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2018年8月 9日 (木)

やぶにらみ生物論110: トビムシ

最初に最近認められつつある系統図を図1として提示します。見て驚かれる方も多いと思います。私も驚きました。私達が学生時代に習った系統図とは全く異なるばかりか、現在様々な教科書やウェブサイトに掲載されている系統図・系統樹とも全く異なっています。しかしこれが最新の分子生物学的知見に基づいて、分類学者のコンソーシアムが現在到達した結論だそうです(1、2)。近々に教科書も書き換えられるでしょう。

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図1によると、節足動物・緩歩動物・線形動物・有爪動物の各門がひとつのグループであり、環形動物と軟体動物はこの4つの門が分岐する前に分岐したとされています。言われてみればまあそうかなとも思います。参照論文1のレジエは写真が見つかりませんでしたが、2のミューズマンの写真は公表されているので貼っておきます。彼らは共に昆虫の研究者であり、昆虫の起源についての興味からこのような大規模な研究に首をつっこんでしまったようです。

昆虫の起源という観点から言えば、現存のトビムシに似た生物から昆虫が分岐したというこれまでの考え方は、最新の研究でも正しいようです(図1)。様々な昆虫の分岐については非常に詳しく研究されています(図2 ミューズマンらによって作成された系統図の一部)。完全変態する昆虫(卵→幼虫→さなぎ→成虫)は色々な意味でハイクラスだと言われていますが、この中で膜翅目(ハチ・アリ)は他のグループ(甲虫・蝶・蛾・ハエ・蚊)とは早くに分岐していることが目をひきます。

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↑図をクリックすると拡大して表示されます。

完全変態するグループと最後に分岐したのはゴキブリ・シロアリ・バッタのグループです。ゴキブリは3億年前の石炭紀から現在とあまり変わらない姿で存在しているので(3)、完全変態するグループの分岐は、遅くとも石炭紀には完了していたのでしょう。

ゴキブリにはさなぎの時期がなく、幼虫の形態が成虫とほとんど同じです。シロアリも同様ですが、シロアリはアリとは全く違った社会性を確立したある意味非常に高等な生物です(4)。完全変態するグループが花粉の運搬によって地球生態系の維持に大きな役割を果たしているのに対して、シロアリは枯れた植物のセルロースを分解して他の動植物が利用できる栄養源にすることで、やはり地球生態系の維持に重要な役割を果たしています。

昆虫の起源について、最初に重要な発見を行なったのはハーストとモーリクで、1926年に古生代デボン紀中期のスコットランドの地層(ライニーチャート)から、Rhyniella praecurosor という現在のトビムシに似た生物の化石をみつけて報告しました(5)。図3の右側のように全身化石で、形態もよくわかります。

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トビムシは昆虫と非常に近い六脚類ですが、同じ地層から昆虫と思われる Rhyniognatha hirst の部分化石もみつかっていましたが、最近の研究によってこれはむしろムカデなどの多足類に近い生物の化石であることが判明しました(6)。古生物の研究者にとってはかなりショッキングな結果です。多足類はシルル紀からいたことがすでにわかっています(7)。

図3の右側の図にあるバーですが、どのようなスケールなのか残念ながら判りませんでした。多分100µmだと思いますが不明です。

節足動物はもともと体節ごとに脚があるという意味ですから、ムカデなどは基本的なデザインに忠実な生き物といえるでしょう。しかしさまざまな環境や生き方から、この基本的なデザインはしだいに変化してきました。六脚類と最も近縁なミジンコはプランクトンとして生活することを選択したため、全く独自な形態をとることになりました(図4)。ミジンコの足は10本なので(歩く用途には使えないと思いますが)、近縁とは言え六脚類とは大きな違いがあります。一方トビムシ・イシノミ・昆虫のグループはおそらくデニシメリア(図4、Massoud Z. が1967年に記載したマレーシアの生物)のような生物から進化したと想像されますが、なぜみんな6本脚なのかは謎です。

