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2020年11月10日 (火)

続・生物学茶話 118:体節形成の起源をめぐって

エビやムカデをみると明らかに体節をもつ生物とイメージできますが、ヒトも妊娠初期の胎児写真を見ると体節が見えます(1)。肋骨の存在はその名残りですし、パワートレーニングをすると筋肉が割れるというのもヒトが体節を持つ生物であることの証です。しかしタコ・イカ・貝・ヒトデ・ナマコ・イソギンチャクなどはどう見ても体節がありません。では動物は体節を持つ者と持たない者で2つのグループに分けられるのでしょうか?

まずカンブリア紀より前のエディアカラ紀(約6億2000万年前 - 約5億4千200万年前)を代表する生物にディッキンソニアというのがいます(2、図118-1)。最近この生物について大きな研究の進歩がありました。Ilya Bobrovskiy らによると、この生物の化石の多くからステロイド(C環がベンゼンリング)が検出されるということがわかり、彼らが植物(プランタ)ではなく動物(オピストコンタ)であることが証明されました(3)。彼らは長い間その土地の上を動物が徘徊していたかもしれないオーストラリアの丘陵ではなく、極寒ロシア白海の絶壁の上からロープで下垂し、汚染の可能性が少ない岸壁の地層から化石を掘り出して調査したそうです。ちょっと考えただけでも、とてつもなく困難な作業だったことが想像できます。

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図118-1 謎の多い生物 ディッキンソニア

ディッキンソニアはまるで葉脈のように体が褶曲しているのが特徴です(図118-1)。大きな個体では体長が1.2mもありますが、厚みは3mmくらいしかありません。これはおそらく体表から取り込んだ酸素や栄養物質を拡散によって摂取していたからだと考えられます。たとえば紅茶に砂糖を入れて混ぜないでおくと、全体に広がるのに時間がかかってしまうように、拡散には時間がかかります。これを改善するには体中に水管や血管を張り巡らすことが必要ですが、ディッキンソニアはそのような器官はもっていなかったようです。ですから体を分厚くすることは不可です。しかし表面積を広げるために絨毯のような広がった体を持つことには栄養吸収のためにメリットがあります。また体にヒダヒダがあることも表面積を広げるために大きな効果があります。

問題はこの生物が左右相称動物だったかどうかということですが、図118-1cをみてわかるように、左右のヒダヒダが中央で植物の互生のように互い違いに配置されています。このことはこの生物が左右相称ではないことを示唆していますが、さらに体節があったという説にも強い疑問をなげかけています。人も体の中央に脊椎がありますが、肋骨は植物で言えば対生であり、互い違いに生えるということは突然変異でもありません。まだまだディッキンソニアは謎だらけの生物です。

もうひとつ重要なエディアカラ紀の化石は Glaessner と Wade (4)によって記載されたキンベレラです(5、6、図118-2)。エディアカラ紀には捕食者はいなかったはずですが、この生物は貝のような殻を持っていました。とは言っても炭酸カルシウムのような堅い殻ではなくて、骨片の集合体のようなもののようです。とは言っても実際土砂に埋まったときに体が潰れずに良い保存状態で残っている場合があり、生存には役立っていたようですし、筋肉を接着させて力を発揮させる意味もあったようです(6)。

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図118-2 エディアカラ紀の先進的生物 キンベレラ

図118-2a の個体は長さ1cmくらいの小さいものですが、長さ15cmくらいのものも見つかっています。このような大きなものでは高さも3~4cmあります(5)。このことはキンベレラがディッキンソニアのように拡散によって酸素や栄養物質を体内に供給していたとは考えられず、なんらかの強制的な(エネルギーを消費する)供給システムを持っていたことを示唆しています。図118-2bでわかるように、中央隆起線から左右対称に線条がでていること、殻の片側に円丘がみられ前後があることなどからこの生物はクラゲやイソギンチャクのような放射相称ではなく、左右相称動物であったと思われます。殻には横紋筋が付着していたとみられる痕跡があり、筋肉を使って移動し、水底にくっついている細菌などを食べていたと思われます(6)。図118-2cをみると体節があるようにも見えますが、まだ確実とは言えません。dの想像図はまるでUFOのようです。

