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2023年5月30日 (火)

尾高-都響 エルガー交響曲第2番&アンナ・ヴィニツカヤ@サントリーホール2023/05/29

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プライベートなトラブルで気分がすぐれない昨今なのですが、昨夜は都響の演奏会ということでサントリーホールに出かけました。指揮するマエストロ尾高の悲愴交響曲の名演は忘れられません。コンマスはボス矢部、サイドはマキロンとゆづき(途中交代)です。

ラフマニノフのピアノ曲をレスピーギが管弦楽に編曲した「海とかもめ」は浸れそうな曲で、もしCDがあるなら購入したいと思いました。

ラフマニノフのパガニーニの主題による変奏曲は、ピアノが重要で昨夜はアンナ・ヴィニツカヤがその役を務めました。2018年のリサイタル@サントリーホールが素晴らしかったので期待大です。黒一色で登場したので、これは落命した同胞兵士のための喪服かと思いましたがどうでしょう。単に黒が好きなのかもしれませんが。演奏は非常にアグレッシヴなものでしたが、決して威圧感はなく、あまりに素晴らしい演奏であっという間に曲が終わってしまいました。アンコールのラフマニノフの曲も、まるでラフマニノフが生き返って演奏しているという幻覚に陥らせてくれるような時間でした。物凄いピアニストです。

後半のエルガーの交響曲は満遍なくうるさい音響で、あまり好みではありません。アンナもつまらなそうに聴いていましたが、第4楽章の終わりの方だけは集中している感じでした(個人の推測です)。私も最後の数分だけは浸れましたね。少なくとも第2楽章はこんな風であって欲しいと思いました。とはいえ昨夜は日本中のエルガーファンが集結していたのでしょうか、終演後の客席の盛り上がりがひときわ盛大で、(ノーマイクだったので)多分予定外の指揮者アフタートークまでありました。

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2023年5月26日 (金)

ふたりの願い事メーカー

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サラも18才で老猫らしい体型になりましたが、体重は2.1kgで昨年と同じです。全盛期には2.9kgあったので、まあガレてはいます。食欲はありますが、非常に偏食になって困ります。サラの健康で唯一の問題は慢性鼻炎で、時に食べ物の匂いがわからなくなって、そうなると猫は餓死するおそれがあります。

まだ私のベッドに飛び上がることはできるので、静かにすごしたいときは誰も居ない寝室でリラックスしています(写真上)。

2023願い事メーカーがまだできないみたいですが、そのかわりに2023二人の願い事メーカーというのがあって、「もんちゃん」と「さら」の願い事をみると、下のようなのが出てきました。

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そりゃ無理だわ💧 

阪神タイガースにやってもらうしかないね。

 

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2023年5月23日 (火)

続・生物学茶話211:脳神経の入出力

脳神経の種類や入出力の位置については210でまとめましたが、入出力の方向性についてはまだでしたので、図211-1にまとめておきました。臭いを嗅ぐ(臭神経)、色や形を見る(視神経)、音を聞く(内耳神経)などの目的を持つ神経は入力のみ(求心性)、眼を動かす(動眼神経・滑車神経・外転神経)、舌・口・喉を動かす(舌下神経)、首を動かす(副神経)神経は出力のみ(遠心性)ですが、比較的メジャーな神経である三叉神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経は求心・遠心の双方向性の神経です。脳科学辞典の脳神経の項目(1)、ウィキペディアの脳神経の項目(2)をベースに作図しました。

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図211-1 ヒト脳神経の遠心性と求心性

脊椎動物の脳神経が支配する範囲はだいたい「のど」より上の部分ですが、迷走神経や副神経はそれより下、特に迷走神経は小腸や大腸の動きにも影響を与える機能を持っています。脳神経のうち、動眼神経(Ⅲ)、顔面神経(Ⅶ)、舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)は副交感神経を介して、図211-2のように組織を支配しています。不思議なのはこれらの脳神経は交感神経を含まず、すべて交感神経の出力は脊髄におまかせということです。一方副交感神経は脊髄のなかでも最も尾部の第2仙髄~第4仙髄からも伸びています(3、図211-2)。

