており,シナプス前膜側にある神経伝達物質を含むシナプス小胞は直径50nmのサイズであることが明らかにされた」とあります。

前膜・後膜という名前からわかるように、シナプスにおける情報伝達には方向性があり、シナプス小胞が存在する側から存在しない側に情報が伝達されます。シナプス小胞には神経伝達物質が含まれており、エキソサイトーシスまたは輸送体によってシナプス間隙に放出され、シナプス後膜の受容体によって受け取られます(12、図5)。

神経伝達物質としては 1.アミノ酸(グルタミン酸、γ-アミノ酪酸、アスパラギン酸、グリシンなど)、2.ペプチド類(バソプレシン、ソマトスタチン、ニューロテンシンなど)、3.モノアミン類(ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン)とアセチルコリンなどが知られています(13)。神経伝達物質の種類によってその受容体が異なるので、その後に起こることも違ってきますが、典型的には受容体がイオンチャンネルであり、伝達物質の結合によってナトリウムが通過して活動電位が発生します。これによって電気シグナル(軸索)→化学シグナル(シナプス)→電気シグナル(樹状突起)→電気シグナル(軸索)という形でシグナル伝達が行なわれることになります(図5)。

シナプスにおける化学情報伝達の典型例は次のように考えられています(14)。

1.前シナプス細胞の軸索を活動電位が伝わり、軸索末端に達する。

2.活動電位によ軸索末端膜上に位置する電位依存性カルシウムイオンチャネルが開く。

3.するとカルシウムイオンがシナプス内に流入し、シナプス小胞がエクソサイト-シスにより細胞外に放出される。

4.神経伝達物質はシナプス間隙を拡散し、後シナプス細胞の細胞膜上に分布する神経伝達物質受容体に結合する。

5.後シナプス細胞のイオンチャネルが開き、細胞膜内外の電位差が変化する。

シナプスは軸索末端と樹状突起をつなぐような典型例以外に、図7のようにさまざまな場合が存在し、それぞれ異なる意義を持つと考えられます。

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軸索はミエリン鞘(髄鞘)で被われていると前に述べましたが、このミエリン鞘はルドルフ・フィルヒョウ(図8-脳科学辞典 髄鞘より)によって1858年に発見され記載されたグリア細胞がその実体です(15)。このグリア細胞は中枢ではオリゴデンドロサイト、末梢ではシュワン細胞と呼ばれています。オリゴデンドロサイトやシュワン細胞はニューロンの軸索を毛布でぐるぐる巻きにするように被覆し(図8)、軸索を絶縁することによって軸索の電気伝導速度を高めています。また軸索の物理的保護や栄養供給などさまざまなサポートを行なっていると考えられています(16-18)。

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ミエリン鞘が軸索から脱落する病気は脱髄疾患と呼ばれており、大原麗子が罹患していたといわれるギラン・バレー症候群はその例として有名になりました。多発性硬化症や白質ジストロフィーも含まれます(18)。ミエリン鞘は脊椎動物だけでなく、エビやミミズにも存在するそうです(18)。

このミエリン鞘に切れ目があることを発見したのがルイ・ランヴィエです(図8)。彼の名前をとってランヴィエ紋輪と呼ばれています(図1、図9)。ランヴィエの絞輪は単に細胞の切れ目ではなありません。ミエリン鞘を持つ軸索は活動電位(脱分極)を連続的に移動させるのではなく、ランヴィエ絞輪の部分だけでとびとびにイオンの出し入れを行なって、高速に伝導をおこなっている(跳躍伝導)ことがわかっています(図9)。

このメカニズムを発見したのは戦後ロックフェラー財団の援助で渡米し、そのまま米国籍を取得した日系アメリカ人の生理学者田崎一二(たさき・いちじ)です(19、図9)。彼は97才までNIHで働いていたそうで、これはNIHのレコードだそうです(20)。奥様も一緒に写真に写っていますが、奥様(Nobuko氏)は70年近くにわたって彼のアシスタントを勤めてこられたそうで、そのことはNIHのマイルストーンにも記載されています(20)。

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活動電位(アクション・ポテンデャル)という言葉がこの記事にもしばしば登場しましたが、この測定に成功したのがホジキンとハクスレイで、彼らはイカの神経軸索に金属製の電極を用いて膜電位とその変化を記録して解析した功績によって、1963年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています(21、図10、図11)。それ以来イカは神経の研究にとって大事な素材となっており、脳神経科学の進歩に大きな貢献をしました。

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イカの人工飼育は1970年代まで非常に困難でしたが、物理学者だった松本元はその原因が水槽のアンモニア濃度にあることを喝破し、アンモニアを分解するバクテリアのバイオフィルターで水を浄化することによって飼育に成功しました(22)。これは神経科学の進歩におおいに役立ちました。彼は「愛は脳を活性化する」(23)という本を執筆しており、「情がマスターで、知はスレイヴ」と述べているそうです(私は未読)。

参照

1)https://en.wikipedia.org/wiki/Louis-Antoine_Ranvier

2)http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/10-1/index-10-1.html

3)https://en.wikipedia.org/wiki/Neuron

4)https://en.wikipedia.org/wiki/Jens_Christian_Skou

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/Na%2B/K%2B-ATP%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%BC

