カテゴリー「生物学・科学(biology/science)」の記事

2021年9月11日 (土)

続・生物学茶話158:脳波

脳波について述べる際には、脳波そのものを取り扱った仕事ではありませんが、トリノの研究者アンジェロ・モッソの研究からはじめるのが王道のようです。彼は大工の家に生まれ、子供の頃から親の仕事を手伝ううちに工作の腕が上がり、後々医学を研究するようになってからもオリジナルな測定器を制作することができたようです(1)。

彼は脳の活動を血流の増大による容積の拡張を測定することによって計測しようとしました。頭蓋骨の一部が欠けている患者の穴をゴム製の樹脂で密閉し、そこに接続したチューブの空気圧を測定する器具を製作してカイモグラフで記録しました(1、図148-1)。この結果、何か特別なことを脳にやらせたり刺激を与えると脳の血流が増大し、脳容量が増加することをつきとめました。図148-1の実験では教会の鐘の音を聞くと脳容量が増加することがわかります。同時に測定した腕の容量は増加しませんでした(2)。

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図158-1 アンジェロ・モッソによる脳活動の計測

図158-1のような実験は脳に穴が開いている人をみつけないとできませんが、モッソは健常者の脳の活動を測定する装置も開発しました。これがモッソのバランスという図158-2のような装置です。健常人をヤジロベエのような構造のベッドに横たえ、水平を保って1時間ほど静かに寝かせておきます。その後被験者に計算をさせたり、刺激を与えたりすると頭が重くなってベッドが頭の方に傾きます。それをカイモグラフで記録するのです(3)。

「バランス」が発表されたのは1882年ですが、2014年になって、果たしてそんな簡単な装置で本当に微妙な血流の変化を計測できるのだろうかという疑問を抱いたグループが追試したところ、思いのほか正確に測定できたという結果が論文になっています(4)。普通他人の研究を追試しても論文にはなりませんが、それだけモッソが偉大だったということでしょう。

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図158-2 モッソの脳血流測定装置「バランス」

リチャード・ケイトンはもともと銀行員だったのですが、健康を害して退職し、病院で治療を受けている間に医学に対する興味がわいてきたそうです。それでエジンバラの医科大学に入学し、1870年にはMDになりました。彼は1875年にはウサギやサルの脳や頭蓋骨に流れる電流をガルバノメ-タ-で測定し、睡眠や死による変化、目に光を当てたときの変化などについて報告しているようですが、原著はどうも読めないようで、ウィキペディアなどにもハンス・ベルガーが原著を読んだときの感想文のようなものが掲載されているだけです(5、図158-3)。

ケイトンがどちらかと言えば趣味的に脳波の測定をやっていたのにくらべて(彼が本格的に取り組んでいたのは古代の医学に関する研究でした)、ポーランドのベックとチブルスキーは本格的に脳の電気生理学に取り組みました。1890年には、彼らはイヌとサルを使ってさまざまな刺激や麻酔によって頭蓋骨表面の脳波がどうのように変化するかを系統的に研究し、マッピングまで行いました。また脊髄の前根と後根が求心性と遠心性で分業していることや、舌がいろいろな味を区別できるのはそれぞれの受容体があるからだなど、数々の大発見をなしとげました(6、7、図158-3)。

ウクライナのネミンスキーは、現存する最古の脳波測定の記録を残したことで有名です。それだけではなく、彼はα波とβ波を識別し、それらを大脳に直接電極を刺さなくても硬膜上や頭蓋骨上からも測定できることを報告しました(8-10、図158-3)。彼の若い頃には第1次世界大戦、ロシア革命、ウクライナ-ロシア戦争などが相次ぎ、投獄されたりもして大変な人生だったことが想像されますが、最終的にはモスクワの Laboratory of Cerebrography of USSR Academy of Sciences のヘッドとして迎えられました。

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図158-3 実験動物の脳波を記録した初期の脳波研究者達

ここで少し脱線します。宮内哲氏の著書「脳波の発見 ハンス・ベルガーの夢」を読むと、最初にフリードリッヒ・リュッケルトの話があってびっくりしました。なんと彼は脳波研究の基盤を築いたあのハンス・ベルガーの祖父だというのです。図158-4にグスタフ・マーラーが作曲した「リュッケルトの詩による5つの歌曲」から「私はこの世に忘れられ」という曲の歌詞を記します。ベルガーもリュッケルトの詩に深く傾倒していたようです(10)。美しい曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=TzJyIWxjX9o

ハンス・ベルガーは純粋な脳生理学者ではなく、人間の精神世界とパルスを結びつけようとしたようなところがあります。論文も主として生理学の雑誌ではなく精神医学の雑誌などに発表していたようです。これは彼が祖父リュッケルトの影響を受けていたからかもしれません。

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図158-4 リュッケルト作詞 マーラー作曲 「私はこの世に忘れられ」

ハンス・ベルガー(図158-5)の業績については、山口成良氏が日本語の総説を出版しておられて一読瞭然です(11)。ここまで述べてきたようにベルガー以前にも実験動物の脳波の測定を行った研究者は多いのですが、ベルガーは人間の精神世界と脳波の関係に関心があって、その関連の解明をめざしていたというところが彼の研究の特徴です。ベルガーの第1報は長大な古い論文ですが、現在フリーで全文を読むことができます(12)。これはヒトの脳波についての最初の論文とされています。この中でベルガーは平均90msec の持続時間がある大きな波(第1級)と平均35msec の小さな波(第2級)を区別し、この硬膜上および頭皮上で測定した電流の曲線を Elektrenkephalogram (Electrocephalogram、脳波) と呼ぶことを提唱しました。ベルガーは1924年にすでにヒトの脳波の測定に成功していたのですが、5年間の自分自身や家族、実験動物、患者などのデータを積み重ねて、さらに慎重な考察を行ってようやく1929年の論文発表にこぎつけました(10)。

図158-5では外科手術を受けたヒトの脳波に加えて、自分の息子クラウスの脳波を測定した結果を示しています(12)。ベルガーは第2報以降では第1級の波をα波、第2級の波をβ波と名付けました。クラウスの脳波は非常に綺麗にα波とβ波が識別できます。これらは当時すでに知られていたアクションポテンシャルとは明らかに異なります。アクションポテンシャルの持続時間は2msec 程度で、それにくらべると脳波はずいぶんのんびりした波です。

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図158-5 ハンス・ベルガーと彼が最初に発表したヒト脳波の記録

ベルガーは1930年に発表した論文で重要な発見について記載しています(11、13)。モッソが被験者に刺激を与えて、脳の血流がどう変化したか調べたように、ベルガーも被験者に刺激を与えると脳波がどう変わるか調べました。彼がガラス棒を使って被験者の手に触れたところ、α波が減衰してβ波がきれいに記録されたのです(αブロッキング、図158-6)。さらに触覚刺激だけではなく、視覚刺激、計算などによってもα波の減衰がみられることもわかりました(11)。このことは多くの人々にとって受け入れがたいことでした。なぜなら脳の活動によって血流が増大し、脳の温度が上がれば、当然α波の振幅も増大しなければならないのに減少するとは理解できないことです。これは脳のアイドリングだとか様々な意見が出ましたが、本当のところはよくわかりません。脳科学辞典にはそもそも脳波とかαブロッキングとかの項目がありません。ベルガーがノーベル賞をもらえなかったのも、この疑問がネックになったのかもしれません。

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図158-6 αブロッキング

ただαブロッキングがでたらめではなく、確かな事実であるということはノーベル賞受賞者でもあり、脳生理学の権威であったエドガ-・エイドリアンが追試したことで多くの人が信用するところとなりました。エイドリアンとマシューズは昆虫とエイドリアン自身の脳で、暗いところに居て急に明るくすると明らかにα波が減衰することを証明しました(14、図158-7)。図中のEDAはエイドリアン自身の脳波であることを示しています。昆虫(欧州ゲンゴロウモドキ)でも同じようなαブロッキングがおこるということは衝撃的でした。エイドリアンは学会で公開実験を行い、13の3乗を計算し始めるとαブロッキングが発生し、「ああできない」とあきらめると再びα波があらわれるという結果を出席者が目の当たりにしたことで、会員はみんなベルガーの実験結果を信用するようになったそうです。

α波は脳が作業を始めたときに消えるだけでなく、睡眠や麻酔下でも消失します。このことはα波が脳の休養のシグナルではないことを示しています。ウィキペディアには alpha wave という項目があり、そこでは視床のペースメーカが発生する信号だと記してあります(15)。海馬はα波とは別のθ波を出しているというデータもあります(16)。おそらく意識下の脳の活動の結果発生する信号だとしておきましょう。臨床では脳の活動状態を調べるために、脳波を測定する fMRIなどという方法が使われています(17)。

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図158-7 エイドリアンとマシューズの実験

ベルガーはナチ親衛隊の賛助会員だったので(特に戦争犯罪的なことをやっていたわけではない)、戦後研究を再開することができず失意のうちに首つり自殺をしています。合掌・・・。

参照

1)Life in the fastlane: Lewis Hong "Angelo Mosso"
https://litfl.com/angelo-mosso/

2)Angelo Mosso: Sulla circolazione del sangue nel cervello dell’uomo (1880)
https://archive.org/details/b2239347x/page/27/mode/1up

3)Chris Benderev, The Machine That Tried To Scan The Brain — In 1882.,
https://www.npr.org/2014/08/17/340906546/the-machine-that-tried-to-scan-the-brain-in-1882

4)Weighing brain activity with the balance: Angelo Mosso’s original manuscripts come to light., Brain vol.137 issue 2, pp.621-633 (2014)
https://academic.oup.com/brain/article/137/2/621/280970

5)Richard Caton
https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Caton
https://www.wikizero.com/en/Richard_Caton

6)Wikipedia: Napoleron Cybulski
https://en.wikipedia.org/wiki/Napoleon_Cybulski

7)Wikipedia: Adolf_Beck
https://en.wikipedia.org/wiki/Adolf_Beck_(physiologist)

8)Wikipedia: Vladimir Pravdich-Neminsky
https://en.wikipedia.org/wiki/Vladimir_Pravdich-Neminsky

9)https://med-history.livejournal.com/65068.html (肖像と脳波)

10)宮内哲 「脳波の発見 ハンス・ベルガーの夢」 岩波書店 (2020)

11)山口成良 Hans Berger のヒトの脳波の発見とその後の脳波学の発展 ― Hans Berger の年代記も含めて 第103回日本精神神経学会総会 ランチタイム・プリナリーセッション
精神経誌. vol.110 (2): pp.134-143, (2008)
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100020134.pdf

12)Berger, H.:Über das Elektrenkephalogramm des Menschen. Arch Psychiat Nervenkr, vol.87; pp.527-570, (1929)
https://www.audiomentaltraining.com/app/wp-content/uploads/Berger-1929-FirstEEG.pdf

13)Berger, H.:Über das Elektrenkephalogramm des Menschen;Zweite Mitteilung.J Psychol Neur, vol.40; pp.160-179, (1930)

14)Alastair Compston The Berger rhythm: potential changes from the occipital lobes in man, by E.D. Adrian and B.H.C. Matthews (From the Physiological Laboratory, Cambridge). Brain vol.57; pp.355–385. (1934)
https://academic.oup.com/brain/article/133/1/3/314887

15)Wikipedia: Alpha wave
https://en.wikipedia.org/wiki/Alpha_wave

16)Wikipedia; Theta wave
https://en.wikipedia.org/wiki/Theta_wave

17)東北福祉大学公開資料 fMRI
https://www.tfu.ac.jp/research/gp2014_01/explanation.html

 

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2021年9月 4日 (土)

続・生物学茶話157:ニューロフィラメント その2

私たちの細胞内には線維性の細胞骨格構造があり、それらは大別するとマイクロフィラメント、微小管、中間径フィラメントの3種類となります。それらを構成するタンパク質はマイクロフィラメントはアクチン、微小管はチュブリン、中間径フィラメントはケラチン・ビメンチン・ニューロフィラメントタンパク質などとなっています。筋肉はちょっと特殊で力を発生するためのアクトミオシン線維が存在しますが、この線維は細胞の境界を越えて力を発生するための巨大な構造を形成しており、普通は細胞骨格とは別ジャンルの構造体に分類されます。これはもちろん真核生物についてのお話ですが、20世紀初頭までに原核生物もチュブリンと類似したFtsZ、アクチンと類似したMreBというタンパク質を持つことがわかってきました(1、2)。

中間径フィラメントを構成するタンパク質群は、20世紀には真核生物に特異的だと考えられていましたが、2003年になってついにオースミースらによって、αプロテオバクテリアのカウロバクター属の菌が、クレセンチンと名付けられた中間径フィラメントタンパク質と類似した分子を発現していることが報告されました(3、図157-1)。この菌はこのタンパク質があることによってクレセンチンという名前のように三日月型に湾曲することができます(3、図157-1)。湾曲することに何のメリットがあるかはよくわかりませんが、なにかに引っかかるためのフックであるという可能性はあります。シャルボンらはクレセンチンは細胞の長さを決めたり、FtsZやMreBのアセンブリを助けるなど、細胞の構造形成に寄与していることを明らかにしました(4、図157-1)。

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図157-1 細菌の中間径フィラメント:クレセンチンの発見

クレセンチンはカウロバクターだけが持つものではなく、様々な細菌が持っていることがしだいに明らかになってきました(4-6)。私たちがネンジュモと呼んでいるシアノバクテリアの中に、数珠状の糸状体を形成するアナベナや、さらに分岐構造をとるフィシェレラという属の生物がいます(図157-2)。シュプリングシュタインらはこれらの生物が中間径フィラメントと類似した coiled-coil-rich proteins (CCRPs) という分子を持っていて、図157-3のような形で細胞骨格あるいは細胞膜の裏打ち構造を形成し、細胞骨格形成、群体の形成、細胞増殖等に関与していることを示唆しています(7)。

