カテゴリー「生物学・科学(biology/science)」の記事

2021年12月 4日 (土)

続・生物学茶話166:神経堤 その1

神経堤という胚にできてくる土手のような構造は、脊椎動物の発生研究者にとってはとても目立つものです。ただそれは短い期間で消滅するので、20世紀の中頃まではあまり重視はされていませんでした。19世紀に活躍したスイスの解剖学者ヴィルヘルム・ヒスはミクロトームを発明したことで有名ですが、ニワトリが発生するときの切片を詳しく観察する中から、原条周辺の外胚葉が落ち込んで神経管をつくる細胞群、残って表皮となる細胞群のほかに、その中間に位置する部分で神経管の背側表皮の下に埋め込まれる細胞群が存在することを報告しました。そしてその3つめの細胞群を zwischenstrang と名付けました(1、図166-1)。この言葉は脳科学辞典では間索と訳していますが(2)、まさしく神経堤のことです。ヒスの本はドイツ語の長大なものですが、フリーで読めます(1)。私はもちろん読んでおりませんが、多数の図版が収録されていて、それを眺めるくらいはしました。

ヒスはまた zwischenstrang に含まれる細胞が骨髄神経節が発生する位置に移動することから、ganglionic crest という造語も行いました。ヒスは ganglionic crest が脊髄神経節をつくると信じていましたが、それは当時の発生学者には認められず、彼の説が認められるには半世紀の歳月を要しました。

1661a

図166-1 神経堤を発見したヴィルヘルム・ヒス

神経堤の研究史に、次に大きな足跡を残したのはジュリア・プラットです(3、図166-2)。彼女は19世紀の当時としては大変珍しい女性の発生学者だったせいか、なかなか良いポストに就けず米国や欧州を転々として、博士号を得たのも40才を過ぎてからでした。しかし彼女が1890年代に次々と発表した論文は、この分野では古典とも言えるものです。なかでも外胚葉である神経堤が骨や軟骨を形成するという報告は革新的でしたが、当時の発生学者には全く認められませんでした。骨や軟骨は中胚葉からつくられるというのが当時の常識でした。ヒスと同様、彼女の学説も認められるまでに長い年月を要しました。

彼女は結局満足できるポジションを獲得できなかったので、カリフォルニアの地方都市(Pacific Grove)の市長になって、ラッコの保護に力を尽くしました(当時は毛皮をとるために乱獲されがちでした)。現在でもカリフォルニアの海岸でラッコを見ることができるのは、彼女の尽力があってのことだとされています(4)。

20世紀の前半には生体染色法を使って神経堤の細胞を染色し、その動態をさぐるという研究が行われました(5-6)。これによって完全な証明にはならないものの、プラット説はかなり信用度を増すことになりました。またレイヴンはサンショウウオとイモリを使った移植実験で神経堤細胞が感覚神経をつくることを証明しようと試みました(7)。これらの実験は示唆に富んだものではありましたが、細胞の識別がクリアではなかったので、まだ隔靴掻痒感は残りました。そんな中でラ・ドゥアランは日本のウズラの細胞が非常に識別しやすい特徴を持っていることを発見し(8、図166-2)、ニワトリ胚にウズラの組織を移植すれば(またはその逆)その移植片の発生運命がはっきとたどれると考えました(9、図166-2)。図166-2にみられるように、ウズラの細胞では染色体が核小体のまわりに集中して大きな塊になって見えるので、一目瞭然でニワトリの細胞と識別できるのです(8、10)。

1662a

図166-2 神経堤細胞の行く先をさぐる

神経管は図166-3のように外胚葉の神経板が胚の内部に落ち込むことによって形成されます。このとき神経堤の細胞は一部が神経管にとりこまれ、一部は閉じられた予定皮膚の外胚葉と神経管の間のスペースに取り残されます。取り残された細胞(MNCC = migratory neural crest cells)はすぐに移動をはじめ、神経管最上部の細胞(pMNCC = premigratory neural crest cells)もそれに続いて移動します(11、図166-3)。

1663a

図166-3 神経管形成前後の神経堤細胞

胚内部に落ち込む際に、神経堤細胞はその性質を大きく変化させます。上皮細胞の特徴である1)外側と内側で異なるタンパク質を配置し極性をつくる、2)細胞同士を側面で結合させてシートを形成する、などの性質を失い極性をもたずフリーに動く間葉系細胞(胚に特有の未分化細胞)に変化します。これを Epithelial–mesenchymal transition (EMT 上皮間葉転換)といいます。この際にEカドヘリンとギャップジャンクションの喪失が大きな役割を果たすとされています(12、図166-4)。EMTは正常な発生や分化の場面だけで行われれば良いのですが、癌の転移の際にも似たようなメカニズムが発動するといわれています(12)。

1664a_20211204170901

図166-4 上皮間葉転換

ラ・ドゥアランらの手法などを使って、現在では神経堤の細胞が様々な組織を形成することが明らかになっていて、それが脊椎動物の大きな特徴であることがわかりました(11)。神経管は頭から下半身まであるので、神経堤も同じ長さです。図166-5は上半身についてですが、神経堤の細胞はまず咽頭弓を形成し、そこから脳の一部、眼、顔面の骨、角膜、歯、アゴ、聴覚用の骨、神経、血管、舌骨、甲状腺、副甲状腺などを形成することが示してあります(13)。これらは中胚葉由来の細胞と共同してつくられることもあります。

1665a

図166-5 頭部周辺と神経堤細胞

図166-6はある血管がドナーの神経堤由来細胞とホストの中胚葉由来細胞とのキメラで構成されていることを示しています(10、14)。このことは血管が外胚葉性の神経堤細胞と中胚葉性の細胞との共同作業で形成されることを意味しています。

1666a_20211204171401

図166-6 キメラ血管壁 (10)

神経堤細胞がどのような細胞に分化し、組織を形成するかをまとめたのが図166-7です(脳科学辞典の神経堤からお借りした図版、15)。特に神経系の構成を進化上リニューアルすることに大きく貢献していることがわかります。これによって脊椎動物はウルバイラテリア以来の動物の枠組みを乗り越えた形態形成を行うことができました。

1667a

図166-7 神経堤細胞の分化・予定運命のまとめ

参照

1)Wilhelm His, Untersuchungen uber die erste Anlage des Wirbeltierleibes. Die erste Entwicklung des Huhnchens im Ei., Leipzig: F. C. W. Vogel 1868.
https://archive.org/details/untersuchungen1868hisw/page/n5/mode/2up

2)脳科学辞典:神経堤
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%A0%A4

3)Julia B. Platt. Ectodermic Origin of the Cartilages of the Head., Anat. Anz., VIII. vol.8, pp.506-509 (1893)
See also: J. S. KINGSLEY., The origin of the vertebrate skeleton., The American Naruralist vol.XXVIII p.332 (1894)
https://www.journals.uchicago.edu/doi/pdf/10.1086/275985

4)Wikipedia: Julia Platt
https://en.wikipedia.org/wiki/Julia_Platt

5)Detwiler, S.R., Application of vital dyes to the study of sheat cell origin. Proc. Soc. Exp. Biol. Med. vol.37, pp.380–382 (1937)
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.3181/00379727-37-9579P?journalCode=ebma

6)Hörstadius, S., The Neural Crest., Oxford University Press, Geoffrey Cumberlege (1950)
https://www.amazon.com/Neural-Crest-Sven-HORSTADIUS/dp/B000K717LE

7)Raven, C.P., Experiments on the origin of the sheat cells and sympathetic
neuroblasts in Amphibia. J. Comp. Neurol. vol.67, no.2 pp.221–240. (1936)
https://www.deepdyve.com/lp/wiley/experiments-on-the-origin-of-the-sheath-cells-and-sympathetic-MomfRSwyoQ

8)Le Douarin, N., Details of the interphase nucleus in Japanese quail (Coturnix
coturnix japonica). Bull. Biol. Fr. Belg. vol.103, pp.435–452.(1969)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4191116/

9)Le Douarin, N., A biological cell labeling technique and its use in experimental
embryology. Dev. Biol. vol.30, pp.217–222. (1973)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4121410/

10)Domenico Ribatti, Nicole Le Douarin and the use of quail-chick chimeras to study the developmental fate of neural crest and hematopoietic cells., Mechanisms of Development, vol.158, 103557 (2019)
https://doi.org/10.1016/j.mod.2019.103557

11)Joshua R. York and David W. McCauley, The origin and evolution of vertebrate neural crest cells., Open Biol., vol.10, issue 1, 190285 (2020) https://doi.org/10.1098/rsob.190285
https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rsob.190285

12)Wikipedia: Epithelial–mesenchymal transition
https://en.wikipedia.org/wiki/Epithelial%E2%80%93mesenchymal_transition

13)File: Cranial Neural Crest Cells - migration.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cranial_Neural_Crest_Cells_-_migration.jpg

14)Roncali, L., Virgintino, L., Coltey, P., Bertossi, M., Errede, M., Ribatti, D., Nico, P.,Mancini, L., Sorino, S., Riva, A., Morphological aspects of the vascularizazion in intraventricular neural transplants. Anat. Embryol. vol.193, pp.191–203. (1996)

15)脳科学辞典:神経堤
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%A0%A4

 

| | | コメント (0)

2021年11月25日 (木)

続・生物学茶話165:脊索の起源をめぐって

ノトコード(脊索)の存在をはじめて記載したのはエストニア生まれの生物学者フォン・ベーアだとされています(1、2、図165-1)。これは1828年のことで、彼の記載はニワトリについてのものですが、すぐに他の脊椎動物についても同様な組織がみつかって、1836年にはナメクジウオについても報告されているそうです(2、3)。私は入手していませんが、このYarellの本は復刻されて販売されています(3)。フォン・ベーアの本も(図165-1)ドイツ語の大著なので、私はとりついておりません。ドイツ語がわかる方はウェブでフリーで読めます(1)。

1651a

図165-1 フォン・ベーアによる脊索の発見

その後ノトコードの研究に深く関わったのはアレクサンダー・コヴァレフスキーというロシアの発生生物学者で、彼はナメクジウオのノトコードの発生や性質について詳しく研究し、ノトコード研究の父とも言える人です(4)。彼の名が知れ渡ったのは、ホヤの幼生がノトコードを持っていることを報告したからです(5、6、図165-2)。フォン・ベーアはホヤは軟体動物だとしていましたし、一般的にもそう認識されていたので、脊椎動物と近縁であることがわかったときには、すべての研究者が驚いたことでしょう(2)。ホヤは成体になるとノトコードを消失させます(図165-2)。これは脊椎動物と同じです。

図165-2の赤丸1がノトコード、紺丸2が神経索です。しかし成体ホヤではどちらも記載されていません。ホヤの場合成体ではノトコードは消失しますが、なんと中枢神経系の細胞も成体になるときにいったんほとんど死滅してしまいます。その後グリア細胞によってニューロンが新生し中枢神経系が再構築されるようです(7)。再生された成体の中枢神経系は幼生の中枢神経系のような目立つ構造ではないので、このウィキペディアの図では描かれていないのでしょう。

1652a

図165-2 コヴァレフスキーの研究

ノトコードの起源については大きく分けて2つの仮説があります。ひとつは脊索動物が独自に獲得した固有の構造であるという考え方、もうひとつは環形動物などのアクソコードと相同であり、ウルバイラテリアン(最初に左右相称性を獲得した動物)の時代から存在しているという考え方です(8)。どちらが正しいかというのはなかなか難しい問題です。というのはカンブリア紀(5億4100万年前~4億8500万年前)にすでに脊索動物が存在し、ミロクンミンギアのようにすでに脊椎をもっていたと思われるような動物までが存在していたことが化石から示唆されているからです(9、10、図165-3)。

カンブリア紀に生きていた Vetulicolia という生物については前口動物(Protostomia)か後口動物(Deuterostomia)かという論争がありましたが、García-Bellido らによってノトコードをもつと思われる個体の化石が報告され、後口動物であることが強く示唆されました(11、図165-3)。これによってカンブリア紀前期にはすでに立派なノトコードを持つ生物が存在していて、ノトコードの起源はおそらくエディアカラ紀以前ということになりました。このことは化石から解決を求めることが極めて困難であることを意味します。

1653a

図165-3 カンブリア紀の脊索動物 ヴェトゥリコリアは脊索をもっていた
ウィキペディアと参照文献(11)より

Sui らの総説に後口動物のノトコードと前口動物のエクソコードを比較した断面図があったので、図165-4として示しました(8、165-5と共に非商用利用が引用を条件に許可されています)。アクソコードは環形動物におけるノトコードのホモログとしてラウリらが名付けた構造です(12)。アレントらはこの正中線に沿って、まだ内胚葉とはっきり区別できない中胚葉から形成される構造アクソコードは、ほとんどの環形動物に存在し、また他の前口動物にも認められるノトコードのホモログであり、始原的左右相称動物であるウルバイラテリアの時代から存在する基本構造であると主張しています(12,13)。

脊椎動物(ゼブラフィッシュ)と尾索動物(ホヤ)では、成体になるとノトコードは失われるので、幼生の図です。頭索動物(ナメクジウオ)と、ここでは唯一の前口動物(環形動物)ではそれぞれノトコード・アクソコードは成体にもみられます。ただし脊索動物では背腹軸が逆転している(ジョフロワ説)とされているので、背腹(上下)の位置関係は異なります。A-Cでは上(背)から予定表皮・神経管・ノトコードとなりますが、Dではアクソコード・神経管・予定表皮の順になっています。あとノトコードはシングルなのに、アクソコードはダブルという違いもあります(図165-4)。

環形動物のアクソコードは基本的に筋肉です。頭索動物ナメクジウオのノトコードはやはり筋肉ですが、尾索動物ホヤや脊索動物ゼブラフィッシュではかなり液体の部分が増えて、構造が著しく変化しています(8)。これはおそらくこれらの動物では成体ではこの組織そのものは消失するので、後継の組織にバトンタッチすれば良いからでしょう。神経または神経+骨髄を誘導すればノトコードの組織としての役割は終わり、パワーユニットとしてのノトコードは不要なのです。

1654a

図165-4 ノトコード・アクソコードと中枢神経の位置

ノトコードとアクソコードで発現している主要な転写因子を並べたのが図165-5です(8)。発生初期の中胚葉で発現している因子とはガラッと変わっていることがわかります。特筆すべきはノトコードとアクソコードで発現している因子がほとんど同じだということで、これは両者がホモローガスであることを強く示唆しています。特に Brachyury (ブラキウリ、ブラチュリーなど発音が定まっていないようです)というノトコードの形成に最も重要な因子がアクソコードでも発現していることは重要です。唯一 Not という因子がノトコード特異的に発現していますが、これを命名した人は頭がおかしいのではないかと疑います。こんな名前をつけたら検索すらできないじゃありませんか? というわけでこれはパスします。

1655a

図165-5 ノトコードとアクソコードに発現する転写因子の比較

 

参照

1)von Baer KE. Uber Entwickelungsgeschichte der Thiere, Beobachtung und Reflexion. Part 1. Konigsberg: Borntrager; (1828)
https://www.biodiversitylibrary.org/item/28306#page/16/mode/1up

2)Giovanni Annona, Nicholas D. Holland and Salvatore D’Aniello, Evolution of the notochord., EvoDevo vol.6: no.30 (2015)
DOI 10.1186/s13227-015-0025-3

3)Yarrell W. A history of British fishes, vol. 2. 1st ed. London: Van Voorst;
1836.
https://www.amazon.co.jp/History-British-Fishes-2/dp/1179686616

4)Kowalevsky A. Weitere Studien uber die Entwickelungsgeschichte
des Amphioxus lanceolatus, nebst einem Beitrage zur Homologie
des Nervensystems der Wurmer und Wierbelthiere. Arch Mik Anat.
1877;13:181-204.