ディッキンソニアもキンベレラも化石の数が多いことから、エディアカラ紀にはありふれた生物だったと思われますが、その構造や生態は非常に異なっていることは確実なので、多細胞生物の分岐についてはさらに前の時代にさかのぼらなければ説明できないことが明らかになりました。キンベレラは軟体動物であるという説(7)は有力ですが、歯舌そのものの化石は出ていないのでまだ確実とは言えません。エディアカラ時代の生物の化石は限られているのでまだまだ謎の部分が多く、今後の研究の進展が待たれます。

ディッキンソニアやキンベレラに体節があったかなかったかはまだ未解明ですが、体節を持つかどうかは門レベルでその生物群の特徴を示しています。図118-3をみると、動物門によって体節を持つグループと持たないグループ(または放棄したグループ)にきれいにわけられることがわかります。体節を持つ典型的な生物は節足動物のムカデなどですが、体節を持つことがどれだけ生存に有利なのかよくわかりません。とは言ってもムカデはたいして形態を変えずにシルル紀から4億年以上も繁栄しているわけですから、それなりのメリットはあるに違いありません。私たちも体節を持つ動物なので、そのメリットを考えてみると背骨に切れ目(椎間板)があるために、体を屈曲できたり、脊椎の負担を減らしたりできるわけです。ムカデも体節があることを利用して、屈曲した岩陰の道を移動することができるというメリットはあります。あとは体節をコピー的に増やせば、体の前後のサイズをいくらでも長くできます。ヘビのようにエサ動物を絞め殺すには有利かもしれません。

体節によって別の遺伝子を発現させるというメカニズムがあれば、体節ごとに種類の異なる臓器を発生させたり足や羽を分化させたりできるので、発生のストラテジーとして有用であるのかもしれません。左右相称動物以外の生物の繰り返し構造は体節とは言いません。左右相称動物の体節形成を俯瞰した図118-3を示します。

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図118-3 体節形成というイベントはいつ発生したのか?

体節と進化を考える上で、図118-3のAポイントですでに体節は形成されていて、その後に生まれた体節を持たない生物はこれを放棄したと考えることは可能です。しかし軟体動物はもともと体節を持たない祖先から生まれ、そのまま現在に至っていると考えることも可能で、この場合体節はBポイントとCポイントで独立に形成されたということになります。いずれにしても線形動物は体節を放棄した門と考えられます。

体節と進化を考える上で、図118-3のAポイントですでに体節は形成されていて、その後に生まれた体節を持たない生物はこれを放棄したと考えることは可能です。しかし軟体動物はもともと体節を持たない祖先から生まれ、そのまま現在に至っていると考えることも可能で、この場合体節はBポイントとCポイントで独立に形成されたということになります。いずれにしても線形動物は体節を放棄した門と考えられます。

ピカイヤやミロクンミンギアなどの脊索動物、原始的なヒトデやウミユリなどの棘皮動物は共にカンブリア紀の化石があるので、新口動物(後口動物)における体節形成がCポイントかAポイントかいずれに行われたかにしても、そのタイミングはエディアカラ紀以前の話ということになります。ならばその頃すでに左右相称動物が居たはずということにもなります。

もう少しで体節が形成されそうな生物がいます。それはプラナリア(扁形動物)です(図118-4)。扁形動物は図118-3には示しませんでしたが、軟体動物や環形動物と同様、旧口動物(前口動物)の冠輪動物上門に所属する動物門です。

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図118-4 体節がある動物、ない動物、中間的な動物の神経系

刺胞動物は左右相称動物ではなく体節もありませんが、左右相称動物である扁形動物の神経系はまるで体節があるかのような規則的な構造を形成しています(事実上のはしご状神経系 図118-4)。しかしこれ以外に体節の存在を示す特徴がないので扁形動物は体節をもたないとされていますが、一定の間隔で繰り返し構造を形成するための遺伝子を持っていると考えられます。実際プラナリアは13個のHOX遺伝子を持っていることがわかっています(8)。環形動物や節足動物にはもちろん体節が存在します。軟体動物と環形動物は前者に体節がなく後者に体節があるにもかかわらず、図118-3のようにかなり分類学的には近縁の生物とされています。したがって扁形動物の分岐位置はBポイントより左側の昔にあります。