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図157-2 数珠状に細胞が連結するシアノバクテリア


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図157-3 シアノバクテリアの中間径線維

この他、枯草菌では中間径フィラメント系の分子 DivIVA(この名称の由来はわかりませんでした)に変異が生じると、胞子形成の際の細胞分裂が適切な位置で行われないという報告(8)、また大腸菌では DivIVA は細胞膜が最も強く湾曲した部位にみられるという報告があります(9)。さらに肺炎菌では DivIVA とホモローガスな Wag31 が細胞の端部に存在し、ロッド状の形態を維持すると共に細胞分裂にも関与していることが報告されています(10)。アーケアにも中間径フィラメント系の分子群は存在するようなので、ようやくこの分子群も真核生物(ユーカリア)だけでなく、原核生物(バクテリア・アーケア)にも存在するユニバーサルな存在であることが認められつつあります(11)。

では真核生物の中で進化の初期に分岐して単細胞で生きていくことを選択した原生生物ではどうなのかということを、プライスナーらが調べました。彼らが選んだ生物はヒト男女の性器などに寄生するトリコモナスです(図157-4)。この生物はコスタというまるで背骨のような巨大な細胞骨格器官をもっていて、これを構築しているタンパク質が中間径フィラメント分子群といえるCCRPであるとしています(12)。電子顕微鏡写真を見ると、この構造はまるでヒトの骨格筋のような横紋構造をもっていて、それらが積み重なってロッド状の巨大細胞骨格を構築していることがわかります。このタンパク質はCCRPとは言っても、メタゾアの中間径フィラメント系分子群とホモログであるとは言えず、独自に進化させてきたものと考えられます(12)。

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図157-4 トリコモナスの模式図 コスタという背骨のような構造体を持つ


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図157-5 トリコモナスの中間径線維構造体の免疫染色と電子顕微鏡写真

次にメタゾアの中でも系統樹の根元に位置する生物で、神経も持っている刺胞動物ではどうでしょうか? デラコルテらはある種のイソギンチャクが、哺乳類のニューロフィラメントタンパク質の抗体に結合するタンパク質を持っていることを報告しています(13)。その後ファンらはヒドラの刺細胞にネマトシリンというニューロフィラメント系のタンパク質が存在し、機械的刺激に反応するシステムの中核を担っていることを報告しています(14)。彼らはこのタンパク質が同じ中間径フィラメント分子群のラミンから進化したと考えています(14)。

軟体動物であるアメリカケンサキイカのニューロフィラメント系タンパク質を調査したグループが、そのアミノ酸配列と他の生物の中間径フィラメント分子との類似性を比較しています。これによるとイカのニューロフィラメント系タンパク質は意外にもヒトのビメンチンと高い類似性がありました。一応哺乳類のニューロフィラメント系タンパク質ともホモロジーがありそうではあります(15)。

脊椎動物の中で最も原始的な形態を保存しているヤツメウナギのニューロフィラメントはNF-L(哺乳類のNF-Lに相当)、NF-95、NF-132、NF-180(この3つは哺乳類のNF-Mに相当)の4種類の分子で構成されており、ヘテロポリマーである点は哺乳類とよく似ています。またこれらは脊髄および脳から脊髄に伸びているニューロンに発現する点もよく似ています(16)。図157-6にジンらによる分子進化系統樹を記しますが、ヒトとアフリカツメガエルの分子が似ていることに驚かされます。ヤツメウナギの場合、進化の本流から離れて短期間で変化したことが示唆されます。またペリフェリンが他のニューロフィラメント構成分子と異なり、ビメンチンやデスミンと近縁であることも示されています(16)

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図157-6 ヒト・カエル・ヤツメウナギのニューロフィラメント構成分子の関係

 

参照

1)ウィキペディア:細胞骨格
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E9%AA%A8%E6%A0%BC

2)やぶにらみ生物論74: 細胞骨格1
http://morph.way-nifty.com/grey/2017/05/post-00ab.html

3)Nora Ausmees, Jeffrey R. Kuhn, and Christine Jacobs-Wagner, The bacterial cytoskeleton: An intermediate filament-like function in cell shape., Cell, vol.1, no.15, pp.705-713, (2003)
https://www.cell.com/action/showPdf?pii=S0092-8674%2803%2900935-8

4)Godefroid Charbon, Matthew T. Cabeen, and Christine Jacobs-Wagner, Bacterial intermediate filaments: in vivoassembly, organization, and dynamics of crescentin., Genes & Development vol.23, pp.1131-1144 (2009)
http://genesdev.cshlp.org/content/23/9/1131.full.html

5)Izard, J. 2006. Cytoskeletal cytoplasmic filament ribbon of Treponema: A member of an intermediate-like filament protein family. J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 11: 159–166.

6)Bagchi, S., Tomenius, H., Belova, L.M., and Ausmees, N. 2008.Intermediate filament-like proteins in bacteria and a cytoskeletal function in Streptomyces. Mol. Microbiol. 70: 1037–
1050.

7)Benjamin L. Springstein, Christian Woehle, Julia Weissenbach1, Andreas O. Helbig, Tal Dagan & Karina Stucken, Identification and characterization of novel filament-forming proteins in cyanobacteria., Nature Scientific Reports, vol.10, no.1894 (2020)
https://www.nature.com/articles/s41598-020-58726-9

8)S. E. Perry and D. H. Edwards, The Bacillus subtilis DivIVA Protein Has a Sporulation-Specific Proximity to Spo0J., J. Bacteriol., Vol. 188, No. 16 pp.6039–6043 (2006) doi:10.1128/JB.01750-05
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16885474/

9)Rok Lenarcic et al., Localisation of DivIVA by targeting to negatively curved membranes. The EMBO Journal vol.28, pp.2272–2282 (2009) DOI: 10.1038/emboj.2009.129
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19478798/

10)Choong-Min Kang et al., Wag31, a homologue of the cell division protein DivIVA, regulates growth, morphology and polar cell wall synthesis in mycobacteria. Microbiology, vol.154, pp.725–735 (2008) DOI 10.1099/mic.0.2007/014076-02007/014076
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18310019/

11)Ki Woo Kim, Prokaryotic cytoskeletons: in situ and ex situ structures and cellular locations., Antonie Van Leeuwenhoek., vol.112(2): pp.145-157 (2019)
doi: 10.1007/s10482-018-1142-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30128891/

12)Harald Preisner, Eli Levy Karinb, Gereon Poschmannc, Kai Stühlerc, Tal Pupkob, and Sven B. Goulda, Parasites Comprises Proteins that Share Properties Common to Intermediate
Filament Proteins., Protist, Vol.167, pp.526–543, (2016)
http://dx.doi.org/10.1016/j.protis.2016.09.001

13)C. Dellacorte, D. S. Anderson, W. O. McClure, and D. L. Kalinoski, Neurofilament-Like Immunoreactivity in the Sea Anemone Condylactis gigantea (Cnidaria: Anthozoa)., The Biological Bulletin Vol.187, No.2, (1994)
https://doi.org/10.2307/1542242

14)Jung Shan Hwang, Yasuharu Takaku, Jarrod Chapman, Kazuho Ikeo, Charles N David, Takashi Gojobori., Cilium evolution: identification of a novel protein, nematocilin, in the mechanosensory cilium of Hydra nematocytes., Mol Biol Evol vol.25(9): pp.2009-2017 (2008)
doi: 10.1093/molbev/msn154
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18635678/

15)Ben G . Szaro, Harish C. Pant, James Way, and James Batteyg, Squid Low Molecular Weight Neurofilamen Pt roteins are a Novel Class of NeurofilamentP rotein., J. Biol.Chem. Vol.266, No.23, pp.15035-15041, (1991)

16)Li-Qing Jin, Guixin Zhang, Brenton Pennicooke, Cindy Laramore, and Michael E. Selzer, Multiple neurofilament subunits are present in Lamprey CNS. Brain Res. vol.1370: pp.16–33. (2011) doi:10.1016/j.brainres.2010.11.037.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21081119/

 

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2021年8月28日 (土)

続・生物学茶話156:ニューロフィラメント その1

真核生物の細胞にはさまざまなオルガネラが含まれていますが、それ以外にも多様な線維や構造体で満たされています。ですから細胞は袋のようなものとはいっても、中はジャングルのように込み入っています。線維にもいろいろありますが、それらはアクチン線維(直径6~7nm)、中間径線維(直径10nm)、ミオシン線維(直径16nm)、微小管(直径25nm)などに大別されます。線維は繊維と書いてもかまいませんが、細胞生物学のジャンルでは線維の方が好まれるようです。

ニューロフィラメントは中間径線維のグループに属します。中間径線維はわが国の細胞生物学者石川春律(いしかわはるのり)が発見した構造で(1)、これを構成するタンパク質としてケラチン、ビメンチン、ラミン、ニューロフィラメント構成タンパク質などがよく知られています。ニューロフィラメントは神経細胞に特異的に存在する線維性の構造体です(2)。ニューロフィラメントを構成するタンパク質は、20世紀の終盤になって、ホフマン(3)、リーム(4)、シュレーパー(5)らの各グループによって精力的に研究が行われ、大きな進展がありました(図156-1)。

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図156-1 ニューロフィラメント研究のパイオニア達

その後も多くの研究者の貢献によって現在では図156-2に示される5種類のタンパク質によって線維が構築されていることが明らかになっています(6)。図156-2に示されるように、すべてのタンパク質は短いN末のヘッド領域に続いて、保存性が高いαヘリックスを主体としたロッド領域があり、C末のテイル領域はそれぞれ大きく異なっています。ただペリフェリン以外は、ロッドに続いてグルタミン酸リッチな領域があります。NF-MとNF-HはKSP領域を含み、ここはリン酸化のホットスポットとなっています。後にも述べますがこれらのタンパク質のC末はニューロフィラメントの線維からはみ出して、他のコンポネントと相互作用を行うことが可能になっています。

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図156-2 ニューロフィラメントを構成するサブユニット分子群の構造

ペリフェリンはこの中では一番分子量が小さい分子ですが、この分子だけで集合してフィラメントを作ることもできますし、他の分子とヘテロ集合してフィラメントを作ることもできます。この分子の異常によってALSが発生することもあるようです(7)。α-インターネキシンはNF-Lと同様ニューロフィラメントの基本構成要素であり、α-インターネキシン単独でもニューロフィラメントの構造を形成することができます。ところがα-インターネキシンの遺伝子をノックアウトしたマウスは一見正常に生育するという報告があります。これはこの遺伝子がヒト、マウス、ラットで高度に保存されていることを考えると不思議なことです(8)。ノックアウトマウスに頼るだけでは遺伝子の機能を解明できないことの好例かもしれません。

ニューロフィラメントの基本構成要素となる分子はまずパラレルに集合してダイマーを形成し、次にふたつのダイマーがアンチパラレルに集合してテトラマーを形成します。テトラマーが8個集合してリングを作った構造がニューロフィラメントの単位構造(unit length fragment)となります(図156-3)。それらがタンデムに繋がってニューロフィラメントが形成されます。ここで特徴的なのは、NF-MやNF-Hのテイルは非常に長いため、フィラメントに納まりきらず、ひげのような形ではみだしてしまうことです(図156-3)。これが他の線維構造とは大きく異なる点で、ニューロフィラメントの線維は、このはみだした部分がリン酸化などの修飾を受けて、他のニューロフィラメントあるいは別種の線維と接続した構造を形成できます。

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図156-3 ニューロフィラメント構成分子の集合様式

実際にニューロフィラメントが細胞内でジャングルジムのような構造を形成していることは、電子顕微鏡によって確認されています。NF-MやNF-Hのテイルはそこでクロスリンカーとしての役割を果たしています。クロスリンカーは教科書に書いてあるように、フィラメントから直角に出ているわけではなく、さまざまな角度でクロスリンクを形成できるようなフレキシビリティーがあります(6、9、図156-4)。またはしご状だけでなく3叉または4叉の構造も形成できるようです。図156-4には微小管とクロスリンクを形成しているとみられる部分もあります。

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図156-4 ニューロフィラメントの電子顕微鏡写真

どうして神経細胞の線維としてニューロフィラメントが必要かと言えば、それは普通の細胞を犬小屋だとすると、神経細胞は超高層マンションというくらいのサイズの違いがあるというのがひとつの理由でしょう。木造の超高層マンションは存在しません。鶏卵は巨大ですが、殻がなければほぼアモルファスな液体です。このような細胞で脊髄と筋肉をつなぐことはできません。やはり細胞内にジャングルジムを構築し、巨大な細胞にしては細い管である軸索を切れたり潰れたりすることがないよう、維持するためには細胞の外側の殻に相当するミエリン鞘とともに、細胞の内側にも頑丈なニューロフィラメントが必要なのでしょう。

ゲリー・ショーがウィキペディアにニューロフィラメントの染色図を提供してくれています(2、10、図156-5、156-6)。図156-5はラットの脳細胞を培養し、ニューロフィラメント(赤)と微小管(緑、MAP2は微小管のマーカータンパク質)を染色したものです。比較的短い突起(樹状突起)は緑色、長い突起(軸索)は赤色にきれいの染め分けられています。ニューロフィラメントが軸索を維持するために必要であることが示唆されています。

図156-6はラット胎仔脳の神経細胞とグリア細胞を培養して、α-インターネキシンとコロニン1a(グリア細胞のマーカータンパク質)を免疫染色したものです。α-インターネキシンが神経細胞に特異的に発現していることがわかります。この時期のα-インターネキシンは軸索だけに存在しているわけではなく、神経細胞全体に分布しています。

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図156-5 ラット脳細胞の培養系でのニューロフィラメント(赤)と微小管(緑)の免疫染色


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図156-6 ラット胎仔脳細胞の培養系におけるα-インターネキシン(赤)とコロニン1a (緑)の免疫染色

図156-7は軸索を輪切りにして電子顕微鏡で観察した図ですが、微小管もニューロフィラメントもそれぞれ満遍なく、ほぼ一定の間隔で配置されていることがわかります。軸索の外側はミエリン鞘によって何重にも保護されているので、細胞骨格は細胞膜周辺の強化には配置されず、細胞全体をジャングルジム化して構造を維持するという役割を与えられているようです。ニューロフィラメントタンパク質はテイルがリン酸化されることによってタンパク質分解酵素の攻撃を回避することができるため、非常に安定な線維構造を維持できるようです(6、11)。