このような交感神経の偏在が何を意味しているのか不明ですが、脳の立場に立てば、「進化の過程において各種臓器の活動を抑制して脳の活動を活性化するというセルフィッシュな目的であらたな副交感神経を設置したが、脳の活動を低下させる交感神経はあらたに設置する必要はない」、という解釈も可能でしょう。

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図211-2 ヒトの自律神経系

わりと最近になって、ヤツメウナギの菱脳神経管に色素を注入して、そこから遊走する迷走神経堤細胞の細胞系譜を調べたところ、腸管には分布していなかったことがわかりました。さらにヤツメウナギの体幹部神経管を色素で標識し,そこから遊走する体幹部神経堤細胞が腸管神経細胞に寄与するか否か調べたところ、実際に標識が見られたので、ヤツメウナギの腸神経は脳ではなく体幹の神経系にもっぱら由来することが明らかになりました。このことは体幹部神経堤細胞がより祖先的な,進化的に保存された腸管神経細胞の源であり、腸管神経細胞を形成する能力のある迷走神経堤細胞が有顎類において初めて生じたことを示唆します(4、5)。

すなわち脳が進化するに伴って、体幹由来の神経系が支配していた臓器も、しだいに脳が直接的に支配するように変わっていった例とも言えるでしょう。

参照

1)脳科学辞典:脳神経
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C

2)ウィキペディア:脳神経
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E7%A5%9E%E7%B5%8C

3)ウィキペディア:自律神経系
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

4)Green S.A, Uy B.R, Bronner M.E, Nature, vol.544, pp.88-91 (2017) doi: 10.1038/nature21679
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28321127/

5)目崎喜弘 脊椎動物の腸を支配する神経の系統発生学的由来とその神経を介するビタミン A の貯蔵
ビタミン vol.91 pp.655-656
https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/91/11/91_655/_pdf/-char/en

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2023年5月20日 (土)

My favorites 19: 倉橋ルイ子 「RUIKO」

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倉橋ルイ子さんの「RUIKO」というアルバムの裏ジャケです。
洗面器に足を突っ込んでいるという不思議な構図で印象に残ります。

バラードしか歌わないという希有のシンガー。
私のお気に入りは名曲満載のこのアルバムです。
幸いにしてライヴの動画もかなりアップされています。
私も何度かライヴを聴きに南青山曼荼羅に行きました。

そうそう彼女は学生時代松戸に住んでいて、マブチモーターでバイトをしていたそうです。私も永年松戸に住んでいて、松戸駅ビルでライヴがあったときには行きましたね。

動物園がタイトルになっている歌というのは、とてもめずらしいと思います。

雨上がりの動物園
こちら1

Love Letter
こちら2

Star
こちら3

ライヴ:哀しみのバラード
こちら4

ライヴ:I love you
こちら5

ライヴ:アモール~行かないで~
こちら6

 

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2023年5月19日 (金)

伊方原発はこのままでいいのか?

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佐田岬先端の灯台です。美しい景色ですが、灯台の下にたくさん穴が見えます。これは太平洋戦争中に本土決戦にそなえて整備された砲台のようです。

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佐田岬は伊予灘と豊後水道にはさまれた細長い岬で、太平洋の海溝で地震が起きた際には本州の防波堤になる位置にあります。

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この半島に現在稼働中の伊方原発があります。海沿いの低い土地にあって、東北大震災レベルの津波が来ればひとたまりもないでしょう。どうも原発は海抜20mくらいになるともうペイしないようで、福島の原発もわざわざ土地を削って低い土地に建設したために致命的事故が発生しました。

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驚くべきことに、この原発の真下に中央構造線という日本最大の大断層があります。地震調査研究推進本部 地震調査委員会の今年の報告によると「石鎚山脈北縁西部の川上断層から伊予灘の佐田岬北西沖に至る区間は、今後30年の間に地震が発生する可能性が、我が国の主な活断層の中ではやや高いグループに属することになる。」とされています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%8A%E6%96%B9%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%89%80

(写真はウィキペディアより)

