カテゴリー「書籍・雑誌」の記事

2011年11月16日 (水)

横井庄一著「明日への道 -全報告 グァム島孤独の28年」

Photo_2日本政府はいよいよTPPという第2の太平洋戦争に打って出ようとしています。これで貧乏人が量産される可能性は高いと思いますが、それ以上にすべてのルールがアメリカ化されて、知らず知らずのうちに日本が消滅するのが残念です。

先日ギリシャの農民のドキュメントが放送されていましたが、ギリシャがEUに加入してから作物が売れなくなり、かわりに政府が補償金をくれるのですが、補償金をもらうために熱心に作物を作る人などはいないわけで、品質はどんどん低下し土地は荒れ果ててしまいました。民主党の松下政経塾グループの政策だと日本もいずれそうなるでしょう。TPPなどに参加する前から、円高になれば日本の主要企業は海外に逃避し、儲かるのは株主と会社経営者だけとなっています。

そんなことを考えていると、なぜかもう亡くなってから10年以上になる横井庄一さんのことを思い出しました。彼は赤紙で招集され、昭和19年(1944年)にグァム島に送り込まれます。グァム島は直後から米軍の標的となり、無茶苦茶な艦砲射撃で日本軍は壊滅。ジャングルに逃れた敗残兵も厳しい掃討作戦で次々と殺害されるなかで、昭和47年(1972年)に発見されるまで、彼は28年間も生き延び日本に帰還したのです。

彼の著書「明日への道」を読むと、彼がどうやって生き延びたかということが詳しく書かれています。特に食べることについては30年前のことも詳細に書かれていて、人間にとって食べるということがどんなに大切なことかわかります。また彼が最後の8年間より前にすごした2人との人間関係も興味深く書かれています。多分横井さんは大変注意深く慎重な人で(だからこそ生き延びられたと思います)、口うるさく頑固に他の二人にも自分の考えを押しつけようとしたのではないでしょうか。ですから他の二人と別居したりくっついたりする結果になったのでしょう。夫婦や友人同士でも、そんな関係の人は多いのでしょう。

TPPに参加しないでさびれた日本になったとしても、水と食料さえあれば人は生きられるのです。TPPに参加して一部に潤う人々がいても、食糧自給率が14%と聞くと、食料を100%自給で生き延びた横井さんがご存命なら、何とコメントされるのでしょう? 横井さんは小川の近くで暮らしていて、エビやウナギを食べ、芋を栽培し、野生植物も利用して生き延びたのです。痛恨だったのは火をつけるためのレンズをある事件でなくしてしまったことで、これがあればもっと楽にグレードの高い生活ができたでしょう。日本人は再び彼の著書を読んで、もっと農業・漁業・食料の生産を重視した生き方に目覚めるべきではないでしょうか。

最後に彼の言葉を引用しておきます・・・<戦争は終わったのか。戦争の責任を国は取り終えたのか。友軍の魂は「そうではない、お前が出て行って是非政府にことの真相を訴えてくれ」と私に告げているのです>。

「明日への道 -全報告 グァム島孤独の28年-」横井庄一著 文藝春秋社刊(1974)
残念ながら絶版のようですが、今のところ中古本は容易に入手可能です。

横井庄一記念館のサイト:http://www.kuronowish.com/~oshika18/newpage201.htm

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2011年9月27日 (火)

「僕の音楽物語 (1972-2011)」 by 平野肇

平野肇さんは、私のイメージとしては西島三重子のライヴでパーカッションを担当しているややダンディなおじさんという人なのですが、三浦友和扮する昆虫巡査の作者でもあります。

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彼が今度本を出版しました。「僕の音楽物語 (1972-2011)」祥伝社刊(2011) という自伝なのですが、なんと自伝がそのままJPOPの歴史を語るという内容になってしまうという、彼はとんでもない偉大な人物だったのです。彼が演奏活動や、人生のいろいろな場面でかかわった、この本に登場する人々は帯に連記してありますが、その名前を見れば納得していただけるでしょう。

初期のユーミンのレコーディングはキャラメルママが担当していましたが、ライヴ活動をサポートしていたのは彼のバンド「パパレモン」や「ダディーオー」だったそうです。ユーミンは「ルージュの伝言」でブレイクしましたが、そのバックはダディーオーが担当したそうです。