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図156-7 電子顕微鏡で観察する軸索横断面

ニューロフィラメント各遺伝子の欠損によって神経が萎縮し、運動失調、情報伝達速度の低下などが起こることがウズラ(12、13)やマウス知られています(14-16)。ヒトでもシャルコー・マリー・トゥース病などが発生することがあるようですが、病気との関連については後に言及する予定です。

参照

1)Ishikawa H, Bischoff R, Holtzer H. 1968. Mitosis and intermediate-sized
filaments in developing skeletal muscle. J Cell Biol vol.38: pp.538-555 (1968)
https://rupress.org/jcb/article/38/3/538/1541/MITOSIS-AND-INTERMEDIATE-SIZED-FILAMENTS-IN

2)Wikipedia: neurofilament
https://en.wikipedia.org/wiki/Neurofilament

3)Paul N. Hoffman and Raymond j. Rasek, The slow component of axonal transport. Identification of major structural polypeptides of the axon and their generality among mammalian neurons. J Cell Biol, vol.66, pp.351-366 (1975)
https://rupress.org/jcb/article/66/2/351/77483/The-slow-component-of-axonal-transport

4)Liem RK, Yen SH, Salomon GD, Shelanski ML., Intermediate filaments in nervous tissues. J Cell Biol vol.79: pp.637-645 (1978)
https://rupress.org/jcb/article/79/3/637/56382/Intermediate-filaments-in-nervous-tissues

5)Schlaepfer WW, Freeman LA., Neurofilament proteins of rat peripheral nerve and spinal cord. J Cell Biol vol.78: pp.653-662 (1978)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/701353/

6)Aidong Yuan, Mala V. Rao, Veeranna, and Ralph A. Nixon., Neurofilaments and Neurofilament Proteins in Health and Disease., Cold Spring Harb Perspect Biol 2017;9:a018309 (2017)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5378049/

7)Wikipedia: peripherin
https://en.wikipedia.org/wiki/Peripherin

8)Levavasseur F,Zhu Q, Julien JP., No requirement of alpha-internexin for nervous system development and for radial growth of axons., Brain research. Molecular Brain Research, vol.69(1): pp.104-112 (1999) DOI: 10.1016/s0169-328x(99)00104-7
https://europepmc.org/article/med/10350642

9)N Hirokawa, Marcie A Glicksman, M B Willard., Organization of mammalian neurofilament polypeptides within the neuronal cytoskeleton., The Journal of Cell Biol. vol.98(4): pp.1523-1536 (1984)
Uploaded by Marcie A Glicksman to the website of Research Gate
https://www.researchgate.net/figure/Axonal-neurofilaments-from-Triton-extracted-spinal-cord-incubated-with-nonimmune-IgG-and_fig2_16771607

10)Wikipedia: internexin
https://en.wikipedia.org/wiki/Internexin

11)Pant HC., Dephosphorylation of neurofilament proteins enhances
their susceptibility to degradation by calpain. Biochem J vol.256: pp.665–668.(1988)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1135461/

12)Yamasaki H, Itakura C, Mizutani M., Hereditary hypotrophic axonopathy with neurofilament deficiency in a mutant strain of theJapanese quail. Acta Neuropathol vol.82: pp.427–434. (1991)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1785256/

13)Ohara O, Gahara Y, Miyake T, Teraoka H, Kitamura T., Neurofilament deficiency in quail caused by nonsense mutation in neurofilament-L gene. J Cell Biol vol.121: pp.387–395. (1993)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8468353/

14)Elder GA, Friedrich VL Jr, Bosco P, Kang C, Gourov A, Tu PH, Lee VM, Lazzarini RA., Absence of the mid-sized neurofilament subunit decreases axonal calibers, levels of light neurofilament (NF-L), and neurofilament content. J Cell Biol vol.141: pp.727–739.(1998)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9566972/

15)Elder GA, Friedrich VL Jr, Kang C, Bosco P, Gourov A, Tu PH, Zhang B,Lee VM, Lazzarini RA., Requirement of heavy neurofilament subunit in the development of axons with large calibers. J Cell Biol vol.143: pp.195–205. (1998)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2132822/

16)Elder GA, Friedrich VL Jr, Margita A, Lazzarini RA., Age-related atrophy of motor axons in mice deficient in the mid-sized neurofilament subunit. J Cell Biol 146: 181–192. (1999)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2199745/

 

 

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2021年8月18日 (水)

続・生物学茶話155:遺伝子・アミノ酸配列から見た神経伝達物質の進化

ここまで神経伝達物質受容体についていろいろと学んできました。ここではそれらの故事来歴すなわち進化について遺伝子やアミノ酸の配列から推測した論文に触れたいと思います。これまで述べてきたように、神経伝達物質受容体はシスループ型リガンド開口イオンチャネル受容体(Cys-loop ligand-gated ion channel receptors)とGタンパク質共役型受容体に大別されます。まず前者のイオンチャネル受容体ですが、このグループにはニコチン性アセチルコリン受容体、GABA受容体、5-HTセロトニン受容体、グリシン受容体、そしてあまりよく知られていませんが、亜鉛受容体なども含まれます(1)。

復習しておくと、これらの受容体の基本ユニットは4回膜貫通型のタンパク質で、それらが5個リング状に集合して、中央にイオン通過用のチャネルを形成するというのがこのグループの受容体の基本形です(2、図155-1)。イオンを選択的に通過させるというシステムは、メタゾアにとっては神経などを介したシグナリングのために重要な役割を果たしますが、単細胞の生物にとっても細胞内のイオン環境を適切に保つために必須なシステムだと考えられます。

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図155-1 シスループファミリー受容体の基本構造

タスニームらはさまざまなメタゾア(動物)だけでなく、細菌や古細菌にもシスループ受容体スーパーファミリーに所属するタンパク質が存在することを証明しました(3)。このファミリーのユニバーサリティーについてはコッククロフトらが前から指摘していたようですが(4)、この論文はウェブサイトではアブストラクトも読めないので、私は見ておりません。タスニームらはそれを広範な調査研究によって明らかにしました。細胞膜の外側に突き出した部分のごく一部のアラインメントを図155-2に示します。詳細は原著(3)をご覧ください。特に古細菌とメタゾアの配列で、紺丸のR(アルギニン)、赤丸のT(スレオニン)、緑のP(プロリン)、緑枠に白のD(アスパラギン酸)が一致していることは目を見張ります(図155-2)。PとDはシアノバクテリアとも一致、Pだけはメタン酸化菌とも一致しています。

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図155-2 シスループファミリータンパク質細胞外領域のアラインメント(一部のみ)

彼らはさまざまな生物の詳細なアミノ酸配列の解析結果データベースから、図155-3のような分子系統樹を作成しました(3)。この図は管理人が簡略化したものなので、詳細は原著(3)をご覧ください。膜4回貫通部位が4つある根元からLBD(ligand-binding domain)という幹が伸びているという構造は共通です。ここに示してあるアーケア(古細菌)の例はかなり特殊に分化しています。真核生物は陽イオンチャネルと陰イオンチャネルが分岐して進化したようです。細菌では基本的に陽イオンチャネルですが、塩化物イオンチャネルというようなものもあるようです。

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図155-3 シスループタンパク質ファミリーの分子系統樹

タスニームらの発表以降、刺胞動物や軟体動物でもシスループファミリーの受容体も報告され、このグループのユニバーサリティーは確固たるものになりました(5、6)。ジャイテらはさらに広範なデーターベースの調査を行って、このファミリーは細菌においても巨大なファミリーを形成していて、その中には名前の根拠となったCysループにCysがないグループが存在し、それが単細胞や多細胞のユーカリヤ(真核生物)にも引き継がれていることを示しました(図155-4)。Cysがなくてもプロリン(Pro)は共通して存在することから、彼らはシスループファミリーという言葉を廃棄して、プロループファミリーという言葉を使用しています。

ジャイテらの調査によると、プロループファミリーのタンパク質はバクテリア、一部のアーケア、単細胞ユーカリア、メタゾアに分布しており、多細胞の植物、ほとんどのカビには分布していないということがわかりました(7)。アーケアの中ではユーリ古細菌、タウム古細菌には存在しますが、クレン古細菌とロキ古細菌のデータベースからは発見できなかったそうです(7)。これはアーケアとユーカリアのつながりを考える上で興味深いと思われます。

またメタゾアの基部に位置する各動物門を調査したところ、刺胞動物には陽イオン型と陰イオン型の両者(ニコチン性アセチルコリン受容体とGABA受容体)が見つかりましたが、平板動物・海綿動物・有櫛動物のデータベースからは発見できなかったそうです。有櫛動物は立派な神経系を持っていますが、このことは彼らの神経系が他の動物(左右相称動物や刺胞動物)とは独立に進化したことを示唆しています(7)。

シスループスーパーファミリーのアミノ酸配列において、β6-β7ループのプロリンが最も保存されていることを発見したのはジャイテらではなく別のグループですが(3、8)、ジャイテらはシステインが保存されていない場合が多いことを考慮して、このグループをプロループファミリーとよぶことを提唱しています。彼らの研究結果の一部を簡略化して図155-4に示します。詳しくは原著(7)をご覧ください。

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図155-4 プロループファミリーの分子系統樹

神経伝達物質受容体にはさらに巨大なGPCR(G protein-coupled receptor)というスーパーファミリーがあり、こちらはどのように進化してきたのかを概観しておきたいと思います。復習のために脳科学辞典の図(9)に少し説明を追加して、図155-5に掲載しました。細胞膜を貫通する部位が7ヵ所あり(TM1~TM7)、細胞の外側にN末、EL1~EL3、内側にIL1~IL3、C末ドメインが存在するという構造は共通です。

この巨大ファミリーはロドプシン様受容体ファミリー(ロドプシン・アドレナリン受容体・ムスカリン性アセチルコチン受容体・嗅覚受容体を含む)、セクレチン受容体ファミリー、代謝型グルタミン酸受容体らミリーの3つのサブファミリーに分類されます。この中でロドプシンは化学物質ではなく光に反応するので受容体とは言えません。ただしGタンパク質とはカップルしています(10)。

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図155-5 GPCR型受容体の模式図

GPCRの進化を考える上で、常に話題になるのは高度好塩菌(古細菌・細菌)のバクテリオロドプシンです。これは膜7回貫通配列を持つ光感受性タンパク質ですが、Gタンパク質とは関係がなくGPCRとは言えません。光エネルギーによってプロトンを細胞外に排出し、細胞内のプロトン濃度を下げてアルカリ性にすることがその役割です。こうしておくと細胞内外のプロトン濃度差で駆動するATP合成酵素によって、必要な時にATPを合成できます(11、12)。

バクテリオロドプシンとGPCRとの構造上の類似性はすでに1992年に指摘されていますが(13)、ジャンらは多くの細菌・単細胞真核生物・多細胞真核生物の遺伝子を比較することによって、両者の関係を詳細に検討しました(14)。その結果を示したのが図155-6です。

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図155-6 GPCR型受容体の分子系統樹

図155-6を見てまずわかるのは、バクテリオロドプシンはそのルーツは古くても進化系統樹の頂点まで進化を続けており、代謝型グルタミン酸受容体と非常に近い関係にあるということです。ロドプシン様受容体はルーツが非常に複雑ですが、現存のバクテリオロドプシン、代謝型グルタミン酸受容体、セクレチン受容体とはやや離れた位置にあるようです。ジャンらはロドプシン様受容体に比べて代謝型グルタミン酸受容体の遺伝子にはイントロンが少ないことなどから、GPCRスーパーファミリーの祖先型は代謝型グルタミン酸受容体だったのではないかと推測しています(14)。

ジャンらはデータベースの解析をもとに、非常にスケールの大きなGPCRスーパーファミリーの進化推測図を描きました(図155-7)。これによると膜7回貫通型のバクテリオロドプシンは12億年以上前から存在しているようです。彼らが注目しているのは図155-3にも登場したPBP(periplasmic binding protein) で、このモジュールはやはり12億年以上前から存在し、それがGPS(G-protein-coupled receptor proteolytic site)モジュールと共にN末に発現するようになって、そのままPBPがVFTM(venus flytrap module)に進化してセクレチンおよび代謝型グルタミン酸受容体が形成されたとしています。ロドプシン様受容体群はこのようなN末の変化がもともとないか、いったん獲得した機能が失われたグループが進化したものとしています(図155-7)。

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図155-7 GPCR型受容体のルーツと進化

ひとつ心に留め置くべきは、GPCRファミリーのタンパク質はこれまで述べてきたものは種類から言えばマイナーなものであり、圧倒的多数は嗅覚受容体であることです。諏訪牧子によると、ヒトでは759種類、ラットでは1557種類、象では3119種類の受容体がみつかっているそうです(15)。GPCRファミリーのメジャーなグループはクラスAロドプシン様受容体とされています。ロドプシンと言えば光を連想しますが、それよりもまず化学物質を検出して、「取り込むか、逃げるか、放置するか」を判断することが生存するために重要であっただろうことは容易に想像できます。

参照

1)Wikipedia: Cys-loop receptor
https://en.wikipedia.org/wiki/Cys-loop_receptor

2)続・生物学茶話150: グリシン その1 神経伝達物質としてのグリシン
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/07/post-7d466c.html

3)Asba Tasneem, Lakshminarayan M Iyer, Eric Jakobsson and L Aravind., Identification of the prokaryotic ligand-gated ion channels and their implications for the mechanisms and origins of animal Cys-loop ion channels, Genome Biology 6:R4 (2004)
http://genomebiology.com/2004/6/1/R4

4)Cockcroft VB, Osguthorpe DJ, Barnard EA, Friday AE, Lunt GG. Ligand-gated ion channels. Homology and diversity. Mol Neurobiol. vol.4(3–4): pp.129–169. (1990) doi: 10.1007/BF02780338
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1725701/

5) Chapman JA, Kirkness EF, Simakov O, Hampson SE, Mitros T, Weinmaier T, et al. The dynamicgenome of Hydra. Nature. vol.464(7288): pp.592–596. (2010) doi: 10.1038/nature08830 PMID: 20228792

