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2017年8月14日 (月)

やぶにらみ生物論83: 制限酵素

細菌にとって最大の天敵はバクテリオファージ(ウィルス)です。この寄生体はホスト細菌の細胞壁にとりついて、注射器のようなツールでDNAを注入し、細菌のDNAにまぎれこませたり、あるいは直ちに細菌の中にある栄養物質を使って増殖し、殻もつくってホストを殺して外に出たりするわけです。

ベルタ-ニとワイグルはこの現象を研究しているうちに不思議な現象を発見しました(1)。それは、ある系統の大腸菌で生育させたファージを別系統の大腸菌に感染させると、そこで生育したファージは感染能を失っている場合があるということです(図1、赤で示した!は感染能の喪失を示します)。すなわち大腸菌はP2やλファージの感染性を制御する能力を持っているということを意味します。彼らはこの現象が遺伝子の突然変異によるものではないことを示しましたが、そのメカニズムは解明できませんでした。他にもこの現象に気がついていた研究者もいましたが、誰もメカニズムを解明できませんでした(2)。

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アルバー(図2)はジュネーヴ大学を卒業して、電子顕微鏡のオペレーターの仕事をしていましたが、そこからファージの研究に転身して、λファージを大腸菌に感染させる仕事をしていました。そしてλファージが大腸菌の中で、うまく増殖してくれないことに関心を持って研究を進めるうちに、λファージDNAを放射性のP(32P)でラベルして感染させると、大腸菌のなかでDNAが分解され、32Pは可溶性分画に出てくることがわかりました(3)。まさしく大腸菌の免疫機構が発動して、ファージを分解していたのです。

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1960年代には、この免疫機構にS-アデノシルメチオニンが必要なことや、DNAのメチル化がかかわっていることがわかってきました。すなわち修飾がないとファージと同様に分解酵素でアタックされるはずの大腸菌DNAの切断部位が、メチル化されることによって切断を免れることが判明しました(4)。

ファージのDNAを分解する酵素を制限酵素 (ファージの増殖を制限するという意味 英語では restriction endonuclease) といい、DNAを保護するDNAメチラーゼとあわせて制限修飾系(R-Mシステム)ともいいます。

制限酵素を大腸菌から最初に精製したのはメセルソンとユアンでした(5)。この酵素はその後 I 型制限酵素と呼ばれ、DNA鎖上の特異的な塩基配列を認識しますが、DNAを切断する部位は認識部位から400~7000塩基(bp)も離れたところにあるので、遺伝子工学の研究者からは「使えない」酵素として忘れ去られました。大腸菌にしてみれば、自分のゲノムは切断されず、進入してきたファージDNAを切断してくれるわけですから、I 型でも十分用は足りているわけです。

I 型制限酵素はDNAを切断するRサブユニット2個、DNAをメチル化するMサブユニット2個、DNAの塩基配列を認識するSサブユニット1個の計5つのサブユニットからなり、同じ塩基配列を認識しても、ホストのDNAはメチル化し、ファージのDNAは切断するという複数の役割をひとつの分子が行なうことができます(6、図3)。Sサブユニットもふたつのドメインが逆向きに重なったような構造で、2本の αヘリックスからなるバーの両端に塩基配列認識部位があるので、離れた2ヶ所で塩基配列を認識します。I 型制限酵素は認識した塩基配列から離れた位置でDNAを切断する点、そしてメチラーゼ活性を持っているという点で遺伝子工学のツールとしては基本的に不適切でした。

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ハミルトン・スミス(図2)は大学では数学を専攻していました。その後カリフォルニア大学、ジョンズ・ホプキンス大学と渡り歩いて医師になりました(7、8)。ところが彼はアルバーが制限酵素を発見したことに興味を持ち、ちょうど自分の研究室を持てることになったので、せっかく資格を得た医師の仕事を棄てて研究者になりました。アルバーが使った大腸菌とは異なるインフルエンザ菌(昔この菌がインフルエンザの病原体と考えられていた時期があり、その名残で名前が残っている)の制限酵素を調べてみました(8)。

実験材料だけ換えて追試するというのはバカにされがちですが、これも必要な研究ですし、ときには思いがけない重要な発見もあるのです。まさにハミルトン・スミスは彼の最初の学生だったケント・ウィルコックスと共に驚きの実験結果を得ました。

インフルエンザ菌の制限酵素はなんと認識した塩基配列を、その位置で切断したのです(9、図4)。この酵素は現在Hinc II(またはHind II) とよばれています。図4にみられるように Hinc II は1種類の塩基配列だけ認識するわけではなく、若干の幅があって、4種類の塩基配列を認識し、その中央でDNAを切断します。

II 型制限酵素は、I 型のようにATPやS-アデノシルメチオニンを必要とせず、マグネシウムイオンのみを要求する酵素反応を行います。またほとんどはDNAメチラーゼの活性をもっておらず、制限修飾系は別の分子であるDNAメチラーゼと協力して成立します。

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ハミルトン・スミスの研究結果は燎原の火のように広がり、われもわれもと新しい制限酵素の発見競争がはじまりました。そのなかのひとりがダニエル・ネイサンズ(図2)でした。

彼はSV40というヒトやサルに感染するウィルスを研究していましたが、このウィルスのDNAをハミルトン・スミスの酵素で処理すると最大11個の断片に切断することができました(10)。これはDNAの塩基配列の研究に非常に有用であり、かつ塩基配列レベルでの遺伝子地図の作成が可能であることを示唆しました(図5)。

例えば図5で、あるDNAを制限酵素赤で切断して3つの断片A,B,Cが得られたとします。それだけでは各断片の塩基配列を解析してもABCの順番はわかりません。

しかし同じDNAを制限酵素青で切断して4つの断片が得られ、そのうちひとつの断片の左側(2’)が断片Aの右側(2)と一致し、右側(3’)が断片Bの左側(3)と一致すれば、断片Aは断片Bの左隣であることがわかります。同様に断片B、Cについても調べれば、BがCの左隣であることがわかり、制限酵素赤で切断した結果の3断片はABCの順に並んでいることがわかります。

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アルバー、スミス、ネイサンズの3人(図2)は1978年にノーベル生理学医学賞を受賞しました(11)。その受賞理由は「for the discovery of restriction enzymes and their application to problems of molecular genetics」となっています。生理学医学賞で application to という言葉が使われたのははじめてです。すなわち生理学医学の領域においてもサイエンスのみならず、テクノロジーの分野における貢献もノーベル賞の対象になるということを、彼らは示しました。

さて、次々とみつかった II 型制限酵素を統一的に命名し整理することが必要になりました。スミスとネイサンズは1978年に命名法の基準を提案しましたが(12)、現在でもほぼ彼らの考え方に沿った形で命名が行われています。

1.当該制限酵素を産生する生物の属名の先頭の1文字、種名の先頭の2文字を記す。例えば大腸菌なら学名は Escherichia Coli ですから Eco、インフルエンザ菌なら Haemophilus influenzae ですから Hin となります。

2.制限酵素の由来がその生物のゲノムではなく、潜在ウィルスやプラスミドに由来する場合はそれらの頭文字(大文字)を記す。例えば EcoR。

3.生物の株によって産生する酵素が異なる場合、株名を記す。例えばHaemophilus influenzae のd 株(小文字)なら Hind となる。

4.同じ株が複数の制限酵素を産生する場合は、それぞれローマ数字をつける。例えばHaemophilus influenzae のd 株は3種の制限酵素を産生するので、それぞれ Hind I, Hind II, Hind III となります。

制限酵素によるDNA切断の様式を大きく分類すると、図6のような3種類になります。平滑末端を作るタイプの制限酵素は、リボンをハサミで切断するように、突出部位の無い平滑な末端(blunt end)をつくります。

5’ が突出するタイプの末端をつくる酵素は、DNAの両鎖ともに5’ が突出した末端が形成されます。Hind III の場合TCGAとAGCTという相補的な末端ができるので、これらは再びくっつき易いという特徴をもっています(cohesive end)。また3’-OH があって鋳型もあるわけですから、DNAポリメラーゼのよい標的になります。3’ が突出するタイプの末端を作る酵素は5’突出型と同様な特徴がありますが、DNAポリメラーゼの標的にはなりません。

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現在4000種類の制限酵素がみつかっており、そのうち600種類は市販されているそうです(13)。

ところで図6の塩基配列をみればわかりますが、制限酵素が認識する部位は塩基配列が回文構造になっています。回文とはアニマルマニアのように前から読んでも後ろから読んでも同じ文のことですが、たとえばHind IIIが認識する配列は、AAGCTTであり、これ自体は回文ではありませんが、対面するDNAの塩基配列はTTCGAAであり、180度回転対称となっているので、この意味で回文構造と称しているわけです。

どうしてこのような構造になったのかの説明ですが、図7に示したように、回文配列はDNAの裏から酵素がアプローチしても塩基配列を認識できることから、2倍の効率のためという説がありますが、どうでしょう? 2倍の効率というのはちょっと低すぎると思います。実際には回文配列の部分が特異な構造なので、熱力学的に切断に要する化学エネルギーが少なくて済むからという可能性もあると思います。またII型制限酵素はホモダイマーあるいはテトラマーであり、同時にDNAの表裏を認識していると思われ、このような認識様式を利用して切断するというやり方が進化の初期に定まったというのがひとつの理由なのかもしれません(14)。

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II 型制限酵素を使うと、自在にDNAを切断して再連結することができるので、例えば図8のように別種のDNA(AとB)をそれぞれHind III で処理し混合すると、それぞれAGCT、TCGAという相補的な突出部位を持っているので、再連結させることができます(アニーリング)。そしてDNAリガーゼで3’OHと5’Pを接続すると、AとBを連結したハイブリッドDNAができあがります(15)。

これはAという菌とBという別種の菌を融合した新種の菌ができる可能性を示唆しており、まさしく科学が神の領域にまで進出したということで騒ぎになりました。しかし誰も科学技術の進歩は止められず、20世紀末にDNAの加工に関連したテクノロジーは大発展をとげることになります。

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細菌は I、II 型とは異なるタイプの制限酵素ももっていて、むしろ III 型はより一般的なのかもしれません。III 型制限酵素はエンドヌクレアーゼのサブユニット2+DNAメチラーゼのサブユニット2で構成されていて、I型のように塩基配列認識のためのサブユニットがないので、それぞれの酵素活性をもつサブユニットが認識していると思われます(16)。

例えばサルモネラ菌の StyL TI は5’-CAGAG-3’ という塩基配列を認識します。III 型はこの認識部位でDNAを切断するのではなく、25-27bp下流(3’側)で切断します。DNA切断にはマグネシウムイオンとATP、メチル化にはマグネシウムイオンとS-アデノシルメチオニンが必要です。細菌とファージの戦いは熾烈で永遠です。このほかにも IV型、V型などの制限酵素がみつかっているようです(17)。


参照

1)G. Bertani and J. J. Weigle., HOST CONTROLLED VARIATION IN BACTERIAL VIRUSES, J Bacteriol., vol. 65(2), pp.113-121. (1953)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC169650/

2)Luria SE. Host-induced modifications of viruses, Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol., vol.18, pp.237-244 (1953)

3)Daisy Dussoix,Werner Arber., Host specificity of DNA produced by Escherichia coli: II. Control over acceptance of DNA from infecting phage λ., Journal of Molecular Biology, Vol.5, Issue 1, pp.37-49 (1962)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S002228366280059X?via%3Dihub

4)Werner Arber and Stuart Linn., DNA modification and restriction.,  Annual Review of Biochemistry., Vol.38, pp.467-500 (1969)

5)Matthew Meselson and Robert Yuan., DNA restriction enzyme from E.Coli., Nature 217, 1110-1114 (1968). doi:10.1038/2171110a0
https://www.nature.com/scitable/content/DNA-Restriction-Enzyme-from-E-coli-12388

6)Wil A. M. Loenen, David T. F. Dryden, Elisabeth A. Raleigh and Geoffrey G. Wilson., SURVEY AND SUMMARY  Type I restriction enzymes and their relatives.,  Nucleic Acids Research, Vol. 42, No. 1, pp. 20-44 (2014)
doi:10.1093/nar/gkt847

7)https://en.wikipedia.org/wiki/Hamilton_O._Smith

8)Jane Gitschier, A Half-Century of Inspiration: An Interview with Hamilton Smith. PLoS Genetics vol. 8, pp. 1-5 (2012)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3257296/pdf/pgen.1002466.pdf

9)Hamilton O. Smith and Kent W. Welcox., A Restriction enzyme from Hemophilus influenzae: I. Purification and general properties., Journal of Molecular Biology
Vol. 51, Issue 2,  pp. 379-391 (1970)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/002228367090149X?via%3Dihub

10)The Daniel Nathans Papers.  Restriction Enzymes and the "New Genetics," 1970-1980. US National Library of Medicine., NIH
https://profiles.nlm.nih.gov/ps/retrieve/Narrative/PD/p-nid/325

11)The Nobel Prize in Physiology or Medicine 1978
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1978/

12)Smith HO, Nathans D., A suggested nomenclature for bacterial host modification and restriction systems and their enzymes., J Mol Biol.. vol. 81(3), pp. 419-23. (1973)

13)https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/cloning/cloning-learning-center/invitrogen-school-of-molecular-biology/molecular-cloning/restriction-enzymes/restriction-enzyme-basics.html

14)Pingoud A, Fuxreiter M, Pingoud V, Wende W., Type II restriction endonucleases: structure and mechanism., Cell Mol Life Sci., vol. 62(6), pp. 685-707. (2005)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15770420

15)R.W.オールド、S.B.プリムローズ 「遺伝子操作の原理」 第5版 関口睦夫監訳 培風館 (2000)

16)Desirazu N. Rao, David T. F. Dryden and Shivakumara Bheemanaik., SURVEY AND SUMMARY Type III restriction-modification enzymes: a historical perspective., Nucleic Acids Research, Vol. 42, No. 1 pp. 45–55 (2014)  doi:10.1093/nar/gkt616

17)https://en.wikipedia.org/wiki/Restriction_enzyme

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2017年8月 5日 (土)

やぶにらみ生物論82: 染色体3

減数分裂がおこるときには、体細胞分裂ではおこらない不思議な染色体の行動が観察されます。それは相同染色体を探してペアを形成することです。それぞれの染色体は2nですから、このペアは4nの遺伝情報を持っていることになります(図1)。このペアリングのことを日本語では相同染色体対合、英語では homologous chromosome pairing といいます。

この後2回の細胞分裂が起こって、4個の細胞(遺伝情報はそれぞれn)が生まれ、精子あるいは卵子となります。図1はこの1回目の細胞分裂と、通常の体細胞分裂を比較して示したものです。減数分裂の最初のステップで、染色体はどうやって相同染色体を探してペアリング(対合)するのでしょうか? 私はこの現象に関連する研究はやったことがありませんが、このことは学生時代からとても不思議で、いつも頭の片隅にひっかかっていました。

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ペアリングがおこると染色分体同士がキアズマを形成して一部の遺伝情報を交換し、いわゆる染色体の組み換えを行うことが容易になるという利点があります(1、図2)。ただこのためだけにペアリングが行われるのかどうかはわかりません。その後の減数分裂の進行に必要なのかもしれません。

