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2020年12月16日 (水)

科学とは・・・

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私は科学の源流が好奇心にあるとは思いません。ヒトがサルだった頃から幾ばくかの薬草の知識はあったと思いますし、森から野に出てきたときには猛獣に襲われないために、またエサとしても動物に関する研究には真剣に取り組んだと思います。農耕を始めたら気象の研究、漁業のためには天文の知識が必要になったでしょう。

ただこういうことは言えます。秦の始皇帝は不老長寿薬を探して、徐福に命じて日本まで調査団を派遣したと伝えられています。まさに目的指向的研究ですが、その目的をとげるには多くの知識・ツール・ヒントが必要であって、そうした豊穣な土壌がなけれは果実を得ることは不可能であり、空振りに終わってしまいます。

伝承による薬草は科学には至らないと思いますが、中国で2000年前に刊行された「神農本草経」は薬草を体系的に説明した本だそうで、そうなるともう科学でしょう。日本では牧野富太郎が植物の網羅的記載を行いましたが、そうした地道な努力が薬学の基礎になるわけで、まあ深山幽谷をさまよって珍しい植物の記載を行うという行為は変人の所業と思われがちですが、事物を網羅的かつ体系的に記載することは科学の基本で、それが豊穣な土壌となります。そして深山幽谷は私たちの体の中にもあります。私たちの腸に住んでいる多くの微生物についての網羅的・体系的知識はまだありません。

私は学生時代のクラスメートに民青同盟の人が多くいて、熱心に勧誘されましたが結局参加はしませんでした。彼らはお金をたくさん稼ぐということを人生の目的とはせず、なにか人の役に立つことをしたいという情熱をもって生きようとする人々で、こういう人々は金銭目的の人々と同様に、脳のベクトルが短絡的・目的指向的になり「科学の敵」になりがちなのです。旧ソ連政府がミチューリン・ルイセンコの誤った理論を第2次世界大戦の後まで支持していたという負の実績もあります。

いまやほとんどの日本人が知っているPCR検査も、その発明の源泉はDNAの物性研究と温泉微生物の研究にあります(*)。これらは(研究費の申請書にそれらしきことが書いてあったとしても・・・書いてないと研究費がおりないので)目的指向的研究ではありません。まさしく豊穣な土壌となる研究でした。これは特殊な例ではなく、非常に多くのイノベーションは非目的指向的研究をそのベースに持っています。それはこのブログの一部でありまたトップページからリンクしている「生物学茶話」をみていただければ、たくさんの実例を紹介しています。

*: http://morph.way-nifty.com/lecture/2020/01/post-f9ff70.html

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