この本で最もショッキングなエピソードは、その「ルージュの伝言」を含むユーミンのサードアルバム「コバルトアワー」の制作です。ライヴでの実績を認められ、大ヒットが期待されるこのアルバムのバックをダディーオーが担当することになり、上々のできあがりで完成した後、社長の鶴の一声で全ボツになったというお話で、ライヴ色が出すぎたのが問題だったそうです。

ちなみに私の棚からコバルトアワーを出して、制作メンバーをみてみると、あまりにも見にくい印刷で(誰がこんなものを作ったのでしょう)、虫眼鏡でも字が判別しにくいというものでしたが、拡大してみると、確かに矢印で示すように Daddy Oh という文字が判別できます。最終的に「ルージュの伝言」と「何もきかないで」だけはOKが出たようです。

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この本は暴露本ではなく、結構まじめにポピュラー音楽の本質を探求した本だと思います。特にユーミンや岡林信康のひととなりや考え方は詳しく述べられていて、面白く感じました。平野さんが慶応大学経済学部を出ていることをかわれて、鈴木キサブロー氏のマネージャーをやっていたというくだりには、申し訳ないけど笑ってしまいました。さらに私的には西島三重子のテイチク時代のアルバムで唯一CD化されている 「Bye-Bye」 のサウンドプロデューサーである今泉敏郎氏が亡くなっていることがショックでした。

平野肇さんのウェブサイト:http://homepage2.nifty.com/kf-studio/top.htm

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2011年8月21日 (日)

「原発はいらない」 小出裕章著 

1「原発はいらない」小出裕章著 幻冬舎ルネッサンス新書 2011年刊

小出さんは3月11日以降非常に忙しくなって、体が10個ほしいような状態だそうで、この本も編集者の方が著者の発言を文字に落として、それを著者と編集者がチェックするという形で制作されたそうです。そのわりには多くの情報が非常に良くまとめられていて、著者だけでなく、峯晴子さんという編集者の能力が素晴らしいことが感じられます。

福島第一原発は津波が来る前にもうパイプの破損で冷却水が漏れていて、メルトダウンへの道を歩んでいたこと、地震が発生すればもっと危険な原発があちこちにあること、プルサーマル発電が極度に危険であること、六ヶ所再処理工場は閉鎖すべきであることなどが、きちんと論理的に説明されています。さらに「もんじゅ」でドブに捨てられた1兆円の責任は、著者の言うように誰かが(一人ではない)とらなければならないと思います。

私が初めて知って驚いたのは、原子力安全委員会は議事録がない会議をしばしば開いていたということで、国家の安全に責任がある委員会としては信じられない話だと思いました。197ページの図をみると、原発が決してエコではなく、著者の言うように「究極の毒物製造装置」であることがわかります。

著者の提案で賛成できるのは、食べ物にR指定を導入すること(子供は放射線感受性が高い)、汚染したがれきや放射性廃棄物を福島第一原発周辺に集積することです。政府もようやく原発周辺への住民の帰還が困難であることを認めたので、実現の可能性が出てきました。また著者の「地球は人間だけのものではなく、すべての生物のものである」という考え方には共感しました。著者は本書2ページ目ではやくもペットや牛の悲惨な状況に言及しています。

地球が原発事故で安全な食べ物がなくなったり、エネルギー争奪戦で血みどろになったりするまえに、日本の企業や政府がクリーン・無害な発電のモデルを日本に実現してくださいとお願いしたいです。私が今不安に感じているのは民主党代表候補の中に、明確に核燃料サイクルを廃止すると発言している人がいないことです。菅総理は自分のキャリアの最後に、植物党という政党を作って活動したいと述べていましたが、冗談ではなく新政党が必要な時が来ているのかもしれません。

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2011年7月17日 (日)

Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment (Annals of the New York Academy of Sciences)

Cherbnobylpowerplanttodayチェルノブイリの原発事故の生物に対する影響についての詳しい書籍が出版されています。Annals of the New York Academy of Sciences という雑誌は、ニューヨーク科学アカデミーが出版する権威ある純学術雑誌で、政治とは全く無関係です。これまで考えられていたよりも、事故の生物の健康への影響が甚大だったことが報告されています。