5)Kowalevsky A. Entwickelungsgeschichte der einfachen Ascidien. Mem
Acad Imp Sci St-Petersbourg (Ser VII). 1866;10(number 15):1-19.

6)Wikipedia: Alexander Kowalewsky
https://en.wikipedia.org/wiki/Alexander_Kovalevsky

7)Takeo Horie, Ryoko Shinki, Yosuke Ogura, Takehiro G. Kusakabe, Nori Satoh, Yasunori Sasakura, Ependymal cells of chordate larvae are stem-like cells that form the adult nervous system., Nature, vol.469, pp.525-528 (2011) DOI: 10.1038/nature09631
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21196932/
https://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~sasakura/research_CNS_reconstruction.html

8)Zihao Sui, Zhihan Zhao and Bo Dong, Origin of the Chordate Notochord., Diversity, vol.13, 462. (2021) https://doi.org/10.3390/d13100462

9)ウィキペディア:ミロクンミンギア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%82%AF%E3%83%B3%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%82%A2

10)Wikipedia: Vetulicolia
https://en.wikipedia.org/wiki/Vetulicolia

11)Diego C García-Bellido, Michael S Y Lee, Gregory D Edgecombe, James B Jago, James G Gehling and John R Paterson, A new vetulicolian from Australia and its bearing on the chordate affinities of an enigmatic Cambrian group., BMC Evolutionary Biology vol.14:214 (2014) DOI:10.1186/s12862-014-0214-z
https://www.researchgate.net/publication/266566755_A_new_vetulicolian_from_Australia_and_its_bearing_on_the_chordate_affinities_of_an_enigmatic_Cambrian_group

12)Lauri A, Brunet T, Handberg-Thorsager M, Fischer AHL, Simakov O, Steinmetz
PRH, Tomer J, Keller PJ, Arendt D. Development of the annelid axochord: insights into notochord evolution. Science. vol.345: pp.1365–1368.(2014) DOI:10.1126/science.1253396
https://www.researchgate.net/publication/265606919_Development_of_the_Annelid_Axochord_Insights_into_notochord_evolution

13)Thibaut Brunet, Antonella Lauri and Detlev Arendt, Did the notochord evolve from an
ancient axial muscle? The axochord hypothesis., Bioessays vol.37: pp.836–850 (2015) DOI:10.1002/bies.201500027
https://www.researchgate.net/publication/280124751_Did_the_notochord_evolve_from_an_ancient_axial_muscle_The_axochord_hypothesis

 

 

| | | コメント (0)

2021年11月19日 (金)

続・生物学茶話164:脊索(ノトコード)

クラゲなどの一部を除き多くの動物には口と肛門があり、それをつなぐパイプ(消化管)を持っています。ともかく捕食して排泄しないと動物は生きていけません。卵はひとつの細胞ですが、それがランダムに分裂を繰り返すと大きな球ができるだけなので、なんらかの方法で形態形成を行う必要があります。すなわち、あるタイミングで胚という細胞塊に「消化管というひとつのパイプを貫通させる」というトンネルを作成する作業が必要です。

カエルの卵がよくモデルとして利用されます。穴掘りのきっかけを作るのがボトル細胞という細胞群で、この細胞は外界と接する外側にアクチンとミオシンによる筋肉と同様な収縮システムを持っており、この作用によって細胞の外側だけ収縮させて原口というくぼみをつくります(1、図164-1)。このようなくぼみができない状態で、左右から力が加われば図164-1Aのように、胚に土手のような構造ができるはずです。紙のシートで試してみればわかります。ですから少しでもくぼみができることは生物が形態を形成する上で非常に重要です。

原口は外から見るとくぼみ(割れ目)ですが、内から見るとこれは土手です。最外層の内側で増殖する細胞はこの土手によって行く手を防がれ方向転換して内部へとなだれ込みます(図164-1)。この細胞の動きにともなって割れ目は深く進展し、外側の細胞も巻き込んで原腸が形成されていきます。この割れ目から内部に落ち込んだ細胞が中胚葉を形成し、消化作業を行う本物の腸は内胚葉細胞によって完成されます。最初にくぼみを作るボトル細胞は、それが形態形成を主役として実行するわけではなくて、ひとつのきっかけをつくるという意義を持つものです。原腸形成前後のプロセスは昔からどんな発生学の教科書にも書いてあることですが、そのメカニズムは非常に複雑でいまだに不明な点が多く解明が待たれます(2、3)。

1641a

図164-1 原腸陥入 Findings by Lee and Harland

カエルの卵の原口は大きく湾曲していますが、脊椎動物の原口はストレートな形状になっていて、原始線条または原条とよばれ、カエルの場合と同様に細胞がここから内部に落ち込んで中胚葉が形成されます(4、図164-2)。もともとはカエルの原口に相当すると思われる部位は鳥類ではヘンゼン結節、哺乳類ではノードとよばれています。内部に落ち込んだ細胞によって中胚葉が形成されます。

1642a

図164-2 脊椎動物の原条形成

脊索動物門の生物は他の門の生物と異なり、落ち込んだ中胚葉細胞によって脊索(ノトコード)を形成します(5、6、図164-3)。脊索はコラーゲン線維に包まれた棒状の構造物で、中の細胞は糖タンパク質を豊富に含みます(7)。始原的左右相称動物では、この左右に筋肉を付着させて迅速な移動を行うために有用だったと思われますが、現生の脊索動物では中枢神経系を誘導したり、脊椎を構築してその一部となるなど新たな機能が追加されることになりました。脊索は図164-3のように外胚葉の一部をくびれさせて神経索を誘導したり、その際に第4の胚葉といわれる神経堤(neural crest)が出現させたりします。神経堤は将来各種末梢神経系の神経細胞や、シュワン細胞・メラニン細胞(メラノサイト・皮膚の色素細胞)・副腎髄質などのクロム親和性細胞、心臓の平滑筋・顔面の骨や軟骨・角膜や虹彩の実質・歯髄など、後に多様な細胞種に分化することになります(8)。

1643a

図164-3 脊索と神経索

ノトコードによる神経誘導にはソニックヘッジホッグタンパク質(Shh) が重要な役割を果たしていると思われますが、チェンバレンらはこれを証明するために、Shh の遺伝子にGFP(緑色蛍光タンパク質)の遺伝子を組み込みました(9、図164-4)。プロセッシングによってC側が切り取られたときに、C側に代わってコレステロール化される位置に組み込んだので受容体は Shh と認識してくれるようです。組み込まれたGFPによって Shh を緑色に光らせると、図164-4DとEのように、ノトコードからフロアプレートあたりに、胎生8.5日目から9.5日目にかけて光る部分が広がっていることがわかります。

しかし実際は一筋縄ではいきません。Shh-GFP 遺伝子のmRNAを調べたところ、ノトコードだけではなく、神経管のフロアプレートにも検出されたのです(図164-4AB)。このような現象は Gli2をホモで欠損しているミュータントではおこりません(図164C)。したがっておそらくノトコードからの Shh の情報を受けて、Gli2 などの作用でフロアプレートの一部の細胞が Shh を合成し始めたと思われます。このことは単純にノトコードがリガンドを使って神経を誘導するというニュアンスとは少し違って、予定神経領域が自ら神経への誘導を行っていることを示唆しています。

1644a

図164-4 ソニックヘッジホッグの発現

外胚葉にはBMPの分子群がもともとあって神経への変化を妨げているのですが、ノトコードはここから落ち込んだ細胞のBMPの作用を妨げて神経への分化を誘導します。脳科学辞典の神経誘導の項目を見ると Noggin/Chordin/Follistatin はBMPリガンドに結合して無効化することによって神経誘導を行うと記載しています(10、図164-5)。マイヤーズとケスラーによると、 Shh の他 Noggin、Chordal、そしてBMPと同じTGF-βスーパーファミリ-に属する Nodal がノトコード側の因子としてアンチBMPとして機能しているようです(11)。これらによってそのままだと表皮になってしまうはずの外胚葉が神経組織に誘導されます。

脊椎動物の場合、神経管が誘導されるとそれで終わりではなく、神経管および周囲の組織を巻き込んでさらに複雑な脊椎や運動神経・感覚神経などを制作することになるので、その準備を始めなければいけません。ルーフプレート由来のGDFやWNTはその準備作業を行うようです。マイヤーズとケスラーは神経管内におけるさまざまな領域分化について言及しています(11)。

1645a

図164-5 BMPの作用を抑制する

神経管や周辺組織が脊椎などを造るステージに入ったときに、円口類を除く脊椎動物ではノトコード(脊索)が消失します。ハーフェやリスバッドはノトコードという構造は解体されても、その細胞は髄核の中で生き延びると主張しています(12、13、図164-6)。確かに Shh は椎間板の内部にある髄核に発現しています(図164-6)。詳細なエヴィデンスを知りたい方は原著をご覧ください。ハーフェの論文の筆頭著者であるチョイさんのよい画像はみつからなかったので掲載できませんでした。

1646a

図164-6 脊索の運命について

椎間板は内部の髄核とそれを取り囲む線維輪からなり、脊椎のクッションとなって体重をささえている重要な組織です(14)。

参照

1)Lee, J.; Harland, R. M., Actomyosin contractility and microtubules drive apical constriction in Xenopus bottle cells". Devel. Biol. vol.311, pp.40-52. (2007)  doi:10.1016/j.ydbio.2007.08.010. PMC 2744900 Freely accessible. PMID
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160607012559?via%3Dihub

2)Huang Y, Winklbauer R., Cell migration in the Xenopus gastrula. Wiley Interdiscip Rev Dev Biol., vol.7(6): e325. doi: 10.1002/wdev.325. (2018)
https://www.researchgate.net/publication/326017419_Cell_migration_in_the_Xenopus_gastrula

3)福井彰雅 原腸陥入運動とケモカインシグナル 生物物理 vol.48(1),pp.23-29(2008)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/48/1/48_1_023/_pdf

4)S. Chernoivanenkoa, An. A. Minina, and A. A. Mininb, Role of Vimentin in Cell Migration., Russian J. Develop. Biol., Vol.44, No.3, pp.144–157 (2013)
https://www.researchgate.net/publication/257852243_Role_of_vimentin_in_cell_migration

5)Wikipedia: Neural plate
https://en.wikipedia.org/wiki/Neural_plate

6)Derek L. Stemple, Structure and function of the notochord: an essential organ for chordate development., Development vol.132, pp.2503-2512 (2005) doi:10.1242/dev.01812
file:///C:/Users/morph/AppData/Local/Temp/structure-and-function-of-the-notochord-an-essential-organ-for-chordate-development.pdf

7)Wikipedia: Notochord
https://en.wikipedia.org/wiki/Notochord

8)脳科学辞典:神経堤
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E5%A0%A4

9)Chester E. Chamberlain, Juhee Jeong, Chaoshe Guo, Benjamin L. Allen, Andrew P. McMahon, Notochord-derived Shh concentrates in close association with the apically positioned basal body in neural target cells and forms a dynamic gradient during neural patterning.,
Development vol.135 (6): pp.1097–1106. (2008) https://doi.org/10.1242/dev.013086
https://journals.biologists.com/dev/article/135/6/1097/65055/Notochord-derived-Shh-concentrates-in-close

10)脳科学辞典:神経誘導
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E8%AA%98%E5%B0%8E

11)Emily A. Meyers and John A. Kessler, TGF-b Family Signaling in Neural and
Neuronal Differentiation, Development, and Function., Cold Spring Harb Perspect Biol ; vol.9, no.8 a022244 (2017) doi: 10.1101/cshperspect.a022244.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28130363/

12)Choi KS, Cohn MJ, Harfe BD,Identification of nucleus pulposus precursor cells and notochordal remnants in the mouse: implications for disk degeneration and chordoma formation. Dev Dyn., vol.237(12): pp.3953–3958. (2008) doi:10.1002/dvdy.21805
https://anatomypubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/dvdy.21805

13)Makarand V. Risbud, Thomas P. Schaer, and Irving M. Shapiro, Towards an understanding of the role of notochodal cells in the adult intervertebral disc: from discord to accord. Dev Dyn., vol.239(8): pp.2141–2148.(2010) doi:10.1002/dvdy.22350
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3634351/

14)腰痛|症状や原因: 椎間板の役割
https://www.lumbago-guide.com/intervertebral-disc.html

 

| | | コメント (0)

2021年11月 9日 (火)

続・生物学茶話163:ヘッジホッグ

ひとつの細胞=卵から、ありとあらゆる体の細胞が正しいタイミング、正しい位置に形成されるというのは生物学における最大の謎でしたが、初期発生におけるそのメカニズムの基本的な部分はエドワード・ルイス、エリック・ヴィーシャウス、クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトが中心となって、20世紀のうちに解明されました(1)。

彼らはショウジョウバエにランダムに変異を誘導し、形態が異常になった個体の遺伝子を調べることによって初期発生に関与する遺伝子を同定し、それらに機能や動作のヒエラルキーがあることを解明しました。もちろん彼ら以外にも多くの研究者達が貢献していますが、その結果を図163-1に示しました。先鞭をつけたルイスはトーマス・ハント・モーガンの弟子であるスターティヴァントの弟子であり、モーガンの孫弟子ということになります。ルイスは発生遺伝学以外にも、広島・長崎における原爆被害を調査するという仕事もやっており、放射線の影響に閾値はなくリニアであるという放射線生物学の基本的なセオリーを提唱しました(2)。

エリック・ヴィーシャウスとクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルトはハイデルベルクで共同で研究室を立ち上げ、約2万のショウジョウバエ変異種を分離して、そのなかから初期発生に関与する遺伝子のミュータント120をみつけ、さらにその中から分節形成に関与する15の遺伝子を同定しました(3、図163-1)。彼らはルイスと共に、1995年度のノーベル生理学医学賞を受賞しました。

1631

図163-1 形態形成遺伝子とその発見者達

ルイスが使った実験動物はショウジョウバエでした。発生学の研究はウニ・カエル・ニワトリ・マウスなどが中心だったので、当初ルイスの仕事は軽視されていたようなのですが(2)、生物にとって基本的な遺伝子であればあるほど共通性は高く、ひとつの種で同定されればその相補性配列を使って遺伝子の海から類似遺伝子を釣り上げることができますし、全ゲノム配列が解明されれば、コンピュータでこの操作を行うこともできます。ルイスの仕事は彼が高齢になった頃には非常に注目されることになりました。

ニュスライン=フォルハルトとヴィーシャウスはショウジョウバエ幼虫の表面の剛毛が正しい位置に配置されず、体表全体にはえてきてハリネズミのようになってしまう変異体をみつけ、それにヘッジホッグ(ハリネズミ)という名前をつけました(3)。これと相同な遺伝子は脊椎動物でもみつかりました(4)。類似した遺伝子を哺乳類で探すと、ショウジョウバエではこの種の遺伝子がひとつしかないのに3つみつかりました。哺乳類ではデザート・ヘッジホッグ(dhh)、インディアン・ヘッジホッグ(ihh)、ソニック・ヘッジホッグ(shh)の3種類のヘッジホッグがそれぞれ別の遺伝子にコードされています(5)。インガムとマクマホンは様々な生物で、hhがどのように変化してきたかを調査しました(6)。その結果が図163-2です。脊椎動物以前では1系統、以降では3系統となっていることがわかります。ゼブラフィッシュはdhhの系統を失った代わりに、他の2系統のバラエティーを増やしました(図163-2)。