6)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%86%9C%E9%9B%BB%E4%BD%8D

7)サイエンスジャーナル 第32回ノーベル生理学・医学賞 シェリントン・エイドリアン「All or none low」 (2012)
http://sciencejournal.livedoor.biz/archives/3778846.html

8)齋藤基一郎、佐々木薫.電子顕微鏡によるシナプス研究の歩み その超微構造と働き、茨城県立医療大学紀要第6巻 pp.23-36(2001)
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110000487031.pdf?id=ART0000878702

9)William A. Wells.From the archive., The discovery of synaptic vesicles. 
Published Online: 3 January, 2005 | Supp Info: http://doi.org/10.1083/jcb1681fta4
http://jcb.rupress.org/content/jcb/168/1/13.2.full.pdf

10)De Robertis, E.D.P., and H.S. Bennett., Some features of the submicroscopic morphology of synapses in frog and earthworm.,  J. Biophys. Biochem. Cytol. vol.1, pp. 47–58
http://jcb.rupress.org/content/1/1/47?ijkey=606ed65709e41ffb73559e700fc15f6bfac2c752&keytype2=tf_ipsecsha

11)Palade, G.E., and S.L. Palay. 1954. Anat. Rec. 118:335. (1954)

12)脳科学辞典 シナプス小胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9%E5%B0%8F%E8%83%9E

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E4%BC%9D%E9%81%94%E7%89%A9%E8%B3%AA

14)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9

15)脳科学辞典 グリア細胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B4%B0%E8%83%9E

16)Nave KA, Trapp BD., Axon-glial signaling and the glial support of axon function., Annu Rev Neurosci. vol. 31, pp. 535-561. doi: 10.1146/annurev.neuro.30.051606.094309. (2008)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18558866

17)Nave K., Myelination and the trophic support of long axons., Nat Rev Neurosci., vol. 11(4), pp. 275-283., doi: 10.1038/nrn2797. (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20216548

18)脳科学辞典 髄鞘
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%AB%84%E9%9E%98

19)Tasaki, I., The electro-saltatory transmission of the nerve impulse and the effect of narcosis upon the nerve fiber. Am. J. Physiol. vol. 127, pp. 211-227 (1939)

20)NIH record - mile stones - Biophysicist Tasaki Leaves Extraordinary Scientific Legacy
https://nihrecord.nih.gov/newsletters/2009/02_20_2009/milestones.htm

21)The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1963. Award Ceremony Speech.
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1963/press.html

22)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E6%9C%AC%E5%85%83

23)松本元 「愛は脳を活性化する 」 岩波科学ライブラリー (1996)

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2018年4月 4日 (水)

やぶにらみ生物論101: 脳科学の世界を初訪問

「やぶにやみ生物論」も記事が100になって、ほぼ生物学の基礎的な分野は網羅したように思います。まとめて読みたい方は、ほぼ同じ記事が「生物学茶話@渋めのダージリンはいかが」にまとめて掲載してありますので、そちらでお読みいただければ幸いです。
http://morph.way-nifty.com/lecture/

一度に全部は表示できないので、右にあるサイドバーの「バックナンバー」というタイトルをクリックしていただくと、全ての記事を閲覧できます。

101からはさてどうしょうかということですが、私にとっては未知分野である脳科学に挑戦してみようかなと思っています。といっても試験管とピペットを持って何かやるわけではなく、駄文をアップするだけです。それでもウソは書きたくないので、遅遅とした歩みでも慎重にやりたいとは思っています。

脳というのは独立した臓器ではなく、脊髄・末梢神経ひいては感覚器官や運動器官と繋がっているので、体全体に広がっている漠然とした臓器あるいはシステムの一部と考えることも可能です。ですから脳科学(ブレインサイエンス)というのはどちらかといえば一般用語であり、専門的にはニューロサイエンスと言うのが普通でしょう。中枢も末梢もその構成中心となるのは神経細胞(ニューロン)であり、これをサポートする様々な細胞達と協力して組織を構成しています。

ではまず科学の眼で脳について考察した古代の人々をみていきましょう。医学の父と呼ばれるヒポクラテスは、古代ギリシャで紀元前5世紀から4世紀を生きた人物であるとされています。彼が実在の人物であることは、同じ時代に生きていたプラトンやアリストテレスの著書などで紹介されていることから明らかです(1)。

ヒポクラテスはトルコに近いコス島の出身で、経験に基づいたまともな医療を行なう医者のグループを結成し、ギリシャ全土にその名を知られるようになりました。図1のようにコス島はギリシャ本土から離れた辺境の地で、このような場所であったからこそ、既得権益から離れた革命的な医療集団を結成することができたのかもしれません。現代でも手かざしで病気が治るというようないかがわしい施術をやっている集団はいくらでもあります。

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彼がその木の下で講義したという「すずかけの木」がいまでもコス島の広場にあります(図2)。後の時代に植え替えられた物だとは思いますが、多分場所は同じだったのでしょう。彼の技術や思想は、死後に刊行された「ヒポクラテス全集」によって知ることができます。彼のグループや弟子達の知識は西洋医学に大きな影響を与えました(2)。