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この原発近郊で本日震度4の地震が発生しました、いよいよ大断層が活動をはじめたのでしょうか? 伊方原発はおそらく日本で一番危険な位置にある原発だと思いますが、政府はこのまま放置するようで震えます。

30年くらい前にはマグマ発電をやろうということで盛り上がっていたのですが、なぜか研究費が打ち切られ原発中心になってしまいました。ふくいちの事故があった後でも復活していないようです。別にミューオンでマグマの位置を精密に特定するというようなことをやらなくても、近づけば熱くなってくるのですから、パイプの素材などについては研究が進んでいて、あと一歩掘削技術さえあればできるはずです。発電所自体は富士電機という会社の得意分野です。今年もケニアの地熱発電プラントを受注しています(1)。

マグマは危険であると同時に日本の大きな財産です。この分野の研究に政府が大規模なファンドを投入して欲しいと思います。

1)https://www.fujielectric.co.jp/about/news/detail/2023/20230214140030031.html

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2023年5月17日 (水)

Love FC Barcelona

FCバルセロナ(通称バルサ)は世界に2億人以上のファンがいると言われているサッカークラブです。1899年に創設されましたが、1990年初頭頃から強力なチームになってエル・ドリームチームと言われるようになりました。当時のメンバーにはストイチコフ、ラウドルップ、グァルディオラ、クーマンなどが名前を連ねています。この頃のバルサは私は全く知りません。

その後暗黒時代があって、ロナウジーニョが加入するんじゃないかと言う噂があり、私もWOWOWに加入してバルサの試合を見始めました。その後実際にロナウジーニョが加入し、さらにエトオ、デコらも加入して2回目のドリームチームとなりました。カードにもEL NOU(New) DREAM TEAM と印刷してあります。

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後列左から ロナウジーニョ、ファン・ブロンクホルスト、マルケス、エトオ、オレゲール、バルデス(GK)

前列左から ラルソン、ベレッティ、デコ、チャビ、プヨール

当時のバルサにも弱点はあって、点取り屋がエトオしかいなかったんです。ロナウジーニョは実はいつもどこにキラーパスを出すかを第一に考えている人で、トップ下メンタルでした。私はいつもロニー(ロナウジーニョ)の頭の中に居てバルサのサッカーを見ていました。さあいまエトオやデコがどこにいるかを確認し、彼らが何を考えているかを想像し、どこにボールを出せば彼らがシュートできるか? それが不可能なら○○とワンツーで抜けるか、ドリブルで交わすか、などと可能性の計算をしてプレーするのが実に楽しい、不思議なサッカーの観戦になるんですね。こんな経験はその後ありません。日本人だと遠藤保仁の感覚に近いですが、ロニー=保仁+超絶技巧 かな。

サミュエル・エトオは瞬発力で勝負するタイプのストライカーで好きでしたね。現在はカメルーンサッカー連盟会長をやっています。ロニーはサッカーではあんなに頭の良いプレーをやっていたのに、引退後は馬鹿なことばかりやっていて本当に不思議です。

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左:エトオ、右:ロナウジーニョ

当時の中盤の中心だったチャビとデコです。チャビは現在のバルサ監督、デコは選手のマネージャーをやっているようです。

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左:チャビ、右:デコ(本名は Anderson Luís de Souza)

当時のディフェンスの中心だったプヨールとマルケス。プヨールはよくプジョルと呼ばれていますが、カタルーニャの現地人はプヨールと発音しているようです。ファイタータイプで、鈍足なのになぜか間に合ってました。マルケスはクレバーなディフェンダーで、ボランチとしても一流でした。現在はバルサのBチームの監督をやっています。

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左:プヨール、右:マルケス

チームを率いたライカールト監督。現地人の発音を聴いているとリカーと聞こえます。このあと3回目のドリームチームを作ったグァルディオラ(愛称ペップ)は偉大で、実際彼のチームはおそらくバルサ史上最強のチームだったと思いますが、見ていてなぜか取り込まれてしまうのはライカールトのチームでした。

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ライカールト

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2023年5月16日 (火)

バルサ リーガ・エスパニョーラを制す

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バルサはエスパニョールに4:2で勝利し、リーガ・エスパニューラ優勝を確定しました。往年の名MFチャビを監督に迎えてはじめての優勝です。いろいろ困難な問題を抱える中での優勝なので、みなさん喜びもひとしおでしょう。