哺乳類ではshhを中枢神経系誘導や四肢の発生など非常に重要なプロセスで利用していますが、ショウジョウバエのヘッジホッグと最も類似しているのはdhhだそうです(5)。ヘッジホッグと類縁のタンパク質は扁形動物(7)や刺胞動物(8)にも報告されていますが、襟鞭毛虫にもその萌芽が見られる(9)ということで、メタゾアを越えたユニバーサリティーと悠久の歴史を持つファミリーだとされています。なんと細菌まで遡れるという報告もあります(10、11)。

1632

図163-2 ヘッジホッグ遺伝子進化の系譜

ヘッジホッグシグナルの伝達経路はロハジやジョンらの研究によって大筋が明らかになりました(12-14、図163-3)。ヘッジホッグ分泌細胞によって合成されたヘッジホッグはペプチダーゼドメインを持っていて、自己切断によってシグナルドメインが切り離されます(14)。シグナルドメインのN末をパルミトイル化、C末をコレステロール化してリガンドとしての形をととのえ、膜タンパク質の Dispatched によって細胞外に放出されます。

ヘッジホッグリガンドは標的細胞の膜12回貫通タンパク質である Patched 受容体に結合し、この受容体による Smoothened (SMO、膜7回貫通タンパク質) の抑制がはずれてSMOが活性化し、その結果転写因子 Ci/Gli が分解を免れ、完全な形で機能して標的細胞の転写を活性化するというメカニズムが報告されています(5、12-15)。Patched による抑制が外れるとSMOはダイマー化するようです(15)。SMOはGタンパク質共役受容体(GPCR)なので、これだけではなく、より複雑なかかわりをしていることが予想されます(16)。ソニックヘッジホッグ(shh)は中枢神経の誘導のみならず、脳神経系においてさまざまな働きをしています(17)。

1633

図163-3 ヘッジホッグシグナルのメカニズム

ヘッジホッグリガンドが形成されるまでのプロセスはほぼ解明されています。図163-4にソニックヘッジホッグの前駆体がリガンドになるまでの概要とパルミトイル化の反応、図163-5に自己切断とコレステロール化の反応について示しました。

1634

図163-4 ヘッジホッグタンパク質のプロセッシング、N末の修飾

1635

図163-5 ヘッジホッグタンパク質のプロセッシング、C末の修飾

ヘッジホッグ前駆体はまずシグナルペプチダーゼによってN末側の一部が削られ、さらに前駆体自身のC末ドメインによってセルフプロセッシングが図163-4のように行われ、C末側が切り離されると共に、新しいC末にコレステロールが付加されます。N末側はヘッジホッグアセチルトランスフェラーゼによってパルミトイル化されます(図163-5)。このようなプロセスを経てリガンドとして成熟します(14、18)。

ソニックヘッジホッグとは奇妙な名前です。セガメガドライブのゲームに Sonic the hedgehog というのがあるらしいですが、この因子の研究者である Robert Riddle が好きだったようで、そう名付けたようです(19、20)。デザートヘッジホッグとインディアンヘッジホッグは、そのような名前のハリネズミが実際に存在していて、そこから命名されました。 ソニックヘッジホッグの場合KOマウスは胎生9.5日で死亡しますが、デザートヘッジホッグのKOマウスは生き残ります。ただし生殖器や精子の形成がうまくいかないようです。またインディアンヘッジホッグのKOマウスは約半数が出産時まで生き残りますが、その後呼吸器官の欠陥のためにすべて死亡します(21)。

ウィキペディアのヘッジホッグの写真がとても可愛いので、図163-6にコピペしました。

1636

図163-6 3種のヘッジホッグ 名前の由来

ハリネズミはセンザンコウなどと違って、毛がすべて別物に置き換わったのではなく、針以外の普通の毛も持っています。体毛以外に感覚毛(ひげ)も見えます。この写真ではデザートヘッジホッグは白ひげで、インディアンヘッジホッグは黒ひげです。余談ですが、ニシナサチコ著「ハリネズミ・トントが教えてくれたこと」(KKベストセラーズ)を読むと、ハリネズミがどんな動物かよくわかります。

 

参照

1)The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1995 NobelPrize.org.
9 October 1995 Press Release
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1995/summary/

2)Wikipedia:Edward B. Lewis
https://simple.wikipedia.org/wiki/Edward_B._Lewis
https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_B._Lewis

3)Christiane Niisslein-Volhard & Eric Wieschaus, Mutations affecting segment number and polarity in Drosophila., Nature vol.287 pp.795-801, (1980)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6776413/
http://dosequis.colorado.edu/Courses/MethodsLogic/papers/NussleinVolhardWieschaus1980.pdf
http://dosequis.colorado.edu/Courses/MethodsLogic/Docs/VolhardWieschaus.pdf

4)Krauss, S., Concordet, J.P., & Ingham, P.W. (1993).
A functionally conserved homolog of the Drosophila segment polarity gene hh is expressed in tissues with polarizing activity in zebrafish embryos. Cell, 75(7), 1431-44.

5)ウィキペディア:ヘッジホッグシグナル伝達経路
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%8A%E3%83%AB%E4%BC%9D%E9%81%94%E7%B5%8C%E8%B7%AF

6)Philip W. Ingham, and Andrew P. McMahon, Hedgehog signaling in animal development: paradigms and principles., Genes & Dev., vol.15: pp.3059-3087 (2001) doi: 10.1101/gad.938601
http://genesdev.cshlp.org/content/15/23/3059.long

7)Shigenobu Yazawa, Yoshihiko Umesono, Tetsutaro Hayashi, Hiroshi Tarui, and Kiyokazu Agata, Planarian Hedgehog/Patched establishes anterior–posterior polarity by regulating Wnt signaling., Proc Natl Acad Sci USA, vol.106 no.52 pp.22329 –22334 (2009)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2799762/

8)David Q. Matus, Craig Magie, Kevin Pang, Mark Q Martindale, and Gerald H. Thomsen, The Hedgehog gene family of the cnidarian, Nematostella vectensis, and implications for understanding metazoan Hedgehog pathway evolution., Dev Biol, vol.313(2): pp.501–518 (2008)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2288667/

9) Philip W. Ingham, Yoshiro Nakano, and Claudia Seger, Mechanisms and functions of Hedgehog signalling across the metazoa., Nature Reviews, Genetics, vol.12, pp.393-406 (2011)
https://www.academia.edu/13366145/Mechanisms_and_functions_of_Hedgehog_signalling_across_the_metazoa

10)Hausmann G, von Mering C, Basler K., The Hedgehog Signaling Pathway: Where Did It Come From? PLoS Biol 7(6): e1000146.
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.1000146

11)Henk Roelink, Sonic Hedgehog Is a Member of the Hh/DD-Peptidase Family That Spans the Eukaryotic and Bacterial Domains of Life., J. Dev. Biol. vol.6, pp.12-23. (2018) doi:10.3390/jdb6020012

12)Rajat Rohatgi and Matthew P Scott., Patching the gaps in Hedgehog signalling.,
Nat Cell Biol vol.9(9): pp.1005-1009. (2007) doi: 10.1038/ncb435.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17762891/

13)Rajat Rohatgi, Ljiljana Milenkovic, Ryan B Corcoran, Matthew P Scott., Hedgehog signal transduction by Smoothened: pharmacologic evidence for a 2-step activation process.,
Proc Natl Acad Sci USA vol.106(9): pp.3196-3201.(2009) doi: 10.1073/pnas.0813373106.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19218434/

14)Juhee Jeong, Andrew P. McMahon, Cholesterol modification of Hedgehog family proteins., J Clin Invest. 2002;110(5):591-596. https://doi.org/10.1172/JCI16506.
https://www.jci.org/articles/view/16506/figure/1

15)Jie Zhang, Zulong Liu and Jianhang Jia., Mechanisms of Smoothened Regulation in Hedgehog Signaling., Cells, vol.10, 2138. (2021)
https://doi.org/10.3390/cells10082138

16)A. H. Polizio, P. Chinchilla, X. Chen, D. R. Manning, N. A. Riobo, Sonic Hedgehog Activates the GTPases Rac1 and RhoA in a Gli-Independent Manner Through Coupling of Smoothened to Gi Proteins. Sci. Signal., vol.4, pt7 (2011) DOI: 10.1126/scisignal.2002396
https://europepmc.org/article/PMC/5811764

17)脳科学辞典:ソニック・ヘッジホッグ
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B0

18)John A. Buglino and Marilyn D. Resh, Palmitoylation of Hedgehog Proteins., Vitam Horm. vol.88: pp.229–252. (2012) doi: 10.1016/B978-0-12-394622-5.00010-9
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4214369/

19)Wikipedia: Sonic hedgehog
https://en.wikipedia.org/wiki/Sonic_hedgehog

20)Sonic games
https://www.allsonicgames.net/
https://www.allsonicgames.net/sonic-the-hedgehog.php

21)Noriaki Sasai, Michinori Toriyama and Toru Kondo, Hedgehog Signal and Genetic
Disorders., frontiers in Genetics., Volume 10, Article 1103 (2019)
doi: 10.3389/fgene.2019.01103

 

| | | コメント (0)

2021年10月29日 (金)

続・生物学茶話162:半索動物における神経誘導

半索動物というマイナーな門の生物がいます。これはギボシムシ類とフサカツギ類の2つのグループからなっています。私はギボシムシは三崎の臨海実験所で一度見せてもらったことがありますが(多分水族館でも見られると思います)、フサカツギは一度も見たことがありません。ギボシムシは特に珍しいわけではなく、泥の中を動き回り無選別にまるまる泥ごと飲み込んで、その中の有機物を栄養とするという生き方なので大量のうんちを海底に残すことになり、これであたりにいるかどうかがすぐわかります(1)。泥は栄養価が低いので消化管を長くした方が生存に有利であると思われ、中には体長2メートルを超えるものもあるようです(2)。図162-1の個体は体長が書いてありませんでしたが(ウィキメディアコモンズ)、体幹部が長くないので小さめの種類だと思います。体表の殺菌のためにブロモフェノールを排出するので、食用にはならないと思います。もうひとつのグループ、フサカツギは固着生活を選んだせいか、数ミリ程度の体長の目立たない生物です(3)。こちらは生物学者でも見たことのある人は少ないでしょう。私も見たことがありません。

後口動物はにぎやかな分類表の前口動物と比べると、比較にならないくらいこじんまりした分類表で門は3つしかありません(図162-1)。半索動物はそのうちのひとつです。私たちが所属する脊索動物門とウニやヒトデが所属する棘皮動物門が残りの2つです。ここで棘皮動物というのはあまりにも私たちと違いすぎる感じがします。彼らは5放射相称で、本来前口動物・後口動物の祖先である左右相称動物とはかけはなれた形態を持ち、前後の概念はなく、発達した脳や中枢神経系もありません(4)。しかしそれは特殊化や退化の結果であり、彼らも私たちと同じ後口動物であり、発生の途中までは私たちと似たようなボディープランを持っていたことは確かです(5、6)。生物の基本的な形態を決めるHox遺伝子群の並びが非常によく似ていることなどから、彼らは左右相称のギボシムシと近縁な生物であることが判明しています(6)。つまり棘皮動物はHox遺伝子をいじることなく、別の遺伝子による修飾的変異によって5放射相称という独自の体型を獲得しました。

1621a

図162-1 ギボシムシの形態と分類学上の位置

(写真はウィキペディアより)

ギボシムシについて何か記事を書こうと思いついたのは後述の宮本教生博士の研究を知ってからで、それでまずギボシムシの中枢神経系を調べてみたら驚きました。なんとギボシムシは背側と腹側の両方に中枢神経系があるのです(7)。図162-2のように中枢神経系は前口動物では腹側にあり、後口動物では背側にあるというのがおきまりのボディープランであり、両側にあるというのはギボシムシだけでしょう。

クラゲのように海をただようとかヒドラのように固着する生活では、発達した中枢神経系は不要だったのですが、海底を歩くには運動器官の統合的な動作が必要となるため、中枢神経系が運動器官がある体の腹側に形成されたのは必然と言えます。前口動物から突然変異によって生まれた奇形であった後口動物は(これには後述のように疑問がありますが)、海底を歩くのではなく、積極的に泳ぐという魚類によって圧倒的な繁栄をなしとげましたが、中には別のやり方で生き延びたグループもいたわけです。

以前は半索動物は脊索動物と最も近い門とされていましたが、前述のように遺伝子の比較が進み、半索動物は棘皮動物と近縁であることがわかっています。ですからギボシムシの腹側神経が退化して脊索動物が生まれたわけではなく、脊索動物は前口動物の祖先のある者が背腹軸を逆転させて生まれたものであるというのが定説です(8)。ただそうは言っても、私は脊索動物の祖先が背腹両側に中枢神経系を持っていたということを完全に否定することはできないと思います。背腹逆転が起こったとして、そのミュータントが生き延びる可能性はほぼゼロでしょう。このようなドラスティックな変化をなしとげるためには中間的なステップが必要じゃないかというのは常識的な考えです。腹側神経系は前口動物と同様に中胚葉の軟組織に誘導されて存在し、それにプラスして何らかの方法で背側にも発達した神経系を持つようになったグループが複数出現したのではないでしょうか? 両側に発達した神経系があれば、背復逆転というようなドラスティックな変異が起きたとしても生き延びられる可能性は格段に高くなると思います。

ギボシムシは海底を移動する生物ですが、体中に生えている細かい突起を動かして移動します。泥の中を移動するので、上下(背腹)の概念はあまりなく、口がある方が下としていますが、彼らにしてみればどうでもよいことです。背腹両側に中枢神経があるので、消化管と中枢神経がクロスするのが前口動物、しないのが後口動物という定義はあてはまりません(図162-2)。彼らは運動器官を全身に持っていて、これらを協調して動作させないとうまく動けないので、背腹の両側に中枢神経があるのは合目的的です。

宮本らが発見したのは、ギボシムシの消化管の一部が分化した口盲管とそれに接続する襟背側消化管上皮(半索とよばれるもの)が発生において中枢神経を誘導するということです(7、9)。口盲管と襟背側消化管上皮の位置は図162-2に緑色で示しました。

1622a

図162-2 中枢神経系と消化管の位置

前口動物・後口動物を問わず、中枢神経系の誘導は中胚葉の仕事ということになっていますが、ギボシムシでは内胚葉性の口盲管と襟背側消化管上皮が誘導するというまれなメカニズムが宮本らによって報告されています(7、9、図162-3)。しかもこれらの組織にはコラーゲン(ColA)やヘッジホッグ(hh)という脊索に特徴的な遺伝子発現がみられるそうです。そしてヘッジホッグによる誘導情報を受け取るためのパッチト(ptc)遺伝子の発現が襟神経索にみられるということで、これはまさしく脊索による中枢神経の誘導に匹敵する現象と言えます(7、9、図162-3)。

