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2017年7月28日 (金)

やぶにらみ生物論81: 染色体2

一般的に真核生物のDNAは核内においてタンパク質との複合体である「クロマチン(Chromatin)」の状態で存在します。その構成単位はヌクレオソーム(Nucleosome)と呼ばれ、4種類のヒストン(Histone)、すなわちヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4それぞれ2つずつのタンパク質分子から成る8量体のコア・ヒストンに、DNA が巻きついた構造を取ります。ヒストンH1はコア・ヒストンには含まれず、リンカー・ヒストンと呼ばれ、ヌクレオソーム内のDNAを安定化する役割があります。

細胞が分裂するM期においては、クロマチンは極端に凝縮した染色体という構造をとります(図1A)。このような状態では転写やDNA複製のための複合体はDNAにアクセスできないため、DNAの情報の読み取りという観点から言えば、染色体は極めて不活性な状態にあります。一方未分化な状態の細胞、たとえば卵割期の細胞や幹細胞などでは、様々なDNAの情報が読み取り可能で、ヌクレオソームとヌクレオソームの間に広い間隙が存在します(図1C)。

そして最も一般的な核の状態は、図1Bのように一部はヘテロクロマチンを形成して核膜の裏側に結合して不活性な状態にあり、一部は核内で流動的な状態で、図1Cと同様ヌクレオソーム間に広い間隙が存在するユークロマチンとなっている状況です。この状態では一部のクロマチンでのみ転写が可能になっています。分化というのは特定の遺伝子しか転写されないというのとほぼ同義なので、図1Bの状態は合理的です。分化した細胞は通常細胞分裂しないか、しても長い間隔をおいて分裂するという状態なので、DNAの複製についてはあまり考慮する必要はありません。どのようなメカニズムでヘテロクロマチンが核膜の内側に結合するかは現在活発に研究が行われています(1)。

A

ヌクレオソームを構成する4種のヒストンは、そのポリペプチド鎖がC末からN末まできっちりヌクレオソーム内に収納されているわけではなく、一部は「しっぽ」のようにヌクレオソーム外にはみ出しています(図2)。ヌクレオソームはポリペプチド鎖が折りたたまれた上に、まわりにDNAが巻き付いているので、アミノ酸を修飾する酵素が非常にアクセスしにくい状態であるのに比べ、ヌクレオソーム外にはみ出している部分は修飾酵素が容易にアプローチできそうです。実際図2に示すような、様々な修飾が行われていることがわかっています。

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このヒストンの「しっぽ」がどのように修飾されるかによって、クロマチンの存在状態、DNA複製のタイミング、アクセスできる転写複合体などが選別されます。つまりDNAやクロマチンにアクセスしたいタンパク質群は、ヒストンの状況によって許可・却下が決まることから、そのヒストンの修飾状況を「ヒストンコード」と呼ぶことがあります(2)。提唱者の定義によると 「We propose that distinct histone modifications, on one or more tails, act sequentially or in combination to form a 'histone code' that is, read by other proteins to bring about distinct downstream events」 とのことです。

ではそれぞれの修飾について個別に見ていきましょう。まずメチル化ですが、メチル化されるアミノ酸残基はリジンとアルギニンで、それぞれ mono, di, tri と3種類の修飾が存在します(図3)。メチル基を供給するのはSアデノシルメチオニンで、転移酵素によってヒストンに転移します(図3)。ヒストンからメチル基をはずす酵素(ヒストンデメチラーゼ)も知られています(3)。ヒストンのメチル化はクロマチンの凝集や転写の活性化および不活性化を制御します。DNAの修復と複製の制御も行います(4)。また性決定にも関与しています(3)。X染色体の不活化の際には、DNAだけではなくヒストンH3がメチル化されていることが知られています(5)。

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アルギニンの脱イミノ化反応(シトルリン化)は尿素回路などでもおなじみですが、ヒストンのアルギニン残基の脱イミノ化は核移行シグナルを持つPAD4(Peptidylarginine deiminase 4)によって実行されます。この化学修飾はヒストンのメチル化と転写制御に関して拮抗的に働くことがあるようです(6、7)。またこの修飾が著しく進むと、クロマチンの脱凝縮が行われることが示唆されています(8)。自己免疫疾患が持つ患者の抗体が、脱イミノ化されたタンパク質を攻撃することが知られています(6、9)。

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ヒストンのアセチル化は、ヒストンの修飾のなかでもメジャーなものです。図2にみられるように、コアヒストン(H2A、H2B、H3、H4)のしっぽにはいずれも多くのリジン残基が存在しますが、ほとんどは側鎖のアセチル化(図5)が可能です。アセチル基を供給するのはアセチルCoAです(図5)。ヒストンアセチル化酵素(HAT)の作用によって、アセチル化が進行するとヒストンの塩基性が失われ、一般にDNAのリン酸との結合が弱くなってヒストンとDNAが解離し、転写が活性化されます。逆にヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の作用によって、ユークロマチンはヘテロクロマチンに移行し、転写は抑制されます(10、11、図5、図6)。

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ヒストンのリン酸化は、セリン・スレオニン・チロシン残基の側鎖OHがヒストンキナーゼでリン酸化されることによって行われます(図7)。ヒストンH3のN末から10番目のセリンのリン酸化がM期における染色体凝縮にかかわっていることが知られています(12、13)。またDNAがダメージを受けた際にヒストンH2Aなどのリン酸化がおこり、このことがDNA修復開始のシグナルになると言われています(13)。単純に考えるとヒストンのリン酸化はヒストンの塩基性を消滅させる方向の変化なので、ヒストンとDNAの結合を弱めるので、例えばDNAの修復システムがアクセスするには有効かもしれませんが、染色体凝縮にどのようにかかわっているかは謎です。

