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2017年9月30日 (土)

やぶにらみ生物論88: トランスポゾン2

今回はトランスポゾンの種類や構造について述べます。細菌から私達人類まで、あらゆる生物はウィルスの脅威にさらされています。しかしウィルスは細胞に感染するとすぐに増殖して細胞を破壊するようなタイプのものばかりではなく、なかにはホストのDNAに組み込まれてプロファージの状態となり、あたかもホストのDNAの一部であるように振る舞うタイプもあります(1)。

すなわち太古の昔から、素性の知れない外界DNAをホストのDNAの中に埋め込む生化学的システムは存在したと考えられます。そのために必要な最小限のメカニズムには、ホストのDNAと親和性を持った塩基配列、ホストのDNAに切れ目を入れるエンドヌクレアーゼ活性、ホストのDNAと接続するためのDNAリガーゼ活性などが含まれているはずです。

ホストのDNAに埋め込まれたウィルスのDNAの一部に突然変異が生じて、例えば殻のタンパク質をコードする遺伝子が使えなくなってしまったらどうなるでしょう。もはやウィルスはホストの外では活動できません。ただDNAを切り出したり、埋め込んだりする活性が残っていればホストのDNAの中で移動することは可能かもしれません。

真核生物の場合は、このようなDNAを遺伝物質として持つウィルス以外に、RNAを遺伝物質として持つレトロウィルスが感染する場合があります。この場合レトロは「昔の」という意味ではなく、「逆の」という意味です。普通の生物がやっているDNAからRNAへの転写ではなく、レトロウィルスはRNAを鋳型として、逆転写酵素によりDNAを合成する(=逆転写)ことができます。

レトロウィルスとは、ヒトに感染するものではインフルエンザウィルス、HIV、はしかウィルス、ムンプス(おたふくかぜ)ウィルス、B型以外の肝炎ウィルスなどがそうです。この場合も逆転写されたDNAがホストのDNAに組み込まれてプロウィルスの状態になることがあります。

プロファージと同様、プロウィルスも細胞に感染するための遺伝子が変異して役立たなくなることはあり得ます。このように感染力を失ったファージやウィルスは、本来持っていた1)細胞に外から感染するシステム、2)遺伝子を殻内部にパッケージングするためのシステム、3)遺伝子を包む殻、4)細胞を破壊するためのシステムなどはあっても無用または有害になるので、遺伝子には全く残そうという選択圧力がかからなくなり、荒れ放題(変異放題)となります。

ただしホストの細胞内でずっと遺伝子を残す手立てはあります。たとえば細菌や一部の真核生物の場合はプラスミドとなって、ずっと細菌体内で存続することができます。細菌のDNAに組み込まれた状態でも、そのまま存続できる場合があります。他のすべての遺伝子を失っても、DNAを切り出す活性とDNAに組み込む活性が保存されていれば、ホストのDNAを移動することができますし、切り出されている間にDNAを複製して増殖することすら可能です。哺乳類の場合、プラスミドとして生き残るものは多分ないと思いますが、ホストDNAの一部としては残留することができます。

細菌のトランスポゾンはすべてDNAトランスポゾンですが、真核生物のトランスポゾンにはDNAトランスポゾンとレトロトランスポゾンが存在します。まずDNAトランスポゾンからみていきましょう(2、図1)。

DNAトランスポゾンには両端にダイレクトリピート(DR)という同方向を向いた反復配列がある場合があります。これはターゲットのDNAにトランスポゾンを挿入する際に使われると考えられます。ダイレクトリピートの内側にITR(inverted terminal repeat)、またはTIR(terminal inverted repeat)という逆向きの反復配列があります(図1)。これは図3であらためて説明しますが、トランスポゾンのDNAを切り出すときに認識する配列です。

これらの反復配列以外に、DNAトランスポゾンはDNAトランズポゼースの遺伝子をもっており、この他にこの遺伝子を転写するために必要な配列があれば、最小限の構成を確保できます(図1)。なお図1の塩基配列は1例であり、実際の配列とは関係ありません。実例についてもっと詳しく知りたい方は文献(3、4)などが参考になると思います。

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細菌のトランスポゾンはDNAトランズポゾンですし、植物の中には稲のようにゲノムの大部分がDNAトランスポゾンで構成されているものも多いと思われるので、おそらく世界で一番多い遺伝子は「DNAトランスポゼースの遺伝子」でしょう。DNAトランスポゾンには図2のように2つのタイプがあり、ひとつは二重鎖ごとカットして他の部位にペーストする移動型、いまひとつは一重鎖のみ切り出して、複製して二重鎖としてから他の部位に挿入する複製型です。複製型の場合、切り出された一重鎖の部分は残された鎖を鋳型としてホストの酵素で複製されるので、結果的にコピー&ペーストとなり、トランスポゾンが2倍に増幅されます(図2)。

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Inverted terminal repeat ( ITR 、図1) がDNAトランスポゾンの両端にあることは、DNAトランスポゼースの作用機構と密接な関連があります。図3のようにDNAトランスポゼースはダイマーとしてそれぞれがITRを認識して働く、すなわちDNAを切断するので、ITRがトランズポゾンの両端にあることは都合が良いのです。このことはトランスポゾンのエリアを2つのITRにはさまれた部分という認識を酵素が行う上でも重要です(5)。右図はプロテイン・データバンク・ジャパンのイラストです。DNAトランスポゼースとDNAの関係を3Dで表現したものです。

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DNAトランスポゾンをDNAに挿入するときに、ギャップができることがわかっており、ここがダイレクトリピート(DR)あるいはターゲット・サイト・デュプリケーション(TSD)と呼ばれるサイトと考えられています(5)。この部分は当然修復されDNAの接続(ライゲーション)が行われなければなりません。

図4にみられるように、トランスポゾンが挿入されたあと、ホストの細胞が持っている酵素によってギャップは修復されます(6)。修復された部分はトランスポゾンの両端に存在し、同じ方向を向いた同じ配列となります(ダイレクトリピート)。次にこの位置のトランスポゾンを切り出すときに、ダイレクトリピートを置いていくと、DNA上に昔トランスポゾンがあったという痕跡が残りますし、持ち出すとダイレクトリピート付きのトランスポゾンができます。

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ここまでDNAトランスポゾンについて述べてきましたが、トランスポゾンにはもうひとつレトロトランスポゾンというジャンルのものがあります。これはDNAの一部が別の位置に移転するという結果は同じなのですが、メカニズムはまったく異なります。細菌にはこのタイプのトランスポゾンはみられず、真核生物だけに存在するものです。レトロトランスポゾンの場合、普通の遺伝子のようにいったんRNAに転写され、そのRNAを鋳型として逆転写によってDNAが合成され、さらにその単鎖DNAを鋳型として二重鎖DNAが合成され、ホストのDNAに埋め込まれます(7、図5)。

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大変複雑なように見えますが、実はありふれたウィルスであるインフルエンザウィルス、HIV、B型以外の肝炎ウィルス、おたふく風邪ウィルス、はしかウィルスなどはみんな遺伝子はRNAの形でホストに感染し、ホストの細胞の中で逆転写によって相補的なDNAを合成してホストDNAにプロウィルスという形で埋め込まれた状態で潜伏し、転写によって遺伝子RNAと必要なタンパク質を合成してウィルス粒子を作り、ホストを破壊して外に出るという生活史を繰り返します。

細菌のプロファージの場合と同様、ホストのDNAに必要な遺伝子のセットを埋め込んだまではいいものの、その一部が壊れてしまったらどうなるでしょう。ウィルス粒子を作って他の細胞に感染することができなくなるので、プロウィルスのままホストのDNAにとどまるしかありません。いったんとどまってしまったら、プロウィルスとして存在するための遺伝子を除いて、他の遺伝子は壊れ放題になってしまいます。そうなるとプロウィルスは原型をとどめないトランスポゾンとなってしまいます。これをレトロトランスポゾンといいます。

レトロトランスポゾンの中で、一番ウィルスの原型をとどめているのはLTR型レトロトランスポゾンで、図6に示すように、両端にLTR(long terminal repeat)という構造を持っています。ロングと言っても数百から数千塩基対というバラエティーがあって、その機能は十分には解明されていませんが、レトロウィルスはこの部位を利用してホストDNAに逆転写したDNAを組み込んでいることは間違いなさそうです(8)。

そのレトロウィルスの機能を使ってトランスポゾンをホスト内部で移動させようというのが、LTR型レトロトランスポゾンです。このトランスポゾンは内部にエンドヌクレアーゼ(DNAを切断する酵素)と逆転写酵素(リバーストランスクリプターゼ)の有効な遺伝子を保存していますが、他の構造タンパク質などの遺伝子(gag、env など)は変異して無効になっています(図6)。

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そのウィルスの遺産であるLTRを失った長鎖トランスポゾンをLine(long interspersed nuclear elements)といいます。LTRのかわりにやや長いTSDがあり、さらに長い非翻訳領域が3’と5’の両端にTSDに続いて存在し、何らかの形でLTRのかわりにトランスポゾンのDNA組み込みのメカニズムにかかわっていると思われます。LineはLTR型と同様内部にエンドヌクレアーゼとリバーストランスクリプターゼの遺伝子を持っており、それゆえに短くはなれません。だいたい4,000~10,000塩基対(bp)となっています。

これに対してSine(short interspersed nuclear elements)はLTRのみならず、内部のエンドヌクレアーゼとリバーストランスクリプターゼの遺伝子も失っており、そもそもレトロウィルスを起源とするものかどうかも定かではありません。内部にtRNA、5SrRNA、7SL-RNAなどの機能RNAの一部に類似した塩基配列を持っており、3’末にはLine相同な配列とポリAテイルがあります。おそらくレトロウィルスとは関係なく二次的に発生したものなのでしょう。転移するための酵素がないので、Lineなどが持っている酵素の支援がなければ転移することができません。構造に大きなバラエティーがあるのも特徴です(9)。

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霊長類は霊長類にしかないAluエレメントというSineの1種を持っています。Aluエレメントという名は、Aluという制限酵素で切断される部位があることから名付けられました(図8)。ヒトの場合、全ゲノムの11%がAluエレメントだとされています(10)。なぜこんなに大量の特殊なトランスポゾンがヒトのゲノムにあるのかは謎です。このトランスポゾンは7SL-RNAという、タンパク質を細胞外に分泌するためのメカニズムの一翼をになうRNAの遺伝子と共通な配列の断片を数多く持っています(図8)。

