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2018年10月 2日 (火)

やぶにらみ生物論114: ミツバチは日々記憶をたぐり、考え、判断する

今回はミツバチのお話しです。ミツバチの研究は日本でも活発に行なわれており、玉川大学にはミツバチ科学研究センターがあり(1)、山田養蜂場にはみつばち健康科学研究所があります(2)。ここでは簡単なミツバチについてのお話しと、私が関心を持ったことについて少し述べたいと思います。

ミツバチはご存じのように社会性昆虫でハイブと呼ばれる巣(そういえばバイオ・ハザードのアンブレラ社の研究所はハイブといって、ボスはコンピュータでした)をつくり、1匹の女王(図1)と多数の働き蜂と少数のオス蜂で社会を構成します。働き蜂の形態は図1の右に示したようなもので、尾部に毒針をもっていることが目立った特徴ですが、これについては最後にふれます。

もうひとつの特徴はかなり毛むくじゃらだということで、この毛は哺乳類の毛とは全くちがったものですが、哺乳類と同じ役割を果たすのかどうかはわかりません。保温や紫外線の直射を逃れるのには多少役だっているのかもしれません。多分より大事な役割は花粉をくっつけることで、蜜をまぜて花粉団子をつくり巣への運搬に役立てています(3)。このほか単眼や複眼や体全体に花粉がくっついて、それを足で払いのける際にキズがつかないようにという役割もあるのでしょう。

A_8

みつばちはひとつのApisという属の生物ですが、コミツバチ・オオミツバチ・ミツバチという3つの亜属にわけられていて、セイヨウミツバチとトウヨウミツバチはミツバチ亜属に含まれます。ニホンミツバチはトウヨウミツバチの亜種なので、もちろんミツバチ亜属に含まれます。

セイヨウミツバチは欧州・アフリカに分布し、トウヨウミツバチ・オオミツバチ・コミツバチはアジアに分布します(コトバンク)。オーストラリアやアメリカ大陸にはもともとミツバチはいませんでした。ただし養蜂業者が持ち込んだために、現在では図2のような分布図は無意味となっています。セイヨウミツバチは採取できる蜜の量が多いので、最近では日本でもセイヨウミツバチが優位の分布になっているようです。

A_9


さて、ミツバチが8の字ダンス(waggle dance)で花の位置を仲間に教えるということは大変有名で、高校などの教科書にも記載されています。このことを発見したのはカール・フォン・フリッシュです(4、5、図3)。無脊椎動物が言葉を持っているという大発見でしたが、彼がノーベル生理学医学賞を受賞したのは研究発表後50年も経過してからの1973年のことでした。

ミツバチは蜜が吸える花が巣から数メートルくらいの距離にあるときは、ぐるぐる回るだけですが、花が少し遠いところにあると、方角と距離を仲間に教えるために8の字ダンスを踊ります。図3の蛇行曲線の位置をおしりを振りながらブンブン羽音をたてて進みます。

この尻振りダンスの重力の鉛直線(図3の上下の青線)からの角度が、太陽からの角度(θ)を示し、尻振りダンスをしながら進む時間の長さが距離をあらわしています(図3)。現在ではリアルタイムで自動的にミツバチのコミュニケーション・ダンスを検出、解読、そしてマッピングできるシステムが開発されています(6、7)。

A_10


大事なのは、ミツバチが垂直に巣板をならべるように巣をつくることです(図4)。図4はたまたま外側の覆いが無く、内部が露出した巣です。左のスズメバチの巣(8)は私達の団地のように水平に1F・2F・3F・・・となっていますが、右のミツバチの巣(9)は垂直の層構造になっています。もし水平の構造だったら、8の字ダンスはありえません。なぜならY軸が決まらないからです。ミツバチは重力のベクトルと反対方向を0度とし、そこから何度ダンスの進行方向がずれているかで太陽と花の角度を仲間に知らせます。

ですからスズメバチのような巣だと、地磁気探知の機能を使って方位を知る能力でも持たない限り、太陽からの角度を表現できません。

A_11


ここで一つ驚くのは、太陽と花の角度は図3の左図のように地面に水平な地図上の角度ですが、ミツバチはこれを90度ずらして、垂直な壁に角度を表現します。これは彼らが壁に地図をかけて位置を知ることができる人間にも似た能力を持っていることを意味します。人間にも地図が読めない人がいる(10)ことを考えると、これは驚異的です。

そしてミツバチの知能はまだまだこんなものではありません。Martin Giurfa らはいろいろな図形を左右に傾けて、右に傾斜したときだけご褒美(砂糖水)をあげると、ミツバチはやがて学習した図形以外のさまざまな図形がどちらに傾いているかを認識することができることを証明しました(11、図5)。つまり彼らは図形の傾きという抽象的概念を抽出して頭脳に記憶し、さまざまな図形に適用してそれらが傾いていることを判断できるのです。