このことは脊索と半索(口盲管)が関連性の希薄な器官だとしても、脊索動物と半索動物のはるか昔の共通祖先が、中枢神経を誘導するための共通の遺伝子セットとメカニズムを持っていたということで、なかなか興味深い知見だと思います。

1623a

図162-3 口盲管と消化管上皮による神経索の誘導

脊索動物では脊索という丈夫な結合組織系の構造が体の正中線に沿って頭部から尾部まで形成されます。これは脊索動物が進化の過程でいったん脚を捨てて、つまり海底を歩くという生き方を捨てて、泳いで移動するという行動様式を採用したことと深く関係があると思います。泳ぐためにはくねくねとした運動が必要で、丈夫な構造を中央正中線沿いにつくり、その左右に筋肉をつけて左右交互に収縮と弛緩を行うことによってそれは可能になります。そのためには左右の筋肉の協調が必要で、中枢神経による全身の筋肉の制御ができなくてはいけません。このような生き方を可能にするために、脊索が形成され、脊索によって中枢神経系が誘導されて全身の筋肉を制御できるような、いわゆる魚型の形態が完成されました。この形態をとる生物ははやくもカンブリア紀に出現しています(10、11)。

脊索動物の場合、図162-4に示されているように、中胚葉起源の脊索(notochord) はその背側の外胚葉を内側に陥入させ神経管を誘導します。陥入する部分の外胚葉を神経板といいます。陥入して神経管になる部分ととどまって表皮となる外胚葉の境界領域に神経堤 (neural crest) という特殊な領域が形成され、この部域は神経板が陥入するときに内部に巻き込まれますが神経管の一部とはならず別組織となります。この未分化な組織はその後分化してさまざまな組織を形成することになります。これについては別のセクションで述べたいと思います。

1624a

図162-4 脊椎動物における神経管の誘導

脊索は体の中心となる頑丈な組織なのですが、脊椎動物では中枢神経を保護するための脊椎が形成されるという形態に進化が起こりました。脊椎は脊索よりさらに頑丈な組織なので、脊索は中枢神経を誘導した後は無用の長物となり退化します。ナメクジウオは典型的な脊索動物で、脊索は頭部から尾部まで体全体に伸びており、成体になっても退化せずに残ります(12、図162-5)。ナメクジウオ類は頭索動物と呼ばれますが、頭索というのは脊索が頭部にもあるという意味です。この点は脊椎動物も同じです。

ホヤは一部を除いて幼生にだけ脊索がみられます。ただし頭部には脊索がありません(13、図162-5)。この意味でホヤ類は尾索動物と呼ばれています。尾索動物は成体が固着生活をおくるように進化したため、脊索や脊椎などの頑丈な組織は不要となり、その他の構造も特殊化して脊椎動物とは似ても似つかぬ体型になりました。そのため一見して頭索動物の方が脊椎動物に近縁なように見えますが、遺伝子の研究などによって頭索動物より尾索動物の方が脊椎動物と近縁であることがわかりました(14)。頭索動物には神経堤が認められず、尾索動物は神経堤の発達が頭索動物と脊椎動物の中間的であるということも判明しています(15)。

1625a

図162-5 頭索動物(成体)と尾索動物(幼生)の形態

画像はウィキペディアより。尾索動物の図の投稿者は Jon Houseman。

 

参照

1)ねっとで水族館 ワダツミギボシムシ Balanoglossus carnosus
http://www.aquamuseum.net/content/aquarium/nagamusi/gibosi-1.html

2)ウィキペディア:半索動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%8A%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9

3)並河洋 謎の動物 “フサカツギ” を求めて 国立科学博物館HP
https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/my_research/zoology/namikawa/index_vol2.html

4)ウィキペディア:棘皮動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%98%E7%9A%AE%E5%8B%95%E7%89%A9

5)大平万里 食の研究所 昆虫よりもウニのほうがヒトに近い生物である理由
生物進化を食べる(第2話)棘皮動物篇 JBPRESS (2019)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56540?page=3

6)入江直樹・大森紹仁 左右対称から五放射の体を進化させた棘皮動物のゲノム解読
東京大学プレスリリース
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2020/6941/

7)宮本教生 海底に潜むムシから探る脊索動物の起源 生命誌ジャーナル 83巻 (2014)
https://www.brh.co.jp/publication/journal/083/research_1.html

8)生物学茶話@渋めのダージリンはいかが112: 背と腹
http://morph.way-nifty.com/lecture/2018/09/post-ec8a.html

9)Norio Miyamoto & Hiroshi Wada, Hemichordate neurulation and the originof the neural tube
, Nature communications (2013) DOI: 10.1038/ncomms3713

10)ウィキペディア:魚類
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%9A%E9%A1%9E

11)ウィキペディア:ミロクンミンギア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AD%E3%82%AF%E3%83%B3%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%82%A2

12)ウィキペディア:頭索動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9

13)ウィキペディア:尾索動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BE%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9

14)ウィキペディア:脊椎動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%8A%E6%A4%8E%E5%8B%95%E7%89%A9#%E8%84%8A%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9%E3%81%AE%E7%89%B9%E5%BE%B4

15)Joshua R. York and David W. McCauley, The origin and evolution of vertebrate
neural crest cells., Open Biology vol.10, 190285 (2020)
http://dx.doi.org/10.1098/rsob.190285

 



 

| | | コメント (1)

2021年10月20日 (水)

続・生物学茶話161:グリア細胞 その2 種類

グリアまたはニューログリアという言葉は19世紀プロイセンの病理学者ルドルフ・フィルヒョウが流布させたものですが、現在でも神経組織における神経細胞以外のすべての細胞という意味で使われています。つまり様々なタイプの細胞を便宜的にまとめた言葉です。とはいえ脳の毛細血管はグリアではないので、厳密な定義とは言えません。アレクセイ・ヴェルクラツキらは「Neuroglia can be defined as homeostatic and defensive cells of the nervous system」と定義しています(1)。これは例えばクラゲの神経細胞をサポートする細胞があることがわかった場合にも、グリア細胞と呼べるという利点がありますが、神経組織が損傷を受けた場合に集まってくる非グリア系マクロファージはどうするんだという欠点もあります。

ヴェルクラツキら(1)によると、最初にニューログリアを代表する細胞であるアストログリア細胞を定義したのは Michel von Lenhossek で、1895年のことだったとされています(1)。論文が引用されていなかったので少し調べてみましたが、Michel von Lenhossek は Mihaly Lenhossek という名前で呼ばれることもあり、nerve growth cone の発見者です(2)。アストログリアの件はおそらく文献(3)に掲載されていると思われますが、確認できませんでした。

脳科学辞典によるグリア細胞の分類は

1.アストロサイト

2.オリゴデンドロサイト

3.ミクログリア

という極めてあっさりとしたものですが(4)、ウィキペディアをみると

CNS:Astrocyte, Oligodendrocyte, Ependymal cells, Radial glia, Pituicytes, Tanycytes
PNS:Schwann cells, Satellite cells, Enteric glial cells

となっています(5)。

ウィキペディアの模式図には中枢神経系をサポートする4種のグリア細胞が描かれています(5、図161-1)。4種とは脳室に面した上皮の ependymal cell(上衣細胞)、astrocyte(星状膠細胞)、ologodendrocyte(希突起膠細胞)、microglial cell(小膠細胞)のことです。

1611a

図161-1  脳の基本構造(模式図)
模式図はウィキペディアより 茶色で名前が書いてあるのがグリア細胞

ラゴ=バルダイアら3人の女性研究者が共著でタイトル「More Than Mortar: Glia as Architects of Nervous System Development and Disease 」という総説を書いています(6)。これはモルタルを越えてという意味で、古くはグリアはモルタルと同じで細胞と細胞をくっつける役割とされていたことを示しています。彼らはグリア細胞を8つのグループに分けました。それはアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、シュワン細胞、血液-脳関門、中枢と末梢の移行領域のグリア、組織密着性グリア、ラジアルグリアとなっています(6)。

彼女らの総説の図1はそのままコピーしたいくらい適切なイラストと適切なレジェンドで構成されており、特にC・エレガンス、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、齧歯類、ヒトで名称を比較整理してあるのが便利です。たとえばショウジョウバエで Astrocytesの一部、 Ensheathing gliaの一部、Cortex glia とされているものが実は私たちのミクログリアに相当するものであることが示されています(6)。

とはいえここでは細かい点につっこむのは避けて、とりあえずアストロサイトからはじめましょう。アストロサイトとはギリシャ語で星のような細胞という意味です。ちなみにアストロバイオロジーとは宇宙生物学の意味になります。図161-2に様々な方法で染色・撮影されたアストロサイトが示されています。AとBはGFAPという線維性タンパク質(中間径フィラメントを構成)の抗体を使って染色したものです。アストロサイトを特異的に染色するためによく使われる方法です。Aは培養液中でのんびりしている細胞、Bは脳に損傷を与えて活発に活動している細胞です。後者では細胞の一部がまるで軸索のように伸びていることがわかります。

Cはエール大学の教育用資料で、どのような方法で作製した標本なのかは記載してありませんでしたが、多くの棘を出していてウニのような写真です(7)。ただGFAPは中間径繊維を構成しているので、細胞骨格が目立つトゲトゲの形態にみえている可能性があり、たとえば電子顕微鏡でみると全く違ったイメージになります(4、図161-2D 左右の眼で別々に見ると立体的に見える)。最近ではアストロサイトはトゲトゲの星形細胞ではなく、棘の周辺に膨らみをを持ち(膜状仮足=ラメリポディア)、かつこのような非常に複雑でアモルファスな構造の細胞であるとされています(6)。

1612a

図161-2 アストロサイト
AとBはウィキメディアコモンズより(投稿者は Dantecat)、Cはエール大学の教育用資料、Dは脳科学辞典より(投稿者は濱清)

アストロサイトの機能としては、1)構造的に脆弱なニューロンのネットワークを物理的に支持する、 2)シナプス前細胞、シナプス後細胞、アストロサイトが神経伝達物質の回収と供給を通じて三位一体のユニットとしてシナプスの機能を担う、3)ニューロン外部のカリウムイオン濃度を調節する、4)グリコーゲンを合成して貯蔵する、5)オリゴデンドロサイトの髄鞘形成作用を増進する などが報告されています(8)。一方で1990年にコーネル=ベルらがGタンパク質共役型グルタミン酸受容体を刺激すると、アストロサイトのカルシウム濃度が上昇することを発見してから、この細胞がニューロンまがいの情報伝達をおこなっていることが示唆されています(9、10)。これは代謝活性型グルタミン酸受容体 mGluR5 がアストロサイトに発現しているためですが、ウェイ・サンらはこのような現象はマウスでは生後3週間までで、成体ではこの受容体は激減し、同じ代謝活性型受容体ですが mGluR3 がメインになることを報告しています(11)。新生仔と成体ではアストロサイトの機能が多少異なるのかもしれません。

上記の2)の機能を最初に示唆したのはノレンバーグとマルティネス=ヘルナンデスで、彼らはグルタミン酸をグルタミンに変換する酵素がアストロサイトに局在することを指摘しました。これはニューロンが遊離したグルタミン酸をアストロサイトが取り込み、グルタミンに変換して貯蔵しておく役割を果たしていることを示唆しています(12)。

さて次はオリゴデンドロサイトですが、これらの細胞の発見に関わった人々の中で最も重要な貢献をした3人の肖像をウィキペディアから転写しておきます(図161-3)。

1613a

図161-3 オリゴデンドロサイトの発見者達
写真はウィキペディアより ただしテオドール・シュワンの肖像はフォン・ルドルフ・ホフマン1857年制作のリトグラフ

テオドール・シュワンはどんな生物学の教科書にも記載されている細胞説を唱えた有名人ですが、シュワン細胞あるいはシュワン鞘という名前も残されています。シュワンが発見したこの細胞は、現在ではオリゴデンドロサイトの末梢タイプであることがわかっています(13)。

リオ=オルテガはラモン・イ・カハールの研究室で炭酸銀染色という手法を使って脳組織を染色し、アストロサイト以外のグリア細胞の分類を行ってオリゴデンドロサイトの存在を主張しましたが、ラモン・イ・カハールはこれを認めず、破門されてしまいました。しかし彼はペンフィールドらの協力を得て研究を辛抱強く継続し、最後にはラモン・イ・カハールとも和解しました(14~16)。オルテガは仕事が認められて、さあ順調にキャリアを積もうというときにスペイン市民戦争が勃発し、流浪の生活を強いられることになりました。結局オックスフォードやブエノスアイレスに移住して仕事を続け、キャリアを終えることになりました(14)。一方ペンフィールドはモントリオールで、ヒト大脳の一次運動野と一次体性感覚野のホムンクルスを作成するなど脳神経科学に多大な貢献をしただけでなく、脳外科分野でもめざましい成果をあげました(17)。

リーダーズ英和辞典で調べると、dendro- というのは樹木という意味だそうです。オリゴデンドロとはおそらく樹木の枝が少ないという意味でしょうから、オリゴデンドロサイトを日本語で希突起膠細胞と訳したのでしょう。実際通常のHE染色組織切片では図161-4Aのように丸い細胞に見えます。しかし免疫染色で染めると図161-4Bあるいは4Cのように長い枝を出していることがわかります。これはオリゴデンドロサイトが神経細胞の軸索をカバーしているからに他なりません(18-20)。脳科学辞典によると脳のオリゴデンドロサイトはひとつの細胞が40~50本の軸索にミエリンを形成し、平均して15の突起を伸ばしているそうで、これではオリゴじゃないので細胞の名前を変えた方が良いようです(21)。

1614a

図161-4 オリゴデンドロサイトの形態
写真はすべてウィキメディアコモンズより Aはヒトのオートプシー資料より得た切片をHE染色したもの(投稿者 Jensflorian) Bは Rip 抗体によるマウス脳の免疫染色(グリーン オリゴデンドロサイトを染色)とヘキスト33342による染色(ブルー すべての細胞が染まる)(投稿者 Oleg Tsupukov)、Cはラット小脳のミエリン塩基性タンパク質の免疫染色(レッド)とDNAの染色(ブルー)(投稿者 Gerry Shaw)

アストロサイトは神経細胞を普通に包むだけですが、オリゴデンドロサイトは薄くなった細胞でぐるぐる巻きにして、いわゆるミエリン化することができます(図161-5)。オリゴデンドロサイトは末梢では通常複数の細胞でひとつの軸索を巻いている場合が多くシュワン細胞と呼ばれています。しかし中枢では前記のように、あるいは右上のイラストのように(図161-5)ひとつの細胞で多数の軸索をカバーしています。

軸索を包むオリゴデンドロサイトが形成するこの年輪のような多層構造はミエリン鞘またはシュワン鞘とよばれ、ここには細胞膜の主要な成分のひとつであるコレステロールが多量に集積されます。コレステロールには絶縁作用があり、これによって軸索を物理的に保護するだけでなく、絶縁性を高めて漏電を阻止し、神経伝達を高速化する効果があります(13、22)。

1615a

図161-5 ミエリン鞘の形成
ウィキメディアコモンズより 上のイラストの投稿者はCFCF、下左のイラストの投稿者は Ralph Walterberg、下右の電子顕微鏡写真の投稿者は Roadnottaken