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アリストテレスはニワトリが首を切られた後も走り回るとか、死者の心臓は温かいのに脳は冷たいなどの知見から脳を重視しませんでしたが(3)、ヒポクラテスはてんかんの原因が脳にあることを指摘していました。

「脳科学メディア」というサイトの記事を引用すると「ヒポクラテスは自身の著書『神聖病論』の中で、大脳は知性を解釈するものであるとして“我々は、とりわけ脳によって思考したり理解したり見聞きしたりし、醜いものや美しいもの、悪いものや良いもの、さらには快・不快を知るのである”と述べた。心が脳にあるというヒポクラテスの考えは、脳の働きに関する真理としての初めての発見であるといわれている。今日に至る脳研究の歴史は、この時代から始まったといえる。」と述べられています(4)。

さらに古代ギリシャ・アレキサンドリアの解剖学者ヘロフィロス(B.C.235-B.C.280)は脳と脊髄に神経が集中していることや、脳の中に脳室が4つあることを発見し、4つの脳室の内第4の脳室に心の座があると考えていたそうです(4、図3)。彼はヒトの屍体をはじめて組織的かつ科学的に解剖した人物としても知られています(5)。彼の主な業績はハインリッヒ・フォン・シュターデンによって翻訳され、英語で出版されています(6)。

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紀元前1世紀以降医学の発展が滞ってしまったのは、当時から勃興してきたキリスト教では「死者たちは生きていた時の肉体をともなって最後の審判で神の前に呼ばれる」と考えていたため、人体の解剖が禁止されてしまったことが一つの要因とされています(4、7)。この間ヒポクラテス医学のエヴァンゲリオンとして、ローマ帝国時代の2世紀に活躍したガレノスが有名ですが、彼は解剖学を革命的に進展させることはできませんでした。

中世において滞っていた解剖学をルネサンスの時代に復活させたのは、16世紀のベルギー人解剖学者アンドレアス・ヴェサリウス(1514-1564)でした。彼はガレノスの教科書がヒトではなく動物の解剖に基づいていることを指摘し、自分で人体を解剖して正しい知識を教科書にまとめました。それが通称ファブリカと呼ばれる大著「 “De humani corporis fabrica” (人体の構造)」で、ここに掲載されている人体解剖図は現代でも通用する正確さで描かれています。

図4左はヴェサリウスの肖像画、図4右はDe humani corporis fabrica の表紙で、屍体の左側に居るのがヴェサリウス、上には死神が見えます(8)。

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図5はDe humani corporis fabrica に記載されている脳底部の解剖図で、視神経交叉、嗅球、小脳などが精細に描かれています。当時は屍体がなかなか入手できませんし、防腐処置や冷蔵が上手くできない時代だったので、正確な解剖図を描くには途方もない努力が必要だったと思われます。私は未読ですが、ヴェサリウスについて詳しく知りたい方は日本語の書物も出版されています(9)。推理小説もあります(10)。一部は電子書籍として安価に入手できます(11)。

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ここからは現在の知見ですが、とりあえずおおざっぱにヒトの脳の構造をみてみましょう。ヒトの脳を外側からみると大脳・小脳・脳幹の3つの部域からなりたっていることがわかります(図6)。大脳は4つの深い溝、すなわち中心溝・外側溝・頭頂後頭溝・後頭前切痕によって、図6のように前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分かれています。脳幹は中脳・橋・延髄からなり、延髄は下方で脊髄と繋がっています(12、図6右図)。脊椎動物では脳と脊髄を合わせて中枢神経と呼び、それ以外は末梢神経ということになります。

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図7は前後軸で切った(サジタルセクション)ヒト脳の断面です。正中線で切ると海馬はみえないはずですが、重要な部分なので重ね書きしてあります。実際には手前と奥に存在することになります。大脳はウィキペディアによれば「知覚、知覚情報の分析、統合、運動随意性統御、記憶、試行」を司っています(13)。これに加えて臭覚は大脳で情報処理されています。

視床と視床下部はあわせて間脳と呼ばれますが、視床は臭覚以外のあらゆる感覚の中枢であり、視床下部は自律神経の中枢です。脳下垂体はさまざまなホルモンを分泌する器官です。

小脳はウィキペディアによれば「小脳の主要な機能は知覚と運動機能の統合であり、平衡・筋緊張・随意筋運動の調節などを司る」ということになっています(14)。海馬は記憶と密接な関係があるとされています(15)。

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脳や脊髄は内側から軟膜・くも膜・硬膜という3種の膜(髄膜)によって被われています(図8)。最も内側の軟膜は毛細血管に富んだ組織であり、それは軟膜の細胞ではなく脳細胞に栄養を供給するためとされています(16)。軟膜とくも膜は密着していなくて、間に脳脊髄液が満たされており、小柱という線維の束で軟膜とところどころで結合しています。この小柱の構造が蜘蛛の巣に似ていることからくも膜と呼ばれています。くも膜は硬膜を貫通して、血洞に突出するパッキオーニ小体(図8)を形成しており、脳脊髄液内の物質循環に有効な役割を果たしていると思われます(17)。 

