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2022年9月30日 (金)

続・生物学茶話190: 電位依存性ナトリウムチャネル

動物が電位依存性ナトリウムチャネルを持つことが明らかになったのは1980年代のことです(1、2)。ナトリウムチャネルが開くことによって脱分極が起こり、神経伝達が行われるという基本的なメカニズムを担うツールです。この遺伝子構造を解明したのは沼正作研究室の野田らですが(2)、ウィキペディアで沼正作の項目を読むと、その膨大な功績にもかかわらず、なぜこの人がノーベル賞を受賞できなかったのか不可解に思われます。この原因は彼がどうもアカハラ・パワハラ当たり前の上に同業者の不興も買っていたようで、性格が災いしたのが原因のようです(3、4)。沼研究室の全盛期は日本の科学が一番華やかだった時代です。ならばチャネルを構成するタンパク質の立体構造などもすぐに解明されたかというとそうではなく、ようやく最近数年でわかってきたのですが、それについてはあとで述べます。

21世紀になって細菌・古細菌でも電位依存性ナトリウムチャネルが発見され、これは動物の場合のようにひとつの分子で構成されるのではなく、細胞膜を6回貫通する分子のテトラマーによってできていることがわかりました(5、6、図190-1)。真核生物のものに比べて分子量が小さいのでX線結晶解析で構造を解明することができました。

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図190-1 真核生物と原核生物の電位依存性ナトリウムチャネル

電位依存性ナトリウムチャネルというのは私たちの神経伝達の基本的構成要素なのですが、では神経を持たない生物、それも細菌がどうしてそんなものを保有しているのかは難しい課題です。もちろん細菌もイオンのホメオスタシスは保つ必要があるでしょうから、さまざまなイオンチャネルが必要だというのは漠然とは理解できます。水溶性物質を膜を通過させるための穴として機能しているとペイヤンデらは主張しています(6)。

細菌のエネルギーシステムとしてプロトン駆動型エンジンはよく知られていて、私たちもミトコンドリアの装置を利用しているわけですし、Na-K-ATPase はナトリウムを細胞の外に追い出すポンプとしてこれまたよく知られています。ではナトリウムポンプは何のために出現したのでしょう。南野らは最近、細菌の運動器官である鞭毛を作るために必要なタンパク質輸送装置に、プロトン駆動型輸送エンジンに加えナトリウム駆動型エンジンや膜電位センサーが搭載されていることを発見しました(7)。どうやら電位依存性ナトリウムチャネルは鞭毛の制作に必要なツールのようです。南野らはプロトンエンジンが機能低下した場合のバックアップと考えているようです(7)。

真核生物の電位依存性ナトリウムチャネルは、ひとつのタンパク質のなかに、それぞれ6個の細胞膜貫通領域を持つ4つのドメインの立体構造が含まれます。これらがポアを取り囲むような構造であることはわかっていましたが(図190-2)、正確な立体構造の解析は難航しました。結局最近になってX線結晶解析ではなく電子顕微鏡によって解明されました(8、9、図190-3)。解明したのは Yan らのグループで、彼女らはクライオEMの技術を使って、細胞膜のさまざまなチャネルの構造を怒濤の勢いで解明しつつあります。電位依存性ナトリウムチャネルに含まれる各電位感受性ドメイン(VSD=voltage sensing domain)はそれぞれ独自のコンフォメーションをとり、イオンの選択的通路は糖鎖で強く修飾されかつSS結合で安定化された細胞外のループでガードされています。進化的に保存されたN末はVSD1の細胞内部位の近傍に位置し、C末はドメインIII-IVリンカーと結合しています(8、9)。

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図190-2 ヒトの電位依存性ナトリウムチャネル

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図190-3 ゴキブリ電位依存性ナトリウムチャネルの立体構造

電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニットについて述べてきましたが、なぜαサブユニットかというと、このサブユニットだけでナトリウムイオンの透過を管理するチャネルをつくることができるからです。他のサブユニットは電位依存性や細胞内局在について影響を与えるそうですが、ウィキペディアには具体的言及はありません(10)。脳科学辞典にはβサブユニットについて多少の記載がありますが、まだまだ研究途上なのでしょう(11)。

ここで西野と岡村が報告したαサブユニットの分子系統樹(12)を見てみましょう(図190-4)。( )内に隣接するHoxクラスターが示してあります。レンガ色で示した分子群はテトロドトキシンセンシティヴ(IC50が10nMあるいはそれ以下)、黒で示した分子群はインセンシティヴなグループです。Nav1.1~Nav1.3 と Nav1.6 が中枢神経系、Nav1.7~Nav1.9 が末梢神経系、Nav.1.4~Nav.1.5 が筋肉に分布しています。これらはすべて活動電位を発生する機能を持っています。また活動電位を発生した後チャネルを閉じて不活化する機能も持っています(12)。Nax の機能は他の分子とは異なっていて、活動電位を発生するためではなく、体液のナトリウム濃度のセンサーとして体液恒常性の維持に貢献しているようです(13)。

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図190-4 哺乳類の電位依存性ナトリウムチャネルアイソフォームの分子系統樹と発現部位

次にやはり西野と岡村がまとめた後生動物と襟鞭毛虫が持つ電位依存性ナトリウムチャネルの系統的関係の図を示しました(図190-5)。Nav2 というのはヒトが持っている Nav1 とは別グループの分子群で、カルシウムなどの2価イオンに対して高い透過性を示す性質があります。Nav も同様です。ここで注目したのは有櫛動物(カブトクラゲ)で、その分子の系統的位置は見事に他の後生動物の外群になっています。また襟鞭毛虫と後生動物のアミノ酸配列の類似性も、オピストコンタのまとまりという観点から注目されます。

