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2017年2月10日 (金)

やぶにらみ生物論60: タンパク質の基本2

アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を持っているので、酸性溶液中ではアミノ基がNH3+となって塩基、アルカリ性溶液中ではカルボキシル基がCOO- となって酸となります。

A

図1は酸性の溶液にアラニンを溶解し、アルカリ(OHー)を加えて滴定したときのpH変化を示したものです。まずpH2あたりで勾配がゆるやかになりますが、このあたりではアラニンは

+HN-CHCH-COOH → +HN-CHCH-COO- + H+

のようになるので、加えたOH-はH+に吸収され、pHの上昇がゆるやかになります。もう1ヶ所、pH10あたりで勾配がゆるやかになりますが、これはこのあたりで

+HN-CHCH-COO- → HN-CHCH-COO- + H+

となってもう1個プロトンが放出されるので、pH上昇がもう一度ゆるやかになります。このような緩衝作用を2ヶ所で発揮するのが、両性電解質の特徴です。アミノ酸によって緩衝作用を発揮するpH領域は異なるので、アミノ酸の混合液は広い範囲にわたって、環境の変化に対してpHを一定に保つ働きがあり、生物に福音をもたらします。

+HNとCOO-が拮抗して存在するpHを等電点といいます。アラニンの場合6.00です。

タンパク質は1分子中に通常多数のアミノ基とカルボキシル基を持っているので、当然アミノ酸と同じく両性電解質です。ペプチド鎖のN末とC末以外のアミノ酸の種類によって、タンパク質の緩衝領域や等電点は著しく変化します。この変化に寄与するのは主として酸性アミノ酸(グルタミン酸とアスパラギン酸)と塩基性アミノ酸(アルギニンとリジン)です(図2)。

A_2

この4種のアミノ酸が持つ側鎖の数によって、タンパク質の性質は大きく変わります。タンパク質の種類によって、例えば等電点には大きなバリエーションがあります(図3)。

A_3


例えばリゾチーム(ニワトリ卵白)という酵素のアミノ酸配列をみますと、塩基性アミノ酸の数が酸性アミノ酸の数を上回っており、このような場合タンパク質は塩基性となります(図4)。図3に示されるように、リゾチームの等電点は11を少し上回っています。

A_4


一方イヌのペプシンBのアミノ酸配列をみますと、酸性アミノ酸の数が塩基性アミノ酸の数を大きく上回っています。このような場合タンパク質は酸性となります(図5)。ペプシンの場合偏りが極端で、等電点が1となります。胃という特殊な環境で作用する酵素なので、特殊な構造をもっていると思われます。

A_5

生化学実験では等電点の違いを利用してタンパク質を分離精製するという作業がよく行われます。タンパク質の混合液に電流を流して、酸性タンパク質は+側に、塩基性タンパク質は-側に移動するのを利用するわけですが、実際には自然拡散や振動の影響を回避するため、タンパク質が移動できる程度のゆるいゲルを用います(図6)。

A_6

図6には両性電解質をゲルに溶かしておく場合を示していますが、ゲルを作成するときに予めpHの勾配を作ってあるのを購入して使うというのが簡便で、よく利用されます(1)。タンパク質は通常プラスかマイナスにチャージしているので、精製された分子同士は電荷の反発でくっつきにくいのですが、等電点周辺では分子としてはチャージがなくなるので接近しやすく、場合によっては沈殿が発生します。これは等電沈殿という現象で、等電点電気泳動を行う場合には注意しなければいけません。

等電点電気泳動法で分離した後、分子量の差を利用してさらに分離すると、少量とは言え、かなり純度の高いタンパク質が得られる場合が多いです(2、3)。もっと大量のタンパク質を精製する技術は、今でも生化学者の腕のみせどころで、非常に多くの方法が考案されています(4、5)。

タンパク質にはもうひとつ特徴的な性質があります。それはある条件で相転移を行うことで、典型的な例は熱変性です。図7のように生卵に熱を加えると、ある時点で不可逆的にゆで卵になります。これはαヘリックスやβシートというタンパク質の基本構造が、熱によって破壊されることが主な原因です。αヘリックスやβシートは弱い水素結合によって形成されているので、温度が上昇すると不安定になり、構造が破壊されてランダムに近い状態になってしまいます。これによって多数の分子がからまりあって集合し、不溶性のかたまりを形成します。ただしペプチド結合は破壊されないので、バラバラになることはありません(図7)。みずからバラバラにはなりませんが、タンパク質分解酵素で切断されやすい部分が露出して、分解されやすい状態にはなりやすいと思われます。

A_7

タンパク質には完成後に化学的修飾を受けて機能を発揮する分子も少なくありません。非常に色々な修飾が報告されていますが、ここでもいくつか紹介します。まずリン酸化について見てみますと、セリン・スレオニン・チロシンのOHがリン酸化されてOPO3-となります(図8)。リン酸化されているかいないかということが、あるシリーズの生体化学反応の起動スイッチになっている場合が多く、タンパク質のリン酸化は情報伝達のキーとなるイベントになっています。この分野のパイオニアはジョージ・バーネットとユージン・ケネディでしょう(6)。最近話題の抗がん剤オプジーボのターゲットであるPD-1もリン酸化されることによってスイッチを起動するタンパク質のひとつです(7、8)。

A_8

タンパク質のアセチル化も重要な化学修飾です。ヒストンの低アセチル化は転写が抑制されたヘテロクロマチン状態のマーカーとされています(9)。また癌抑制因子として最も有名なp53はアセチル化によって活性化あるいは安定化することも知られています(10-12)。すでに述べたシステインのSS結合や、糖の付加なども非常に重要な化学修飾であり(図9)、その他にも多数の化学修飾が知られています(13)。

A_9


参照:

1)http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/2d-electro/guide-3.html

2)http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/2d-electro/guide.html

3)https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9003/9003_yomoyama_2.pdf

4)http://www.jaist.ac.jp/~yokoyama/pdf/02_1analysis1.pdf

5)http://www.gelifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/technical_tips/

6)G. Burnett and E.P. Kennedy, The enzymatic phosphorylation of proteins, J. Biol. Chem. vol. 211, pp. 969–980 (1954) こちら

7)http://www.ft-patho.net/index.php?Programmed%20cell%20death%201

8)Joseph Schlessinger, Receptor Tyrosine Kinases: Legacy of the First Two Decades.  Cold Spring Harb Perspect Biol. vol. 6,  pp.1-13 (2014) doi: 10.1101/cshperspect.a008912.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3949355/pdf/cshperspect-RTK-a008912.pdf

9)https://www.cstj.co.jp/reference/pathway/Protein_Acetylation.php

10)http://www.cyclex.co.jp/resource/keyword/jkeyword_2.html

11)田中知明、転写因子p53の翻訳後修飾と転写活性化機構. 生化学第82巻第3号,pp. 200-209 (2010)

12) Nature ダイジェスト : http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/79254

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%BB%E8%A8%B3%E5%BE%8C%E4%BF%AE%E9%A3%BE

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