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2024年1月 6日 (土)

半島のマリア 第13話:ドローン

Dorone1

 達也は半島の自宅にいたので、東京で何が起こっているのか全く知らなかったが、京子が訪ねてきて詳細を伝えてくれた。達也にも玲華が失踪する理由は全くみつからなかった。これからデビューしようとしている玲華が自ら姿を消すなんてことは考えられない。エディと付き合っていたという話には驚いたが、そういえばエディと会ったときに玲華を呼び捨てにしていたことを思い出した。しかしそのエディも行方不明とはいったい何が起こっているのだろう。京子と共に首をかしげたまま、しばらく沈黙が続いた。しかしじっとしていてもはじまらない。何かをやらなくてはいけない。

「駆け落ちする理由なんてないし、全然訳がわからない。ともかくスマホに連絡がきてるかもしれないから見てみよう 京子もみてくれ」
「わかった。うーん ないわね。そうだ、クラウドストレージになにかあるかもしれないから、念のために見てみるね。あれっ なにかあるわ」
「どれどれ、あーこれは鍵かかってるね」
「鍵かかってる玲華のファイルなんて、見たことない。いやこれフォルダーよ。フォルダーごと鍵かかってる。先生のPCにコピーして調べてみて」
「わかった コピーしよう。これヤバいファイルかもしれないからストレージからは消しとくね」
「そうしてください。こんなの抱えたままスマホを使うのは気持ち悪いし」
「昔会社にいた頃の部下に送って解錠できないか訊いてみるよ。会社には高性能のコンピュータがあるし、そいつはおたくだからなんとかなるかもしれない」
「先生、こんなことやっていて私たち大丈夫ですか?」
「でも玲華の居所を知るためのヒントがあるかもしれないよね。身代金の要求とか誘拐の証拠がなければ、行方不明者の捜索なんて警察が本気でやってくれるとは思えないからね。このフォルダーのことは当分秘密にしておこう。一応早智にも事情を話しておいてくれ。見たかもしれないからね」

 それから数日後にひろたんが達也の家にやってきた。昼食を作ってやって一服すると、彼は達也を散歩に誘って展望台まで行くことになった。達也もそこに行くのは久々だった。

「いつきてもここは気持ちがいい」
「灯台を見ろよ。今日は乗用車のほかに、大型のワゴンが止まっている」
ひろたんは双眼鏡を取り出して、その車を注視した。
「ワゴンは米国式のナンバープレートをつけてる。ひょっとするとネイビーの車かもしれんな」
「だとするとどうなんだい」
「ひょっとするとだが、あそこに玲華ちゃんがいるかもしれないよ」
「ええー それどういうこと?」
「お前は知らない方がいいことだ。明日あそこを訪問する予定なんだ。それで相談なんだが、明日1日お前の家を貸してくれないか、頼むよ ただヤバいことになる可能性もあると思っていてくれ」

 玲華がいるかもしれないなどと言われては、達也もこの申し出を断るわけにはいかない。了承するとひろたんは懐から分厚い封筒を差し出した。達也が断ると、「これは自分からの謝礼ではなくて、必要経費として上から出ているお金なんだ。だから受け取ってくれ。」と懇願された。「上って」と訊くと、「信じられないかもしれないが、米国政府なんだ」とひろたんは素っ頓狂な返事をした。しかし外国の車だの、ネイビーだの、そういえばあの旧灯台は米軍が買収したというような話を不動産屋から聞いたことなどを思い出した。達也がやむなく受けると、ひろたんは「領収書はいらないから」と言った。金額も金額だし、領収書がいらないというのは本当にヤバいことにかかわることになったようだ。

 翌日ひろたんの部下6名が達也の家にやってきた。なにやら作戦を立てているようだったが、家を出て行くときにひろたんは達也に忠告した。「お前はこれからこの家を離れて、旅館にでも行っていてくれないか。夕方までには仕事を片づけて連絡するから」「危険な仕事なのか?」「かもしれないね、そうじゃないことを願っているけど」。達也は最後に「わかった」と言って、一行を送り出した。

 達也はLEDランタンと本を一冊、あとは水とチョコレートをバッグに入れてアルタミラと名付けた洞窟に行くことにした。ひろたんらが何をしているのか気になったが、それでも洞窟で本を読み終えた。時計を見ると3時間くらいたっていた。それから夕方までボーッとしていたが、ひろたんからの連絡は無かった。しびれを切らして、そろそろいいかなと思って家の方にあがっていくと、家の周辺に外国人が数人うろついているのが見えてあわてて草陰にかくれた。薄暮だったのではっきりと確認はできなかったが、彼らは倒れている人間を運んでいるようだった。達也が息を潜めてみていると、すべて運び終えたのか誰もいなくなり、上で車が出る音がした。とんでもないヤバいことが起こったらしい。