なぜ6本なのかは「M.SHI's 科学的逍遙」というサイトに面白い考察があります(8)。6本脚だと常に3点支持ができるので、4本脚の生物より安定した歩行ができるという点が自慢のようです。6本足の方が木に止まりやすいというのは、サルが樹上生活をしていることを考えると納得できませんが・・・。蝶のなかには体が軽いので4本肢に進化したグループもあるようです。ハエは静電気でくっついている3本の脚を、他の3本で引きはがすという主張はよくわかりません。

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トビムシとイシノミには共通点があって、それは跳躍する能力を獲得したということです。腹部をこの能力を最大限発揮するために使うとすると脚は邪魔になるのかもしれません。そこで跳躍とは関係の無い胸部から生えている6本の脚だけ残すという結果になったと思われます。昆虫は翅という飛翔する道具を獲得したため、もはや腹部を跳躍に使う必要はないわけですが、進化のスタート時点ですでに六脚だったというだけで特に変える必要もなかったのでしょう。

トビムシは体長2~3mmのものが多く、目立ちませんが普通に家屋の周辺や中にもいる生物です(9)。体長の数倍から数十倍の距離を跳躍することができます(英語ではspringtail)。トビムシの脳については文献がありますが(10)、良く理解できなかった部分もあるので私の宿題とします。


参照

1)Jerome C. Regier, Jeffrey W. Shultz, Andreas Zwick, April Hussey, Bernard Ball, Regina Wetzer, Joel W. Martin & Clifford W. Cunningham., Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences., Nature volume 463, pages 1079–1083 (25 February 2010)
http://www.nature.com/articles/nature08742

2)Karen Meusemann, Björn M von Reumont, Sabrina Simon, Falko Roeding, Sascha Strauss, Patrick Kück, Ingo Ebersberger, Manfred Walzl, Günther Pass, Sebastian Breuers, Viktor Achter, Arndt von Haeseler, Thorsten Burmester, Heike Hadrys, J Wolfgang Wägele, Bernhard Misof., A phylogenomic approach to resolve the arthropod tree of life., Molecular biology and Evolution
Volume 27, Issue 11, Pages 2451-2464 (2010)
http://udel.edu/~mcdonald/meusemann2010.pdf

3)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%82%AD%E3%83%96%E3%83%AA

4)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AD%E3%82%A2%E3%83%AA

5)Hirst, S. & Maulik, S., On some arthropod remains from the Rhynie chert (Old Red Sandstone)., Geological Magazine, vo. 63: pp. 69-71. (1926)
https://www.cambridge.org/core/journals/geological-magazine/article/on-some-arthropod-remains-from-the-rhynie-chert-old-red-sandstone/625FE6C61C6ED09F01880F382C97189C

6)Carolin Haug and Joachim T. Haug, The presumed oldest flying insect: more likely a myriapod?,  PeerJ Published online 2017 May 30.  doi:  10.7717/peerj.3402
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5452959/

7)大原昌宏、津田義弘., パラタクソノミス卜養成講座  昆虫(初級)目までの分類と同定編  北海道大学 (2015)
Parataxonomist.pdf
http://hdl.handle.net/2115/59547

8)研究室/なぜ昆虫は6本肢なのか?
http://mshi.no.coocan.jp/pukiwiki/?%B8%A6%B5%E6%BC%BC%2F%A4%CA%A4%BC%BA%AB%C3%EE%A4%CF%A3%B6%CB%DC%BB%E8%A4%CA%A4%CE%A4%AB%A1%A9

9)イカリ消毒 害虫と商品の登録サイト
https://www.ikari.jp/gaicyu/52010d.html

10)Martin Kollmann, Wolf Huetteroth , Joachim Schachtner., Brain organization in Collembola (springtails)., Arthropod Structure & Development., Vol. 40, Issue 4,  pp. 304-316 (2011)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803911000107?via%3Dihub

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