« 2017年1月 | トップページ | 2017年3月 »

2017年2月28日 (火)

やぶにらみ生物論63: 構造タンパク質

タンパク質をその役割で分類すると、最もおおざっぱには酵素、制御因子、構造タンパク質、その他ということになります。構造タンパク質を代表するものとして、アクチンとミオシンがあります(ミオシンは酵素でもありますが)。これらは筋肉の主成分であり、肉食動物はこの2種類のタンパク質を主な栄養源として生きています。人間は雑食ですが、多くの人々は穀物(炭水化物)の他に、特に南米などではアクチンとミオシンを主要な栄養源としています。日本人も次第にそのようなライフスタイルに近づきつつあります。動物を殺さなくても美味な食事ができるようになれば、人間はもう少し高尚な生物になれると思いますが、エミール・フィッシャーの夢はなかなか実現しそうにありません。

生物が生物であるためには、生物と外界との間に仕切りが必要ですが、それは脂質が中心となった細胞膜です。細菌や植物はその外にさらに多糖類でできた細胞壁という構造を持っています。細胞壁はいわゆる動物にはありません。脂質の膜は細胞の内部にもあり、コンパートメントや物質輸送の役を果たしています。

ではタンパク質は細胞の構造形成にどのような役割を果たしているのでしょうか。ひとつは家で言えば柱とか梁のような、細胞に一定の形をとらせることです。とは言っても静的な恒久構造ではなく、ダイナミックに変化します。例えば筋肉は休んでいるときと、力を出しているときでは形態が異なります。もうひとつは細胞分裂を実行する構造ツールとしてタンパク質が機能するということです。

これらに関与しているタンパク質はほぼ3つのグループ、すなわちチュブリン、アクチン、中間系線維(繊維でもよい)に分類できます。この3つのグループは、細菌・古細菌・真核生物のすべてに存在するユニバーサルなタンパク質です。

細菌では図1のように、チュブリン系のFtsZは細胞分裂の際にZリングという構造を作って細胞と細胞の仕切りを形成する役割を果たしています。

アクチン系のMreBは細胞膜の直下に、細胞の全長に及ぶ繊維構造からなる螺旋状のネットワークを形成しており、細菌がロッド状の形態をとるために必要な役割を果たしています。またある種の細菌では真核生物の場合と同様、収縮リングをつくって細胞分裂を実行する役割を担っているようです(図1)。

中間系繊維グループのクレセンチンは、細胞が三日月のある種の細菌に存在し、細胞を屈曲させる役割を果たしています(図1)。人間の胃に住んでいるヘリコバクター・ピロリ、いわゆるピロリ菌もこの仲間のようです。栄養リッチな環境に住んでいる細菌は、その場所から流されたくないので、ひっかかりやすい構造をめざしたのでしょうか? 細菌の細胞骨格については、ウィキペディアにもう少し詳しい解説があります(1)。

A_4

真核生物におけるチュブリンは毛利秀雄(1930-、図2)によって発見・命名された分子量約5万の球状タンパク質で(2)、通常重合して微小管などの構造を形成しています。αチュブリンとβチュブリンは図3のようにヘテロダイマーαβを形成し、さらにそのヘテロダイマーが連結して線維状のプロトフィラメントを形成し、13本のプロトフィラメントが集合して管になったような形の微小管が形成されます(3)。微小管の直径は約25nmです。

A_2

A_5

精子の鞭毛を輪切りにすると、中心にある1対=2本の微小管を、9ペア=18本の微小管が取り囲むという美しい規則的な構造になっています。微小管の周囲に存在するダイニンはATPが持つ化学エネルギーを運動エネルギーに変換することができるタンパク質(モータータンパク質)であり、これらの作用によって精子は鞭毛を動かし、泳いで卵に到達することができます(図4)

A_6

アクチンはF.B.シュトラウプ(1914-1996、図2)によって発見された、分子量約4万2千の球状タンパク質です(4)。微妙に異なる6種類があり、冒頭で述べた筋肉を作るタイプのものとは異なるβ型アクチンは、重合してマイクロフィラメントという直径6nm前後の線維を形成し、微小管と同様細胞骨格の役割を果たしています(図5)。アクチン自体はモータータンパク質ではありませんが、ATPやADPと結合することによって線維形成が制御されています(5、6)。

