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2021年6月26日 (土)

続・生物学茶話148: GABA その2 GABAA受容体

GABAの受容体には大きく分けてA型とB型があり、A型はイオンチャネル、B型はGPCRとなっています。書式としてはGABAの後に下付けのAまたはBをつけて、GABAあるいはGABAと書きます。まずGABAからみていきましょう。

GABA受容体は大まかには、ニコチン性アセチルコリン受容体、5HTセロトニン受容体、グリシン受容体などと共に、シスループリガンド作動性イオンチャネル=Cys-loop ligand-gated ion channels (LGIC)というスーパーファミリーに所属します。なかでもグリシン受容体とは近縁で グリシン受容体とGABA受容体は anionic inhibitory Cys-loop LGIC、略してILGIC(イルジック)というグループを形成しています(1)。

GABA受容体を構成するサブユニットの分子はいずれも膜4回貫通型で、N末・C末共に細胞外にあり細胞膜に局在します。N末の細胞外部位にはSS結合があっていわゆるシスループが形成されています。5つの分子が集合して塩素イオンの出入りを制御するイオンチャネルを形成します(2、3、図148-1)。GABAは基本的に抑制性の神経伝達因子であり、その情報によってイオンチャネルが開いて通常細胞外の方が高濃度である塩素イオンが流入すると、外界(+)/細胞内(-)となっている電位差がますます大きくなるので、細胞は過分極状態となり脱分極は阻止されます。

オレンジ色で示されている2番の細胞膜貫通部位は、5量体が構成されたときにそれぞれのサブユニットの内側に配置され、この部分が中央部のポア形成や塩素イオンの透過にかかわっていることが示唆されます(図148-1)。

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図148-1 GABA受容体およびサブユニットの構造

GABA受容体あるいは同様なはたらきを持つグリシン受容体の精製は1980年初頭に英国のバーナード(図148-2)のグループと、ドイツのベッツ(図148-2)のグループで激しい先陣争いが繰り広げられました。前者は牛の脳、後者はラットの脊髄を材料としました。両者が成功したのは、GABAやグリシンというリガンドそのものではなく、より強力で特異的に受容体に結合するベンゾジアゼピンやストリキニーネという代役の化合物を放射能でラベルし、精製の際のマーカーとして用いたからと言えます(4)。両陣営がそれぞれレビューを出版しているので、興味のある方はご覧ください(5、6)。

現在ではバーナードが精製したのはGABA受容体で、ベッツが精製したのはグリシン受容体であったことがわかっています。これらとは別グループの受容体であるGABA受容体はバウリーらによって精製され、構造も判明しています(7、8)。後者については次項で取り扱います。

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図148-2 GABA受容体の精製と構造解明に関わったパイオニア達

GABA受容体タンパク質はサブタイプが多くて、ヒトの場合 α1-6、β1-3、γ1-3、δ、ε、θ、π と ρ1-3 の少なくとも19種類の分子種が知られており、イオンチャネルはこれらから5分子が集合して形成されます(3、9、図148-3)。脳内にはα型1個-β型2個-γ型2個の5量体が多いとされています(9)。GABA受容体は実質無限のバラエティを持っているわけですが、なぜそうなっているのか理由は不明です。しかし例えば網膜にはρだけの5量体タイプが多いなどの組織特異性があるので、意味もなくこのようなバラエティーがあるわけでもないようです(3)。

GABA受容体は2ヵ所のGABA結合部位を持っていますが、その他図148-3に示したようなさまざまな薬剤の結合部位があります。たとえばベンゾジアゼピンは受容体に結合することによってGABAの作用を増強し、睡眠・鎮静・抗不安などの効果をもたらすことができます(10)。

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図148-3 GABA受容体の立体構造とGABAなどの結合部位

各サブユニットが図148-1のような構造で、ペンタマーによってイオンチャネルを形成するタイプの受容体群は、前述の通りシスループ受容体スーパーファミリーを構成していますが、これと近縁なのがイオンチャネル型のグルタミン酸受容体で、膜3回貫通型のサブユニットが4量体となってイオンチャネル型の受容体を形成しています(図148-4)。またATPをリガンドとするP2X受容体は、膜2回貫通型のサブユニットが3量体を構成してやはりイオンチャネル型受容体を形成しています(図148-4)。グルタミン酸やATPの受容体はカチオンチャネルを形成しますが、進化的にはそれぞれシスループ受容体スーパーファミリーと関係がある分子群とされています(11)。

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図148-4 Cysループ受容体スーパーファミリーと関連する分子群

バンバーらはC.エレガンスのUNC-49領域のGABA受容体などの研究をもとに、抑制性GABA受容体や抑制性グリシン受容体の進化的関連をまとめています(12、13)。これを簡略化して示したのが図184-5です。この図には前口動物のC.エレガンスやショウジョウバエと後口動物のラットやヒトの抑制性GABAA受容体が混在しています。このことは前口動物と後口動物が分岐する前の時代からすでに生理活性を持ったこれらの受容体の原型が存在し、それを受け継いださまざまな系統の生物が独自に進化させてきたことを示唆しています。

もしC.エレガンス、ショウジョウバエ、ラットなどがそれぞれ独自に抑制性GABA受容体を一から進化させたとすると、分子進化は生物の進化とパラレルであり、分子構造の関連性は生物ごとに固まって存在するはずです。この図からはそのような形跡はうかがえません。この後ヒト、ニワトリ、フグなどについても詳細な解析が行われています(14)。また刺胞動物であるヒドラにもGABA受容体が存在することが証明されています(15)。すなわち非常に始原的な神経系においても神経伝達物質としてGABAが利用されているようです(15、16)。このことはさらにウルバイラテリア(始原的左右相称動物、17)出現以前から、神経伝達物質としてのGABAが存在していたことを意味します。たとえば触手を動かすというような動作でも、筋肉の弛緩と緊張のバランスをうまくとる必要があるので、抑制性の神経伝達因子が必要だったのでしょう。