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図190-5 オピストコンタの電位依存性ナトリウムチャネル各グループの系統関係

これらのチャネルはすべて24回膜貫通の1分子型ですが、原核生物から真核生物に進化する過程で、6回膜貫通型の遺伝子が2回の縦列重複を行ったものと推測されます(12)。西野・岡村の文献12は「全史」と銘打っているだけあって素晴らしい総説だと思いますが、細菌から真核生物への進化をたどるには、古細菌のチャネルに関するデータが現時点では足りないように思います。

電位依存性ナトリウムチャネルは神経を持っている生物にとっては、神経伝達や筋収縮の基本になる物質なので、これを阻害されると容易に死に至ります。したがってテトロドトキシンなど毒のターゲットとして好適な分子でもあります。

参照

1)Hartshorne, R.P. and Catterall, W.A., Purification of the saxitoxin receptor of the sodium channel from rat brain., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.78, pp.4620-4624 (1981) DOI: 10.1073/pnas.78.7.4620
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6270687/

2)Masaharu Noda, Shin Shimizu, Tsutomu Tanabe, Toshiyuki Takai, Toshiaki Kayano, Takayuki Ikeda, Hideo Takahashi, Hitoshi Nakayama, Yuichi Kanaoka, Naoto Minamino, Kenji Kangawa, Hisayuki Matsuo, Michael A. Raftery, Tadaaki Hirose, Seiichi Inayama, Hidenori Hayashida, Takashi Miyata & Shosaku Numa., Primary structure of Electrophorus electricus sodium channel deduced from cDNA sequence. Nature, vol.312, pp.121-127 (1984) https://doi.org/10.1038/312121a0
https://www.nature.com/articles/312121a0

3)沼研の伝説的なエピソード:沼正作(1929-92)
http://scienceandtechnology.jp/archives/9655

4)岡田泰伸 地球の裏側で感じたノーベル化学賞の余震
http://www.nips.ac.jp/rvd/Southamerica.htm

5)D Ren, B Navarro, H Xu, L Yue, Q Shi, D E Clapham, A prokaryotic voltage-gated sodium channel., Science vol.294(5550): pp.2372-2375.(2001)
doi: 10.1126/science.1065635.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11743207/

6)Jian Payandeh and Daniel L Minor Jr, Bacterial voltage-gated sodium channels (BacNa(V)s) from the soil, sea, and salt lakes enlighten molecular mechanisms of electrical signaling and pharmacology in the brain and heart., J Mol Biol, vol.427(1): pp.3-30.(2015) doi: 10.1016/j.jmb.2014.08.010.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25158094/

7)南野徹,木下実紀,森本雄祐,難波啓一、 細菌べん毛輸送装置の膜電位に依存した活性化機構 生物物理 vol.62(3),pp.165-169(2022) DOI: 10.2142/biophys.62.165
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/62/3/62_165/_pdf/-char/ja

8)Huaizong Shen, Qiang Zhou, Xiaojing Pan, Zhangqiang Li, Jianping Wu, Nieng Yan, Structure of a eukaryotic voltage-gated sodium channel at
near-atomic resolution., Science vol.355, issue 6328 (2017)
doi: 10.1126/science.aal4326
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aal4326

9)Pan X, Li Z, Zhou Q, Shen H, Wu K, Huang X, Chen J, Zhang J, Zhu X, Lei J, Xiong W, Gong H, Xiao B, Yan N., Structure of the human voltage-gated sodium channel Nav1.4 in complex with β1., Science vol.362, issue 6412 (2018)
doi: 10.1126/science.aau2486.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30190309/

10)ウィキペディア: ナトリウムチャネル
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB

11)脳科学辞典: ナトリウムチャネル
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%8A%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB

12)西野敦雄,岡村康司 Nav チャネル全史 細菌からヒトまで
生化学 vol.91(2): pp.210-223 (2019) doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910210
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2019.910210/index.html

13)Takeshi Y. Hiyama, Masahide Yoshida, Masahito Matsumoto, Ryoko Suzuki, Takashi Matsuda, Eiji Watanabe, Masaharu Noda, Endothelin-3 expression in the subfornical organ enhances the sensitivity of Nax, the brain sodium-level sensor, to suppress salt intake., Cell Metabolism, vol.17, pp.507-519 (2013)
DOI: 10.1016/j.cmet.2013.02.018
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23541371/

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2022年9月26日 (月)

新型コロナやワクチンの今

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一日の感染者数が東京だけでも4万人となった新型コロナの蔓延もようやく落ち着いてきたようですが、それでもまだ本日の段階で6000人以上の新規感染者が発生しているようです(上図は本日のコロナ感染者 東京都のサイトより)。本当にしつこい感染症です。介護施設などでも緩んできているようですが、ちょっと不安になります。これで10月11日から外国人旅行者を大幅に受け入れることになったら油断はできません。北総線沿線居住者の私としては、しばらくアクセス特急の利用は見合わせるくらいのことしかできませんが、さてどうなるのでしょうか。

もうひとつの不安はmRNAワクチンについてです。9月15日にピアニストの荒井千裕氏がワクチン後遺症で亡くなられました。本人や関連サイトをリンクしておきますのでご参照ください。ご冥福をお祈りいたします。