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減数分裂時の相同染色体ペアリングは、マウス・ショウジョウバエ・酵母・シロイヌナズナ・小麦・コメ・たまねぎなどさまざまな生物で確認されています(3)。不可解なのは、相同染色体のペアリングの前に非特異的な染色体のペアリングがみられることです。Obeso らはこれをペアリングと呼ぶのはおかしいということで、カップリングと呼んでいます(3)。カップリングの意味は全くわかっていません。

Obeso らはカップリングからペアリングへの切り替えは、セントロメア近辺でおこるプログラムされたDNA損傷修復が引き金となっておこると述べています(3)。このことはカップルとなっている染色体を切り離すと言う意味があるかもしれません。しかしペアリングそのもののプロセスや染色体ペアの安定化はDNA損傷修復とは関係がないというのがコンセンサスになっています(4-5)。

現在問題となっているのは、ペアリングがセントロメア主導なのか、短腕・長腕での相互作用が機能しているのかという非常にプリミティヴなことで、まだまだ解決にはほど遠い感じがします。ただZip1というタンパク質が関係していると言うことは昔から言われています(6、7)。Zip1を欠く突然変異体では、ペアリングは成功しません(8、9)。Obeso らのモデルを図3に示しますが、これが正しいかどうかはわかりませんし、これはあくまでもペアリングした結果であって、どのような機構で染色体が正しいペアリングの相手をみつけたかはわかりません。

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染色体というセクションの中で、もうひとつ述べておかなければならないことがあります。細菌や古細菌のDNAは環状であるのに対して、真核生物のDNA(クロマチン)は線状です。おそらく古細菌の中に線状のDNAを持つグループがいて、そのなかから真核生物が生まれたのではないでしょうか。現在ではその真核生物のルーツとおぼしきグループは絶滅したために、古細菌と真核生物のつながりがたどれなくなったと思われます。

線状DNAのメリットあるいはアドバンテージが何であるかということはよくわかりません。ただ原核生物にも真核生物にも線状のプラスミドを持つ生物がいることが知られています(10)。おそらく最初に線状化したのはプラスミドで、そのメカニズムを利用して、本家のDNAを線状化することに成功したのでしょう。線状DNAは環状DNAと違って、積み木のパーツとして使うことができるというメリットがあるかもしれません。例えば(本家DNA)-(プラスミド)-(別個体のDNA)という風につなげば、2n分のDNAを1分子としてまとめることができます。

メリットはともかくとして、線状DNAには大きなデメリットがあります。それは複製したDNAが短くなってしまうからです。どうしてそんなバカなことになるのでしょうか? それはやはり生物が歴史の産物だからです。何億年もDNAはプライマーRNAの3’OHを起点として複製されてきたので(11)、図4のように複製された新DNAの端にあるRNAプライマー(赤の点線)を除去したときに、線状DNAだと5’Pが露出するDNA末端をどうしようもないのです。地球上のどんなDNAポリメラーゼも5’P側からDNA鎖を延長することはできません。もしこれが環状DNAならば、ぐるっと一周した反対側に3’OHがあるので、そこからDNAを伸ばして連結できるのですが、線状だと何もないのでプライマーRNAの分だけDNA鎖が短くなってしまいます。

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それともうひとつの問題は、DNAに端が存在するとそこから核酸分解酵素(エクソヌクレアーゼ)にDNAがかじられて、さらに鎖長が短くなってしまうおそれがあるということです。メッセンジャーRNAのように一時的にしか存在しない核酸分子でも、端はキャップとポリAでブロックされています。

この問題に最初に言及したのはハーマン・マラー(12)でした。マラーはX線によって生物に突然変異が発生することを発見し、それによって1946年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。マラーはテロメアという言葉を発明し、染色体の逆位の研究などから染色体の末端が特別な構造になっていると予測しました。また動く遺伝子で後にノーベル賞を受賞したバーバラ・マクリントックも、染色体の端にはなんらかの先端キャップのような構造があることを指摘しました(13)。

しかしテロメアの構造と合成酵素が解明されたのは1970年代後半からで、エリザベス・ブラックバーン、キャロライン(キャロル)・グライダー、ジャック・ショスタクの3人が、この功績で2009年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。彼らは鋳型RNAをかかえこんでいる酵素テロメラーゼによって、その鋳型を使用して線状DNAの末端に特殊な繰り返し構造が作られることを解明しました(14、15、図5)。

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なおテロメアの塩基配列は生物によって異なっています(図6)。初期はテトラヒメナ(繊毛虫)を用いた研究が多かったので、図5ではTTGGGGという塩基配列が採用されています。かなり異なる塩基配列を用いている生物もいますが、ヒト・アカパンカビ(Neurospora crassa)・モジホコリ(Physarum polycephalum)・トリパノソーマで共通(TTAGGG)、昆虫(TTAGG)や植物の一部(TTTAGGG)とも1塩基違いというのは、強く保存された塩基配列と言えます。

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テロメア形成の方法は図5では簡単すぎるので、別に図7(ウィキペディアより、16)を示して説明します。

1.複製終了後のDNA末端は5’末端のプライマーRNAが分解されて、その後を埋められず片鎖が短い状態です。
2.DNA末端にはテロメアに特異的な塩基配列があり、テロメラーゼは保有するRNAの相補的配列を利用してテロメアの末端に結合します。
3.テロメラーゼはテロメアDNA末端の3’OHと、自分が保有する鋳型RNAを使って、RNA-directed DNA polymerase 活性でテロメアを延長することができます。
4.2と3を繰り返すことによって、どんどんテロメアを延長します。したがってテロメアの塩基配列は同じ塩基配列がリピートした構造になります。
5.2~4の反応とは別に、テロメラーゼが保有するRNAの3’OH末端から、ギャップを埋め戻す反応をDNAポリメラーゼ(これはテロメラーゼではなく、DNA-directed DNA polymerase) を用いて行うことができます。この場合テロメラーゼのRNAはプライマーとして用いられます。

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おそらく最初にDNA末端と結合したテロメラーゼはテロメアを自分保有の鋳型分延長すると、鋳型だけ残してDNAから離れるのではないでしょうか。このときに逆方向のDNA埋め戻しが行われ、鋳型RNAが分解されてから再びテロメラーゼが結合すると考えると説明しやすく感じます。

いずれにしても、このようにテロメラーゼがテロメアに結合することによって、テロメアの延長と短くなったDNAの修復が同時にできるので、これは素晴らしいメカニズムです。古細菌から真核生物に進化する過程で獲得された、このエンジニアが設計図を描いて制作したような巧妙な仕掛けに、私は茫然とするしかありません。

テロメアはテロメラーゼの活性が強いか弱いかなどの影響で、長い細胞と短い細胞があります。生物種によっても違います。一般的に通常の体細胞は培養していると、50~70回細胞分裂を繰り返すと、分裂を停止します。図8(ウィキペディアより)には分裂回数が省略して書いてありますが(実際には50~70回)、テロメラーゼの活性が無いか低くてテロメアが短くなってくると、安全装置のようなものが働いて細胞分裂が停止すると考えられています。一方生殖細胞・がん細胞などではテロメラーゼ活性が強く、細胞分裂を行ってもテロメアは短縮されにくいようです。

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明らかにテロメアは細胞の寿命に関係していますが、テロメアを延長さえすれば細胞寿命が長くなると考えるのは早計です。実験用のマウスはヒトの数倍の長いテロメアを持っている上に、体細胞にもテロメラーゼの発現があることが知られています。しかしマウスの体細胞を培養すると、ヒトより早く分裂を停止しますし、そのときのテロメアは長いままです。だいたいマウスの寿命はヒトより30倍も短いので、テロメアが長ければ長生きできるというわけではありません。しかしテロメラーゼを欠損するマウスを作成すると、寿命が短縮されるというのもまた事実です。そしてこのようなマウスでテロメアを復活させると、若返りが実現します(17)。

しかし生きるために必要な遺伝子の変異や欠損は寿命の短縮を招く可能性があるわけで、テロメラーゼの変異だけが寿命を短縮させるわけではありません。さらにテロメアの短縮以外にも老化の理由は存在するということで、それらを解明しない限り不老不死は実現できません。たとえばDNAの修復に欠陥があれば、老化は進むでしょう。

ただテロメラーゼを活性化すれば、肌の若返りくらいは可能かもしれません。ビル・アンドリュースなど大まじめに取り組んでいる人々もいます(18)。このクリームを塗ったら皮膚癌が増えたなんてことにならないよう祈りたいです。アマゾンで売っているかどうか調べたらありました。50gのビンが194400円です。

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参照

1)Bruce Alberts et al., Essential Cell Biology 4th edn., pp.645-657, Garland Science (2014)

2)染色体とその組み換え 遺伝子博物館
https://www.nig.ac.jp/museum/history/06_d.html

3)David Obeso, Roberto J Pezza, and Dean Dawson, Couples, Pairs, and Clusters: Mechanisms and Implications of Centromere Associations in Meiosis., Chromosoma., vol.123, pp.43-55. (2014) doi:10.1007/s00412-013-0439-4.

4)Clarke L, Carbon J. Genomic substitutions of centromeres in Saccharomyces cerevisiae. Nature, vol.305, pp.23-28.(1983)

5)Bisig C.G.et al., Synaptonemal complex components persist at centromeres and are required for homologous centromere pairing in mouse spermatocytes. PLoS genetics. Published: June 28, 2012
http://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1002701

6)Sym M, Roeder GS. Zip1-induced changes in synaptonemal complex structure and polycomplexassembly. J Cell Biol., vol.128, pp.455-466.(1995) PMID: 7860625

7)Xiangyu Chen et al., Phosphorylation of the Synaptonemal Complex Protein Zip1 Regulates the Crossover/Noncrossover Decision during Yeast Meiosis. PLoS Biol 13(12): e1002329. doi:10.1371/journal.pbio.1002329

8)Gladstone MN, Obeso D, Chuong H, Dawson DS. The synaptonemal complex protein Zip1 promotes bi-orientation of centromeres at meiosis I. PLoS genetics. 2009; 5:e1000771.

9)Newnham L, Jordan P, Rockmill B, Roeder GS, Hoffmann E. The synaptonemal complex protein Zip1, promotes the segregation of nonexchange chromosomes at meiosis I. Proc Natl Acad Sci USA., vol.107, pp.781-785. (2010)

10)郡家徳郎, 徳永正雄 酵母線状DNAプラスミドとキラーシステム ウイルスとの接点 化学と生物 vol. 41, pp. 832-841 (2003)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/41/12/41_12_832/_pdf

11)http://morph.way-nifty.com/grey/2016/11/post-7f79.html

12)Muller, H.J. The remaking of chromosomes. Collect. Net, vol. 13, pp. 181–195. (1938)

13)McClintock, B. The Association of Mutants with Homozygous Deficiencies in Zea Mays. Genetics, vol. 26, pp. 542–571. (1941)

14)http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2009/press.html or http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2009/bild_press_eng.pdf

15)中山潤一 解説 2009年ノーベル賞を読み解く 生理学医学賞 細胞のがん化・老化にかかわるテロメアとは? 
http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~jnakayam/_src/sc734/pubj12.pdf

16)https://en.wikipedia.org/wiki/Telomerase

17)Mariela Jaskelioff et al., Telomerase reactivation reverses tissue degeneration in aged telomerase deficient mice., Nature, vol. 469(7328): pp. 102–106 (2011)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3057569/
http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2011/20110725_02.html

18)http://テロメア.com/

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2017年7月28日 (金)

やぶにらみ生物論81: 染色体2

一般的に真核生物のDNAは核内においてタンパク質との複合体である「クロマチン(Chromatin)」の状態で存在します。その構成単位はヌクレオソーム(Nucleosome)と呼ばれ、4種類のヒストン(Histone)、すなわちヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4それぞれ2つずつのタンパク質分子から成る8量体のコア・ヒストンに、DNA が巻きついた構造を取ります。ヒストンH1はコア・ヒストンには含まれず、リンカー・ヒストンと呼ばれ、ヌクレオソーム内のDNAを安定化する役割があります。

細胞が分裂するM期においては、クロマチンは極端に凝縮した染色体という構造をとります(図1A)。このような状態では転写やDNA複製のための複合体はDNAにアクセスできないため、DNAの情報の読み取りという観点から言えば、染色体は極めて不活性な状態にあります。一方未分化な状態の細胞、たとえば卵割期の細胞や幹細胞などでは、様々なDNAの情報が読み取り可能で、ヌクレオソームとヌクレオソームの間に広い間隙が存在します(図1C)。

そして最も一般的な核の状態は、図1Bのように一部はヘテロクロマチンを形成して核膜の裏側に結合して不活性な状態にあり、一部は核内で流動的な状態で、図1Cと同様ヌクレオソーム間に広い間隙が存在するユークロマチンとなっている状況です。この状態では一部のクロマチンでのみ転写が可能になっています。分化というのは特定の遺伝子しか転写されないというのとほぼ同義なので、図1Bの状態は合理的です。分化した細胞は通常細胞分裂しないか、しても長い間隔をおいて分裂するという状態なので、DNAの複製についてはあまり考慮する必要はありません。どのようなメカニズムでヘテロクロマチンが核膜の内側に結合するかは現在活発に研究が行われています(1)。

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ヌクレオソームを構成する4種のヒストンは、そのポリペプチド鎖がC末からN末まできっちりヌクレオソーム内に収納されているわけではなく、一部は「しっぽ」のようにヌクレオソーム外にはみ出しています(図2)。ヌクレオソームはポリペプチド鎖が折りたたまれた上に、まわりにDNAが巻き付いているので、アミノ酸を修飾する酵素が非常にアクセスしにくい状態であるのに比べ、ヌクレオソーム外にはみ出している部分は修飾酵素が容易にアプローチできそうです。実際図2に示すような、様々な修飾が行われていることがわかっています。

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このヒストンの「しっぽ」がどのように修飾されるかによって、クロマチンの存在状態、DNA複製のタイミング、アクセスできる転写複合体などが選別されます。つまりDNAやクロマチンにアクセスしたいタンパク質群は、ヒストンの状況によって許可・却下が決まることから、そのヒストンの修飾状況を「ヒストンコード」と呼ぶことがあります(2)。提唱者の定義によると 「We propose that distinct histone modifications, on one or more tails, act sequentially or in combination to form a 'histone code' that is, read by other proteins to bring about distinct downstream events」 とのことです。

ではそれぞれの修飾について個別に見ていきましょう。まずメチル化ですが、メチル化されるアミノ酸残基はリジンとアルギニンで、それぞれ mono, di, tri と3種類の修飾が存在します(図3)。メチル基を供給するのはSアデノシルメチオニンで、転移酵素によってヒストンに転移します(図3)。ヒストンからメチル基をはずす酵素(ヒストンデメチラーゼ)も知られています(3)。ヒストンのメチル化はクロマチンの凝集や転写の活性化および不活性化を制御します。DNAの修復と複製の制御も行います(4)。また性決定にも関与しています(3)。X染色体の不活化の際には、DNAだけではなくヒストンH3がメチル化されていることが知られています(5)。

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アルギニンの脱イミノ化反応(シトルリン化)は尿素回路などでもおなじみですが、ヒストンのアルギニン残基の脱イミノ化は核移行シグナルを持つPAD4(Peptidylarginine deiminase 4)によって実行されます。この化学修飾はヒストンのメチル化と転写制御に関して拮抗的に働くことがあるようです(6、7)。またこの修飾が著しく進むと、クロマチンの脱凝縮が行われることが示唆されています(8)。自己免疫疾患が持つ患者の抗体が、脱イミノ化されたタンパク質を攻撃することが知られています(6、9)。