みんな頑張りましたが、私が選ぶ殊勲者ベスト3は

1.テル・シュテーゲン 体が大きいのに驚異的な反射神経の止め技
2.アラウホ 私が見てきたここ25年のバルサで1番信頼できるCBです
3.レバンドフスキ 点をとった人

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(写真はウィキペディアより)

バルデ、ガビ、ペドリ、ケシエ、デ・ヨングはバルサの未来を開いてくれるでしょう。

デンベレ、トーレス、ファティ、ハフィーニャは物足りない1年でした。
でもみんな問題を抱えながら進化しました。来シーズンに期待したいです。

 

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2023年5月13日 (土)

都響 三善晃「反戦三部作」 指揮:山田和樹 @東京文化会館2023/5/12

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都響としてはめずらしいフライヤーです。ベースがシルバーでモノクロ的なデザイン、そしてチケット代金が印刷されていません。

三善晃氏は元東京文化会館の館長で、当時の石原都知事の差し金で詰め腹を切らされるという酷い目にあった方です(1、2)。もちろん思想的な対立のためでしょう。今回の企画は小池さんに都知事が替わっていたから実現したと思います。コロナでずいぶん遅れましたが、ようやく実現した演奏会です。

さてヤマカズの演奏会で死んでもいいとは思っていないのですが、個人的に色々思うところがあって行くことにしました。久しぶりに高架下のTOWAで玉丼が食べられると思っていたら、なんと開いていません。休みは月・火なのにどうしたのでしょう? 仕方ないので上野駅の中の「つばめグリル」でハンバーグをいただきました。肉食はひさしぶり。

本日の指揮者は山田和樹氏、コンマスは山本さん、サイドは珍しく塩田さんです。思った通り超絶の演奏会になりました。これほど激しい衝撃を受けたのは、ベルティーニのマーラー以来だと思います。コーラス(児童合唱も含めて)もオケメン(特に打楽器)も全力を尽くした超絶のパフォーマンスにクラクラします。

今日の三善晃の音楽は怖い音楽ですが、アラン・ペッテションのようはパーソナルなものではなく、三島由紀夫とは逆の方向から戦前・戦後の日本人に鉄槌を下す内容でした。私たちはよく今日の音楽会を復習することが必要だと思います。

もちろん三善晃は怖い音楽ばかり作った人ではありません。

麦わら帽子
https://www.youtube.com/watch?v=ECF_up06dpU

八月の金と緑の 微風の中で
眼に沁みる爽やかな麦藁帽子は
黄いろな 淡い 花々のようだ

甘いにおいと光とにみちて
それらの花が咲きにおうとき
蝶よりも 小鳥らよりも
もつと優しい生き物たちが挨拶する

1)http://morph.way-nifty.com/grey/2019/12/post-8202a3.html

2)https://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/diary/200502190000/

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2023年5月11日 (木)

大変な1日

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今日は大変な1日でした。その中でひとつわかったことがあります。それはシジュウカラは地震予知ができるということです。まだ真っ暗で彼らも寝ているはずの時間なのですが、異常に大きな声で泣き叫んでいると思ったら、しばらくしてグラグラグラときて飛び起きました。

今私は頭に血がたまっていて車には乗れないんですが、そんな時に木下(きおろし)のはずれに行かなければならなくなって、CTやMRIで物入りなのでタクシーは使わずコミュニティーバスで行くと、行きは時間をみていくとしても帰りが大変で2時間に1本くらいしかありません。結局木下→成田→成田空港→千葉NT中央という経路で帰ってきました。なんだそれならタクシー呼べばよかったかも。

木下駅には久しぶりで行ったのですが、ホームに時刻表もないのには驚きました。時計ももちろんありません。木下(きおろし)は印西市役所があるところで、かなり大きな町です。駅として最低限の設備はあってほしい。スマホをみればいいじゃないかというのが最近の風潮でしょうが、そういうものでもないでしょう。

(写真はウィキペディアより)

 

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2023年5月 9日 (火)