図8に両者のフルシーケンスを示しましたので、目をこらして比較してみて下さい。Aluエレメントを発見したのは、カール・シュミット(Carl W. Schmid )とプレスコット・ダイニンジャー(Prescott Deininger) (11、図8)ですが、こんな特殊なトランスポゾンがヒトのゲノムに大量にあるとわかって、さぞかしびっくりしたことでしょう。

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さまざまな生物のなかには、DNAトランスポゾンを多く持つグループとレトロトランスポゾンを多く持つグループがあります(12、図9)。この中で注目したいのは、Entamoeba histolytica という哺乳類に感染する赤痢アメーバはレトロトランスポゾンを圧倒的に多く持っている一方で、Entamoeba invadense という爬虫類に感染する赤痢アメーバはDNAトランスポゾンが圧倒的に多いという研究結果です。

つまりトランスポゾンが蔓延するために要する期間は、進化のスケールで考えるとかなり短いのではないかということが示唆されています。

実際ショウジョウバエのPエレメントというDNAトランスポゾンは、ほとんどの自然界のハエが持っているにもかかわらず、古くから飼い継がれている実験用のハエにはどれにも全くみられないということが知られており、この場合数十年の内にPエレメントが自然界で蔓延したと思われます(13)。

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参照

1)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8

2)Transposons: Mobile DNA
http://grupo.us.es/gfnl/dna/genetic_ingeniering/transposons.htm

3)  Kosuke Yusa, piggyBac Transposon., Microbiolspec, vol. 3 no. 2  (2015) doi:10.1128/microbiolspec.MDNA3-0028-2014
http://www.asmscience.org/content/journal/microbiolspec/10.1128/microbiolspec.MDNA3-0028-2014

4)Narayanavari SA, Chilkunda SS, Ivics Z, Izsvák Z., Sleeping Beauty transposition: from biology to applications., Crit Rev Biochem Mol Biol.  vol.52, no.1, pp. 18-44. (2017) doi: 10.1080/10409238.2016.1237935. Epub 2016 Oct 4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27696897

5)JD Watson, Molecular Biology of the Gene., 6th edn., pp.334-370, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2008)

6)Jennifer McDowall, Transposase.
http://www.ebi.ac.uk/interpro/potm/2006_12/Page1.htm

7)https://en.wikipedia.org/wiki/Retrotransposon

8)http://what-when-how.com/molecular-biology/long-terminal-repeats-molecular-biology/

9)http://sines.eimb.ru/Help.html

10)Prescott Deininger, Alu elements: know the SINEs.,  Genome Biol. 2011; vo. 12(12): pp. 236-248. Published online 2011 Dec 28.  doi:  10.1186/gb-2011-12-12-236

11)Schmid CW, Deininger PL  "Sequence organization of the human genome". Cell. 6: 345–358. (1975)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3334610/

12)Leslie A. Pray, Transposons: The Jumping Genes, Nature Education vol.1(1), p. 204 (2008)
https://www.nature.com/scitable/nated/article?action=showContentInPopup&contentPK=518

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%82%BE%E3%83%B3 (具体例のセクションを参照)

 

 

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2017年9月29日 (金)

総選挙 まずいことになりそう

A0002_000877今回の総選挙を控えての大騒動は、あまりに晋三政権が詐欺的で強引すぎる政治をやったための副作用だと思います。

副作用ですから、まずい結果は目に見えています。どういう政策を選択するのかではなく、政策とは関係なく誰がやるかという選挙になりそうです。それは困りますよね。

まあ政権がひっくり返ったとして、1年くらいはいろんな考え方の議員がみんな我慢するとして、それ以降は分裂するのは目に見えています。

安保法制をどうするのか? 柏崎原発をどうするのか? 辺野古をどうするのか? 憲法九条をどうするのか? 日銀に株や国債を買わせる異常な政策を継続するのか? 年金で株を買い続けるのか? 郵便局を外国に売るのか? 消費税を上げるのか? 上げた消費税を何に使うのか? 財政再建をするのか、それとも棚上げするのか? 地雷原は山ほどあります。

私は前から言っているように「科学技術の推進」(=研究の自由と予算の拡大)と「移民政策の推進」(=島国からインターナショナルな国家に生まれ変わる。英語教育の推進などは、より米国の下僕化が推進されるだけです)が日本が生き残るためのキーだと思っていますが、それを第一に掲げている政党はありません。

ならば最低でも、米国と少し距離をおいて、中ソ韓の方を向いた外交を進めてくれそうな政党ができて欲しいと思うわけです。そうしなければ、いつまでたっても日本は国境も定まらない、ふわふわの国家のままです。米軍基地も永遠になくなりません。そういう意味では好きなタイプの政治家ではありませんが、鳩山由紀夫にもう一度立ち上がってもらうしかないかもしれません。

それにしても枝野はどうするんでしょうね。前原に一杯食わされてしぼむのでは、あまりにも情けない話です。「護憲」を旗印に新党を立ち上げるくらいの心意気が彼にはないのでしょうか?

考えてみれば、民進党は自由党・社民党・共産党との連携で数が増える感じだったのに、なぜここで小池にすり寄ったかと言えば、護憲派を議会で圧倒的少数派にしようというからくりじゃないのかという疑いがのこります。現時点で国民の改憲派は少数なので、議会で二大政党が改憲というのはおかしな話です。これは一種のトリックです。

(写真は「足なり」からダウンロードしました)

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クレア・フアンチ ピアノリサイタル@白寿ホール2017年9月28日

Img1クレア・フアンチはウィキペディアによると、両親が科学者だそうで、ニューヨークのロチェスター生まれ(1990年)の中国系米国人だそうです。

白寿ホールははじめてでしたが、千代田線「代々木公園」に程近いビルの7Fにある素晴らしいホールです。ピアノ演奏を聴くのに非常に適していると思います。シートがまた素晴らしく、特にランバーサポートがしっかりしていて疲れません。

フアンチはショパンのノクターン集のCDを持っていて、すごいピアニストであることは知っていましたが、実演ではもっとエモーショナルで、生演奏らしいエキサイティングな音楽を楽しめました。

さてフアンチはリサイタルなのにドレスは着用せず、地味なパンツに普段着に毛の生えたような衣装で登場。ヤマハのピアノは「月光」ソナタに向いています。第一楽章の、暗い地底からとめどなく湧き上がってくる泉のような3連符にはぞくぞくしました。

休憩後のショパンのプレリュードはエルフルン・ガブリエルのCDがあればいいと思っていましたが、今夜の演奏には完全にやられました。2曲目の暗さがたまりません。「雨だれ」もしとしとの雨ではなく、物凄い暴風雨です。終盤はやや落ち着きがなかったような気もしましたが、実演で聴いた「プレリュード」ではベストであることに間違いありません。

Img2アンコールも拍手が鳴り止まず、スカルラッティを3曲、グリーグを1曲やって、ここまで暗譜でしたが、ついに5曲目「美女と野獣より」には、タブレットを譜面台においての演奏でした。このアンコールも驚異的な名演でした。朝まで聴いていたいという感じでしたね。

私は特に彼女のショパンが好きです。感性的にフィットする演奏なので・・・。よくまあ日本でリサイタルをやってくれたと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=xziZgGfZk7g

https://www.youtube.com/watch?v=C-4H_57BW_o

https://www.youtube.com/watch?v=8oIc3A19MAc

https://www.youtube.com/watch?v=Oji289l6fQE

https://www.youtube.com/watch?v=4z5bJUtJivI

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2017年9月26日 (火)

サラとミーナ190: マミタスより長生きのサラとミーナ

Img_aすっかり定年退職で、毎日の探索作業をリタイアしたサラ。おやつの鰹節も食べなくなって、これはいよいよ寿命かと心配しましたが、ペットショップでフリーズドライのかつおを買ってきて与えると、ばくばく食べました。

ベランダに出すと、どてっと寝転んでウルトラリラックス。なかなか家の中にもどらないので困ります。しかたなく扉を開けておいたら、大ゴキブリが侵入、部屋の中をブンブン飛び回って大騒ぎしましたが逮捕できず。

ところが一晩経過すると、全く生きている兆候がみえませんしきこえません。これはサラが始末したのかと、安心と不安がよぎる今日この頃です。

しょこたん飼育のマミタスが亡くなったそうで、ご愁傷様です。

https://twitter.com/shoko55mmts

http://www.shokotan.jp/

しょこたんも @nifty ブログでアクセスがトップだったこともあるのに、アメーバに乗り換えたのは残念至極。

Img_bミーナは特に変わりなし。長い時間を私のベッドの上で過ごします、あとはキャットタワー、プリンターの上。冬になるとベッドの上の毛布の中。このあたりを探すとたいていみつかります。

写真は急に明るくしたので、「まぶしいから、はやく電気消して」と言ってるのかな?