硬膜はいわば脳のパーティションであり、大脳鎌などによって柔らかい脳組織を小室に分けて壁構造で強度を与えていると考えられます。また内部に静脈血胴をかかえており、血液循環に寄与しています(18)。 

硬膜の外側には頭蓋骨があり、脳を保護しています。頭蓋骨と密着して外側に骨膜があり、その外側に結合組織(帽状腱膜)があり、その外側に皮下組織と皮膚があります。ここに毛根を持って頭髪が生えています(図8)。

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参照

1)二宮睦雄 「医学史探訪 知られざるヒポクラテス ーギリシャ医学の潮流ー」 篠原出版(1983)

2)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%9D%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%B9

3)http://sora-shinonome.jp/brain/post_35.html

4)脳科学メディア 紀元前4世紀から21世紀まで、脳研究2500年の歴史を辿る。
http://japan-brain-science.com/archives/59

5)https://en.wikipedia.org/wiki/Herophilos

6)Heinrich von Staden, Herophilus: The Art of Medicine in Early Alexandria: Edition, Translation and Essays., Cambridge University Press (1989)
https://books.google.co.jp/books?id=rGhlIfJZkVoC&redir_esc=y

7)akihitosuzuki's diary ルネサンスの解剖学とその発展 はじめに 古代・中世の解剖学と近代解剖学の連続と断絶
http://akihitosuzuki.hatenadiary.jp/entry/2015/07/29/185102

8)https://en.wikipedia.org/wiki/De_humani_corporis_fabrica

9)坂井建雄 「謎の解剖学者ヴェサリウス」 ちくまプリマ-ブックス (1999)

10)ジョルディ・ヨブレギャット 「ヴェサリウスの秘密」 集英社 (2016)

11)ヴェサリウス解剖図: De corporis humani fabrica libri septem  Kindle版
こちら

12)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%84%B3

14)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E8%84%B3

15)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E9%A6%AC_(%E8%84%B3)

16)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%BB%9F%E8%86%9C

17)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%81%8F%E3%82%82%E8%86%9C

18)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AC%E8%86%9C

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2018年3月23日 (金)

やぶにらみ生物論100: 初期発生と情報伝達2

遺伝子発現と初期発生現象のかかわりを研究する上で、遺伝学の研究でよく使われるショウジョウバエやマウスには若干不都合な事情があります。

ショウジョウバエの場合、初期発生は表割という特殊な様式で行なわれるので(1)、両生類・魚類・爬虫類・鳥類・哺乳類で構成されるグループとの関連性がつかみにくいという問題があります。マウスのような哺乳類の場合、発生は母親の用意した環境(子宮)で行なわれるので、初期発生が物質の濃度勾配による影響などを含めて母体環境に依存したメカニズムで進展する可能性があります。ショウジョウバエの場合も、発生はナース細胞によってサポートされています。

この点両生類は卵割で形成された割球のすべてがその個体の細胞になること、外界に産み落とされるので分化はすべて自前のプログラムで行なわれること、シュペーマンが使った材料であり、オーガナイザーの分子生物学による説明の素材として適していることなど、実験動物として適している点が多いと思われます。特にアフリカツメガエルは肺を持ちながら陸上では生活しない、すなわち水槽だけで飼育できるという利点があるので良く用いられます(図1)。

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すでに 97:体軸形成で述べたように、カエルの原腸陥入の位置にはβ-カテニンが局在し、Wntシグナルの標準型経路(キャノニカル・パスウェイ)が関与していると思われます(2、図1)。最近の研究ではキャノニカル・パスウェイとノンキャノニカル・パスウェイ(3)は、細胞膜における第2受容体の違いでは識別できるものの、細胞内の錯綜した生化学経路のなかでお互いに干渉し合っており、簡単には分離できないことが判明しています(4、図2)。

2c_2


そういう複雑さは前提となりますが、Wnt経路と発生との関連についてはKuとMeltonがツメガエルの成熟した卵母細胞において、Wnt11のmRNAが植物極側のコーテックス(細胞膜のすぐ内側の細胞質)に局在していることを、すでに20世紀に発見していました(5)。Wnt11のmRNAはその後陥入が起こる背側帯域(dorsal marginal zone) に高濃度で局在します(5)。 彼らはWnt11はノンキャノニカル・パスウェイを介して発生を制御していると考えていました。

しかしヒースマン研のコフロンらは2001年に、β-カテニン分解複合体の構成因子である母親由来のアキシンを欠く胚では、β-カテニンが安定化されて胚の過剰の背側化( dorsalization )がおこり、過大な脊索や頭部の構造、縮退した尾や腹部が形成されることを明らかにしました(6、図3)。このことは腹背の決定にキャノニカル・パスウェイが関与していることを意味します。

3c_2

ツメガエルWnt11についての研究は、その後ヒースマンの研究室で大きく進展しました。中心となって研究を進めたのはタオとヨコタです(7、図4)。彼らは成熟した卵母細胞にWnt11のアンチセンスオリゴマーを投与して、Wnt  mRNAのレベルを20%まで下げ、このような胚は腹側に偏った発生を行ない、神経褶が形成されないことを証明しました。このような胚に Wnt11  mRNA を注入すると背側化が部分的に再促進されることもわかりました。