A_7

細胞形態がいかにチュブリンやアクチンに依存しているかということは、図6をみれば一目瞭然です。細胞質の中は微小管やマイクロフィラメントのジャングルジムのようです。これらの細胞骨格はジャングルジムと違ってフレキシブルで、次の瞬間には別の形になることもあります。微小管やマイクロフィラメントは常に多くの分子が参加したり離脱したりしているので、細胞の柱や梁といっても、非常に流動的なパーツではあります。

A_8

細胞骨格にはもうひとつの要素、すなわち中間径線維があります。中間径というのは線維の直径が微小管とマイクロフィラメントの中間という意味で、約10nmのサイズになります。中間径フィラメントを構成するタンパク質には、ケラチン、ニューロフィラメントタンパク質、デスミン、ビメンチン、ラミンなどがあり、細胞の種類によって特異性があります。ミオシンもこのグループに近いタンパク質です。

中間径線維の代表としてケラチンに注目してみましょう。ケラチンは毛髪・爪・表皮・角・くちばし・ウロコなどの主成分となるタンパク質です。ケラチンはヒトのものだけでも54種類あり、まだ増えるかもしれません(7、8)。ケラチン分子は細長い線維性(フィブラス)の分子で、図7のように4量体(テトラマー)をつくり、それを基本単位としてタンデムに結合してマイクロフィラメントが形成されます。8本のマイクロフィラメントが集合してマイクロフィブリルを形成し、マイクロフィブリルがさらに集合して毛や皮膚などの細胞に充満しています(図7)。

A_9

図8は私が撮影した毛の断面の電子顕微鏡写真で、まだ完全にケラチン線維で埋め尽くされていない未分化な下部の構造です。ケラチン線維の束(マイクロフィブリルまたはミクロフィブリル)の間に隙間がまだみられます。

A_10

筋肉は中間径線維グループに近縁のミオシンと、全く別オリジンのアクチンなどのタンパク質が共同して作った驚異的な芸術的作品です。筋肉によって動物は歩行し、呼吸し、消化し、出産し、飛翔し、遊泳し、目のピントを合わせ、キーボードをたたくことができます。いずれまた話題になると思いますので、ここでは1枚の私が撮影した電子顕微鏡写真だけ貼っておきます(図9)。私の過去記事が(9,10)にありますので、お時間のある方はどうぞ。

A_11

参照

1)こちら

2)Mohri H., “Amino-acid composition of Tubulin constituting microtubules of sperm flagella.”. Nature vol. 217, pp. 1053-1054 (1968)  PMID 4296139

3)Nogales, E., Wolf, S.G., Downing, K.H. , Structure of the alpha beta tubulin dimer by electron crystallography. Nature vol. 391, pp. 199-203 (1998)

4)Straub FB., Actin,  Studies Inst Med Chem Univ Szeged. vol.2, pp. 3–16 (1942)
http://actin.aok.pte.hu/archives/pdf/StudiesII_1.pdf

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3

6)Geoffrey M Cooper, Structure and Organization of Actin Filaments. The Cell: A Molecular Approach. 2nd edition. Sunderland (MA) (2000).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK9908/

7)http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~pathology/templates/keratin.html

8)片方陽太郎 ケラチン蛋白質の生化学 -構造、機能、そして遺伝子まで-、蛋白質 核酸 酵素 vol. 38, pp. 2711-2722 (1993)
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=1993&number=3816&file=sU0K8gPLUSkWylrPLUS03QAhjDig==

9)ミオシン  http://morph.way-nifty.com/grey/2011/01/post-0d3e.html

10)アクチンの系譜  http://morph.way-nifty.com/grey/2013/09/post-9bba.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月27日 (月)

2016~2017リーガ・エスパニョーラ第24節: GKの奮闘でアトレチコに勝利

Braugranaもうこれからは1敗もできないバルサとなりました。ただレアル・マドリーがバレンシアに1敗したので、まだ多少の可能性は残されています。

残された試合の中でも、アトレチコ@ビセンテ・カルデロンは最強の難敵です。トップはフランス人のガメイロとグリースマン、カラスコとサウールが左右でサポート。コケとガビが守備的MF、DFはフィリペ=ルイス・ゴディン・サヴィッチ・ヴルサリコ、GK:オブラク。ガビ・コケ・サウール以外は全員外国籍で、トランプがきいたら卒倒しそうなメンバー。