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ご本人のサイト こちら1

他 こちら2 (ご家族) こちら3 (医師) こちら4

mRNAワクチンの安全性についてはまだわからないことが多いと思います。

脂質ナノ粒子の膜に包んでmRNAを投与するわけですが、それがすべて細胞に取り込まれるとは思えません。幾ばくかは体の片隅にへばりついたままになるのでしょう。その脂質が問題で、それ自身が抗原や有害物質として機能する可能性があります。改造mRNAはウリジンを1-メチル-シュードウリジンに転換した生体にないものですから、完全に分解されない限りやはり抗原や有害物質として機能する可能性があります。mRNAを分解する酵素はウリジンのmRNAを分解するためにあるので、別の物質に変わっているわけですから完全には分解できないでしょう。巷間よく言われるのは、スパイクタンパク質を発現した細胞は細胞性免疫によって攻撃を受ける可能性があることです。

遺伝病の患者にとってこの遺伝情報移入システムは天恵で、症状によってはある程度のリスクを冒すことを受け入れることもあり得ると思いますが、健常者に打つワクチンとしてはどうかと思います。やはり現状の医学のレベルではワクチンはタンパク質であるべきです。それより中等症のコロナ患者を収容する施設の整備に全力を尽くすべきです。政府はワクチン関連の新型コロナ対策としてはノババックスなどを支援すべきで、モデルナの工場をつくるなら遺伝子治療用にすべきだと思います。

 

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2022年9月25日 (日)

吉祥寺への旅

起きて植物と猫の世話をすませると支度をしてすぐに、といきたいところですが、腰痛が再発しているのでコルセットをきっちり装着しておもむろに出発。2時間かけてはるばる吉祥寺までの旅です。

昔武蔵野大学薬学部で少し仕事をしていたことがあるので、懐かしい街でもあります。それにしてもよくこんな遠いところまで通っていたものだと思います。ようやく到着しましたがブレックファストがまだだったので、アトレのドンクでキッシュを注文すると、パンの欠片がついてきたのには笑ってしまいました。パン屋としてのの主張なのでしょうか?

スターパインズカフェに来たらもう数十人たむろしていました。

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今回はe+やぴあにも出さず、フライヤーも作らないライブでしたがなかなかの盛況でした。私は2Fの中央に座りました。ここの2F席は面白くて、左右にシークレット的な席もあります。このライブハウスは音響が素晴らしく、言葉もきちんと聴き取れます。

登場したまきちゃんぐにびっくり。顔がシャープに変わっているではありませんか?? あとの話でこれは食塩ダイエットの効果だそうです。このブログでもいまソディウムポンプの記事を書こうと資料を集めていたところなので奇遇です。知らんけど、多分どの程度減塩していいかは、かなり加減が難しいのではないかと思います。

今回は伴奏の澤近さんがはじめてということもあってバッチリとリハをやったに違いなく、すばらしい完成度で「満海」「海月」「愛が消えないように」などを聴けたので大満足。「ハニー」や「ちぐさ」もあらためてそのよさを再認識させられました。ほんとにソウルフルですねえ。すごいと思っていたら、なんと「ジンジャエールで乾杯」で歌詞を失念。まきちゃんぐもやっぱり人間だった。

最後の曲「愛が消えないように」は写真・ビデオ撮影OKでした。というわけで下の写真を撮影しました。

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2022年9月23日 (金)

小泉-都響 「田園」「ローマの噴水&松」@サントリーホール 2022/09/23

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都響のプロムナードコンサート。サントリーホールに通うのが厳しくなってB定期は降りることにしましたが、プロムナードはまだ続けています。本日の公演はマエストロ小泉の指揮、コンマスはボス矢部、サイドはゆづきです。ボス矢部は老眼が進んだのか、見慣れないメガネで登場。

盛況なんですが、びっくりしたのは多分ローマの松のバンダによる感染を防ぐためでしょうか、バンダの前のサイド席が80席くらい空けてありました。まだまだナーバスになっています。

小泉-都響のコンビは非常に進化していて、まるで全員がシナプスでつながっているかのような一体感が感じられました。ここまで心に響くベートーヴェン「田園」交響曲は聴いた記憶がありません。ゆずきが200%出し切ったと言っているのもわかります。芸術家としても演奏アスリートとしても最高のパフォーマンスだと思います。

後半のレスピーギ「ローマの噴水」「ローマの松」も繊細かつ豪快な演奏で感銘を受けました。私が特に感動したのはカタコンバの松で、その暗く神秘的な響きは音楽の深遠な力を感じさせてくれました。松ではラチェットというコーヒーミールを手で回すような楽器が面白かったです。パイプオルガンも使用。

✨✨✨ブラボー 小泉&都響。

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2022年9月22日 (木)

サラの考察15: 私とサラの夢

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私「今日は狩りがうまくいかなかったなあ」

サラ「腹ぺこだよ」

私「明日は危険だけれど池の近くで待ち伏せするしかないか」

サラ「ミーナがいたときは、まずモン(私)が獲物を見つけ、ミーナが追いかけて私が待ち伏せするという作戦ができたのに」

私「ごめん 足が遅くて。ミーナが死んでもう半年か、よくふたりで生きてきたもんだ」

サラ「栄養にはならないけど、枯れ草を食べれば少しは空腹を忘れられるよ」

私「そうするよ」

サラ「じゃ 私は寝るから おやすみ」

私「おやすみ」

そんな会話をしていたら、おやすみと言った途端に目が覚めました。ミーナは今どうしてるのかな?

http://morph.way-nifty.com/grey/2022/03/post-6ef01d.html

 

 

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2022年9月21日 (水)

まきちゃんぐ始動

まきちゃんぐ 35th Birthday Live (ワンマン)
「だって、女に生まれたの。」
9月25日(日) 12:00open 12:30start \3,500
@吉祥寺 star pine's cafe
with 澤近泰輔 (pf.)