続・生物学茶話210 脳神経整理

ウィキペディアに非常にわかりやすい脳神経のイラストがあったので、改めて図210-1として出しておきます(1)。それぞれの脳神経の出入り口は図210-2に表としてまとめました(2)。

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図210-1 ウィキペディア 脳神経

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図210-2 脳神経の出入り口をまとめた表

図210-1をみると、生物が濾過摂食で生きていた頃には不要だったはずの神経があまりにも多いことに驚きます。当時から絶対必要だったと思われるのはなんと言っても迷走神経で、内臓を支配するほか通常の筋肉をコントロールしており、まさしく古代生物だけでなく現代を生きるヒトにおいても生命の中枢として君臨しているように思えます。脊椎ができる前は迷走神経自体が脊髄の一部であったと想像できます。脊椎ができたときに、主要な神経系を「脊椎に埋め込まれる神経」と迷走神経などの「自由に分布する神経」に分離した脊椎動物が現在まで繁栄していることを考えると、それが優秀なストラテジーだったに違いありません。

しかし優秀なストラテジーを生み出したのは脊椎動物だけではありません。脊椎動物と祖先を共有しつつも、現在まで生き残っている頭索動物はそれなりに巧妙に進化しています。粘液でエサをトラップするというのは、濾過摂食から一歩抜け出した摂食法です。彼らは心臓も呼吸色素もない血管系しか持っていませんが、栄養を補給するには十分ですし、酸素を補給するには鰓囊を全身に巡らせ肛門とは別の出口から水を排出するという、栄養補給とは分離した別のシステムを作り上げました。

尾索動物の多くは固着生活を選択し、中枢神経系を縮退させて省エネ生活を行います。粘液でエサをトラップするというのは頭索動物と同じで、濾過摂食から一歩抜け出しています。それにしても尾索動物は脊髄を放棄したばかりでなく、血管を群体で共有するとか、血液細胞から生殖細胞ができるとか、遺伝子の多くが脱落しているとか、セルロースを合成できるとか、目もくらむような独特の進化を遂げていて、近縁にもかかわらず脊椎動物とはかけ離れた生物になってしまいました(3、4)。それでも現代でも繁栄しているということは、脊椎動物とは全く異なるストラテジーで成功した生物と言えます。

I~IV、VIは生物が視覚・嗅覚を頼りにするようになってはじめてできた神経だと思われます。濾過摂食時代の生物にはそれほど重要ではなかったはずです。脳神経の中でも最もメジャーなもののひとつであるV三叉神経は、その機能から見てあきらかに生物が顎を使って摂食するようになってから巨大化したに違いないでしょう。

舌咽神経や舌下神経は舌と関連が深いので、生物が舌を使うようになってからできたものかというとそうではなくて、なにしろ延髄に出入り口を持つ神経ですから、古くからなんらかの機能を持っていたと思われます。魚類は舌を器用に動かせませんが、舌周辺で味を感じることはできるようで、舌咽神経は味覚に関係していることは確からしいです(5)。また舌下神経は魚類の発音に使われているそうです(6)。舌下神経は魚類にはないと書いてある文献もありますが、後頭神経といういう名前になっているだけで実質同じもののようです(6)。後頭神経は一般的には鰭を動かすために必要とされています(7)。カエル以降は舌を動かすための神経に転用されたようです。

嗅覚・視覚関連以外の脳神経を図210-3にリストアップしました。聴覚は平衡感覚と密接に関係しています。おそらく始原的左右相称動物にとって必須だったでしょう。体が裏返っては左右相称動物は活動できません。迷走神経も内臓を動かすために当時から存在していたと思われます。他の神経は脳が発達するにつれて進化していったのでしょう。

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図210-3 嗅覚・視覚関連以外の脳神経

現生の脊椎動物が食事と呼吸に使っている脳神経を図210-4に示します。これをみると赤のV・VII・IX・Xがすべての生物に基本セットとして使われているようです(8)。この基本は変わらないものの、やはり陸上で生活すると言うことは同じシステムでは不可能だったに違いありません。両生類は+脊髄神経となっていますが(8)、カエルやカメレオンは舌下神経を使って舌で昆虫を捕まえて食べています。なので+XIIとしても良いのではないかと思います。空気は水より圧倒的に比重が軽いので、エサを喉に流し込む力が足りません。また強く吸引しないと酸素を吸い込むことができません。陸上生物は気囊や横隔膜を動かすために脊髄神経の力を借りることになりました。