彼らはさらにWnt過剰発現は 背側化転写因子である siamoisや Xnr3 の発現をβ-カテニンに依存して促進することや、卵割の途中で細胞膜直下のコーテックスに局在していたWnt11のmRNAが細胞質に広がっていくことを確認しました(7)。


4c_22016年にようやくアフリカツメガエルの全ゲノム解析結果が発表されました(8)。これによってトランスクリプト-ム解析が可能となり、シュペーマンオーガナイザーの分子的実体についての全容が明らかになる日も近いと思われます。

初期胚は形態形成という1点をめざした細胞集合体とも考えられるので、母親由来のmRNAのプロファイリングと共に、特にトランスクリプト-ム解析を綿密に行なうことがメカニズム解明のために有効だと思われます。

トランスクリプト-ム解析などによって de Robertis のチームが明らかにしたことの一部を図5に示します。彼らの図式によれば、シュペーマンオーガナイザーを構成する多くの因子は、母親Wntシグナル→β-カテニン→Siamois(シャム)の下流にあることになっています。詳しくは文献(9)を参照して下さい。もちろんこの仕事によってシュペーマンオーガナイザーのすべてが明らかになったわけではなく、今後の進展に期待したいところです。

5c_2


STAP細胞の件で自殺した笹井芳樹氏は、de Robertis の研究室でアフリカツメガエルを使って、シュペーマンオーガナイザーの構成分子のひとつである chordin の研究をしていました(10)。ご冥福をお祈りします。

先日平良眞規先生の退官記念シンポジウムに行ってきました。三井氏らもWntシグナルは重視しているようでしたが、ノンキャノニカルシグナルに重点を置いて研究されているように思いました。Wntが N-sulfo-rich へパラン硫酸に結合しているという知見は斬新です(11)。

哺乳類においてもWntシグナル、特にキャノニカルパスウェイが初期発生において重要な役割を果たしていることは証明されています(12)。

参照

1.卵割 自宅で学ぶ高校生物
http://manabu-biology.com/archives/42123775.html

2.生物学茶話@渋めのダージリンはいかが97: 体軸形成
http://morph.way-nifty.com/lecture/2017/12/post-1408.html

3.生物学茶話@渋めのダージリンはいかが99: 初期発生と情報伝達1
http://morph.way-nifty.com/lecture/2018/01/post-8af9.html

4.F.Fagotto, Wnt signaling during early Xenopus development. in "Xenopus development" ed., M. Kloc and J.Z.Kubiak., John Wiley & Sons Inc., (2014)

5.Ku M and Melton DA, Xwnt-11: a maternally expressed Xenopus wnt gene., Development.  vol.119 (4): pp. 1161-1173 (1993).
http://www.xenbase.org/literature/article.do?method=display&articleId=21903

6.Kofron M1, Klein P, Zhang F, Houston DW, Schaible K, Wylie C, Heasman J., The role of maternal axin in patterning the Xenopus embryo., Dev Biol. vol. 237(1):  pp. 183-201 (2001)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11518515

7.Qinghua Tao, Chika Yokota (same contribution) et al., Maternal Wnt11 Activates the Canonical Wnt Signaling Pathway Required for Axis Formation in Xenopus Embryos., Cell, Vol. 120, pp. 857–871, (2005)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15797385

8.Adam M. Session et al., Genome evolution in the allotetraploid frog Xenopus laevis., Nature volume 538, pages 336–343 (2016) doi:10.1038/nature19840
https://www.nature.com/articles/nature19840

9.Yi Ding, Diego Ploper (same contribution), Eric A. Sosa, Gabriele Colozza, Yuki Moriyama, Maria D. J. Benitez,
Kelvin Zhang, Daria Merkurjevc, and Edward M. De Robertis, Spemann organizer transcriptome induction by earlybeta-catenin, Wnt, Nodal, and Siamois signals in Xenopus laevis., PNAS April 11, 2017. 114 (15) E3081-E3090 (2017)
http://www.pnas.org/content/114/15/E3081.long

10.Yoshiki Sasai, Bin Lu, Herbert Steinbeisser, Douglas Geissert, Linda K. Gont, and Eddy M. De Robertis., Xenopus chordin: A Novel Dorsalizing Factor Activated by Organizer-Specific Homeobox Genes.,
Cell. vol. 79 (5): pp. 779–790 (1994)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3082463/

11.Mii Y, Yamamoto T, Takada R, Mizumoto S, Matsuyama M, Yamada S, Takada S, Taira M. Roles of two types of heparan sulfate clusters in Wnt distribution and signaling in Xenopus. 
Nat Commun. vol. 8(1):1973. doi: 10.1038/s41467-017-02076-0. (2017)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5719454/

12.Jianbo Wang, Tanvi Sinha, and Anthony Wynshaw-Boris, Wnt Signaling in Mammalian Development:
Lessons from Mouse Genetics., Cold Spring Harb Perspect Biol vol.4, no.5 :a007963 (2012)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3331704/

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2018年1月30日 (火)