バルサはネイマールの1トップ、2列目がネイマール・イニエスタ・メッシ・セルジ・ラフィーニャという特殊なフォーメーションをやってきました。ブスケツの1ボランチで、3バックのマチュー・ウムティティ・ピケ、GK:テア=シュテーゲン。メッシをはっきりトップ下にして、攻撃にメリハリつけようという意図でしょう。しかし3バックはカウンター攻撃が得意なチームには危険です。

この特殊なフォーメーションは前半機能しませんでした。ピケが中央の守りに行ってしまうので、右サイドがノーディフェンスになってしまって、どんどん使われ、セルジとラフィーニャがあわてて戻ってくるために、攻撃に移っても選手が足りなくて攻められません。テア=シュテーゲンが大活躍で、なんとか0:0で前半終了。

後半はさすがにピケが右に張り付いて、中央はブスケツとウムティティで守るということになり落ち着きました。4分スアレスがフリーでパスを選択しますが、見当外れの位置にパスしてしまいます。スアレスは最近少し変調です。7分グリーズマンがGKと1:1でのシュートを失敗、さらにゴディンが絶好のヘディングをはずしてラッキーです。

19分にスアレスが放ったシュートの跳ね返りをラフィーニャが押し込んで先制点はバルサ。しかしアトレチコも26分、FKをゴディンのバックヘッドで1:1。

この後マチューがファウルで負傷。いやあ勘弁してほしいよ! プレイを続けられず、球を蹴り出してディニュと交代。もう終了近い時間でしたが、41分にメッシが打ったシュートをサヴィッチが止めたのですが、はねかえりがおあつらえ向きのところに来て、メッシが打ち直してゴール。何とか1:2で逃げ切りました。

https://www.youtube.com/watch?v=4pFBKZX97zY

https://www.youtube.com/watch?v=OOMOqqg_YNE

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月26日 (日)

ルスティオーニ-都響 ベルリオーズ「幻想交響曲」など@東京芸術劇場2017年2月26日

Imga都響のC定期で、池袋の東京芸術劇場に行ってきました。チケットはまたもや完売。ときにチケット完売でも空席が目立つこともあるのですが、今日は正真正銘ぎっしりの盛況です。ステージに久しぶりに銀色のパイプオルガンが露出していてゴージャスです。

お目当ては指揮者のダニエレ・ルスティオーニでしょうか? 今シーズンからリヨン歌劇場首席指揮者に就任するそうです。コンマスは矢部ちゃん、サイドはゆづき。多数のビデオカメラが配置されていて、DVDを出版する予定があるのでしょうか?

曲目も多分都響向きで、まれにみる快演でした。全曲ぞくぞくする驚異的なアンサンブルで、ソロも素晴らしい! ルスティオーニは非常に派手なアクションなのですが、決して音楽が下品にならないところがさすがです。さらに繊細で丁寧な感じがしました。

私的にはイングリッシュホルンの音色が好きなので、「幻想交響曲」の第3楽章がききものでした。南方さんの演奏は、いつもながら情感豊かで感動しました。鷹栖さんやサトーさんのソロもニュアンスたっぷり。ティンパニ2台を4人で演奏するというのも迫力ありました。チューバが2本も珍しい景色です。

演奏終了後、ルスティオーニがオルガン奏者を忘れていたようで、いったん引っ込んだ後出てきてスタンディングさせてました(笑)。西川さんが引っ込んだまま出てこなかったのはなぜでしょう? あと舞台裏のオーボエ奏者は大植さんだったのでしょうか?

魔法使いの弟子
https://www.youtube.com/watch?v=vagV1iDpfSQ

ローマの噴水
https://www.youtube.com/watch?v=vkp_GpVUvvY

幻想交響曲 Op. 14 第3楽章 野の風景
https://www.youtube.com/watch?v=Qm1t5Q3RdIo

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月24日 (金)

サラとミーナ184: ミーナ マクロ撮影に挑戦

Imga猫にあって人間にはないもの。そのひとつは感覚毛としてのヒゲです。人間にもヒゲはありますが、それは髪の毛と同じ構造で、動物のヒゲとは比べるべくもないローグレードなものです。

