「二重らせん」 by James D. Watson
基礎科学研究の危機が叫ばれるなか(参照:最後の点線下のパラグラフ)、予算配分の問題もさることながら、大学や研究所の雰囲気も大事です。
ジェームス・D・ワトソンが書いた「二重らせん」(上の図、講談社文庫)を読むと、当時の英国の大学や研究所の雰囲気がビビッドに描かれていて、その自由でフレンドリーな雰囲気こそが、革命的な科学の進歩を生み出したとわかります。
研究者の方々も、研究室の雰囲気をどのように作り上げていけば良いかを考える上で、大いに参考になると思います。アングロサクソン民族や戦後のフランス人が作り上げた自由闊達な雰囲気の中でこそ、ユダヤ人達も実力を発揮できたのだと思います。ワトソンとクリックは例外的にユダヤ人ではありませんでしたが。
ここに書いてあるのは主にキングスカレッジとキャベンディッシュ研究所という英国の状況ですが、米国ではもっと自由な雰囲気だったのでしょう。日本でも昔は大学や研究所は自由な雰囲気がありました。夕方に出勤して夜明けに帰る人、学生との議論はかならず喫茶店で行う教授、学会でも会場には決して行かず、談話室でずっと話している人、スカートを翻して夜中に塀を乗り越えて帰る女性研究者、2日遅れで配達される新聞を読みながらこたつで構想を練る人里離れた研究所の面々、など様々でした。そんななかから多くの優れた研究者が出現しました。ワトソンも朝だけ仕事をして、昼からはテニスという日々もあったようです。
「二重らせん」によれば近隣のレストランで議論を戦わせる場面も多くて、そういう雰囲気もいいなと思いました。パーティーなども頻繁に開かれていたようです。知り合いを増やす機会が多いというのは重要です。
他の研究者との風通しも良く、ワトソンがヌクレオチドの配位に正しい答えを得たのも、結晶学者であるジェリー・ドナヒューが、教科書に書いてあるチミンとグアニンの構造式(エノール型)が実は誤りで、両者ともケト型だと教えてくれたおかげで、それがなければワトソンとクリックは悪戦苦闘して誤った結論に達していたかもしれません(下の図)。
若手研究者に研究に打ち込める環境と雰囲気を作ってあげることは重要です。
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国立大学に所属する研究者には、毎年少額とは言え研究費が支給されてきました。そのお金で研究室の電気代や水道料を支払ったり、実験動物を維持したり、標本や資料の保存、調査費・旅費などに充当してきました。しかし、その状況が大きく変わろうとしています。
「古屋准教授(徳島大学)談:2018年度からは『重点クラスター』と呼ばれる学内の特定の研究グループにだけ配分することになった。残りの人はゼロです。重点クラスターの選択基準は端的に言って、医療技術や医薬品開発など直接役に立つかどうかです。恐れていた最悪の事態がついに来ました。」
これによって、これまで積み上げてきた貴重な実験動物の系統や標本・資料の維持ができなくなり、研究室は半廃墟と化します。人件費もなくなるため期限付き研究員や秘書を解雇しなければなりません。すべて自公政権=晋三の責任でしょう。
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