6) Kehoe J, Buldakova S, Acher F, Dent J, Bregestovski P, Bradley J. Aplysia cys-loop glutamate-gatedchloride channels reveal convergent evolution of ligand specificity. J Mol Evol. vol.69(2): pp.125–141. (2009) doi: 10.1007/s00239-009-9256-z PMID: 19554247

7)Mariama Jaiteh, Antoine Taly, Jérôme Hénin, Evolution of Pentameric Ligand-Gated IonChannels: Pro-Loop Receptors, PLoS ONE vol.11(3): (2016) e0151934. doi:10.1371/journal.pone.0151934
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0151934

8)Rendon G, Kantorovitz MR, Tilson JL, Jakobsson E. Identifying bacterial and archaeal homologs of pentameric ligand-gated ion channel (pLGIC) family using domain-based and alignment-basedapproaches. Channels (Austin). 2011; 5(4):325–343. doi: 10.4161/chan.5.4.16822
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.4161/chan.5.4.16822

9)脳科学辞典:Gタンパク質共役型受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/G%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E5%85%B1%E5%BD%B9%E5%9E%8B%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

10)ウィキペディア:ロドプシン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%97%E3%82%B7%E3%83%B3

11)Wikipedia: Bacteriorhodopsin
https://en.wikipedia.org/wiki/Bacteriorhodopsin

12)続・生物学茶話138: GPCRの進化
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/04/post-e83f2e.html

13)Trumpp-Kallmeyer, S., Hoflack, J., Bruinvels, A., Hibert, M.:‘Modeling of G-protein-coupled receptors: application to dopamine, adrenaline, serotonin, acetylcholine, and mammalian opsin receptors’, J Med Chem., 1992, 35, (19), pp. 3448–3462. Epub 1992/09/18

14)Zaichao Zhang, Zhong Jin, Yongbing Zhao, Zhewen Zhang, Rujiao Li, Jingfa Xiao, Jiayan Wu, Systematic study on G-protein couple receptor prototypes: did they really evolve from prokaryotic genes? IET Systems Biology, vol.8(4): pp.154-161 (2014) DOI: 10.1049/iet-syb.2013.0037
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25075528/

15)諏訪牧子 ゲノム情報解析から概観するGPCRプロテオーム
ファルマシア Vol.50 No.9 pp.888-892 (2014)

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2021年8月12日 (木)

続・生物学茶話154:グルタミン酸 その3 グルタミン酸トランスポーター

グルタミン酸やアスパラギン酸も他の神経伝達物質と同様、神経伝達物質として用いるには、まずそれらがシナプス前細胞のシナプス小胞にとりこまれストックされておく必要があります。これを実行するグルタミン酸トランスポーターは、vesicular glutamate transporter (VGluT) = 小胞体グルタミン酸輸送体と呼ばれており、solute carrier family (SLC) というタンパク質のスーパーファミリーに所属しており、さらにその中のSLC17というサブグループに所属しています(1)。

SLC17とは別グループの小胞トランスポーターファミリーにはSLC18とSLC32があり、前者はモノアミン、後者はGABAやグリシンをシナプス小胞に輸送します。シナプス小胞の膜には vacuolar (or vesicular) ATPase (V-ATPase) というATPのエネルギーを使ってプロトン(H+)を膜の内側に取り込むシステムが存在し、この働きによって小胞内部は高濃度の水素イオンでプラスチャージが維持されています。したがって膜に通路ができればグルタミン酸などマイナスチャージを持った分子は電気泳動的に小胞に流入します(2、図154-1)。ただしその通路には特異性があり、特定の分子しか通過できません。

プラスチャージのモノアミン類は、水素イオンが濃度勾配によって外部に流出するのと共役して小胞に取り込まれます。またGABAやグリシンも取り込まれますが、脳科学辞典ではモノアミン類と同様水素イオンの濃度勾配を利用するとしています(3)。しかし塩素イオンの流入を利用するとの記載もあります(2)。脳科学辞典でも「最近、VGAT/VIAATの再構成実験の結果から、VGAT/VIAATは膜電位勾配を駆動力として使い、GABAと塩素イオンを1:2で輸送する共輸送体であるとする新しい仮説が提唱された」(4)という記載があります。2009年というのはもはや最近ではありませんが、現在でもまだ詳細なメカニズムは解明されていないようです。

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図154-1 シナプス小胞への情報伝達物質のとりこみ

SLC17に所属するグルタミン酸(アスパラギン酸)輸送体には4つのアイソフォームがあり、それぞれ、VGLUT1・VGLUT2・VGLUT3・VEAT と命名されています。文献2によるとVGLUT1-3 はグルタミン酸専用、VEATはグルタミン酸とアスパラギン酸を輸送するようです。

脳科学辞典によると VGLUT1 および VGLUT2 のノックアウトマウスは致死ですが、VGLUT3 のノックアウトマウスは生存し、聴覚障害・不安傾向の増大・てんかん・痛みの感受性低下などを発症するそうです(5)。VGLUT1 および VGLUT2 が互いに補完することができないというのは驚きです。もちろん局在に違いはありますが(6)、ならば臨時に転写・翻訳を増強してもよさそうなものですが、なぜかそうはいかないようです。

VGRUT1とVGLUT2 はよく似た12回膜貫通タンパク質。VEAT は細胞質に露出するN末・C末がどちらも VGRUT1・VGLUT2 と比較して短いなどの差はありますが、やはり12回膜貫通タンパク質。VGLUT3 はこれらと異なり10回膜貫通タンパク質です(7、図145-2)。最近の研究によって、貫通部位のアミノ酸配列も明らかになっているようです(8)。またそれらをつなぐ膜外の配列についても、実際には図145-2のような2次元ではなく3次元構造をとっているので、貫通部位の番号がこの図では離れていても実際の距離は近いという場合があります。立体構造として理解することが必要です。関心のある方は林真理子氏の文献(8)をご覧ください。

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図154-2 グルタミン酸シナプス小胞トランスポーターの模式図

細胞の外からグルタミン酸(アスパラギン酸)を取り込むにはVGLUTとは異なるグループのトランスポーターが必要です。しかしこのトランスポーターを持っているのはシナプス前細胞ではなく、シナプス後細胞とアストログリア細胞です(図154-3)。なぜなのでしょうか? それはこの種のトランスポーターが神経伝達物質として使用するグルタミン酸を細胞内に取り込むためではなく、シナプス間隙に残された余剰のグルタミン酸をすばやく回収するための装置だからです。

アストログリア細胞が回収したグルタミン酸はグルタミンに変換され、アストログリア細胞からグルタミンの形でシナプス前細胞に運搬され、シナプス前細胞内でグルタミナーゼの作用でグルタミン酸に変換されて、シナプス小胞に濃縮されるという段取りになります(図154-3)。このシステムには大きなメリットがあります。すなわちグリア細胞からはグルタミン酸が排出されないので、シナプスにおけるグルタミン酸の受け渡しにノイズが発生せず、神経伝達のフィデリティーが向上することになります(9)。

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図154-3 シナプス周辺でのグルタミン酸・グルタミンの受け渡し

細胞膜のグルタミン酸トランスポーターは、そのアミノ酸配列から当初10回以上細胞膜を貫通する分子と考えられていましたが、2カ所でヘアピンループを構成していることが判明し、8回膜貫通タンパク質であることがわかりました(8)。アミノ末端とカルボキシル末端はいずれも細胞質側に露出しています。脳科学辞典の図ではふたつのヘアピンループ(HP1とHP2)は離れた位置にあるようにみえますが、2つのヘアピンループはその下の図のように細胞膜内で対面しており、グルタミン酸輸送のキーポジションを構成しているようです(8、図154-4)。

このトランスポーターはナトリウムイオンが細胞外で高濃度・細胞内で低濃度であることを利用して、電気化学ポテンシャルによってグルタミン酸を細胞内に取り込むことができます。1分子のグルタミン酸の取り込みは、3個のNa+および1個のH+の共輸送、1個のK+の対向輸送と共役しています(10、図154-4)。取り込まれたナトリウムイオンは Na+/K+-ATPアーゼを用いて排出しなければならないので、グルタミン酸の取り込みには結局のところATPのエネルギーが必要です。

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図154-4 グルタミン酸トランスポーターの模式図

グルタミン酸トランスポーターはSLC1ファミリーに所属し、さらにヒトでは5種類のサブグループが存在することが知られていて、それぞれ EAAT1-EAAT5 と命名されています。EAATは excitatory amino acid transporter の略称です(図154-5)。

これらのトランスポーターが欠損するかまたは阻害されると、シナプス間隙にグルタミン酸が刺激後も残留することになり、過剰な反復刺激が発生するなどの影響で、さまざまな疾患が発生します(10)。神経伝達物質のサルベージは重要です。

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図154-5 ヒトのグルタミン酸トランスポーター一覧表

グルタミン酸トランスポーターはあらゆる生物にユニバーサルに存在するようです。図154-6にある種の古細菌(Pyrococcus horikoshii)とヒトの分子を示していますが、非常に良く構造が似ています。いずれも3分子の集合体によって構造が形成されているところも同じです(8、11、図154-6)。もともと栄養物質を取り込むために使われていたトランスポーターが別の目的で流用されたと想像できます。UCPH101はEAAT1の特異的阻害剤です。

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図154-6 古細菌とヒトのグルタミン酸トランスポーター

 

参照

1)Solute carrier family
https://en.wikipedia.org/wiki/Solute_carrier_family

2)Hiroshi Omote and Yoshinori Moriyama, Vesicular Neurotransmitter Transporters: An Approach for Studying Transporters With Purified Proteins., PHYSIOLOGY vol.28: pp.39-50, (2013); doi:10.1152/physiol.00033.2012
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/physiol.00033.2012

3)脳科学辞典:小胞GABAトランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9EGABA%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

4)Juge, N., Muroyama, A., Hiasa, M., Omote, H., & Moriyama, Y. (2009).
Vesicular inhibitory amino acid transporter is a Cl-/gamma-aminobutyrate Co-transporter. The Journal of biological chemistry, 284(50), 35073-8.

5)脳科学辞典:小胞グルタミン酸トランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

6)Erika Vigneault et al., Distribution of vesicular glutamate transporters in the human brain. Front. Neuroanat., 05 March (2015)
https://doi.org/10.3389/fnana.2015.00023

7)Joeri Van Liefferinge et al., Are vesicular neurotransmitter transporters potential treatment targets for temporal lobe epilepsy? Front. Cell. Neurosci., 30 August (2013)
https://doi.org/10.3389/fncel.2013.00139

8)Mariko Kato Hayashi, Structure-Function Relationship of Transporters in the Glutamate?Glutamine Cycle of the Central Nervous System. Int. J. Molec. Sci., vol.19, no.4, (2018) doi: 10.3390/ijms19041177
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5979278/

9)脳科学辞典:グリア細胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B4%B0%E8%83%9E

10)脳科学辞典:グルタミン酸トランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

11)Dinesh Yernool, Olga Boudker1, Yan Jin & Eric Gouaux, Structure of a glutamate transporter homologue from Pyrococcus horikoshii., NATURE vol.431, no.14, pp.811-818 (2004)
https://www.nature.com/articles/nature03018

 

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2021年8月 4日 (水)

続・生物学茶話153:グルタミン酸 その2 代謝型グルタミン酸受容体

代謝型グルタミン酸受容体は、すべて細胞膜7回貫通Gタンパク質共役型受容体(GPCR)です。GPCRは最も一般的な受容体ですが6つのグループに分類されています。最大のグループはロドプシン型グループで、地球上に微生物しかいなかった時代からこのグループの分子群は連綿と受け継がれてきており、クラスAと呼ばれています。そのほかにクラスB-Fがあり、グルタミン酸受容体はクラスCに所属します。ヒトには約800種類のGPCRが存在し、その8割以上はクラスAに所属します(1)。GPCRの詳細な分子構造が明らかになったのは21世紀になってからのことであり(2)、現在も研究が続けられています。

クラスCのGPDRは22種類みつかっており、グルタミン酸受容体以外にはGABA受容体や味覚受容体などが含まれます(3、4)。代謝型グルタミン酸受容体の遺伝子構造や機能は、20世紀末に京都大学の中西研究室を中心に研究が進められました(5、6)。その研究の中心人物のひとりだった桝(ます)氏が当時の研究室の雰囲気について「失敗を恐れず何でもチャレンジしてみる気風があり、合宿所のような雰囲気の中、皆朝から晩まで楽しく実験をしていました。」と記述しています(7)。

現在では8種類の代謝型グルタミン酸受容体が知られており、mGlu1とmGlu5がグループIで、これらが共役するGタンパク質はGq(あるいはGq/11)で、細胞内シグナル伝達経路を活性化する役割を持っています。それ以外のグループⅡ・グループⅢの受容体が共役するGタンパク質はGi/oで、細胞内シグナル伝達系を抑制するタイプになっています(8、図153-1)

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図153-1 代謝型グルタミン酸受容体の分類表

これらの受容体の細胞膜に埋め込まれている部分はありふれた膜7回貫通のαヘリックス構造ですが、細胞の外側にあるN末が長大なのが特徴です(9、図153-2左図)。このECD(extaracellular domain) は根元のCRD(cysteine-rich domain) と先端のVFTD(venus flytrap domain)からなります(図153-2右図)。Flytrap というのは辞書を引くとハエトリグサという食虫植物のことだそうです。最近 Zhang らはクライオ電子顕微鏡技術を用いて、リガンドが結合していない状態、結合した状態、遷移過程の状態などの美しいmGlu1受容体のモデルを提供することに成功しました(10)。ここではリガンドが結合していない状態のモデルだけをコピペしましたが、論文はフリーオープンなのでご覧になることをおすすめします。

リガンドがない状態でも、一応ホモダイマーを形成しているとみられるmGlu1受容体分子ですが、リガンドが結合することによって、それぞれの分子のVFTD部分が構造変化を起こして強く絡まり合い、その力でCRDや膜内部分(7TMD=7 transmembrane domain)までもが引き寄せられて近接する様子が示されています。