猫のヒゲは1本1本の根元が血洞という巨大な血管につつまれていて、しかもその血洞の外側に専用の筋肉がくっついていて、意図して動かすことができます。

しかもなんと感覚神経が、その血洞を貫通してヒゲの毛根にタッチしており、どのように毛が動いたかを脳に伝えています。つまり毛で触ると、触った物の形を脳が認識できます。

血管壁を神経が貫通するというのは非常にシュールで、どういうメカニズムで行われているのか、多分全然わかっていないと思います。先に神経があって、あとで血管がつつみこむのでないことは私自身もラットで確認しました。

というわけで、猫のヒゲが生えている部分(ミスタシアル・パッド)はハイグレードな感覚神経が密集しており、敏感なエリアになっています。

Imgb猫はここを触られると嫌なのか、気持ちが良いのかわかりませんが、少なくともうちで飼っている猫たちは気分が良いようです。もっとさわれとせがんできます。

ミスタシアル・パッドを触られているミーナを撮影しようというわけで、滅多に使わないマクロ機能を使ってみましたが、写真のようなショットになりました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月23日 (木)

井上道義-大阪フィル@東京芸術劇場2017年2月22日

Imgosaka生まれて初めての大阪フィル。曲目はショスタコーヴィチの交響曲11番と12番を一夜でという超ヘビイなものでした。指揮は井上道義さん。コンマスは崔文洙さん。

パンフレットに出演者の名前がエキストラも含めて、すべて記載してあるのは感心しました。楽団の運営がきちんとされていることを想像します。

チケット完売で東京芸術劇場大ホールは異様な熱気です。交響曲第11番は非常にわかりやすい音楽で、第5番や第8番と共にショスタコーヴィチの傑作交響曲だと思います。

もう大阪で同じプログラムを2回やってきたそうなので、演奏は特に弦がアンサンブルもきちんとしていて、Vnなどほとんど女性ばかりなのに心地よい重量感がありました。打楽器の方々の奮闘も素晴らしいと思いました。

☆ 引用されている音楽

夜は暗い
https://www.youtube.com/watch?v=E5tdvbRtSgY

同士は斃れぬ
https://www.youtube.com/watch?v=fa6BswG-dU8

(41分30秒あたりから)
https://www.youtube.com/watch?v=g9lo9ZDYuDU

おお皇帝 吾等が父よ
https://www.youtube.com/watch?v=JR-nG_ecsZo

ワルシャワ労働者の歌
https://www.youtube.com/watch?v=qtslGbYKMoQ

☆ 第2楽章

https://www.youtube.com/watch?v=JycVywv5myU

https://www.youtube.com/watch?v=4Pudaf862qM

https://www.youtube.com/watch?v=S-dpVISqPy4

11番を聴き終わった段階でもう完全に満腹となり、すき焼きの後にとんかつは勘弁してほしいという気分でした。というわけで交響曲12番は、演奏は11番より更に素晴らしかったのですが、私自身のメンタルがついていけず残念。1905年の後が1917年という歴史的経緯はわかるのですが、11番の続きが12番というわけじゃなく、全然別物ですから。

やっぱり11番・12番は後半にとっておいて、前半はもうすこし軽いプログラムにして欲しいと思いました。うがった見方をすると、不透明な理由で大フィル解任が決まった井上さんが、自分は健康上の問題などなく非常に元気なので「誰か音楽監督に雇って頂戴」というアピールのために、このようなヘビイなプログラムになったのかなとも思いました。

http://www.shikoku-np.co.jp/national/culture_entertainment/20161128000407

マエストロ井上は、ショスタコーヴィチ交響曲全集を出版なさっています。

こちら

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月21日 (火)

やぶにらみ生物論62: 酵素2

第二次世界大戦前までに、酵素はタンパク質であり、生命現象に必要なほとんどの化学変化は、酵素によって触媒される反応であることが明らかになりました。大戦後は酵素の作用機構や制御が主要な課題となりました。