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ヒストンのアセチル化は、ヒストンの修飾のなかでもメジャーなものです。図2にみられるように、コアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)のしっぽにはいずれも多くのリジン残基が存在しますが、ほとんどは側鎖のアセチル化(図5)が可能です。アセチル基を供給するのはアセチルCoAです(図5)。ヒストンアセチル化酵素(HAT)の作用によって、アセチル化が進行するとヒストンの塩基性が失われ、一般にDNAのリン酸との結合が弱くなってヒストンとDNAが解離し、転写が活性化されます。逆にヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の作用によって、ユークロマチンはヘテロクロマチンに移行し、転写は抑制されます(10、11、図5、図6)。

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ヒストンのリン酸化は、セリン・スレオニン・チロシン残基の側鎖OHがヒストンキナーゼでリン酸化されることによって行われます(図7)。ヒストンH3のN末から10番目のセリンのリン酸化がM期における染色体凝縮にかかわっていることが知られています(12、13)。またDNAがダメージを受けた際にヒストンH2Aなどのリン酸化がおこり、このことがDNA修復開始のシグナルになると言われています(13)。単純に考えるとヒストンのリン酸化はヒストンの塩基性を消滅させる方向の変化なので、ヒストンとDNAの結合を弱めるので、例えばDNAの修復システムがアクセスするには有効かもしれませんが、染色体凝縮にどのようにかかわっているかは謎です。

最近ではヒストンのリン酸化が転写の制御に関わっているとか、ヒストンアセチル化・メチル化などのカスケードの起点になっているとかの報告もあるようです(13)。またH2AのバリアントであるH2AXのリン酸化がアポトーシスに関与しているとの報告もあります(14)。

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最近注目されているヒストンの修飾反応にポリADPリボシル化があります。シャンボンらによって1966年に発見されましたが、その後京都大学の上田国寛のグループと国立がんセンターの三輪正直のグループを中心に、わが国において反応の全体像が明らかにされました(図8)。

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この反応はNAD+を基質としてタンパク質のグルタミン酸あるいはアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基に、NAD+からニコチン酸アミドを切り離してADP-リボースを結合し、さらに次々とADPリボースを添加してポリマーを形成するものです(15、図9)。ヒストンもその主要なターゲットになります(16、17)。反応はポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)によって行われますが、別に分解酵素も存在するので、他のヒストン修飾と同様結果的に反応は可逆です。

他の修飾と異なりマイナスチャージのADP-リボースがポリマーとして添加される上に、鎖のブランチングまでおきるので、その影響は桁違いに大きいはずで、緊急のDNA修復や遺伝子発現に大きな影響を及ぼすと考えられます(18)。

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このほかにもヒストンの修飾にはユビキチン化(19)などがありますが、その意義は不明なのでここまでにしておきます。

 

参照

1)Jennifer C Harr, Adriana Gonzalez-Sandoval, & Susan M Gasser, Histones and histone modifications in perinuclear chromatin anchoring: from yeast to man.
EMBO Reports, vol. 17, pp. 139–155,  (2016)   DOI 10.15252/embr.201541809
http://embor.embopress.org/content/early/2016/01/20/embr.201541809

2)Strahl BD1, Allis CD., The language of covalent histone modifications., Nature., vol. 403 (6765), pp. 41-45., (2000)
http://www.gs.washington.edu/academics/courses/braun/55105/readings/strahl.pdf

3)S Kuroki, S Matoba, M Akiyoshi, Y Matsumura, H Miyachi, et al., Epigenetic Regulation of Mouse Sex Determination by the Histone Demethylase Jmjd1a., Science vol. 341 (6150): pp. 1106-1109. doi:10.1126/science.1239864. (2013)

4)Black JC, Van Rechem C, Whetstine JR.,  Histone lysine methylation dynamics: establishment, regulation, and biological impact. Mol. Cell vol. 48(4), pp. 491–507. (2012)

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/X%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93%E3%81%AE%E4%B8%8D%E6%B4%BB%E6%80%A7%E5%8C%96

6)有田恭平他 ヒストン修飾酵素 Peptidylarginine deiminase 4 (PAD4) の活性化とヒストン認識 PF NEWS vol. 42, no.2, pp. 16-22 (2006)

7)Wang Y. et al.,  Human PAD4 regulates histone arginine methylation levels via demethylimination. Science. vol. 306, pp. 279–283 (2004)

8)Yanming Wang et al., Histone hypercitrullination mediates chromatin decondensation and neutrophil extracellular trap formation.,  J Cell Biol., vol. 184(2): pp. 205–213. (2009)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2654299/

9)https://en.wikipedia.org/wiki/Citrullination

10)Tony Kouzarides, Chromatin modifications and their function., Cell. vol.128, pp. 693-705., (2007)
http://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(07)00184-5?_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867407001845%3Fshowall%3Dtrue

11)Min-Hao Kuo, C. David Allis., Roles of histone acetyltransferases and deacetylases in gene regulation., BioEssays Vol. 20,  pp. 615–626 (1998)

12)中山潤一 ヒストン修飾酵素 http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~jnakayam/_src/sc744/pubj03.pdf#search=%27%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC%27

13)Dorine Rossetto, Nikita Avvakumov, Jacques Cote., Histone phosphorylation. A chromatin modification involved in diverse nuclear events. Epigenetics vol. 7, no.10, pp. 1098-1108 (2012)
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.4161/epi.21975

14)Peter J. Cook et al., Tyrosine dephosphorylation of H2AX modulates apoptosis and survival decisions., Nature vol. 458, pp. 591–596 (2009) | doi:10.1038/nature07849
http://www.nature.com/nature/journal/v458/n7238/abs/nature07849_ja.html?lang=ja&foxtrotcallback=true

15)https://en.wikipedia.org/wiki/Poly_(ADP-ribose)_polymerase

16)Morioka K., Tanaka K., Ono T., Poly(ADP-ribose) and differentiation of Friend leukemia cells.,  J. Biochem., vol. 88, pp. 517-524 (1980)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biochemistry1922/88/2/88_2_517/_pdf

17)Morioka K., Tanaka K., Ono T., Acceptors of poly(ADP-ribosylation) in differentiation inducer-treated and untreated Friend erythroleukemia cells., Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Gene Structure and Expression, Vol. 699, Issue 3, pp. 255-263 (1982)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0167478182901154

18)Rebecca Gupte, Ziying Liu, and W. Lee Kraus., PARPs and ADP-ribosylation: recentadvances linking molecular functionsto biological outcomes., GENES & DEVELOPMENT vol. 3, pp. 101–126 (2017)
http://genesdev.cshlp.org/content/31/2/101

19)伊藤敬 ヒストンH2A のユビキチン化と遺伝子転写抑制 生化学 第82巻第3号,pp.232-236,(2010)
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/10/82-03-08.pdf#search=%27%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%83%A6%E3%83%93%E3%82%AD%E3%83%81%E3%83%B3%E5%8C%96%27

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2017年7月18日 (火)

やぶにらみ生物論80: 染色体1

ほとんどの細胞は膨大な情報を持つ生命の糸=DNAをそれぞれ抱え込んでいます。これはPCで言えばハードディスクのようなものであり、PCなら外付けもできますが、細胞はそういうわけにはいきません。これはもともと生物は単細胞であったということに起因しています。生物は進化がつくったものであり、過去の蓄積の上に現在があるということからは逃れられません。私達多細胞生物も元はと言えば単細胞生物であり、生涯の一時期ではありますが、精子や卵子の間はいまでも単細胞生物です。

DNAの長さはヒトの場合細胞当たり2mくらいで、これはさまざまな生物の中で、とびきり長いとも言えないくらいの長さです。それでもThompsons さんの計算では、バスケットボールに髪の毛くらいの太さのひもが100kmぶんくらい入っているくらいの感じだそうです(1)。大腸菌ですら細胞の長さの200倍のDNAを抱え込んでいるので、いかにしてこのDNAをコンパクトに収納するかというのは何十億年も前から生物の重要な課題のひとつであったはずです。

細菌には核膜はありませんが、DNAは裸ではなく数多くのタンパク質によって被われていて、真核生物と同様クロマチンのような構造を形成しています。それは昔からヌクレオイド(核様体)として知られていましたが、その実体はよくわかっていなくて、ようやく20世紀の終盤に研究が進み始めました(2)。DNAをコンパクトに収納するだけでなく、遺伝子の発現やDNAの複製などに応じて適切にリモデリングも行うことが明らかになりました(3)。とはいっても細菌のヌクレオイドが真核生物と同様、ヌクレオソームのような構造をとっているかどうかはわかっていません。

そんななかで理研の研究グループは古細菌のAlba2 というタンパク質がDNAを包み込むパイプのような構造をとっていることを解明し、業界を驚かせました(図1、4、5)。ただこの論文を読むと、要旨はもちろん、イントロでも全く細菌のクロマチンには言及しておらず、議論もしていません。読者として非常にストレスがたまるところです。このような構造解明は古細菌でははじめてだと言っているのですが、では細菌ではどうなのか、それと比較してどう違うのか、細菌・古細菌を含めてはじめての業績なのか、そこのところを明確に述べないと原核生物の染色体研究においてこの仕事がどのような位置にあるのかはっきりしません。

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細菌・古細菌にくらべて、真核生物のクロマチンおよび染色体ははるかに詳しく研究されています。DNAは通常ヒストンなどのタンパク質と共にクロマチンを形成して存在しているわけですが、細胞分裂する場合、一時的に凝縮して棒状の構造になります。これを染色体(クロモソーム=chromosome)といいます。クロモソーム(ドイツ語なので chromosomen : 常に複数あるので複数を用語とした)という言葉をはじめて使ったのは Heinrich Wilhelm Gottfried von Waldeyer-Hartz (ハインリッヒ・ウィルヘルム・ワルダイエル、図2)です(6)。彼は解剖学者で、いまでもワルダイエル咽頭輪などにその名を残しています。中西宥によると、これを染色体と訳したのは石川千代松(図2)だそうです(7)。

染色体=クロモソームの定義が明確なのに対して、「クロマチン」はウィキペディアの定義によると「真核細胞内に存在するDNAとタンパク質の複合体のことを表す」としてありますが、これはちょっと同意しがたい定義です。なぜなら細菌や古細菌のクロマチンという使い方ができなくなるからです。かといって単に「DNAとタンパク質の複合体」というのは意味が広すぎて困ります。いまのところ適切な定義はないようです。強いて言えば、「転写や複製を目的としないDNAとタンパク質の複合体」ということで当たらずといえども遠からずでしょうか。日本語訳の「染色質」という言葉もあまり使われません。

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ワルダイエルは染色体の研究を本格的に行ったわけではありませんが、石川千代松は染色体研究の草分けのひとりで(もちろんわが国では初)、アウグスト・ワイスマンの研究室に留学して、共著でエビの染色体の論文を執筆したほか(1888)、帰国後にネギの染色体についても研究しています。世界ではじめて染色体の図を描いたのは、あのメンデルの論文を全く評価せず闇に葬ったことで有名なドイツの遺伝学者カール・ネーゲリ(図2)で、1842年の論文にその図が掲載されています(7、8)。

染色体研究の次のエポックはもちろんサットンの染色体説です。これについてはすでに私も紹介しています(9)。サットンの1902年と1903年の論文によって、染色体が遺伝因子の担体であることが明らかになり、さらにモーガンらによって遺伝子は染色体上に直線的に配置されているということが証明されました(10)。

染色体を光学顕微鏡で観察する方法はいろいろありますが、現在でもヒトの細胞の標本からきっちり46本の染色体を識別すること(カリオタイピング)は難しい作業です。実際19世紀から20世紀の中盤まで、ヒトの染色体の数・性決定染色体については長い論争があり、最終的に Joe Hin Tjio と Albert Levan が1956年の論文で46本で性染色体はXY型であることを確定しました(11)。仕事はスウェーデンで行われましたが、Tjio はインドネシア人です。図3にヒト染色体を示します。

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分裂する細胞はS→G2→M→G1→Sという細胞周期のサイクルを繰り返しますが、光学顕微鏡による観察ではM期(分裂期)にしか染色体はみつかりません。もはや分裂しない終末分化した細胞や静止期の細胞では観察できません。M期以外の染色体というよりクロマチンといった方が正確ですが、その構造が観察できるようになったのは電子顕微鏡の技術が発達した後になります。

DNAはすでにS期に倍化されていますが、細胞分裂の際にはその遺伝情報を均等に娘細胞に分配しなければなりません。M期にはDNAは染色体という著しく凝縮した構造体にたたみ込まれ、それぞれの娘細胞に分配されるべく2分されます。その片方を染色分体と呼びます。2つの染色分体は一ヶ所で結合されていて、勝手に分離しないようになっています。その結合部位をセントロメアと呼びます(図4)。セントロメアと言っても染色体の中央にあるわけではなく、さまざまな場所にあります(図4)。セントロメアからクロマチンの端までの距離が短い部分を短腕、長い部分を長腕と呼びます(図4)。

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M期にはセントロメアに多くのタンパク質が集積されて動原体(キネトコア)という構造が形成され、染色分体の分離や紡錘糸(チューブリン線維=微小管)との結合などが行われます(図5)。M期の中期にはきちんと紡錘体が形成され、それぞれの染色体が紡錘糸と結合して細胞中央に整列している=細胞分裂の準備が整っていることがチェックされ(mitotic checkpoint)、OKであれば、動原体にあるコヒーシンによって結合されていた染色分体が、プロテアーゼによるコヒーシン切断によって分離し、それぞれ娘細胞に運ばれます。

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クロマチンにはさまざまな構成要素がありますが、もちろん主成分はDNAとヒストンです。ヒストンというタンパク質はすでに1884年にアルブレヒト・コッセル(図6)によって発見されていましたが、その機能は永年謎でした(12)。1973年に至って、Hewish と Burgoyne は裸のDNAをDNA分解酵素で処理すると不規則に分解されていくのに対して、クロマチンのDNAは一定のサイズに分解されることを示しました(13、図6)。このことはクロマチンがサブユニットから成り立っていることを示唆します。そのサブユニットの存在は Olins 夫妻(14、図6)が電子顕微鏡を用いて証明しました。

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現在ではH2A・H2B・H3・H4という4種のヒストンがそれぞれ2分子づつ、計8つの分子がヌクレオソームという糸巻きのような構造を形成し、DNAはそれをひとつにつき1.65回転しながらその構造体の外側に巻き付いていることがわかっています(図7)。

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ヒストンにはもうひとつH1というグループがあり、これはヌクレオソーム内には存在していません。DNAがヌクレオソームに巻き付く際には出口と入口があるわけですが、その両方の位置でクリップのようにDNAを固定しているようです(15、図8)。ヒトやマウスの場合、ヒストンH1に属するグループの遺伝子は11個知られており、そのうち6個は細胞が増殖する際に発現し、残りは細胞増殖とはあまり関係がないとされています(16)。それぞれ少しづつ構造が異なっており、同じ機能または別々の機能を持つと考えられます。系統樹の上位ほど多くのバリアントがあるとは限りません(図8)。