サラはよくカーテンの裏など思わぬ場所に潜伏することがあるので、なかなかみつからないことがあります。

イベントは1.朝トイレ掃除と給餌(ad libitum)、2.朝ベランダ開放、3.夕おやつの時間、4.深夜猫会議の4回/Dayで、このときはかならず2匹+私が集結します。

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2017年9月24日 (日)

2017~2018 リーガ・エスパニョーラ第6節 オウンゴール2発でドタバタの勝利

Braugranaミッドウィークの第5節エイバル戦は、録画しようとしていたらスカパーが停止していて空振り。大失敗の巻でした。第6節のジローナ戦は、バルセロナから車で1時間~1時間半くらいらしい(WOWOW情報)エスタディ・モンティリビでのゲームです。13286人収容のスタジアムでローカルな雰囲気です。

1949年にコパで当たって以来の2戦目だそうです。オルンガというケニアの選手が1トップ気味のフォーメーションですが、マンCからレンタルのドウグラスという選手が良いセンスで攻めてくるチームです。中盤のマフェオは今時珍しいメッシのマンマーク担当。GKのイライソスはビルバオ時代におなじみの選手。

バルサは毎週2回づつ試合がある厳しい日程で、バルベルデの腕のみせどころです。第5節でのデウロフェウは明らかに疲労がみられたので、ジローナ出身ではありますが招集外。代役はアレイシ・ビダルです。トップはスアレス。MFはイニエスタ・メッシ・パウリーニョ、中盤底はラキティッチ。ブスケツを休ませるのですが、パウリーニョでなくラキが代役。DF:アルバ・ウムティティ・マスチェラーノ・セルジ。ピケとセメドはお休みです。GKはテア=シュテーゲン。

12分ドウグラスにミドルシュートを打たれ、テア=シュテーゲンがギリギリではじく。はねかえりも打たれますがなんとか体に当ててセーフ。メッシはマンマークで動きとれず、非常にまずい展開です。FKもイライソスに止められて得点できません。17分アルバのセンタリングをアダイがクリアミスしてオウンゴール。なんともあっけないゴールで、バルサついています。

しかもこのあとマフェオがカードをもらってハードマークが難しくなるという幸運もありました。ラキティッチの惜しいミドルがありましたが、イライソスにセーブされて、前半は0:1で終了。

後半3分、ビダルが右に突入してヒールの股抜きでスアレスにパスを出しますが、なんともらったスアレスが股抜きスルーして、予想外のGKがオウンゴール。爆笑でジローナ自滅しました。26分にはスアレスがフリーで独走してダメ押しのゴール。バルサ0:3の勝利です。

https://www.youtube.com/watch?v=nVg5VBk_L3w

https://www.youtube.com/watch?v=1tRMmiNZBHQ

https://www.youtube.com/watch?v=xOMglk08GVQ



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2017年9月23日 (土)

梅田-都響のエルガー「創作主題による変奏曲(エニグマ)」@サントリーホール 2017年9月23日

Imgajpgサントリーホールは改装後はじめてでした。2Fのトイレの位置が変更されていて、従来の男子トイレと女子トイレがくっついて女子トイレとなり、男子トイレは別の位置に移動しました。ところが女子トイレに進入禁止マークがついていて???と思ったら、なんと出口と入口を分けたので出口に進入禁止マークをつけたのだそうです。

出口・入口と書けばわかるだろうに馬鹿なことをするものです。

シートの背もたれが良くなった感じがしました。背骨に問題がある私のような人間には有難いことです。

本日の指揮者は梅田さん、コンマスは矢部ちゃん(札幌まで台風を連れて行ったようですが、今日は朝は雨でしたがぎりぎりセーフ)。

サイドのマキロンは札幌で暴飲暴食かと思いきや意外にすっきり。客席は地味なプログラムの割には結構埋まっていました。

ハイドンの主題による変奏曲は、マエストロ梅田が優美な演奏をめざしていたと思われますが、そのせいか若干締まりが悪かったように思いました。

本日のソリストはチェリストのユリア・ハーゲン。まだ22歳の若手ですが、なかなか豊満なルノアール風の容姿で、なぜか音楽も豊満。リッチな音と繊細な演奏で「ロココの主題による変奏曲」を聴かせてくれました。これはなかなかの掘り出し物です。チェリストの演奏台の裏には、ここで演奏した多くのチェリストのサインがありますが、彼女もサインしたのでしょう。

都響のサポートも万全で、大変素晴らしい演奏だったと思います。拍手に応えてアンコール(バッハ)もやってくれました。後半は客席で都響の演奏を聴いていました。

休憩後のエルガー「創作主題による変奏曲(エニグマ)」は、はじめて実演に接しました。店村というVlaの名手がいる都響向きの曲で、マエストロ梅田も得意の曲なのでしょうか、都響をきっちりコントロールして、かつ生気に満ちた躍動感のある音楽を聴かせてくれました。とはいえエルガーという人も、ここぞというところでキャッチーなメロディーを投入できない、あと一歩の「残念な作曲家」だなあという思いがつのる演奏会でした。

ロココ風の主題による変奏曲 チャイコフスキー
https://www.youtube.com/watch?v=wsWnOgv6RG8

創作主題による変奏曲 エルガー
https://www.youtube.com/watch?v=QB8cE0B11lE

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2017年9月21日 (木)

やぶにらみ生物論87: トランスポゾン1

トランスポゾンとは染色体上での位置を変えることができるDNA断片のことですが、発見したのはバーバラ・マクリントックという女性科学者です(図1)。

彼女が辿った道をまず見ていきましょう。彼女は1902年の生まれで日本では明治の末期ですが、当時は米国でも女性が科学者になるのはまれなことでした。実際コーネル大学の農学部に進学したのですが、希望した植物育種学科は女人禁制で、大学院も遺伝学は女性は専攻できなかったので、やむなく植物学を専攻することになりました。

マクリントックが最初に目指したのは、当時モーガン研のスターティヴァントがショウジョウバエの4つの染色体を識別し、それぞれにおける遺伝子の場所を記した染色体地図を発表していたので、彼女が研究材料としていたトウモロコシでも染色体地図を作成するということでした。彼女はまず染色体を識別する上で助けになる酢酸カーミン染色法を開発しました。これは図1のカルミン酸を酢酸に溶かして鉄イオンなどを加えた染色液を用いる方法で、現在でも使われています。カルミン酸はある種のカイガラムシが合成する色素で、1991年まで人工合成はできませんでした。

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彼女はまず自らの染色法を駆使して、トウモロコシの染色体が10組20本であることを確定し、各染色体に1~10番の番号を付けました(1)。この論文を発表した年(1929)に、ハリエット・クレイトン(図2)という大学院生がやってきて、マクリントックの指導で研究をはじめました。彼女たちが興味を寄せたのは奇妙な形の染色体を持つトウモロコシの変異体でした。当時としては、組み換えという現象があることはわかっていましたが、これが線路のポイント切り替えのようなダイナミックな染色体の物理的切断と結合の結果なのか、それとも遺伝子ごとの交換のようなミクロな現象なのかよくわかっていませんでした。

クレイトンとマクリントックは、染色体の両端にそれぞれ特徴的な構造、すなわちノブとしっぽ(非染色体DNA)を持つ変異体をみつけて、ノブとしっぽが組み換えによっていれかわることを示しました。これによって組み換えが可視化され、誰もが染色体の切断と再結合(交叉)によって組み換えが行われることを納得しました(2)。図2をみると、CとWという2つの遺伝子の間で組み換えがおこると、Cはノブ、Wはしっぽと行動を共にしており、物理的な染色体の切断・結合と、形質から判断される遺伝子の組み換えが同時に起こっていることがわかります。

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私はこの文章を書くに当たって、マクリントックが後にトランスポゾンの理論をうちたてるきっかけとなった論文のことを調べるために文献(参照3)にあたりました。その中には 「1931年の秋、彼女はカリフォルニア大学バークレイ校の研究者から送られてきた別刷りを受け取った。そこに彼女がミズーリで見たものと同じ種類の斑入りが載っていた。バークレイの研究者たちもまた、染色体の切断あるいは欠落で生じた小さな染色体について触れていた」 という記述があります。ところがこのバークレイの研究者が誰なのかは書かれていません。

不満を感じながら調べたところ、マクリントックの論文(4)に引用文献がありました。この論文には引用文献が2つしかなく、そのひとつでした。Nawashin M. という人物の論文なのですが、さらに調べると、どうもこの引用文献のスペルが間違っているらしくて、Navashin M. という人物なら当時バークレイ校で植物の遺伝学をやっていたようなのですが、Nawashin M. という人物は見当たりませんでした。伝記を書いて出版するのなら、ちゃんとカリフォルニア大学バークレイ校に行くなり、文献を取り寄せるなりして調べて確認してから書いてほしいと思いますね。これからは全く私の想像ですが、Navasin さんはドイツ語でも論文を書いているのでドイツ人で、本来は Nawashin だったわけですが、米国では名前の発音が違って呼ばれるのが嫌で Navashin にスペルを代えたのではないでしょうか?マクリントックへの手紙には Nawashin と書いたのかもしれません。

マクリントックは斑入りの原因が、環状染色体(5、図3)内における染色分体間での姉妹鎖交換によって、セントロメアを2個含む染色体と全く含まない染色体が形成され、セントロメアを含まない染色体は細胞分裂によって娘細胞に分配されないため、色に関する遺伝子が無効になった細胞集団ができることによって斑入りが発生することを示しました(4)。

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マクリントックは米国学術研究会議から奨学金をもらって、コーネル大学、ミシガン大学、カルテックなどを渡り歩いて研究をしていましたが、それが切れてしまって、ドイツで研究を続けることにしました(6)。1933年~1934年はドイツで核小体と染色体の関係について研究していましたが、ナチスドイツの台頭もあって、コーネル大学に戻ることになりました。

そして1936年に、30才代半ばでようやくミズーリ大学での定職(assistant professor)を得ることができました。Assistant professor といえば日本では助教のようなポストでしたが、その状態で彼女は米国遺伝学会の会長になりました。マクリントックは全く協調性がなく、喧嘩っ早い人間だったので、業績は大いに評価されてもポストは与えられず、女性の地位が低かった時代とは言え、あとからきた女性に先に准教授(associate professor)のポストが与えられるという有様でした(3)。

マクリントックが幸運だったのは、このような状況の中で旧友のマーカス・ローズがコールド・スプリング・ハーバー研究所に誘ってくれたことでした。ここは生物学のジャンルでは最も有名なシンポジウムが開催される場所として業界で知らない人はいません。夏期休暇を利用して多くの研究者が集まる施設ですが、冬は静かな環境で思う存分研究ができる場所でした(図4)。

この研究所のたたずまいはちょっと変わっていて、図4のように普通のビルディングではなく、敷地に散在する個人の住宅のような建物がひとつの研究室になっています。右はマクリントックの研究室で、彼女が亡くなったあともそのまま保存されていました。

このような施設をみると、日本人は科学を利用しようとするだけで、愛してはいないということを痛感させられます。ちなみに2009年にはコールド・スプリング・ハーバー・アジアが中国の蘇州に開設され、活動を開始しました。これからの科学は中国によって牽引されることが予感させられます。

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これからの話を理解するためにアントシアニジンという色素について説明しなければなりません。この色素は多くの植物で花や実の色に関与しており、複雑な過程を経て合成され、しかも図5のように側鎖の種類によって様々な発色が可能です。実際にはこの色素に糖が結合した配糖体の形で花や実に存在しています。

