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2019年8月 4日 (日)

やぶにらみ生物論132: グルタミン酸 その3

グルタミン酸の受容体は多くの種類がありますが、大別するとイオンチャネル型とGタンパク質共役型になります(図1)。イオンチャネル型は主に即効性、Gタンパク質共役型は遅効性の役割を担います。

脊椎動物のイオンチャネル型はすべてカチオンチャネルタイプで興奮性ですが(1)、無脊椎動物の場合塩素イオンチャネルの抑制性のものがあるようです(2)。脊椎動物のイオンチャネル型がリガンドを受け取ると、ナトリウムイオンを取り込み、カリウムイオンを排出することによって、瞬時に細胞が脱分極します。またカルシウムイオンを取り込む場合には細胞内の代謝にも影響を及ぼします(1)。

イオンチャネル型グルタミン酸受容体には3つのタイプがあり、有力なアゴニストの名前によって、NMDA型・カイニン酸型・AMPA型と命名されています(図1)。

Gタンパク質共役型はすでにこのブログでもおなじみの7回膜貫通受容体で(3)、こちらはアゴニストの名前を使わず、グループI~IIIの名前で3タイプに分類されています(図1)。

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NMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)型グルタミン酸受容体はワトキンスらのグループによって早くから研究されてきました(4、5、図2)。そして遺伝子構造の解明は京都大学の中西研で森吉弘毅らによって行われました(6)。

受容体はNR1とNR2という二つのサブユニットが各2個集まった4つのサブユニットで形成され(図2、図3)、リガンドすなわちグルタミン酸やアゴニストがこれらに結合すると、イオンチャネルが開いてNa+、K+、Ca++などの陽イオンを通過させ、細胞を脱分極させることができます(図2)。

NR1(GluN1)はスプライシングバリアントがいくつかあるのみですが、NR2(GluN2)はNR2A~2Dの4種の別遺伝子産物のタンパク質があり、それぞれNR1のパートナーとなり得ますが、発現部位や発現時期が異なっています(7)。またNR2以外のタンパク質でNR1のパートナーとなり得るものも報告されているようです(7)。

ここでひとつ重要な点は、この受容体は通常の静止膜電位の状態だとMg++イオンによって阻害されているため、イオンチャネルはリガンドが結合しても開かないということです。まず他の受容体の作用によってある程度の脱分極がおこらないと、この受容体は作動しません。つまりこの受容体は脱分極の強化または持続に特化した作用をもつと思われます。

カルシウムイオンをフリーに通過させるというのはこのチャネルの特徴で、細胞内のカルシウムイオン濃度が増大すると、さまざまな代謝的影響が出るので、このチャネルは代謝型を兼ねているともいえます。さらにこのチャネルが作動するためにはNR1にセリンかグリシンが結合している必要があり(グルタミン酸が結合するのはNR2で、NR1には結合しない)、Zn++イオンやポリアミンも制御に関与しているとされています(8)。

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NMDA型受容体のサブユニットはそれぞれ膜3回貫通型のタンパク質であり、細胞外にあるN末部位は巨大で、リガンド結合部位やアロステリック制御部位などが存在します。細胞内のC末部位には、図3に示すような様々なタンパク質キナーゼ(Fyn、αKamKII、P85P13k)や、PSD95という足場タンパク質と結合するサイトがあります(9、図3)。

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2つめのイオンチャネル型グルタミン酸受容体はカイニン酸型です。すでにこのブログで述べたように、このタイプの受容体は篠崎温彦らによって発見されました(10)。カイニン酸やドーモイ酸がアゴニストとして知られています(図4)。

NMDA型と同様4つのサブユニット(2x2)でひとつの受容体が形成されています。サブユニットには Gluk1-Gluk5 の5種類があります。それぞれのサブユニットは膜3回貫通型で、細胞膜に埋め込まれたヘアピンループがひとつ存在するなどNMDA型とよく似ています。細胞外にリガンド結合部位を含む巨大なN末部位があり、細胞内にC末部位が存在する点も同じです(11、図4)。