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ヌクレオソームがたがいに近接した位置にあり、さらに高次構造を作っているような場合、ヌクレオソーム間にあるDNAに転写複合体がアクセスできるようなスペースがありません。したがってクロマチンは不活性な状態になります。このようなクロマチンをヘテロクロマチンと呼びます。一方ヌクレオソーム間にある程度のスペースがある場合、転写複合体がDNAにアクセスして pre-mRNA を転写することができます。このような状態にあるクロマチンをユークロマチンと呼びます(図9)。凝縮したヘテロクロマチンをほどいてユークロマチンに変化させることをクロマチンリモデリングといい、このプロセスではATPを加水分解してそのエネルギーが使われます(17、18、図9)。

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DNAがもっともコンパクトに折りたたまれるのは細胞増殖のM期で、染色体を形成するときです。このときヒト細胞に含まれる染色体の全長は230µmとなり、2mの長さのDNAがこのサイズに折りたたまれていることになります。これは約8700倍の長さに折りたたまれたということであり、そのメカニズムや構造の全貌はあきらかになっていませんが、ヒストンの化学修飾がキーポイントであるなどがわかってきており、現在ホットな研究領域です(19、図10)。

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参照

1)http://thompsons.exblog.jp/12917630/

2)Karl Drlica and Josette Rouviere-Yaniv., Histonelike Proteins of Bacteria, MICROBIOIOGICAL REVIEWS,vol.51(3), 301-319 (1987)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC373113/pdf/microrev00050-0009.pdf

3)Martin Thanbichler, Sherry C Wong, Lucy Shapiro., The Bacterial Nucleoid: A Highly Organized and Dynamic Structure., J. Cellular Biochemistry vol.96, pp. 506-521 (2005)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jcb.20519/epdf

4)http://www.riken.jp/pr/press/2012/20120224_3/

5)Tomoyuki Tanaka, Sivaraman Padavattan, and Thirumananseri Kumarevel., Crystal Structure of Archaeal Chromatin Protein Alba2-Double-stranded DNA Complex from Aeropyrum pernix K1.THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 287, NO.13, pp.10394-10402, (2012)

6)Heinrich Wilhelm Gottfried von Waldeyer-Hartz., Über Karyokinese und ihre Beziehungen zu den Befruchtungsvorgängen. Archiv für mikroskopische Anatomie und Entwicklungsmechanik, vol. 32: pp. 1–122. (1888)

7)中西宥 「染色体の研究」 UP Biology シリーズ 東京大学出版会 (1981)

8)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93

9)http://morph.way-nifty.com/grey/2016/10/post-6236.html

10)http://morph.way-nifty.com/grey/2016/10/post-152f.html

11)Joe Hin Tjio and Albert Levan, THE CHROMOSOME NUMBER OF MAN, Hereditas,  vol. 42, pp. 1-6 (1956)

12)網代廣三 ヌクレオソーム発見25周年 蛋白質 核酸 酵素 vol. 45, pp. 721-726  (2000)
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=2000&number=4505&file=BXGPLUSbCJM6Y15Uh4jxPLUSAbLA==

13)D.R. Hewish and L. A. Burgoyne, Chromatin sub-structure. The digestion of chromatin DNA at regularly spaced sites by a nuclear deoxyribonuclease.  Biochem Biophys Res Commun, vol. 52, pp. 504-510 (1973)

14)Olins AL, Olins DE (1974). “Spheroid chromatin units (v bodies)”. Science 183: 330-332. PMID 4128918.

15)https://en.wikipedia.org/wiki/Histone_H1

16)https://en.wikipedia.org/wiki/Linker_histone_H1_variants

17)https://en.wikipedia.org/wiki/Chromatin_remodeling

18)クロマチンリモデリング因子 http://www.ft-patho.net/index.php?chromatin%20remodeling%20factor%20%A5%AF%A5%ED%A5%DE%A5%C1%A5%F3%A5%EA%A5%E2%A5%C7%A5%EA%A5%F3%A5%B0%B0%F8%BB%D2

19)Bryan J. Wilkins et al., A Cascade of Histone Modifications Induces Chromatin Condensation in Mitosis., Science  Vol. 343, Issue 6166, pp. 77-80 (2014)
DOI: 10.1126/science.1244508
http://science.sciencemag.org/content/343/6166/77

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2017年7月 7日 (金)

やぶにらみ生物論79: 核膜

生きとし生けるものを最もおおざっぱに分類するとすれば、現代生物学ではその生物の細胞に核膜があるか、ないか、で2つに分けるということになります。フランスの海洋生物学者エドゥアール・シャトン(1883-1947、図1)は1925年に前者を Eukaryote(真核生物)、 後者を Prokaryote (原核生物)と名付けました(1、2)。この考え方は後に彼の友人アンドレ・ルウォフとカナダの微生物学者ロジェ・スタニエ(図1)によって、電子顕微鏡による観察を基盤とした洗練された形で発表され、現在の分類学の基本となりました(3)。

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真核生物にとって、核膜は必須のツールです。たとえば私達の遺伝子はたいてい分断されており、転写の際には、まず分断されている部分(イントロン)もまとめてPre-mRNAがつくられ、それがスプライシングをうけてmRNAがつくられます(4)。核膜がなければPre-mRNAにリボソームがとりついて、意味のないタンパク質がどんどん合成されるという悲惨な状況になるかもしれません。核膜があれば、プロセッシングが終了した正規の mRNA に加工されてから核の外に出して、正確なタンパク質合成を行うことができます。細菌では大部分の遺伝子は分断されていないので、RNAに転写されると直ちにリボソームがとりついてタンパク質が合成されても問題ありません。

しかし進化という観点から言えば、分断された遺伝子から正しいタンパク質を製造するために核膜が形成されたかというと、それはないだろうと思われます。遺伝子が分断された個体は死んで生物の歴史から排除されたであろうからです。むしろ核膜が形成されたために、遺伝子の分断が許容されたと考えるべきでしょう。

さてここまでの話でわかるように、核膜は単なるパーティションではありません。製造したmRNAを核の外に送り出さなければタンパク質合成ができませんし、ヒストンを核のなかに取り込まなければクロマチンができません。そのほか多数の物質が出入りする必要があります。そのために核膜には孔が開いており、この孔は低分子物質(<3万ダルトン)は拡散によって自由に移動できますが、高分子物質にとっては関所のようになっていて、適切な手形がないと通過できません。手形すなわち分子が持っている適切なシグナルがあればmRNAとタンパク質の複合体やリボソームのサブユニットなどの巨大な分子も通過することができます。ヒストンは分子量は小さいですが、それぞれの分子種に特異的な輸送タンパク質がエスコートして核膜孔を通過します。

このようなことを考えると、核膜には進化の当初から核膜孔が存在していたと思われます。核膜孔の存在をはじめて示したのはカランとトムリンとされています(5)。R.W.メリアムはカエルの卵母細胞を電子顕微鏡で観察することによって、核膜に多数の孔のようなものが見えることを報告しました。1962年のことです(6)。メリアムの論文の General discussion というセクションには初期の核膜孔の研究状況が詳しく記してあります。

核膜孔複合体(NPC=nuclear pore complex)に対する蛍光抗体を作成して、図2の赤で示したのが核膜孔複合体(NPC)です。NPCは一定の間隔で並んでいるのではなく、ほぼランダムに配置されています。緑色は「細胞骨格3」(7)に登場したラミンを示します。ラミンは核膜の裏側にびっしりと張り付いています。核膜の構造を強化するには有用でしょう。染色体は多くの場合核膜の内側に接するように存在します(図2)。

ひとつの核にいくつNPCがあるかというと、参照文献(8)によれば酵母で200、増殖中のヒト細胞で2000~5000、アフリカツメガエルの卵母細胞で5000万とされています。細胞のサイズ・種類・状態によって大きくその数は異なります。

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哺乳類の核膜孔複合体(nuclear pore complex=NPC)のサイズは直径1200nmと非常に大きいものですが、開いている孔そのものの内径は5~10nmくらいの小さなものです。哺乳類NPCの分子量は124メガダルトン(1億2400万ダルトン)という巨大なもので、30種類くらいのタンパク質(ヌクレオポリン=Nup)のそれぞれマルチコピー(総数500~1000分子)によって構成されています。その全体像は図3のようになります。孔の周りに分厚いリング状の構造物があり、核の内部と外部では形態が異なります。このようなおおざっぱな形態は各種の生物でほとんど同じです。

NPCの詳細な構造は参照文献( 8)や(9)をみるとよくわかります。NPCを構成するタンパク質複合体は次の6つのグループに分類されています;1:通常の核膜とNPCの境目にあって、NPC形成の基盤となる膜タンパク質、2:膜並置ヌクレオポリン、3:アダプターヌクレオポリン、4:チャネルヌクレオポリン、5:核バスケットヌクレオポリン、6:細胞質側フィラメントヌクレオポリン。それぞれのグループの位置関係は図3に示します。

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NPCについてひとつの困った問題は、細胞分裂の際に、染色体が分離してから細胞分裂が完了するまでの間核膜がなくなり、NPCも崩壊してしまうということです。これは細胞質に形成された紡錘糸が染色体にコンタクトするためには、核膜はじゃまになるからです。

したがって図4に示すように、M期(細胞分裂期)のはじめに核膜は崩壊し、おわりに再構築されます。そのため核膜に組み込まれている核膜孔も細胞分裂のたびにいったん崩壊し、再構築されなければなりません。1000個に近い分子を正しく集合させて巨大なNPCをつくるわけですから大変な事業であり、その全貌は現在も明らかではありません。

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NPCを通過する機構は核内への移行と核外への移行で異なります。まず核内への移行には積荷となるタンパク質が核移行シグナル(NLS=nuclear localization signal)をもっていることが重要で、これに kap α (インポーチン)が結合し、さらに kap β(エクスポーチン)が結合して通過複合体を形成することによって、核膜孔を通過することができます。

通過後核内のRan-GTPと 通過複合体の kap β が結合することによって通過複合体は解離し、核内移行が完了します。Ran-GTPと結合した kap β は再び核膜孔を通過し細胞質に移行します。このときRan-GTPはRan-GDPとなって、エネルギーを消費します(8、図5)。

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核外移行は積荷の種類が多くてはるかに複雑ですが、積荷がタンパク質だった場合、核外移行シグナルを持っていれば、kap β が認識して「積荷-kap β-Ran-GTP」複合体が形成され、核外に移行できます(図6)。核外移行の際Ran-GTPはRan-GDPとなって、エネルギーを消費します。tRNAも kap β が認識して結合し同様に核外に輸送されます(8)。

rRNAやmRNAも核外に輸送する必要がありますが、mRNAは別に独自の複合体を形成して輸送されます(9)。rRNAはリボソームのサブユニットとして輸送されるので、タンパク質の核外移行シグナルを使って kap β の輸送システムで輸送することが可能です(10)。

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核膜孔移行に用いられるタンパク質はカリオフェリンまたはトランスポーチンと呼ばれています。ただ kap β (カリオフェリンβ)は核内移行にも関与しているので、エクスポーチンという名前はふさわしくないと思いますが、普通に使われているようです。

核膜の内側はラミンという細胞骨格タンパク質が主体となっている核ラミナという網目構造によって裏打ちされています。核ラミナはさまざまなタンパク質と結合しており、たとえばネスプリンという膜貫通タンパク質は細胞質のアクチンフィラメントや中間径フィラメントと接続することが可能で(11)、核が細胞内をピンボールのように自由に動かないように係留することができます。また核ラミナは染色体と結合して、染色体を核膜の内側に係留することができます(図7)。

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参照

1)Chatton E. Pansporella perplexa: Reflexions sur la biologie et la
phylogenie des protozoaires. Ann Sci Nat Zool vol.8:pp.5-84 (1925)

2)Soyer-Gobillard MO. Scientific research at the Laboratoire Arago (Banyuls, France) in the twentieth Century: Edouard Chatton, the“master”, and Andre Lwoff, the “pupil”. Int Microbiol vol.5:pp.37-42 (2002)

3)Stanier R, Lwoff A. Le concept de microbe de Pasteur a nos jours.
La Nouvelle Presse Medicale vol.2:pp.1191-1198 (1973)

4)http://morph.way-nifty.com/grey/2016/12/post-b88f.html

5)Callan H. G., Tomlin S. G. Experimental studies on amphibian oocyte nuclei. I. Investigation of the structure of the nuclear membrane by means of the electron microscope. Proc. R. Soc. B vol. 137, pp. 367–378 (1950)  10.1098/rspb.1950.0047

6)R.W. Merriam, Some dynamic aspects of the nuclear envelope., J. Cell Biol., vol.12, pp. 79-90 (1962)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2106017/pdf/79.pdf

7)「細胞骨格3」http://morph.way-nifty.com/lecture/2017/06/post-8a89.html

8)橋爪智恵子,Richard W. Wong、 核膜孔複合体の構造と機能、生化学 vol.83(10), pp. 957-965 (2011)
こちら

9)片平 じゅん、mRNA核外輸送複合体の形成機構 生化学 vol. 87(1): pp. 75-81 (2015)
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2015.870075/data/

10)松尾 芳隆、核外輸送の過程におけるリボソームの品質管理の機構、ライフサイエンス 新着論文レビュー DOI: 10.7875/first.author.2013.158
http://first.lifesciencedb.jp/archives/8023
Coupled GTPase and remodelling ATPase activities form a checkpoint for ribosome export. Yoshitaka Matsuo, Sander Granneman, Matthias Thoms, Rizos-Georgios Manikas, David Tollervey, Ed Hurt., Nature, vo. 505, pp. 112-116 (2014)

11)https://en.wikipedia.org/wiki/Nesprin

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2017年6月29日 (木)

やぶにらみ生物論78: リソソームとオートファジー

電子顕微鏡で細胞を観察していると、しばしば細胞内に何かわけのわからない内容物を含んだ閉じた袋のような構造体をみかけます。たとえば図1の細胞Aや細胞B(ラット真皮の細胞)の矢印の構造体です。矢印以外にも数多くみられます。これらの構造体は外界から取り込んだ固形物や液体、あるいは細胞内で生じた不要物などを集めて分解し、無害化したり、栄養として再利用したりするための、リソソーム(英語ではライソソーム)を主役とした「ごみ処理・再利用システム」の一部と考えられています。

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Dermis: 真皮、Dermal sheath: 真皮性毛包、Hair follicle: 毛包

リソソームはすでに1950年代にクリスチャン・ド・ドューブ(図3)によって発見されており、ド・ドューブは1974年にノーベル賞を受賞しています。彼のグループはラットの肝臓をすりつぶし、遠心力で分画して、マイクロソームとミトコンドリアの中間の画分にリソソームというオルガネラ(細胞内小器官)が存在し、その画分には酸性で稼働する加水分解酵素が多く含まれていることを証明しました。さらにファゴソームと名付けられた小胞が細胞質成分を包み込み、それがリソソームと融合して消化されるというシステムの存在を示唆しました(1、2)。

現在わかっていることを大まかに示すと図2のようになります。細胞膜ではファゴサイトーシスやピノサイトーシス(まとめてエンドサイト-シス)によって、細胞外からウィルスなどの固形物や、溶液などを取り込むという活動が行われています。これは細胞近傍の有害物質を無害化したり、高分子の栄養物質をとりこんだりするために行われています。細胞膜の1部を使ってしまいますが、考えようによっては細胞膜一部を更新するという新陳代謝を行っているともいえます。