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マクリントックは1941年12月から、ほとんどの残りの人生をコールド・スプリング・ハーバーで過ごしました。1941年12月といえば、8日の真珠湾攻撃から太平洋戦争が勃発した時期でした。彼女が「動く遺伝子」の研究を始めたのは1944年ですから、日本軍が太平洋の島々で玉砕を重ねていた時期です。「動く遺伝子」に関する仕事は非常に困難だったので、数年間は論文が書けませんでしたが、戦争中にもかかわらずカーネギー財団はずっと援助を続けました。

この間にマクリントックは、Ac と Ds というDNA上の因子が、DNA上で他の部位にジャンプして遺伝子発現の調節を行っていることをつきとめました。例えば図6で言えば、通常は紫色の実が、Dsがアントシアニジン合成遺伝子の位置に移動してくると、その合成遺伝子の発現が抑制されて実の色が白くなり、Dsがそこから抜けて移動すると、ふたたび色素が合成されるようになります。どの程度元に戻れるかによって発色の状況が違っていきます。これが斑入りの原因になります。

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マクリントックは1951年にコールド・スプリング・ハーバー研究所のシンポジウムで「動く遺伝子」に関する永年の研究成果を発表しました。しかし予想に反して全く反響はなく、誰も彼女が何を言っているのか理解できませんでした。ジャコブとモノーのオペロン仮説よりも前、ワトソンとクリックの二重らせんよりも前だったので、当時としては想像もできないようなお話だったようです。DNAの一部が遺伝子の活動を制御するなどと言う概念すらなかった時代だったということもありますが、当時は遺伝学者の興味がファージや大腸菌に大きく傾いていた時代だったので、トウモロコシの話題などみんなあまり興味がなかったのでしょう。

その後も分子生物学的な裏付けがなかったので、「動く遺伝子(トランスポゾン)」はなかなか業界で認められませんでしたが、1982年にスプラドリングとルビン(図7)がショウジョウバエにPエレメントが存在することを証明し(8、9)、ついに1983年にフェドロフ(図7)がトウモロコシのAcとDsの分子的実体とその動きを解明した(10)ことで、間髪を入れずマクリントックはノーベル生理学医学賞を授けられることになりました。

授賞時マクリントックは80才を越えていましたが、メンデルと違って生きているうちにきちんと再評価されたのはよかったと思います。ただ私の意見としては、ニーナ・フェドロフと共に授賞すべきだったのではないか、そのほうがマクリントックも嬉しかったのではないかと思いますね。天才だけでなく、実験的証明を行った人々についても、きちんと評価されて然るべきです。

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現在ではトランスポゾンは細菌からヒトに至るまでユニバーサルに存在することが知られていますし、種類も様々です。少し長くなりそうなので、続きは次回に述べることにします。


参照

1) B. McClintock.,  Chromosome Morphology in Zea mays. Science 69: 629 (1929)
http://science.sciencemag.org/content/69/1798/629.long

2)Creighton, H., and McClintock, B. 1931 A correlation of cytological and genetical crossing-over in Zea mays. PNAS vol. 17: pp. 492–497 (1931)
http://www.esp.org/foundations/genetics/classical/holdings/m/hc-bm-31.pdf

3)Ray Spangenberg  and  Diane Kit Moser  著,  大坪 久子 (翻訳)  「ノーベル賞学者バーバラ・マクリントックの生涯 動く遺伝子の発見」  養賢堂 2016年刊

4)B. McClintock., A correlation of ring-shaped chromosomes with variegation in zea mays., Natl. Acad. Sci. USA, vol.18, no.12, pp. 677-681 (1932)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1076312/pdf/pnas01740-0003.pdf

5)Lillian V. Morgan., Correlation between shape and behavior of archromosome., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol. 12., pp.180-181 (1926)
http://www.pnas.org/content/12/3/180

6)Famous scientists. Barbara McClintock.,
https://www.famousscientists.org/barbara-mcclintock/

7)Barbara McClintock, The origin and behavior of mutable loci in maize., Proc. Natl. Acad. Sci. USA vol. 36,  pp. 344-355 (1950)

8)Spradling AC, Rubin GM,  "Transposition of cloned P elements into Drosophila germ line chromosomes". Science. vol. 218 (4570): pp. 341–347. (1982)
Bibcode:1982Sci...218..341S. PMID 6289435. doi:10.1126/science.6289435.

9)Rubin GM, Spradling AC, "Genetic transformation of Drosophila with transposable element vectors". Science. vol. 218 (4570): pp. 348–353. (1982)
Bibcode:1982Sci...218..348R. PMID 6289436. doi:10.1126/science.6289436.

10)N. Fedoroff, S. Wessler, and M. Shure, Isolation of the transposable maize controlling elements Ac and Ds., Cell vol. 35, pp. 235-242 (1983)

 

 

 

 

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2017年9月18日 (月)

「バーバラ・マクリントックの生涯-動く遺伝子の発見-」

1「バーバラ・マクリントックの生涯-動く遺伝子の発見-」 Ray Spangenburg and Diane Kit Moser 著、大坪久子他訳 養賢堂 (2016)

読んで損したわけではなく、ほぼ私の目的は果たしたのですが、内容に非常に気になったところがあったので、ひと言述べたくなりました。

この本ではマクリントックの仕事の前奏曲として、メンデルやモーガンの仕事は詳しく解説しているのですが、メンデルの法則の裏付けをとったウォルター・サットンの仕事が全く無視されていて、ひと言も触れられていません。

サットンが遺伝の物理的実体が染色体であるという「染色体説」を発表した重要な論文を最初に出版したのは1902年で、これはマクリントックの生年でもありましが、巻末の年表にすらサットンの名前はありません。彼こそ方法論的にもマクリントックの研究の先駆者として記載すべきではないでしょうか?

こんなアンフェアーな本を書いた著者達がどんな人物なのか見てみようと思ったら、どこにも略歴すらありません。養賢堂はメールのひとつでも出して、本人に問い合わせる努力もしていないのでしょうか。あきれます。さらに訳者の大坪氏は5ページもの長文の訳者後書きを書いていますが、著者については何も書いていません。1987年に出版された「動く遺伝子-トウモロコシとノーベル賞」 エヴリン・フォックス・ケラー著 石館三枝子他訳(1987年)との関連についても言及していません。

理由は違いますが、科学の本でこんなに読んでいて不愉快な気分になったのは、アンドリュー・パーカーの「眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く」(草思社 2006)以来でした。

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2017年9月17日 (日)

リーガ・エスパニョーラ2017~2018 第4節: 岳のゴラッソをデニスとパウリーニョがひっくり返す

Braugranaコリセウム・アルフォンソ・ペレスでヘタフェとの対戦。ここは1万7千人しかはいらない、こじんまりとしたスタジアムです。岳が所属しています。

バルサはミッドウィークにユベントスとゲームがあって(3:0で勝利)お疲れムード。WOWOWではローテーションはないと言っていましたが、私はデウロフェウ→デンベレ、セメド→セルジはローテションだと思います。私ならイニエスタとラキティッチも休ませて、デニス・スアレスとパウリーニョを出したいところですが、バルベルデはそこまではやりませんでした。スアレス・メッシ・ブスケツ・アルバの4人は、バテバテになるまで基本的にローテーションはしないのかな? CBはウムティティとピケです。

ヘタフェは1トップのホルヘ・モリーナ中心のチーム。岳はなんとシャドーストライカー役で出場。左アマト・右ファジル、マルケルとアランバリのダブルボランチにDFはアントゥネス・カラ・ジェネ・ダミアン、GK:グアイタ。

バルサは全体的に動きが悪く、ヘタフェペースのスタートでした。10分にはピケがエリアぎりぎりでダイビングして相手をつかむという情けないプレー。16分には左からの岳のクロスをピケが手ではじいて、レフェリーによっては一発レッドもあるかという危険なプレーで肝を冷やしました。イエローでもすでにひとつもらっていたのでもらったら退場のところでした。手が体に完全にはついていなかったので、バルサにとってはラッキーでした。

27分にはデンベレが誰もバルサ選手がいないところにヒールキックして故障発生。お休みのはずだったデウロフェウに交代です。バルサが惜しかったのは32分、イニエスタの浮き球をウムティティが頭で合わせましたが、グアイタの正面でした。39分には岳がエリア外から美しいボレーを決めて、バルサ大ピンチのまま前半終了。柴崎岳は歴史に名を残すことになりました。クールな岳らしいゴールでした。

後半イニエスタをデニス・スアレスに代えると、デニスは非常に元気で動きが良く、バルサを牽引してくれました。しかも岳は足痛でピッチに倒れ込み交代です。

17分バルサは右サイドでデウロフェウとセルジが頑張って、デニスにラストパスが供給されゴール。やっと追いつきました。37分にはあわやセルジのオウンゴールかというピンチがありましたが、カウンター攻撃でメッシからラキティッチと交代して出ていたパウリーニョにパスが通って、パウリーニョがジェネをフィジカルで突破して決勝ゴール。なんとか1:2で勝利。この勝利はバルサの動きが重い試合だっただけに拾いものでした。バルベルデの好采配と言われていますが、私に言わせれば「最初からデニスとパウリーニョを出しとけよと」ですね。

中2日でエイバル戦がありますが、バルベルデがどんな選手をスタメンで起用するのか興味津々です。

https://www.youtube.com/watch?v=waevuR1pIfc
https://www.youtube.com/watch?v=tUGnRmDdS5g
https://www.youtube.com/watch?v=QGEt1UctaO4

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2017年9月14日 (木)

ある文民警察官の死

1024pxgraf_pol_pot文化庁芸術祭賞の昨年度の審査過程の興味深い記事が東京新聞のサイト(2017年9月9日)に出ていました。

引用
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昨年十二月上旬、全作品を見た各審査委員が受賞作を決めるため、文化庁内で「ある文民警察官の死」の評価を話し合っていた際、事務局の文化庁芸術文化課の職員が「国からの賞なのに、国を批判するような番組を賞に選ぶのはいかがなものか」との趣旨の発言をした。

職員に審査権限はない。複数の審査委員から「それは違う」とその場で異議が上がり、最終的に優秀賞の一つに選ばれた。

作品はNHK大阪放送局の「NHKスペシャル ある文民警察官の死~カンボジアPKO23年目の告白」。一九九三年、岡山県警の高田晴行さん=当時(33)=が武装ゲリラに襲撃され死亡した事件を、隊員らの証言や手記などから丹念に検証した。
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http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017090990070732.html