写真(チェルノブイリ原発)はウィキペディアより

Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment (Annals of the New York Academy of Sciences)
by Alexey V. Yablokov , Vassily B. Nesterenko, Alexey V. Nesterenko, and Consulting editor Janette D. Sherman-Nevinger

Annals of the New York Academy of Sciences  Volume 1181 (2009)

編集者である Janette D. Sherman-Nevinger 博士へのインタビュー。これは日本語の字幕も出ますし、誰でも理解できる内容です。しかし博士が話している内容は、私にとって驚天動地のものでした。例えば・・・WHOはIAEAの同意がなければ論文を発表できない・・・という協定があるというのは信じられないお話でした。またこの事故による放射能の影響で亡くなった人の数が98万5千人というのも驚きです。
http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/

本は現在取り扱われていないようですが(↓)、内容はダウンロードできます(↓↓)。
http://www.amazon.co.jp/Chernobyl-Consequences-Catastrophe-Environment-Sciences/dp/1573317578/ref=sr_1_2?s=english-books&ie=UTF8&qid=1310803834&sr=1-2

要旨ダウンロード
http://www.independentwho.info/Documents/Etudes/Resum_AnnalesNY2009_EN.pdf

全文ダウンロード
http://www.strahlentelex.de/Yablokov%20Chernobyl%20book.pdf

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2011年7月15日 (金)

「Chemical and physical behavior of human hair 4th edition」 by Clarence R, Robbins なんじゃこれは!

1Dr. Robbins の「Chemical and physical behavior of human hair. 4th edition」という本です。483ページの分厚い本です。2010年に Springer のニューヨーク支社が出版しました。内容は主にコズメティック・美容関係の研究者のために、毛髪の科学を概説した教科書で、きちんとまとめてある良書ではあります。

問題は第4版というところにあります。このような本格的な教科書の改訂版を出すとすれば、前版からの研究の進歩を調べて新しい知見を追加し、文献を追加し、内容の説明もそれにあわせて改訂するというのは当然の作業でしょう。

ところがこの本には(2010年出版にもかかわらず)2000年以降の文献が全く追加されていません。わずかに数点の写真をさしかえるだけで、第4版と銘打つというのは妥当とは言えないでしょう。詐欺とまではいいませんが、著者と出版社の見識が疑われます。

本はウェブ書店で買えばよいと思っていた私ですが、やっぱり本屋で手にとってみてみなければダメな本もあるのだということを痛感させられました。これから電子書籍ブームが到来すると予想されていますが、立ち読みができないというのは、大きな落とし穴にはまる可能性もあります。

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2011年6月30日 (木)

「絶滅した奇妙な動物」 川崎悟司著

1川崎悟司氏はイラストレータが本職の方だと思いますが、古生物の化石など学術的な側面にも造詣が深く、正確な古生物のイラストを発表しておられ、私も参考にさせてもらっています。この本の表紙にはイラストレータではなく、古生物研究家という肩書きがついています。これはこの本のイラストがファンタジーではなく、科学的な根拠に基づいていることを宣言したものなのでしょう。

彼の世界を知る入門書として、「絶滅した奇妙な動物」2009年ブックマン社刊(¥1,500)は手頃です。面白い生物満載ですが、私が特に興味を持ったのは、68ページのプロバイノグナトゥスという三畳紀のキノドン(哺乳類にきわめて近いは虫類)の一種です。また哺乳類とキノドンの関係についても興味深い学説が紹介してありました。初期の哺乳類は、長い時間をかけて成長するは虫類とくらべて、ネズミのようにきわめて短い期間に成熟する(すなわちキノドンの子供のような形態のまま繁殖可能な性的機能を獲得した)、いわゆるネオテニー(こちら)によって進化した生物だというお話です。

川崎さんのプロバイノグナトゥスのイラストには、しっかりとヒゲが描いてありました。しかし体毛は描かれてないようです。このあたりが微妙で面白いと思いました。この本に描かれている動物はカンブリア紀以降のものですが、カンブリア紀の初期には、すでにミロクンミンギアという原始的な魚類らしき生物(魚類ですから脊椎動物です、この本にも描いてあります)が存在しており、実はもっと昔から動物は進化してきたことは明らかなのですが、まだ化石・・・特に動物の化石には信頼すべきものが少なく、川崎さんもこの本にカンブリア紀以前の生物を収録するのは避けておられるようです。

