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2024年2月 6日 (火)

続・生物学茶話229:ヘリオロドプシン

アリーナ・プシュカレフらは新種の微生物ロドプシンを探索するため、イスラエル最大の淡水湖であるガリラヤ湖の微生物のメタゲノム解析(生物を培養しないでDNAの混合物から直接遺伝子を探索する)を行ないました(図229-1)。ロドプシン遺伝子があるとそれを含むDNAを大腸菌で増やしてレチナール分子を加えると着色するので、探索は比較的容易です。こうしてみつかった遺伝子を解析すると、今までみつかっている動物型ロドプシンでも微生物型ロドプシンでもない、新型のロドプシンが存在することがわかりました(1、2)。

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図229-1 ガリラヤ湖の生物のメタゲノム解析により、プシュカレフらは新型ロドプシンを発見しました。

この新型ロドプシンは微生物型ロドプシンと同様にオールトランスレチナールと結合しますが、遺伝子配列の姻戚関係を調べるとホモロジーが低く非常に遠縁であることがわかりました。この新型ロドプシンには太陽という意味のヘリオ(ヒーリオ)からヘリオロドプシンと命名されました(図229-2)。そして驚くべき事に、ヘリオロドプシンは真正細菌・古細菌・真核生物さらにはウィルスにも存在することがわかりました。

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図229-2 レチナールの光による構造転換 赤は動物型、黄色は微生物型 ただしヘリオロドプシンは細菌・真核生物・ウィルスに存在する。

ヘリオロドプシンは細胞膜7回貫通型というロドプシンの伝統的構造をとっていますが、従来の微生物型(タイプ1)や動物型(タイプ2)ロドプシンとDNA配列が大幅に異なるだけでなく、従来型の場合N末が細胞外、C末が細胞内に出ているのに対して、C末が細胞外、N末が細胞内に出ているという逆構造になっています(2)。したがって細胞内に露出するアミノ酸配列も全く異なっているので、細胞質のタンパク質と相互作用するにしても、三量体Gタンパク質などとは全く別のタンパク質をパートナーにしていると思われます。

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図229-3 ロドプシンのC末・N末と細胞膜の内外 タイプ1:微生物型、タイプ2:動物型、ヘリオロドプシン 参照文献(2)より

ウィルスがロドプシンを持っているというのは非常に興味深いですが、そのウィルスは円石藻というハプト藻類に感染する20面体構造の巨大型DNAウィルスで、なんと472種類のタンパク質情報を保有しています(3)。円石藻というのは海にチョークの粉を流したような白潮を発生させる植物プランクトンですが(4、5)、人工衛星で確認できるような巨大なコロニーも、このウィルスに感染することによって1週間程度で消滅するようです(3)。

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図229-4 円石藻とそれに感染する巨大ウィルス ウィルスの直径は 100–220 nm とウィキペディアに記述されていますが、なぜそれほどのバラエティがあるのかわかりません。巨大と言っても 200 nm のサイズでは光学顕微鏡では観察できません。画像はウィキペディアより。黄色い矢印はホストにとりついたウィルスを示しています。

名古屋工業大学の細島らは円石藻に感染する前記のウィルスのヘリオロドプシンがプロトントランスポータであることを報告しました(6、図229-5)。しかしこのプロトントランスポーターは円石藻に感染するすべてのウィルスが持っているわけではありません。確かにホストの細胞膜にこのウィルス(EhV-202) が存在した場合、ホストはプロトンがとりこまれることによって脱分極しますが、それがウィルスにとってどのようなメリットになるかはわかりません。とはいえ、ヘリオロドプシンの機能としてはじめての報告です。

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図229-5 EhV-202 におけるヘリオロドプシンの機能 文献6および名古屋工業大学女性研究者紹介記事をソースに作成

ヘリオロドプシンは遺伝子データベース上ですでに500種類以上の類似分子種がみつかっており、さまざまな生物にユニバーサルに存在するタンパク質だと思われますが、にもかかわらず機能があまり解明されていないめずらしい例です。最近井上らは光を感知するロドプシンとイオンを輸送するベストロフィンが細胞膜の中で巨大複合体を形成してイオンチャネルとして機能していることを報告しています(7)。ヘリオロドプシンも複合体として機能するタンパク質なのかもしれません。

参照

1)Alina Pushkarev, Keiichi Inoue, Shirley Larom, Jose Flores-Uribe, Manish Singh,
Masae Konno, Sahoko Tomida, Shota Ito, Ryoko Nakamura, Satoshi P. Tsunoda, Alon Philosof, Itai Sharon, Natalya Yutin, Eugene V. Koonin, Hideki Kandori & Oded Beja., A distinct abundant group of microbial rhodopsins discovered using functional metagenomics., Nature vol.558, pp.595-599 (2018)
DOI:10.1038/s41586-018-0225-9
https://www.researchgate.net/publication/3258788ST)プレスリリース

2)光を信号へと変換するタンパク質の新型ヘリオロドプシンを発見 ~生物の新たな光利用戦略が明らかに~
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20180621/index.html

3)Wikipedia: Coccolithovirus
https://en.wikipedia.org/wiki/Coccolithovirus

4)微細藻類のHABs 国立科学博物館
https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/habs/hab2i.html

5)ウィキペディア:ハプト藻
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%97%E3%83%88%E8%97%BB

6)Shoko Hososhima1, Ritsu Mizutori, Rei Abe-Yoshizumi, Andrey Rozenberg, Shunta Shigemura, Alina Pushkarev, Masae Konno, Kota Katayama, Keiichi Inoue, Satoshi P Tsunoda, Oded Béjà, Hideki Kandori, Proton- transporting heliorhodopsins from marine giant viruses., eLife 2022;11:e78416 (2022)
DOI: https://doi.org/10.7554/eLife.78416
https://elifesciences.org/articles/78416

7)井上圭一、永田崇、今野雅恵 世界初「光で駆動する巨大イオンチャネルタンパク質」を藻類から発見  物性研だより 第62巻 第3号 7~10ページ

 

 

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