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カイニン酸型受容体遺伝子のクローニングを最初に行ったのはハルマンらで1989年のことでした(12、図6)。その後の研究進展の歴史をまとめた総説が出版されていますので、詳しく知りたい方はご覧下さい(13)。このタイプの受容体の機能についてはまだまだ謎が多くて、私にもよくわかりません。脳科学辞典(11)を少し引用すると「カイニン酸受容体が介するシナプス応答は、海馬CA3野の同じ錐体細胞から得られるAMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答に比べてゆっくりとした時間経過を示す(図2)。カイニン酸受容体を介するシナプス応答のピーク振幅は、AMPA型グルタミン酸受容体を介するシナプス応答の~10 %程度と小さな割合だが、持続時間が長いため興奮性シナプス後電位(EPSP)の加重によるスパイク発生に寄与すると考えられている」、などという記載があります。

クリステンセンらが発表した受容体の立体構造を図5に示します。LBDはリガンド結合ドメイン(ligand binding domain)の略称です。カイニン酸の結合部位が示されています。立体構造をみると最外部のN末領域、中間部のLBD、膜貫通部位の3つのドメインに分かれていることがよくわかります。この他に細胞内にC末領域があり、ここで足場タンパク質と結合しているとすると、全体的には非常に巨大な構造体を構成していることになります。

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3つめのイオンチャネル型グルタミン酸受容体はAMPA型ですが、このタイプは数が多く分布も広い上に、NMDA型は通常Mg++イオンでオフ状態なので、中枢神経系におけるグルタミン酸性の興奮性シナプス伝達は、普段主にこの受容体によって行われていると考えられています(14、15)。AMPA型受容体の反応は瞬時であり、NMDA型やGタンパク質共役型では果たせない、即効性の興奮性シナプス伝達をになうのに適切です。

他のイオンチャネル型グルタミン酸受容体と同様、4つのサブユニットの集合体(テトラマー)によって受容体が形成されています。グルタミン酸またはそのアゴニストはすべてのサブユニットに1分子づつ結合します。各サブユニットはそれぞれ3回膜貫通タンパク質で、細胞膜内に一カ所ループがあることも含めて他の受容体と同様です(図6)。

グルタミン酸またはアゴニストが結合することによって、陽イオンのチャネルが解放され、Na+、K+、Ca++などのイオンが通過し、脱分極がおこります。チャネルを構成するサブユニットのクローニング・構造決定もハルマン、ハイネマンのグループが主導して行われました(16,図6)

ここでひとつ問題なのは、サブユニットの呼称が統一されていないということです。日本版のウィキペディアでは GluR1-R4 ですが、米国版では GluA1-A4 となっています(14、17)。なかには同じウェブページで両方が使われている場合もあります(18)。さらに面倒なのは1~4ではなくA~Dと記述している文献もあることで、本当にいい加減にしてほしい。ジャンケンでもいいから統一してほしいと思います。

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これまで述べてきた3種のチャネル型グルタミン酸受容体の立体構造が Protein data bank Japan に掲載されていたので、図7に示します(19)。ここで注目すべきは、AMPA型受容体の膜貫通部位にTARP(Transmembrane AMPA receptor regulatory protein・膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質)と呼ばれる制御タンパク質がとりついていることです(図7)。

このタンパク質は線虫から哺乳類まで保存されているそうで、N末・C末ともに細胞内にある膜4回貫通タンパク質であり、受容体の開口速度を速めたり、脱感作速度を遅めたりするなどの機能があるようです(20)。

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これまで述べてきたチャネル型とは異なるGタンパク質共役型(代謝型)グルタミン酸受容体群を図8にリストアップしました(21)。グループIは主にリガンド結合が引き金となってGタンパク質アルファサブユニットGqを遊離し、その結果図8に示したような代謝カスケードが発動されることによってさまざまな影響が出ることになります。グループII、IIIではGqではなくGiの遊離によって、図8に示したような別の代謝カスケードが発動されます。

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グルタミン酸受容体を構成するGタンパク質共役受容体(GPCR)タンパク質も他のGPCRと同様7回膜貫通タンパク質で、グルタミン酸受容体は数あるGPCRのなかでクラスCに分類されています(ブリストル大学教育用資料、22)。クラスCの受容体はダイマーを形成することが特徴です(図9)。

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以上で神経伝達物質をざっと概観してきたことになります。これからこのブログをどのような方向で進めていくか、少しお時間をいただいて考えてみたいと思います。また「やぶにらみ生物論」100回までの記事について慎重に校閲を行い、ウェブブックに編集する準備を進めたいと考えています。では皆様暑さ厳しい折からご自愛くださいませ。

参照

1)脳科学辞典:グルタミン酸
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8

2)Wolstenholme AJ., Glutamate-gated chloride channels., J Biol Chem. vol.287(48): pp.40232-40238.(2012), doi: 10.1074/jbc.R112.406280. Epub 2012 Oct 4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23038250

3)やぶにらみ生物論122: アセチルコリンによる神経伝達
http://app.cocolog-nifty.com/cms/blogs/203765/entries/90708496

4)Jeffrey C.Watkins & David E.Jane, The glutamate story., British Journal of Pharmacology, vol.147, pp.S100-S108 (2006)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16402093

5)http://morph.way-nifty.com/grey/2019/07/post-41d19f.html

6) Moriyoshi K, Masu M, Ishii T, Shigemoto R, Mizuno N, Nakanishi S., "Molecular cloning and characterization of the rat NMDA receptor". Nature. vol.354 (6348): pp.31-37. doi:10.1038/354031a0. PMID 1834949
https://www.nature.com/articles/354031a0

7)ウィキペディア:NMDA型グルタミン酸受容体
https://ja.wikipedia.org/wiki/NMDA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

8)https://en.wikipedia.org/wiki/NMDA_receptor

9)Kasper B. Hansen et al., Structure, function, and allosteric modulation of NMDA receptors., J. Gen. Physiol., jgp Home, 150 (8): 1081 (2018)
http://jgp.rupress.org/content/150/8/1081

10)http://morph.way-nifty.com/grey/cat5925431/index.html

11)鈴木江津子、神谷温之:脳科学辞典 カイニン酸型グルタミン酸受容体
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%8B%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

12)Hollmann M, O'Shea-Greenfield A, Rogers SW, Heinemann S., Cloning by functional expression of a member of the glutamate receptor family. Nature. vol.342(6250): pp.643-648, (1989)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2480522?dopt=Abstract

13)Anis Contractor, Christophe Mulle,and Geoffrey T Swanson., Kainate receptors coming of age: milestones of two decades of research., Trends Neurosci. vol. 34(3): pp.154-163. (2011)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3051042/
file:///C:/Users/User/Desktop/グルタミン酸受容体/nihms267712.pdf

14)https://ja.wikipedia.org/wiki/AMPA%E5%9E%8B%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93

15)Traynelis et al., Glutamete receptor in ion channels: structure, regulation, and function. Pharmacol. review, vol.62, pp.405-496 (2010)

16)M. Hollmann and S. Heinemann (1994). Cloned glutamate receptors.  Annual Review of Neuroscience 17: 31-108.doi: 10.1146/annurev.ne.17.030194.000335

17)https://en.wikipedia.org/wiki/AMPA_receptor

18)https://www.sciencedirect.com/topics/neuroscience/ampa-receptor

19)PDBj235:AMPA受容体
https://pdbj.org/mom/235

20)富田進、脳科学辞典:膜貫通AMPA受容体調節性タンパク質
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E8%86%9C%E8%B2%AB%E9%80%9AAMPA%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93%E8%AA%BF%E7%AF%80%E6%80%A7%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E8%B3%AA

21)ウィキペディア:Metabotropic glutamate receptor
https://en.wikipedia.org/wiki/Metabotropic_glutamate_receptor

22)http://www.bris.ac.uk/synaptic/receptors/mglur/

 

 

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