このドキュメンタリーは私も見ました。カンボジアの国連PKOに狩り出された警察官が現地があまりにも危険なため、個人でマシンガンを購入して移動中にゲリラと撃ち合いになり死亡したという話です。これは日本政府が武器を携帯させなかったという問題もありますが、現地の国連関係者の認識が甘すぎたこともあります。私も彼らの立場なら、武器を購入したと思います。

生死に関わることなので、国連や政府がどう言おうが臨機応変に対応すれば良いことだと思いますが、そうして複数の人間がマシンガンを保有していても、襲撃で被害が出たわけですから、それだけ危険な場所だったということなのでしょう。このような場所でPKOを行うのは尚早だったと思いますし、やるなら完全武装で行うべきだったでしょう。PKOは国連の予算で行なう国連の活動であり、責任は基本的に国連にあります。

多くの人は知らないと思いますが、ホー・チミン勢力がカンボジアに浸透するのを恐れて、米国はプノンペン周辺をB52で無差別爆撃し、数万人の市民が殺害されました。1965年から1973年の間に米国がカンボジアに投下した爆弾は270万トン以上で、これは連合国が第二次世界大戦で投下した総量より多かったそうです(1)。

しかしようやくできた反米ポル・ポト政権はたちまち堕落していき、反対派を虐殺するようになっていきました。その後ポル・ポト派は辺縁に追いやられ、国連が現地を平定するためにPKOを発動していたわけです。そのような背景で起きた事件でした。

みんなが忘れた頃に、このような番組で問題提起してくれたNHKに目を見張りました。確かにこれは、日本の部隊が戦後初めて撃ち合いの実戦を経験した機会だったのでしょう。

1)舟越美夏 「人はなぜ人を殺したのか ポル・ポト派、語る」 毎日新聞社 (2013)

(写真はポル・ポトの墓 ウィキペディアより)

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2017年9月12日 (火)

愚かな国

A1380_000522太平洋戦争前にも日本には優秀なシンクタンク「総力戦研究所」があって、米国と開戦すれば日本は4年で戦闘能力を失って無条件降伏せざるを得なくなり、満州はロシアに占領されるだろうというシミュレーションを天皇・陸海軍に上奏していたそうです。

結果はシミュレーションの通りになりました。

私達戦争を知らない世代が戦争を語るには、下記の映像は見ておく必要があると思います。

なぜならば、私達日本人のDNAは戦前も戦後も同じなので、本能的に判断するなら昔と同じことをやってしまう可能性が高いからです。

【太平洋戦争】なぜ、負けた? 

① ガタルカナルの戦い
https://www.youtube.com/watch?v=YbTL74D5UlI

② インパール・コヒマの戦い
https://www.youtube.com/watch?v=XjJ8onQqHa8

③ レイテ・ルソンの戦い
https://www.youtube.com/watch?v=nXZ0QZFa7IE

絶対に勝てなかった大東亞戦争

① ゼロ戦の構造的な欠陥とは?
https://www.youtube.com/watch?v=mmSa7oS_i-Y

② 総力戦とは? 大日本帝国の弱点「海上輸送網」とは?
https://www.youtube.com/watch?v=zgD05ICdA54

③ マリアナの七面鳥撃ち「あ号作戦(マリアナ沖海戦)」とは?
https://www.youtube.com/watch?v=TFfp4P7C41k

【第二次世界大戦】なぜ、始めた?

①「国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)ヒトラー総統の誤算」
https://www.youtube.com/watch?v=fpanf_MJvZ8

②「アメリカ合衆国の参戦」 ~日本は嵌められたのか?~ 
https://www.youtube.com/watch?v=Wy2W8OyTfww

③「日本帝国の参戦」~真珠湾への奇襲はアメリカの罠だったのか?~
https://www.youtube.com/watch?v=XqWZ_1b7kvo

東條陸軍大臣がシンクタンクのシミュレーションに対して述べた意見(ウィキペディアより)

「諸君の研究の勞を多とするが、これはあくまでも机上の演習でありまして、實際の戰争といふものは、君達が考へているやうな物では無いのであります。日露戰争で、わが大日本帝國は勝てるとは思はなかつた。然し勝つたのであります。あの當時も列强による三國干渉で、やむにやまれず帝國は立ち上がつたのでありまして、勝てる戰争だからと思つてやつたのではなかつた。戰といふものは、計畫通りにいかない。意外裡な事が勝利に繋がつていく。したがつて、諸君の考へている事は机上の空論とまでは言はないとしても、あくまでも、その意外裡の要素といふものをば、考慮したものではないのであります。なほ、この机上演習の經緯を、諸君は輕はずみに口外してはならぬといふことであります。」

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2017年9月11日 (月)

リーガ・エスパニョーラ2017~2018第3節: マニータでエスパニョールを木端微塵

Braugranaカタルーニャ州議会は独立を問う住民投票を実施するための法案を可決し、10月1日に投票が決まりました。スペイン政府はもちろん認めていないので、衝突は避けられません。カタルーニャは風雲急を告げています。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017090701000846.html

そんな騒然たる世情の中でのバルセロナダービー@カンプノウです。アラベス戦ではFWが左デウロフェウ、右ビダルという首をかしげるようなスタメンのバルサでしたが、今回はスアレスが戻ってきたこともあって、スアレス左、デウロフェウ右の納得のFWです。左イニエスタ・中央メッシ・右ラキチッチのMF。中盤底はブスケツ、DF:アルバ・ウムティティ・ピケ・セメド、GK:テア=シュテーゲン。

右SBのセメドがなかなかいいので、セルジはどうみても第一の選択肢ではないと思います(今日は負傷欠場)。セルジはMFとしてパウリーニョ、アンドレ=ゴメスあたりと競争した方がよいのではないでしょうか。メッシ引退後はトップ下はセルジかな。セメドは突破してクロス狙いではなく、たいていデウロフェウをサポートする感じで攻撃参加してくるのが好ましい。この2人はセットで考えたいですね。

エスパニョールはモレノ、ピアッティ中心の攻撃陣で、レオ・バチストン、ダルデールあたりがからんできます。

26分、実はオフサイドのメッシにラキティッチから縦パスが決まってゴール。この試合はどうもバルサに有利な判定が多く、カタルーニャのムードを反映しているような印象を受けました。エスパニョールはレアルを冠しているので(Reial Club Deportiu Espanyol de Barcelona )、独立派には受けが良くありません。

どうもこの試合からバルサはひとつの変更を決断したようです。それは左からのFKはメッシではなくスアレスが蹴ることになったみたいです。今日はすべて失敗しましたが、これは歓迎できます。35分アルバが左に突入してうまく折り返し、メッシがゴール。2:0です。エスパニョールは43分ピアッティがミドルを打ちましたがポストに跳ね返されました。

ハーフタイムの後、6分にアルバがトラップミスをして、またピアッティがシュートしましたがはずれました。12分にはカタールから帰還したセルヒオ・ガルシアに代えられてしまいました。

後半21分にはスアレス→アルバ→メッシと正3角形のパスが決まって、メッシがハットトリック達成です。さらに42分にはCKからピケが頭で合わせて4点目。45分にはイニエスタに代わって出ていたアンドレ・ゴメスから、初登場のデンベレにスルーパスが通り、デンベレからのグラウンダークロスにスアレスが合わせてマニータ達成です。

デンベレはドルトムントに足許を見られて巨額のトレードマネーで獲得した選手。どれほどの者かと思いましたが、まあ使えそうです。ただし右はデウロフェウがいるので、今日のように右FWなら完全に控え。スタメンで使うならネイマールのポジションだと思います。このポジションで活躍できるかどうかが鍵です。

https://www.youtube.com/watch?v=y8djMuI8wnk
https://www.youtube.com/watch?v=s2L3bW26zKE
https://www.youtube.com/watch?v=U1cIFzhCdOA

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2017年9月10日 (日)

大野-都響のハイドン「天地創造」@東京芸術劇場2017年9月10日

Imga池袋芸劇でハイドンの「天地創造」です。ずいぶん雨天が続いた今年の夏でしたが、なんと矢部ちゃんがコンマスで晴れ。サイドは四方さん。都響としてはめずらしく、1Vnの隣がVla、2Vnは対面です。

スクリーンがないのでどうするのか心配していたら、なんと正面のリフレクションボードに歌詞を直接投射とは(幻灯か!)。これは見にくかった人もいたのではないでしょうか? まあ手抜きでしょう。客席はほぼ満席の盛況でした。

オケも合唱(スウェーデン放送合唱団)も良い感じではじまりました。ラファエルのヘンシェルはちょっと迫力不足かな。ソプラノ(林正子)とテノール(吉田浩之)は快調です。

後ろの列の子供がうるさくて誰かが注意したら、母親におこられて泣き出してしまいました。後半は親子の姿が見えませんでした。誰かがクレームをつけたのか、周辺の聴衆に対して、係員が音をたてないよう休憩時に注意に来ましたが、事情を知っていたらそんなことしませんよね。

大野-都響-スウェーデン放送合唱団は完成度の高い演奏、特にシーン4第4場(月と星の創造)が繊細な美しさで素晴らしいと思いましたが、休憩前の拍手が思いの外まばらで、合唱団が帰りかけたところで指揮者・ソリストが出てくるというチグハグもありました。

神による天地創造がテーマなわけですが、鳥や獣はいろいろでてくるのですが、昆虫は昆虫という集合名詞でひとくくり、魚類の代表はリヴァイアサンというらしいですが、これはどうも鯨らしくて哺乳類という奇妙。両生類は無視ですか? 19曲目で休憩になりました。

後半は元気の良い音楽で、アダムとイブの場面はもう完全にオペラ風。大野の美学で彫琢・整理された盛り上がりという感じでしょうか。でも何か立派すぎて・美しすぎて、聴衆の燃焼度は80%というのが大野-都響の限界のように思われます。

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2017年9月 8日 (金)

やぶにらみ生物論86: PCR

PCRとはポリメラーゼ・チェイン・リアクションの略称で、「科捜研の女」などでもお馴染みですが、痕跡的なDNAを大量に増やす方法です。本題に入る前に、少し歴史的経緯をみてみましょう。