集めた外界の物質などはエンドソームに集められ、次に内部がpH5のリソソームと融合してファゴリソソームとなり、ゴルジ体から供給された数十種類の加水分解酵素が働いて消化活動を行います。これらの酵素はpH5周辺が至適の酵素なので、細胞質に漏れ出ても細胞を破壊することはありません。ファゴリソソームでの消化が終了すると、ファゴリソソームはリソソームに戻って次の機会を待ちます(図2)。

ゴルジ体で作られた酸性が至適pHの加水分解酵素群はそれぞれマンノース6リン酸と結合して、これがマーカーとなってレセプターと結合し、小胞でリソソームなどに運ばれます。ここでレセプターから離れた加水分解酵素は仕事をはじめます。エンドソームもリソソームほどではなくてもpHは酸性になっているので、加水分解は可能です。

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リソソームシステムは細胞外の物質だけではなく、細胞内の物質も消化することがわかっています(1-4)。この場合ファゴソームはオートファゴソーム、ファゴリソソームはオートリソソームといいます(オートは自分自身という意味)。そしてこのような自己消化活動全体を指してオートファジーといいます。ド・ドューブの時代からオートファジーという現象があると言われていたのですが、その後細胞外から貪食作用(ファゴサイトーシス)によってとりこまれたものはリソソームシステムによって消化されるが、細胞内のものは消化されないとか、タンパク質のターンオーバーにはリソソームは関与しないという批判があり、さらにプロテアソームによる不要タンパク質分解機構が発見されるに至って、オートファジーは冬の自体を迎えることになりました(3)。

そのような冬の時代にも、出芽酵母(お酒やパンをつくるのに使われる酵母です)のオートファジーに関心を持っていたのが大隅良典(図3)で、彼は出芽酵母の突然変異体を5000体作成し、そのなかからたったひとつのオートファジーを行わない突然変異体を分離しました(3)。この変異体は通常は普通に増殖しますが、栄養状態が悪くなると早死にしてしまいます。すなわちオートファジーとは飢餓時に自食することによって生きながらえるためのメカニズムであることが示唆されました。

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最新科学や先進技術もその歴史をひもとくと、実は知らない人から見ると全く個人の趣味・カルトな興味・重要性が全く見いだせないとしか思えない研究に行き着く場合が多いのです。DNAを切り貼りしてゲノムを編集するなどという技術も、もとをたどれば、細菌がいかにしてウィルスの攻撃を逃れるかという「細菌の免疫機構」の研究から生まれた代物であって、最初からDNAの改変を目的として開発された技術ではありません。大隅先生がよく基礎科学の重要性を強調されるのはそういうことだと思います。

もっとはっきり言えば、研究費はばらまくことが必要なのです。どんな研究が科学の飛躍的発展につながるかなんて、神様しか知ることはできないのです。ですから私は少額の科学研究費は抽選にしましょうと昔から主張しています。まともな研究者はそういうことがよくわかっているので、同じ研究分野の方々にこっそり30万円づつ配っていた方もおられました。

出芽酵母は図4のようにゲノムが1セットのn世代と2セットの2n世代があり、n世代のα タイプと a タイプが接合することによって2n世代がはじまります。このn世代(ゲノムが1セット)でも2n世代と同様な状態で普通に生きられる生物であることが味噌です。1ヶ所の遺伝子の傷によって表現型が変化する可能性が高いので、遺伝学の世界では重宝されています。哺乳類だと精子・卵子以外はすべて2nなので、1ヶ所の傷だと+/+が+/-になるだけで、健全な遺伝子が傷ついた遺伝子の働きを代替する場合が多く、遺伝子型と表現型は1:1に対応しません。研究に都合の良い素材を選ぶことは重要です。

出芽酵母の2n世代は胞子をつくることができます。非常に興味深いことに、オートファジーができないミュータントは胞子をつくることができないそうです(3)。胞子は飢餓など環境の悪化に抵抗性の高い状態です。すなわち酵母のような10億年前から生きているプリミティヴな生物においても、オートファジーは自食だけでなく、もっと複雑なサバイバル戦略の要になっていることがわかります。

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大隅らの研究によって、オートファジーができないミュータントはApg1というタンパク質が欠損していることがわかりましたが、次にはその他にオートファジーに関与しているタンパク質(遺伝子)はないのかということになります。これを実行したのが埼玉大学から東大駒場の大隅研にやってきた大学院生の塚田美樹でした(図3)。5000体の変異体からわずかひとつだけしか分離できなかったオートファジーのミュータントを、彼女は38,000体の変異体から何と15体も分離し、FEBS lett. に発表しました(5)。この論文がその後のオートファジー研究の出発点となりました。私もこの論文を読む機会があって、大変感動したことを覚えています。大隅は2016年のノーベル生理学医学賞を受賞しましたが、当時の研究室の思い出を弟子の方々がつづった思い出文集「駒場での大隅研究室」がウェブサイトで公開されています(6)。

塚田・大隅の論文が出版された頃にはもうヒトやマウスの全DNA配列が解明されてきていて、酵母でオートファジーを担う遺伝子に対応した哺乳類の遺伝子も明らかになり、2000年前後から一瀉千里に研究は発展しました。

オートファジーは真核生物全般に見られ、原核生物にはみられません。まず細胞質に脂質2重膜が2枚重なったようなお椀のような構造体が現れ、やがて球形に閉じて中身を閉じ込め(オートファゴソーム)、その外側の膜とリソソームの膜が融合してオートリソソームが完成します(図5、参照7よりコピー)。そのなかで構造体の分解消化が行われます。哺乳類でも酵母と同様、飢餓状態になると盛大にオートファジーが行われます。図5Cは飢餓状態にしたラットの肝臓のオートファジーを観察したものです。

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水島(図3)によると、哺乳類では受精直後(卵巣から離れると、着床するまでしばらく母親が残したタンパク質を栄養源として生き延びる)、出生直後(へその緒からの栄養供給がなくなるので自食で補う)、成体が飢餓状態のような時にオートファジーが特に活発になるそうです(8)。もちろんオートファジーのシステムは普段から細胞内の老廃物を分解し、再利用したり廃棄したりするゴミ処理場の役割を果たしています。

変性したタンパク質はオートファジーだけでなく、プロテアソームシステムでも排除できますが、不良ミトコンドリアはオートファジーまたは未知のシステムを使わなければ排除できません(4)。赤血球からミトコンドリアを排除する際にも、オートファジーのシステムが使われているようですが、未知のシステムが関与している可能性も残されています(4、9、10)。

タンパク質を分解するシステムは前記のようにプロテアソームというのがあるのですが、プロテアソームは多糖類や糖脂質を分解することはできません。したがってこれらを分解するリソソーム酵素が欠損すると、細胞内に不要な多糖類や糖脂質が蓄積して病気が発生します。どんな病気があるかは Lyso Life というサイト(11)から主要なものだけコピペしておきました。詳しくはサイトをご覧下さい。

ゴーシェ病
グルコセレブロシダーゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グルコセレブロシドという物質が分解されにくくなります。肝臓や脾臓が大きくなる、貧血や血小板の減少、骨症状などがみられ、けいれんや斜視(左右の目の視線が一致しない)などの神経症状が現れることもあります。

ファブリー病
α−ガラクトシダーゼ(α‐GAL)という酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グロボトリアオシルセラミド(GL-3)という物質が分解されにくくなります。手足の痛みや汗をかきにくいといった症状や、腎機能障害、心機能障害、脳血管障害などが現れます。

ポンペ病(糖原病Ⅱ型)
酸性α−グルコシダーゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グリコーゲンという物質が分解されにくくなります。骨格を支える筋肉や呼吸に必要な筋肉の力が弱くなり、体重が増えにくい、心臓の働きが悪くなるなどの症状が現れることもあります。

ムコ多糖症Ⅰ型
α−L−イズロニダーゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)という物質が分解されにくくなります。関節のこわばり、骨の変形、肝臓や脾臓が大きくなる、むくむくとした顔立ち、水頭症(頭の中に水がたまる)などの症状がみられ、知的な発達の遅れなどが現れることもあります。

ムコ多糖症Ⅱ型
イズロン酸−2−スルファターゼという酵素の働きがなかったり、低くなったりしていることで、グリコサミノグリカン(ムコ多糖)という物質が分解されにくくなります。関節のこわばり、骨の変形、肝臓や脾臓が大きくなる、むくむくとした顔立ちなどの症状がみられ、知的な発達の遅れなどが現れることもあります。

参照

1)C. De Dube, B. C. Pressman, R. Gianetto, R. Wattiaux and F. Applemans. Tissue Fractionation Studies
6. INTRACELLULAR DISTRIBUTION PATTERNS OF ENZYMES IN RAT-LIVER TISSUE. Biochem J. vol. 60(4): pp. 604–617.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1216159/

2)Alex B. Novikoff, H. Beaufay,  and C. De Duve. ELECTRON MICROSCOPY OF LYSOSOME-RICHFRACTIONS FROM RAT LIVER.  J. Biophys. Biochem. Cytol., Vol. 2, NO. 4, Suppl. pp.179-190 (1956)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2229688/pdf/179.pdf

3)荒木保弘・大隅良典 「オートファジーを長き眠りからめざめさせた酵母」 領域融合レビュー, 1, e005 (2012) DOI: 10.7875/leading.author.1.e005
Yasuhiro Araki & Yoshinori Ohsumi: Awakening the hibernation of autophagy research using yeast.
http://leading.lifesciencedb.jp/1-e005/

4)水島昇 「細胞が自分を食べる オートファジーの謎」 PHPサイエンスワールド新書 PHP研究所 (2011)

5)Miki Tsukada, Yoshinori Ohsumi., Isofation and characterization of autophagy-defective mutants of Saccharomyces cerevisiae., FEBS lett. Volume 333, number 1,2, pp. 169-174 (1993)
http://www.selectividad.pt/uploads/8/7/4/5/87451854/tsukada_et_al-1993-febs_letters.pdf

6)大隅良典先生ノーベル賞受賞記念思い出文集「駒場での大隅研究室」
http://bio.c.u-tokyo.ac.jp/file/OHSUMI.pdf

7)https://en.wikipedia.org/wiki/Autophagy

8)水島昇 哺乳類胚発生におけるオートファジーの役割を解明-マウス受精卵、自身の細胞内たんぱく質を分解して栄養に-
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20080704/index.html?newwindow=true

9)H. Takano-Ohmuro, M. Mukaida, E. Kominami, K. Morioka., Autophagy in embryonic erythroid cells: its role in maturation. Eur. J. Cell Biol., vol. 79, pp. 759-764 (2000).

10)S. Honda et al., Ulk1-mediated Atg5-independent macroautophagy mediates elimination of mitochondria from embryonic reticulocytes. Nat. Commun.  Jun 4; vol. 5: 4004. (2014) doi: 10.1038/ncomms5004

11)http://www.lysolife.jp/about/about/kind.html

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2017年6月22日 (木)

やぶにらみ生物論77: ミトコンドリア

ミトコンドリアは「呼吸」について述べたところで、やや詳しくとりあげました(1)。ここではミトコンドリアという構造体について、もっと基本的なところからあらためて展開したいと思います。

ミトコンドリアを発見したのは、ミーシャーの協力者であり、「nuclein ヌクレイン」 を正しく 「nucleic acid 核酸」 と改名したリヒャルト・アルトマンです。ミトコンドリアはそのままでは光学顕微鏡による観察でサイズが小さすぎて見えないのですが、適切に固定・染色すれば細菌と同様観察することができます。アルトマンはその固定法や染色法を工夫して、あらゆる細胞の中に細菌のような生物が棲息していることを示唆しました。1890年頃のことです。アルトマンはそれをバイオブラストと命名し、シンビオント(共生体)であることを早くも予想していました(2、3)。

現在ではゲノムの解析などから、ミトコンドリアが αプロテオバクテリア にその起源を持つことは一般的に認められていますが、当時ではまさに荒唐無稽な説であり、アルトマンが言うところのバイオブラストは固定・染色のアーティファクトだとされて、全く相手にされなかったようです。そのためアルトマンは晩年は自室に引きこもって隠遁生活を余儀なくされたそうです(2、3)。アルトマンは21世紀になってから再評価されて、著書も復刻されました(図1)。彼はわずか48歳で他界していますが、その肖像は異様に年老いてみえます(図1)。悩みの多い人生だったことがうかがえます。

しかし当時から小数ながら彼を支持する研究者もいて、1898年にカール・ベンダはアルトマンのバイオブラストが、あるときには糸(mito in Greek)、あるときには顆粒(chondros in Greek)に見えることから、改めてミトコンドリオン(複数はミトコンドリア)と命名しました。さらに1900年にはレノア・ミカエリスが生細胞をヤヌス・グリーンという色素で染めてミトコンドリアを観察することに成功し、しだいにミトコンドリアはその存在を認められるようになりました(3)。

1960年代にはリン・マーギュリスがミトコンドリア=シンビオント説を再興し(4、図1)、現在ではそれが広く認められるようになりました。参照文献の著者がリン・セーガンとなっているのは、当時彼女がカール・セーガン(映画「コンタクト」の原作者:主演ジョディ・フォスターが素晴らしく、ストーリーもうまくできているのでおすすめします)の奥様だったからです。

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ウィキペディアによると、ヒトの場合ミトコンドリアの総重量は体重の約10%を占めるとされています(5)。確かに肝臓の細胞などを観察していると、そのことが納得できるくらい頻繁にミトコンドリアをみつけることができます。ヒトの場合ひとつの細胞に、平均すると数百個のミトコンドリアが存在すると言われています。ただ酸素を運ぶのが仕事の赤血球では、ミトコンドリアが途中で酸素を使ってしまうのを防ぐために、ミトコンドリアを消滅させています(6、7)。消滅させるメカニズムは、大隅先生のノーベル賞授賞で有名になったオートファジーなどです(6、7)。角質化した細胞(表皮上層部・爪・毛など)にもミトコンドリアはみられません。

ミトコンドリアは図2のように、いちばん外側は進化上真核生物に由来すると思われる外膜に包まれ、その内側に細菌(シンビオント)由来と思われる内膜が存在します。内膜は外膜を裏打ちしているわけではなく、ときおり細胞内に突出する場合があり、この構造をクリステといいます(図2)。外膜と内膜の間やクリステには膜間腔という狭い空間があります。内膜の内側にはマトリックスと呼ばれる細胞質があり、核はなくミトコンドリアDNAがあります(図2)。ひとつのミトコンドリアには通常数コピーのミトコンドリアDNAがあるようです(5)。DNAは裸ではなくタンパク質でラップされている状態にあるようです。

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ヒトを含めて多くの動物のミトコンドリアDNAに含まれる遺伝子は、リボソームRNAが2つ、トランスファーRNAが22、その他ATP合成酵素など13、計37個(8、図3)で大腸菌が約4000個の遺伝子を持つことを考えると、シンビオントが共生をはじめてから、進化の過程でほとんどの遺伝子がホスト(ヒト)のゲノムに移行または吸収されてしまったことが示唆されます。これはおそらくミトコンドリアが独立した生物として、勝手に増殖や機能発現を行わないように制御するためと思われますが、ここまで徹底的に移転させたのには、それなりの理由または特別なイベントがあったのかもしれません。ミトコンドリアの呼吸鎖複合体4つのすべては、ホストのゲノムにコードされているタンパク質がなければ活動できないので、ミトコンドリアにおけるATP産生はホストによって決定的に規制されています。

