玄侑宗久著 般若心経
この本の著者 玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)氏は臨済宗妙心寺派の指導的地位にある高僧であると同時に、新潟薬科大学の客員教授であり、小説家でもあるという変わり種です。
そういうスタンスの人なので、たとえば同じ花でも人が見る場合と鳥が見る場合とでは全く異なるので、絶対的認識というものは存在しないという科学的な説明をします(般若心経では色即是空・空即是色)」。そして量子論の粒子と波動の二重性をしばしば引用し、人間の認識の無意味を指摘して般若心経の正しさを強調しています。
また事物は刻々と変化しているのである時点における認識には意味がないとし、私たちが宇宙の一部であり、一体であることを実感することによって解脱できるというのが臨済宗の考え方のようです。不思議なのは著者が科学的認識の意義を否定しているにもかかわらず、教義の正しさを証明するために科学の成果を引用したり、自ら理系大学の教師をしていることです。
般若心経の最大の問題点は不生不滅と書いてある点で、天文学者のコンセンサスとして138億年前に宇宙はビッグバンによって誕生したことになっているので、これは決定的な矛盾点です。著者はこの点には言及していません。ローマ教皇はビッグバンを認めているそうです。
とはいえ釈迦は紀元前の哲学者としては、古代ギリシャの哲学者たちを凌駕するような偉大な人物だったと思います。不増不減というのは質量保存の法則を示唆しているように思いますし、認識の相対性というのは視覚についていえば、前述のように鳥、昆虫、人間、マウスみんな目の構造は違っていて色彩を認識できるスペクトラムも違うので、当然正しいわけです。聴覚や嗅覚も同じく相対的なものです。釈迦はソクラテスと同じく著書を残さなかったのが残念です。
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