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2017年8月 5日 (土)

やぶにらみ生物論82: 染色体3

減数分裂がおこるときには、体細胞分裂ではおこらない不思議な染色体の行動が観察されます。それは相同染色体を探してペアを形成することです。それぞれの染色体は2nですから、このペアは4nの遺伝情報を持っていることになります(図1)。このペアリングのことを日本語では相同染色体対合、英語では homologous chromosome pairing といいます。

この後2回の細胞分裂が起こって、4個の細胞(遺伝情報はそれぞれn)が生まれ、精子あるいは卵子となります。図1はこの1回目の細胞分裂と、通常の体細胞分裂を比較して示したものです。減数分裂の最初のステップで、染色体はどうやって相同染色体を探してペアリング(対合)するのでしょうか? 私はこの現象に関連する研究はやったことがありませんが、このことは学生時代からとても不思議で、いつも頭の片隅にひっかかっていました。

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ペアリングがおこると染色分体同士がキアズマを形成して一部の遺伝情報を交換し、いわゆる染色体の組み換えを行うことが容易になるという利点があります(1、図2)。ただこのためだけにペアリングが行われるのかどうかはわかりません。その後の減数分裂の進行に必要なのかもしれません。

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減数分裂時の相同染色体ペアリングは、マウス・ショウジョウバエ・酵母・シロイヌナズナ・小麦・コメ・たまねぎなどさまざまな生物で確認されています(3)。不可解なのは、相同染色体のペアリングの前に非特異的な染色体のペアリングがみられることです。Obeso らはこれをペアリングと呼ぶのはおかしいということで、カップリングと呼んでいます(3)。カップリングの意味は全くわかっていません。

Obeso らはカップリングからペアリングへの切り替えは、セントロメア近辺でおこるプログラムされたDNA損傷修復が引き金となっておこると述べています(3)。このことはカップルとなっている染色体を切り離すと言う意味があるかもしれません。しかしペアリングそのもののプロセスや染色体ペアの安定化はDNA損傷修復とは関係がないというのがコンセンサスになっています(4-5)。

現在問題となっているのは、ペアリングがセントロメア主導なのか、短腕・長腕での相互作用が機能しているのかという非常にプリミティヴなことで、まだまだ解決にはほど遠い感じがします。ただZip1というタンパク質が関係していると言うことは昔から言われています(6、7)。Zip1を欠く突然変異体では、ペアリングは成功しません(8、9)。Obeso らのモデルを図3に示しますが、これが正しいかどうかはわかりませんし、これはあくまでもペアリングした結果であって、どのような機構で染色体が正しいペアリングの相手をみつけたかはわかりません。

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染色体というセクションの中で、もうひとつ述べておかなければならないことがあります。細菌や古細菌のDNAは環状であるのに対して、真核生物のDNA(クロマチン)は線状です。おそらく古細菌の中に線状のDNAを持つグループがいて、そのなかから真核生物が生まれたのではないでしょうか。現在ではその真核生物のルーツとおぼしきグループは絶滅したために、古細菌と真核生物のつながりがたどれなくなったと思われます。

線状DNAのメリットあるいはアドバンテージが何であるかということはよくわかりません。ただ原核生物にも真核生物にも線状のプラスミドを持つ生物がいることが知られています(10)。おそらく最初に線状化したのはプラスミドで、そのメカニズムを利用して、本家のDNAを線状化することに成功したのでしょう。線状DNAは環状DNAと違って、積み木のパーツとして使うことができるというメリットがあるかもしれません。例えば(本家DNA)-(プラスミド)-(別個体のDNA)という風につなげば、2n分のDNAを1分子としてまとめることができます。

メリットはともかくとして、線状DNAには大きなデメリットがあります。それは複製したDNAが短くなってしまうからです。どうしてそんなバカなことになるのでしょうか? それはやはり生物が歴史の産物だからです。何億年もDNAはプライマーRNAの3’OHを起点として複製されてきたので(11)、図4のように複製された新DNAの端にあるRNAプライマー(赤の点線)を除去したときに、線状DNAだと5’Pが露出するDNA末端をどうしようもないのです。地球上のどんなDNAポリメラーゼも5’P側からDNA鎖を延長することはできません。もしこれが環状DNAならば、ぐるっと一周した反対側に3’OHがあるので、そこからDNAを伸ばして連結できるのですが、線状だと何もないのでプライマーRNAの分だけDNA鎖が短くなってしまいます。