哺乳類は二次口蓋を発達させ、呼吸と食事をほぼ分離しました。従って三叉神経は呼吸とは関係がなくなりました(図210-4)。三叉神経は顔の知覚と顎の動きを支配する神経なので、口の動きが呼吸と分離されると呼吸とは無縁になりました。これは数億年の約束事を破る哺乳類の特性です。 しかし実は呼吸と食事を完全に分離することはヒトでもできていません。誤嚥性肺炎で亡くなる人が多いというのはその証拠です(9)。

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図210-4 脊椎動物の食事と呼吸に使われる神経

 

参照

1)Patrick J. Lynch in wikipedia: Hypoglossal nerve
https://en.wikipedia.org/wiki/Hypoglossal_nerve

2)脳外科医 澤村豊のホームページ
https://plaza.umin.ac.jp/sawamura/anatomys/brainstem/

3)渡邊浩 創刊号に寄せて―基礎研究で味う苦楽一如―  つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology vol.1: pp.24-25. (2002)
https://www.biol.tsukuba.ac.jp/tjb/Vol1No1/TJB200209HW.html

4)産総研マガジン さがせ、おもしろ研究!ブルーバックス探検隊が行く 第27回その道20年の研究者が語る、実はすごい「ホヤ」という生き物の秘密 (2020)
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/bb0027.html

5)家木誉史 東京大学博士論文 小型魚類メダカをモデルとした味覚情報の伝達・認識に関わる神経細胞の解析 
https://core.ac.uk/download/pdf/196991389.pdf

6)宗宮弘明 日本産発音魚の新たな探索とその種名リストの作成 科学研究費補助金研究成果報告書 (2010)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-20580201/20580201seika.pdf

7)M.Nakae and K.Sasaki, Review of spino-occipital and spinal nerves in Tetraodontiformes, with special reference to pectoral and pelvic fin muscle innervation.,
chthyological Research vol.54, pp.333–349 (2007)
https://link.springer.com/article/10.1007/s10228-007-0409-z

8)Shun Li and Fan Wang, Vertebrate Evolution Conserves Hindbrain Circuits despite Diverse Feeding and Breathing Modes., eNeuro 0435-20 pp.1-15, (2021)
https://doi.org/10.1523/ENEURO.0435-20.2021
file:///C:/Users/Owner/Desktop/210/%E2%97%8EFeeding%20ans%20breathing%20hindbrain%202021.pdf

9)厚生労働省 e-ヘルスネット 誤嚥性肺炎
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html

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2023年5月 6日 (土)

My favorites 18: ppm

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Peter, Paul and Mary (ppm) は1961年に結成された米国のフォークユニットです。2005年にマリー・トラバースが白血病を罹患して自然解散となりました。男性2人と女性1人できれいにハモるという希有のコーラスで一世を風靡しました。日本でも影響を受けたミュージシャンは多いと思います。

If I had a hammer
https://www.youtube.com/watch?v=01M_J7c1ft4

Puff
https://www.youtube.com/watch?v=UgC6V4OfXP8

The Times They Are a Changing
https://www.youtube.com/watch?v=5dcaSCYnvtY

高音質
https://www.youtube.com/watch?v=WqoAzmmpNPY

Early Mornin' Rain (私的ベスト)
https://www.youtube.com/watch?v=0OCnHNk2Hac
https://www.youtube.com/watch?v=G1DQDevGS5Y

Cruel War(悲惨な戦争)
https://www.youtube.com/watch?v=bbCW9dim-GU

この Cruel War を、ボス矢部が声のストラディバリと絶賛する隠岐彩夏らが歌うそうです。
https://twitter.com/TatsuyaYabeVL

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2023年5月 5日 (金)

おかげさまで18周年となりました

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2023年5月 3日 (水)