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図184-5 GABAA受容体サブユニットおよび関連分子の進化

C.エレガンスのGABA受容体のゲノムが存在するのはUNC-49領域なのですが、ここにひとつの遺伝子があって、ひとつのタンパク質が合成されるというわけではなく、このゲノム領域は4つに分かれていてアミノ基側に対応する配列がひとつと、カルボキシル基側に対応する配列が3つ存在することがわかっています。そして選択的スプライシングによってアミノ基側は同じで、カルボキシル側が異なる3種類のタンパク質が合成されます(12)。したがってC.エレガンスはヒトの脳の場合と同様、3種類のタンパク質でペンタマーを構成してGABA受容体を造ることができます。C.エレガンスはヒトの生活とはほとんど関係のない生き物ですが、近縁の生物には寄生虫が多く、駆除のためにGABAを無効化する駆虫薬なども研究されているようです。

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図148-6 C.エレガンスのUNC-49領域における選択的スプライシング

GABA受容体を構成する各サブユニットの2番目の膜貫通部位(M2)がイオンの通路を形成することはすでに述べましたが、そのM2のアミノ酸配列をC.エレガンス、ラット、昆虫で比較して並べてみたのが図184-7です(13、18,19)。これらの非常に離れた生物群においても、20個のアミノ酸のうち、やや特殊なUNC-49Cを除くとすべての分子で10個もアミノ酸の位置が一致していることは驚きです。特にTTVLTMという配列が一致しているので、ここが塩素イオンチャネルの核心部分であることが示唆されます。

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図148-7 M2領域のアミノ酸配列


参照

1)Shui-Ying Tsang, Siu-Kin Ng, Zhiwen Xu, and Hong Xue, The Evolution of GABAA Receptor-Like Genes., Mol. Biol. Evol. vol.24(2): pp.599-610. (2007)
doi:10.1093/molbev/msl188

2)ウィキペディア GABA受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/GABAA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

3)脳科学辞典 GABA受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/GABA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

4)Stephenson FA, Mukhopadhyay R.,Classics How the glycine and GABA receptors were purified., J Biol Chem. vol.287(48), pp.40835-40837.(2012) doi: 10.1074/jbc.O112.000006.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23180805

5)Barnard EA, Darlison MG,Seeburg P., Molecular biology of GABAA receptor:The receptor/channel superfamily. Trends Neurosci vol.10: pp.502-509.(1987)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0166223687901305

6)Grenningloh G, Gundelfinger ED, Schmitt B,Betz H, Darlison MG, Barnard EA, Schonfield PR, Seeburg PH., Glycine vs GABA receptors. Nature vol.330: pp.25-26.(1987)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2823147

7)Bowery N.G., GABAB receptors and their significance in mammalian pharmacology. Trends Pharmacol. Sci., vol.10: pp.401-407 (1989)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0165614789901880

8)Bowery, N.G. and Brown, D.A., The cloning of GABAB receptors. Nature vol.386, pp.223-224. (1997)
https://www.nature.com/articles/386223a0

9)Macdonald R.L. Olsen R.W., GABAA receptor channels. Annu. Rev. Neurosci. vol.17: pp.569-602 (1994)

10)処方薬事典 ベンゾジアゼピン系睡眠薬の解説
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf8272.html

11)Kenneth R. Tovar, Gary L. Westbrook, Ligand-Gated Ion Channels in Cell Physiology Source Book (Fourth Edition), V. Molecular Structure (2012)
https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/cys-loop-receptors

12)Bamber BA, Beg AA, Twyman RE, Jorgensen EM., The Caenorhabditis elegans unc-49 locus encodes multiple subunits of a heteromultimeric GABA receptor. J Neurosci. 19:5348–5359.(1999)

13)Bamber BA, Twyman RE, Jorgensen EM., Pharmacological characterization of the homomeric and heteromeric UNC-49 GABA receptors in C. elegans. Br J Pharmacol. 138:883–893. (2003)

14)Shui-Ying Tsang, Siu-Kin Ng, Zhiwen Xu, and Hong Xue, The Evolution of GABAA Receptor–Like Genes., Mol. Biol. Evol. vol.24(2): pp.599–610. (2007)
doi:10.1093/molbev/msl188

15)A Concas, R Imperatore, F Santoru, A Locci, P Porcu, L Cristino, P Pierobon, Immunochemical Localization of GABAA Receptor Subunits in the Freshwater Polyp Hydra vulgaris (Cnidaria, Hydrozoa) .,
Neurochem Res, vol.41(11): pp.2914-2922. (2016) doi: 10.1007/s11064-016-2010-1.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27450241/

16)Paola Pierobon, An Interesting Molecule: γ-Aminobutyric Acid. What Can We Learn from Hydra Polyps? Brain Sci, vol.29;11(4): 437.(2021) doi: 10.3390/brainsci11040437.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8067216/

17)渋めのダージリンはいかが ウルバイラテリアをめぐって
http://morph.way-nifty.com/grey/2021/01/post-4f9530.html

18)中尾俊史 昆虫RDL GABA受容体の構造と薬剤感受性に関する研究
日本農薬学会誌 40(2), 163‒170 (2015)

19)Uniplot Protein Database: D.melanogaster GABAA receptor

 

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