やぶにらみ生物論99: 初期発生と情報伝達1

ヒトは一人では生きられないといいますが、多細胞生物の細胞も1個では生きられません。他の細胞が発したシグナルを受け取って、自分が何をすべきかを判断するというシグナル伝達のウェブのなかで多細胞生物の中の細胞は生きています。情報はホルモン、フェロモン、サイトカインなどの生理活性物質、神経伝達物質、臭い、光などで細胞に伝えられますが、それらを細胞膜で受け取って細胞内に伝えるのがGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor = GPCR)であり、これは生命の本質と極めてかかわりの深い物質と言えます(1)。

GPCRはヘビのようにクネクネと分子を折れ曲がらせて細胞膜を7回貫通しているタンパク質で、糖鎖(N-グリカン)と脂質(パルミトイルグループ)を結合しています(図1)。細胞外に情報物質を受け取る受容体部分があり、ここにリガンドが結合することによって構造変化を起こして細胞内に情報を伝えます(図1)。現在ヒトでは約800種類のGPCRの存在が報告されています。ほとんどの動物はGPCR分子群を保持していると考えられています(1)。この分子を発見した功績でブライアン・コビルカとロバート・レフコヴィッツは2012年のノーベル化学賞を受賞しました(2、図1)。本稿で後に出てくる Wnt (ウィント)はGPCRグループの分子です。

図1はウィキペディアから借用した図で、細かいことが色々掲載されていますが、とりあえずGPCRには細胞外につきだした部分、細胞膜に埋め込まれた部分、細胞内に垂れ下がっている部分の3つの領域があることを見ておいて下さい。

A


幹細胞などの未分化な細胞に何ができるかというと、それは分化と増殖です。それともうひとつ、なにも変化しないでそのまま待機するというのも大事な役割ではあります。幹細胞の元締めは卵ですが、卵も受精するまではなるべく変化しないで待機しているのが普通です、しかし受精するとそうもしておられません。受精したばかりの卵は細胞分裂を行なうと共に、あらゆる細胞に分化するポテンシャルを持っており、さまざまなシグナルによって制御されながら分化への道を歩み始めます。細胞を導くシグナルは多様ですが、とりわけ W nt、TGF-β、FGFなどのグループに所属する分子群は様々な指示を細胞に与える情報伝達物質で、初期発生においても重要な役割を果たしています。

Wnt1は例えばマウスでは370個のアミノ酸からなる分子量41,086のタンパク質で、4ヶ所に糖鎖が結合し、1ヶ所に脂質が結合しています(3)。Wntシグナル伝達経路は単細胞生物・植物・カビ・細菌などにはみられませんが、海綿を含むほとんどの動物(メタゾア)には存在すると考えられています(4)。また単細胞生物にもいくつかのモジュール(経路の一部)は存在するので、これらをうまく組み合わせることによって多細胞生物が成立し得たとも考えられます(4)。

Wntシグナルはショウジョウバエの wingless変異体を Shope が発見したことが発見の契機となったと様々な文献に書いてあるのですが(4-6)、オリジナルの引用はありません。ひょっとするとヒンディー語で書いてあるので引用できないなどということがあるのでしょうか? そういうわけで肖像写真も発見できず、図2に載せられなくて残念です。Wingless変異体群のなかにはwntだけでなく、dishevelled など図2に示したさまざまなWntシグナル伝達経路の要素となる分子の遺伝子変異体が網羅されていました。

哺乳類の Wnt はショウジョウバエのホモログとしてみつかったのではなく、図2に写真を掲載したNusseとVarmusがマウスの乳がん原因遺伝子としてint-1をクローニングしたら(7)、それがショウジョウバエのwinglessのホモログらしい(相同性が高い)ことがわかって、折半して W nt-1と改名したのが真相のようです(8)。現在では哺乳類においては19種類のWntが同定されています(9)。

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標準的なWntシグナル伝達系で重要な役割を果たすのが β-カテニンというタンパク質です。β-カテニン(β-Cat)は通常は構造タンパク質として図3の左図のように、カドヘリンに結合して細胞接着を実行する複合体の一部に組み込まれています。このとき余剰のβ-Catは分解複合体に吸収されてリン酸化され、これが目印となって分解されてしまいます(10、図3)。

ところが Wnt シグナルが存在するとβ-Cat分解複合体が形成されず、細胞質に浮遊するβ-Cat は核にとりこまれて転写因子として機能します(11、12、図3)。同じ分子に全く異なる機能を持たせるというのは危険な選択だと思いますが、このようなやり方を生物は選択したわけです。

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Wntシグナル伝達系はβ-カテニンを介した転写制御以外にも、プロフィリンをはじめとするアクチン結合因子などを介して細胞骨格を制御する機能も持っています(13-15、図3)。胞胚から嚢胚に移行する過程で細胞は変形したり、テンションを与えたり、移動したりするので、Wntシグナル伝達系は様々な方法でこのようなプロセスを制御していると考えられます。Wnt に関してはNusseがWntホームページを運営しているようなので、わからないことがあれば訪問してみると良いかもしれません(16)。

Wntシグナル伝達系にはこれまで述べてきた標準的(canonical)経路以外に、いくつかの非標準的(noncanonical)な経路も報告されています。発展途上の分野でもあり詳しく述べることはできませんが、アクチン結合タンパク質を介してアクチンの重合を制御し、細胞骨格の再編成するという効果をもたらす経路があるようです(17、図4)。胞胚から嚢胚に至る過程で、細胞はさかんに形態変化や移動を行なうので、活発な細胞骨格の活動は欠かせません。

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さてWntシグナルに続いて重要な情報伝達系としてTGF-β スーパーファミリーが関与するものがあります。最初の発見者はアソイアンらとされています(18)。リチャード・アソイアンは現在ペンシルベニア大学で薬理学の教授をやっていますが、若い頃ニューヨーク市街をドライヴ中に銃撃され左目を失うという悲劇を経験しています(19)。運が悪かったのでしょうか、それとも良かったのでしょうか?