本を買うほどではないという方も、下記のサイトに多くのイラストがあるので、一度ご覧になってはいかがでしょうか。

HP古世界の住人:http://www.geocities.co.jp/NatureLand/5218/
ブログ:http://ameblo.jp/oldworld/

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2011年5月 6日 (金)

放射性廃棄物 小出裕章著「隠される原子力 核の真実」

Koide 福島第一原発から大量の放射性廃液を海に廃棄したときに、世界中から厳しく非難されるかと思いきや、韓国・ロシアなどから多少おこられたくらいですんだのが不思議でした。そこで少し調べてみると、実は英国やフランスの使用済み核燃料再処理施設からは、常時大量の放射性物質が放出されていることを知り、そりゃ他の国を非難することはできないなと納得しました。日本でも六ヶ所再処理施設が稼働しはじめると、英仏などと同じ立場に立つことになります。

http://twib.jp/entry/yqS5HX
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/nuclear/images/n0800206.pdf
「隠される原子力・核の真実」小出裕章著 創史社 2010年刊

イタリアはすごいです。マフィアが放射性廃棄物を船に積んで地中海に沈没させ、海を汚染させているそうです。2009年の時点ですでに30隻以上と言われています。船は難破などによって沈没したことになっていますが、乗組員はみんな早々と逃げて無事で、実は爆破して意図的に沈没させたものとみられています。不法投棄はマフィアの大きな収入源で、年間2兆円以上の利益があるそうです。

http://www.47news.jp/CN/200909/CN2009091601000638.html

上記の小出さんの著書には共感できる記述があります。
たとえば「もんじゅ」などという意味のない施設に1兆円ものお金をかけて、結局ドブに捨てることになった計画を作成した原子力委員会の歴代委員は「全員刑務所に入れるべきだ」と述べています(p43)。またこの本は福島原発事故の前に出版されたものですが、p61 にはまるで予言するかのように、福島原発でチェルノブイリ級の事故が起きた場合の汚染地図が描かれていてぞっとしました。細かいことを言えば、この本の中で古い単位であるキュリーで記述してある部分がありましたが、機会をとらえてベクレルに直して欲しいと思います。

ただ彼の「少欲知足(後述)」が解決の鍵だという考え方には、半分くらいの同意です。資本主義社会の仕組み自体がこのような考え方を許しませんし、別の仕組みができたとしても、地球全体としてエネルギー消費を減らすことは当分不可能だと思います。日本だけが小欲知足でいけば、日本は世界最貧国になり、失業者があふれる悲惨な社会が待っています。小出さんも自分の才能を地熱発電とか新しいエネルギーの開発にも使って欲しかったと思います。それでも半分同意という意味は、世界全体がこの仏教思想に共感を持ち、地球環境の破壊を防ぐための最低限の協定を締結して欲しいと願うからです。

少欲知足:足ることを知っている者は地べたに寝るような生活であっても幸せを感じている。しかし足ることを知らない者は天にある宮殿のような所に住んでいても満足できない。足ることを知らない者はいくら裕福であっても心は貧しい。

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2010年6月18日 (金)

凍った地球 by 田近英一

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地球は完全に雪と氷に被われたいわゆる「スノーボールアース」状態になったことがあるというというのは興味深い学説です。しかもその原因が生物にあるかもしれないというのはさらに興味深い話です。そこで田近英一氏の著書「凍った地球-スノーボールアースと生命進化の物語」(新潮選書 2009年刊)を購入して読んでみました。

プロローグと第1章のはじまりあたりはドキュメンタリータッチで、これは読みやすい本だと思わせますが、次第に専門的な内容になって、腰をすえて取り組まないといけない感じになります。生まれたばかりの地球は非常に高温だったようですが、雨が地面に届くようになると海や川ができて気温も一気に低くなってきます。もし気温が非常に下がって川が氷河になると、川底が削られて独特の石ころが堆積します。石ころが海まで運ばれて海底に堆積すると、地層となって後生に残されることになります。