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図153-2 代謝型グルタミン酸受容体の構造

代謝型グルタミン酸受容体のグループIはGタンパク質αq (あるいはαq/11)と結合していて、リガンドが結合することによってGタンパク質は遊離し、PLCβを活性化し、図153-3のようにPKC活性を上昇させることになります。PKCは多くのタンパク質をリン酸化し、リン酸化されたタンパク質それぞれの機能に大きな影響を与えます。

さらに受容体がリガンド結合によって構造変化を起こし、受容体自身がGRKによってリン酸化されることが知られています。それによってアレスチンと受容体が反応して転写因子を活性化したり、受容体を細胞内に取り込むプロセスを発動したりします(11、図153-3)。後者はある種のフィードバック制御と考えられています。またリガンド結合によって、NMDA受容体の活性化も行われます(4)。この点は代謝型グルタミン酸受容体の機能について研究する上で注意すべきです。代謝型グルタミン酸受容体の活性変化によって、NMDA受容体の活性が影響を受け、直接的にはNMDA受容体の活性変化によってさまざまな結果が生まれる可能性があります。

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図153-3 グループI代謝型グルタミン酸受容体の機能

グループⅡ・Ⅲの受容体はリガンドと結合するとαi/oを遊離し、アデニル酸シクラーゼの活性を阻害する方向で作用し、PKAの活性はさがります。またカルシウムチャネルを閉じさせる作用もあって、PKCも低下し、細胞内のシグナル伝達系を抑制します(4、図153-4)。これらの受容体はカリウムチャネルを解放する作用もあるので、細胞の脱分極を阻害する方向に作用します(4、図153-4)。

代謝型グルタミン酸受容体はヘテロダイマーを形成することもあるようですが(図153-4)、その構造や機能の研究は現在進行中で、まだ詳細は明らかではないようです(12)。

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図153-4 グループⅡ・Ⅲ代謝型グルタミン酸受容体の機能

Zhang らは代謝型グルタミン酸受容体ホモダイマーのリガンド結合による構造変化についてモデルを提出しています。VFTDのコンフォーメーションチェンジによって、ダイマーが接近する様子が示されています(10、図153-5)。しかし注意すべきは、別角度から見た図も彼らの論文に掲載されていますが、それによると結合しているのはVFTDだけで、CRDも7TMDも接近はするものの、結合しているとは思えないことです(10)。サブユニット同士がCRDでSSブリッジを形成するという論文もあるので(13)、このあたりはまだまだ議論の余地があるものと思われます。

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図153-5 Zhangらによる代謝型グルタミン酸受容体の構造変換についての模式図

代謝型グルタミン酸受容体に異常のある実験動物やアゴニスト/アンタゴニストを用いた実験によれば、この受容体は統合失調症、自閉症、うつ病、不安心理、ステロイドの合成などに関与していることが示唆されています(14)。

 

参照

1) ウィキペディア:Gタンパク質共役受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/G%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA%E5%85%B1%E5%BD%B9%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

2) Rasmussen SG, Choi HJ, Rosenbaum DM, Kobilka TS, Thian FS, Edwards PC, Burghammer M, Ratnala VR, Sanishvili R, Fischetti RF, Schertler GF, Weis WI, Kobilka BK (2007). “Crystal structure of the human β2-adrenergic G-protein-coupled receptor”. Nature 450 (7168): 383?7. doi:10.1038/nature06325. PMID 17952055.

3) Wikipedia: Class C GPCR
https://en.wikipedia.org/wiki/Class_C_GPCR

4) Shen Yin and Colleen M. Niswender, Progress toward advanced understanding of metabotropicglutamate receptors: structure, signaling and therapeutic indications. Cell Signal. 2014 October ; 26(10): 2284?2297. doi:10.1016/j.cellsig.2014.04.022.

5) M Masu, Y Tanabe, K Tsuchida, R Shigemoto, S Nakanishi, Sequence and expression of a metabotropic glutamate receptor., Nature, vol.349(6312): pp.760-765.(1991)
doi: 10.1038/349760a0.
https://www.nature.com/articles/349760a0

6) Takahashi K, Tsuchida K, Tanabe Y, Masu M, Nakanishi S., Role of the large extracellular domain of metabotropic glutamate receptors in agonist selectivity determination. J Biol Chem. vol.268(26): pp.19341-19345. (1993)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8103516/

7) 桝正幸 二人の偉大な研究者との出会い 
http://www.chnmsj.jp/kenkyuui_taikendan3.html

8) Shen Yin and Colleen M. Niswender, Progress toward advanced understanding of metabotropic glutamate receptors: structure, signaling and therapeutic indications
Cell Signal., vol.26(10): pp.2284–2297. (2014) doi:10.1016/j.cellsig.2014.04.022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24793301/

9) http://www.bris.ac.uk/synaptic/receptors/mglur/

10) Jinyi Zhang et al., Structural insights into the activation initiation of full-length mGlu1, Protein Cell 2021, 12(8):662–667
https://doi.org/10.1007/s13238-020-00808-5

11) Wikipedia: G protein-coupled receptor kinase
https://en.wikipedia.org/wiki/G_protein-coupled_receptor_kinase

12)ヒポクラ × マイナビ Bibgraph 代謝型グルタミン酸受容体2/4ヘテロ二量体の機能的および薬理学的特徴
https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/22653971?click_by=p_ref

13)Siluo Huang et al., Interdomain movements in metabotropic glutamate receptor activation., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.108, pp.15480-15485 (2011)
https://doi.org/10.1073/pnas.1107775108
https://www.pnas.org/content/108/37/15480

14)Wikipedia: Metabotropic glutamate receptor
https://en.wikipedia.org/wiki/Metabotropic_glutamate_receptor

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2021年7月27日 (火)

続・生物学茶話152:グルタミン酸 その1 イオンチャネル型グルタミン酸受容体

カール・ハインリッヒ・リットハウゼン(図152-1)はポーランドに生まれ、ライプチッヒで研究を行った農芸化学者です。彼は小麦の成分の研究から1866年にグルタミン酸を発見しました。1866年といえばメンデルが遺伝の法則を発表した年です。その後さらにアーモンドの抽出物からアスパラギン酸を発見しました(1)。タンパク質成分としての酸性アミノ酸はこの2つしかありません。

池田菊苗はそれから約40年後の1908年に、グルタミン酸が人がうま味を感じる成分であることを発見しました(2、図152-1)。ウィキペディアにも誤解を招く記述がありますが、彼はグルタミン酸の発見者ではありません。しかし彼のおかげで、グルタミン酸はその後うま味調味料「味の素」として親しまれることになりました(図152-1)。しかし後に、味の素の過剰摂取によって中枢神経の病気が発生することがわかり、国連の食糧農業機関から許容量を定められるなど、世界で使われる調味料になっていたので国際問題に発展しました(3-5)。実際には調味料程度の量では害はないので、それほど気にすべきことではないことがわかっています。ただタンパク質の素材であり、ありふれたアミノ酸のひとつであるグルタミン酸がなんらかの神経毒性をもっている(6、7)ということが、舌の味蕾にグルタミン酸の受容体があるのではないかということよりも強いインパクトをもって、多くの研究者をグルタミン酸の研究に導くことになりました。

戦後になって林髞(はやし・たかし、図152-1)は、猫の大脳皮質にアスパラギン酸やグルタミン酸を投与すると痙攣をおこすことを報告しました(8)。脳に投与すると痙攣を起こす薬物は多いので、この報告によってアスパラギン酸やグルタミン酸が神経伝達物質であるとは言えませんが、実際にこれらが神経伝達物質であることが後に証明されたので、林髞の研究は高く評価されてしかるべきだと思います。ただ発表したのがローカルな雑誌だったため、ワトキンスをはじめ多くの研究者の目にはとまらなかったと思われます(9)。林髞は直木賞作家・木々高太郎の本名で、慶應義塾大学医学部教授であると同時に作家としても大活躍しました。また松本清張を見いだした人としても有名です。

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図152-1 グルタミン酸の発見とその性質

グルタミン酸は血液中に高濃度で含まれていても、脳の神経細胞には直接届きません。脳の神経細胞はグリア細胞でびっしりと覆われているため(血液-脳関門)、多くの場合直接毛細血管などからリリースされた栄養物質などを取り込むことができず、必要な物質はグリア細胞から供給してもらうか、自分で合成するしかありません。もし血液の成分がフリーに脳の神経細胞にアクセスできるとすれば、グルタミン酸などは当然血液にも含まれているので、特異的な神経伝達はできないと思われます。そういう意味でも血液-脳関門は脳における神経伝達には重要です。このことについては後にまた触れることになるでしょう。

図152-2に神経細胞などがグルタミン酸を生合成する際の経路を記しました。グルタミン酸は必須アミノ酸ではなく、さまざまな生合成経路があります。

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図152-2 グルタミン酸のさまざまな生合成経路

ワトキンスはオーストラリア人ですが、Ph.D はケンブリッジ大学で取得し、その後渡米してポストドクとしてイェール大学で研究していましたが、友人のすすめで故国のキャンベラにいるエクレス教授のもとに移転し、そこでカーティスらと共同で神経伝達物質の研究を行うことにしました(図152-3)。彼らは猫の脊髄を使って、グルタミン酸やアスパラギン酸が興奮性の神経伝達物質であることを確信し、Nature に論文を発表しました(10)。

ところがグルタミン酸やアスパラギン酸が実際に生体内で使われる興奮性神経伝達物質であるかどうかについては、懐疑的な意見が大勢を占めました。その理由は1)酸性アミノ酸であればD型・L型どちらでもいいなど特異性に問題がある、2)有効な濃度がアセチルコリンやノルアドレナリンと比べて高すぎる、3)興奮性ニューロンの電位変化とは異なるパターンを示す、などでした。しかもグルタミン酸をマウスに皮下注射すると、数時間で網膜の神経細胞が損傷するという結果まで報告されていたことは彼らにとって不利でした(11)。その結果カーティスやワトキンスのグループは長い冬の時代を迎えることになりました。

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図152-3 神経伝達物質としてのグルタミン酸をみつけた研究者達

しかしその冬の時代もワトキンスらは息絶えることなく、地道に研究を進めました。そのひとつはNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸、図152-4)というグルタミン酸と桁違いの活性を持つアゴニストを発見したことです。この物質はD型の方がL型よりはるかに強い活性を示しました(12)。そして状況をさらに変化させる助け船は、思わぬところから現れました。

太平洋戦争後しばらくの間まで日本では人糞を肥料として用いていたため、多くの人々が回虫に感染していて、定期的に虫下しを服用する必要がありました。そこで様々な薬品が開発されまた使用されましたが、その中にカイニン酸という海藻から抽出されたグルタミン酸骨格を有する複素環化合物がありました(13、図152-4)。

篠崎温彦(しのざき・はるひこ)らはこのカイニン酸がグルタミン酸感受性シナプスに何らかの影響をあたえるのではないかと考え、ラット大脳ニューロンに適用したところ、グルタミン酸より遙かに強力な興奮作用があることを発見しました(14)。彼らはさらに使君子という植物から抽出された駆虫剤の成分であるキスカル酸が、やはりグルタミン酸より遙かに強力な興奮作用を持つことを報告しました(15、16、図152-4)。これらの物質はあらかじめグルタミン酸を作用させて脱感作した細胞では無効であることから、グルタミン酸とおなじターゲット=受容体に作用することが示唆されました。

篠崎らのすぐれていたところは、ラットだけでなく、ザリガニの筋肉を用いて実験を行ったことです。彼らの文章を引用すると「グルタミン酸をつめた微小ピペットを通して電気泳動用の短い電流を流しながら、このピペットをザリガニ開鋏筋表面上に沿って動かしていくと、ある限局した場所にグルタミン酸を適用した場合にだけ脱分極が生じる。グルタミン酸に敏感なその限局した場所は神経筋接合部と一致する。」「化学構造上グルタミン酸に類似しているとみなすことができるキスカル酸は,甲殻類神経筋接合部において、何らかの作用を示すのではないかと思われた.ザリガニ開鋏筋にキスカル酸を適用したところ,著しい脱分極を起こし,その効力はグルタミン酸より数百倍以上も強力であった。電気泳動法によって局所に適用すると、グルタミン酸の感受性部位とキスカル酸の感受性部位は完全に一致し,グルタミン酸によりレセプターのdesensitizationを起こさせておくと,キスカル酸による脱分極は認められないことから、キスカル酸はグルタミン酸と同一のレセプターに結合することが示唆された。」などの記述があります(17)。当時としては精密な実験を行って説得力のある結果を得ていたことがうかがえます。

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図152-4 グルタミン酸のアゴニスト イオンチャネル型受容体の作用するもの

篠崎らの論文を読んだオルニーは、カイニン酸などの化合物について全く知らなかったので(論文は当時日本語のものしかなかった)、篠崎は日本語の論文を英訳して送ってあげたそうです(18)。オルニーらはその後グルタミン酸およびカイニン酸などの物質をマウスに投与して神経病理学的検討を行い、「神経細胞を興奮させる作用」と「神経細胞死をおこす作用」が密接に関連していることを示し、神経伝達物質としてのグルタミン酸の認知に大きく貢献しました(19)。

現在ではワトキンスらが当初から研究してきた受容体はNMDA型グルタミン酸受容体、カイニン酸がアゴニストとなる受容体はカイニン酸型グルタミン酸受容体、キスカル酸がアゴニストとなる受容体はAMPA型グルタミン酸受容体といういずれもイオンチャネル型の別々の受容体であることが明らかとなっています。

NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)がアゴニストとなる受容体の遺伝子構造は、京都大学の西村研で森吉弘毅らによって行われました(20)。この受容体はNR1とNR2という二つのサブユニットが各2個集まった4つのサブユニットで形成され(図152-5、図152-6)、リガンドすなわちグルタミン酸やアゴニストがこれらに結合すると、イオンチャネルが開いてNa+、K+、Ca++などの陽イオンを通過させ、細胞を脱分極させることができます(図152-5)。