メジャーなグリア細胞3種の最後はミクログリアですが、最初にこの細胞を記載したのはニッスル小体で有名なフランツ・ニッスル(図161-6)で、19世紀末のことだとされています。彼はニッスル染色で神経組織を研究しているときに新細胞を発見し rod cells (Stabchenzellen) と呼んでいました(23)。ミクログリアという名前をこの細胞に与え、最初に詳細な研究を行ったのはリオ=オルテガのようですが(24)、この文献はウェブでは読めそうもありません。興味のある方はリザイが調査して小論をウェブにアップしているので、そちらをご覧ください(25)。

ミクログリアは脳虚血性発作などで神経組織が損傷を受けたような場合、図161-6右上図のようにまわりから集まってきて当該部位の修復を行います。このような細胞の行動をみると、この細胞がマクロファージ/モノサイト系であることは容易に想像できて、19世紀からそう考えられていたのですが、なかなかきちんと証明することは困難で、この系統の細胞に特異的な抗体の開発をはじめとして(図161-6下の2枚の図など)ようやく20世紀末頃から研究が進み、現在ではミクログリア細胞が血液幹細胞オリジンのマクロファージ/モノサイト系の細胞であることが明らかになっています(26-30)。

1616a

ウィキメディアコモンズより 上の写真 ラット大脳皮質において実験的に虚血部位を作成し、ミクログリア細胞がその位置に集合してくる様子を撮影 (投稿者 Mary Antipova) 下左 レクチン染色(茶色)にポジティヴなのがミクログリア細胞 (投稿者 Grzegorz Wicher) 下右 ラット脳細胞の混合培養をコロニン1a 抗体でミクログリア細胞を赤く染めた 緑色に染まっているのはアルファ-インターネキシンを染めたものでニューロン (投稿者 Gerry Shaw)

ジンホユー(図161-7)らの研究によって、胎生期のミクログリアは卵黄嚢の前駆細胞が脳に移転することによって形成されることがあきらかになりました。また彼らは移転した細胞は成体になっても機能するとしています(23、31)。しかし卵黄嚢由来の細胞だけでミクログリアが形成されるわけではなく、発生のステージにともなって順次血液で脳に前駆細胞が運ばれてきます。胎仔に肝臓が形成されるとミクログリアの前駆細胞は胎仔肝で形成され、成体では骨髄で形成されます(ただし成体の場合は主として炎症・変性・慢性ストレスなどの病的状態が発生した場合に限られるようです)。これらがミクログリアのソースとなっています。すなわちミクログリアのオリジンは血液幹細胞由来のマクロファージ/モノサイト系の細胞であることが明らかになりました(図161-7)。血液幹細胞は中胚葉由来ですから、ミクログリアはニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトなどの外胚葉由来の細胞とは全く異なる系統の細胞です。

1617a

図161-7 ミクログリアの発生的起源
ジンホユー博士の写真は大阪大学のサイトより マウスの写真はウィキメディアコモンズより その他は自作のイラスト Eは胎生E日を示す

中枢神経系のミクログリアは神経細胞に異常が見つかると、突起を伸ばしたり移動したりして接近し、病原体を排除したり、老廃物を吸収したり、死細胞を貪食によって取り除くという作業を行います。この他にもシナプスを無効化したり、各種サイトカインを放出したりなど様々な機能を担っています(30)。

ここまでメジャーなグリア細胞3種について述べてきましたが、それ以外のグリア細胞についても少しだけ言及しておきます。

まず上衣細胞(Ependymal cells)ですが、これは脳室の壁を構成する上皮細胞です。繊毛を持ち脳脊髄液流を引き起こすという機能の他、脳脊髄液と神経細胞などとの物質移動や老廃物廃棄の役割を担っていると考えられていますが、まだ未知の機能もありそうです(32)。放射状グリア細胞(radial glial cell)は実際には神経幹細胞で、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ニューロンなどを細胞分裂によって生成します(33)。後葉細胞(Pituicytes)は脳下垂体後葉に存在するグリア細胞で、後葉におけるホルモンの分泌調節に関与していると考えられています(34)。Tanycyte は上衣細胞の一種と考えられていますが、その機能はまだよくわかっていません。衛星細胞は筋肉にも同じ名前の細胞がありますが、それとは別で、ここで言う衛星細胞は神経節にあって神経細胞体を取り巻いている細胞です。腸グリア細胞(Enteric glial cells)は腸周辺の神経細胞をサポートしている細胞です(35)。

参照

1)Alexei Verkhratsky, Margaret S. Ho, Robert Zorec, Vladimir Parpura, The Concept of Neuroglia., Adv Exp Med Biol., vol.1175: pp.1-13. (2019)
doi:10.1007/978-981-13-9913-8_1.

2)Frank W. Stahnisch, Andrew G. M. Bulloch, Mihaly (Michael von) Lenhossek (1863-1937), J Neurol vol.258: pp.1901-1903 (2011)
doi: 10.1007/s00415-011-6035-8

3)Lenhossek M (1895) Der feinere Bau des Nervensystems im Lichte neuester Forschungen (2nd rev. Ed.), Kornfeld, Berlin

4)脳科学辞典:グリア細胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B4%B0%E8%83%9E

5)Wikipedia: Glia
https://en.wikipedia.org/wiki/Glia

6)Inês Lago-Baldaia, Vilaiwan M. Fernandes and Sarah D. Ackerman, More Than Mortar: Glia as Architectsof Nervous System Development and Disease., Frontiers in Cell and Developmental Biology, Volume 8, Article 611269, (2020) doi: 10.3389/fcell.2020.611269
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcell.2020.611269/full

7)http://medcell.med.yale.edu/histology/nervous_system_lab/microglia_and_astrocytes.php

8)ウィキペディア:アストロサイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88

9)A H Cornell-Bell, S M Finkbeiner, M S Cooper, S J Smith, Glutamate induces calcium waves in cultured astrocytes: long-range glial signaling.
Science, vol.247(4941): pp.470-473. (1990) doi: 10.1126/science.1967852
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1967852/

10)工藤佳久著 「脳とグリア細胞」 技術評論社 2011年刊

11)Wei Sun et al., Glutamate-Dependent Neuroglial Calcium Signaling Differs Between Young and Adult Brain., Science., vol.339(6116): pp.197–200. (2013) doi: 10.1126/science.1226740
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3569008/

12)M D Norenberg, A Martinez-Hernandez, Fine structural localization of glutamine synthetase in astrocytes of rat brain., Brain Res., vol.161(2): pp.303-310.(1979) doi: 10.1016/0006-8993(79)90071-4.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31966/

13)ウィキペディア:髄鞘
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%84%E9%9E%98

14)Fernando Pérez-Cerdá, María Victoria Sánchez-Gómez and Carlos Matute, Pío del Río Hortega and the discovery of the oligodendrocytes., Frontiers in neuroanatomy, vol.9, article 92., (2015) doi: 10.3389/fnana.2015.00092

15)Penfield, W., Oligodendrogliaanditsrelationtoclassicalneuroglia. Brain
vol.47, pp.430–452. (1924) doi:10.1093/brain/47.4.430

16)Gill, A.S. and Binder,D.K., Wilder Penfield, Pío del Río-Hortega and the
discovery of oligodendroglia. Neurosurgery vol.60, pp.940–948, (2007) doi:10.1227/01.neu.
0000255448.97730.34

17)脳科学辞典:ワイルダー・グレイヴス・ペンフィールド
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89

18)Wikimedia commons: Oligodendrocyte
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Oligodendrocytes

19)Wikipedia: Oligodendrocyte
https://en.wikipedia.org/wiki/Oligodendrocyte

20) Wikimedia Commons:Oligodendrocyte HE stain high mag.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Oligodendrocyte_HE_stain_high_mag.jpg

21)脳科学辞典:オリゴデンドロサイト
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B4%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88

22)ウィキペディア:コレステロール
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB

23)Florent Ginhoux, Shawn Lim, Guillaume Hoeffel, Donovan Low and Tara Huber, Origin and defferentiation of microglia., Frontiers in Cellular Neuroscience, vol.7 article 45 (2013), doi: 10.3389/fncel.2013.00045

24)Rio-Hortega,D., “Microglia,” in Cytology and Cellular Pathology of the Nervou sSystem, Vol.2, ed W.Penfield, (NewYork, NY: P.B. Hoeber,Inc.), pp.482–534. (1932).

25)Payam Rezaie, Mesoglia and Microglia, Evernote Web (2012)
https://ibro.org/wp-content/uploads/2018/07/Mesoglia-and-Microglia.pdf

26)W F Hickey, and H Kimura, Perivascular microglial cells of the CNS are bone marrow-derived and present antigen in vivo., Science. vol.239(4837): pp.290-292. (1988)
doi: 10.1126/science.3276004

27)Hitoshi Honda, Hiromitsu Kimura, Willys K.Silvers, Abdolmohammad Rostami, Perivascular location and phenotypic heterogeneity of microglial cells in the rat brain., Journal of Neuroimmunology, col.29, pp.183-191 (1990) https://doi.org/10.1016/0165-5728(90)90161-F
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/016557289090161F

28)Nico van Rooijen, William F Hickey, Geoff Preidisa, Violeta McGaughya, Hematogenous macrophages express CD8 and distribute to regions of lesion cavitation after spinal cord injury., Experimental Neurology vol.182, issue 2, pp.275-287 (2003) https://doi.org/10.1016/S0014-4886(03)00120-1
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0014488603001201

29)Rezaie P., Microglia in the human nervous system during development. Neuroembryology vol.2: pp.18-31. (2003) https://doi.org/10.1159/000068498
http://oro.open.ac.uk/2607/

30)脳科学辞典:ミクログリア
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2

31)Morgane S Thion, Florent Ginhoux, Sonia Garel, Microglia and early brain development: An intimate journey, Science vol.362(6411): pp.185-189. (2018) doi: 10.1126/science.aat0474
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30309946/

32)脳科学辞典:上衣細胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E4%B8%8A%E8%A1%A3%E7%B4%B0%E8%83%9E

33)脳科学辞典:放射状グリア細胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%8A%B6%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B4%B0%E8%83%9E

34)Wikipedia: Pituicytes
https://en.wikipedia.org/wiki/Pituicyte

35)Kristine Novak, What do enteric glial cells do? The AGA Journals Blog. (2014)
https://journalsblog.gastro.org/what-do-enteric-glial-cells-do/

 

| | | コメント (0)

2021年10月 5日 (火)

続・生物学茶話160:グリア細胞 その1 研究史・起源と進化

グリア細胞とは何かについて定義や分類からアプローチするには文献(1)がありますが、ここでまずチュヴェタルらが出版した文献(2)の記述をたどって研究のルーツの探索からはじめることにしました。

1601a

図160-1 グリア細胞の存在に19世紀またはそれ以前から気づいていた人々
(肖像はウィキペディアより)

チュヴェタルらによれば、グリア細胞について最初にきちんと認識したのは18世紀の神経生理学者 Albrecht von Haller (図160-1)だそうで、彼は神経組織には刺激や感覚とは関係のない間を埋める組織 (Zellgewebsfaser = cell tissue fibre)が存在し、Zellgewebe = cellular tissue を構成していると述べているようです。古い文献を調査してこのことを発掘したのはコンスタンツ大学の院生で、私はオリジナルの文献(学位論文)を見ていません。しかしチュヴェタルらはフォン・ハラーが最初の真正な神経生理学者だと高く評価しています。

次の重要人物はアンリ・デュトロシェ (Henri Dutorochet、図160-1) で、半透膜で隔てられた液体間の濃度の差によって浸透圧が発生することを示したことで有名ですが(3)、彼はまたカエルやカタツムリの脳のガングリオンを包むように存在する細胞のクラスターを報告しており(4、5)、彼がグリア細胞の発見者であると考える人々もいるようです。約100年経過してからシュタドニカ(Studniˇcka)が検証して、デュトロシェが報告したのはミクログリアであるとしています(6)。私はこれらの文献にはアクセスできていないので、チュヴェタルらの受け売りです。図160-1にはメダルのような肖像をウィキペディア(7)から拝借しましたが、彼は植物学者でもありその方面でも有名らしく、ガーデニングのサイトに肖像画がありますので、興味のある方はそちらをご覧ください(8)。

19世紀になって最初の重要人物はガブリエル・ヴァレンティン(図160-1)です。ヴァレンティンは神経組織は神経細胞体と神経線維に加えて、線維または糸状の中間体で構成されるというモデルを提唱しました(9)。文献9を少し探しましたがみつかりませんでした。彼が優れていた点はその線維または糸状の中間体が細胞間物質ではなく細胞そのものであると認識していた点です(1)。

ニューログリアという言葉を最初に使ったのは、ビスマルクと敵対する進歩党を創設した政治家としても有名な、病理学者のルドルフ・フィルヒョウとされています(10、11、図160-1)。彼はグリアが他の結合組織とは性質が異なることを認識していました。彼のアイデアの基盤にはロキタンスキーの一連の論文があるらしいですが、フィルヒョウは教科書を書いていたのでそれを読んだ学生の間で定着し、彼がニューログリアという概念の創始者とされたようです(1、12)。

カール・ベルクマンは小脳のプルキンエ細胞を包む大規模なニューログリアの集積を発見しました(13、図160-1)。この論文はドイツ語ですが言語が理解できる人はフリーで読めます。ベルクマンが発見したこのグリア細胞群はバーグマングリアという名前で現在も使われています。脳科学辞典のサイトに美しい写真もあります(14)。オットー・ダイテルスは20才台で夭逝してしまった科学者ですが(図160-1)、まだゴルジ染色もないような時代にアストロサイトの美しいスケッチを残しました(15、図160-2左図)。文献15の論文(死後友人達が完成した)は318ページもある長大な論文で、いかに彼が情熱的に脳科学に取り組んでいたかに驚かされます。スケッチは論文の末尾のあたりにまとめられています(15)。彼は腸チフスで亡くなったそうですが(16)、生きていればラモン・イ・カハール(図160-1)のような偉大な科学者になっていたことでしょう。誠に残念な夭逝でした。ラモン・イ・カハールは神経細胞だけでなく、バーグマングリアと関係が深い放射状グリア細胞のスケッチも残しています(17、図160-2中図)。ランヴィエ絞輪(18、19、図160-2右図 e)はグリア細胞のひとつの形態であり、ランヴィエ(図160-1)が発見した構造です。

1602a

図160-2 グリア細胞 研究黎明期の図版
Otto Deiters の図版:Deiters, O. Untersuchungen uber Gehirn und Ruckenmark des Menschen und der Saugethiere; Vieweg: Braunschweig, Germany, 1865. よりアストログリア細胞の描画図
Ramo´n y Cajal の図版:Ramo´n y Cajal, S. Histologie du syste`me nerveux de l’homme et des verte´bre´s. Paris: Maloine; 1911:Vol. 2, p. 859. よりラジアルグリアの描画図
Rouis Ranvier の図版:ランヴィエによる神経鞘の顕微鏡写真 e がランヴィエ絞輪

ラモン・イ・カハールやルイ・ランヴィエが確固たる基礎を築いて以降、グリア細胞について膨大な知見が蓄積しましたが、それはとりあえず置いて、まずグリア細胞が進化の過程でどのように変化してきたかについて概観します。脳は神経細胞が集積してできている臓器なのですが、現在ではその認識はある意味で間違いであることがわかっています。というのはヒト脳のグリア細胞の数は神経細胞の数の50倍くらいになるからです。グリア細胞は神経細胞が正常に機能するようにさまざまなサポートをしているほか、自身もシグナル伝達の一部を担っているとされています(20)。