 達也は警察に通報した。警察には「しばらく家を明けていたら、庭に数名の外国人が侵入して何かやっていた」とだけ言った。「なにか盗まれた物はありませんか」と訊かれたが「なにも盗まれていない」と答えた。警察は「パトロールを強化しますので、気をつけてください」と言って帰って行った。

 夜になって一人で食事していると、キッチンの床下にある食料保管庫からひろたんともう一人の仲間が出てきた。

「うわっ お前生きてたのか」
「ほんとにヤバいことになってしまった、すまん」
「一体何なんだよこれは」
「あの灯台に侵入しようとしたら、ひとりドローンに吹き矢でやられたんだ。それでここまで逃げてきたんだが、ドローンに追いかけられて、ここで4人やられた。無事だったのは俺たちふたりだけだ。まさかエリア外で武器を使うとは想定外だった。えらいことになったよ」

 あの外国人達が運んでいたのはやはりひろたんのスタッフ達だったのだと達也は納得し、ひろたんにもそれを伝えた。ひろたんは「死なせたかもしれんな。失敗した。俺は切腹だ」とがっくりした様子で言った。しかし彼は気をとりなおしたように「そうだ 外した吹き矢が落ちているはずだから回収しよう」とふたりで庭にでていった。もうあたりは暗かったので、高性能のランタンを煌々と照らしてしばらく探していたが、ようやくひとつみつけて帰ってきた。

「すまんが これをフリーザーに保管しておいてくれないか」と達也に吹き矢を手渡した。達也は了解した。「で やはりあそこに玲華がいるかどうかはわからなかったんだな」と確認すると、ひろたんは「そうだ すまん」と答えた。

「それで今日のことを洗いざらい警察に言っていいのか」と訊くと、ひろたんは
「お前がそうしたいのなら言ってもいいよ。でもこれは警察の手に負えることじゃないんだ。」と言った。続けて「明るくなったら奴らが外した吹き矢の回収にくるはずだ。今夜暗いうちに逃げた方がいい。俺たちの車に乗れ」と言った。

「ここは俺の家だぞ。逃げてそれからどうするんだ」
「すまん。とんでもない迷惑をかけたが、移住の費用は出ると思う。ただ俺も上司も今回の件でクビになりそうなので、決断は早いほうがいいよ。とりあえず今日は東京のホテルに泊まれ」

 死人が複数出ているような事件だ。これはもうひろたんの言う通りにするしかないと観念して、達也は荷物も持たずに暗い道を駐車場までひろたん達と歩いた。うまれてはじめての恐怖の行進だったが、ようやく車までたどり着き、東京に向かった。車の中で達也は「お前らこんなヤバいことをやっているのに、武器は持ってないのか」と訊いたが、「バカ言え、ここは日本国だぞ。発砲して警察がでてきたらどうするんだ。それにしてもドローンに吹き矢を装備するとは想定外だった。俺たちの負けだ」という答えだった。「じゃあ玲華はどうなるんだ」と達也は答えを期待しないでつぶやいたが、やはり誰も次の言葉は発しなかった、

 2ヶ月ほど経過して、第7艦隊司令官とハミルトン大統領補佐官が解任されたことが英字新聞で報道されたが、関心があるマスコミのウォッチャー達もなぜだかはわからなかった。その頃達也は昔の部下から「遅くなってすみません。コンピュータの予約取るのも大変なんですよ。この間のフォルダーの件ですけど、米軍の原子力潜水艦でトラブルがあって、エドウィン・ロスバーグさんはその件を調査していたようですよ。もう少し時間をいただければ報告書にして送ります。田所さん一体何をやっているんですか」という連絡を受けた。達也は「有難う。そうしてくれ。詳しいことが訊きたければ会って話すよ」と礼を言った。

 やっぱりエディも玲華もひろたんも米軍関連の事件に巻き込まれて酷い目に遭ったのに違いない。しばらくひろたんの忠告とサポートで東京のホテルで生活していたが、達也は移住するのはやめて、やはり半島の家に帰ることにした。ひろたんに連絡したら、彼は米国での仕事を終えて、日本で警備の仕事を探しているそうだ。そして朗報がもたらされた。ひろたんによれば玲華は米国で生きていることがわかったそうだ。ネイビーがサポートしているので生活には困らないが、居所は不明で日本にも帰れないとのことだ。そしてそのことは家族には話さないでくれと釘をさされた。確かに家族が騒ぎ出すと玲華が消されるかもしれないということは達也にも理解できた。

 

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