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宮益坂交差点にこんなメッセージ ↑ が出現したそうです。

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🎵 まきちゃんぐさんのメッセージ 🎵

25周年を迎えるスターパインズさんで行う、9月生まれのまきちゃんぐ誕生月ライブです。

35歳を迎える今年はデビュー当時大変お世話になった音楽家・澤近泰輔さんをゲストミュージシャンにお迎えし、上質でたおやかな音楽のお時間をお届けします。澤近さんに編曲していただいた過去の曲もふんだんに盛り込んだセットリストにもご期待ください。

cf. https://twitter.com/makichang_info



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2022年9月19日 (月)

真山仁「標的」

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真山仁「標的」 文藝春秋社 2017年刊

真山仁の「標的」はなかなか興味深い小説です。東京地検特捜部の検事たちの活躍が生き生きと描かれています。政治家への贈賄事件を扱っています。ありふれたストーリーかもしれませんが、作家の実力でしょうか、一気に読めます。

晋三は検察の人事を思い通りにやろうとして失敗しましたが、私はこのことと暗殺事件は関係があると思っています。山上は日本のオズワルドだったのではないでしょうか。山上が今後インタビューなど自由な発言の機会を与えられるかどうかに注目しています。オズワルドの尋問調書はすぐに廃棄されましたが、山上の場合はどうなるのでしょうか。改ざんや隠蔽が行われるかどうかを注視しなければいけません。

政権に都合のよい検察人事は困りますが、検察による政権の選別が行われるのも問題があります。まして政権と検察がつながっていると何でもできるでしょう(晋三はまさにそれを狙っていたわけですが)。この小説のタイトル「標的」というのはそのような危険性を暗示しています。選挙の後なら誰をターゲットにしてもよいというのは検察のポリシーのようです。真山仁がとりたてて興味をそそられそうもない贈賄というありふれた犯罪をとりあげたのも、政治家と検察の関係に注意を喚起したかったからだと思います。

海外のプライベートバンクに口座をもっている企業経営者の場合、賄賂を送るのは簡単なのでしょう。政治家にも口座をもたせてお金を移転させればいいのですから。タックスヘイブンを利用すれば秘密は守られます。あるいは関係者にプライベートバンクが融資するという形にすれば現金化も可能です。ただ現金そのものを秘密裏に海外から持ち込むのは、この小説にもでてきますがかなり困難なのでしょう。とはいっても、今の時代なら船からドローンを飛ばせば運べそうに思いますが、どうなのでしょう。最近スペインで麻薬を運んでいた水中ドローンが摘発されたという記事をみかけました(1)。犯罪組織のための密輸機器の製造販売を行っているグループがもうすでに存在していたようです。このグループは家族的な小さな規模だったようですが、もっと巨大な組織がすでにありそうな気がします。

1)https://www.bbc.com/japanese/62046939

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2022年9月17日 (土)

続・生物学茶話189: オピストコンタの系統図更新

久しぶりでウィキペディアのオピストコンタという項目を閲覧したら、オピストコンタに含まれる生物が膨張しているのに気がつきました(1)。オピストコンタとは鞭毛が後ろという意味で、鞭毛が進行方向の後ろにある生物はオピストコンタのみです。私たちの精子も鞭毛をゆらして、生えている位置と反対方向に進みます。

私たちの精子を含むオピストコンタという概念はヘルムート・ガムス(1893-1976)というオーストリアの植物学者が提唱したようです(図189-1)。この概念を様々な根拠をもってクレードとして提唱したのはトーマス・キャヴァリエ=スミス(1942-2021、図189-1)です。彼のどの論文を引用すべきかはよくわからなかったので、死後出版されたおそらく最後の論文を引用しておきます(2)。これは繊毛の根元の構造に関するレビューで、彼はこの構造の進化がオピストコンタの起源を解明する鍵だと考えていたようです。100ページ以上ある長大な文献で、引用したものの実は私も読んでおりません。

図189-1は国際原生生物学会が2018年にアップデートした分類にもとづいたものです(1、3)。これによると、オピストコンタはホロマイコータとホロゾアにわけられ、襟鞭毛虫とメタゾア(動物)はホロゾアのひとつの分類群としてコアノゾアという名前でまとめられており、共通祖先生物は9億5千万年前頃に生きていたとしています。襟鞭毛虫とメタゾアの類似性は多くの研究者によって確認されています(4-6)。

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図189-1 オピストコンタの系統図

図189-1の系統図の右下の隅に襟鞭毛虫(Choanoglagellata)と動物(Metazoa)が Choanozoa としてまとめられています。襟鞭毛虫は単細胞生物で1本の鞭毛をもっており、そのまわりを微絨毛がとりまいて襟のような構造をつくっている生物です・・・といろんなサイトに書かれていますが、実はそう簡単ではありません。細胞のサイズはヒトの細胞と同じくらいで数μm程度です。ローンドンらはロセット属の集合体を形成する襟鞭毛虫について調べたところ、その集合体(Rossete)は単なる群体ではなく、それぞれの細胞が異なる形態を持つ、まるで多細胞生物のような集合体であることを示しました(7)。

このタイプの襟鞭毛虫は同じ種であっても、単体で遊泳する者、集合体で遊泳する者、固着生活をする者などもともとバラエティに富んでいますが、特にロセット集合体を形成すると、細胞のサイズ、絨毛の長さ、食胞の容積、ERの発達などに大きな違いがある細胞に分化し、それぞれが2つの隔壁をもつ橋のような特異な構造でつながっていて、海綿動物や刺胞動物とは異なっているものの、ある種の多細胞生物のような形態をとることがわかりました(7、図189-2)。これはカビやキノコとは別経路での多細胞化であり、オピストコンタの進化を考える上で重要です。

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図189-2 始原的多細胞生物を思わせる襟鞭毛虫のロセット

ローンドンらはオピストコンタの系統図を更新し、また様々な生物が襟細胞を持っていることを示しています(7、図189-3)。それらが襟鞭毛虫と関係があるかどうかの確証はありませんが、襟鞭毛虫がメタゾアと最も近縁な生物であることは進化生物学者のコンセンサスであり(8)、様々なメタゾアの系統に襟鞭毛虫と似た襟細胞があっても不思議ではありません。また、メタゾア系統樹の根元に近いところから分岐したと考えられている海綿動物・刺胞動物・平板動物がいずれも襟細胞をもっているのに対して、有櫛動物がもっていないのは、この動物の出自の特異性を思わせます。青い点線はそのあたりの疑問を表しています。もちろん進化の過程で襟細胞を失うということは普通にあることなので、それはもちろん考慮する必要があります。私たちヒトの体にも襟細胞はありません。

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図189-3 襟細胞を受け継ぐ生物

 

参照

1)ウィキペディア:オピストコンタ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%94%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BF

2)Thomas Cavalier-Smith, Ciliary transition zone evolution and the root of the eukaryote tree: implications for opisthokont origin and classification of kingdoms Protozoa, Plantae, and Fungi, Protoplasma., vol.259(3): pp.487-593 (2022)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9010356/

3)Sina M. Adl et al., Revisions to the Classification, Nomenclature, and Diversity of Eukaryotes., Eucalyotic microbiology Vol.66, Issue 1, pp.4-119, (2019)
https://doi.org/10.1111/jeu.12691
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jeu.12691

4)Steenkamp ET, Wright J, Baldauf SL. The protistan origins of animals and fungi. Mol Biol Evol., vol.23: pp.93-106.(2006)
https://doi.org/10.1093/molbev/msj011
https://academic.oup.com/mbe/article/23/1/93/1193358

5)Carr M, Leadbeater BSC, Hassan R, Nelson M, Baldauf SL, Robertson HM, et al. Molecular phylogeny of choanoflagellates, the sister group to Metazoa. Proc Natl Acad Sci., vol.105: pp.16641-16646 (2008)
https://doi.org/10.1073/pnas.0801667105
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.0801667105

6)Ruiz-Trillo I, Roger AJ, Burger G, Gray MW, Lang BF. A phylogenomic investigation into the origin of metazoa. Mol Biol Evol., vol.25: pp.664-672. (2008)
https://doi.org/10.1093/molbev/msn006
https://academic.oup.com/mbe/article/25/4/664/1265710

7)Davis Laundon, Ben T. Larson, Kent McDonald, Nicole King, Pawel Burkhardt, The architecture of cell differentiation in choanoflagellates and sponge choanocytes, PLoS Biol 17(4): e3000226 (2019) DOI: 10.1371/journal.pbio.3000226
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30978201/

8)Wikipedia: Choanoflagellate
https://en.wikipedia.org/wiki/Choanoflagellate

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2022年9月15日 (木)

フォッサと再会

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上野動物園のフォッサがまだ生きていると知って、会いに行きました。平日なのにすごい人出で、特にパンダの列は先着順とあってすごいものがありました。モノレールはコロナ禍の前から運行を休止しており、どうするのかわかっていないというのは情けない行政です。私見ではエスカレーターでいいのではないかと思いますが、人寄せに使うならゴンドラもありかな・・・・まあそれならコロナ終焉待ちですね。

つがいのフォッサ、アンバーとベザは2010年にマダガスカルからやってきて、当初は動物園でも気合いが入っていましたが、そのうち♀のアンバーが展示されるのを嫌がることがわかって非展示となり、ひっそりと動物園の片隅で暮らすことになりました。♂のベザは展示されていましたが数年たっても非常にシャイな感じでした。コロナなどで数年間私は上野動物園にはご無沙汰していましたが、今日見た感じではかなり展示にもなれてきた感じではありました。

2017年にアンバーが病死したことは、動物園にとっても痛恨の出来事だったと思います。飼育例が少なく、どのように飼えばいいのか試行錯誤のうちに繁殖に失敗したことは本当に残念です。
https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?link_num=24249

フォッサは猫と犬の共通祖先に極めて近い生物とされており、貴重な生きた化石生物です。ベザには是非長生きしてほしいと思います。

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フォッサと再会できて大満足で、おなかもすいたのでアメ横と平行する高架下のイタリア料理店「Tears」で食事しました。耳の遠い爺ひとりでやっている店ですが味は本格派で、とても家庭でだせるような味ではありませんでした。ただ入ってから出るまで客は私一人でした。

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2022年9月12日 (月)

あるサッカースタジアムでの出来事

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ジブラルタル海峡にほど近く、大西洋に面したカディスというスペインの町があります。日曜日にバルサがやってきてラ・リーガのサッカーの試合がありました。バルサは今週ミッドウィークにFCバイエルンとの大一番を控えて、かなりメンバーを温存したとはいえ、カディスは目一杯頑張って前半は0:0で終了。

後半レバンドフスキらを投入したバルサはようやく2点とってあと試合終了まで10分くらいのところで事件は起こりました。レフェリーが突如試合を中断してベンチに走って行きます。けんかとか暴言だとスタンドの方に走っていくはずなので一体何が起こったのか、視聴者も放送陣も呆然。しばらくするとベンチからAEDが持ち出され、スタンドに投げ込まれました。

写真(ウィキペディアより)のように、このスタジアムはスタンドの傾斜が急でやばいなとは思っていましたが、実際お客さんが転落して心肺停止になったようです。WOWOWの放送は何が何だかわからないまま試合途中で終了という前代未聞のハプニング。結局1時間ほど中断して、選手はトレーニングを行った上で再開されたそうです。ともかくくだんのお客が命をとりとめただけでも幸いでした。
https://twitter.com/Cadiz_CFJP/status/1568800346734206978

放送の段取りなどがぐちゃぐちゃになるなどの問題を乗り越えて、試合を中断した関係者の配慮も素晴らしいと思いました。スタンドで人が生死の境をさまよっているときに、サッカー観戦を楽しむことはできませんね。しかし日本で同じことが起こったらどうだっただろうと考えてしまいました。

チャビ監督談「サッカーを超える状況だった。席から落ちて、心臓発作を起こしたと聞いた。カディスとバルサ、審判三者が試合を中断することで一致した。僕らが話しているのは、一つの人間の命だ。命より大事なものはない。できる限り、早い回復を願っています」(バルサHPより)。

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2022年9月11日 (日)

サラの考察14: 肉食

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私「この頃、地球環境に配慮した食事の方法が勧められるようだね」
こちら1

サラ「ひょっとして菜食主義? それは猫には無理ね。でも私は枯れ葉なら食べられるわよ」

私「いろいろな流派があるらしいよ」

サラ「どんな?」

私:「例としては

ロカボ(low carbon):1食で摂取する糖質量を20~40gにする。1日では70~130g。タンパク質・脂質の制限はしません。
こちら2

ヴェジタリアン:肉や魚、それらの含有物を口にしない。卵や牛乳などの動物性食品は通常の食生活と同じように取り入れることができます。
こちら3

ヴィーガン(Vegan):肉や魚に加えて、卵・乳製品などの動物由来の食材を摂取しない。英国ヴィーガン協会によると、ヴィーガンの定義とは「可能な限り食べ物・衣服・その他の目的のために動物の搾取を取り入れないようにする生き方」となっているそうです。
こちら3

精進料理:本来仏教では肉食を禁止しているわけではなく、中国で僧侶に肉食を禁止した時代があって、そこから精進料理がはじまったそうです。
こちら4

などがあるようだ。」

サラ「管理人はどうなの」

私「私はヴェジタリアンじゃないけど、牛肉や豚肉はあまり食べないね。そういう人は昔からいて、ポーヨ・ベジタリアン(pollo-vegetarian)というらしい。」

サラ「じゃあ猫が生きていけるような栄養を含むヴェジ系配合飼料もできるのかしら」

私「きっとできると思うよ。でも野生の猫たちはやはり狩りをして生きてほしいね。・・・ところで私のベッドの手すりを枕にして寝るのはやめてほしいな。私の足が当たっちゃうよ」

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2022年9月 9日 (金)

私の戦友

Sennyuu

私の戦友である電子辞書カシオ EX-word (XD-SR8500) です。8500系の後継機種はまだ販売されているようです。負傷してこんな有様になってから2年くらい経ちましたが、まだ活躍してくれています。コンテンツはたくさん入っているようですが、使用する機会は99%はリーダーズ英和辞典。これは専門用語もかなり収録してあり便利です。残りの1%はジーニアス和英辞典で、他のコンテンツは開いたことがありません。もったいない話です。分厚い紙の辞書はほんとに使わなくなりましたが、どうしても捨てられません。困ったものです。

ふと思ったのですが、カシオとシャープ以外に電子辞書を見たことがありません。外国製品がありません。日本以外では電子辞書を使っている人はほとんどいないようです。スマートフォンで代用しているみたいですね。これは少し手間がかかって、やっぱり電子辞書の便利さには及びません。電子辞書が進化するとすれば、ペン型のスキャナーに対応してほしいと思います。キーをタイプするのはやはり面倒ですから。

辞書はもう完全に液晶画面でみる習慣がつきましたが、本はやっぱり小説などは紙の本を手に取って読みたいと思います。Kindle が意外に普及していないところをみると、同じような人は多いようです。紙本にはパラパラとページをめくって元にもどって確認するとか、赤線を引くとか、付箋をベタベタ貼るとかの楽しみがあります。PDFも便利なようで、まだまだ扱いにくい点があります。

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2022年9月 7日 (水)

円安はどこまで?

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1995年には1ドル=70円台だったレートがとんでもないことになってきました。今日は1ドル=144円です。円安がもたらすものは、もちろん寿司の値上がりだけではありません。管理人が知る科学関係では、研究試薬が外国製のものが多いので現場は困るでしょう。洋書を買ったり論文を閲覧するお金もバカにはなりません。外国の学会にでかけるのも、外国人の研究者を呼ぶのも難しくなるでしょう。留学も困難になります。ポストドクは外国にしか職がみつからなくなりそうです。さてさて国がワクチンを買うのにどれだけお金がかかるのでしょう?

音楽関係では、外国のソリストやオーケストラを呼ぶのも難しくなるでしょう。つい最近まで世界のオーケストラを聴ける(もちろん富裕階級だけの話ですが)東京でしたが、それも昔話になりそうです。どんなに円安になっても日銀は金利を上げません。なんのための日銀なのでしょう。晋三たちの白痴的経済政策のおかげで、こんなことになってしまいました。これをアホノミクスと言った浜矩子はマスコミから抹消されました。そろそろ出したらどうでしょうか?