Wntと同様TGF-βも様々な多細胞生物にユニバーサルに存在し、23の異なる遺伝子がみつかっています(20)。アンドリュー・ヒンクによって、それらの分子進化的な関係も明らかにされています(21、図5)。

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これらのTGF-β スーパーファミリーのなかから、まずBMPをみてみましょう。BMPは bone morphogenetic protein (骨形成因子)の略称で、ウォズニーらによって1988年にはじめて遺伝子が同定されて、TGF-β スーパーファミリーのメンバーであることがわかりました(22)。現在BMPと名前が付けられている分子はヒトでは12種類あるそうですが(図6でGDFという名前がつけられているものも含めると15種類)、それらが本当に近縁なグループではかならずしもありませんし(図5)、またすべてに骨を形成させる活性があるわけでもありません。モノマーの分子量は多くは2~3万程度です。

このファミリーのタンパク質はwnt と同様、細胞の外から細胞膜の受容体に結合することによって生理作用を惹起するリガンドです。その受容体はwnt とはことなり、GPCR(7回膜貫通タンパク質)ではなく1回膜貫通タンパク質です(図6)。細胞内の領域にはセリン・スレオニンキナーゼの活性部位があります。BMPは骨形成を促進する作用とは別に、初期発生においても中胚葉の誘導などに重要な役割を果たしていることが示唆されています(23-25)

BMP受容体(レセプター)には1型と2型があり、それぞれ2分子づつ合計4分子でリガンドを受け止めます(図6)。リガンドが結合すると2型のセリン・スレオニンキナーゼによって1型のGSボックスという部位がリン酸化されて、1型のセリン・スレオニンキナーゼ酵素活性部位が活性化されます(23、図6)。これによってsmad1、smad5、smad9がリン酸化され,次いでこれらがsmad4と複合体を作ることによって核へ移行し,転写活性を制御することになります。またsmad を介さない経路もあることがわかっています(23、図6)。

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次にFGFについてもふれておきましょう。FGFはFibroblast growth factor(繊維芽細胞増殖因子)の略称で、最初はフーゴ・アーメリンによって報告されました(26)。現在脊椎動物には22種類のFGFが報告されており、ヒトも22種類のFGFを持っています(27、28)。分子量は17kDa~34kDaで様々であり、FGFグループに所属する分子種間の相同性は高くないようですが、それぞれの分子種の動物種間での相同性は極めて高いそうです(28)。NCBIのデータバンクで Fibroblast growth factor 遺伝子の塩基配列を検索すると33610件ヒットしたのでびっくりしました(29)。

FGF受容体は免疫グロブリンスーパーファミリーに所属するタンパク質で1回膜貫通タンパク質です。脊椎動物は4種類のFGF受容体を持つことが知られています。細胞外に免疫グロブリン様ドメインを2または3個持っています(オルタナティヴスプライシングによって変化する)。免疫グロブリンでは抗原を結合するサイトですが、FGF受容体ではFGFを結合します(29、30、図7)。

免疫グロブリンドメインは図7のようにβシートがいくつも折り重なったような構造になっています。FGF受容体は細胞内にチロシンキナーゼドメインを1分子について2個づつ持っており、これでさまざまな分子をリン酸化することによって最終的に転写因子を核内に送り込む役割を持つカスケードを発動します。

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初期発生に重要な役割を持つと思われるいくつかの情報伝達系について述べてきましたが、wnt はショウジョウバエの翅形成不全から、BMPは骨形成因子として、FGFは繊維芽細胞形成因子としてみつかったものです。サイエンスは目的めざして一直線に進むものではありません。とんでもなく遠いところから必要なものをひろってきてつなぎあわせ、パズルを解いていかなければなりません。

参照

1)https://en.wikipedia.org/wiki/G_protein%E2%80%93coupled_receptor

2)https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2012/press.html

3)UniProtKB - P04426 http://www.uniprot.org/uniprot/P04426

4)Thomas W. Holstein, The Evolution of the Wnt Pathway., Cold Spring Harb Perspect Biol. (2012)  Jul; 4(7): a007922. doi:  10.1101/cshperspect.a007922
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3385961/

5)太田 訓正、河野 利恵、脳科学辞典「wnt」 
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/Wnt

6)wikipathologica WntタンパクとWnt/βカテニン経路
http://www.ft-patho.net/index.php?Wnt%20protein

7)R Nusse, H E Varmus,  Many tumors induced by the mouse mammary tumor virus contain a provirus integrated in the same region of the host genome. ,
Cell: vol. 31(1); pp. 99-109 (1982)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6297757