最近ではヒストンのリン酸化が転写の制御に関わっているとか、ヒストンアセチル化・メチル化などのカスケードの起点になっているとかの報告もあるようです(13)。またH2AのバリアントであるH2AXのリン酸化がアポトーシスに関与しているとの報告もあります(14)。

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最近注目されているヒストンの修飾反応にポリADPリボシル化があります。シャンボンらによって1966年に発見されましたが、その後京都大学の上田国寛のグループと国立がんセンターの三輪正直のグループを中心に、わが国において反応の全体像が明らかにされました(図8)。

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この反応はNAD+を基質としてタンパク質のグルタミン酸あるいはアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基に、NAD+からニコチン酸アミドを切り離してADP-リボースを結合し、さらに次々とADPリボースを添加してポリマーを形成するものです(15、図9)。ヒストンもその主要なターゲットになります(16、17)。反応はポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)によって行われますが、別に分解酵素も存在するので、他のヒストン修飾と同様結果的に反応は可逆です。

他の修飾と異なりマイナスチャージのADP-リボースがポリマーとして添加される上に、鎖のブランチングまでおきるので、その影響は桁違いに大きいはずで、緊急のDNA修復や遺伝子発現に大きな影響を及ぼすと考えられます(18)。

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このほかにもヒストンの修飾にはユビキチン化(19)などがありますが、その意義は不明なのでここまでにしておきます。

 

参照

1)Jennifer C Harr, Adriana Gonzalez-Sandoval, & Susan M Gasser, Histones and histone modifications in perinuclear chromatin anchoring: from yeast to man.
EMBO Reports, vol. 17, pp. 139–155,  (2016)   DOI 10.15252/embr.201541809
http://embor.embopress.org/content/early/2016/01/20/embr.201541809

2)Strahl BD1, Allis CD., The language of covalent histone modifications., Nature., vol. 403 (6765), pp. 41-45., (2000)
http://www.gs.washington.edu/academics/courses/braun/55105/readings/strahl.pdf

3)S Kuroki, S Matoba, M Akiyoshi, Y Matsumura, H Miyachi, et al., Epigenetic Regulation of Mouse Sex Determination by the Histone Demethylase Jmjd1a., Science vol. 341 (6150): pp. 1106-1109. doi:10.1126/science.1239864. (2013)

4)Black JC, Van Rechem C, Whetstine JR.,  Histone lysine methylation dynamics: establishment, regulation, and biological impact. Mol. Cell vol. 48(4), pp. 491–507. (2012)

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/X%E6%9F%93%E8%89%B2%E4%BD%93%E3%81%AE%E4%B8%8D%E6%B4%BB%E6%80%A7%E5%8C%96

6)有田恭平他 ヒストン修飾酵素 Peptidylarginine deiminase 4 (PAD4) の活性化とヒストン認識 PF NEWS vol. 42, no.2, pp. 16-22 (2006)

7)Wang Y. et al.,  Human PAD4 regulates histone arginine methylation levels via demethylimination. Science. vol. 306, pp. 279–283 (2004)

8)Yanming Wang et al., Histone hypercitrullination mediates chromatin decondensation and neutrophil extracellular trap formation.,  J Cell Biol., vol. 184(2): pp. 205–213. (2009)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2654299/

9)https://en.wikipedia.org/wiki/Citrullination

10)Tony Kouzarides, Chromatin modifications and their function., Cell. vol.128, pp. 693-705., (2007)
http://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(07)00184-5?_returnURL=http%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0092867407001845%3Fshowall%3Dtrue

11)Min-Hao Kuo, C. David Allis., Roles of histone acetyltransferases and deacetylases in gene regulation., BioEssays Vol. 20,  pp. 615–626 (1998)

12)中山潤一 ヒストン修飾酵素 http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~jnakayam/_src/sc744/pubj03.pdf#search=%27%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%BC%27

13)Dorine Rossetto, Nikita Avvakumov, Jacques Cote., Histone phosphorylation. A chromatin modification involved in diverse nuclear events. Epigenetics vol. 7, no.10, pp. 1098-1108 (2012)
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.4161/epi.21975

14)Peter J. Cook et al., Tyrosine dephosphorylation of H2AX modulates apoptosis and survival decisions., Nature vol. 458, pp. 591–596 (2009) | doi:10.1038/nature07849
http://www.nature.com/nature/journal/v458/n7238/abs/nature07849_ja.html?lang=ja&foxtrotcallback=true

15)https://en.wikipedia.org/wiki/Poly_(ADP-ribose)_polymerase

16)Morioka K., Tanaka K., Ono T., Poly(ADP-ribose) and differentiation of Friend leukemia cells.,  J. Biochem., vol. 88, pp. 517-524 (1980)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biochemistry1922/88/2/88_2_517/_pdf

17)Morioka K., Tanaka K., Ono T., Acceptors of poly(ADP-ribosylation) in differentiation inducer-treated and untreated Friend erythroleukemia cells., Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Gene Structure and Expression, Vol. 699, Issue 3, pp. 255-263 (1982)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0167478182901154

18)Rebecca Gupte, Ziying Liu, and W. Lee Kraus., PARPs and ADP-ribosylation: recentadvances linking molecular functionsto biological outcomes., GENES & DEVELOPMENT vol. 3, pp. 101–126 (2017)
http://genesdev.cshlp.org/content/31/2/101

19)伊藤敬 ヒストンH2A のユビキチン化と遺伝子転写抑制 生化学 第82巻第3号,pp.232-236,(2010)
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/10/82-03-08.pdf#search=%27%E3%83%92%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%83%A6%E3%83%93%E3%82%AD%E3%83%81%E3%83%B3%E5%8C%96%27

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