ではグリア細胞がないと神経細胞は何もできないのでしょうか? 有櫛動物(フウセンクラゲ・カブトクラゲ・ウリクラゲなど)や刺胞動物(ミズクラゲ・エチゼンクラゲ・ヒドラ・イソギンチャク・サンゴなど)はそれぞれ多くの神経細胞は持っていますが、グリア細胞は報告されていません。

1603a

図160-3 神経系の進化とグリア細胞
A. Bery et al (ref.21) の図を参考に作成しました

左右相称動物の中では最も原始的とされている無腸動物にはウィキペディアでは中枢神経系はないとされていますが、その分野の研究者によれば、確かに脳が存在しグリア細胞らしきものもみられるとしています(21)。ここでは彼らを信用して左右相称動物は集中神経系を持ち、グリア細胞も保有するとしておきます(図160-3)。無腸動物なんてめずらしい動物で見たことがないと私も思っていましたが、熱帯魚などを飼っている人にはお馴染みらしく、しばしば水槽に大発生して悩みの種だそうです(22、23)。

なぜ散在神経系の有櫛動物・刺胞動物はグリア細胞を持たず、左右相称動物が出現して集中神経系が形成されると、とたんにグリア細胞が出現したのかはよくわかりません。ただ散在神経系とは言っても、ランダムにどの場所にあってもいいわけじゃないですし、それぞれ活発に活動してもいるので、グリア細胞がないというのは形態学的に識別できないだけで、実は相当する機能をある程度果たしている細胞があると考える方が適切だとは思います。

扁形動物には確実に中枢神経系・脳が存在します(24-26)。扁形動物におけるグリア細胞は間充織系すなわち中胚葉系の細胞であるとされています(24、25)。私たちの脳にもミクログリアという中胚葉系の細胞がありますが、無脊椎動物のグリア細胞との関係はわかりません。Roberts-Galbraith らがプラナリアのグリア細胞の電顕写真をアップしていますがわかりにくい感じです(26)。ただプラナリアではグリア細胞がかなり発達しているような感じはうかがえます。Biserova が条虫(サナダムシ)の脳の電顕写真を提供してくれていて、その中にグリア細胞の写真もありました(25、図160-4)。これはとてもわかりやすいです。ミエリンのような構造も見えます。ただ専門家の立場から言えば、これはナイフマークのある写真で、「ちゃんとナイフを研いで使えよ」と言いたくはなりますが。

1604a

図160-4 扁形動物の脳にみられるグリア細胞

C.エレガンス(線形動物)では神経細胞がきっちり外胚葉性のグリア細胞で覆われている感じになります。グリア細胞は神経細胞の機能をサポートするだけでなく、神経細胞の発生にも必要であることがわかっています(27、28)。図160-5では喉の周囲にあるリング状の脳の裏表がグリア細胞によって覆われていることが示されています。このグリア細胞が神経細胞のラインと分かれて分化するためには、 lin-26 という遺伝子の発現が必須です(29)。C.エレガンスのグリア細胞は、特に表層の感覚器の発生や神経細胞とのつながりを形成するために必要なようです(30)。

図160-5のCEPsh グリア細胞のうち腹側の細胞はネトリンを分泌していて、軸索の誘導を制御していますし、その他にも神経細胞の機能を様々な形で制御しているようです(30)。

1605a

図160-5 線虫(Caenorhabditis elegans)の脳とグリア細胞
S. Shaham (ref.28) の図を参考に作成しました

あまり実験動物としてポピュラーではありませんが、脳神経科学の研究にはよくヒルが使われます。それはヒルが損傷した神経を修復する能力を持っているからです。これは更地から作り直すプラナリアなどとは異なる能力です(31)。医学の見地からも興味深い生物でしょう。

ヒル(環形動物)は体の前端と後端に脳を持っていて、これはヒルが前後の吸盤を使って動くことと関係しているのでしょう。私たちと同じく前後に1本の脊髄のような太い神経束が伸びていて、体節ごとにガングリオンがあり、そこから側方に神経が伸びています(図160-6)。C.エレガンスにはこのような構造はありません。神経束をカバーするマクログリア細胞、ガングリオンの神経細胞を包むパケットグリア細胞、ガングリオンの中央にあるニューロピルグリア細胞(ジャイアントグリア細胞)、神経叢全体にくっついて存在しているミクログリア細胞など、さまざまに分化したグリア細胞が認められます(31-33、図160-6)。

損傷した神経を修復する際には、ミクログリア細胞が中心となって修復活動を行うようで、これは脊椎動物でも大規模な損傷は修復できませんが、細胞レベルでの貪食による整理、病巣部に移動してさまざまな処理をするなどマクロファージ的な活動を行っていることから、両者のミクログリア細胞は類似していると言えるでしょう(34)。

1606a

図160-6 ヒルの神経系とグリア細胞
A:Nervous systems, The leech による
http://nervoussystemphyla.weebly.com/the-leech---hirudo-medicinalis.html
B:Le Marrec-Croq et al (ref.31) による
C:J. Deitmer et al (ref.32) による

昆虫の場合変態の際に神経系を大規模に作り直さなければいけないわけですが、これにもグリア細胞が貪食や誘導など大きな役割を果たしていることが知られています(35)。アウらはショウジョウバエのグリア細胞を中枢系は1.コーティカルグリア(コーテックスグリア):軸索が密集する神経叢以外の場所にある、2.サーフィスグリア:脳の外側を包んでいる、3.エンシーシンググリア:神経叢の一番外側の部分で神経叢を包むように存在する、4.アストロサイトグリア:神経叢の内部にも複雑に侵入している・・・の4種からなり、末梢系は軸索とシナプス前終末を包み込むペリフェラルグリアからなるとしています(36、図160-7)。さらに図160-7の挿入図のような細かい分類も行っています。

1607a

図160-7 ショウジョウバエのグリア細胞
J.Ou et al (ref.36) による

参照

1)Alexei Verkhratsky, Margaret S. Ho, Robert Zorec, Vladimir Parpura, The Concept of Neuroglia., Adv Exp Med Biol., vol.1175: pp.1–13. (2019) doi:10.1007/978-981-13-9913-8_1.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31583582/

2)Alexandr Chvátal and Alexei Verkhratsky, An Early History of Neuroglial Research: Personalities., Neuroglia, vol.1, pp.245–281 (2018); doi:10.3390/neuroglia1010016
https://www.researchgate.net/publication/327066936_An_Early_History_of_Neuroglial_Research_Personalities

3)ウィキペディア:アンリ・デュトロシェ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%88%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A7

4)Dutrochet, M.H. Recherches Anatomiques et Physiologiques sur la Structure Intime des Animaux et des Végétaux,et sur leur Motilité; J.B.Bailliere: Paris, France, 1824.

5)Dutrochet, M.H. Mémoires Pour Servir a L’historie Anatomique et Physiologique des Végétaux et des Animaux. II;J.-B. Bailliere: Paris, France, 1837; p. 688.

6)Studniˇcka, F.K. Aus der Vorgeschichte der Zellenteorie. H. Milne edwards, H. Dutrochet, F. Raspail, j.E.Purkinje. Anatomischer Anzeiger 1932, 73, 390–416.

7)Wikipedia: Henri Dutrochet
https://en.wikipedia.org/wiki/Henri_Dutrochet

8)The daily gardener: Henri Dutrochet
https://thedailygardener.org/otb20200204/

9)Valentin, G. Über den verlauf und die letzten enden der nerven. Nova Acta Academiae Caesareae Leopoldino-Carolinae Germanicae Naturae Curiosorum. Verhandlungen der Kaiserlich Leopoldinisch-Carolinischen Deutschen Akademie der Naturforscher 1836, 18, 51–240.

10)Virchow, R. Ueber das granulirte Ansehen derWandungen der Gehirnventrikel. In Gesammelte Abhandlungen zur WissenschaftlichenMedicin.; Virchow, R., Ed.;Meidinger Sohn & Comp.: Frankfurt, Germany, 1856; pp. 885–891.

11)ウィキペディア:ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%92%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%92%E3%83%A7%E3%82%A6

12)Virchow, R. Die Cellularpathologie in Ihrer Begründung auf Physiologische und Pathologische Gewebelehre 20 Vorlesungen, Gehalten Während d. Monate Febr., März u. April 1858 im Patholog. Inst. Zu Berlin; AugustHirschwald: Berlin, Germany, 1858.
(英訳版:Virchow, R.L.K. Cellular pathology; John Churchill: London, UK, 1860)

13)Bergmann, C. Notiz über einige Structurverhältnisse des Cerebellum und Rückenmarks. Zeitschrift für Rationelle Medicin 1857, 8, 360–363.
https://www.networkglia.eu/sites/networkglia.eu/files/downloads/Bergmann-Notiz_ueber_einige_Structurverhaeltnisse_des_Cerebellum_und_Rueckenmarks.pdf

14)脳科学辞典:バーグマングリア
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2

15)Deiters, O. Untersuchungen über Gehirn und Rückenmark des Menschen und der Säugethiere; Vieweg: Braunschweig, Germany, 1865.
https://archive.org/details/untersuchungen00deit/page/318/mode/2up

16)Wikipedia: Otto Deiters
https://en.wikipedia.org/wiki/Otto_Deiters

17)Ramo'n y Cajal, S. Histologie du syste`me nerveux de l’homme et des verte´bre´s. Paris: Maloine; 1911:Vol. 2, p. 859.

18)Jean-Gaël Barbara, Louis Ranvier (1835-1922): the contribution of microscopy to
physiology, and the renewal of French general anatomy., J Hist Neurosci. vol.16(4): pp.413-431.(2007) doi: 10.1080/09647040600685503.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17966057/

19)Wikipedia: Node of Ranvier
https://en.wikipedia.org/wiki/Node_of_Ranvier

20)ウィキペディア: グリア細胞
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B4%B0%E8%83%9E

21)Amandine Bery, Albert Cardona, Pedro Martinez, and Volker Hartenstein, Structure of the central nervous system of a juvenile acoel, Symsagittifera roscoffensis., Dev Genes Evol (2010) 220:61?76, DOI 10.1007/s00427-010-0328-2
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20549514/

22)ウィキペディア: 無腸動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E8%85%B8%E5%8B%95%E7%89%A9

23)卓也の海をのぞいてみよう! 初!無腸動物の大発生!(汗)
https://ameblo.jp/chikubitakuya/entry-10794860522.html

24)Sukhdeo SC, Sukhdeo MVK, Mesehnchyme cells in Fasciola hepatica (Platyhelmintes): Primive glia? Tissue Cell vol.26: pp.123–131 (1994)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8171419/

25)Natalia M. Biserova, "Platyhelminthes: Neodermata" in Structure and Evolution of Invertebrate Nervous Systems, edited by Andreas Schmidt-Rhaesa, Stefen Harzsch,
and Günter Purschke, Oxford University Press (2016).
https://www.researchgate.net/publication/314917303_Platyhelminthes_Neodermata

26)R. H. Roberts-Galbraith, J. L. Brubacher, P. A. Newmark, A functional genomics screen in planarians reveals regulators of whole-brain regeneration. eLife 5:e17002 (2016)
https://elifesciences.org/articles/17002

27)Grigorios Oikinomou and Shai Shaham, The Glia of Caenorhabditis elegans. GLIA vol.59: pp.1253–1263 (2011)

28)Shai Shaham, Glial Development and Function in the Nervous System of Caenorhabditis elegans., Cold Spring Harb Perspect Biol 2015; 7(4): a020578, doi:10.1101/cshperspect.a020578.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25573712/

29)Labouesse M, Sookhareea S, Horvitz HR, The Caenorhabditis elegans gene lin-26 is required to specify the fates of hypodermal cells and encodes a presumptive zinc-finger transcription factor. Development vol.120: pp.2359–2368 (1994)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7956818/

30)Alexei Verkhratsky, SpainMargaret S. Ho, Vladimir Parpura, Evolution of Neuroglia., Adv Exp Med Biol., vol.1175: pp.15–44. (2019) doi:10.1007/978-981-13-9913-8_2.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31583583/

31)Françoise Le Marrec-Croq, Francesco Drago, Jacopo Vizioli, Pierre-Eric Sautière, and Christophe Lefebvre, The Leech Nervous System: A Valuable Model to Study the Microglia Involvement in Regenerative Processes., Clinical and Developmental Immunology Volume 2013, Article ID 274019, 12 pages
http://dx.doi.org/10.1155/2013/274019

32)J. Deitmer, C.R. Rose, T. Munsch, J. Schmidt, W. Nett, H-P. Schneider, and C. Lohr, Leech Giant Glial Cell: Functional Role GLIA vol. 28:pp.175–182 (1999)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10559776/

33)A.Nervous systems, The leech
http://nervoussystemphyla.weebly.com/the-leech---hirudo-medicinalis.html
https://journals.biologists.com/jeb/article/218/21/3353/14399/A-classic-model-animal-in-the-21st-century-recent

34)脳科学辞典:ミクログリア
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2

35)粟崎健 グリア細胞により指揮・実行される脳神経ネットワークのリモデリング
生化学 第84巻 第7号 pp.573-577 (2012)

36)Jiayao Ou, Yijing He, Xi Xiao, Tian-Ming Yu, Changyan Chen, Zongbao Gao, Margaret S. Ho, Glial cells in neuronal development: recent advances and insights from Drosophila melanogaster., Neurosci Bulletin, vol.30(4): pp.584–594. (2014)
DOI: 10.1007/s12264-014-1448-2
https://www.researchgate.net/publication/263863184_Glial_cells_in_neuronal_development_Recent_advances_and_insights_from_Drosophila_melanogaster

 

| | | コメント (0)

2021年9月20日 (月)

続・生物学茶話159:電気魚

電気魚(electric fish)はもちろん電気を感じることができる魚類すべてではなく、発電能力がある魚類のことだけをいいます。電気を感じるといえば、私たちも感電はするので感じることができないわけではありませんが、私たちは電気のための受容器は持っていませんし、もちろん発電器官も持っていません。魚類には発電はできなくても、特別な感覚器官を持っていて微弱な電気を感じることができる種は多いようです。しかし発電能力がある種は350種くらいで、魚類全体の3万種から考えると電気魚はごくマイナーなグループと言えます(1)。

電気魚のなかには強電気魚と弱電気魚がいますが、これはある意味人為的な分類で、発電したときにさわるとビリッとした痛みを伴う刺激があって感電したことがわかる種を強電気魚、わからない種を弱電気魚としています。しかしこの分類には人為的以上の意味があって、強電気魚はエサを痺れさせることによって「少ない労力で肉食する」、とか「敵に襲われたときに感電させて逃げる」などの目的で電気を製造していますが、弱電気魚は「環境の状態を検知する」、「エサを探す」、「仲間と交信」するなどの目的で電気を利用しているとされています。

強電気魚であるナイル川のデンキナマズの存在は古代エジプトでも知られていて、紀元前3100年にエジプトを統一したナルメル王の石版画にも描かれています(2、3、図159-1)。