エミール・フィッシャーの古典的な「鍵と鍵穴」説の検証と、新しい概念構築の中心になったのはジャン=ピエール・シャンジュー(1936-)でした。シャンジュー(図1)は学生の頃パスツール研究所のジャコブ&モノー研究室で過ごました。彼はそこでタンパク質は固定した形を持つものではなく、基質や様々な制御因子の影響、オリゴマーの形成などによって形を変えるフレキシブルな物質であることに注目し、アロステリック変化という概念を提出しました(1)。この理論はダニエル・コシュランド(1920-2007、図1)らによってさらに発展し、「誘導適合説」などが提唱されました。このあたりの事情を知るには、コシュランドが書いたレビューが出版されています(2)。コシュランドは第二次世界大戦中はマンハッタン計画に参加して、原爆製造の仕事にかかわっていました(3)。

A_14

簡単に説明すると、図2のように「鍵と鍵穴」説ではもともと鍵にぴったり合った鍵穴があることになっていますが、「誘導適合」説では、基質の接近によって酵素が形態(コンフォメーション)を変えて、基質を取り込むということになります。

またこのコンフォーメーションの変化に伴って、ケミカルアタックを行うサイト(catalytic site、図2の赤のサイト) が基質と接近して活動を行うことができるようになります。このサイトは2ヶ所に分かれていて、サイト-基質-サイトという形で電子や原子の受け渡しを行ないます。

A_15


では具体的にトリオースリン酸イソメラーゼを例にとって。酵素反応の機構をみていきましょう(4)。この酵素はジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)をD-グリセルアルデヒド3リン酸(GAP)に代謝するときに利用されます。これはグルコースをピルビン酸に代謝する解糖経路の要所にある重要な反応です。ケトンをアルデヒドに変換する反応のひとつという見方もできます(図3)。

A_17


酵素のポケット(鍵穴)に取り込まれたDHAPは、まずグルタミン酸側鎖COO-の電子をうけとってC1とC2の結合を二重結合化します。このときC1とC2はそのままでは共に5価になってしまうので、C1はHをひとつ手放し、C2は酸素との二重結合を一重結合化します(図4、図5)。

A_18

C2と二重結合していたOの解放された電子はヒスチジン側鎖のNHに攻撃を仕掛け、Hを奪い取ります(図5)。

A_19


Hを奪い取られたヒスチジン側鎖のNはC1からHを奪い返します(図6)。

A_20


C1は酸素との結合が二重結合になってしまうので5価となり、C2との二重結合を一重結合にします。この結果C2は3価となるので、グルタミン酸側鎖のカルボキシル基からHを奪って4価にもどします(図7)。

A_21

因果は巡って、結局GAPが生成され、95番のヒスチジン側鎖と165番のグルタミン酸側鎖も元通りに戻ります。すなわち酵素トリオースリン酸イソメラーゼはもとのままで、DHAP→GAPの化学反応が遂行されました(図8)。

A_22


これはわかりやすいですが単純化された仮説で、実際にはもっとさまざまな活性部位周辺のアミノ酸が反応に関与していると思われます。

さてすべての酵素は基質濃度だけに反応して、役目を果たすのでしょうか? 生命体に必要な生体分子の濃度は制御されているはずなので、基質をほとんど使い切るまですべての反応が進行するということは考えられません。実際酵素には阻害物質を利用して、反応生成物を適度な濃度で管理するという機構がしばしば存在します。

最も単純なのは図9のように、基質と同じ鍵穴にアクセスできる別の鍵があり、その鍵が先にはまってしまうと基質は鍵穴にアクセスできなくなるというメカニズムです。すなわち基質と阻害剤が同じサイトに競合してアクセスしようとするわけですから、どちらがアクセスできるかはそれぞれの濃度に依存します。したがってもし大過剰の基質を投入すれば、阻害剤の影響は無視できる程度に低下するはずです。このような単純競合の場合、アロステリック制御とは言えません。

A_23

しかし図10の場合のように、阻害剤がアクセスする別のサイト(鍵穴)があって、そこに阻害剤がアクセスすると基質の鍵穴が変形して使用不能になるとすると、これはアロステリック制御のひとつであり、この場合基質を大過剰にしても反応は抑制されることになります。この非拮抗阻害と呼ばれる方式ですと、阻害剤が高濃度に存在すると反応が完全に停止するので、反応を再開するには阻害剤が代謝されてしまうことが必要になります。


A_24
阻害の様式にはもうひとつ、不拮抗阻害というのがあり(図11)、この場合フリーの酵素に阻害剤はアクセスすることができず、基質が結合した酵素にしかアクセスできません。阻害剤がアクセスに成功すると、基質結合部位がアロステリック効果により変形して基質が結合できなくなります。阻害剤がアクセスするまでの時間的余裕があるので、基質があればある程度反応は進行し、その後阻害されるということになります。