NR1(GluN1)はスプライシングバリアントがいくつかあるのみですが、NR2サブユニットにはさらに NR2A、NR2B、NR2C、NR2D の4種類がクローニングされており、それぞれNR1のパートナーとなり得ますが、発現部位や発現時期が異なっています。たとえば、NR2Dサブユニットは胎生期に選択的に発現するサブユニットであると考えられています(21)。たとえばヘモグロビンだと、胎児では酸素分圧が低いので酸素と強く結合する胎児型ヘモグロビンが有効に作用していますが、NR2Dがいかなる理由で胎児に存在するのかはわかりません。図152-5に示したように、グルタミン酸はNR2に結合します。

ここでひとつ重要な点は、この受容体は通常の静止膜電位の状態だとMg++イオンによって阻害されているため、イオンチャネルはリガンドが結合しても開かないということです。まず他の受容体の作用によってある程度の脱分極がおこらないと、この受容体は作動しません。つまりこの受容体は脱分極の強化または持続に特化した作用をもつと思われます。

このイオンチャネルはいったん開くとナトリウムイオンやカリウムイオンの他、カルシウムイオンもフリーに通過させるというのが特徴で、細胞内のカルシウムイオン濃度が増大すると、さまざまな代謝的影響が出るので、このチャネルは代謝型を兼ねているともいえます。さらにこのチャネルが作動するためには、図152-5に示したNR1の Glycine binding site に、セリンかグリシンが結合している必要があり(グルタミン酸が結合するのはNR2で、NR1には結合しない)ことです(21、22)。そういう意味ではこのNMDA型受容体は正確に言えば グルタミン酸∩(グリシン∪セリン) 受容体ということになります。またZn++イオンやポリアミンも制御に関与しているとされています(22)。

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図152-5 NMDA型グルタミン酸受容体

NMDA型受容体のサブユニットはそれぞれ膜3回貫通型のタンパク質であり、細胞外にあるN末部位は巨大で、リガンド結合部位やアロステリック制御部位などが存在します。ところがこの受容体は細胞内のC末部位も複雑に発達していて、図152-6に示すような様々なタンパク質キナーゼ(Fyn、αKamKII、P85P13k)や、PSD95という足場タンパク質と結合するサイトがあります(23、図152-6)。この受容体がイオンチャネルでありながら、代謝型の特徴も兼備していることが示唆されます。

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図152-6 NMDA型グルタミン酸受容体の立体構造

2つめのイオンチャネル型グルタミン酸受容体はカイニン酸型です。前述のように、このタイプの受容体は篠崎温彦らによって発見されました。カイニン酸やドウモイ酸がアゴニストとして知られています(図152-7)。ちなみに篠崎先生は現在株式会社カイネートの代表取締役をなさっているようです。

NMDA型と同様4つのサブユニット(2x2)でひとつの受容体が形成されています。サブユニットには Gluk1-Gluk5 の5種類があります。それぞれのサブユニットは膜3回貫通型で、細胞膜に埋め込まれたヘアピンループがひとつ存在するなどNMDA型とよく似ています。細胞外にリガンド結合部位を含む巨大なN末部位があり、細胞内にC末部位があります(24、図125-7、模式図は脳科学辞典 参照24より)。

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図152-7 カイニン酸型グルタミン酸受容体

カイニン酸型受容体遺伝子のクローニングを最初に行ったのはハルマンらで1989年のことでした(25)。その後の研究進展の歴史をまとめた総説が出版されていますので、詳しく知りたい方はご覧下さい(26)。このタイプの受容体の機能についてはまだまだ謎が多くて、私にもよくわかりません。脳科学辞典(24)を少し引用すると「カイニン酸受容体が介するシナプス応答は、海馬CA3野の同じ錐体細胞から得られるAMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答に比べてゆっくりとした時間経過を示す。カイニン酸受容体を介するシナプス応答のピーク振幅は、AMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答の~10 %程度と小さな割合だが、持続時間が長いため興奮性シナプス後電位(EPSP)の加重によるスパイク発生に寄与すると考えられている」、などという記載があります。

クリステンセンらが発表した受容体の立体構造を図152-8に示します。LBDはリガンド結合ドメイン(ligand binding domain)の略称です。カイニン酸の結合部位が示されています。立体構造をみると最外部のN末領域、中間部のLBD、膜貫通部位の3つのドメインに分かれていることがよくわかります。この他に細胞内にC末領域があり、ここで足場タンパク質と結合しているとすると、全体的には非常に巨大な構造体を構成していることになります。

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図152-8 カイニン酸型グルタミン酸受容体の立体構造

3つめのイオンチャネル型グルタミン酸受容体はAMPA型ですが、このタイプは数が多く分布も広い上に、NMDA型は通常Mg++イオンでオフ状態なので、中枢神経系におけるグルタミン酸性の興奮性シナプス伝達は、普段主にこの受容体によって行われていると考えられています(27、28)。AMPA型受容体の反応は瞬時であり、他の受容体では果たせない、即効性の興奮性シナプス伝達をになうのに適しています。

他のイオンチャネル型グルタミン酸受容体と同様、4つのサブユニットの集合体(テトラマー)によって受容体が形成されています。グルタミン酸またはそのアゴニストはすべてのサブユニットに1分子づつ結合します。各サブユニットはそれぞれ3回膜貫通タンパク質で、細胞膜内に一カ所ループがあることも含めて他の受容体とよく似ています(図152-9)。

グルタミン酸またはアゴニストが結合することによって、陽イオンのチャネルが解放され、Na+、K+、Ca++などのイオンが通過し、脱分極がおこります。チャネルを構成するサブユニットのクローニング・構造決定もハルマン、ハイネマンのグループが主導して行われました(29,図152-9)。

ここでひとつ問題なのは、サブユニットの呼称が統一されていないということです。日本版のウィキペディアでは GluR1-R4 ですが、米国版では GluA1-A4 となっています。なかには同じウェブページで両方が使われている場合もあります(30)。さらに面倒なのは1~4ではなくA~Dと記述している文献もあることで、本当にいい加減にしてほしい。

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図152-9 AMPA型グルタミン酸受容体

これまで述べてきた3種のチャネル型グルタミン酸受容体の立体構造が Protein data bank Japan に掲載されていたので、図152-10に示します(31)。ここで注目すべきは、AMPA型受容体の膜貫通部位にTARP(Transmembrane AMPA receptor regulatory protein・膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質)と呼ばれる制御タンパク質がとりついていることです(図152-10)。

このタンパク質は線虫から哺乳類まで保存されているそうで、N末・C末ともに細胞内にある膜4回貫通タンパク質であり、受容体の開口速度を速めたり、脱感作速度を遅めたりするなどの機能があるようです(32)。

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図152-10 AMPA型グルタミン酸受容体の立体構造と制御因子

ここで述べてきたようにグルタミン酸による神経伝達は脳において、すなわちヒトにおいて、最も重要な神経伝達経路であるにもかかわらず、この経路の解明に貢献した研究者達にノーベル賞が授与されていないのは不思議な話です。

 

参照

1)DBpedia, About: Karl Heinrich Ritthausen
http://dbpedia.org/page/Karl_Heinrich_RitthausenBritishJournalofPharmacology(2006)147,S100?S108

2)ウィキペディア:池田菊苗
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%A0%E7%94%B0%E8%8F%8A%E8%8B%97

3)ウィキペディア:味の素
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%B3%E3%81%AE%E7%B4%A0#%E5%AE%B3%E6%80%A7%E3%83%BB%E5%AE%89%E5%85%A8%E6%80%A7

4)船瀬俊介 「味の素の罪」 ヒカルランド 2020年刊

5)内閣府 食品安全委員会 食品安全関係情報詳細
http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu04750090149

6)鈴木将貴、神経の働きを調節する新たなメカニズムを発見 KOMPAS
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/medical_info/science/201508.html

7)三谷章、グルタミン酸神経毒性:脳虚血性神経細胞死の発生過程におけるグルタミン酸トランスポーターとグルタミン酸受容体の役割 日臨麻会誌Vol.19 No.3, pp.167-175(1999)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/19/3/19_3_167/_pdf/-char/ja

8)T.HAYASHI, A physiological study of epileptic seizures following cortical stimulation in animals and its application to human clinics.  Jpn. J. Physiol.: vol.3(1); pp.46-64 (1952)
file:///C:/Users/User/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/PVA09UPG/3_46.pdf

9)Jeffrey C.Watkins & David E.Jane, The glutamate story., British Journal of Pharmacology, vol.147, pp.S100-S108 (2006)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16402093

10)D. R. CURTIS, J.W. PHILLIS & J.C. WATKINS., Chemical Excitation of Spinal Neurones., Nature vol.183, pp.611-612 (1959)
https://www.nature.com/articles/183611a0

11)Lucus DR and Newhouse JP: The toxic effect of sodium L-glutamate on the inner layers of the retina. Arch Ophthalmol 58, 193-201 (1957)

12)Curtis, D.R. & Watkins, J.C., The pharmacology of amino acids related to gamma-aminobutyric acid. Pharm. Rev., vol.17, pp.347-391.(1965)

13)カイニンソウ
https://kotobank.jp/word/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AA-669613

14)Haruhiko Shinozaki, Shiro Konishi., Actions of several anthelmintics and insecticides on rat cortical neurones. Brain Research,vol.24,issue 2, pp.368-371 (1970)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0006899370901228?via%3Dihub

15)シクンシ
https://www.weblio.jp/content/%E4%BD%BF%E5%90%9B%E5%AD%90

16)Shinozaki H and Shibuya I: A new potent excitant, quisqualic acid: effects on crayfish neuromuscular junction. Neuropharmacology vol.13, pp.665-672 (1974)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0028390874900562

17)篠崎温彦 比較生物学的にみた神経伝達物質 化学と生物 Vol.17, No.10, pp.616-624 (1979)
https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.17.616

18)篠崎温彦 グルタミン酸受容体の薬理学 一 アゴニストを中心として 一 日薬理誌(FoliaPharmacol.Jpn.) vol.116, pp.125~131 (2000)
file:///C:/Users/User/Desktop/グルタミン酸/116_125.pdf

19)Olney JW, Rhee V and Ho Q: Kainic acid: a powerful neurotoxic analogue of glutamate. Brain Res 77,
507-512 (1974)

20)Moriyoshi K, Masu M, Ishii T, Shigemoto R, Mizuno N, Nakanishi S., "Molecular cloning and characterization of the rat NMDA receptor". Nature. vol.354 (6348): pp.31-37. doi:10.1038/354031a0. PMID 1834949
https://www.nature.com/articles/354031a0

21)ウィキペディア:NMDA型グルタミン酸受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/NMDA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

22)Wikipedia: NMDA receptor
https://en.wikipedia.org/wiki/NMDA_receptor

23)Kasper B. Hansen et al., Structure, function, and allosteric modulation of NMDA receptors., J. Gen. Physiol., jgp Home, 150 (8): 1081 (2018)
http://jgp.rupress.org/content/150/8/1081

24)脳科学辞典 カイニン酸型グルタミン酸受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%8B%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

25)Hollmann M, O'Shea-Greenfield A, Rogers SW, Heinemann S., Cloning by functional expression of a member of the glutamate receptor family. Nature. vol.342(6250): pp.643-648, (1989)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2480522?dopt=Abstract

26)Anis Contractor, Christophe Mulle and Geoffrey T Swanson., Kainate receptors coming of age: milestones of two decades of research., Trends Neurosci. vol. 34(3): pp.154-163. (2011)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3051042/
file:///C:/Users/User/Desktop/グルタミン酸受容体/nihms267712.pdf

27)ウィキペディア:AMPA型グルタミン酸受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/AMPA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

28)Traynelis et al., Glutamete receptor in ion channels: structure, regulation, and function. Pharmacol. review, vol.62, pp.405-496 (2010)

29)M. Hollmann and S. Heinemann (1994). Cloned glutamate receptors. Annual Review of Neuroscience 17: 31-108.doi: 10.1146/annurev.ne.17.030194.000335

30)https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/ampa-receptor

31)PDBj235:AMPA受容体
https://pdbj.org/mom/235

32)脳科学辞典:膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%86%9C%E8%B2%AB%E9%80%9AAMPA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93%E8%AA%BF%E7%AF%80%E6%80%A7%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

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2021年7月20日 (火)

続・生物学茶話151: グリシン その2 グリシン受容体のルーツ

刺胞動物の神経系を最初に記載したのはルイ・アガシ-だとされています(1、図151-1)。なにしろ1850年のことですから、脳が無いのにどうして神経系が存在するのだと批判されたようです。現在ではもちろん、イソギンチャクもヒドラもクラゲも立派な神経系を持っていることが証明されています。刺胞動物に神経系が存在することを認知する上で、ジェーン・ウェストフォール(図151-1)らは大きな貢献をしました。彼女らは電子顕微鏡などをつかって執拗に研究をつづけ、シナプス前細胞のシナプス小胞、シナプス後細胞の受容体などについて多くの知見を得ました(2)。図151-1には走査電子顕微鏡の写真(フリー)を貼っておきました(3)。多くの先達の努力によって、エディアカラ紀以前の時代、左右相称動物が成立するより前に分岐した刺胞動物にも、私たちと同様な神経系があることを疑う人はいなくなりました。

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図151-1 刺胞動物の神経系

刺胞動物を代表する生物のひとつであるヒドラは特に分化した内臓は持たず、消化管があるだけですが、足盤で体を固着させ、刺胞を使って餌をとり、触手を動かして消化管に送り込みます。体の外側と内側(消化管側)に別種の細胞が分布していますが、神経細胞はその両側に存在し、ネットワークを形成しています(図151-2)。全体図はウィキペディア(4)、断面模式図は慶大資料(5)、銀染色写真は文献(6)から拝借しました。

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図151-2 ヒドラの神経系

イエロボンらはヒドラがGABA受容体やグリシン受容体を持つことを次々に証明しました(7、8)。さらにネマトステラ(イソギンチャクの仲間)という刺胞動物の全ゲノム解析が完了して、GABA、GABA、グリシンなどの受容体とみられる遺伝子もみつかりました(9)。年月を経て、ようやくヒドラのグリシン受容体遺伝子の同定も行われたようです(10)。クラゲという名前ですが、刺胞動物とは門がことなるクシクラゲ(有櫛動物)は多種のGPCRを保有していることが知られていますが(11)、さらにイオンチャネル型受容体であるグリシン受容体も保有しているという報告があります(12)。有櫛動物はメタゾア(いわゆる動物)の一番根元から分岐したと考えられており、他のすべての動物とは起源が異なる神経系を持つとされています(13、14、図151-3)。このような生物でさえグリシン受容体を保有していることは、メタゾアの起源となるような生物がすでにこれを保有していたことを示唆します。