1591a

図159-1 デンキナマズと古代エジプトの石版画

デンキナマズの写真は Stan Shebs によるウィキペディアへの投稿

本稿を書くに当たってまず参照させていただいたのが菅原美子氏の総説で、この3本の総説(4-6)はそれぞれ、発電器・電気受容器・情報処理についてまとめてあり、フリーで公開されていたので大変参考になりました。図159-2は発電魚の一覧で、最初の総説(4)から一部引用させていただきました。軟骨魚類(板鰓類)にも硬骨魚類(条鰓類)にもそれぞれ少数ながら発電する魚類がいて、それぞれ独自に発電器官を進化の過程で獲得したものと思われます。

発電によって採餌するというのは、捕食者としての能力に不足があったからかもしれません。たとえばエイは発電しますが、強力な捕食者であるサメは発電しません。ただサメもロレンチーニ器官という電気受容器を持っていて、エサを探すのには電気を利用しているようです。弱電気魚は自分で周辺に電流をつくることができるので、サメのように非常に微弱な電流を検知しなくても、周辺の状況がわかります。哺乳類でもカモノハシはクチバシに電気受容器を持っていて、暗闇でもエサを探知できるようです(7、8)

発電器官の起源はジムノティ目のアプテロノテイド科(Apteronotidae)を除いては筋肉組織にあるようで、神経筋接合シナプス(シナプス後電位)が発電の起点になっています。アプテロノイドでは神経組織が起源となっているようです(4、9)。後者の場合発電の起点はアクションポテンシャルとなります。

菅原氏は在職中に急死されたとのことで、まことに惜しまれます(10)。

1592a

図159-2 電気魚の種類

強電気魚はよく水族館などでもみかけます。なかでもデンキウナギは800Vの電圧を発生させることができるようです。ミシマオコゼは英語ではスターゲイザーですが、これは目が上についていて、見上げてばかりいるからでしょう。ミシマオコゼは発電器官を持ちますが、電気受容器は持っていません。この魚はミシマだけでなく、日本全国各地に分布しています。

1593a

図159-3 強電気魚 

写真はすべてウィキペディアより 撮影者はシビレエイ:Robert Pillom, スターゲイザー:Canvasman21, デンキナマズ:既出、デンキウナギ:Steven G. Johnson

内蔵というとなかなか美しいと感じるものではありませんが、強電魚の発電器官は半透明で美しい臓器です(11)。シビレエイの発電器官は体の左右にあり、1000個以上の発電細胞が積み重なって発電柱を形成し、その発電柱が片側500~1000個集積して臓器をつくっています(12、図159-3)。シビレエイの場合腹側がマイナス、背側がプラスとなります。発電は運動神経によって支配されており、餌や敵を麻痺させるために使用します。理化学研究所はシビレエイを用いた海底地形探査や発電利用を研究しています(13)。

1594a

図159-4 シビレエイの発電器官

弱電気魚は通常数百ミリボルト~数ボルトの発電しかできません。このカテゴリーの生物は図159-1のなかで、ガンギエイ科(Rajidae)、ジムノティ目(Gymnotiformes)、モルミリ目(Mormyriformes)に限られます(4)。ガンギエイ科のエイはカスベと呼ばれるものが多く、図159-5のメガネカスベは代表的ななもので日本でもみられます。ジムノティ目は南米に棲息する淡水魚で、熱帯魚屋で売っているナイフフィッシュは代表的なグループです(14、図159-5)。モルミリ目はアフリカに棲息する淡水魚で、アバ(アバアバ)やエレファントフィッシュ(エレファントノーズフィッシュともいいますが、鼻じゃなくてアゴが長い)が代表的なグループです(14、図159-5)。これらも熱帯魚屋で販売されています。

アバはリスマンがはじめて弱電魚の発電を記録した種です(15)。この魚は真後ろにも泳げるという特技があり、リスマンはこの最初の論文で「発電することによって目視しなくても後方の障害物を回避することができる」ことを指摘しています。

1595a

図159-5 弱電気魚

写真はすべてウィキペディアより 撮影者はメガネカスベ:OpenCage.info、ブラックゴーストナイフフィッシュ:Derek Ramsey、アバ:Wiki-Harfus; modified by Wildfeuer、エレファントフィッシュ:spinola

エサを感電させるためには発電するだけで良いのですが、敵やエサを探知したり、周辺の地形を確認したりするためには電気受容器が必要です。なかにはサメのように発電はしないけれども、他の生物が発する微弱な電流をロレンチーニ器官という電気受容器で100万分の1ボルトの精度で検知し、エサの探索に利用しているような生物がいます(16)。すべての電気魚およびサメのような非電気魚がもっている標準的な電気受容器は図159-6の左図の様な形態で、アンプラ型電気受容器とよばれています(5、17)。

一方弱電気魚のジムノティ目とモルミリ目の生物は右図の結節型電気受容器を持っています。これは外界と直結していないので、明らかに感度は悪いと思われる構造ですが、外界からの情報をそのまま受容細胞が受け取るのではなく、何らかの加工を経由して受け取るには良いのかもしれません。私にはよくわかりません。ひとつ言えることは、この受容器は体内にあるので保護下にあり、かつ変化の少ない安定した条件のもとで情報を受け取ることができます(5、17)。

1596a

図159-6 二つのタイプの電気受容器

弱電気魚は特定の発電器官から電気を流し、それを体の各所にある受容器で検知することによって、たとえば途中にあるものが電導性の藻であるか(図159-7、左図)、非電導性の石(図159-7、右図)であるかを電流の乱れを感知することによって判定することができます。その情報を中枢神経に集めて、次にとるべき行動を決めることができます(18)。この特技は暗闇で行動したり、後方に泳ぐときには非常に役に立ちます。

1597a

図159-7 弱電気魚は周辺にあるものを検知できる

一部の弱電気魚は驚くべき高度な機能を持っています。グリーンナイフフィッシュは通常400ヘルツの電流で探索活動を行っていますが、近所に同じことをやっている仲間が現れると、周波数を420ヘルツや380ヘルツに変えて探索します(19、20)。もう60年近く前の仕事なので、著者の消息はわかりませんが、これこそテレパシーが実在することを世界ではじめて証明した仕事ではないでしょうか?

1598a

図159-8 グリーンナイフフィッシュの混信回避

Carl D. Hopkins によってウィキペディアに投稿された図

 

参照

1)Mark E. Nelson, Electric fish, Curr Biol vo.21, no.14, R528, (2011)
https://www.cell.com/current-biology/pdf/S0960-9822(11)00349-6.pdf

2)Rosalind Park, Ancient egyptian headaches: Ichthyo- or electrotherapy
https://www.academia.edu/331345/Ancient_Egyptian_Headaches_ichthyo_or_electrotherapy

3)ウィキペディア:デンキナマズ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%9E%E3%82%BA

4)菅原美子 電気感覚系の比較生物学 I 電気器官と発電機構の多様性
比較生理生化学 vol.13, no.1, pp.34-47 (1996)

5)菅原美子 電気感覚系の比較生物学 II 電気受容器と電気受容機構
比較生理生化学 vol.13, no.3, pp.219-234 (1996)

6)菅原美子 電気感覚系の比較生物学 III 電気感覚の脳内機構と行動
比較生理生化学 vol.14, no.3, pp.194-209 (1997)

7)ウィキペディア:カモノハシ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%8E%E3%83%8F%E3%82%B7

8)ナショナルジオグラフィック 電気を使う動物のショッキングな事実
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9408/

9)Bennett, M. V. L.: In Fish Physiology. Vol .V, Hoar, W. S.& Randall, D. J. (eds), Academic Press, pp.347-491 (1971)

10)水村和枝 菅原美子先生を偲ぶ 日本生理学雑誌 vol.68, no.2, pp.84-85 (2006)

11)フィッシュズカン シビレエイは痺れる旨さ?
https://gyorui1a.com/2017/02/21/post-1854/

12)ウィキペディア:シビレエイ目
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%93%E3%83%AC%E3%82%A8%E3%82%A4%E7%9B%AE

13)理化学研究所 プレスリリース (2020)
https://www.riken.jp/press/2020/20201208_1/index.html

14)電気魚の種属
https://square.umin.ac.jp/wpj/ysuga/ef-world-2.html#400

15)H. W. Lissmann, Continuous Electrical Signals from the Tail of a Fish, Gymnarchus niloticus Cuv., Nature vol.167, pp.201–202 (1951)
https://www.nature.com/articles/167201a0

16)ウィキペディア:ロレンチーニ器官
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%BC%E3%83%8B%E5%99%A8%E5%AE%98

17)BrainKart.com: Electroreception
https://www.brainkart.com/article/Electroreception---Fishes_22059/

18)Wikipedia: Electroreception
https://en.wikipedia.org/wiki/Electroreception#Electrolocation

19)Wikipedia: Jamming avoidance response
https://en.wikipedia.org/wiki/Jamming_avoidance_response

20)Watanabe, A., Takeda, K.: The change of discharge frequency by A. C. stimulus in a weak electric fish. J.Exp.Biol. vol.40, pp.57–66 (1963)
https://journals.biologists.com/jeb/article/40/1/57/20904/The-Change-of-Discharge-Frequency-by-A-C-Stimulus



 

| | | コメント (0)

2021年9月11日 (土)

続・生物学茶話158:脳波

脳波について述べる際には、脳波そのものを取り扱った仕事ではありませんが、トリノの研究者アンジェロ・モッソの研究からはじめるのが王道のようです。彼は大工の家に生まれ、子供の頃から親の仕事を手伝ううちに工作の腕が上がり、後々医学を研究するようになってからもオリジナルな測定器を制作することができたようです(1)。

彼は脳の活動を血流の増大による容積の拡張を測定することによって計測しようとしました。頭蓋骨の一部が欠けている患者の穴をゴム製の樹脂で密閉し、そこに接続したチューブの空気圧を測定する器具を製作してカイモグラフで記録しました(1、図148-1)。この結果、何か特別なことを脳にやらせたり刺激を与えると脳の血流が増大し、脳容量が増加することをつきとめました。図148-1の実験では教会の鐘の音を聞くと脳容量が増加することがわかります。同時に測定した腕の容量は増加しませんでした(2)。

1581

図158-1 アンジェロ・モッソによる脳活動の計測

図158-1のような実験は脳に穴が開いている人をみつけないとできませんが、モッソは健常者の脳の活動を測定する装置も開発しました。これがモッソのバランスという図158-2のような装置です。健常人をヤジロベエのような構造のベッドに横たえ、水平を保って1時間ほど静かに寝かせておきます。その後被験者に計算をさせたり、刺激を与えたりすると頭が重くなってベッドが頭の方に傾きます。それをカイモグラフで記録するのです(3)。

「バランス」が発表されたのは1882年ですが、2014年になって、果たしてそんな簡単な装置で本当に微妙な血流の変化を計測できるのだろうかという疑問を抱いたグループが追試したところ、思いのほか正確に測定できたという結果が論文になっています(4)。普通他人の研究を追試しても論文にはなりませんが、それだけモッソが偉大だったということでしょう。

1582a

図158-2 モッソの脳血流測定装置「バランス」

リチャード・ケイトンはもともと銀行員だったのですが、健康を害して退職し、病院で治療を受けている間に医学に対する興味がわいてきたそうです。それでエジンバラの医科大学に入学し、1870年にはMDになりました。彼は1875年にはウサギやサルの脳や頭蓋骨に流れる電流をガルバノメ-タ-で測定し、睡眠や死による変化、目に光を当てたときの変化などについて報告しているようですが、原著はどうも読めないようで、ウィキペディアなどにもハンス・ベルガーが原著を読んだときの感想文のようなものが掲載されているだけです(5、図158-3)。

ケイトンがどちらかと言えば趣味的に脳波の測定をやっていたのにくらべて(彼が本格的に取り組んでいたのは古代の医学に関する研究でした)、ポーランドのベックとチブルスキーは本格的に脳の電気生理学に取り組みました。1890年には、彼らはイヌとサルを使ってさまざまな刺激や麻酔によって頭蓋骨表面の脳波がどうのように変化するかを系統的に研究し、マッピングまで行いました。また脊髄の前根と後根が求心性と遠心性で分業していることや、舌がいろいろな味を区別できるのはそれぞれの受容体があるからだなど、数々の大発見をなしとげました(6、7、図158-3)。

ウクライナのネミンスキーは、現存する最古の脳波測定の記録を残したことで有名です。それだけではなく、彼はα波とβ波を識別し、それらを大脳に直接電極を刺さなくても硬膜上や頭蓋骨上からも測定できることを報告しました(8-10、図158-3)。彼の若い頃には第1次世界大戦、ロシア革命、ウクライナ-ロシア戦争などが相次ぎ、投獄されたりもして大変な人生だったことが想像されますが、最終的にはモスクワの Laboratory of Cerebrography of USSR Academy of Sciences のヘッドとして迎えられました。

1583a

図158-3 実験動物の脳波を記録した初期の脳波研究者達

ここで少し脱線します。宮内哲氏の著書「脳波の発見 ハンス・ベルガーの夢」を読むと、最初にフリードリッヒ・リュッケルトの話があってびっくりしました。なんと彼は脳波研究の基盤を築いたあのハンス・ベルガーの祖父だというのです。図158-4にグスタフ・マーラーが作曲した「リュッケルトの詩による5つの歌曲」から「私はこの世に忘れられ」という曲の歌詞を記します。ベルガーもリュッケルトの詩に深く傾倒していたようです(10)。美しい曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=TzJyIWxjX9o

ハンス・ベルガーは純粋な脳生理学者ではなく、人間の精神世界とパルスを結びつけようとしたようなところがあります。論文も主として生理学の雑誌ではなく精神医学の雑誌などに発表していたようです。これは彼が祖父リュッケルトの影響を受けていたからかもしれません。

1584a

図158-4 リュッケルト作詞 マーラー作曲 「私はこの世に忘れられ」

ハンス・ベルガー(図158-5)の業績については、山口成良氏が日本語の総説を出版しておられて一読瞭然です(11)。ここまで述べてきたようにベルガー以前にも実験動物の脳波の測定を行った研究者は多いのですが、ベルガーは人間の精神世界と脳波の関係に関心があって、その関連の解明をめざしていたというところが彼の研究の特徴です。ベルガーの第1報は長大な古い論文ですが、現在フリーで全文を読むことができます(12)。これはヒトの脳波についての最初の論文とされています。この中でベルガーは平均90msec の持続時間がある大きな波(第1級)と平均35msec の小さな波(第2級)を区別し、この硬膜上および頭皮上で測定した電流の曲線を Elektrenkephalogram (Electrocephalogram、脳波) と呼ぶことを提唱しました。ベルガーは1924年にすでにヒトの脳波の測定に成功していたのですが、5年間の自分自身や家族、実験動物、患者などのデータを積み重ねて、さらに慎重な考察を行ってようやく1929年の論文発表にこぎつけました(10)。

図158-5では外科手術を受けたヒトの脳波に加えて、自分の息子クラウスの脳波を測定した結果を示しています(12)。ベルガーは第2報以降では第1級の波をα波、第2級の波をβ波と名付けました。クラウスの脳波は非常に綺麗にα波とβ波が識別できます。これらは当時すでに知られていたアクションポテンシャルとは明らかに異なります。アクションポテンシャルの持続時間は2msec 程度で、それにくらべると脳波はずいぶんのんびりした波です。