A_25


阻害剤という反応進行に負の影響を及ぼす因子について述べてきましたが、このような阻害剤による負のアロステリック効果だけでなく、正のアロステリック効果も存在します(図12)。この場合、正のAE(アロステリックエフェクター)が酵素にアクセスすることが引き金になって、基質結合部位が形成され反応が開始します。酵素反応は一般に無制限に進行することは許されず、特定のタイミングで適切な量の反応生成物を得ることを目的としています。細胞外に放出されるペプシンですら、胃に食べ物がないときには放出されないように制御されています。酵素反応をいかに制御するかということは、生命現象の本質と言えるでしょう。

A_26

一連の酵素反応の結果生成された最終反応生成物が阻害因子となって、自らを生成した酵素反応を停止させるという場合があり、これをフィードバック制御といいます(図13)。例えばアスパラギン酸トランスカルバモイラーゼは最終反応生成物であるCTPによって阻害されます(5)。このような負のフィードバック制御が一般的ですが、なかには最終反応生成物が一連の反応を加速させる場合もあり、これは正のフィードバック制御です。途中で神経伝達が関与していますが、オキシトシンが分泌されて子宮収縮=分娩が促進されるような場合がその1例と考えられます。

A_27

参照:

1)Monod, J.; Wyman, J.; Changeux, J. P. On the Nature of Allosteric Transitions: A Plausible Model. Journal of Molecular Biology. vol.12, pp.88-118 (1965). doi:10.1016/S0022-2836(65)80285-6. PMID 14343300.

2)Daniel E. Koshland Jr., The Key-Lock Theory and the Induced Fit Theory. Angewandte Chemie col.33, pp.2375-2378 (1995)

3)https://en.wikipedia.org/wiki/Daniel_E._Koshland_Jr.

4)http://www.proteopedia.org/wiki/index.php/Triose_Phosphate_Isomerase_Structure_%26_Mechanism

5)Berg JM, Tymoczko JL, Stryer L., Biochemistry 5th edn. Section 10.1, W. H. Freeman (2002)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK22460/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月20日 (月)

リーガ・エスパニョーラ2016~2017第23節: 傷心のパルサ やっとこさっとこ

BraugranaUEFAチャンピオンズリーグでPSGに4:0の悲惨な敗戦となったバルサ。今年の低調なバルサを象徴する出来事でした。

今のバルサは丁度端境期にあります。ライカー時代のようなバルサスタイルのサッカーは今や不可能です。スアレス・ネイマール・ラキティッチ・Aゴメス・デニス=スアレス・アルダ・ビダル・ディニュ・アルバ・マチュー・ウムティティ・マスチェラーノなどの主力選手が、それぞれ別々のルーツで育ってきているので、バルサスタイルという極端な哲学に変わる新しいというか、より普通のスタイルのサッカーに転換しなければやっていけない時代になりました。まあそれでも「ポゼッションを最も重視すると」いう旗は降ろして欲しくはありませんが。

ルーチョには、バルサスタイルをみんなに受け入れてもらうか、それとも多くの選手のバックグラウンドをそれぞれ生かした別のスタイルに変えるか迷いがあって、そのままズルズルきてしまったような気がします。それでも夏から秋のようにネイマール・スアレス・メッシが好調で、まかせておけば点が取れればいいのですが、調子が落ちてくるとどうにもなりません。

今日は下位グループのレガネスとの対戦でしたが、カンプノウの2F席などはもうガラガラで、心配になるくらいの集客でした。FW:ネイマール・スアレス・メッシ、MF:ラフィーニャ(顔面骨折でフェイス・ガードで参戦)・ラキティッチ・Aゴメス、DF:ディニュ・マチュー・ウムティティ・セルジ、GK:テア・シュテーゲン。

2部落ちの恐れがあるレガネスはかなりの選手を補強してきました。トップはゲレーロで、エルザールがシャドウ。シマノフスキが左サイド、マルティン・モラン・ピリスが中盤、DF:リコ・シオヴァス・マントバニ・ティト、GK:エレリン。

4分にオフサイドラインぎりