« 2021年12月 | トップページ | 2022年2月 »

2022年1月30日 (日)

シティ・フィル-藤岡@ティアラこうとう2023/1/29

Imgfujioka

オミクロン株はそんなに恐れるべきものではないことが明らかになってきたので、久しぶりにコンサートに出かけることにしました。土曜日のマチネということで、ティアラこうとうへの電車は往復ともガラガラでした。

ティアラは半蔵門線住吉駅から5分くらいの便利な場所にあります。コンサートホールらしいところはなくて、ホワイエはおろかロビーも狭く質素なつくりで、全く街の公会堂という感じです。2F席の後ろは狭い廊下です。ただステージが広いのには感心しました。フルオーケストラがはいっても、ピアノを含めて演奏者と客席の間に3メートルくらいスペースがありました。音響も悪くはありません。

マエストロは藤岡さん、ソリストは田部さん、オケは東京シティフィルです。このコロナ禍のなかで満席に近い大盛況でした。今日の前半はスペシャルプログラムで、シューベルトの最後のピアノソナタ第21番を、吉松さんが編曲してピアノ協奏曲にした新曲の世界初演です。その辺のことを藤岡さんと吉松さんがプレトークで解説してくれました。

この曲は23年前にすでに完成していて、藤岡さんは当時演奏を依頼されたのですがびびって断ったそうです。それ以来お蔵入りしていたのを何故か今演奏の運びになりました。曲は悪くはないですが、シューベルトや田部さんや楽壇に遠慮があったのか、できるだけ原曲に近い形にしようという配慮が裏目に出ている感じのところもありました。また原曲の寂寥感よりも楽しさが前面に出ていました。それなら誰にも忖度なくバッサリと書き換えて、普通のコンチェルトとしての体裁をととのえた方が良かったのではないかと思いました。

後半のシベリウスの交響曲第1番は、藤岡さんも言ってましたが、どうして演奏機会が少ないのか不思議になる素晴らしい名曲で、日本ではシベリウスの最高権威である藤岡さんの指揮で今日聴けたのは幸いでした。シティフィルの演奏もストレスを一気に解消できるような解放感のある名演でした。

藤岡幸夫指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団
エンター・ザ・ミュージック   2018年12月8日放送
シベリウス「交響曲第1番」

https://www.youtube.com/watch?v=URReMG2igO8

 

| | | コメント (0)

2022年1月27日 (木)

続・生物学茶話170: ナメクジウオ

ナメクジウオを見たことがある人は少ないでしょう。私も生きているナメクジウオを見た記憶はありません。浅海の海底にいるようで、長さ数センチくらいの一見原始的な魚類のような生物です。日本近海には4種が存在することが知られていますが、浅い海の砂地が減少するにつれて、希少な生物になってしまいました。このうち21世紀になってから発見されたゲイコツナメクジウオはちょっと変わっていて、鯨の死体の骨やその周辺に住み着いている生物です。ほぼ同様な生物が鯨が出現する以前の白亜紀からいたそうです(1-3)。ただその時代にも海洋で生活する巨大生物は魚竜など数多くいたので、屍体には事欠かなかったのでしょう。

ナメクジウオはナメクジでも魚でもなく頭索動物(Cephalochordata)という分類になっていて、私たちと同じ脊索動物門のひとつの亜門を構成しています(1)。英語では専門的な論文でも Amphioxus または Lancelet という言葉もよく使われるので、情報を検索するときには要注意です。図170-1で示したように、脊索動物門は頭索動物・尾索動物・脊椎動物の3つの亜門で構成されていますが、この中では頭索動物が最も古いタイプの脊索動物の特徴を保持した生きた化石のような生物であることが、21世紀になってから行われたゲノムの解析によって明らかになりました(4、5)。頭索動物の祖先と脊椎動物・尾索動物の祖先が分岐したのは6億5千万年~7億年前とされています(6)。

1701a

図170-1 後口動物(Deuterostomia)の系統樹

ナメクジウオの形態を図170-2に示しました。Aのように脊索が体の最前部から最後部まできれいに伸びていて、その背部に神経索があります。神経索の前端は脊索の前端より後ろの位置にあります。体の前の方には脊索動物の特徴である鰓裂があります。背びれ、腹びれ、尾びれは存在して、鰭条も存在し、ひれを使ってしっかり泳げます。

いろいろ写真なども見ましたが、このウィキペディアのイラスト以外に神経索がふくらんだ部分がある証拠は確認できませんでした。脳は一応ないことになっていますが、ウィキペディアのイラスト(図170-2B①、1)では脳室(脳胞という場合が多いようです)というキャプションがついています。もやもやとした曖昧な部分です。ホランドによるとHox-1やHox-3という脊椎動物の脳を形成する遺伝子の発現は、ナメクジウオでは脳胞よりずっと後ろにみられるそうです(7)。脊椎動物であるヌタウナギも脊椎はほぼなくて、ナメクジウオと似たような脊索・神経索を持ちますが、それは進化の過程で喪失したからのようです(8)。

ナメクジウオは粘液を分泌するハチェック小窩という外分泌器官を持っていて、ここから粘液を出して吸い込んだ海水中の食べ物を吸着するようです(9)。ヌタウナギも大量の粘液を出すので、このあたりは繋がっているのかもしれません。

1702a

図170-2 ナメクジウオの形態

図Cのキャプション: A: Buccal cirri, B: Wheel organ, C: Velum, D: Rostrum, E: Notochord extending beyond nerve cord, F: Nerve cord, G: Hatschek's pit, H: Fin rays, I: Gill bar, J: Buccal cavity (vestibule).

生きたナメクジウオを飼育している水族館はないかとグーグルで検索すると、小名浜にあるアクアマリンふくしまのサイトがでてきました(10)。研究者でもなかなか飼育が難しい生物を、よくまあ飼育できたものと思います。幼生のうちはプランクトンとして浮遊生活をしますが、成体は図170-3Aのように海底の砂に潜って、浮遊するプランクトンを栄養源にしているようです(11)。チンアナゴを思い浮かべますが、チンアナゴはれっきとした魚類でちゃんと眼で餌を確認して食べることができます。ナメクジウオは光は感知できるようですが、発達した眼を持っているわけではないのでそんな芸当は無理で、海水ごと飲み込んで粘液でトラップできたプランクトンを食べているようです。

ナメクジウオは図170-3BのようにGFPを使って発光することができます。発光することでどんなメリットがあるのかはよくわかりませんが、この図のように砂から外に出ている頭部が発光する種が多いようなので、採餌や繁殖に有用であることが想像されます。ナメクジウオの緑色蛍光タンパク質については文献がありますが未読です(12)。

1703a

図170-3 ナメクジウオの生態と発光

大野乾は脊椎動物が進化する過程で2~3回の全ゲノム重複が発生したという説を今から50年以上も前に発表しましたが(13)、同じ遺伝子が複数できると片方はなくてもいいわけですから、多くの場合変異を重ねて追跡できなくなってしまうので、なかなか証明することができませんでした。しかしそれでもその証拠が残された部分が少づつ明らかになってきて、21世紀には誰もが大野説を信じるようになりました。脊椎動物の場合左右相称動物の基本形ができて、さらに頭索動物と分岐した後、4億5千万年前から5億年前あたりの時代に2回の全ゲノム重複があって現在に至るとされています(14、15)。

ウィキペディアのHox遺伝子 の項目を見ると、この遺伝子が全ゲノム重複の過程を見るのに適した遺伝子であることがわかります(16、図170-4)。Hox遺伝子は生物が頭、胸、腹、尾などの構造を形成する上で基本的な区別をつくるための基幹的遺伝子です。図170-4を見ると、ナメクジウオ(頭索動物)のHox遺伝子は15個存在し、そのほとんどが2回全ゲノム重複後のマウスやヒトでもそれらの順列も含めて保存されていることがわかります。9~12は半分の2つの遺伝子に集約されていますが、他はすべて保存されいます。つまりナメクジウオと私たちは体の作り方が基本的に同じタイプだということでしょう。

一方で脊椎動物とより近縁であることがわかっている尾索動物(ホヤなど)では変異によって失われた遺伝子が多いことがわかっています(17)。これは尾索動物が脊椎動物とはあまりにも異なる生活様式を選択し、ボディープランも大きく変化したためと思われます。ショウジョウバエは前口動物であり、ナメクジウオや私たち後口動物とは系統樹の根元から分かれた生物ですが、それでもHox遺伝子の並びはかなり類似しています。このことは前口動物と後口動物が分岐する前のウルバイラテリア(始原的左右相称動物)の時代からこの遺伝子群が存在していることを示す証拠と考えられます(17)。

1704a

図170-4 Hox遺伝子群の並び方の比較

全ゲノム重複を示唆するもうひとつの例はWnt遺伝子群です(18)。これらの遺伝子も生物が体の各部分を形成する上で極めて重要な根幹遺伝子群であり、生物がどのように進化するにしても失われてはならないものです。ですからゲノムが4倍化して3つがつぶれても、図170-5のように、どこかにひとつは残っていないといけません。そして分岐してから数億年経過しても、遺伝子の順列に痕跡が残っているもうひとつの例が図170-5です。

1705a

図170-5 Wnt遺伝子群と全ゲノム重複

 

参照

1)ウィキペディア:頭索動物
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A0%AD%E7%B4%A2%E5%8B%95%E7%89%A9

2)ウィキペディア:ゲイコツナメクジウオ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%84%E3%83%8A%E3%83%A1%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%82%A6%E3%82%AA

3)Nishikawa, T., A new deep-water lancelet (Cephalochordata) from off Cape Nomamisaki, SW Japan, with a proposal of the revised system recovering the genus Asymmetron., Zool. Sci. vol.21 (11): pp.1131-1136. (2004) doi:10.2108/zsj.21.1131.

4)京都大学広報資料 ナメクジウオゲノム解読の成功により脊椎動物の起源が明らかに
https://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/2008/news6/080612_1.htm

5)Nicholas H. Putnam et al., The amphioxus genome and the evolution of the chordate karyotype., Nature vol.453, pp.1064-1071 (2008)
https://www.nature.com/articles/nature06967

6)Wikipedia: Cephalochordata
https://en.wikipedia.org/wiki/Cephalochordate

7)Kidoch 遺伝子で脳の進化を探る-形の進化とゲノムの変化―ナメクジウオが教えてくれること
デンジソウ(2014)
http://denjiso.net/?p=12150

8)理化学研究所 プレスリリース 背骨を持たない脊椎動物「ヌタウナギ」に背骨の痕跡を発見-脊椎骨の形成メカニズムの進化について新しい仮説を提唱- (2011)
https://www.riken.jp/press/2011/20110629/index.html

9)Wikipedia: Hatschek's pit
https://en.wikipedia.org/wiki/Hatschek%27s_pit

10)アクアマリンふくしま
https://www.aquamarine.or.jp/exhibitions/evolution/

11)Archetron: Lancelet
https://alchetron.com/Lancelet

12)窪川かおる・村上明男 ナメクジウオの緑色蛍光タンパク質「細胞工学」vol.28, no.1, pp.70-75 (2009)

13)ウィキペディア:大野乾(おおのすすむ)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8E%E4%B9%BE

14)沖縄科学技術大学院大学HP 古生代における種間交雑:脊椎動物における全ゲノム重複の真実が明らかに (2020)https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/35053

15)Paramvir Dehal, Jeffrey L. Boore, Two Rounds of Whole Genome Duplication in the Ancestral Vertebrate, PLoS. Biol., Vol.3,  Issue 10, e314 (2005) DOI: 10.1371/journal.pbio.003031
https://www.researchgate.net/publication/7631541

16)Wikipedia: Hox gene
https://en.wikipedia.org/wiki/Hox_gene

17)Derek Lemons and William McGinnis, Genomic Evolution of Hox Gene Clusters., Science vol.313, pp.1918-1922 (2006) DOI: 10.1126/science.1132040
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1132040

18)京都大学他 プレスリリース 国際チームがナメクジウオゲノムの解読に成功 - 脊椎動物の起源が明らかに - (2008)
https://www.nii.ac.jp/kouhou/NIIPress08_07-1.pdf

| | | コメント (0)

2022年1月26日 (水)

悪魔のループ~忘却の記憶

Aeon cinema chiba newtown.jpg

脳の働きというのは普通は意識するはずもなく自然に利用しているわけですが、時々強く意識させられることがあります。それは脳が「忘れる」という行為を記憶する場合です。

イオンの駐車場にはいるときには駐車券を受け取って、それをレジで電子スタンプをしなければいけないのですが、毎回駐車券を車に置き忘れるのです。そして何百メートルか歩いて取りに戻ります。この悪魔のループが脳に刻印されていて、抜け出すのに3年くらいかかりました。車のエンジンを止めて、外に出てキーをかけてという行為は絶対に忘れないのに、駐車券を持参するという行為だけを忘れるのです。いやこれは忘れるんじゃなくて、忘れるという行為のパターンが、まるでトカチェフを行う鉄棒選手の行為のように、しっかりと脳に記憶されているからだと思います。

うちの猫たちも歳をとってドライフードだと痩せてしまうので、ウェットフードに変えたのですが、ウェットフードは出して10分も経つと食べなくなります。新鮮さに敏感なんですね。なので食事の時間を決めて、決まった時間に出すことにしています。こうしてから朝は猫の「朝ご飯要求」のさわぎで目を覚ますようになりました。起きて着替えて老眼鏡かけて食事を与えに行くというのが正しいシーケンスなのですが、ここで毎日「老眼鏡かけて」という行為を忘れるんですね。ドアから2メートルくらい歩いたときに思い出して戻ります。この一連の行為のセットが脳にばっちりと記憶されているんですね。この悪魔のループからはまだ抜け出せていません。

忘れるという行為は決して意識してはできないことで、パッシブに回路を使わないことによって信号が伝達しにくくなるというのはわかりやすいパターンなのですが、悪魔のループはこれでは説明できません。もっと意識が関与できない部分で制御されているのでしょう。

(写真はウィキペディアより)

| | | コメント (0)

2022年1月24日 (月)

国立国会図書館の怪

300pxnational_diet_library_2009

国立国会図書館のデジタルコレクションが個人のPCから閲覧できない状態になっています。図書館まで行って、図書館の端末からでないと閲覧できないのです。いったいなんのためのデジタルコレクションなのかわからなくなっているわけですが、どのくらい図書館が出版社にお金を支払うかという交渉が成立していないことによるのでしょう。交渉中に見切り発車してしまって問題をこじらせた可能性があります。

しかし「生物学茶話@渋めのダージリンはいかが」は私が執筆・編集・出版した本であり、上のような問題が発生するわけがないのです。これを閲覧不可の状態にするのは納得がいかないから改善すべきだと主張しましたが 「ご意見は承りました。しかし現状では一括処理となっていて個別の要望はうけいれられない」 ということだそうです。唖然とするしかありません。

というわけで、実際にはまるで笑い話のような状況になっています。

国立国会図書館サーチで検索する

検索の結果が出たら書名をクリックする

掲載誌情報のリンクをクリックする

私のサイトに繋がる(つまりここ)

トップページのアネックスのご案内からPDFにたどりつく

これじゃ

国会図書館=道草版のグーグル???

| | | コメント (0)

2022年1月23日 (日)

サラとミーナ261: 珍しくミーナにサービスするサラ

Img_4180a

珍しくミーナにサービスするサラ。頭を後ろから舐めてます。ミーナがサラを舐めるときは非常にしつこいので、サラはわりと嫌がって逃げることが多いのですが、最近は歳をとったせいかなすがままにしていることもあります。そればかりか、このように逆にミーナを舐めてあげることもあります。

ミーナはすっかり筋肉も脂肪も落ちて老境ですが、食欲は旺盛ですし元気がなくなった感じはありません。

| | | コメント (0)

2022年1月20日 (木)

マエストロ大野のわすれもの

Imgseason

コロナ禍でオーケストラは大変で同情します。都響もついに22日(土)のプロムナードコンサートがマエストロ大友のコロナ感染で中止となりました。リハーサルの前にわかったのかどうか心配になりますね。

一方で来年度のシーズンシートの予約がようやくスタートしました。リーフレットが送られてきましたが、今回は音楽監督の大野さんが直々に曲目や指揮者の紹介をしています。すべての指揮者の名前が書かれているはずなのですが、ひとりだけ名前が脱落している人がいます。その人の名はベン・グラスバーグ。なんと気の毒な・・・。2023年の3月5日に登場してペトルーシュカなど演奏します。絶対聴きに行きますので許してね。

 

| | | コメント (0)

2022年1月19日 (水)

ホタルとクラゲから発展した科学

Imgzimmer

マーク・ジマーの「光る遺伝子」という本を買いました。文章を読めばだいたいどんな人かはわかります。彼は天才にありがちな、思考があっちこっちに飛び回って、凡人がついていくのが大変というタイプの人です。個々の事実をひとつひとつじっくり検証していくということはしないので、細かいことにはあまりこだわらない方が良いと思います。

それでもちょっと気になるのは、「ホタルは日本では18世紀から詩歌に詠まれている」という記述で、そんなバカなことはないだろうと思って調べてみると、意外にも万葉集でホタルを歌った歌はひとつだけだそうです。

歌人・朝倉冴希の風花DIARY ~花と短歌のblog~
【万葉集】「蛍」を詠んだ唯一の長歌
https://dasaan.xsrv.jp/archives/15439

万葉集の時代には夜外を歩くのはあまりにも危険だったし、その様な習慣もなかったからと思われます。平安時代になると「夜這い」が習慣になって、夜も普通に人が出歩くようになり、ホタルもポピュラーになったのでしょう。源氏物語には光源氏が女性の姿を際立たせるためにホタルを放ったという話が出てきます。和歌も数多く、ひとつだけ選ぶと。

物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る
和泉式部

ところでサイエンスの観点からちょっと面白いと思ったのは、1753年にマサチューセッツ州知事のジェームス・ボードンという人が、燐光を発する海水を布で漉すと光らなくなると手紙をベンジャミン・フランクリンに書いて、それでフランクリンは海水の発光は電気現象だという自説をひっこめて生物発光説に転換したという話です。

驚いたのは私が最も尊敬する科学者のひとりであるラッザロ・スパランツァーニがクラゲの発光について重要な記述をしていることでした。スパランツァーニは自分を実験動物にしてさまざまな実験を行った、18世紀の狂気の科学者として有名な人です。
http://morph.way-nifty.com/grey/2017/02/post-b151.html

彼は死んだクラゲが雨に当たると発光する、牛乳を垂らすとものすごく明るく発光すると記しているそうです。これはおそらくカルシウムのせいでしょう。

このあとは現代科学のお話になりますが、逸話満載で光生物学に関心がある向きにとってはとても面白い本だと思います。

 

| | | コメント (0)

2022年1月15日 (土)

続・生物学茶話169: GFPの発見からコンフェティマウスへ

光センサ-を持つ細菌や発光する細菌は数多く存在するので、カンブリア紀以前にも生物は光を利用してさまざまなことをやっていたと思われますが、カンブリア紀に眼を持つ真核生物が出現したことで、生物による光の利用は大きくステップアップしました。暗い場所でまわりを見る、エサをおびき寄せる、捕食者の目をくらませて逃げる、捕食者が下にいるとき自分の陰影をつくらないようにする、繁殖のためのコミュニケーションに使うなどその用途は様々です(1)。現在でもすべての深海魚の60~80%は生物発光を行なうと言われています。

遺伝子発現の研究に汎用されてきた緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein = GFP)の父である下村脩博士は米国の研究者ですが、生まれも育ちも日本で、16才の時には諫早市で原爆を被爆しています。ウィキペディアによると長崎大学薬学部を卒業後、武田薬品の入社試験に落ち、名古屋大学の江上不二夫のところに留学しようとしたところ、手違いで平田義正の研究室に所属することになり、そこでウミホタルのルシフェリンの結晶化と構造決定に成功して未来が開かれることになりました。何が幸いするかわかりません(2-4)。

1960年にはプリンストン大学の招きで渡米し、いったん日本に戻るも発光現象の研究に専念したいという思いがあって1965年に再渡米し、プリンストン大学に職を得て主にシアトルとバンクーバーの中間くらいにあるフライデーハーバー実験所でオワンクラゲの発光物質の研究を行いました。日本のオワンクラゲと米国のオワンクラゲが同じ種類であるかどうかは、驚くべきことにまだわかっていないそうです(5)。図169-1に下村先生と発光するオワンクラゲを示しました。美しい生物ですが、他のクラゲや魚を一飲みする採餌様式の肉食動物だそうです。チャルフィーとツェンは下村と同時に2008年のノーベル化学賞を受賞した人々です。

幸いにして当時は実験所が面した海面を埋め尽くすくらいのオワンクラゲがいたので、下村らは1万匹のクラゲを採集して、そこから発光タンパク質を5mg精製することができたそうです(6)。現在はオワンクラゲの数が非常に少なくなって、とても当時のような研究はできないとのこと(6)。

1691a

図169-1 2008年ノーバル化学賞受賞者と発光するオワンクラゲ

下村らが解明したオワンクラゲの発光メカニズムの概要を図169-2に示しました。アポイクオリンは分子量22,514ダルトンの小型のタンパク質で、セレンテラジンという発光基質前駆体と結合しますが、カルシウムイオンの存在下でセレンテラジンはセレンテラミドに変化し青色発光を行います(図169-3)。このアポイクオリンとセレンテラミド複合体が解離する反応とGFPが活性化される反応が共役していてGFPが励起状態となり、それが基底状態にもどるときに緑色の発光が行われます(7-9、図169-2)。その色は図169-1のように実に美しいものです。

1692a

図169-2 オワンクラゲ発光の原理

1693a

図169-3 セレンテラミドを生成する反応

セレンテラミドと解離したアポイクオリンは再びセレンテラジンと結合してイクオリンとなり、次の発光の準備をします。一方GFPは7つのβシートをもつバレル構造のタンパク質ですが、中心部にひとつのαヘリックスが存在し、この Ser65-Tyr66-Gly67 の3つのアミノ酸が図169-4のような反応を行ない灰緑色の発色団を自己形成します。この発色団はセレンテラミドが発光する近紫外光を吸収して、508~509nmの緑色可視光を発光します(10、11)。

発色団を別途合成しなくても、タンパク質自身が発光物質をつくるというのがGFPの特徴で、このことはGFPの遺伝子があればそれを発現させて外から近紫外光を当てれば発光するという、実験者にとっては特段に便利なツールになりそうなことが後にわかりました。GFP発見当初はタンパク質自身が自動的に発色団をつくるなどということは信じられていませんでした。

1694a

図169-4 GFPタンパク質と発色団

プラシャーらはGFP遺伝子のクローニングを行ないましたが(12)、それを使ってチャルフィーらがクラゲ以外の生物で発光させようとしましたがうまく行きませんでした。多くの人はそらみたことかと思ったのでしょうが、しかし遺伝子末端の配列を除去するという簡単な処理によって、大腸菌や線虫で発光させることが可能になりました(13)。この論文は1万回近く引用されてクラシックとなっています。

GFPマウスは図169-5の様な手順で作成しますが、たとえばCAGプロモーターの下流にGFP遺伝子を移入したマウスは、ほとんどの細胞でGFPが合成され、紫外線を当てると全身が緑色のマウスとなります。このようなマウスは市販されています(14)。このマウスの細胞を通常のマウスに移植すると、移植された細胞だけが光ることによって容易に識別できます。これは核の形態で判別していたウズラ-ニワトリの移植系とくらべると、格段に便利で確実な識別法です。

特定のタンパク質を光らせたい場合は、その遺伝子の前か後にGFPの遺伝子を挿入してハイブリッドタンパク質を作らせるようにします(図169-5)。ハイブリッドにした場合、元の機能が減弱されたり改変されたりすることが考えられますが、意外にも大きな変化なく機能する場合が多いようです。C末につけてダメならN末につけるとかの選択は可能です。C末やN末は通常タンパク質の表層に出ていますが、内部にある場合GFPをつけると構造が破壊されるおそれがあるので注意が必要です。これによって任意のタンパク質の発現が紫外線を照射するだけで判定できることになりました。タンパク質の細胞内局在も容易に判定できます(15)

1695a

図169-5 タンパク質を光らせて検出する

もうひとりのノーベル賞受賞者ロジャー・ツェンは中国系米国人ですが、子供の頃喘息を患いあまり外に出られなかったので、父親の援助で地下室や裏庭でひとりで化学実験をやっていたそうです。その頃の実験台の写真がノーベル賞関係のサイトに出ています(14)。彼はカルシウム指示薬などの開発で著名な業績を残した人ですが、GFPにも関心を持ってGFPタンパク質の構造・機能を解明し、異なる色を発色する変異体を作成してマルチカラーイメージングを可能にしました(9、16、図169-6)。

さまざまなタンパク質に別の色をつけて、細胞による発現の差を調べることもできるようになりました。脳の様々な細胞を識別することも行なわれています。この発色をブレインボーとは都合の良い語呂合わせです(17、18、図169-6)。

1696a

図169-6 ブレインボー

コンフェティマウス(色紙マウス)については、たとえばCAGGという強力なプロモーターの下流に、蛍光タンパク質遺伝子とloxPのサイトを図169-7のように配置しておき、ある時点でCreを発動させると、loxPのコアが同じ向きの配列に挟まれたネオマイシンレジスタントの領域は削除され、コアが反対向きの配列ではさまれた領域はある確率で組換えが起こって4種類の蛍光タンパク質遺伝子の配列が出現します(19、図169-7)。字が逆さになっているのは逆向きの配列を意味します。逆向き配列の遺伝子は組換えが起こらない限り発現しません。プロモーターに一番近い遺伝子が発現するので4色の細胞ができて、細胞分裂するとそれぞれ同じ色が発現します。これによって細胞系列の解析が可能となります(図169-6)。

1697a

図169-7 コンフェティマウス

 

参照

1)あくと 深海ゼミ 深海生物(深海魚)が発光するのはなぜ?面白い理由を解説
https://deep-sea-creatures.com/hakko1

2)ウィキペディア:下村脩
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E6%9D%91%E8%84%A9

3)Nagoya Repository: 海ホタルルシフェリンの構造
https://nagoya.repo.nii.ac.jp/records/9204

4)下村脩 発光生物研究40年 長崎大学薬学部同窓会報第35号 (1995)
http://www.ph.nagasaki-u.ac.jp/dousou/news/070106/no35_shimomura.pdf

5)ウィキペディア:オワンクラゲ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%B2

6)Nagoya University Cheers! 名古屋大学特別教授 下村脩 博士
https://jukensei.jimu.nagoya-u.ac.jp/bigname/20130301.html

7)Shimomura O, Johnson, F.H., Saiga, Y., Extraction, purification and properties of aequorin, a bioluminescent protein from the luminous hydromedusan, Aequorea.,
J Cell Comp Physiol., vol.59: pp.223-39.(1962) doi: 10.1002/jcp.1030590302.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13911999/

8)Osamu Shimomura, BIOLUMINESCENCE Chemical Principles and Methods Revised Edition, World Scientific, Pub Co Inc., (2012)

9)宮脇敦史 GFP研究の歴史を紐解く 〜下村,Chalfie,Tsien 博士の偉業〜
https://www.chart.co.jp/subject/rika/scnet/35/sc35-1.pdf

10)Chem-Station, 緑色蛍光タンパク Green Fluorescent Protein (GFP)
https://www.chem-station.com/molecule/naturalmol/2009/01/green_fluorescent_protein_gfp.html

11)Wikipedia: Green fluorescent protein
https://en.wikipedia.org/wiki/Green_fluorescent_protein

12)D.C. Prasher, V.K. Eckenrode, W.W. Ward, F.G. Prendergast, M.J.Cormier, Primary structure of the Aequorea victoria green-fluorescent protein., Gene vol.111, pp.229-233 (1992) doi: 10.1016/0378-1119(92)90691-h.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1347277/

13)M.Chalfie, Y.Tu, G.Euskirchen, W.W.Ward, D.C. Prascher, Green Fluorescent Protein as a Marker for Gene Expression., Science vol.263, pp.802-805 (1994) DOI: 10.1126/science.8303295
https://www.science.org/doi/10.1126/science.8303295

14)日本SLC株式会社 遺伝子改変動物 トランスジェニックマウス(GFP)
http://jslc.co.jp/animals/mouse.php

15)齋藤尚亮 神戸大学 バイオシグナル研究センター GFP(Green fluorescent protein) が科学者に与えた光
http://www.sci.kobe-u.ac.jp/old/seminar/pdf/2009_saito.pdf

16)The Nobel Prize., Roger Y. Tsien
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2008/tsien/facts/

17)九州大学附属図書館 線虫 C. elegans ~約1ミリのモデル生物で切り拓く生命科学~: マーカーとしてのGFP(緑色蛍光タンパク質)の応用
https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/ModelOrg_Celegans/gfp

18)Brainbow : Livet, J., Weissman, T. A., Kang, H., Draft, R. W., Lu, J., Bennis, R. A., Sanes, J. R., & Lichtman, J. W., Transgenic strategies for combinatorial expression of fluorescent proteins in the nervous system. Nature, vol.450(7166), pp.56-62. (2007)
https://doi.org/10.1038/nature06293

19)Hugo J. Snippert, Laurens G. van der Flier, Toshiro Sato, Johan H. van Es, Maaike van den Born, Carla Kroon-Veenboer, Nick Barker, Allon M. Klein, Jacco van Rheenen, Benjamin D. Simons, and Hans Clevers, Intestinal Crypt Homeostasis Results from Neutral Competition between Symmetrically Dividing Lgr5 Stem Cells., Cell vol.143, pp.134–144, (2010) DOI 10.1016/j.cell.2010.09.016

 

| | | コメント (0)

2022年1月13日 (木)

新型コロナ感染症の起源について

20211216omicrona_20220113232201

新型コロナウィルスの感染がどこからはじまったかの議論はあまりこまかく報道されていませんが、私は2020年2月17日中央日報日本語版の記事に注目しています。

https://s.japanese.joins.com/JArticle/262641?sectcode=A00&servcode=A00

この記事によると「武漢疾病予防管理センターは2017年と2019年、実験用に多くのコウモリを捕まえた。2017年には湖北省・浙江省などで約600匹のコウモリを捕まえたが、この中には重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスを持つキクガシラコウモリも含まれていた。当時、同センターの研究員は、勤務中にコウモリに噛まれたり尿をかけられたりしたと話した。」と記してあります。

武漢疾病予防管理センターはよく感染源として指摘されている武漢ウィルス研究所とは全く別もので、建物は最初に感染が勃発した華南水産市場から280メートルの距離にあるそうです。ウィルス研究所は12kmも離れた場所にあります。常識的には疾病予防管理センターが発生源の可能性が高いと思われます。

| | | コメント (0)

2022年1月11日 (火)

サラとミーナ260:阪神タイガースのふわふわシートがお気に入り

Img_4154a

阪神タイガースFCのふわふわシートがお気に入りのサラとミーナ。うちの猫たちは連んでいないので(ミーナは連みたいのですが、サラが拒否します)、2ショットを撮るのはなかなか難しいのですが、シートのおかげで集まってくれました。

猫は人間が感染するSARS-CoV-2とは異なる Feline coronavirus: FCoVというコロナウィルスに感染します。これは病原性が低いので問題外なのですが、たまに体内で突然変異して猫伝染性腹膜炎ウイルスという病原性の高い変異体が発生することがあるようです。そうなると大変ですが、それはそれとして、おそらくコロナウィルスには多くの個体が感染して免疫を持っているので、ヒトのコロナウィルスが感染しても発病しないようです。

| | | コメント (0)

2022年1月10日 (月)

日本のシナリオ

Money

別に経済学者じゃなくても、このままいくと日本はどうなるか見えてきました。

コロナのばらまきで世界中でインフレが進む。

米国もEUも金利を上げざるを得なくなる。

日本は金利を上げたくても上げられない。
(上げると国債の利払いで国家破産する)

投資資金は金利の高い海外に逃避して日本は干上がる。

日本にいると資金不足になるので、企業は海外に移転する。

日本に残るのは日用雑貨などの中小企業だけになるが、
RCEPによる海外製品の流入で経営困難になる。

このような事態になっても政府は資金や企業の海外逃避を
禁止する方策はとらないし、輸入を禁止する方策もとらない。

日本国民は極貧に転落する。

こうならないためには、投資家や企業経営者から袋だたきにあっても早めに金融鎖国を断行する政策が必要ですが、そんなことをできる政党があるでしょうか?

ならば焼け野原になった日本を再生する方法はひとつしかありません。世界の最貧国から移民を集めて「安かろう悪かろう?」の製品を製造して輸出するしかないでしょう。もしも政府が金融鎖国をやらないのなら、今から最貧国からの再生ストラテジーを考えておいた方がいいと思いますよ。

 

| | | コメント (0)

2022年1月 8日 (土)

出入国管理事務所(入管)は何をやっているのだろう?

参議院議員 石川大我氏のツイートより

Photo_20220108131201

中国政府によるウィグル人の迫害はゆゆしき問題ですが、それを批判する前に、わが国の政府は足下の人権侵害問題を解決すべきでしょう。

志葉玲 車椅子の病人に集団暴行、1時間半―入管「コメントは差し控える」
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20211129-00270226

入管施設でコロナ感染、職員による制圧でケガも…スリランカ男性、危機的な健康状態か
https://news.yahoo.co.jp/articles/7c0363c38ce03c2937d3d0e75e8dc901195b684a

Pinkydragon ~ SYI (収容者友人有志一同: Immigration Detainee's Friends) Blog ~
https://pinkydra.exblog.jp/

| | | コメント (0)

2022年1月 6日 (木)

続・生物学茶話168:Cre/loxP システム

最近は幹細胞からの分化をトレースするのに R26R-Confetti mouse というツールが用いられる場合が多いようです。これはCre/loxPシステムの応用技術ですが、今回は少し寄り道してこの系統の技術のルーツをたどってみようと思います。

Cre/loxPシステムはもともと人間が開発したのではなく、P1というバクテリオファージが保有しているシステムです。P1ファージを発見したのはサルバドール・ルリア研のジュゼッペ・ベルターニで、1951年という昔の話です(1)。様々な菌に感染できるファージだということがわかっています(2)。P1は高い効率で形質導入を行う能力を持っていることがルリア研であきらかになり、有用なベクターとして重宝されました。

ファージはホストに感染すると、すぐに増殖して溶菌し外に出てくる場合と、ホストのゲノムに組み込まれてその一部として行動する場合(溶原化)があります(3)。しかしP1の場合、ファージ内部ではリニアであるゲノムが、感染してホストに注入されるとすぐ環状化し、その後増殖してホストから出る場合と、プラスミド化してホストに住み着いてしまう場合があることがわかりました(4、5、図168-1)。

1681a

図168-1 溶原化するファージとプラスミド化するファージ

P1がみつかった頃、学界ではまだ溶原化という概念が認められておらず、1949年頃には細菌学の教科書で有名なノーベル賞受賞者であるルウォフも「溶原化などという研究者は異教徒である」などと考えていたようです(6)。そんな時代ですから、研究室にやってきたベルターニが溶原性の研究をやりたいと言っても、ボスのルリアは良い顔をしなかったようですが、結局はやっていいということになって、レーダーバーグからラムダファージの溶原化株を入手しました。しかしまだ正式な論文を出版していなかったレーダーバーグがあせってデータを催促してくるのに嫌気がさして、ベルターニはラムダの研究を放棄して別の方向に進むことにしました(7)。P1はもともと赤痢菌で増殖するファージでしたが、ベルターニが大腸菌で増殖するミュータントを分離して、その後の実験は大腸菌を使って行われました(7)。P1が注目されるようになったのはレノックスが、このファージが特段に形質導入を容易に行う能力を持っていることを発見したことによります(8)。その後P1は遺伝子を運搬するベクターとして実験で汎用され、分子生物学者なら誰でも知っているようなツールとなりました。現在でも理研が配布しています(9)。

ナット・スターンバーグはニューヨークのブルックリン出身の分子生物学者でしたが、ポストドクとして仕事をするために1970年にパリのCNRSにやってきました。しかしそこでλファージの仕事をしているうちに期限が来て、NIHにポストを得て帰米することになりました。CNRSにいたマイケル・ヤーモリンスキーはスタンバーグの優秀さを知っていたので、1976年に彼がメリーランドのNCIに研究室を移転したときにスタンバーグをスタッフに呼んで、P1ファージの研究をやってもらうことにしました(7)。スターンバーグは数年のうちにP1ファージはそのゲノムDNA上に lox P というサイトがあり、Cre という酵素がそれを利用して遺伝子組み換えを行うことを報告しました(10)。もし任意の遺伝子を含む環状ベクターを作成し、その一部に lox P サイトを入れておけば、図168-2のように組み換えがおこって、その遺伝子をゲノムに組み込むことが可能です。またゲノムDNA上にloxPサイトが2ヵ所あると、逆反応によってそれらにはさまれた遺伝子を削除することもできます。

1682a

図168-2 Creリコンビナーゼによる遺伝子の組み換えと切り出し

loxPにはさまれた遺伝子を削除(ノックアウト)できるというのは遺伝子工学の手法として有用でしたが、遺伝子は必要であるからこそ代々受け継がれてくるわけで、ノックアウトすれば当然不都合が発生するはずです。特に日常的に必要とされるタンパク質をコードする遺伝子をノックアウトすると、胚または胎仔のうちに死亡して生まれてさえこないということになります。それでは遺伝子の機能解析ができません。

そこで外部からなんらかのシグナルを送らない限り遺伝子の喪失がおこらないような生物が、ブライアン・ザウアーやピエール・シャンボンらによって考案されました(11、12、図168-3)。ブライアン・ザウアーという人はもともと天文学者になりたかったそうですが、ウィスコンシン大学の数学科を卒業してから縁あってデュポン社の研究所で仕事をするようになり、そこで同僚がバクテリオファージのCre/loxPシステムを研究していたので、それを真核生物の研究に役立てる方法はないかと考えるうちに、遺伝子ノックアウトに使えるのではないかと思いついたそうです(13)。ザウアーらの機転によって、スターンバーグの辺境的研究が一気に生物学の中心に躍り出ることになりました。

標的遺伝子と相同組み換えを行なうDNAの両端にloxP配列を入れておくと、そのDNAが標的遺伝子と同じ機能を持つとしても、Creが作用すればloxPにはさまれた部分は環状化してゲノムから切り離され、遺伝子機能は失われます。ここでCreを核内に侵入させる方法を考えます。あるシグナルがあると核内に移行するタンパク質があれば使えるかもしれません。たとえばエストロジェン受容体にCreを結合し、タモキシフェンを作用させるとエストロジェン受容体はCreと共に核内に移行します。そうするとCreはloxPと反応して標的DNAを切り出し無効化させることができます。すなわちタモキシフェンの投与によって、随時遺伝子をノックアウトできるのです(14、図168-3)。

1683a

図168-3 Creリコンビナーゼによる標的遺伝子のノックアウト

マウスを使ったCre/loxP 研究システムは非常に便利なもので、タモキシフェンで任意の時期に遺伝子ノックアウトができるほか、例えば筋肉だけで発現するプロモーターをCre遺伝子の上流に挿入したCreマウスと、標的遺伝子をloxP ではさみその下流にレポーター遺伝子をつけたloxP マウスを作成し、交配すると筋肉ではCreが働いてゲノムから標的遺伝子が削除され(その他の組織では削除されない)、レポーター遺伝子が発現するというマウスが獲られます。これによって標的遺伝子の機能についての知見が得られるわけです(15、図168-4)。このほか出生後にはじめて発現するプロモーターを使えば、ノックアウトによって胎児致死をおこすような遺伝子の機能についても研究が可能です。

1684a

図168-4 コンディショナルノックアウト

ゴッセンとビュジャールはさらに標的遺伝子の発現を可逆的にON/OFFできるような研究システムを開発しました(Tet on/off システム、16、17、図168-5)。大腸菌には抗生物質であるテトラサイクリンに耐性を獲得するためのオペロンが存在します。このオペロンにはTetリプレッサー(TetR)とTetオペレーター(TetO)が含まれます。TetR(実際には効率を上げるためTetRとVP16ADの融合タンパク質=tTA=tetracycline transactivator を用います)はテトラサイクリン(実際には効率を上げるため誘導体であるドキシサイクリン=doxを用います)がない状態ではTetO配列に結合しますが、テトラサイクリンが結合している状態ではTetOに結合できません。

ここで非常に巧妙な技となりますが、TetRのアミノ酸配列を一部改変して作成した reverse TetR(rTetR)とVP16ADとの融合タンパク質(rTA=reverse tetracycline transactivator)は逆にテトラサイクリンと結合するとTetO配列に結合し、下流のプロモーターを活性化します。図168-5に示すように、標的遺伝子(図ではGeneA)の上流のプロモーターにはTetO配列をリピートさせたTRE配列(Tetracycline response element)を入れておき、tTAやrTAにレスポンスするようにしておきます。こうしておくとdox(テトラサイクリンの代替分子)の存在下ではGeneAが発現し、非存在下では発現しません(図168-5)。

一方tTAのシステムでは、dox非存在下ではGeneAの転写が行われますが、doxを投与すると転写は止まり非発現となります。これらの反応はオールオアナッシングではなくdoxの濃度に依存して進行するので、強弱の調節も可能なのが優れた点でもあります(16、17)。

1685a

図168-5 Tet on/off システム

これらの技術は脳神経系における遺伝子の機能解析にも非常に有用なものであり、このサイトでもまたでてくることになると思います。なお遺伝子ノックアウト・ノックアウトマウスの作成については(18)をご覧ください。

溶原化するファージではなく、プラスミドとなるファージが効率の良い組み換えシステムをもっているというのは興味深いものがあります。細菌が環境に適応するためには、頻繁にゲノムに新しい遺伝子を組み込むことが一見有利なようにも思えますが、実際にはそれはむしろ有害であり、プラスミドとして保有する方が安全であることを示しているように思われます。

Confetti mouse とは、どのような遺伝子が発現されているかによってレポーター遺伝子が発現する色が異なるマウスのことを言います。次回に言及する予定です。

参照

1)Bertani, G.,  Studies on lysogenesis. I. The mode of phage liberation by lysogenic Escherichia coli. J. Bacteriol. vol.62 (3), pp.293–300 (1951)

2)Lobocka, M.B., et al.,  Genome of bacteriophage P1. J. Bacteriol. vol.186 (21), pp.7032–7068 (2004).

3)Wikipedia: Lysogenic cycle
https://en.wikipedia.org/wiki/Lysogenic_cycle

4)Ikeda, H., Tomizawa, J., Prophage P1, and extrachromosomal replication unit. Cold
Spring Harbor Symp. Quant. Biol. vol.33, pp.791–798 (1968)

5)Wikipedia: P1 phage
https://en.wikipedia.org/wiki/P1_phage

6)Lwoff A. Nobel Lecture: Interaction Among Virus, Cell, and Organism. Stockholm: Nobel Media AB.
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1965/lwoff-lecture.html

7)Michael Yarmolinsky1 and Ronald Hoess, The Legacy of Nat Sternberg:
The Genesis of Cre-lox Technology., Annu. Rev. Virol., vol.2: pp.25–40 (2015)
doi:10.1146/annurev-virology-100114-054930
https://www.annualreviews.org/doi/pdf/10.1146/annurev-virology-100114-054930

8)Lennox ES., Transduction of linked genetic characters of the host by bacteriophage P1. Virology vol.1:pp.190–206 (1955)

9)理研 遺伝子材料開発室
https://dna.brc.riken.jp/ja/resource

10)Sternberg, N. and Hamilton, D., Bacteriophage P1 site-specific recombination: I. Recombination between loxP sites. J. Mol.Biol. 150:467-486 (1981)
doi: 10.1016/0022-2836(81)90375-2.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0022283681903752

11)Sauer, B. "Functional expression of the Cre-Lox site-specific recombination system in the yeast Saccharomyces cerevisiae". Mol Cell Biol. vol. 7 (6): pp. 2087–2096. (1987)
doi:10.1128/mcb.7.6.2087. PMC 365329 Freely accessible. PMID 3037344.

12)Sauer, B.; Henderson, N., "Site-specific DNA recombination in mammalian cells by the Cre recombinase of bacteriophage P1". Proc. Natl. Acad. Sci. USA. vol.85 (14): pp. 5166–5170. (1988)
doi:10.1073/pnas.85.14.5166. PMC 281709 Freely accessible. PMID

13)Biography 41: Brian Sauer (1949 - ) DNA learning center, Cold Spring Harbor Laboratory.,
https://dnalc.cshl.edu/view/16868-Biography-41-Brian-Sauer-1949-.html

14)D Metzger, J Clifford, H Chiba, P Chambon., Conditional site-specific recombination in mammalian cells using a ligand-dependent chimeric Cre recombinase. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., vol. 92(15); pp. 6991-6995 (1995)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7624356/

15)えいこラボ 研究室では教えてくれない?!Cre-loxPシステムってなに?
https://eiko-lab.com/2021/05/02/what_is_cre-loxp/

16)Gossen, M., & Bujard, H., Tight control of gene expression in mammalian cells by tetracycline-responsive promoters. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol.89(12), pp.5547-5551. (1992)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1319065/

17)脳科学辞典:Tet on/offシステム
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/Tet_on/off%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0

18)やぶにらみ生物論94: ノックアウトマウス
http://morph.way-nifty.com/grey/2017/11/post-7c02.html

| | | コメント (0)

2022年1月 4日 (火)

国がめちゃくちゃになる恐れがあっても国際航空便と米軍基地への航空機飛来を中止できないとは!

Index_20220104220801

オミクロン株でせっかくおさまっていたコロナ騒ぎが再燃しそうになってきました。本当にうざすぎます。これは国際空港と米軍基地を閉鎖すれば回避できたと思いますが、国がめちゃくちゃになる恐れがあっても、この2つの規制をどうしてもできないというのはなぜなんだろうと考えさせられます。港湾を閉鎖するわけにはいきませんが、ここから出入りする人々を検査・隔離することは可能でしょう。

RCEPでいよいよ中国との自由貿易がはじまりましたが、たとえトータルで大きな入超にはならないとしても、日用雑貨、衣料、家電などは多くを中国に依存することになり、日本の文化が崩壊することになりそうです。日本は30年前に「閉じた帝国」を模索するべきだったのですが(私的には日本ーロシア-オーストラリア中心)、今となっては中国とうまくやっていくしかないようです。ただ例えば中国でオミクロン株が欧米並みに蔓延したら、またまたマスク、医療器具などがはいってこなくなってパニックになりそうです。生活関連物資を大きく中国に依存するのはまずいですねえ。とはいえ米国はいずれウザいだけの国になりそうで頼りにはなりません。米国の日用雑貨なんて買いたくないですし。

 

| | | コメント (0)

2022年1月 3日 (月)

初詣

初詣は近隣の阿夫利神社に行くことにしています。阿夫利神社と言えば大山阿夫利神社が有名ですが、ここもそこそこ名前が知られるようになりました。

石尊 阿夫利神社(印西市)へ 不思議な青い石伝説
https://www.wholenotism.com/blog/2018/07/afuri-shrine.html

Fig2  

今年は混雑を避けて3日に参詣することにしたので待ち時間はゼロでした。元日に行くと50メートルくらいは並びます。ただそのせいか、お正月に駐車場で車をこすられ、逃げられました。

私は家族、猫、友人の健康をお祈りしました。

Fig3

3日でも破魔矢、御札、おみくじなどはやっていて、テントの下では食べ物も振る舞われます。

Fig4

ここは脇にあるお稲荷様。少し山を登ったところには奥社があります。

Fig5

ここのご本尊は銚子の海底にあった石とのことで、何も人の手が加えられていないのがいいじゃないですか。

Fig6

昨年は新型コロナウィルスが猖獗を極めたことで、破魔矢はありませんでした。今年は弓付きの豪華な破魔矢でした。Covid-19の沈静化をお祈りしたいところです。

 

| | | コメント (0)

2022年1月 1日 (土)

明けましておめでとうございます

Happy-new-year

サラとミーナは17才になりました。

本年もよろしくお願い申し上げます。

| | | コメント (0)

« 2021年12月 | トップページ | 2022年2月 »