1585a

図158-5 ハンス・ベルガーと彼が最初に発表したヒト脳波の記録

ベルガーは1930年に発表した論文で重要な発見について記載しています(11、13)。モッソが被験者に刺激を与えて、脳の血流がどう変化したか調べたように、ベルガーも被験者に刺激を与えると脳波がどう変わるか調べました。彼がガラス棒を使って被験者の手に触れたところ、α波が減衰してβ波がきれいに記録されたのです(αブロッキング、図158-6)。さらに触覚刺激だけではなく、視覚刺激、計算などによってもα波の減衰がみられることもわかりました(11)。このことは多くの人々にとって受け入れがたいことでした。なぜなら脳の活動によって血流が増大し、脳の温度が上がれば、当然α波の振幅も増大しなければならないのに減少するとは理解できないことです。これは脳のアイドリングだとか様々な意見が出ましたが、本当のところはよくわかりません。脳科学辞典にはそもそも脳波とかαブロッキングとかの項目がありません。ベルガーがノーベル賞をもらえなかったのも、この疑問がネックになったのかもしれません。

1586a

図158-6 αブロッキング

ただαブロッキングがでたらめではなく、確かな事実であるということはノーベル賞受賞者でもあり、脳生理学の権威であったエドガ-・エイドリアンが追試したことで多くの人が信用するところとなりました。エイドリアンとマシューズは昆虫とエイドリアン自身の脳で、暗いところに居て急に明るくすると明らかにα波が減衰することを証明しました(14、図158-7)。図中のEDAはエイドリアン自身の脳波であることを示しています。昆虫(欧州ゲンゴロウモドキ)でも同じようなαブロッキングがおこるということは衝撃的でした。エイドリアンは学会で公開実験を行い、13の3乗を計算し始めるとαブロッキングが発生し、「ああできない」とあきらめると再びα波があらわれるという結果を出席者が目の当たりにしたことで、会員はみんなベルガーの実験結果を信用するようになったそうです。

α波は脳が作業を始めたときに消えるだけでなく、睡眠や麻酔下でも消失します。このことはα波が脳の休養のシグナルではないことを示しています。ウィキペディアには alpha wave という項目があり、そこでは視床のペースメーカが発生する信号だと記してあります(15)。海馬はα波とは別のθ波を出しているというデータもあります(16)。おそらく意識下の脳の活動の結果発生する信号だとしておきましょう。臨床では脳の活動状態を調べるために、脳波を測定する fMRIなどという方法が使われています(17)。

1587a

図158-7 エイドリアンとマシューズの実験

ベルガーはナチ親衛隊の賛助会員だったので(特に戦争犯罪的なことをやっていたわけではない)、戦後研究を再開することができず失意のうちに首つり自殺をしています。合掌・・・。

参照

1)Life in the fastlane: Lewis Hong "Angelo Mosso"
https://litfl.com/angelo-mosso/

2)Angelo Mosso: Sulla circolazione del sangue nel cervello dell’uomo (1880)
https://archive.org/details/b2239347x/page/27/mode/1up

3)Chris Benderev, The Machine That Tried To Scan The Brain — In 1882.,
https://www.npr.org/2014/08/17/340906546/the-machine-that-tried-to-scan-the-brain-in-1882

4)Weighing brain activity with the balance: Angelo Mosso’s original manuscripts come to light., Brain vol.137 issue 2, pp.621-633 (2014)
https://academic.oup.com/brain/article/137/2/621/280970

5)Richard Caton
https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Caton
https://www.wikizero.com/en/Richard_Caton

6)Wikipedia: Napoleron Cybulski
https://en.wikipedia.org/wiki/Napoleon_Cybulski

7)Wikipedia: Adolf_Beck
https://en.wikipedia.org/wiki/Adolf_Beck_(physiologist)

8)Wikipedia: Vladimir Pravdich-Neminsky
https://en.wikipedia.org/wiki/Vladimir_Pravdich-Neminsky

9)https://med-history.livejournal.com/65068.html (肖像と脳波)

10)宮内哲 「脳波の発見 ハンス・ベルガーの夢」 岩波書店 (2020)

11)山口成良 Hans Berger のヒトの脳波の発見とその後の脳波学の発展 ― Hans Berger の年代記も含めて 第103回日本精神神経学会総会 ランチタイム・プリナリーセッション
精神経誌. vol.110 (2): pp.134-143, (2008)
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100020134.pdf

12)Berger, H.:Über das Elektrenkephalogramm des Menschen. Arch Psychiat Nervenkr, vol.87; pp.527-570, (1929)
https://www.audiomentaltraining.com/app/wp-content/uploads/Berger-1929-FirstEEG.pdf

13)Berger, H.:Über das Elektrenkephalogramm des Menschen;Zweite Mitteilung.J Psychol Neur, vol.40; pp.160-179, (1930)

14)Alastair Compston The Berger rhythm: potential changes from the occipital lobes in man, by E.D. Adrian and B.H.C. Matthews (From the Physiological Laboratory, Cambridge). Brain vol.57; pp.355–385. (1934)
https://academic.oup.com/brain/article/133/1/3/314887

15)Wikipedia: Alpha wave
https://en.wikipedia.org/wiki/Alpha_wave

16)Wikipedia; Theta wave
https://en.wikipedia.org/wiki/Theta_wave

17)東北福祉大学公開資料 fMRI
https://www.tfu.ac.jp/research/gp2014_01/explanation.html

 

| | | コメント (0)

2021年9月 4日 (土)

続・生物学茶話157:ニューロフィラメント その2

私たちの細胞内には線維性の細胞骨格構造があり、それらは大別するとマイクロフィラメント、微小管、中間径フィラメントの3種類となります。それらを構成するタンパク質はマイクロフィラメントはアクチン、微小管はチュブリン、中間径フィラメントはケラチン・ビメンチン・ニューロフィラメントタンパク質などとなっています。筋肉はちょっと特殊で力を発生するためのアクトミオシン線維が存在しますが、この線維は細胞の境界を越えて力を発生するための巨大な構造を形成しており、普通は細胞骨格とは別ジャンルの構造体に分類されます。これはもちろん真核生物についてのお話ですが、20世紀初頭までに原核生物もチュブリンと類似したFtsZ、アクチンと類似したMreBというタンパク質を持つことがわかってきました(1、2)。

中間径フィラメントを構成するタンパク質群は、20世紀には真核生物に特異的だと考えられていましたが、2003年になってついにオースミースらによって、αプロテオバクテリアのカウロバクター属の菌が、クレセンチンと名付けられた中間径フィラメントタンパク質と類似した分子を発現していることが報告されました(3、図157-1)。この菌はこのタンパク質があることによってクレセンチンという名前のように三日月型に湾曲することができます(3、図157-1)。湾曲することに何のメリットがあるかはよくわかりませんが、なにかに引っかかるためのフックであるという可能性はあります。シャルボンらはクレセンチンは細胞の長さを決めたり、FtsZやMreBのアセンブリを助けるなど、細胞の構造形成に寄与していることを明らかにしました(4、図157-1)。

1571a

図157-1 細菌の中間径フィラメント:クレセンチンの発見

クレセンチンはカウロバクターだけが持つものではなく、様々な細菌が持っていることがしだいに明らかになってきました(4-6)。私たちがネンジュモと呼んでいるシアノバクテリアの中に、数珠状の糸状体を形成するアナベナや、さらに分岐構造をとるフィシェレラという属の生物がいます(図157-2)。シュプリングシュタインらはこれらの生物が中間径フィラメントと類似した coiled-coil-rich proteins (CCRPs) という分子を持っていて、図157-3のような形で細胞骨格あるいは細胞膜の裏打ち構造を形成し、細胞骨格形成、群体の形成、細胞増殖等に関与していることを示唆しています(7)。

1572a

図157-2 数珠状に細胞が連結するシアノバクテリア


1573a

図157-3 シアノバクテリアの中間径線維

この他、枯草菌では中間径フィラメント系の分子 DivIVA(この名称の由来はわかりませんでした)に変異が生じると、胞子形成の際の細胞分裂が適切な位置で行われないという報告(8)、また大腸菌では DivIVA は細胞膜が最も強く湾曲した部位にみられるという報告があります(9)。さらに肺炎菌では DivIVA とホモローガスな Wag31 が細胞の端部に存在し、ロッド状の形態を維持すると共に細胞分裂にも関与していることが報告されています(10)。アーケアにも中間径フィラメント系の分子群は存在するようなので、ようやくこの分子群も真核生物(ユーカリア)だけでなく、原核生物(バクテリア・アーケア)にも存在するユニバーサルな存在であることが認められつつあります(11)。

では真核生物の中で進化の初期に分岐して単細胞で生きていくことを選択した原生生物ではどうなのかということを、プライスナーらが調べました。彼らが選んだ生物はヒト男女の性器などに寄生するトリコモナスです(図157-4)。この生物はコスタというまるで背骨のような巨大な細胞骨格器官をもっていて、これを構築しているタンパク質が中間径フィラメント分子群といえるCCRPであるとしています(12)。電子顕微鏡写真を見ると、この構造はまるでヒトの骨格筋のような横紋構造をもっていて、それらが積み重なってロッド状の巨大細胞骨格を構築していることがわかります。このタンパク質はCCRPとは言っても、メタゾアの中間径フィラメント系分子群とホモログであるとは言えず、独自に進化させてきたものと考えられます(12)。

1574a

図157-4 トリコモナスの模式図 コスタという背骨のような構造体を持つ


1575a

図157-5 トリコモナスの中間径線維構造体の免疫染色と電子顕微鏡写真

次にメタゾアの中でも系統樹の根元に位置する生物で、神経も持っている刺胞動物ではどうでしょうか? デラコルテらはある種のイソギンチャクが、哺乳類のニューロフィラメントタンパク質の抗体に結合するタンパク質を持っていることを報告しています(13)。その後ファンらはヒドラの刺細胞にネマトシリンというニューロフィラメント系のタンパク質が存在し、機械的刺激に反応するシステムの中核を担っていることを報告しています(14)。彼らはこのタンパク質が同じ中間径フィラメント分子群のラミンから進化したと考えています(14)。

軟体動物であるアメリカケンサキイカのニューロフィラメント系タンパク質を調査したグループが、そのアミノ酸配列と他の生物の中間径フィラメント分子との類似性を比較しています。これによるとイカのニューロフィラメント系タンパク質は意外にもヒトのビメンチンと高い類似性がありました。一応哺乳類のニューロフィラメント系タンパク質ともホモロジーがありそうではあります(15)。

脊椎動物の中で最も原始的な形態を保存しているヤツメウナギのニューロフィラメントはNF-L(哺乳類のNF-Lに相当)、NF-95、NF-132、NF-180(この3つは哺乳類のNF-Mに相当)の4種類の分子で構成されており、ヘテロポリマーである点は哺乳類とよく似ています。またこれらは脊髄および脳から脊髄に伸びているニューロンに発現する点もよく似ています(16)。図157-6にジンらによる分子進化系統樹を記しますが、ヒトとアフリカツメガエルの分子が似ていることに驚かされます。ヤツメウナギの場合、進化の本流から離れて短期間で変化したことが示唆されます。またペリフェリンが他のニューロフィラメント構成分子と異なり、ビメンチンやデスミンと近縁であることも示されています(16)

1576a

図157-6 ヒト・カエル・ヤツメウナギのニューロフィラメント構成分子の関係

 

参照

1)ウィキペディア:細胞骨格
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E9%AA%A8%E6%A0%BC

2)やぶにらみ生物論74: 細胞骨格1
http://morph.way-nifty.com/grey/2017/05/post-00ab.html

3)Nora Ausmees, Jeffrey R. Kuhn, and Christine Jacobs-Wagner, The bacterial cytoskeleton: An intermediate filament-like function in cell shape., Cell, vol.1, no.15, pp.705-713, (2003)
https://www.cell.com/action/showPdf?pii=S0092-8674%2803%2900935-8

4)Godefroid Charbon, Matthew T. Cabeen, and Christine Jacobs-Wagner, Bacterial intermediate filaments: in vivoassembly, organization, and dynamics of crescentin., Genes & Development vol.23, pp.1131-1144 (2009)
http://genesdev.cshlp.org/content/23/9/1131.full.html

5)Izard, J. 2006. Cytoskeletal cytoplasmic filament ribbon of Treponema: A member of an intermediate-like filament protein family. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 11: 159–166.

6)Bagchi, S., Tomenius, H., Belova, L.M., and Ausmees, N. 2008.Intermediate filament-like proteins in bacteria and a cytoskeletal function in Streptomyces. Mol. Microbiol. 70: 1037–
1050.

7)Benjamin L. Springstein, Christian Woehle, Julia Weissenbach1, Andreas O. Helbig, Tal Dagan & Karina Stucken, Identification and characterization of novel filament-forming proteins in cyanobacteria., Nature Scientific Reports, vol.10, no.1894 (2020)
https://www.nature.com/articles/s41598-020-58726-9

8)S. E. Perry and D. H. Edwards, The Bacillus subtilis DivIVA Protein Has a Sporulation-Specific Proximity to Spo0J., J. Bacteriol., Vol. 188, No. 16 pp.6039–6043 (2006) doi:10.1128/JB.01750-05
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16885474/

9)Rok Lenarcic et al., Localisation of DivIVA by targeting to negatively curved membranes. The EMBO Journal vol.28, pp.2272–2282 (2009) DOI: 10.1038/emboj.2009.129
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19478798/

10)Choong-Min Kang et al., Wag31, a homologue of the cell division protein DivIVA, regulates growth, morphology and polar cell wall synthesis in mycobacteria. Microbiology, vol.154, pp.725–735 (2008) DOI 10.1099/mic.0.2007/014076-02007/014076
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18310019/

11)Ki Woo Kim, Prokaryotic cytoskeletons: in situ and ex situ structures and cellular locations., Antonie Van Leeuwenhoek., vol.112(2): pp.145-157 (2019)
doi: 10.1007/s10482-018-1142-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30128891/

12)Harald Preisner, Eli Levy Karinb, Gereon Poschmannc, Kai Stühlerc, Tal Pupkob, and Sven B. Goulda, Parasites Comprises Proteins that Share Properties Common to Intermediate
Filament Proteins., Protist, Vol.167, pp.526–543, (2016)
http://dx.doi.org/10.1016/j.protis.2016.09.001

13)C. Dellacorte, D. S. Anderson, W. O. McClure, and D. L. Kalinoski, Neurofilament-Like Immunoreactivity in the Sea Anemone Condylactis gigantea (Cnidaria: Anthozoa)., The Biological Bulletin Vol.187, No.2, (1994)
https://doi.org/10.2307/1542242

14)Jung Shan Hwang, Yasuharu Takaku, Jarrod Chapman, Kazuho Ikeo, Charles N David, Takashi Gojobori., Cilium evolution: identification of a novel protein, nematocilin, in the mechanosensory cilium of Hydra nematocytes., Mol Biol Evol vol.25(9): pp.2009-2017 (2008)
doi: 10.1093/molbev/msn154
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18635678/

15)Ben G . Szaro, Harish C. Pant, James Way, and James Batteyg, Squid Low Molecular Weight Neurofilamen Pt roteins are a Novel Class of NeurofilamentP rotein., J. Biol.Chem. Vol.266, No.23, pp.15035-15041, (1991)

16)Li-Qing Jin, Guixin Zhang, Brenton Pennicooke, Cindy Laramore, and Michael E. Selzer, Multiple neurofilament subunits are present in Lamprey CNS. Brain Res. vol.1370: pp.16–33. (2011) doi:10.1016/j.brainres.2010.11.037.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21081119/

 

| | | コメント (0)

より以前の記事一覧