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2022年10月21日 (金)

続・生物学茶話192 カリウムチャネル

カリウムチャネルはナトリウムチャネルやカルシウムチャネルに比べて生物進化のなかで古くから存在すると言われています(1)。そしてその研究もイオンチャネルのなかでは最も早くから進み、ロデリック・マキノンは細菌のカリウムチャネルの構造をX線結晶解析によって1998年に解明し、2003年にはノーベル化学賞を受賞しました(2、図192-1)。

カリウムは皆様ご存じのように、周期律表をみればナトリウムよりひとまわり大きな原子なので、チャネルのイオンフィルターがカリウムを通過させてナトリウムを通過させないというのは謎でしたが、構造が解明されることによってその理論的な裏付けがとれました(3)。基本的にはカリウムはまわりのカルボニル基のマイナスイオンから均等な位置をとれますが、ナトリウムは片側に吸着されるという差があるようです。そういうわけでナトリウムはカリウムの1000分の1くらいしか通過しないとされていましたが、最近の研究によって80分の1くらいは通過することがわかりました(4)。

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図192-1 マキノンと電位依存性カリウムチャネルの立体構造

カリウムチャネルについては脳科学辞典にわりと詳しい解説があって、初心者もはいっていきやすくなっています(3)。大別するとこのチャネルの核心部を形成するαサブユニットには3つのタイプがあり、最もシンプルなものは2カ所の膜貫通部位とひとつのポア構成部位をもつ2TM(transmembrane)型で、このタイプは4つの分子が集合してイオン通過ポアを構築します(図192-2左)。ふたつめは4カ所の膜貫通部位を持ち、ふたつのポア構成部位をもつ4TM型で、この分子は2個でひとつのイオン通過部位を構築することができます(図192-2中央)。Two-pore domain potassium channel とも呼ばれています。ここで主に取り扱いたいのは最も一般的な図192-2右に示したタイプで、6つの膜貫通部位を持ち、ひとつのポア構成部位を持つ6TM型です。

6TM型はポアから離れた位置にあるN末側の4つの膜貫通部位が電位センサーとして機能し、C末側の2つの膜貫通部位がポア構成部位となります。4分子が集合してひとつのイオン通過ポアを構築します(図192-2右)。基本的には電依存性チャネルですが、一部の6TM型は電位依存性は持たないで、脱分極ではなくカルシウムによって活性化されるチャネルとして機能するものもあります(3)。哺乳類は2TM・4TM・6TMのすべてのタイプのカリウムチャネルを持っており、細菌の時代から生物進化の過程で構築されてきた分子型をすべて廃棄せず保有していることになります。しかもそれぞれのタイプにはさらに細かいバラエティーがあり、膨大な分子集団が多様な仕事をしていてまだ不明な点も多いようです(3)。

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図192-2 さまざまなタイプのカリウムチャネル

イオン通過ポアの開閉はダイナミックな分子構造の変化によって行われるようで、特にオープン時の細胞質部分にみられる分子が傘が開くように構造変化する様子には驚かされます(5-7、図192-3)。ただすべてのカリウムチャネルの開閉がこのように行われるとは限らないようで、チャネルの種類によってメカニズムは多様で、βサブユニットの関与もあるようです(3)。

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図192-3 カリウムチャネル開閉時の立体構造

図192-4はカリウムチャネルから派生した分子群の系統図で、これらのほとんどがヒトにも存在するということには驚かされます(6、7)。ナトリウムチャネルやカルシウムチャネルもカリウムチャネルから派生した分子群ですが、これらが神経伝達や筋収縮のキープロセスを担っていることはもちろんですが、この親戚筋にあたる図の緑系の分子群は精子のCatSperだけでなく、痛覚・味覚・温度感知・血圧・視覚などに関与する TRP(transient receptor potential channel) も含みます(8)。

赤・橙・ピンクで示されている分子群がいわゆるカリウムチャネルを構成しています。カリウムチャネルの最も一般的な役割は、電位依存性カリウムチャネルが担っている脱分極した細胞をカリウムイオンを放出することによってもとの静止電位にもどすことですが、Inwardly Rectifier K+ channels (または Inward-rectifier potassium channel)はカリウムを取り込む(回収する)役割を担っています。

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図192-4 カリウムチャネルファミリーの分子系統

電位依存性カリウムチャネルの種類・機能・分布について、脳科学辞典の記載のほかいくつかの文献を参考にリストアップしてみました(3、9-12、図192-5)。まだよくわかっていないことも多いようです。興奮性の制御とはカリウムを放出して脱分極した細胞を静止電位にもどすことですが、カリウムを出したままでは困るのでいずれ取り込まなければいけません。この作業は主に2TM型のKirという分子が担っているようです(図192-2、192-4)。