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図151-3 非常に大雑把な生物系統樹

哺乳類のグリシン受容体を構成するサブユニットにはα型の4つのアイソフォームとβ型があることが知られており、これらは発生段階や存在する場所によって分布に違いがあります(図151-4)。発現の時期からみるとα2とα4はいわゆる胎児型と思われます。

α1の遺伝子 Glra1 に変異があり、痙攣したり、硬直したりするマウスの系統いくつかあって、spasmodic mouse や oscillater mouse と呼ばれています。このような変異はヒトでも存在します(15)。ヒトの場合この遺伝子の変異によって癲癇や驚愕病を発症する場合があることが知られています(16、17)。α2やα3の遺伝子をノックアウトすると、一見正常なマウスのように見えますが、視覚(α2、α3)や痛覚(α3)に問題が発生することが報告されており、これらが感覚系に関与していることが示唆されています(15)。βの遺伝子 Glrb に変異があるとやはり驚愕病・痙攣・硬直がみられるので、αとのヘテロ型受容体がスムースな筋肉の動きに重要な役割をはたしていることが示唆されます(15)。

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図151-4 哺乳類グリシン受容体のサブユニット

驚愕病はびっくり病ともいい(英語では Hyperekplexia)、ウィキペディアでは「不意をつく音や接触などにより筋痙攣・硬直が誘発される非常に稀な病気であり、主に遺伝性とされる。・・・原因となる染色体の異常がいくつか同定されている。 特に多いのが抑制性神経伝達に関与するグリシンの受容体や輸送体の遺伝子変異で、これはグリシン作動性抑制神経の低下をまねく。」と解説しています。グリシンの受容体に結合し、アンタゴニストとして作用するストリキニーネは痙攣を誘発します(18)。このこともグリシンの働きが正常な筋肉の動きに必要であることを示唆しています。

マイケル・ジャクソンの死に関係したとされる麻酔剤のプロポフォールはGABA受容体やグリシン受容体を強制作動させる薬品で、依存性もあり、過剰投与は心拍・血圧・呼吸の低下を招き、死に直結するおそれがあります。アルコールやイベルメクチンにもグリシン受容体の作用を亢進させる機能があります(19)。

これまでみてきたように、ニコチン性アセチルコリン受容体、セロトニンの5HT受容体、GABA受容体、グリシン受容体はすべて膜4回貫通サブユニットが5個集合して受容体を形成するという類似した構造をとっており、Cys-loop グループと呼ばれることもあります(20)。これらの受容体グループのルーツは多細胞生物が出現してまもなくという非常に古い時代にあると思われます。

 

参照

1)G.O.Mackie, The first description of nerves in a cnidarian: Louis Agassiz’s account of 1850., Hydrobiologia vol.530, pp. 27-32 (2004)
https://link.springer.com/article/10.1007/s10750-004-2643-y

2)Jane A. Westfall, Ultrastructure of synapses in the first-evolved nervous systems., Journal of Neurocytology vol.25, pp.735–746 (1996)
https://link.springer.com/article/10.1007/BF02284838

3)Dirk Bucher, Peter A. V. Anderson, Evolution of the first nervous systems – what can we surmise?
J Exp Biol vol.218 (4): pp.501–503.(2015)
https://journals.biologists.com/jeb/article/218/4/501/14124/Evolution-of-the-first-nervous-systems-what-can-we

4)Wikipedia: Hydra (genus)
https://en.wikipedia.org/wiki/Hydra_(genus)

5)慶應義塾大学教育資料 文系学生への実験を重視した自然科学教育
https://www.sci.keio.ac.jp/gp/FE14F344_67A6D78B.html

6)P.Pierobon, Coordinated modulation of cellular signaling through ligand-gated ion channels in Hydra vulgaris (Cnidaria, Hydrozoa).,
Int. J. Dev. Biol. vol.56: pp.551-565 (2012) doi: 10.1387/ijdb.113464pp
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22689363/

7)P.Pierobon et al., Biochemical and functional identification of GABA receptors in Hydra vulgaris. Life Sci vol.56: pp.1485-1497. (1995)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7752813/

8)P.Pierobon et al., Putative glycine receptors in Hydra: a biochemical and behavioral study. Eur J Neurosci 14: 1659-1666. (2001)
https://www.researchgate.net/publication/229521494_Putative_glycine_receptors_in_Hydra_a_biochemical_and_behavioural_study

9)Anctil, M., Chemical transmission in the sea anemone Nematostella vectensis: A genomic perspective. Comp Biochem Physiol Part D 4: 268-289. (2009)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20403752/

10)L. Hufnagel, P. Pierobon, G. Kass-simon, Immunocytochemical localization of a putative strychnine-sensitive glycine receptor in Hydra vulgaris., Cell and Tissue Research vol.377, pp.177–191 (2019) DOI:10.1007/s00441-019-03011-z
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00441-019-03011-z

11)続・生物学茶話138: GPCRの進化
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/04/post-e83f2e.html

12)Robert Albersteina et al., Glycine activated ion channel subunits encoded by ctenophore glutamate receptor genes., Proc Natl Acad Sci USA, vol.112(44): E6048-57.(2015) doi: 10.1073/pnas.1513771112
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26460032/

13)続・生物学茶話130: クシクラゲ(有櫛動物)の衝撃
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/02/post-fcf5d1.html

14)Leonid L. Moroz, Convergent evolution of neural systems in ctenophores., The Journal of Experimental Biology vol.218, pp.598-611 (2015) doi:10.1242/jeb.110692
https://jeb.biologists.org/content/218/4/598

15)Sébastien Dutertre, Cord-Michael Becker, and Heinrich Betz., Inhibitory Glycine Receptors: An
Update., J. Biol. Chem. VOL.287, NO.48, pp.40216–40223 (2012)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3504737/

16)榮本昭仁 et al., 遺伝子解析により診断が確定したStartle病(Hyperekplexia)の家族例 静岡赤十字病院研究報 vol.37, no.1, pp.15-19 (2017)

17)守吉秀行 et al.,グリシン受容体α1遺伝子に点変異を認め,クロナゼパムが著効したhereditary hyperekplexiaの1家系 臨床神経学 58巻 7号 pp.435-439(2018)

18)ウィキペディア:ストリキニーネ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%AD%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%8D

19)Gonzalo E. Yevenes and Hanns Ulrich Zeilhofer1, Allosteric modulation of glycine receptors., British Journal of Pharmacology., vol.164, pp.224–236 (2011) DOI:10.1111/j.1476-5381.2011.01471.x

20)Yan-Lin Fu et al., Cys-Loop Receptors., Advances in Protein Chemistry and Structural Biology, (2016)
https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/cys-loop-receptors

 

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2021年7月15日 (木)

続・生物学茶話150: グリシン その1 神経伝達物質としてのグリシン

グリシンはGABAと共に、哺乳類の成体中枢神経系における代表的な抑制型神経伝達因子ですが、NMDA型グルタミン酸受容体においてグルタミン酸と共同リガンドとして脱分極を促進する働きもあります(1)。後者はグルタミン酸のところで扱うことにします。いままでみてきたように、神経伝達物質は一筋縄ではいきません。

グリシンがイオンチャネルであるグリシン受容体と結合すると、アニオンチャネルが開き、細胞外から塩素が細胞内に流入するので、シナプス後細胞が過分極状態になって興奮(発火)しにくくなります(2)。このことは現在では誰もが認める事実ですが、なにしろグリシンは図150-1に示すように、生体内のアミノ酸の中では、光学異性体も存在しないという最もシンプルな構造の化合物です。このような何の変哲もないありふれた物質が神経伝達物質として機能するとは、研究者も含めて多くの人々にとって意外なことだったと思います。グリシンは必須アミノ酸ではなく、図150-1のようにセリンから合成されますが、この経路は双方向性でセリンについての教科書の記述でも、セリンは必須アミノ酸ではなくグリシンから合成されると書いてあります。結局どちらも必須アミノ酸のようなものでしょう。グリシンはさまざまなタンパク質の構成要素ですが、特にコラーゲンには大量に含まれています。

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図150-1 グリシンの分子構造と生合成

グリシンがGABAと同じく抑制性の神経伝達物質であることは、ワーマン、アプリソンらによって1967年に報告されました(3-5、図150-2)。アプリソンの肖像写真は古めかしいものしか見つからず、ワーマンの写真に至っては残念ながらみつかりませんでしたので、かわりに著書の写真を示しておきます。ワーマン(ウィアマンと発音するのかもしれません)はこの研究を行った後、イスラエルのヘブライ大学などで研究を続けましたが政治にも関心があり、「Notes from a sealed room, An Israel view of the Gulf War」という湾岸戦争についての考察を本にして出版しています。また退職後は現代版養生訓のような 「Living with an Aging Brain: A self-help guide for your senior years」という本も出版しています(6、7)。

アプリソンもユダヤ系ですが、彼は米国でずっと仕事をした研究者です。自伝を出版しているので(8)、それをたどると彼の父親はオーストリアからの移民で故国では優秀な大工だったのですが、欧州での反ユダヤを嫌って米国に移住したら、そこでも1920年代に猖獗した反ユダヤ主義によって仕事を失い、雑貨屋で生計を立てて子供を育てたそうです。現在の米国をみている私たちからすると理解できないことなので、米国の反ユダヤ主義とは何だろうと思って少し調べてみると、ひとつはロシア革命がトロツキーらのユダヤ人による陰謀であるとの流言や、米国内での労働争議が主にユダヤ人によって主導されていたことに対する反発などがあったようです。

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図150-2 アプリソンとワーマン

アプリソンはウィスコンシン大学で修士号を取得しましたが、彼が興味を持った生物物理学のドクターコースはなかったので、仕方なく印刷物関連の研究所で新聞のカラー化などについての研究を行っていました。しかしウィスコンシン大学からヒストラジオグラフィー(生体組織を感光剤に埋めて、外部からX線を照射することによって組織の成分を分析する)の装置を作る手伝いをしてくれと要請されて転職し、彼の生化学者としてのキャリアがはじまりました。結局彼はなぜか植物の窒素固定の研究を行なうことになり、ウィスコンシン大学ではじめての生化学分野での博士号を1952年に取得しました。

ところが博士号取得後、本来植物生化学者になるはずだった彼がヒムウィッチ博士から誘われたのは精神病の研究をしないかという仕事で、全く畑違いのそのポジションを受けたことがその後の成功の端緒となりました。人生のターニングポイントはどこにあるかわかりません。その後ワーマンという良き共同研究者を得て、前記のようなグリシンが抑制性神経伝達物質であるという驚くべき結果にたどりつきました(8)。受容体もGABAのところですでに登場したハインリッヒ・ベッツによって精製され(9、10)、現在ではこの事実を疑う人はいません。

まずグリシンの情報を受け取る受容体ですが、その実体はGABA受容体とよく似ていることがわかっています。すなわち図150-3に示したように、Cysループ受容体ファミリーの4回膜貫通型タンパク質が5分子集合して中央をイオンが通過する塩素イオンチャネルを形成し、グリシンが結合するとチャネルが解放されて過分極がおこるという仕組みです(11)。図ではα2β3の構成がしめしてありますが、α5などの場合もあります。またαには1~4の異なる分子種があることがしられていますが、それは次のセクションで扱います。

GABAの場合、受容体に結合して機能を阻害する化学物質としてベンゾジアゼピンが有名ですが、グリシン受容体の場合ストリキニーネが結合してアンタゴニストとして作用します。ストリキニーネはマラリアの特効薬であるキニーネとは何の構造関連性もない別化合物であり、マチンという植物の種にある強い毒薬です(横溝正史の作品「八つ墓村」では即効性の毒薬として使われています)。

以前はGABAは大脳を含む広い範囲での中枢神経系で作用し、グリシンはおもに脊髄や延髄で作用すると考えられていましたが、現在ではグリシン作動性シナプスは 1)脳幹や脊髄において呼吸や歩行などリズムを持つ運動の制御や、驚愕反射の抑制に関与する 2)大脳新皮質、扁桃体、海馬、網膜など様々な中枢神経領域にグリシン 受容体が存在し神経回路の興奮性を調節している 3)、大脳側坐核のグリシン受容体がアルコールやニコチンへの依存性形成に関与する など中枢神経系でも重要な役割を果たすことが示唆されています(12)。

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図150-3 グリシン受容体の構造

最近ではクライオ電子顕微鏡の技術を用いて超低温で資料を観察する方法が発達し、グリシン受容体の立体構造が高い解像度で報告されています(13、図150-4)。グリシンの結合位置などもX線結晶構造解析法などにより解析が進められています(14)。

図150-4をみると、細胞外の部分が巨大で頭でっかちな受容体の構造にみえます。もちろんイオンチャネル型の受容体なので、細胞内に複雑な構造が存在する必要はありません。Cysループ受容体ファミリーは一般にそのような傾向にありますが、グリシン受容体の場合、ニコチン性アセチルコリン受容体(15)よりもさらにアンバランスに見えます。グリシンというありふれたリガンドを特異的に結合させるには、それなりの複雑な仕掛けが必要だったのでしょうか。

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図150-4 グリシン受容体の分子モデル

他の神経伝達物質と同じく、グリシンにもトランスポーターが存在し、シナプス前細胞にグリシンを集積したり、シナプス間隙にあるグリシンを回収したりする仕事を行っています。GlyT1は主にシナプス近傍のグリア細胞に発現し、神経伝達終了後の余剰グリシンの回収にあたり、GlyT2はシナプス前細胞でグリシンの集積を行っています(16、17、図150-5)。図150-5は参照文献16の図を改変して表示しました。