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スノーボールアース説を提唱したのはカーシヴィンク博士で、氷河堆積物の上の地層に酸化鉄の層が形成されていることを、「海が凍結していて分厚い氷がバリアとなり、空気中の酸素が供給されなかったのが、溶けた時に一気に酸素が供給されて海水中の鉄が酸化されて沈殿した」と説明したこと、「スノーボールアース状態が火山の噴火による二酸化炭素の増加によって、二酸化炭素の地球温暖化効果によって解消される」という考え方を提唱したことに特徴があるとされています。この重要な仮説は1992年に発表されましたが、田近氏はこの領域の専門家でありながら、かなり後までこの仮説の存在を知らなかったそうです。田近氏だけでなく、多くの研究者も知らなくて、当初あまり注目されなかったのでしょう。

その後ホフマン博士らは当時の赤道に氷河があったことを示し、また炭素同位体の解析から、当時は生命活動がほとんで停止していたこと(普通の氷河期ならマンモスなどそれなりの生命活動は存在する)、炭酸塩の沈殿の層がみられるなどスノーボールアース時代があったことの科学的証明を行いました。最後の点についてもう少し述べると、スノーボールアース時代は水が蒸発しないので雲はできず毎日が晴天でした。川は流れず、海が完全に凍ると氷河も動かず、一切の浸食活動が停止します。そしてこの時代が終わると一気に金属イオンが海に流れ込み、炭酸塩が沈殿したというわけです。

問題はシアノバクテリアによる酸素の増加とスノーボールアースとが関連しているかどうかということです。図の左は私が調べて書いたもの、右はこの田近氏の著書の図の引用ですが、まず原生代後期のスノーボールアースですが、もしシアノバクテリアの光合成によって二酸化炭素が消費され、同時に発生した酸素(オゾン)がメタンなどの地球温暖化物質を破壊したため地球寒冷化が進展したとすれば、すでに20億年前には繁栄していたシアノバクテリアの効果が7億年前になってやっと出てくるというのはおかしな話ですし、最近の研究によれば27億年前シアノバクテリアが生きていたという説にも強い疑問が抱かれているようです。実際にはシアノバクテリアは22億年位前に誕生したようです。そうだとすると原生代前期のスノーボールアースもシアノバクテリアのせいかというと、かなり微妙になってきたようです。

最後にスノーボールアース時代にどうしてシアノバクテリアや真核生物・多細胞生物が生き延びることができたのかという問題があります。スノーボールアイス時代が終わってから(エディアカラ紀から)真核生物・多細胞生物が発生したという可能性は、遺伝子の解析によって否定されています。シアノバクテリアが生きていくためには光合成が必要なので、1000メートルもの分厚い氷の下の真っ暗な海では生存できません。スノーボールアース時代であっても、海底火山の周辺では生物が生きていくのに好適な環境だったという説もありますが、長期間にわたってそんなに都合良く海底火山の適度な活動が維持されているのかという疑問もあります。最近の考え方としては、スノーボールアースは不完全なもので、一部の地域は全面凍結まではいかなかったのではないかという説もあるらしいです。

二酸化炭素は長い目で見れば、カンブリア紀以降にも火山活動の変化などによる大きな変動があって、恐竜が生きていた白亜紀などでは非常に増加し、温暖化が進んで現在よりも地球の平均気温が10℃くらい高かったこともありました。ただ現在の二酸化炭素増加は地球のこれまでの歴史ではあり得ないスピードで進んでいることが問題なのだそうです。この結果どんなことが起こるかは、過去の気象を研究したりシミュレーションをやっている研究者達もはっきりとは予測できません。「The day after tomorrow」という映画がありましたが( http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%83%BC )、あながち映画だけの話とは思われません。このような異常気象がおこるかもしれないことは科学者達も警告しているようです。

この本は類書がありませんし、きちんと書いてある良い本なのですが、私としては最初にカーシヴィンク博士とホフマン博士の話を出しておきながら、内容の説明が80ページまででてこないというのは非常にじらされた感じでイライラしました。

ひとつしかない地球なので、十分な監視と研究を怠らないことと、それに基づいた科学的対策を講じることが重要でしょう。

参照:

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%B9

http://en.wikipedia.org/wiki/Snowball_Earth

http://www.gps.caltech.edu/~jkirschvink/pdfs/firstsnowball.pdf

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1183582/pdf/pnas-0504878102.pdf