ところで一般には大腸菌くらい簡単に培養できるのだろうと思われがちですが、昭和時代にはそういうわけにはいきませんでした。私が学生時代、同じ建物に微生物学教室がありましたが、そこには宇宙船のハッチのようなものがあって、中に入ると数人が作業できるような部屋があり、各種実験器具、培地、シャーレ、Lブロス、ピペットなどが大量に積み重ねられていました。これは高温高圧で滅菌作業をするボイラー室でした。

空気中には雑菌が浮遊しているので、これらを芽胞を含めて完全に死滅させるには高温高圧(たとえば121℃、20分)で処理しなければいけません。そのためにはボイラー室を用意して、資格を持った技術員を雇用しなければなりません(1)。実験は普通の実験台ではできず、クリーンベンチという、外から雑菌が流入しないよう空気の流れをコントロールした、巨大な無菌ボックスの中に手を突っ込んで行わなければなりません。現在では実験器具はすでに企業で滅菌した使い捨て製品を買って使う場合が多く、このてのプラスチック製品は使った後棄てるだけなので、よほど特殊な実験でなければボイラー室を使うことはなく、廊下の隅にでも置けるようなオートクレーヴ装置で事足ります(2)。

ですから当時の生命科学研究者にとって、大腸菌にプラスミドを入れて遺伝子を増幅させるという作業は、微生物学の研究室以外ではじめるには大きな壁がありました。増幅させたいのはDNAという化学物質なので、なんとか試験管で酵素を使ってやりたいと思うのは当然です。そこに登場したのがマリス(図1、Kary Banks Mullis)でした。

マリスはカリフォルニア大学バークレイ校で学位を取った後、カンザス大学の小児心臓病研究室のポストドクになり(1972年)、1975年までに2度離婚して仕事も辞めバークレーに舞い戻りました。バークレーでは最初の妻が経営するコーヒーショップで店長をやっていたそうです(3)。そんなある日、バークレー校時代の友人であるトーマス・ホワイト(図1)と再会し、ホワイトの紹介でカリフォルニア大学サンフランシスコ校のポストドクになり、脳研究をはじめました。しかしそこも結局すぐにやめてしまい、困ったホワイトは自分が幹部社員であるシ-タス社に、技術員としてもぐりこませることにしました(3、4)。

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マリスは著しく協調性を欠く性格で、会社でまわりと衝突をくりかえすやっかいものでしたが、ホワイトはあえてDNA合成室長に抜擢しました。ここでマリスはDNA合成自動化装置の製品化で貢献して、ようやく会社での自分の立場を確立しました。そうして1983年、有名な出来事が起こります。文献4の記述を引用します。

In 1983, while driving along the Pacific Coast Highway 128 of California in his Honda Civic from San Francisco to his home in La Jolla, California, USA, Kary Mullis was thinking about a simple method of determining a specific nucleotide from along a stretch of DNA. He then, like many great scientists, claimed having a sudden flash of inspirational vision. He had conceived a way to start and stop DNA polymerase action and repeating numerously, a way of exponentially amplifying a DNA sequence in a test tube(4).

ドライブ中に突然あるアイデアが浮かんだというわけです。それはPCR(ポリメラーゼ・チェイン・リアクション)法の根幹となるすばらしいアイデアだったのですが、マリスは相変わらず喧嘩をくりかえし、アイデアが採用されるどころか「早くクビにしろ」という多くの研究員からの要請がホワイトのもとに届く有様でした。

ホワイトはそのアイデアを評価しましたが、実験が下手くそな上に室員との折り合いも最悪なマリスにまかせておいてはどうにもならないと考え、マリスを棚上げして、彼のアイデアを実現するプロジェクトを別の研究室で立ち上げました。そうしてからはランディ・サイキとスティーヴン・シャーフという優秀な研究者達が中心となって、順調に仕事は完成しました。

論文のファースト・オーサーはマリスで、マリスがまとめる予定だったのですが、さっぱり論文を書かないので、結局1985年にサイキ(5)、1986年にシャーフ(6)が論文を書くことになりました。マリスがやっとこさ論文を書いたのはオリジナルペーパーというより実験技術の本で、1987年になってしましました(7)。そこまで待っていたらシータス社は特許をとれなかったでしょう。それでもマリスは1993年にノーベル化学賞を単独で受賞しました。

ここでPCR法の基盤となるDNAの性質を簡単に述べます。DNAの二重鎖は高温(図2では94℃)で解離し一重鎖となります。ゆっくり低温にもどすとアニーリングがおこって、再び二重鎖が形成されますが、急速に温度を下げると長いDNA鎖はアニーリングをおこしにくく、短いプライマーを投入すると優先的にDNA鎖に結合することができます。

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そこで50℃~60℃に急冷した後、プライマーを大過剰に投入してDNAと結合させます(図3)。

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次に72℃に温度を上げて高分子DNAのアニーリングを阻止しながら、DNAポリメラーゼと基質を投入してDNA合成を行わせます(図4)。この温度でDNA合成を行わせるには、後述のTaqポリメラーゼという特殊な耐熱性のDNAポリメラーゼが必要です。

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もともと生物が出現しはじめた頃の地球は高温で、当然その頃の細菌・古細菌は好熱性だったわけです(8)。そして現在でも一部の真正細菌や多くの古細菌は温泉などの高温環境で生活しています。しかしはるか昔の地質時代とはことなり、現在は芽胞という熱に強い特殊な仮死状態で生きている生物も多く、そのような生物では酵素がすべて耐熱性とは限りません。

トーマス・ブロックとハドソン・フリーズ(図5)はそんななかから、Thermus aquaticus という至適増殖温度が70℃~72℃の真正細菌を分離しました(9)。これは当時としては驚異的な高温で生育する生物でした。しかもこの温度はPCR法を実行する上で都合の良い温度でした。

アリス・チエン(図5、現アリス・チエン・チャン)は Thermus aquaticus からDNAポリメラーゼを抽出・精製し、これは後に学名の頭文字から Taqポリメラーゼと名付けられました(10)。ブロック、フリーズ、チエンらはこんな面白いめずらしいものがあるよというような感覚で研究していたと思いますが、これが20世紀でも指折りのイノベーションになるとは、全く予想していなかったでしょう。科学の進展は思わぬところからやってくるというのは、このブログでも繰り返し述べているところです。

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通常のDNAポリメラーゼを使ってPCR法をやろうとすると、37℃でDNA合成を行わなければならず、この間にもとの巨大分子であるDNAのアニーリングで効率が下がり、さらにまずいことに94℃に温度をあげるとDNAポリメラーゼは失活します。そうすると1サイクルごとに酵素を新たに添加することが必要で、かつだんだん効率が悪くなるわけです。こんなところが誰もPCRなどということを考えなかった理由なのでしょう。

しかしTaqポリメラーゼを使うと状況は一変します。72℃で絶好調、94℃でも失活しないので酵素の添加は不要ですし、72℃の反応では長鎖DNAのアニーリングはおこらないので、効率も落ちません。つまり温度をたとえば 96℃→56℃→72℃→96℃→56℃→72℃→ というように繰り返し変化させるだけで、魔法のようにDNAが増幅されていきます(11)。このようなことを考えると、マリスが単独でノーベル賞を受賞したことには疑問が感じられます。

図6をみていただくと2サイクル目で、目的のDNAが1本鎖だけですが(緑)生成されていることがわかります。図7の3サイクル目では8本生成される二重鎖DNAのうち、2本が目的DNAの二重鎖です(緑x2)。いったん二重鎖目的DNAが生成されると次のサイクルではその二重鎖DNAが複製されます。こうして4サイクル目には16本生成される二重鎖DNAのうち8本が目的の二重鎖DNAとなり、サイクルが進むにつれて目的DNAの純度は上がって、最終的にはそれ以外のDNAは無視できるくらいの%になります。

図6、図7をじっくりとよく眺めてください。最初は様々なDNAが合成されますが、同じことを繰り返しているうちに目的のDNAが自動的にメインになっていく。そう、まるで魔法のようなギミックに茫然とします。

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先輩からはこのPCRの作業をやるために、何時間トイレを我慢したというような話を聞かされました。3つのウォーターバスを用意して、それぞれ96℃、56℃、72℃に設定し、やることと言えば、時間が来ると試験管をあっちからこっちのバス移動させるだけの作業を延々と繰り返すだけなのです。お疲れ様。

しかし当然2~3年もすれば自動的に移動させる装置が発売され(図8A)、さらに同じ試験管の液体を極めて短い時間で温度変化させる新機軸の開発もあって、やがて水槽は不要となり、極めて小型の装置で作業を行えるようになりました(図8B)。現在では生成したDNAをモニターできるような光学系を装備したリアルタイムPCR装置が主流となっています(図8C)。

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PCRが普及することによって、バイオテクノロジーの研究室や工場のみならず、科学捜査や感染微生物の同定など社会の様々な場面で、この技術が利用されるようになりました。本物のジュラシック・パークも開園できるかもしれません。

ひとつ気をつけなければならないのは、もとのサンプルに微量のDNAが混在していた場合、それも増幅されてしまうということです。生成物を電気泳動法などで解析すれば、何種類のDNAが生成されたかわかります。エラーで実験失敗程度なら笑えますが、科学捜査の失敗や、思わぬ病原遺伝子の増幅などということがおこればしゃれになりません。

参照

1)https://www.sat-co.info/boiler-engineer

2)http://www.zetadental.jp/category-1888-b0-%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%96.html?_ad=1&gclid=EAIaIQobChMIx5K-37OK1gIVywcqCh11wg9bEAAYASAAEgKsi_D_BwE

3)野島博著 「分子生物学の軌跡」 化学同人 (2007)

4)Ma Hongbao, Development Application of Polymerase Chain Reaction (PCR), The Journal of American Science vol. 1, no. 3, pp.1-47 (2005)

5)Randall K. Saiki, Stephen Scharf, Fred Faloona, Kary B. Mullis, Glenn T. Horn, Henry A. Erlich, Norman Arnheim. "Enzymatic Amplification of β-globin Genomic Sequences and Restriction Site Analysis for Diagnosis of Sickle Cell Anemia" Science vol. 230 pp. 1350-1354 (1985).
http://www.sciencemag.org/site/feature/data/genomes/230-4732-1350.pdf

6)SJ Scharf, GT Horn, HA Erlich "Direct Cloning and Sequence Analysis of Enzymatically Amplified Genomic Sequences" Science vol. 233, pp.1076-1078 (1986).

