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2019年7月23日 (火)

やぶにらみ生物論131: グルタミン酸 その2

グルタミン酸やアスパラギン酸も他の神経伝達物質と同様、神経伝達物質として用いるには、まずそれらがシナプス前細胞のシナプス小胞にとりこまれストックされておく必要があります。これを実行するグルタミン酸トランスポーターは、solute carrier family(SLC)というタンパク質のスーパーファミリーに所属しており、その中のSLC17というサブグループを構成しています。このサブグループに所属するタンパク質は vesicular glutamate transporter(VGluT)=小胞型グルタミン酸輸送体と呼ばれています(1)。

SLC17とは別グループの小胞トランスポーターファミリーにはSLC18とSLC32があり、前者はモノアミン、後者はGABAやグリシンをシナプス小胞に輸送します。シナプス小胞の膜には vacuolar (or vesicular) ATPase (V-ATPase) というATPのエネルギーを使ってプロトン(H+)を膜の内側に取り込むシステムが存在し、この働きによって小胞内部は高濃度の水素イオンでプラスチャージが維持されています。したがって膜に通路ができればグルタミン酸などマイナスチャージを持った分子は電気泳動的に小胞に流入します(2、図1)。ただしその通路には特異性があり、特定の分子しか通過できません。

プラスチャージのモノアミン類は、水素イオンが濃度勾配によって外部に流出するのと共役して小胞に取り込まれます。またGABAやグリシンも取り込まれますが、脳科学辞典ではモノアミン類と同様水素イオンの濃度勾配を利用するとしていますが(3)、塩素イオンの流入を利用するとの記載もあります(2)。

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SLC17に所属するグルタミン酸(アスパラギン酸)輸送体には4つのアイソフォームがあり、それぞれ、VGLUT1・VGLUT2・VGLUT3・VEAT と命名されています。文献2によるとVGLUT1-3 はグルタミン酸専用、VEATはグルタミン酸とアスパラギン酸を輸送するようです。

脳科学辞典によると VGLUT1 および VGLUT2 のノックアウトマウスは致死ですが、VGLUT3 のノックアウトマウスは生存し、聴覚障害・不安傾向の増大・てんかん・痛みの感受性低下などを発症するそうです(3)。VGLUT1 および VGLUT2 が互いに補完することができないというのは驚きです。もちろん局在に違いはありますが(4)、ならば臨時に転写・翻訳を増強してもよさそうなものですが、なぜかそうはいかないようです。

VGRUT1とVGLUT2 はよく似た12回膜貫通タンパク質。VEAT は細胞質に露出するN末・C末がどちらも VGRUT1・VGLUT2 と比較して短いなどの差はありますが、やはり12回膜貫通タンパク質。VGLUT3 はこれらと異なり10回膜貫通タンパク質です(5、図2)。最近の研究によって、貫通部位のアミノ酸配列も明らかになっているようです(6、図2)。またそれらをつなぐ膜外の配列についても、実際には図2のような2次元ではなく3次元構造をとっているので、貫通部位の番号が図では離れていても実際の距離は近いという場合があります。立体構造として理解することが必要です。関心のある方は林真理子氏の文献(6)をご覧ください。

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細胞の外からグルタミン酸(アスパラギン酸)を取り込むには VGRUT とは異なるグループのトランスポーターが必要です。しかしこのトランスポーターを持っているのはシナプス前細胞ではなく、シナプス後細胞とアストログリア細胞です(図3)。すなわち神経伝達物質として使用するグルタミン酸を細胞内に取り込むためではなく、シナプス間隙に残された余剰のグルタミン酸をすばやく回収するための装置なのです。

アストログリア細胞が回収したグルタミン酸はグルタミンに変換され、アストログリア細胞からグルタミンの形でシナプス前細胞に運搬され、シナプス前細胞内でグルタミナーゼの作用でグルタミン酸に変換されて、シナプス小胞に濃縮されるという段取りになります(図3)。

このシステムには大きなメリットがあります。すなわちグリア細胞からはグルタミン酸が排出されないので、シナプスにおけるグルタミン酸の受け渡しにノイズが発生せず、神経伝達のフィデリティーが向上することになります。

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細胞膜のグルタミン酸トランスポーターは、そのアミノ酸配列から当初10回以上細胞膜を貫通する分子と考えられていましたが、2カ所でヘアピンループを構成していることが判明し、8回膜貫通タンパク質であることがわかりました(6)。アミノ末端とカルボキシル末端はいずれも細胞質側に露出しています。2つのヘアピンループは細胞膜内で対面しており、グルタミン酸輸送のキーポジションを構成しているようです(6、図4)。

このトランスポーターはナトリウムイオンが細胞外で高濃度・細胞内で低濃度であることを利用して、電気化学ポテンシャルによってグルタミン酸を細胞内に取り込むことができます。1分子のグルタミン酸の取り込みは、3個のNa+および1個のH+の共輸送、1個のK+の対向輸送と共役しています(7、図4)。取り込まれたナトリウムイオンは Na+/K+-ATPアーゼを用いて排出しなければならないので、グルタミン酸の取り込みにはATPのエネルギーが必要です。

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グルタミン酸トランスポーターはSLC1ファミリーに所属し、さらにヒトでは5種類のサブグループが存在することが知られていて、それぞれ EAAT1-EAAT5 と命名されています。EAAT は excitatory amino acid transporter の略称です(図5)。

これらのトランスポーターが欠損するまたは阻害されると、シナプス間隙にグルタミン酸が刺激後も残留することになり、過剰な反復刺激が発生するなどの影響で、さまざまな疾患が発生します(7)。

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グルタミン酸トランスポーターはあらゆる生物にユニバーサルに存在し、図6にある種の古細菌とヒトの分子を示していますが、非常に良く構造が似ています。いずれも3分子の集合体によって構造が形成されているところも同じです。赤の部分は後生動物で追加された部分です(6、図6)。

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グルタミン酸受容体については次回に述べる予定です。


参照

1)Solute carrier family
https://en.wikipedia.org/wiki/Solute_carrier_family

2)Hiroshi Omote and Yoshinori Moriyama1, Vesicular Neurotransmitter Transporters: An Approach for Studying Transporters With Purified Proteins., PHYSIOLOGY vol.28: pp.39-50, (2013); doi:10.1152/physiol.00033.2012
file:///C:/Users/User/Desktop/グルタミン酸/omote%20&%20moriyama%20review.pdf

3)脳科学辞典:小胞グルタミン酸トランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%B0%8F%E8%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

4)Erika Vigneault et al., Distribution of vesicular glutamate transporters in the human brain. Front. Neuroanat., 05 March (2015)
https://doi.org/10.3389/fnana.2015.00023

5)Joeri Van Liefferinge et al., Are vesicular neurotransmitter transporters potential treatment targets for temporal lobe epilepsy?  Front. Cell. Neurosci., 30 August (2013)
https://doi.org/10.3389/fncel.2013.00139

6)Mariko Kato Hayashi, Structure-Function Relationship of Transporters in the Glutamate?Glutamine Cycle of the Central Nervous System. Int. J. Molec. Sci., vol.19, no.4, (2018) doi: 10.3390/ijms19041177
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5979278/

7)脳科学辞典:グルタミン酸トランスポーター
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3%E9%85%B8%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC

 

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