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それともうひとつの問題は、DNAに端が存在するとそこから核酸分解酵素(エクソヌクレアーゼ)にDNAがかじられて、さらに鎖長が短くなってしまうおそれがあるということです。メッセンジャーRNAのように一時的にしか存在しない核酸分子でも、端はキャップとポリAでブロックされています。

この問題に最初に言及したのはハーマン・マラー(12)でした。マラーはX線によって生物に突然変異が発生することを発見し、それによって1946年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。マラーはテロメアという言葉を発明し、染色体の逆位の研究などから染色体の末端が特別な構造になっていると予測しました。また動く遺伝子で後にノーベル賞を受賞したバーバラ・マクリントックも、染色体の端にはなんらかの先端キャップのような構造があることを指摘しました(13)。

しかしテロメアの構造と合成酵素が解明されたのは1970年代後半からで、エリザベス・ブラックバーン、キャロライン(キャロル)・グライダー、ジャック・ショスタクの3人が、この功績で2009年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。彼らは鋳型RNAをかかえこんでいる酵素テロメラーゼによって、その鋳型を使用して線状DNAの末端に特殊な繰り返し構造が作られることを解明しました(14、15、図5)。

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なおテロメアの塩基配列は生物によって異なっています(図6)。初期はテトラヒメナ(繊毛虫)を用いた研究が多かったので、図5ではTTGGGGという塩基配列が採用されています。かなり異なる塩基配列を用いている生物もいますが、ヒト・アカパンカビ(Neurospora crassa)・モジホコリ(Physarum polycephalum)・トリパノソーマで共通(TTAGGG)、昆虫(TTAGG)や植物の一部(TTTAGGG)とも1塩基違いというのは、強く保存された塩基配列と言えます。

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テロメア形成の方法は図5では簡単すぎるので、別に図7(ウィキペディアより、16)を示して説明します。

1.複製終了後のDNA末端は5’末端のプライマーRNAが分解されて、その後を埋められず片鎖が短い状態です。
2.DNA末端にはテロメアに特異的な塩基配列があり、テロメラーゼは保有するRNAの相補的配列を利用してテロメアの末端に結合します。
3.テロメラーゼはテロメアDNA末端の3’OHと、自分が保有する鋳型RNAを使って、RNA-directed DNA polymerase 活性でテロメアを延長することができます。
4.2と3を繰り返すことによって、どんどんテロメアを延長します。したがってテロメアの塩基配列は同じ塩基配列がリピートした構造になります。
5.2~4の反応とは別に、テロメラーゼが保有するRNAの3’OH末端から、ギャップを埋め戻す反応をDNAポリメラーゼ(これはテロメラーゼではなく、DNA-directed DNA polymerase) を用いて行うことができます。この場合テロメラーゼのRNAはプライマーとして用いられます。

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おそらく最初にDNA末端と結合したテロメラーゼはテロメアを自分保有の鋳型分延長すると、鋳型だけ残してDNAから離れるのではないでしょうか。このときに逆方向のDNA埋め戻しが行われ、鋳型RNAが分解されてから再びテロメラーゼが結合すると考えると説明しやすく感じます。

いずれにしても、このようにテロメラーゼがテロメアに結合することによって、テロメアの延長と短くなったDNAの修復が同時にできるので、これは素晴らしいメカニズムです。古細菌から真核生物に進化する過程で獲得された、このエンジニアが設計図を描いて制作したような巧妙な仕掛けに、私は茫然とするしかありません。

テロメアはテロメラーゼの活性が強いか弱いかなどの影響で、長い細胞と短い細胞があります。生物種によっても違います。一般的に通常の体細胞は培養していると、50~70回細胞分裂を繰り返すと、分裂を停止します。図8(ウィキペディアより)には分裂回数が省略して書いてありますが(実際には50~70回)、テロメラーゼの活性が無いか低くてテロメアが短くなってくると、安全装置のようなものが働いて細胞分裂が停止すると考えられています。一方生殖細胞・がん細胞などではテロメラーゼ活性が強く、細胞分裂を行ってもテロメアは短縮されにくいようです。