7)Mullis KB and Faloona FA  "Specific Synthesis of DNA in vitro via a Polymerase-Catalyzed Chain Reaction."  Methods in Enzymology vol. 155(F) pp. 335-350 (1987).

8)http://morph.way-nifty.com/lecture/2016/09/post-1be1.html

9)Brock, Thomas D.; Hudson Freeze (August 1969). "Thermus aquaticus gen. n. and sp. n., a nonsporulating extreme thermophile". Journal of Bacteriology. American Society for Microbiology. 98 (1): 289–297. PMC 249935 Freely accessible. PMID 5781580.

10)A Chien, D B Edgar, and J M Trela., Deoxyribonucleic acid polymerase from the extreme thermophile Thermus aquaticus. J Bacteriol. 1976 Sep; 127(3): 1550–1557.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC232952/

11)RK Saiki, DH Gelfand, S Stoffel, SJ Scharf, R Higuchi, GT Horn, KB Mullis, HA Erlich.,  Primer-directed enzymatic amplification of DNA with a thermostable DNA polymerase.,  Science  29 Jan 1988: Vol. 239, Issue 4839, pp. 487-491DOI: 10.1126/science.2448875

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2017年9月 7日 (木)

大学ランキングで日本の大学は低迷

A0001_001832恒例の大学ランキングが発表されました。

The World University Rankings 2018
(Times Higher Education こちら)

私は前から日本が生きる道は、「移民」と「科学技術のイノベーション」しかないと言ってきましたが、どちらも進展していません。

日本の大学でランキング100位内にはいっているのは東大と京大だけで、完全に中国に抜き去られました。このまま安倍政権が続くと、日本の大学は窒息し、さらなる沈没は避けられません。これが大学法人化をはじめとする「政権と文部科学省」がすすめてきた政策の結果です。

=====
27位 北京大学
31位 清華大学
44位 香港科技大学
46位 東京大学
58位 香港中文大学
74位 京都大学
=====

参考

1.佐和隆光(滋賀大学学長)国立大学法人化の功罪を問う 
http://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/mag/pdf/j44d01.pdf

2.国立大学がいま大変なことになっている
http://tanshin.cocolog-nifty.com/tanshin/2014/05/index.html
http://tanshin.cocolog-nifty.com/tanshin/2014/10/post-db3f.html

3.全国の国立大学をこのまま国(文科省)の奴隷にしていいのか!
http://tanshin.cocolog-nifty.com/tanshin/2016/01/post-2122.html

Notes:

#経産省が推進した産業政策が失敗し、主要産業が中国・韓国・台湾に吸い取られてしまった。おまけに原発が耐えがたい重荷になってしまった。

#外務省は国境問題を何一つ解決できず、拉致問題も解決できない。米国にべったりくっつく以外にやることがない。

#財務省はアベノミクスのいかさま政策をやるしか能がない。国民の資産は企業にどんどん吸い取られている。

#文部科学省は大学の国家支配を進めて、大学を無力化している。

いいかげんにしてほしい。


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2017年9月 6日 (水)

北朝鮮の核兵器

1北朝鮮の核兵器がダメというなら、インド・パキスタン・イスラエルも含めてすべての核保有国は核兵器を廃棄すべきでしょう。

核兵器禁止条約に参加している国は120カ国以上ありますが(図の青で彩色されている国)、日本は参加していませんし、NATO加盟国も参加していません。

核兵器を廃止する方策はひとつだけあります。それは核兵器に反対する国家が非核コンソーシアムを結成して、核保有国と貿易を行なわないと宣言することです。

日本やNATO加盟国も当然コンソーシアムに参加すべきです。そうすれば核保有国は相当追い詰められるでしょう。おそらく英仏はその宣言が発せられる前に核兵器を廃棄するのではないでしょうか。

右翼的発想というのは、敵より強力な軍事力を持つという考え方が中心になっています。しかしそうなったら、敵は当然こちらより強力な軍事力をめざし、行き着くところはどこまでいっても終わらない核軍拡競争になることはサルでもわかるわけで、それをやろうとする人々は人類の敵であり、あらゆる地球上の生物の敵です。

核兵器禁止条約全文(日本語訳)

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2017-07-09/2017070905_01_0.html

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インクカートリッジ

プリンターのインクはすぐなくなるので、苦労するところです。

私のプリンターはキャノンMP980ですが、さまざまなメーカーのカートリッジを使ってきました。もちろん純正品が印刷の出来映えはベストですが、サードパーティーのものも「まあ使えるな」と言うものはあります。

たとえばトナーキングダムの製品 こちら

Imga

欠点は少しにじみが感じられるところですが、内々の業務連絡や個人の保管用としては問題ないと思います。何しろグレイまではいった6色セットで¥1,180というのは魅力です。これより安い製品もありますが、なんらかのトラブルが出る可能性が大きいと思います。

このToner Kingdom の製品の場合プリンターが止まったり、インク切れが表示されなかったことは今のところありません。

トナーキングダムはその名前のように、レーザープリンターのトナーが主力製品のようです。このインクは中国で製造しているようですが、そこそこ使えます。

他のユーザーの感想:

https://toaruhetare.net/3750

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2017年9月 2日 (土)

やぶにらみ生物論85: ベクター

ベクターというのはラテン語で運搬者という意味だそうです。分子生物学では主に遺伝子の運搬者という意味で使います。

これまでの話で明らかなように、制限酵素で切断したDNAは断点の周辺に相補的な構造ができるので、別々のソースから得た2本鎖DNAを同じ制限酵素で切った場合に、別々のDNAであっても自在に接続できることがわかりました。ここですぐに思いつくのは遺伝子を細胞に導入したいということです。それによって人工的な「進化」が可能になります。ところがDNAは簡単には細胞に入り込めません。これは当たり前で、DNAがどんどん細胞に入ってくれば代謝のバランスが崩壊して生命を維持することができなくなると思われますし、例え崩壊しなくても種という概念が成立せず、生物のあり方が地球上の生物とは全く異なることになるからです。

ひとつの遺伝子を細胞に導入するということは、未知遺伝子の機能をさぐるのはもちろん、「ある遺伝子を欠損した細胞に、もとのあるべき遺伝子を導入すると失われた機能が回復する」ということがわかれば、その遺伝子の機能を確認できるという目的も果たせますし、生物に新しい機能を付加するとか、細菌に有用なタンパク質を合成させるとか、遺伝子治療を行なうとかの野心的な目標も当然めざしたいわけです。

そこでスタンレー・コーエン、ポール・バーグ、ハーバート・ボイヤーらが目を付けたのがプラスミドというDNAです(図1)。これは生物が本来持っているゲノム以外に、独立に増殖する機能を持って住み着いているDNAで、原核生物には一般的に存在するものですが、酵母にも存在することが知られています。プラスミドは宿を借りているといっても、寄生虫のようなわるさはしませんし、むしろホストにとって有用な役割を果たしています。ですからホストによってメチル化されて保護されており、ファージのように分解されることがありません。この意味では真核生物における共生に近い関係だと思われます。

A_12


例えばコリシンというプラスミドはホストには無害で他の細菌を殺す物質の遺伝子ですし、R因子プラスミドは薬剤抵抗性をホストに付与します。F因子プラスミドは線毛を作り出す遺伝子を持っており、線毛でF因子をもたない細菌をひきよせて接合状態をつくり、複製したF因子や他のプラスミドを送り込むことができます(図1)。

接合は線毛が作られなくてもおこり、R因子なども複数の方法で他の細胞に送り込むことができます。F因子が細菌本来のゲノムに組み込まれると、ゲノム自体が他の細胞に送り込まれることもあるので、これが細菌の有性生殖だとも言えますが、これは性をどのように定義するかによって考え方が変わります(1)。

ベクターに送り込みたい遺伝子を含むDNAを、その遺伝子の両側で制限酵素 EcoRI を使って切断すると、図2のように AATT---TTAA フラグメントができます。同じ酵素でベクターとして用いるプラスミドを切断して---TTAA  AATT---という断端を作成すれば、そこにアニーリングによってフラグメントを挿入することができます。

アニーリングというのは、もともと二重鎖を構成していたDNAが100°Cで変性して一重鎖になったとしても、60°Cくらいの温度を保つことによって、相補的な配列が水素結合をつくってもとの二重鎖にもどるという現象です。相補的付着末端一本鎖を持つ二本鎖DNA同士も、条件を最適化すれば同じメカニズムで付着末端同士で結合して、結果的に環状DNAをつくり、最後にDNAリガーゼで3’OHと5’Pをつないであげると、切れ目のない新しい環状二重鎖DNAを形成することができます(図2)。

この方法で、遺伝子をプラスミドに組み込むことができます。プラスミドは独自に複製を行うための複製開始領域を持っていますが、それ以外に抗生物質耐性のゲノムを持たせておきます。こうするとプラスミドを増やしたときにその抗生物質の存在下で細菌を培養すると、抗生物質耐性の遺伝子を持つプラスミドを取り込んだ細菌だけが抗生物質の影響を受けずに増殖するので、プラスミドを取り込んだ細菌を見つけやすくなります。図2ではテトラサイクリン耐性のプラスミドが用いられています。

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初期の組み換え実験に頻繁に用いられたベクターは、図3のようなものです。pBR322と名付けられましたが、pはプラスミド、BRは写真のボイヤーの研究室で働いていたポストドクの Bolivar と Rodriguez の頭文字をとったものです。さまざまな制限酵素でそれぞれ1ヶ所で切断されるように設計されています。抗生物質耐性領域に断点があると、そこが切断された場合耐性が失われるので、2ヶ所に抗生物質耐性領域があります。図3の場合アンピシリン(amp)とテトラサイクリン(tet)に耐性の領域左右にがあります。Eco RI またはNde I を用いた場合には、断点がこれらの領域の外なので、両方の抗生物質耐性領域が生きていることになります。