CO2の赤外活性化:
http://www7a.biglobe.ne.jp/~falcons/onshitsu_gas.html

瑠璃色の地球:
http://www.youtube.com/watch?v=BrLGFNisajY&feature=related

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2010年5月31日 (月)

マークスの山 連ドラになる

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5月23日の記事の中で白根北岳の写真を掲載しましたが、なんと高村薫の「マークスの山」が今秋WOWOWで連ドラになるそうです。もちろんマークスの山とは白根北岳のことです。もう十数年前に出版された小説を、よくもとりあげてくれたものです。

日本の山でどの山が好きかと問われれば、何十回も登った六甲山も捨てがたいのですが、やはりたった1回だけ登った白根北岳を第1位にあげたくなるほど素晴らしい山です。長いアプローチ(今ではハイシーズンには登山口までバスでいけるようになりましたが)、広大で深い森、大規模な雪渓、多くの種類の高山植物、そそり立つ大岩壁、調和のとれた美しいフォルム、見晴らしの良い頂上、など山の魅力をすべて兼ね備えています。
http://www.wowow.co.jp/dramaw/marks/

この小説は1995年に一度映画化されていて、私は映画館で鑑賞し、さらにビデオ(写真)を買って何度か見ました。良い映画なのですが、やはりこの長編小説を2時間ちょっとの長さにおさめるのは難しく、ばっさりカットされた部分もあり不満は残りました。今回は連ドラということで本に忠実に映像化されていると思われますので、その点は大変期待しています。

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2010年5月29日 (土)

「知られざるヒポクラテス」 by 二宮陸雄

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源氏物語を読んでいると、当時の貴族や天皇家の人々にとっても、病気治療についての認識が、「もののけ」がとりついているので加持祈祷でお祓いをするなどというものであることがわかります。病気の治療は主に僧侶が行っていたのでしょう。しかし西欧では源氏物語の時代より1500年も前から、科学的合理性に基づいた医療が行われていたという事実には驚かされます。日本で人体解剖図が導入されるのは、江戸時代の杉田玄白まで待たなければなりません。

古代ギリシャでも、もともとは医学は哲学者や怪しい詐欺師らの領域でしたが、ヒポクラテスは宗教・呪術、詐欺、僅かな経験や伝承迷信に基づく医療から、科学的な医療へ転換する道を切り開きました。ヒポクラテスはギリシャと言っても、トルコと目と鼻の先にあるコス島で紀元前460年頃に生まれたと伝えられています。しかし彼は遠くアテネやマケドニアなどギリシャ各地に出かけて多くの患者を診察し、学術研究を行い、コス島の医学校で講義を行いました。すでに当時のギリシャの各島には医学校があったというのも驚きです。

現在のコス島は大変人気がある観光地だそうです。ヒポクラテスがその下で講義したというプラタナスの木がある公園が保存されています(写真 木は植え替えられたものとは思いますが)。ヒポクラテスの講義録をもとに死後編集されたヒポクラテス全集が現在も保存されていて、彼の業績を知ることができます。たとえば、今で言う「てんかん」について、当時は神聖病と呼ばれ神のなせる業病と考えられていましたが、ヒポクラテスによれば「私の考えでは、ほかの病気に比べて特に神的でも聖なるものでもなく、自然的な原因を有している病気である。・・・実はこの病気の原因は脳である」と喝破しています。

「知られざるヒポクラテス」の著者、二宮陸雄先生は内科の医師で2003年に亡くなられています。この本以外に「古事記の事実」、「医者と侍」、「インスリン物語」、「職業としての医師」、「サンスクリット語の構文と語法」「ラテン語構文と語法の研究」など、医学の世界にとどまらない多方面の著書があります。この本の中で彼はヒポクラテスの業績について概観するだけでなく、アリストテレス・プラトンなど同時代のギリシャの学者達との比較や、ローマ時代の医学者ケルススやガレヌスへのつながりなどについて記しており、医学のはじまりについて知ることができます。

「医学史探訪 知られざるヒポクラテス -ギリシャ医学の潮流-」二宮陸夫著 篠原出版(1983)  絶版だと思いますが、中古本は豊富に流通しています。

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