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明らかにテロメアは細胞の寿命に関係していますが、テロメアを延長さえすれば細胞寿命が長くなると考えるのは早計です。実験用のマウスはヒトの数倍の長いテロメアを持っている上に、体細胞にもテロメラーゼの発現があることが知られています。しかしマウスの体細胞を培養すると、ヒトより早く分裂を停止しますし、そのときのテロメアは長いままです。だいたいマウスの寿命はヒトより30倍も短いので、テロメアが長ければ長生きできるというわけではありません。しかしテロメラーゼを欠損するマウスを作成すると、寿命が短縮されるというのもまた事実です。そしてこのようなマウスでテロメアを復活させると、若返りが実現します(17)。

しかし生きるために必要な遺伝子の変異や欠損は寿命の短縮を招く可能性があるわけで、テロメラーゼの変異だけが寿命を短縮させるわけではありません。さらにテロメアの短縮以外にも老化の理由は存在するということで、それらを解明しない限り不老不死は実現できません。たとえばDNAの修復に欠陥があれば、老化は進むでしょう。

ただテロメラーゼを活性化すれば、肌の若返りくらいは可能かもしれません。ビル・アンドリュースなど大まじめに取り組んでいる人々もいます(18)。このクリームを塗ったら皮膚癌が増えたなんてことにならないよう祈りたいです。アマゾンで売っているかどうか調べたらありました。50gのビンが194400円です。

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参照

1)Bruce Alberts et al., Essential Cell Biology 4th edn., pp.645-657, Garland Science (2014)

2)染色体とその組み換え 遺伝子博物館
https://www.nig.ac.jp/museum/history/06_d.html

3)David Obeso, Roberto J Pezza, and Dean Dawson, Couples, Pairs, and Clusters: Mechanisms and Implications of Centromere Associations in Meiosis., Chromosoma., vol.123, pp.43-55. (2014) doi:10.1007/s00412-013-0439-4.

4)Clarke L, Carbon J. Genomic substitutions of centromeres in Saccharomyces cerevisiae. Nature, vol.305, pp.23-28.(1983)

5)Bisig C.G.et al., Synaptonemal complex components persist at centromeres and are required for homologous centromere pairing in mouse spermatocytes. PLoS genetics. Published: June 28, 2012
http://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1002701

6)Sym M, Roeder GS. Zip1-induced changes in synaptonemal complex structure and polycomplexassembly. J Cell Biol., vol.128, pp.455-466.(1995) PMID: 7860625

7)Xiangyu Chen et al., Phosphorylation of the Synaptonemal Complex Protein Zip1 Regulates the Crossover/Noncrossover Decision during Yeast Meiosis. PLoS Biol 13(12): e1002329. doi:10.1371/journal.pbio.1002329

8)Gladstone MN, Obeso D, Chuong H, Dawson DS. The synaptonemal complex protein Zip1 promotes bi-orientation of centromeres at meiosis I. PLoS genetics. 2009; 5:e1000771.

9)Newnham L, Jordan P, Rockmill B, Roeder GS, Hoffmann E. The synaptonemal complex protein Zip1, promotes the segregation of nonexchange chromosomes at meiosis I. Proc Natl Acad Sci USA., vol.107, pp.781-785. (2010)

10)郡家徳郎, 徳永正雄 酵母線状DNAプラスミドとキラーシステム ウイルスとの接点 化学と生物 vol. 41, pp. 832-841 (2003)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/41/12/41_12_832/_pdf

11)http://morph.way-nifty.com/grey/2016/11/post-7f79.html

12)Muller, H.J. The remaking of chromosomes. Collect. Net, vol. 13, pp. 181–195. (1938)

13)McClintock, B. The Association of Mutants with Homozygous Deficiencies in Zea Mays. Genetics, vol. 26, pp. 542–571. (1941)

14)http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2009/press.html or http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2009/bild_press_eng.pdf

15)中山潤一 解説 2009年ノーベル賞を読み解く 生理学医学賞 細胞のがん化・老化にかかわるテロメアとは? 
http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~jnakayam/_src/sc734/pubj12.pdf

16)https://en.wikipedia.org/wiki/Telomerase

17)Mariela Jaskelioff et al., Telomerase reactivation reverses tissue degeneration in aged telomerase deficient mice., Nature, vol. 469(7328): pp. 102–106 (2011)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3057569/
http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2011/20110725_02.html

18)http://テロメア.com/

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