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2022年9月 5日 (月)

続・生物学茶話188: グリシントランスポーターの進化

グリシンを用いた神経情報伝達はヒトでも重要な役割を果たしていますが、メタゾア(動物)の進化の過程で最も初期に枝分かれしたと考えられている有櫛動物も利用しているらしく、非常に古いタイプの神経情報伝達方式だと想像されています(1、2)。ナメクジウオでも日周性(ダイアーナルリズム)などに関連して利用されているようです。ナメクジウオの視覚では物の形を認識するというようなことはできませんが、明暗や光の方向は認識することができ、彼らの幼生たちは明るいうちは海底に近いところにいて、暗くなると海面に浮上するという生活をしています(3)。

脊椎動物のグリシン系神経伝達システムについては研究が進んでいて、概略は図188-1のようになります。シナプス前細胞からのグリシンの情報は、シナプス後細胞のイオンチャネル型のグリシン受容体によって受け取られ、塩素イオンを透過させることによって細胞に過分極をもたらし、脱分極を阻害する方向に働きます。全く別の様式で脱分極を促進する場合もあるにはありますが、基本的にはグリシンは抑制性の神経伝達因子です(1)。

神経伝達が完了すると、シナプス間隙周辺のグリシンはグリア細胞のグリシントランスポーター(GlyT1)により回収され、さらにシナプス前細胞のGlyT2により再回収され、シナプス前細胞にもどされます。もどされたグリシンはさらにVIAAT/VGATというシナプス小胞のトランスポーターによって小胞に取り込まれ、次の神経伝達の準備が行われます(図188-1)。

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図188-1 脊椎動物のグリシン系神経伝達システム

動物にとってベーシックな神経伝達様式であるグリシン系神経伝達システムですが、意外にも脊椎動物以外では研究が進んでおらず、図188-2のように、その存在が明確になっているのは現状では頭索動物・尾索動物・軟体動物・刺胞動物・節足動物のごく一部の種のみです。ただC.エレガンスではこの神経伝達システムが使われていないことが知られています(4)。

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図188-2 メタゾアにおけるグリシン系神経伝達の進化はどこまで調査されているか

シャパクらはグリシントランスポーターの分類と系統の研究から、グリシン系神経伝達の神経伝達システムの進化に取り組みました(5)。脊椎動物は図188-1にも示しましたが、GlyT1・GlyT2 という2種類のグリシントランスポーターを持っています。シャパクらはナメクジウオも2種類のトランスポーターを持っており、そのうちの GlyT2-like は脊椎動物の GlyT2 と同じグループに所属していてホモローガスと考えられましたが、もうひとつの方は脊椎動物のGlyT1ともGlyT2ともアウトグループではないかと指摘しました(5)。

ボッゾらはナメクジウオなどのグリシントランスポーターについてより詳細な解析を行ない、まずナメクジウオは3種類のグリシントランスポーターを持っていることをつきとめました(5)。そのうち GlyT2.1 と GlyT2.2 は脊椎動物の GlyT2 とよく似ていて同じグループと考えられましたが、GlyT2.1 は主として神経細胞でもグリア細胞でもない他の細胞に、Gly2.2はグリア細胞に局在することがわかりました。そしてナメクジウオの GlyT は脊椎動物の GlyT1 とは少し異なる古いタイプの分子であることも判明しました(6)。GlyTは主に神経細胞に発現していました(6)。

脊椎動物では GlyT1 は主にグリア細胞に、GlyT2 は主に神経細胞に分布しているので、後者と関係が深いナメクジウオの Gly2.2 がグリア細胞に局在しているのは不思議で、進化の過程で何らかの理由で局在が逆転したと思われます。

分子進化の系譜は図188-3のようになります。ここからわかるように GlyT型のトランスポーターはベーシックな古いタイプで、棘皮動物・尾索動物。頭索動物で共有するばかりか、サンゴ(刺胞動物)の分子とも関係が深いようです。ナメクジウオの Gly2.1 と Gly2.2 の分岐は全ゲノム倍化から生じたのではなく、それ以前におきた部分的な遺伝子重複から生まれたものだとボッゾらは考えています(6)。このようなことはウニでもおこっていて(ホヤではおこりませんでした)、ウニも GlyT2.1・GlyT2.2 の2つのタイプの Gly2 を持っています(図188-3)。

GlyT1は全く脊椎動物独自のグループで、ナメクジウオを含む無脊椎動物では発見されておらず、脊椎動物が全ゲノム重複というイベントを経験した後、独自に進化させた分子群と考えられます。

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図188-3 グリシントランスポーターの分子進化

余談になりますが、グリシンは睡眠誘導物質として知られています(7)。私も眠れなかったときに買って飲んでみたのですが、気分が悪くななることがあってやめました。今もポット一杯の粉末がストックしてあります。捨てればいいのですが、なかなかできないのが私の弱点です。

参照

1)続・生物学茶話150: グリシン その1 神経伝達物質としてのグリシン
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/07/post-7d466c.html


2)続・生物学茶話151: グリシン その2 グリシン受容体のルーツ
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/07/post-93b637.html

3)Jiri Pergner and Zbynek Kozmik, Amphioxus photoreceptors - insights into the evolution of vertebrate opsins, vision and circadian rhythmicity., Int. J. Dev. Biol. vol.61: pp.665-681 (2017) doi: 10.1387/ijdb.170230zk
https://www.semanticscholar.org/paper/Amphioxus-photoreceptors-insights-into-the-of-and-Pergner-Kozm%C3%ADk/b61537cdd1ce330ea6b13a045bb120b6c1525064

4)Aubrey, K.R.; Rossi, F.M.; Ruivo, R.; Alboni, S.; Bellenchi, G.C.; Le Goff, A.; Gasnier, B.; Supplisson, S. The transporters GlyT2 and VIAAT cooperate to determine the vesicular glycinergic phenotype., J. Neurosci. vol.27, pp.6273–6281, (2007) doi: 10.1523/JNEUROSCI.1024-07.2007.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17554001/