続・生物学茶話209 栄養と呼吸のために

動物が生きていく上で基本は「栄養補給」と「酸素吸入」です。これはエディアカラ紀以前から変わりません。左右相称動物が生まれる前から生きていた海綿動物や刺胞動物には、6億年も経過した現在でも口と肛門を備えた消化管はありません。これらの動物は細胞が個々に有機物を取り込んで栄養補給をしてきました。

ただし最も古いタイプの生物とされる海綿動物も6億年以上は地球上に存在していると思われるので、それなりに進化していることは事実です。中には肉食の者もいるそうで驚きました(図209-1、1、2)。甲殻類などを食べるそうで、それなら細胞外に分泌する消化酵素は無くてはならないもののはずで、彼らがどんな消化酵素を持っているのか興味深いものがありますし、彼らは独自に進化していることを強烈に示しました。また現在の多くの海綿は細菌や古細菌と共生していて。これはある種の農業のようでもあります(3)。刺胞動物も消化管を持ちませんが袋状の胃のような器官があり、そこにトラップしたエサを消化酵素で分解して食べています(4)。

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図209-1 タテゴトカイメン 竪琴に獲物がひっかかると膜で包んで消化する 先端の球体は精子をつくる器官 深海生物でサイズは数十センチになるものもある

呼吸を呼吸器や循環器なしで細胞レベルで行なうには、自然拡散に頼ることになるので、体はミリレベルの平ぺったい形態でなければいけません。ただし仮根を作って葉っぱのような形態をつくる、あるいはプランクトンになって漂うなどの作戦で比較的効率よく呼吸することはできます。実際現代の海綿動物や刺胞動物もそのようにして、かなり大きな体を維持している生物もいます。しかしエディアカラ紀の海底一面に増えた藻類は、そのような生き方を捨てて冒険的進化に誘うに十分な魅力を備えていました(5)。

藻類を食料とするには、何はなくとも最低口器は必要です。濾過摂食法では岩にくっついている藻類を食べることはできません。ですから藻類を剥がすか、こそぎとるか、切断するか、くっついて消化されるのを待つか、最初は最後者だったのかもしれませんがそれではあまりにも非効率でしょう。

その後視覚・嗅覚・移動手段の進化などにより(すべては藻類を食べるため)、いわゆる動物らしさが現れてくることになったと思われます。頭索動物は脊索動物ですが濾過摂食の生物です。おそらく彼らの祖先はカンブリア紀以前は自由遊泳生物だったのが、弱肉強食を生き抜くために砂地に隠れて生活するようになった(そんな生活様式の者が生き延びた)のでしょう。彼らは口の周りに謎のひげ状の口器をもっており、これはエサを集めるのに多分役に立っているのでしょう(図209-2の oral hood with tentacles)。非常に原始的な脊索動物も口器をつくる能力はあることの証明ではあります。

藻類食を試みた初期の生物は大きな問題を抱えていました。大きめの食料を消化するには時間がかかります。しかし消化管の水流を渋滞させると酸素が足りなくなってしまいます。ですからこのような生物がプランクトンの状態を脱するには長い時間(多分数千万年)をかけた進化が必要だったと思われます。私たちの先祖はこの問題を、1)消化管の一部を盲囊にして食料を滞留さてて消化する、2)喉にエサが通過しない程度の小さな(あるいは細い)穴を開け、そこに血管を密生させて呼吸する という2つの対策によって乗り越えました(図209-2)

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図209-2 ナメクジウオの形態

腸の盲囊は肝盲囊と呼ばれていますが、肝臓と言うより膵臓のように消化酵素(トリプシン・キモトリプシン・エラスターゼ)を分泌する臓器のようです(6)。私たちも虫垂という盲囊を持っています。ただし消化に必要な器官ではなく、免疫機能を担っています。また草食動物の虫垂は共生微生物を住まわせてセルロースを消化しています(7)。草食をはじめた始原的左右相称動物もそうしていたのかもしれません。ともあれ消化管に盲囊を作るという機能は頭索動物と脊椎動物の共通祖先がすでに持っていたと思われ、当時から盲囊は非常に重要な役割を担っていたと思われます。