A_12


文献(11)では、さらにさまざまな対称性をもつ図形と対称性を持たない図形(図6a)をミツバチに見せ、片方を選択した場合だけご褒美をあげるというトレーニングをすると、学習した図形とはまったくことなる図形群(図6b)を見せた場合も、それが対称性を持つものか持たないものかを判別することができることを証明しています(図4)。

つまり彼らはさまざまな図形から対称性という抽象的概念を抽出して頭脳に記憶し、さまざまな図形に適用してそれらが対称性をもつものかどうかを判断しているのです。図5や図6の図形はミツバチやその祖先が何億年もの間みたこともないものです。彼らはあきらかに本能にしたがって生きているだけではなく、私達と同様日々記憶し、また日々記憶をたぐっていろいろ迷い考えて、そして最後は決断しながら生きているのです。

A_13


こんな画像から抽象的な概念を抽出するなどという複雑なことがうちのサラやミーナにできるでしょうか? いやそれは無理でしょう。ミツバチはほとんどの哺乳類の脳ができないようなことができるという、きわめて知的な動物であることがわかります。

私達とミツバチとは系統的にはずいぶん離れていますが、結局毎日なさねばならぬ事はそんなに違わないということでしょうか? エサをみつける、エサかエサでないかを判断する、エサの場所を記憶する、共有すべき情報を仲間に伝える、住む場所をつくる、捕食者から逃れる、敵と戦う、などはヒトもミツバチも日常的にやっていることです。そのようなことを上手にやれるように進化してきた結果、似たようなことになる部分もあるというのはわかる気がします。

最後に蜂の毒針についてふれておきます。毒針はもともと産卵器だった構造が変化してできたそうで、すべての蜂がもっているわけではありませんが、スズメバチ・アシナガバチ・ミツバチなどは持っています。ただし産卵器が変化したものなのでオスは持っていません。

A_14


図7の毒針の形態図は生きペディアのサイト(12)から拝借しました。ここで示すように、毒針は2本の穿刺針と1本の毒液注入針からなります。穿刺針の外側は矢尻状になっていて、いったん刺すと抜けにくくなっています。抜けるかどうかは刺された生物の皮膚の硬さによります。ミツバチはいったん刺すと、刺した針を抜けず無理に抜こうとすると体内の臓器ごとはがれてしまうので、やがて命を落とすことになるとされていますが、それは人を刺した場合のことであって、「皮膚が硬いが刺せないほどではない」というミツバチにとってはまずい事情のためにそうなってしまうのです。ですから、刺した動物(昆虫も含む)によってはうまく抜いて再使用できる場合もあるようです。

図7の右側には毒の成分を示しました。一部しか記していないので、詳しいことが知りたい方は他の文献(13など)をご覧下さい。なかでもスズメバチのマンダラトキシンは神経伝達を阻害する強力な毒素のようです。私達哺乳類が刺された場合、毒性そのものはたいしたことない場合でも過剰な免疫反応でアナフィラキシーショックを起こすことがあるので気をつけなければなりません。

参照

1)http://www.tamagawa.jp/research/academic/center/honey.html

2)https://www.bee-lab.jp/?prid=pli_ad_aac_A02_Y426&sc_cid=pli_ad_aac_A02_Y426

3)NHK for school  だんご職人 ミツバチの秘密
https://www.nhk.or.jp/rika/micro/shiryou/2010_001_01_shiryou.html

4)Uber die "Sprache der Bienen". Eine tierpsychologische Untersuchung. In: Zoologische Jahrbucher (Physiologie), Abteilung fur allgemeine Zoologie und Physiologie 40, S.1-186 (1923)

5)Aus dem Leben der Bienen. Springer Verlag Berlin (1927)
https://www.springer.com/de/book/9783642649226

6)ニューラルネットで「ミツバチのダンス」解読、大量死の謎解明へ
http://ascii.jp/elem/000/001/549/1549709/

7)Automatic detection and decoding of honey bee waggle dances. Fernando Wario, Benjamin Wild, Raul Rojas, Tim Landgraf., arXiv:1708.06590 (2017)
https://arxiv.org/abs/1708.06590

8)スズメバチの巣(やす緑のひろば) 
http://midorinohiroba.shiga-saku.net/e977278.html

9)ミツバチの巣(山里の素人農業) 
https://daii.jp/bee/kaiho_s.php

10)「地図が読めない人」の脳はどうなっているのか
https://wired.jp/2013/12/05/map-sense/

11)Julie Bernard, Silke Stach, and Martin Giurfa., Categorization of visual stimuli in the honey bee Apis mellifera. Anim Cogn col.9, pp. 257-270 (2006)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16909238
https://www.cs.helsinki.fi/group/cosco/Teaching/CoscoSeminar/spring2007/articles/benard-2006.pdf

12)https://ikimono-seibutu.com/hati-hari/

13)高見台クリニック ハチ毒について
http://takamidai-clinic.com/?p=44408
http://takamidai-clinic.com/?p=44411

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