脊索動物は体節を持っていますが、最も近縁な門である棘皮動物門の生物は体節を持っていません。棘皮動物は発生の途中まで左右相称なのですが、ある時点から5放射相称という独特のボディープランに乗り換える種が多いのが特徴です。しかもこれはHOX遺伝子の変異に起因するものではないようです(9)。棘皮動物もウミユリなどはカンブリア時代から生きていましたし、ミロクンミンギアなどの脊索動物も同時代に存在したので、Cポイントがあったとしてもエディアカラ紀以前ということになり、新口動物(後口動物)についても体節の起源は遙かな昔の出来事で謎です。

私達が所属する脊索動物門と、イカ・タコ・貝類が所属する軟体動物門は非常に離れた分類群で、どちらも5億年以上前のカンブリア紀から存在しています。脊椎動物にも匹敵するような高度な知能を持つ頭足類(イカ・タコなどの仲間)も、はやくもカンブリア紀に棲息していたとされています(10、11、図118-5)。この古代の頭足類はネクトカリスという生物で、何しろ名前が「泳ぐエビ」という意味ですから、当初節足動物だと誤認されていたくらい原始エビ的な風貌です。体節のある古代の軟体動物がみつかるかどうかはクリティカルです。この生物に体節がある(10)とすると、図118-3のBポイントではなく、それ以前に体節が形成されたことの証拠になります。もちろんその後軟体動物は体節を喪失したことになります。

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図118-5 ネクトカリスの化石と復元図

図118-5のネクトカリスは現在の頭足類と同様漏斗(ジェット水流を任意の方向に噴き出して推進力とする)をもち、頭に2本の足(?)が生えています。貝殻はもっていないようです。これは頭足類の研究者にとっては驚きでした。もともと原始的頭足類がもっていた貝殻が退化して現在のイカ・タコとなったと考えられていたからです。現在でも痕跡的な貝殻を持つイカがいます(12)。英語では貝殻を持つイカは cuttlefish、持たないイカは squid です。私的には、貝殻もさることながら、ネクトカリスに体節の痕跡があるかどうかに興味がわきます。

参照

1)ストックフォト: 胎児の成長
http://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/static.amanaimages.com/imgroom/cen3tzG4fTr7Gtw1PoeRer/01809/01809011202.jpg

2)ウィキペディア: ディッキンソニア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%8B%E3%82%A2

3)Ilya Bobrovskiy et al., Ancient steroids establish the Ediacaran fossil Dickinsonia as one of the earliest animals., Science Vol. 361, Issue 6408, pp. 1246-1249 (2018) DOI: 10.1126/science.aat7228
https://science.sciencemag.org/content/361/6408/1246

4)Glaessner, M.F.; Wade, M., The late Precambrian fossils from Ediacara, South Australia., Palaeontology vol.9, part 4, pp.599-628 (1966)
https://www.palass.org/sites/default/files/media/publications/palaeontology/volume_9/vol9_part4_pp599-628.pdf

5)Fossil Wiki: Kimberella
https://fossil.fandom.com/wiki/Kimberella

6)ウィキペディア: キンベレラ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AC%E3%83%A9

7)A. Yu. Ivantsov., Paleontological evidence for the supposed precambrian occurrence of mollusks., Paleontological Journal, vol.44, pp.1552–1559 (2010)
https://link.springer.com/article/10.1134/S0031030110120105

8)Ko W. Currie et al., HOX gene complement and expression in the planarian Schmidtea mediterranea., EvoDevo vol. 7, Article number: 7 (2016)
https://evodevojournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13227-016-0044-8

9)Yongxin Li et al., Genomic insights of body plan transitions from bilateral to pentameric symmetry in Echinoderms., Communications Biology volume 3, Article number: 371 (2020)
https://www.nature.com/articles/%20s42003-020-1091-1

10)ウィキペディア: ネクトカリス
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%B9

11)Smith, M. R. and Caron, J. B., Primitive soft-bodied cephalopods from the Cambrian., Nature vol. 465 (7297): pp. 469–472. (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20505727?dopt=Abstract

12)ウィキペディア: 甲(頭足類)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B2_(%E9%A0%AD%E8%B6%B3%E9%A1%9E)

 

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