5)Shpak, M., Gentil, L.G. & Miranda, M. The Origin and Evolution of Vertebrate Glycine Transporters. J Mol Evol vol.78, pp.188-193 (2014).
https://doi.org/10.1007/s00239-014-9615-2
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24619162/

6)Matteo Bozzo, Simone Costa, Valentina Obino, Tiziana Bachetti, Emanuela Marcenaro,Mario Pestarino, Michael Schubert, and Simona Candiani,Functional Conservation and Genetic Divergence of Chordate Glycinergic Neurotransmission: Insights from Amphioxus Glycine Transporters., Cells 10, 3392.(2021)
https://doi.org/10.3390/cells10123392
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34943900/

7)眠れない人のための駆け込みサイト 睡眠サプリに含まれるグリシンの効果・副作用とは
https://www.goodsleep-nav.com/component/glycine.html


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2022年9月 3日 (土)

大野都響ーイブラギモヴァーブラームス@東京芸術劇場2022/09/03

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涼しくて出かけやすい気候になりました。今日は池袋の芸劇で大野・都響のブラームス交響曲第2番です。ソリストのイブラギモヴァは大人気のヴァイオリニストで、コンチェルトもブラームスのVnコンチェルト。広い芸劇ですが満席です。本日のコンマスはボス矢部、サイドは山本さん。

コンチェルトの序奏から、あれっ柔らかい音。ソリストを意識してのことでしょうか? ソリストのイブラギモヴァは恰幅の良いおばちゃんですが、童顔のかわいい人です(フライヤーの写真は昔すぎます)。ヴァイオリンの音もそんな感じですが、この箱にしてはやや音量が足りない感じがします。アンセルモ・ベローシィオの楽器らしいですが、サントリーホールで聴きたかったですね。ぺったんこの靴で、結構ステージを動き回りながら弾きます。指揮者の目の前で弾いたりしますが、これは指揮者は意外に合わせやすくて好ましいかも。

彼女の音楽はちょっと特別で、聴衆だけでなくオケメンにも自分の母乳を与えてリラックスさせ、会場全体ををやわらかく包むような雰囲気があります。聴く者にも弾く者にも母の愛が惜しみなく与えられます。もう技巧を超えた福音ですね(技巧もすごいのですが)。カデンツァなんてまるで胎児に話しかけているように感じました。

後半の交響曲第2番は文句のつけようがないくらい立派な演奏なんですが、なんというかライブのスリルや面白さが感じられないのがマエストロ大野の面目躍如なんだよね。2Vnの小林さんもマエストロ小泉のときのように足を踏みならしながらの演奏とはほど遠く、緊張して弾いていたみたいです。昨年のマエストロ下野のブラームスは、はみだしたケースも多くてとてもエキサイトしました。まあキャラとしてそういうのはできないんだと思いますね。

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2022年9月 1日 (木)

人名・国名・地名について

人の名前をどう呼ぶべきかの結論ははっきりしています。その人の言うとおりに呼べばよいのです。ただ実際それがそうされていない場合があるので困ります。地名をどう呼ぶべきかはずっと難しくなります。土地には占領がつきものですから、時代によって変わるのは致し方ありません。最近ではキエフがキーウになりました。これは何を正義とするかによって変わっためずらしい例です。

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写真の3人は、本人が使っている名前とは別の発音で呼ばれている人々です。チャビはFCバルセロナ(バルサ)の監督ですが、なぜか日本のマスコミは選手時代からシャビと呼んでいて、監督になった今も改めようとしません。ウィキペディアもシャビという項目になっています。エニャは日本の歌番組に出演して、自分はエニャだと自己紹介しているのを私自身聴きましたが、日本のレコード会社やマスコミはエンヤという名前で呼んでいて、頑として改めようとしません。習近平は世界でも5本の指に入るべき有名人ですが、日本のマスコミでシー・チンピンと正しく呼んでいるところはないと思います。人の名前は他の人や組織の都合で勝手に変えられてはならないものだと思います。

国名は人の名前とくらべれば、かなりルーズになるのはやむをえません。国には長い歴史があってその間に変遷もあります。日本自体も国名ははっきりしません。にほんなのかにっぽんなのかジャパンなのか、どうなのでしょう。NHKはにっぽんですが。多くの国はジャパンと呼んでいて、中国ではリーベン、韓国ではイルポンです。日本も中国をツォンクゥォ-と正しく発音しているマスコミはありませんし、韓国もハングとは発音されていません。やむをえないとはいえ、こんなにでたらめでいいのかとは思いますね。基本的にはその地の人々が呼ぶ発音で外地の人も発音すべきでしょう。国連がなんとかしてはどうでしょうか。

地名は意外に混乱は少ないと思います。北海道にはアイヌ語の地名がたくさんありますが、政府は容認しました。稚内(わっかない)は沢、新冠(にいかっぷ)はニレの木の皮という意味だそうです。ただ中国の地名は日本語読みの場合が多いですね。これは例外でしょう。

個人的には日本のマスコミは中国の最高指導者と主要都市の名前くらいは現地の発音を採用すべきだと思います。ソウルとかピョンヤンは定着しているくらいですから。中国のマスコミにも日本の総理・外務大臣や主要都市については日本語の発音を採用してくれと要求すべきでしょう。

習近平 シー・チンピン
李克強 リー・コーチャン

中国 ツォンクゥォー

北京 ペイチン
武漢 ウーハン
重慶 チョンチン
香港 シャンガン

(上海はなぜかシャンハイと正しく呼ばれています)

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Contributors of photos:
Doha Stadium Plus Qatar (left)
C. Duffy (center)
R. Kubanskiy (right)
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