グリシントランスポーターはGABAトランスポーターと同じく、Na+/Clー依存性トランスポーターファミリーに所属し、C末・N末ともに細胞内にある12回膜貫通型のタンパク質です。(16)。

GlyT2によって細胞に取り込んだり細胞内で生合成したりしたグリシンを神経伝達物質として使う際には、それをシナプス小胞にとりこまなければいけませんが、この仕事はGABAの小胞トランスポーターが兼業でやってくれることがわかっています(18)。ですからもとは vesicular gaba transporter (GAT)と呼ばれていたものが、vesicular inhibitory amino acid transporter(VIAAT)と改名されました。

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図150-5 グリシントランスポーターとVIAAT

参照

1)ウィキペディア:NMDA型グルタミン酸受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/NMDA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

2)脳科学辞典:グリシン受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%B3%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

3)Graham LT Jr, Shank RP, Werman R, Aprison MH. Distribution of some synaptic transmitter suspects in cat spinal cord: Glutamic acid, aspartic acid, gamma-aminobutyric acid, glycine, and glutamine. J Neurochem, vol.24: pp.467-472.(1967)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/6022905

4)Aprison MH, Werman R. A combined neurochemical and neurophysiological approach to the identification of CNS transmitters. In Ehrenpreis S, Solnitzky OC, eds. Neuroscience research. New York: Academic Press, vol.2: pp.143-174. (1968)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/4152429

5)Aprison MH. The discovery of the neurotransmitter role of glycine. In Ottersen OP, Storm Mathisen J, eds. Glycine neurotransmission. Chichester, UK: Wiley, Chapter 1: pp.1-23.(1990)

6)Robert Werman, Notes from a Sealed Room: An Israeli View of the Gulf War.,
Southern Illinois Univ Press (1993)
https://www.amazon.co.jp/Notes-Sealed-Room-Israeli-View/dp/080931830X/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&keywords=robert+werman&qid=1561257416&s=english-books&sr=1-1

7)Robert Werman, Living with an Aging Brain: A self-help guide for your senior years., Freund Publishing House Ltd., Tel Aviv (2003)
https://books.google.co.jp/books?id=wsu3hQ_meTQC&pg=PR9&lpg=PR9&dq=robert+werman&source=bl&ots=bY8YN0lILc&sig=ACfU3U2AS5_DabYtchdllYmPTRwJo75Gvw&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwjOqvPzyf7iAhWSHqYKHW38Cy04ChDoATAHegQICRAB#v=onepage&q=robert%20werman&f=false

8)L.R.Squire ed., The History of Neuroscience in Autobiography. vol.3, Morris H. Aprison pp.2-37, Academic Press (2001)
file:///C:/Users/User/Desktop/グリシン/c1.pdf

9)Grenningloh G, Gundelfinger ED, Schmitt B,Betz H, Darlison MG, Barnard EA, Schonfield PR, Seeburg PH., Glycine vs GABA receptors. Nature vol.330: pp.25-26.(1987)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2823147

10)続・生物学茶話148: GABA その2 GABAA受容体
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/06/post-f96187.html

11)Silke Haverkamp, Glycine Receptor Diversity in the Mammalian Retina by Silke Haverkamp., Web vision, The Organization of the Retina and Visual System.
https://webvision.med.utah.edu/book/part-iv-neurotransmitters-in-the-retina-2/glycine-receptor-diversity-in-the-mammalian-retina/

12)荻野一豊 グリシン作動性シナプスを増強するシグナル経路の同定 上原記念生命科学財団研究報告集, 32 (2018)
file:///C:/Users/User/Desktop/グリシン/ogino%20121_report.pdf

13)Du J, Lu W, Wu S, Cheng Y, Gouaux E., Glycine receptor mechanism elucidated by electron cryo-microscopy.Nature., vol.526(7572): pp.224-229. doi: 10.1038/nature14853.(2015)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26344198

14)Mieke Nys et al., Allosteric binding site in a Cys-loop receptor ligand-binding domain unveiled in the crystal structure of ELIC in complex with chlorpromazine., PNAS October 25, vol.113 (43) E6696-E6703; (2016)
https://www.pnas.org/content/113/43/E6696

15)宮澤淳夫・藤吉好則、ニコチン性アセチルコリン受容体の構造と機能、蛋白質 核酸 酵素 vol.49 no.1, pp.1-10 (2004)

16)Robert J. Harvey et al., A critical role for glycine transporters in hyperexcitability disorders., Front. Mol. Neurosci., 28 March (2008)
https://doi.org/10.3389/neuro.02.001.2008

17)茂里康、島本啓子,抑制性神経伝達物質トランスポーターの薬理学、日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)vol.127,pp.279~287(2006)
file:///C:/Users/User/Desktop/グリシン/抑制性神経伝達物質トランスポーターの薬理学.pdf

18)続・生物学茶話149: GABA その3 GABAB受容体
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/07/post-8e7747.html

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2021年7月 7日 (水)

続・生物学茶話149: GABA その3 GABAB受容体

GABAの受容体には塩素イオンチャネルのGABA受容体以外に、GPCRであるGABA受容体が存在します。バウリーらは1980年に、GABAのアンタゴニストである bicuculline が無効で、GABAのアゴニストではない baclofen がアゴニストとして作用する新規のGABA受容体が存在することを示し、旧来の受容体をGABA、新規受容体をGABAと命名しました(1、2、図149-1)。また彼らによって遺伝子構造も解明されました(3)。

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図149-1 GABA受容体の発見

カウプマンやベトラーらの研究によると、GABA受容体は通常の7回膜貫通型GPCRではなく、ふたつのGPCRが結合し共同して作用するめずらしいタイプの(当時としては新規の)受容体であることが明らかになりました(4、図149-2)。図149-2は脳科学辞典から拝借しました(5)。現在ではこのタイプの受容体がいくつかみつかっていて、クラスCのGPCRとしてまとめられています。このなかにはGABAと同じようにヘテロダイマーを形成する味覚受容体(T1R、T2R)や、ホモダイマーを形成するグルタミン酸受容体などが含まれています。クラスCのGPCRは、いまのところ最も構造解析が遅れている受容体グループと言えます。

図149-2に示すように、GABA受容体はR1(B1)とR2(B2)という細胞膜内で隣接する分子が、細胞内の両者の長いC末領域で複雑に絡まり合っていて、あたかも1分子のように動作します。R1はGABAの受容体として、R2はGタンパク質の結合因子としての役割を分担しています。すなわちR2はR1がGABAと結合したことを検知して、Gタンパク質をリリースするという段取りになります。ただし両者C末の細胞質内にあるからまりあった部分には、さまざまな転写因子や細胞骨格関連因子などが結合する部位があり、この受容体の多彩な役割を示唆しています。またR1の細胞外部位には「すしドメイン」と名付けられた部位があり、ここでは細胞外マトリクスの構成因子であるフィブリン2と結合することが知られています(6)。

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図149-2 GABA受容体の構造

R2に結合しているGαタンパク質は i 型で、GABAのシグナルによって遊離し、アデニル酸シクラーゼを阻害してcAMP合成を妨げる働きがあります。これによってタンパク質のリン酸化が低下します。また同じく遊離したGβγタンパク質によって、カリウムチャネルが開き、カルシウムチャネルが閉じられます。K+は細胞内濃度が高いので細胞外に流出し、過分極の方向、すなわち脱分極を防ぐ方向にコントロールされます。またカルシウムの流入が妨げられるのも同じ効果があります(6、7、図149-3)。

GABA受容体はイオンチャネルなので、GABAシグナルに対する即時(ミリ秒単位)の反応を受け持ち、GABA受容体は遅い反応(数百ミリ秒単位)または継続的な反応を受け持つと思われます(6、7)。

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図149-3 GABAB受容体の機能

最近の研究によると、哺乳類と同様なヘテロダイマー仕様のGABA受容体はショウジョウバエにも存在し、特にR1とR2が結合しているC末のコイルドコイルドメインの構造はよく保存されているそうです(8)。ヒトでもそうですがショウジョウバエのGABAシグナルは睡眠や概日リズムにも関与するようです(8-10)。またこのようにGABA受容体が、前口動物と後口動物で同じような特異仕様になっているということは、それらのグループが分岐する以前の生物がこのような受容体を持っていたことを示唆します。

さらにGABA受容体分子のルーツをたどっていくと、驚くべきことに細菌の細胞膜形成に重要な役割を果たしているペニシリン結合タンパク質までたどりつくことがわかりました(11)。もちろんこの場合ヘテロダイマーは形成していません。他のクラスC-GPCRとの関係もチュェンらが示してくれていたので(11)、図149-4に改変して示しました。これまでにもいろいろな神経伝達因子受容体についてみてきましたが、この場合も真核生物が出現する前後にこの分子がGPCRと一体化して情報伝達関連因子の受容体として進化し、さらに神経伝達因子受容体として流用されて、それが今日まで引き継がれていると思われます。

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図149-4 ClassC GPCRの分子進化系統樹

さて再掲となりますが図149-5をみますと、GABAによる情報伝達に関しては、まだいくつかの重要な因子があることがわかります。まず⚪で示されているGABAトランスポーター(GAT)です。これにはいくつかのタイプがあり、シナプス前細胞にはGAT1型、シナプス周辺アストログリア細胞にはGAT3型、脳以外の臓器の細胞にはGAT2型が概ね局在しています。

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図149-5 シナプス周辺のGABAの動向

GATは膜12回貫通型の細胞膜に埋め込まれたタンパク質で、C末・N末共に細胞内に露出します(図149-6)。GATがGABAを細胞内に取り込む際にGABA1分子につきナトリウムイオン2個と塩素イオン1個が移動しますが(12、図149-6)、ATPは使用しません。といってもナトリウムを取り込むと、ATPを使って排出することになるので、間接的にはATPのエネルギーを利用していることになります。

GABAが通過する部分はシーソーのような構造になっており、図149-6のように立体構造を変えることによってGABAを移動させます(12)。GABAを放出後、シナプス間隙の不要なGABA濃度が高まると、シナプス前細胞のGAT1がGABAをすみやかに回収します。アストログリア細胞のGAT3もGABAの回収に使われるようです。この両者によって約75%のGABAを回収できるとされています(12)。

アストログリア細胞(図149-5)が回収したGABAはグルタミン酸からグルタミンに変換され、トランスポーターを通してシナプス前細胞に受け渡されて再利用されます。シナプス前細胞は自ら回収したGABAと、アストログリア細胞から受け取ったグルタミンから合成したGABAを使用することができます。GABAが長時間シナプス間隙に残留するとまずい場合が多いので、このような回収システムがすみやかに稼働すると思われます。

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図149-6 GABAトランスポーター(GAT)の作用機構

図149-5にもうひとつの役者VGATが⚫で記されています。VGATとは小胞GABAトランスポーター(vesicular gaba transporter) の略称で、GATとは全く異なるトランスポーターです。VGATはアミノ酸配列から9回膜貫通型のトランスポーターと考えられていて、細胞質のGABAとグリシンをシナプス小胞内に取り込むことができます(13)。小胞内にため込まれた神経伝達物質は、必要時にエキソサイトーシスによってシナプス間隙に排出されます(14)。

参照

1)N. G. Bowery, D. R. Hill, A. L. Hudson, A. Doble, D. N. Middlemiss, J. Shaw & M. Turnbull, (-)Baclofen decreases neurotransmitter release in the mammalian CNS by an action at a novel GABA receptor., Nature vol.283, pp. 92-94 (1980)
https://www.nature.com/articles/283092a0

2)Bowery NG, GABAB receptor pharmacology. Annual Review ofPharmacology and Toxicology vol.33: pp.109-147 (1993)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8388192/

3)Bowery, N.G. and Brown, D.A., The cloning of GABA(B) receptors. Nature vol.386, pp.223-224. (1997)
https://www.nature.com/articles/386223a0.

4)K Kaupmann 1 , K Huggel, J Heid, P J Flor, S Bischoff, S J Mickel, G McMaster, C Angst, H Bittiger, W Froestl, B Bettler, Expression cloning of GABA(B) receptors uncovers similarity to metabotropic glutamate receptors., Nature vol.386, pp.239-246. (1997) doi: 10.1038/386239a0.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9069281/

5)脳科学辞典 GABA受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/GABA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

6)Miho Terunuma、Diversity of structure and function of GABAB receptors: a complexity of GABAB-mediated signaling., Proc. Jpn. Acad., Ser. B 94 pp.390-411 (2018) doi: 10.2183/pjab.94.026
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30541966/

7)Bernhard Bettler, Klemens Kaupmann, Johannes Mosbacher, and Martin Gassmann, Molecular Structure and Physiological Functions of GABAB Receptors., Physiol. Rev., vol.84: pp.835–867, (2004)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15269338/

8)Shenglan Zhang et al., Structural basis for distinct quality control mechanisms of
GABAB receptor during evolution., The FASEB Journal. Vol.34, Issue 12., pp.16348-16363 (2020)
https://doi.org/10.1096/fj.202001355RR
https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1096/fj.202001355RR

9)名古屋大学・北海道大学プレスリリース 脳内の概日時計における抑制性神経の機能を発見!
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Com_Bio_20190621.pdf

10)https://www.taisho-direct.jp/simages/ad/hm/SS_t_b.html?utm_source=google-02&utm_medium=1001&utm_content=SS-basic&utm_campaign=ss&gclid=EAIaIQobChMI86H5nK7L8QIVA9GWCh0nYwAgEAMYASAAEgK8ZvD_BwE

11)Lei Chun, Wen-hua Zhang, Jian-feng Liu, Structure and ligand recognition of class C GPCRs., Acta Pharmacologica Sinica (2012) 33: 312–323 doi: 10.1038/aps.2011.186
https://www.nature.com/articles/aps2011186

12)Sadia Zafar and Ishrat Jabeen, Structure, Function, and Modulation of γ-Aminobutyric Acid Transporter 1 (GAT1) in Neurological Disorders: A Pharmacoinformatic Prospective. Front Chem. vol.6: article 397. pp.1-19 (2018)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6141625/

13)脳科学辞典 小胞GABAトランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9EGABA%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

14)脳科学辞典 シナプス小胞
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9%E5%B0%8F%E8%83%9E

 

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