このほかにも Two-pore domain型やカルシウムによって活性化されるタイプなど、アイソフォームを含めると非常に多くの種類のカリウムチャネルがあり、詳しい研究が行われていないものも多いようです。

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図192-5 電位依存性カリウムチャネルのアイソフォームとその性質

最後にペンシルベニアのジグラらの興味深い仮説を紹介しておきましょう。カリウムチャネルはもともとショウジョウバエのシェイカー変異をもたらす遺伝子の産物として注目され、同じ6TMタイプであることから、植物のカリウムチャネルもプラントシェイカータイプと呼ばれていましたが、彼らは分子構造の詳細から見て植物のチャネルは動物のシェイカー型とは全く異なる出自であることを示しました(13)。

特に興味深いのは、彼らの図によると動物(メタゾア)は細菌由来と古細菌由来のチャネルを保有していますが、植物は細菌由来のものだけを保有していることになっています(図192-6)。これが真実であるとするならば、ウィルスによる遺伝子の水平伝播ということも考えられるでしょう(14)。

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図192-6 カリウムチャネルの進化

参照

1)Peter A.V. Anderson and Robert M.Greenberg, Phylogeny of ion channels: clues to structure and function., Comparative Biochemistry and Physiology Part B: Biochemistry and Molecular Biology vol.129, issue 1, pp.17-28 (2001)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1096495901003761?via%3Dihub

2)ウィキペディア:ロデリック・マキノン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%87%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%B3

3)脳科学辞典:カリウムチャネル
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB

4)Kenichiro Mita, Takashi Sumikama, Masayuki Iwamoto, Yuka Matsuki, Kenji Shigemi, and Shigetoshi Oiki, Conductance selectivity of Na+ across the K+ channel via Na+ trapped in a tortuous trajectory., Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol.118, no.12, e2017168118 (2021)
https://doi.org/10.1073/pnas.2017168118
https://www.pnas.org/doi/epdf/10.1073/pnas.2017168118

5)Jiang, Y., Lee, A., Chen, J., Cadene, M., Chait, B.T., Mackinnon, R., Crystal Structure and mechanism of a calcium-gated potassium channel, Nature vol.417: pp.515-522 (2002) DOI: 10.1038/417515a
https://www.nature.com/articles/417515a

6)Educational portal of  PDB (PDB-101)
https://pdb101.rcsb.org/motm/38

7)Wikipedia: Potassium channel
https://en.wikipedia.org/wiki/Potassium_channel

8)Wikipedia: Transient receptor potential channel
https://en.wikipedia.org/wiki/Transient_receptor_potential_channel

9)澤田光平,日原裕恵,吉永貴志  電位依存性イオンチャネル探索研究における蛍光および電気生理学的高速スクリーニング(HTS)法
日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)126,321~327(2005)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/126/5/126_5_321/_pdf

10)Yuanzheng Gu, Dustin Servello, Zhi Han, Rupa R.Lalchandani, Jun B. Ding, Kun Huang, Chen Gu, Balanced Activity between Kv3 and Nav Channels Determines Fast-Spiking in Mammalian Central Neurons., iScience, vol.9, pp 120-137 (2018)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30390433/

11)H. Ying; D. J. Ramsey; H. Qian, The Potassium Channel kv12.1 Is an Interactor for the Go Subunit in Mammalian Retina.,
Investigative Ophthalmology & Visual Science., Vol.49, 1289 (2008)

12)Guo, J., Cell Surface Expression of Human Ether-a-go-go-Related Gene (hERG) Channels is Regulated by Caveolin-3 via the Ubiquitin Ligase Nedd4-2., The Journal of Biological Chemistry, 287(40), 33132-33141 (2012)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22879586/

13)Timothy Jegla, Gregory Busey, and Sarah M. Assmann, Evolution and Structural Characteristics of Plant Voltage-Gated K+ Channels., The Plant Cell, vol.30: pp.2898–2909 (2018)
http://www.plantcell.org/cgi/doi/10.1105/tpc.18.00523
file:///C:/Users/Owner/Desktop/192/Plant%20potassium%20channels.pdf

14)Gerhard Thiel, Anna Moroni, Guillaume Blanc, and James L. Van Etten, Potassium Ion Channels: Could They Have Evolved from Viruses? Plant Physiology, vol. 162, pp.1215–1224 (2013) http://www.plantphysiol.org/cgi/doi/10.1104/pp.113.219360
file:///C:/Users/Owner/Desktop/192/Kion%20channel%20Thiel.pdf

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