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ミトコンドリアDNAは円形(サーキュラー)でかつ非常に小さいので、ウィルスやプラスミドが行うようなローリングサークル型DNA複製を行います。これは図4のように、トイレットペーパーを引き出すような形で、とりあえず片側のDNAだけをタンデムに複数コピー作成し、切断・二重鎖化・環状化はそのあとゆっくり進行させるというやり方です。

このやり方のひとつの利点は、1個のミトコンドリアに「変異が蓄積して不要なDNA」と「無傷のDNA」が共存した場合、ミトコンドリアが分裂したときに無傷のDNAをローリングサークルで多数複製し、それを娘ミトコンドリアに送り込むことができるということです。これは1種のクローニングで、そうしてできた娘ミトコンドリアは新品同様なので、卵母細胞などメスの生殖細胞ではこのようなミトコンドリアが使われていると考えられます(9)。

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ミトコンドリアは静的な存在ではなく、しばしば融合や分裂を繰り返す動的な存在です。ミトコンドリアを縊り切って分裂させる装置の主役となるタンパク質は、細菌のチュブリンファミリーや真核生物のアクチンファミリ-ではなく、なんとダイナミンファミリーの Drp (哺乳類の場合)です(10、11、図5)。驚くべき事に彼らは過去の分裂装置を捨て去り、ホストの分裂装置も借りないで、全く新しい生き方を選びました。ホストの細胞内という環境の中で、ホストと自分自身の生存に有利な方向に進化してきたのでしょう。

しかも新しい分裂装置を獲得する中で、ミトコンドリア同士を融合するシステムを獲得しました(図5)。図5に示したダイナミンファミリーの Drp、 Mfn、Opa、の他にも多くのタンパク質が細胞融合にかかわっているようです(11)。獲得したと言いましたが、もちろんミトコンドリアが独自に進化したのではなく、これらのダイナミンファミリーの遺伝子はすべてホストのゲノムに存在しているので、ホストの進化といっても良いわけです。

ミトコンドリアの融合がなぜ有用なのかは、まだ完全に理解されているわけではありませんが、例えばDrp1の突然変異が重篤な新生児致死の原因となる、Mfn2 に変異が生じると末梢神経に障害をもつ神経変性疾患である Charcot-Marie-Tooth 病に罹患する、Opa1 の変異は視神経形成異常となるDominant Optic Atrophy の原因となるなどが報告されています(11、12)。ローリングサークルで大量のDNAを合成した場合、その事後処理のため大型のミトコンドリアが必要とも考えられます。心筋などでは多量のATPが必要とされるので、ミトコンドリアが巨大化し、かつびっしりと繋がって存在する場合があります(13)。

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ミトコンドリアは現在ではリボソームRNA遺伝子やシトクロムc遺伝子の構造比較から、αプロテオバクテリアに起源するとされており、そのなかでもリケッチアあるいはその祖先に近いとされるペラジバクター(現在でも海洋に浮遊する普通種)が起源ではないかと言われています(5)。

話は変わりますが、ミトコンドリアは母親から受け継がれるので、ミトコンドリアDNAの塩基配列を解析し系統樹を作成すると、最初の一人の母親にたどりつくという研究があります。そのアフリカに住んでいたとされる母親はミトコンドリア・イヴと呼ばれることもあります。ただし聖書のようにその母親からすべての人類が生まれたわけではなく、たまたま20万年もの間、子供に必ず女性がいたというとてもめずらしい家系の頂点にいる女性ということです。ミトコンドリアが母親から受け継がれるというのは真実で、それなら精子のミトコンドリアは受精後どうなってしまうのでしょうか?

図6のように受精後しばらくは精子のミトコンドリアも受精卵の中で生きているのですが、融合や増殖は禁止されています。そして受精卵が分裂を繰り返し個体に発生していく過程で、父系のミトコンドリアはオートファゴソームという袋につつまれて分解(オートファジー)されてしまいます(14、15)。父系のミトコンドリアをすべて殺してしまうというのが生物にどんなメリットを与えるのかはよくわかっていません。卵子ではミトコンドリアの品質がきちんと管理されているが、精子では管理されていないということも考えられます。

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ミトコンドリアは酸素を使って代謝を行っている上、鉄も多く含むため、活性酸素が発生しやすい条件が整っています。活性酸素はタンパク質・脂質・核酸などの生体物質と反応して変質させることがあります。したがってミトコンドリアは常に劣化する危険にさらされています。劣化したミトコンドリアは通常オートファジーによって排除されますが、それでも間に合わない場合、ミトコンドリア内部からシトクロムcというタンパク質が放出され、ホストの細胞ごと自殺に導くという究極のプロセスが発動します。

このプロセスはアポトーシスと呼ばれており、もともと細胞が修復不能なダメージを受けたとき、p53というタンパク質がシグナルとなってミトコンドリアに情報を伝え、それにミトコンドリアが反応してシトクロムcを放出するというメカニズムがあるのですが(図7)、それを利用してミトコンドリアの品質管理が行われることもあり得るということです。

真核生物はミトコンドリアからほとんどの遺伝子を奪い取りましたが、一方で自らの生死をミトコンドリアの指令によって決めるというメカニズムを構築しました。不思議な進化の物語です。

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ミトコンドリア遺伝子の異常、ミトコンドリア品質管理の異常などが原因の疾患はいろいろ知られています。詳しくはウィキペディアのミトコンドリア病の項などを参照していただきたいですが、アルツハイマー病やパーキンソン病にミトコンドリアの機能不全が原因とおぼしきものがあるらしいそうで、これはちょっとした驚きです(16)。

参照

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2017/05/post-d4be.html

2)Brian O'Rourke, From Bioblasts to Mitochondria: Ever Expanding Roles of Mitochondria in Cell Physiology., Front Physiol., vol. 1: article 7, pp. 1-4 (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3059936/pdf/fphys-01-00007.pdf

3)Carolyn Csanyi, Discovery of the Mitochondria, Sciencing (2017)
http://sciencing.com/discovery-mitochondria-20329.html

4)Lynn Sagan  On the origin of mitosing cells. J. Theoretical Biology vol. 14(3), pp. 255-274. (1967) PMID 11541392 doi:10.1016/0022-5193(67)90079-3

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AA%E3%82%A2

6)H. Takano-Ohmuro, M. Mukaida, E. Kominami, K. Morioka., Autophagy in embryonic erythroid cells: its role in maturation. Eur. J. Cell Biol., vol. 79, pp. 759-764 (2000).

7)S. Honda et al., Ulk1-mediated Atg5-independent macroautophagy mediates elimination of mitochondria from embryonic reticulocytes. Nat. Commun.  Jun 4; vol. 5: 4004. (2014) doi: 10.1038/ncomms5004
http://www.natureasia.com/ja-jp/jobs/tokushu/detail/329
http://www.nature.com/articles/ncomms5004

8)Jeffrey L. Boore, Animal mitochondrial genomes., Nucleic Acids Res., vol. 27 (8): pp. 1767-1780 (1999),  DOI: https://doi.org/10.1093/nar/27.8.1767
https://academic.oup.com/nar/article/27/8/1767/2847916/Animal-mitochondrial-genomes

9)Feng Ling, Rong Niu, Hideyuki Hatakeyama, Yu-ichi Goto, Takehiko Shibata and Minoru Yoshida, "ROS stimulate mitochondrial allele segregation towards homoplasmy in human cells", Molecular Biology of the Cell, vol. 27:10 pp. 1684-1693 (2016)  doi: 10.1091/mbc.E15-10-0690
http://www.molbiolcell.org/content/27/10/1684.full.pdf+html?sid=f44cb659-f009-4cb0-9842-939478677381
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160428_1/#note5

10)石原直忠、 融合と分裂によるミトコンドリアの形態制御の分子機構と生理機能 生化学 vol. 83, no.5, pp. 365-373 (2011)

11)伴 匡人,後藤雅史,石原直忠、ミトコンドリアの融合と分裂 その意義と制御機構 化学と生物 vol. 53, no.1, pp. 27-33 (2015)

12)H. R. Waterham, J. Koster, C. W. T. van Roermund, P. A. W. Mooyer, R. J. A. Wanders & J. V. Leonard:  A Lethal Defect of Mitochondrial and Peroxisomal Fission.  N. Engl. J. Med., vol. 356, pp.1736-1741, (2007).

13)http://www.cellimagelibrary.org/images/7567

14)佐藤美由紀  父由来のミトコンドリアが消されるしくみ 生命誌 vol.84-87 「つむぐ」 新曜社 pp. 100-105 (2016)
http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/085/research/2.html

15)佐藤美由紀、佐藤健  ミトコンドリアゲノムの母性遺伝のメカニズム オートファジーによる父性ミトコンドリアの分解 化学と生物 vol. 50 (7) pp. 479-480 (2012)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/7/50_479/_pdf

16)田中敦、Richard J Youle  ミトコンドリアの品質維持とパーキンソン病 細胞工学 vol. 29 (5) pp. 431-437 (2010)

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2017年6月13日 (火)

やぶにらみ生物論76: 細胞骨格3

これまでにも述べてきましたように、マイクロフィラメントや微小管は細胞骨格というより、細胞移動・細胞内輸送・細胞分裂などを実行するためのツールであり、変動も激しくそのためにATPやGTPを大量に使用します。それらと比較すると中間径繊維は安定で、形成にATPやGTPを必要としないので、細胞骨格という名前にふさわしいかもしれません。

中間径というのは、約6nm径のマイクロフィラメントと約25nmの微小管の中間のサイズ=約10nmという意味です。

図1はケラチンを例にとりましたが、Ⅰ型とⅡ型のケラチンがヘテロ2量体をつくり、そのヘテロ2量体がアンチパラレルに結合して4量体を形成し、それらが4本集まってプロトフィブリルを形成します。プロトフィブリルが多数集まって、中間径繊維ができあがります。このような構造を形成するためにATPやGTPは消費しません。

1a

中間径繊維も伸長や短縮を行いますが頻繁ではなく、基本的には細胞の形態を決めるのに役立っているとも言えますが、実際にはそんなに単純ではなくて、例えばケラチンの場合、その生理的意義は多岐にわたっており、角化によって水分の蒸発を防ぐ、細菌やウィルスの侵入を防ぐ、紫外線のダメージを吸収する、体温を維持する、捕殺や負傷を防ぐ、敵を突き殺す、指先に力を与える、蹄で体重をささえて走る、羽毛で空を飛ぶ、など数えきれません。

中間径繊維を構成するタンパク質は図2のように多数のグループがあり、通常それぞれのグループに複数の種類のタンパク質が所属します。グループを越えて複合的な繊維をつくることは一般的にはありません。ケラチンは上皮組織、ビメンチンは間充織、デスミンは筋肉、ニューロフィラメントは神経など特定の組織で発現するタンパク質が多いのですが、ラミンだけは例外的に広汎な組織にみられます。

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各タンパク質の分子構造をみていきますと、図3のように、すべてNH2側(N末)とCOOH側(C末)にαヘリックスやβシートを形成しない領域があり、中央にαヘリックスからなるロッド領域があるという形で、3つのドメインで構成されています。ロッド領域は2~3ヶ所の非αヘリックスリンカーで分断されています。

ロッド領域で多数の分子がパラレルに結合することによって太いケーブルが形成され、C末とN末がタンデムに結合して長いケーブルとなります。他の分子はすべて細胞質にありますが、ラミンだけは核にあるのでC末ドメインに核局在配列が存在します。(分子量は5万~7万です)。

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ケラチンは注意深くない生化学者には嫌われているタンパク質です。というのはラーメン店でスープを指にかけながら持ってくるウェイトレスのような研究者もいて、電気泳動槽のバッファに指をちゃぽちゃぽ浸しながら移動させることがあるので、そうなると皮膚のケラチンが検出されます。風呂に入っていない研究者だとフケが落下したりもします。

ケラチンにはSHが多く(髪が焦げると硫黄の臭いがします)、となりの分子のSHと結合してSS(ジスルフィド結合)を形成するので、分子の独立性は失われ、やや大げさに言えば毛髪・爪・角・鱗などはひとつで1巨大分子ということになります。ケラチンは肝臓のような柔らかい組織にもあるので、存在場所に応じて多くの種類があります。ヒトを含めて動物は数十種類のケラチン分子種すなわち遺伝子を保有しています。

ケラチンを発見したのは誰だか判りませんが、16世紀の中国の薬草学者李時珍(Li Shih-chen 図4)が治療に用いていたことが、私は未読ですが、彼の大著「本草綱目Compendium of Materia Medica」から読み取れるそうです(1、2)。最初にケラチン遺伝子の配列を決めたのはハヌコグルとフックスです(3、図4)。

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これはややめずらしいことだと思いますが、たとえばヒトの場合、I 型ケラチングループの各遺伝子は第17染色体の特定部位に、II 型ケラチングループの各遺伝子は第12染色体の特定部位にぎっしりかたまって存在しています。しかも上皮ケラチン・毛根鞘ケラチン・毛&爪ケラチンはそれぞれクラスターを形成しています。偽遺伝子もいくつかみつかっています(図5)。ケラチンの大きな特徴として、表皮・毛髪・爪・角・鱗などの死細胞においても、垢・雲脂・生え替わりなどで外界に廃棄されるまで、その機能を果たしていることが上げられます。

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ビメンチン(分子量57,000)は発見者がはっきりしています。ドイツのマックス・プランク研究所の Franke WW, Schmid E, Osborn M, and Weber K. です(4)。オズボーンとウィーバー(夫妻)は生化学に手を染めた者なら誰でも使ったことがある米の飯のような「SDS-PAGE」という分析法を開発したことで有名な研究者です(図6)。フランケは近年はアンチ・ドーピングの研究者としても有名です(5、図6)。

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図7Aはマウス胎児の皮膚で私が撮影したものですが、ビメンチンが茶色に染まっています。表皮や毛包の上皮性組織はほとんど染まらず、間充織である真皮や毛乳頭はよく染まっていることがわかります。違いが明白なので、腫瘍が上皮性か間充織性かを判別するのに、ビメンチンの染色が使われています。図7Bは細胞内におけるビメンチンの分布です。核を包み込むような感じですが、ミトコンドリアや小胞体と結合する場合もあるようです(6)。

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ビメンチンの機能はかなり微小管が代替することができるようではっきりとわかっていませんが、細胞に弾力を与えたり、オルガネラを保護するような役割があるようです(6)。ビメンチンの遺伝子を欠損すると負傷からの回復が遅れるという報告もあります(7)。

デスミン(分子量53,500)は筋細胞に特異的に存在するタンパク質で、デスミンがつくる繊維は細胞骨格と言うより筋組織のパーツとしての役割を担っています。。ラザリデスのグループによって発見され(8)、遺伝子配列はLi Zhenlin(9)らによって解明されました。デスミン遺伝子を欠損させたマウスでは、正常な筋肉組織が形成されないことが明らかになっています(10)。デスミン遺伝子の突然変異によるヒト筋肉疾患も報告されていま(11)。