さてベントス(底生生物)として生きることを選択した生物にとって、もう一つ重要なことはガス交換です。プランクトンのように自動的なガス交換ができないので、水との接触面積を広く取り、さらにできれば自分の力で液体を動かして呼吸しなければなりません。とりわけエサを求めて移動する必要がある生物は筋肉(中胚葉)を持つことが必然でしたし、大量にエネルギー得るためには鰓を持つことが必須となりました。H.Ono らはナメクジウオがうまく Nodal や Hedgehog を使って鰓を作っていて、そのやり方は脊椎動物でも踏襲されていることを証明しました(8)。

私は最近ホヤの鰓を見て驚きました(図209-3)。固着性のホヤの体の半分くらいが鰓なんですよね。これは動きの少ないベントスであっても、いかに多量の酸素を必要とするかを示すものだと思います。これを考えると盲囊より前に消化管から外界に貫通する通路の方が最初にできて、始原的な鰓ができてから、後に盲囊ができたと考えた方が自然かもしれません。

ホヤはセルロースを分解できるめずらしい生物なので、栄養の獲得のためには胃があるだけで十分なのかもしれません。

2093a

図209-3 ホヤの形態


参照

1)Wikipedia: Chondrocladia lyra
https://en.wikipedia.org/wiki/Chondrocladia_lyra

2)Sci News: Extraordinary New Sponge Species Discovered
https://www.sci.news/biology/article00703.html

3)ウィキペディア:海綿動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E7%B6%BF%E5%8B%95%E7%89%A9

4)ウィキペディア 頭索動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9

5)Ye Wang, Yue Wang, Feng Tang, Mingsheng Zhao, Ediacaran macroalgal holdfasts and their evolution: a case study from China., Palaeontology vol.63, Issue 5, pp.821-840 (2020)
https://doi.org/10.1111/pala.12485
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/pala.12485

6)Haifeng Li, Zhan Gao, Shicui Zhang, Localization of trypsin, chymotrypsin and elastase in the digestive tract of amphioxus Branchiostoma japonicum with implications to the origin of vertebrate pancreas., Tissue Cell, vol.79, no.101943 (2022)
https://doi.org/10.1016/j.tice.2022.101943

7)ナゾロジー 盲腸の原因である「虫垂」はホントに役立たず? 虫垂がもつ重要な役割とは
https://nazology.net/archives/80515

8)Hiroki Ono, Demian Koop and Linda Z. Holland,Nodal and Hedgehog synergize in gill slit formation during development of the cephalochordate Branchiostoma floridae., Development vol.145 (15): dev162586. (2018) https://doi.org/10.1242/dev.162586
https://journals.biologists.com/dev/article/145/15/dev162586/48462/Nodal-and-Hedgehog-synergize-in-gill-slit

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2023年5月 1日 (月)

My Favorites 17: Day and Night

Dayandnight

バラードのカバーは時代時代の音楽をつなぐケーブルのようなものだと思います。バラードといえども、どの時代でも同じではなくて、やはりそれぞれの時代のテーストが感じられるところが面白い。

「Day and Night」 は Nina(向かって左)と Fuu(向かって右)のユニットで、時代にこだわらずバラードのカバーをやっています。Fuuはややハスキーな暗い声で私好み、Ninaはややとんがった澄んだ美声で、コントラストが明瞭なシモンズ系の組み合わせです。イーヴンなハーモニーで聴かせるタイプじゃ無くて、曲ごとにどちらかが主導権をとって、片方は隠し味的にサポートするというやり方が良いのかもしれません。

あぐらをかいてのデュエットは珍しいかもしれませんが、このユニットの特徴なのでしょう。

春風/Rihwa(リーファ 現在は"Sunny Side Camp"を結成してそのメンバーとして活躍中)
こちら

猫/あいみょん
こちら

ロビンソン/スピッツ
こちら

ロビンソン/スピッツ(Fuuのソロ)
こちら

未来/コブクロ
こちら

すてきなホリデイ/竹内まりや
こちら

恋に落ちて/小林明子
こちら

真夏の果実/サザンオールスターズ
こちら

Official: https://twitter.com/dayandnight_jp?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor




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