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遺伝子操作においては、しばしばDNAリガーゼという言葉が登場します。この酵素についてはこのブログでも何度か取り上げていますが(4、5)、基本的に図4Aの様に付着末端どうしがくっついた状態で、最終的に3’OHと5’Pを結合させて断点のないDNAを完成させる役割をもっています。図4Bのような平滑末端同士を結合させるのは苦手です。ところがヴィットリオ・スガラメッラ(6、図4)らは、T4ファージのDNAリガーゼはある条件で平滑末端を結合させることを発見したのです(7、図4B)。

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細胞内では、しばしばDNAの損傷や修復、ウィルスによるDNA合成などに伴って、不要なDNA断片が発生します。これらはすみやかにDNA分解酵素で分解してしまわなければいけません。このような浮遊するジャンクDNAを、非特異的に結合して巨大DNAにしてしまうような酵素はあってはならないものです。実際に細菌や真核生物はこのような酵素を保持しませんが、ファージの中になぜかこのような酵素を持つ者がいたわけです。平滑末端同士を結合できる酵素がみつかったことは、遺伝子組み換えの作業には福音でした。

例えば図5のように Eco RI による切断部位を1ヶ所持つ短い鎖長のリンカーDNA(青灰色)を作成しておき、この断片を研究したいDNA(黄緑色)の両端にT4リガーゼで接続して、その後 Eco RI で切断し、同様に Eco RI で切断したベクターとくっつけると組み換えDNAが完成します(図5)。こうして作成された環状組み換えDNAは、基本的にプラスミドと同じなので、大腸菌に挿入して大腸菌を培養すると、自然にベクターも倍々ゲームで増殖し、したがって目的のDNAを爆発的に増やすことができます。

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もうひとつ、奇妙な酵素について言及しなければなりません。それはターミナルヌクレオチジルトランスフェラーゼ(terminal deoxynucleotidyl transferase)という酵素で、名前が長いのでよく TdT という略称が使われます。この酵素は鋳型(テンプレート)非依存的にDNAを3’OHから延長するというユニークな機能を持っています。図6に示したように、1本鎖または2本鎖でも3’OHが突出したDNAを延長するのが得意ですが、平滑末端を持つ2本鎖の末端3’OHからの延長も可能です。5’Pが突出した2本鎖DNAの3’OHから延長するのは得意ではありませんが、不可能ではないようです。

この酵素はAGCTをランダムに付加していくので、DNAを合成することはできても複製することはできません。しかし実験室では基質としてdATPだけを与えることもできるので、こうするとTdTはAAAAAnのように、DNAの末端にホモポリマーを付加していくような形での反応を行わせることができます(図6)。そもそもなぜこんな奇妙な酵素が存在するのかということですが、哺乳類では抗体やT細胞抗原受容体の多様性を確保するために重要な役割を果たしているようです(8)。本来役に立たないはずの、障害を持った酵素が思わぬ用途で使われる・・・・・まさしく進化は「ケガの功名」を積み上げたものであることを教えてくれる酵素です。

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ポリAとポリTなど相補的ホモポリマーの親和性は高いので、これを利用して図7のように組み換えDNAをつくることができます。両端が平滑のDNAにまずポリAを結合させ、ベクターにはポリTを結合させてアニールすると、組み換えDNAが作成できます。ただAおよびTの数は同じにできないので、あとで調整が必要になります。予め塩基数が決まったホモポリマーを用意して、T4リガーゼで結合しても同様な実験ができます。制限酵素による切断部位からポリAとポリTを延ばすようにすれば、あとで制限酵素によって目的部位を切り出すこともできます。

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ここまで述べてきた組み換えDNA作成技術の前提となる大腸菌にファージやプラスミドを導入する技術は、1970年にハワイ大学のモートン・マンデルと比嘉昭子によって開発されました。彼らは制限能(免疫能)のない大腸菌を、低温下で塩化カルシウム処理すると、外界のDNA断片を菌体内に取り込ませることができることを証明しました(9、10、図8)。

外界DNAを取り込めるようになった細胞をコンピテントセルといいます。コンピテントセルに組み換え型プラスミドを取り込ませ培養すれば増殖させることができます。取り込まなかった細胞を排除するには、たとえばアンピシリン耐性の遺伝子を持つプラスミドを取り込ませた場合、アンピシリンを培地に入れるとプラスミドを取り込まなかった細胞は死滅するので、取り込んだ細胞を選択することができます。

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モートン・マンデルと比嘉昭子の写真は、ウェブサイトを探しましたが残念ながらみつかりませんでした。彼らが先鞭を付けたトランスフェクション(遺伝子導入)の技術は現在にもひきつがれ、さらに哺乳動物細胞や個体への遺伝子導入の方法が盛んに研究されています。

プラスミドを使わずバクテリオファージやウィルスを用いた遺伝子導入の手法があります(11)。ラムダファージが最も有名です。ラムダファージのDNAはファージの殻の中では線状なのですが、両端にCOSという相補的な部位があり、大腸菌に感染すると環状化します(図9)。このDNAをベクター(コスミドベクター)として使いやすいように改変して使用します。

プラスミドと比べてファージ(ウィルス)ペクターの欠点は、ファージ(ウィルス)の殻の中は狭いので、長いDNAを組み込むとはいりきらなくなることです。このため増殖に必要がないファージの遺伝子の一部を切り取って短いベクターをつくり、ある程度長めの遺伝子でも組み込めるようにしてあります(図9)。ファージ(ウィルス)ベクターの利点は、トランスフェクションで苦労しなくても自動的にホストの細胞に侵入してくれることです。

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哺乳動物細胞への遺伝子導入については、未知遺伝子なら導入した遺伝子を発現させて機能を研究する、遺伝子発現を制御する機構について研究する、実験動物に変異遺伝子を発現させて遺伝病を発症させる、遺伝病の動物に正常遺伝子などを移入して治療するなどの研究が行われています。

遺伝子導入の方法はいろいろあって、タカラバイオのサイトから図10にコピペしておきます(12)。いろいろあるといっても、それは試験管の中での実験についての話であって、患者の遺伝子治療に使えそうなのは今のところウィルスベクターを使う方法しかありません。

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ウィルスの場合、ウィルスの中に目的の遺伝子を入れさえすれば感染によって自動的に細胞にはいるので、遺伝子移入は容易なのですが、問題は安全性です。ウィルスもどきが体内で増殖したり、炎症を引き起こしたり、遺伝子発現に影響を与えて病気になるのではお話になりません。

実際1990年代にはすぐにでも臨床に使えるような雰囲気でしたが、どうなったかというと、1999年にペンシルベニア大学で治療中の患者で、注入したアデノウィルスベクターによって全身性の炎症反応がおきて、患者が死亡するという事故が発生し(ゲルジンジャー事件)、さらに2002年にはフランスで2名の患者が白血病を発症するなどの問題がおきて(13)、一気に研究は停滞しました。フランスの事故の場合、レトロウィルスベクターが癌遺伝子の上流に導入されたために、癌遺伝子が活性化して発病したようです(14)。医師・研究者が前のめりになりすぎた結果だと思います。

とはいえ、最近再び遺伝子治療(疾病の治療を目的として遺伝子または遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること)の機運が盛り上がっており、2018年には遺伝子治療薬がはじめて認可されるようです(15)。まあ過大な期待はしないで見守りましょう(16)。

参考

1)プラスミドってなに? 
http://www.seibutsushi.net/blog/2008/07/513.html

2)Bolivar F, Rodriguez RL, Betlach MC, Boyer HW (1977). "Construction and characterization of new cloning vehicles. I. Ampicillin-resistant derivatives of the plasmid pMB9". Gene. 2 (2): 75–93. PMID 344136. doi:10.1016/0378-1119(77)90074-9.

3)Bolivar F, Rodriguez RL, Greene PJ, Betlach MC, Heyneker HL, Boyer HW, Crosa JH, Falkow S (1977). "Construction and characterization of new cloning vehicles. II. A multipurpose cloning system". Gene. 2 (2): 95–113. PMID 344137. doi:10.1016/0378-1119(77)90000-2.

4)ワイス博士の不遇 
http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=17207703&blog_id=203765

5)岡崎フラグメント
http://app.cocolog-nifty.com/t/app/weblog/post?__mode=edit_entry&id=86368774&blog_id=203765

6)Vittorio Sgaramella
http://www.scienzainrete.it/documenti/autori/vittorio-sgaramella

7)Sgaramella V, Van de Sande JH, Khorana HG., Studies on polynucleotides, C. A novel joining reaction catalyzed by the T4-polynucleotide ligase. Proc Natl Acad Sci U S A. 1970 Nov;67(3):1468-75. (1970)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/5274471

8)Edward A. Motea and Anthony J. Berdis, Terminal Deoxynucleotidyl Transferase: The Story of a Misguided DNA Polymerase.,  Biochim Biophys Acta. vol.1804(5):  pp. 1151–1166. (2010)  doi:  10.1016/j.bbapap.2009.06.030
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2846215/

9)Mandel, M. and Higa, A. (1970). “Calcium-dependent bacteriophage DNA infection”. Journal of Molecular Biology 53 (1): 159-162. PMID 4922220.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0022283670900513

10)Akiko Higa,  Morton Mandel, Factors Influencing Competence of Escherichia coli for Lambda-Phage Deoxyribonucleic Acid Infection., Japanese Journal of Microbiology, Vol. 16, No. 4,  pp. 251-257 (1972)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mandi1957/16/4/16_4_251/_article/-char/ja/

11)R. W. オールド、S.B. プリムローズ著 「遺伝子操作の原理」第5版 倍風館 (2000)

12)タカラバイオ 遺伝子導入実験ハンドブック
http://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/transgenesis_experiment.pdf

13)小澤敬也 遺伝子治療テクノロジーの開発とその応用 ウィルス vol.54, no.1, pp. 49-57 (2004)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/54/1/54_1_49/_pdf

14)島田隆 日本の遺伝子治療の課題 (2013)
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=146735&name=2r98520000033pt6.pdf

15)市場調査レポート 2017年版 遺伝子治療薬の将来展望 Seed Planning
http://store.seedplanning.co.jp/item/9516.html

16)CAR-T療法 リンパ球バンク株式会社 (2016)
https://www.lymphocyte-bank.co.jp/blog/medicine/%EF%BD%83%EF%BD%81%EF%BD%92%EF%BC%8D%EF%BD%94%E7%99%82%E6%B3%95/

 

 

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