8)濃野勉 「Wntファミリーと形態形成」 現代医療 vol. 32, pp. 1912-1921 (2000)
http://www.kawasaki-m.ac.jp/molbiol/WntRevMS00.pdf

9)山本英樹 「Wnt シグナル伝達経路の活性制御と発がんとの関連」 生化学第80巻第12号,pp.1079-1093,(2008)

10)Liu C, Li Y, Semenov M, Han C, Baeg GH, Tan Y, Zhang Z, Lin X, He X. Control of beta-catenin phosphorylation/degradation by a dual-kinase mechanism. Cell  Vol. 108: pp. 837–847. (2002)
http://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(02)00685-2?_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867402006852%3Fshowall%3Dtrue

11)Miranda Molenaar et al.,
XTcf-3 Transcription Factor Mediates β-Catenin-Induced Axis Formation in Xenopus Embryos., Cell Vol. 86, Issue 3, pp.391–399, (2009)
https://www.morebooks.de/store/gb/book/role-of-tcf-in-body-axis-formation/isbn/978-3-8383-2052-6

12)Behrens, J., von Kries, J. P., Kuhl, M., Bruhn, L., Wedlich, D., Grosschedl, R., and Birchmeier, W.,  Functional interaction of beta-catenin with the transcription factor LEF-1. Nature 382, pp. 638-642. (1996)

13)Patricia C. Salinas, Modulation of the microtubule cytoskeleton: a role for a divergent canonical Wnt pathway., Trends in Cell Biology., Vol. 17, Issue 7, pp. 333–342,  (2007)  http://dx.doi.org/10.1016/j.tcb.2007.07.003
http://www.cell.com/trends/cell-biology/fulltext/S0962-8924(07)00136-5

14) Stamatakou E, Hoyos-Flight M, Salinas PC, Wnt Signalling Promotes Actin Dynamics during Axon Remodelling through the Actin-Binding Protein Eps 8.
PLoS One. 2015 Aug 7;10(8):e0134976. doi: 10.1371/journal.pone.0134976. eCollection (2015)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26252776

15)Akira Sato, Deepak K. Khadka, Wei Liu, Ritu Bharti, Loren W. Runnels, Igor B. Dawid, Raymond Habas, Profilin is an effector for Daam1 in non-canonical Wnt signaling and is required for vertebrate gastrulation., Development  Vol. 133:  pp. 4219-4231 (2006)  doi: 10.1242/dev.02590 

16)Roel Nusse:The Wnt homepage:
https://web.stanford.edu/group/nusselab/cgi-bin/Wnt/node/269

17)Yuko Komiya and Raymond Habas, Wnt signal transduction pathways., Organogenesis. , Vo. 4 (2):  pp. 68–75. (2008)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2634250/#__sec4title

18)Assoian RK, Komoriya A, Meyers CA, Miller DM, Sporn MB,  "Transforming growth factor-beta in human platelets. Identification of a major storage site, purification, and characterization". J. Biol. Chem. vol. 258 (11): pp. 7155–7160. (1983)

19)http://www.nytimes.com/1987/03/21/nyregion/professor-loses-eye-in-shooting-on-broadway.html

20)https://en.wikipedia.org/wiki/Transforming_growth_factor_beta_superfamily

21)Andrew P. Hinck, Structural studies of the TGF-βs and their receptors – insights into evolution of the TGF-β superfamily., FEBS Letters, Vol. 586, Issue 14, pp. 1860-1870 (2012)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014579312004036

22)JM Wozney et al., Novel regulators of bone formation: molecular clones and activities., Science Vol. 242, Issue 4885, pp. 1528-1534 (1988)
DOI: 10.1126/science.3201241
http://science.sciencemag.org/content/242/4885/1528

23)三品 裕司、BMPシグナルの多彩な機能 ̶̶初期発生から骨格形成まで.,  生化学 第89 巻 第3号,pp. 400‒413 (2017)
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890400/data/index.html

24)Mishina, Y., Suzuki, A., Ueno, N., & Behringer, R.R., Bmpr encodes a type I bone morphogenetic protein receptor that is essential for gastrulation during mouse embryogenesis. Genes Dev., vol. 9, pp. 3027‒3037. (1995)
http://genesdev.cshlp.org/content/9/24/3027

25)Beppu, H., Kawabata, M., Hamamoto, T., Chytil, A., Minowa, O., Noda, T., & Miyazono, K. , BMP type II receptor is required for gastrulation and early development of mouse embryos. Dev. Biol., 221, 249‒258. (2000)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10772805

26)Hugo A. Armelin, Pituitary Extracts and Steroid Hormones in the Control of 3T3 Cell Growth., Proc Natl Acad Sci U S A.,  Vol. 70(9): pp. 2702–2706. (1973)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC427087/

27)https://en.wikipedia.org/wiki/Fibroblast_growth_factor

28)David M Ornitz and Nobuyuki Itoh, Fibroblast growth factors.,  Genome Biology vol. 2: reviews 3005.1 (2001)
https://genomebiology.biomedcentral.com/articles/10.1186/gb-2001-2-3-reviews3005

29)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/?term=fibroblast+growth+factor

30)https://en.wikipedia.org/wiki/Fibroblast_growth_factor_receptor

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