デスミン繊維は横紋筋細胞では図8のように配置されていて、筋原繊維のZディスク同士、Zディスクと筋鞘(サルコレンマ)のコスタメア、Zディスクとミトコンドリアや核を連結しています(12)。

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ニューロフィラメントは神経細胞に特異的に出現する中間径繊維で、発見者は F.C. Huneeus & P.F. Davison です(13)。構成しているタンパク質は3種類の分子量がかなり異なるアイソフォームで、それぞれNF-H (分子量 200-220 kDa)、 NF-M (分子量145-160 kDa)、 NF-L (分子量68-70 kDa)と命名されています。軸索の内径を広げて、神経伝達がスムースに行われるようにするという説があります(14)。

類似したタンパク質にα-インターネキシン(分子量66kDa)というのがありますが、図9のようにニューロフィラメントタンパク質(グリーン)とは異なる細胞(図9の場合は未分化な神経細胞 レッド)に発現する場合があります。神経細胞にはこの他にネスチン、ペリフェリンなどの中間径繊維形成タンパク質も発現します。

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最後にラミンですが、ラミンだけは核に局在しているタンパク質で、ラミン繊維は核ラミナと呼ばれる核膜を裏打ちしている構造となっています。初期の研究は Aaronson RP と Blobel G によって行われました(15)。10年後には遺伝子配列も明らかになりました(16)。

ラミンは真核生物が出現すると同時に生まれたのではないようです。ヒドラからヒトまですべての動物(後生生物)にあるのですが、植物・カビ・単細胞生物は持っていません。このことはラミンが動物独特の体細胞分裂に関与していることを示唆しています(17、18)。また核内での染色体の位置決めとかDNAの転写にも関与しているかもしれません(18)。

ラミンにはAタイプとBタイプがあり、それぞれ別の遺伝子にコードされています。CタイプとAタイプは同じ遺伝子にコードされており、選択的スプライシングによって生成されたものです。Cタイプも含めたAタイプは胎生期にしか発現しません。一方BタイプはB1・B2が別の遺伝子にコードされており、これらはすべての細胞に認められます。AタイプはBタイプから進化的に派生したと考えられています(17、18)。

とは言っても、Aタイプラミンの機能をBタイプラミンが代替できるわけではなく、マウスではAタイプラミンの欠損によって、成長が著しく遅れ、筋ジストロフィーが発生するそうです。またラミンBの欠損は致死です(18)。ラミンの局在は、参照に記載したサイトをご覧ください(19-22)。

参照

1)Compendium of Materia Medica:https://en.wikipedia.org/wiki/Compendium_of_Materia_Medica

2)The discovery of keratin. http://keratininformation.weebly.com/discovery.html

3)Hanukoglu, I.; Fuchs, E., "The cDNA sequence of a human epidermal keratin: divergence of sequence but conservation of structure among intermediate filament proteins". Cell. vol. 31 (1): pp. 243–252.  (1982) doi:10.1016/0092-8674(82)90424-X. PMID 6186381.

4) Franke WW, Schmid E, Osborn M, Weber K. Different intermediate-sized filaments distinguished by immunofluorescence microscopy. Proc Natl Acad Sci USA vol. 75: pp. 5034-5038 (1978)

5)http://www.sueddeutsche.de/sport/anti-doping-experte-werner-franke-in-der-zweiten-halbzeit-wirkt-sich-epo-fantastisch-aus-1.2379897

6)https://en.wikipedia.org/wiki/Vimentin

7)Eckes B, Colucci-Guyon E, Smola H, Nodder S, Babinet C, Krieg T, Martin P., "Impaired wound healing in embryonic and adult mice lacking vimentin.". Journal of Cell Science. vol. 113: pp. 2455–2462. (2000) PMID 10852824.

8) Izant JG, Lazarides E.,  "Invariance and heterogeneity in the major structural and regulatory proteins

of chick muscle cells revealed by two-dimensional gel electrophoresis". Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. vol. 74 (4): pp. 1450–1454. (1977) PMC 430794 Freely accessible. PMID 266185. doi:10.1073/pnas.74.4.145

9)Li Zhenlin, Alain Lilienbauma, Gillian Butler-Browneb, Denise Paulin., Human desmin-coding gene: complete nucleotide sequence, characterization and regulation of expression during myogenesis and development., Gene, vol. 78, Issue 2,  pp. 243–254 (1989)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0378111989902278

10)Capetanaki Y1, Milner DJ, Weitzer G., Desmin in muscle formation and maintenance: knockouts and consequences., Cell Struct Funct., vol. 22(1): pp. 103-116. (1997)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9113396

11)デスミンミオパシー,デスミン遺伝子の突然変異による心筋ミオパシーを伴った骨格筋ミオパシー: 
http://www.nejm.jp/abstract/vol342.p770

12)Panagiotis Koutakis et al., Abnormal Accumulation of Desmin in Gastrocnemius Myofibers of Patients with Peripheral Artery Disease: Association with Altered Myofiber Morphology and Density, Mitochondrial Dysfunction and Impaired Limb Function., Journal of Histochemistry and Cytochemistry (2015)
https://www.researchgate.net/publication/270705709_Abnormal_Accumulation_of_Desmin_in_Gastrocnemius_Myofibers_of_Patients_with_Peripheral_Artery_Disease_Association_with_Altered_Myofiber_Morphology_and_Density_Mitochondrial_Dysfunction_and_Impaired_Li

13)F.C. Huneeus. and P.F. Davison,  Fibrillar proteins from squid axons: I. Neurofilament protein, Journal

of Molecular Biology, vol. 52, Issue 3, pp. 415-418 (1970).
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022283670904109#

14)https://en.wikipedia.org/wiki/Neurofilament

15)Aaronson RP, Blobel G., Isolation of nuclear pore complexes in association with a lamina. Proc Natl Acad Sci vol. 72: pp. 1007–1011 (1975)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2964183/

16)McKeon FD, Kirschner MW, Caput D., Homologies in both primary and secondary structure between nuclear envelope and intermediate filament proteins. Nature 319: 463–468 (1986)

17)https://en.wikipedia.org/wiki/Lamin

18)Thomas Dechat, Stephen A. Adam, Pekka Taimen, Takeshi Shimi,and Robert D. Goldman, Nuclear Lamins., Cold Spring Harb Perspect Biol;2:a000547 (2010)

19)http://www.abcam.co.jp/lamin-b1-antibody-nuclear-envelope-marker-ab16048.html

20)http://www.abcam.co.jp/lamin-a-antibody-ab26300.html

21)https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/antibodies/primary-antibodies/cell-marker-antibodies/lamin-ac-antibodies.html

22)http://ruo.mbl.co.jp/bio/dtl/A/?pcd=PM064

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2017年6月 4日 (日)

やぶにらみ生物論75: 細胞骨格2

真核生物のチューブリン・アクチン・ケラチンについて、基本的なことはすでに以前に述べています(1)。従ってここではもう少し進んだ話題、または別の話題を取り上げます。

まずチューブリンについて。チューブリンにはいずれも分子量約5万の α と β があり、通常 α と β が結合してαβ の形で存在します。このほか動原体にある γ 、中心体にある δ と ε などが知られています。微小管はαβ がタンデムに連結したプロトフィラメント(αβαβαβαβ・・・)同士がパラレルに11~16本結合して、中空のチューブを形成しています(図1)。微小管は細胞分裂の際には紡錘体を形成し(図2)、鞭毛・繊毛においても特殊な配列をとりますが(図2)、一般的には細胞質全体にひろがって存在します(図1)。

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α  と β はヘテロダイマーとして行動し、αβαβαβαβ・・・という形でプロトフィラメントが形成されるので、プロトフィラメントには極性が存在します。しかもフィラメント同士はパラレルなので、微小管全体として極性が発生し、β側を+末端、α側を-末端と呼びます。β 側でフィラメントが伸長し、α 側で崩壊するという意味での+-なのですが、-末端は比較的安定で、+末端は-末端より頻繁に大規模な崩壊(カタストロフ)や修復(レスキュー)を繰り返していることがわかってきました(図3、参照 2、3)。

カタストロフの過程では、プロトフィラメントの末端からGTP結合チューブリンの脱落からはじまるフィラメントの短縮だけでなく、フィラメント同士の接着もはがれるようです(図3、参照 3)。

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このような微小管の動態を制御しているタンパク質群はMAPS(microtubule-associated proteins、4、5)、+TIPS(6)など非常に数多く、微小管の機能や制御の多彩さを示しています。あまりに複雑怪奇なので、私はこの方面になるべく関心を持たないようにしようと思っていました。それ故に、現在でもまだ未知の現象が多い宝の山かもしれません。

もうひとつ微小管の重要な役割は、細胞の中の道路として機能することです。ダイニンやキネシンはATPをエネルギー源として微小管上を袋(ベシクル)をかついで「歩行」し、細胞の隅々まで物質を届けます(図4)。神経細胞の軸索などは1mくらいの場合もあるので、ダイニンやキネシンのようなモータータンパク質を使わないと、必要な物質を末端まで供給できません。

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次はアクチンです。チューブリンを発見・精製・命名したのは戦後間もない日本の毛利秀雄でしたが、アクチンの発見者も当時科学では辺境の地であったハンガリーのブルノ・フェレンツ・シュトラウプでした。彼はハトの筋肉をすりつぶし、アセトンにいったん溶かして乾燥し、アセトンパウダーを作成して、そこからアクチンを抽出・精製しました。今でもアクチンの精製には、基本的にシュトラウプの方法が使われています(7)。

アクチンは単独の分子の場合G-アクチンともいい、G-アクチンが連結して線維を形成している場合F-アクチンといいます。Fアクチンにざまざまな制御タンパク質が結合してマイクロフィラメントが形成されますが、千差万別になって表現できないので、図5ではアクチンのポリマーとして示してあります。

マイクロフィラメントには微小管と同様+末端と-末端があり、ATPが結合したGアクチンが+末端に結合してフィラメントを伸ばし、ADP-Gアクチンが-末端から脱落してフィラメントを縮めるということになります。図5の下図をみると、マイクロフィラメントは細胞がある方向に伸長している場合、その伸長方向に平行に伸びている場合が多いことがわかります。また細胞膜近傍に顕著に観察されます。

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真核生物が誕生したとき、生物の生き方に関するひとつの革命が起きました。それは水中を浮遊したり泳いだりして生きるのではなく、固体に密着して生きるということです。そして移動には鞭毛ではなく、アメーバ運動を利用する生物が生まれました。アメーバ運動をするためには仮足が必要です。仮足には図6Bのような糸状仮足(フィロポディウム)と図6Cのような葉状仮足(ラメリポディウム)があります。いずれも仮足の先端部にはマイクロフィラメントが密集していて、マイクロフィラメントの伸長・短縮によって仮足が動いていることが示唆されます。

一方でマイクロフィラメントの基部には微小管が集結しています。あたかもマイクロフィラメントの枝を微小管の幹がささえているようなイメージです。糸状仮足が伸びるということは、マイクロフィラメントの+末端にGアクチンが次々と結合している状態に他なりません。

BCと異なり、Aではマイクロフィラメントが赤になっていることに注意してください。動いていないAのような細胞では、マイクロフィラメントは細胞膜の裏打ち構造を形成しています。細胞質のマイクロフィラメントは太い束にならず、細胞全体に分散しているように見えます。ただし方向はランダムではなく、パラレルな感じで分布しています。一方微小管(緑)は核の周辺に密集し、そこから部分的に細胞の辺縁に伸びているように見えます。

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アクチンは細胞の形態を決める細胞骨格としての役割以外に、細胞運動にもかかわっていますが、さらに細菌や古細菌ではFtsZが担っていた細胞分裂の主役も、真核生物ではアクチンが担うようになりました。図7のようにアクチンが分裂溝に集結しています。

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私達のような動物では、アクチンはミオシンという別グループのタンパク質と協力して筋肉という組織を形成して、これを使って歩行したり、キーボードをたたいたり、胃腸を動かしたり、心臓を収縮させたりしています。横紋筋にはサルコメア(筋節)という収縮の単位構造があり、この中にアクチン線維とミオシン線維が交互に配置されていて、その相互作用により筋収縮が行われています(図8)。

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このことは1954年に Andrew Fielding Huxley ら(8、図9)と Hugh Esmor Huxley ら(9、図9)によって同時に発表されました。しかしミオシン線維の中にアクチン線維が滑り込むといういわゆる「すべり説」は、現在でも基本的に正しいとされているにもかかわらず(10)、二人ともこの件ではノーベル賞を授与されていません。江橋節郎(図9)がカルシウムが筋収縮のシグナルであることを発見したにもかかわらずノーベル賞を授与されなかったのも、このことが影響していると思われます。

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江橋節郎は「カルシウムと私」という文のなかで、カルシウム説を学会で発表した当時の様子を次のように述べています:

「“座長のハンス・ウェーバーが 「討議の結果、カルシウム説は明らかに否定された」と宣言するや、娘のアンネマリー・ウェーバーは激昂して絶叫し、エバシは日本語でわめいた。皆は腹をかかえて笑った” 座長は、皮肉なことにアンネマリーの父であり、当時筋研究の泰斗として世界に知られるハンス・ウェーバーだった。アンネマリーが激昂して絶叫したのも本当だし、私がわめいたのも本当である。しかし、いかに興奮したとはいえ、日本語を使うはずがない。私の英語が誰も理解できなかったのである。この会議で、2人はまさにピエロだった。厳格な父親のウェーバーは、娘が変な日本人に引っ掛かって困っていると言っていたそうだ。」(11)。

勿論現在ではカルシウムがトロポニン・トロポミオシンを介して筋収縮を制御している・・・細胞内のカルシウム濃度が上昇する際に収縮し、下降するとき弛緩する・・・ということは明らかとなっています(図10)。

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「すべり」は当然ミオシンとアクチンの分子的相互作用によっておこるわけですが、そのメカニズムについては当初ミオシン分子がATPのエネルギーを用いて変形し、そっれに伴ってアクチンが動くという「首振り説」(図8)が有力でしたが、その後柳田敏男らがミオシン分子滑走モデルを提出し(12、図8)、激烈な論争になりました。

私には詳細はよくわかりませんが、首振りのような動作ではなくても、ミオシンの分子変形がアクチンの動きに関与していることは否定しがたい事実のようです(13、14)。ただし1個のミオシン分子の変形によって、接するアクチンの移動する距離を説明することはできないので、さらなる研究が必要です(15)。

参照

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2017/02/post-ef6b.html
  http://morph.way-nifty.com/lecture/2017/02/post-2862.html

2)Tim Mitchison & Marc Kirschner, Dynamic instability of microtubule growth., Nature vol. 312, pp. 237 - 242 (1984); doi:10.1038/312237a0

3)伊藤知彦: 微小管 動態の基礎 in  「細胞骨格と細胞接着」 蛋白質 核酸 酵素 vol. 51, pp. 529 - 534 (2006)

4)小谷 亨、松島一幸、久永眞市: 微小管結合タンパク質の構造と機能 蛋白質 核酸 酵素 vol. 51, pp. 535 - 542 (2006)

5)https://en.wikipedia.org/wiki/Microtubule-associated_protein

6)Anna Akhmanova and Michel O. Steinmetz, Microtubule +TIPs at a glance.,  J Cell Sci., vol. 123(10), pp. 3415 - 3419 (2010)
https://pdfs.semanticscholar.org/3f9f/197f841548e9cd9f886ca76e58bfe77b7942.pdf

7)水野 裕昭、山城 佐和子: アセトンパウダーからのATP, ADPアクチンの精製 日本細胞生物学会HP
http://www.jscb.gr.jp/protocol/protocol.html?id=25

8)HUXLEY AF, NIEDERGERKE R., Structural changes in muscle during contraction; interference microscopy of living muscle fibres. Nature. Vol. 22;173(4412): pp. 971-973. (1954)

9)HUXLEY H, HANSON J., Changes in the cross-striations of muscle during contraction and stretch and their structural interpretation. Nature. Vol. 22;173(4412): pp. 973-976. (1954)

10)W. O.Williams, Huxley’s Model of Muscle Contraction with Compliance., Journal of Elasticity, Vol. 105, Issue 1,  pp. 365–380 (2011)
http://www.math.cmu.edu/~wow/papers/complmusc.pdf

11)生命誌ジャーナル12号 JT生命誌研究館

12)http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1140

13)上田太郎、ミオシン首振り説:部位特異的変異による検証から構造遺伝学によるメカニズム解明へ。生物物理 Vol. 37 No.1 pp.331-335 (1997)

14)Lauren J. Dupuis, Joost Lumens, Theo Arts, Tammo Delhaas, Mechano-chemical Interactions in Cardiac Sarcomere Contraction: A Computational
Modeling Study., PLOS Computational Biology,  | DOI:10.1371/journal.pcbi.1005126 October 7, (2016)
http://journals.plos.org/ploscompbiol/article?id=10.1371/journal.pcbi.1005126

15)http://brownian.motion.ne.jp/16_FlexibleMolMachine/03_IsMascleMorter.html

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2017年5月25日 (木)

やぶにらみ生物論74: 細胞骨格1

250pxtaraibune1船は船の格好をしているので、漕げば思う方向に進むのであって、これが不定形のふにゃふにゃとしたものであれば、乱流が発生して漕ぐのはとても困難になるでしょう。

左の写真はウィキペディアから佐渡のたらい船ですが、実際にこれを漕いでみた方は、その困難さに驚いたのではないでしょうか?

https://www.tripadvisor.jp/ShowUserReviews-g1021355-d1947724-r278970072-Rikiya_Kanko_Kisen-Sado_Niigata_Prefecture_Chubu.html)。

ですから細菌がピンと張った船あるいは棒状の細胞であることは重要です。彼らは唯一の複雑で高級な備品である鞭毛を動かし、栄養物質を求めて泳ぎます。細菌はアメーバのような方法で移動することはできません。

脂質で構成されている細胞膜ではこのような堅さは実現できません。そこで細菌は糖ペプチドや糖脂質でできた細胞壁で細胞を被って、丈夫でかつ鞭毛で泳ぎやすい細胞を作り出しました。細菌にも細胞骨格があるという話を聞いたときには、おそらく硬い屋根のような構造には梁が必要だろうと思ったわけですが、事はそう単純ではありませんでした。

真核生物の細胞骨格には、チューブリン系・アクチン系・ケラチン系の3つのグループのタンパク質群が存在します。細胞骨格という名前からは骨のような硬い物質が連想されますが、そうではなく、分子が重合して繊維状の構造を形成できる物質と考えた方が近いと思います。ひとつ注意したいのはカイコの繭やクモの糸などは繊維状のタンパク質重合体ではありますが、細胞の外に出て機能するものは細胞骨格とは言いません。

細菌の細胞骨格研究の萌芽は、1991年のバイとルトケンハウスによる FtsZ の局在に関する研究でした(1)。どうして真核生物に比べて、細菌の細胞骨格研究が著しく遅れたかというと、それは細菌におけるタンパク質の局在は、光学顕微鏡で研究するのはターゲットが小さいためなかなか難しく、電子顕微鏡に頼らざるを得なかったからです。電子顕微鏡によるタンパク質の同定(免疫電顕)には多くの技術的制限があって、一筋縄ではいかないことが多いのです。

バイとルトケンハウスの研究をまとめたのが図1(左)です。真核生物の収縮環にアクチンが集合するのはわかっていたので(図1右)、細菌型アクチンかと色めき立ったのですが、真相はもっと驚くべきことでした。デブール(図1)らとレイチャンドゥーリらは1992年、FtsZ がアクチンではなくチューブリンのホモログであることを発表したのです(2、3)。細菌ばかりでなく、一般的に古細菌もFtsZ を使って細胞分裂を行うようです(4)。

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FtsZ は20世紀の中頃、広田幸敬が細胞分裂の温度感受性突然変異体を多数作ったなかに、この遺伝子のミュータントがみつかっていました(5)。これがチューブリンのホモログだなんてきっと墓の中で驚いていることでしょう。ようやく1990年代になってその研究が端緒についたわけです。まだ FtsZ がどのように分裂溝形成にかかわっているかということは完全には解明されていませんが、細胞膜と結合するためのアンカーや制御因子の研究は進んでいるようです。この遺伝子を分裂酵母に組み込んで発現させると、やはり分裂溝に集まってくるそうなので(6)、分裂溝となんらかの関係があることは確からしいです。

FtsZ は葉緑体にも存在し、驚くべきことに真核生物においては、真核生物にしかないダイナミンファミリーのタンパク質が太古のタンパク質 FtsZ と共同して分裂装置を形成するそうで、まさに10億年の時空を越えたコラボレーションです(7)。

私達ヒトのミトコンドリアはもはや FtsZ を持っていませんが、原生動物・藻類・粘菌など古参の真核生物のミトコンドリアは FtsZ を使って分裂しているようです(8)。

クインとマーゴリンは、大腸菌の細胞分裂時における FtsZ の局在をGFPラベルで示した美しい写真を、教育用に提供してくれているので図2に示しました。平常時にはラベルが分散しているのではっきりとはみえませんが、細胞分裂時には分裂溝に集結するのでよく見えます。

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図3は β-チューブリンと FtsZ の分子構造を比較したものですが(10)、素人目にもかなり似ている部分(サークル内)があるように思いました。

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このようにしてチューブリンのホモログはみつかりました。ではアクチンに類似した細菌タンパク質もあるのでしょうか? このことが判明したのは21世紀になってからでした。

MreB というアクチンスーパーファミリーに属するタンパク質が細菌に存在することを発見したのはフシニータ・ファン・デン・エントらでした(11)。アラインメントの結果、MreB は真核生物のアクチンとはわずか15%の一致でしたが、重合してケーブルを形成することや、細胞の形態を維持するために必須であること、3次元構造がよく似ていること(図4、参照12)などから、ホモログであると考えられています。MreB を欠損すると、大腸菌は棒状(ロッド状)の形態を失って球形の大きな細胞になり、娘細胞への染色体の分配がうまくできなくなって致命的となります(13)。

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MreB は細胞膜直下でコイル状やリング状に重合したケーブルとなって、細菌のロッド状構造を維持することができます(図5、14)。これはシュラフからテントへの昇格に例えられるでしょう。細胞分裂の際には真核生物の紡錘糸のような役割も果たしているようです(15)。しかしそれではチューブリンとアクチンの役割が細菌と真核生物で入れ替わったということになり、奇怪なミステリーです。ただチューブリン系は重合にGTPのエネルギーを、アクチン系はATPのエネルギーを使うという方式は十億年以上の時を越えてほぼ維持されているようです。

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MreB そのものは膜結合タンパク質ではないため、細胞膜直下に局在するためには他のタンパク質がアシストしてあげなければなりません。ファン・デン・エントらは図6のようなモデルを提出しています(16)。このモデルではRod Z というタンパク質が MreB と膜貫通タンパク質の両者と結合して、クランプの役割をはたしていることになります。

細菌のアクチンホモログの研究は21世紀になってからはじまったので、まだまだ解決しなければ行けない課題は多いと思います。ただこの種の研究はいまやカルトな趣味の世界にはいりつつあり、そのような世界で生きようとする人々には好ましい状況です。それでもこれは生身の生物についての科学ですから、どんなところに人類に有用な知識が潜んでいるかわかりません。

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細菌のアクチンホモログはMreBだけではなく、同じオペロンに含まれる MreC、MreDなどのほか、ParM というグループもみつかっています(図4、図7、参照12)。Mre B の役割としては、細胞分裂の際に図7のようにプラスミドDNAを細胞の両端に押し分け、片方の娘細胞に偏ってプラスミドが分配されないようにすることがわかっています(図7、参照10、12)。

図7の右側はParM がプラスミドDNAに結合したParRと結合していることを示しています。さらにフリーのParMは、ATPのエネルギーを使ってParM線維にDNA側から結合し、線維を伸長させることを示唆しています。

ガスパール・ジェケリーはその総説の中で、原核生物のタンパク質ネットワークは1)プラスミドのパーティショニング(ParMの語源)、2)細胞分裂のための装置、3)細胞膜の合成と細胞の骨組み のために発達してきたと述べています(16)。

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古細菌の細胞骨格研究はあまり進んでいないようですが、クレナクチンという真核生物のアクチンとよく似たアクチンホモログがみつかっています(18、19)。アクチンホモログの分子進化はおおまかには図8のようになっています。FtsA は分裂溝に出現するタンパク質です。

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最後にケラチン系のタンパク質についてみてみましょう。このグループがつくるケーブルは中間径線維と呼ばれています。真核生物の場合、アクチンがつくるケーブルはマイクロフィラメントと呼ばれており、径は5~9nm。チューブリンがつくるケーブルは微小管と呼ばれていて、径は約25nm。中間径繊維のケーブルの径は8~12nmで、マイクロフィラメントと微小管の中間的なサイズなのでそう呼ばれているわけです。

真核生物の中間径繊維をつくるタンパク質は多様で、ケラチン・ビメンチン・ニューロフィラメント・核ラミンなどがあります。細菌にもこのグループのタンパク質はみつかっていて、それはクレセンチンです(20、21)。細胞がロッド状でなくジェリービーンズのような格好をした菌、あるいはヘビのようにくねくねした形態の菌に、図9のように片側に偏った感じで配置されています。クレセンチンがあるサイドはテンションがかかっていて縮み、逆サイドは延びるということになります。両サイドが交互に重合と解離を繰り返せば泳げるかもしれません。

クレセンチンはウィキペディアによると、ケラチン19のアミノ酸配列を比較すると25%が一致し40% の領域で相同性が認められるそうです。核ラミンと比較しても同様なホモロジーがあるそうで、ケラチン系タンパク質の祖先であることは間違いないと思われます。

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脂質二重層でDNAを被えば、それは生物としての出発点といえるでしょうが、脂質だけの細胞膜は脆弱すぎるという問題があります。ですから細胞膜を多糖類やタンパク質で裏打ちしたり、その工事のために足場をつくったりするために細胞骨格が必要であったとは容易に想像できます。しかしジェケリーが言うように(17)、とりわけプラスミドDNAをうまく娘細胞に分離するために必要だったという考え方にもうなづけるものがあります。例えば図8の分子系統図をみるとMreBやFtsAより、ParMファミリーの方が古いタンパク質とされています。

参照

1)Erfei Bi and Joe Lutkenhaus, FtsZ ring structure associated with division in Escherichia coli., Nature vol.354, pp.161-163 (1991)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1944597
https://www.researchgate.net/publication/21210591_FtsZ_ring_structure_associated_with_division_in_Escherichia_coli

2)de Boer P., Crossley R., Rothfield L., The essential bacterial cell division protein FtsZ is a GTPase., Nature vol. 359, pp. 254-256 (1992)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1528268

3)RayChandhuri D., Park J. T., Escherichia coli cell-division gene ftsZ encodes a novel GTP-binding protein. Nature vol. 359, pp. 251-254 (1992)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1528267

4)http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/117098745/12

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/FtsZ

6)Ramanujam Srinivasan et al., The bacterial cell division protein FtsZ assembles into cytoplasmic rings in fission yeast. Genes and Development vol. 22, pp.

1741-1746 (2008)
http://genesdev.cshlp.org/content/22/13/1741.full

7)宮城島進也、葉緑体の分裂制御機構とその進化 植物科学最前線 vol. 5, pp. 21-36 (2014)

8)Kiefel BR1, Gilson PR, Beech PL., Diverse eukaryotes have retained mitochondrial homologues of the bacterial division protein FtsZ., Protist.  vol. 155 (1), pp. 105-115. (2004)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15144062

9)Qin Sun and William Margolin, FtsZ Dynamics during the Division Cycle of Live Escherichia coli Cells.,  J Bacteriol., vol. 180 (8):  pp. 2050–2056. (1998)

10)Yu-Ling Shih and Lawrence Rothfield, The bacterial cytoskeleton., Microbiol Molec Biol Reviews pp. 729-754 (2006)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1594594/figure/f1/

11)Fusinita van den Ent, Linda A. Amos & Jan Lowe, Prokaryotic origin of the actin cytoskeleton. Nature vol. 413, pp. 39-44 (2001)
http://www.ibt.unam.mx/computo/pdfs/cursosviejos/bcelular/procaryoticoriginofactin.pdf

12)Joshua W. Shaevitz and Zemer Gitai, The Structure and Function of Bacterial Actin Homologs, Cold Spring Harb Perspect Biol, 2:a000364 (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20630996

13)Kruse T, and Gerdes K., Bacterial DNA segregation by the actin-like MreB protein. Trends Cell Biol. vo. 15(7), pp. 343-345. (2005)

14)Figge RM, Divakaruni AV, Gober JW., MreB, the cell shape-determining bacterial actin homologue, co-ordinates cell wall morphogenesis in Caulobacter crescentus. Mol Microbiol. Vol. 51(5), pp. 1321-32. (2004)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14982627

15)生物史から、自然の摂理を読み解く 
http://www.seibutsushi.net/blog/2008/09/566.html

16)Fusinita van den Ent, Christopher M Johnson, Logan Persons, Piet de Boer, and Jan  Löwe, Bacterial actin MreB assembles in complex
with cell shape protein RodZ., EMBO J., Vol. 29(6), pp. 1081–1090 (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2845281/

17)Gaspar Jekely, Origin and evolution of the self-organizing cytoskeleton in the network of eukaryotic organelles. Cold Spring Harb Perspect Biol, 6:a016030 (2014)

18)Thierry Izoré, Danguole Kureisaite-Ciziene, Stephen H McLaughlin,  Jan Löwe,  Crenactin forms actin-like double helical filaments regulated by arcadin-2, eLife Vol.5:e21600 (2016)
https://elifesciences.org/content/5/e21600

19)Tatjana Brauna et al., Archaeal actin from a hyperthermophile forms a single-stranded filament.,Proc NAS USA vol.112, pp. 9340-9345 (2015)
http://www.pnas.org/content/112/30/9340.full

20)Nora Ausmees, Jeffrey R Kuhn, Christine Jacobs-Wagner, The Bacterial Cytoskeleton. An Intermediate Filament-Like Function in Cell Shape. Cell,Vol.

115, Issue 6, pp. 705–713, 12 December (2003)
http://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(03)00935-8?_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867403009358%3Fshowall%3Dtrue

21)Ausmees N, Intermediate filament-like cytoskeleton of Caulobacter crescentus. J Mol Microbiol Biotechnol. 2006;11(3-5):152-8.

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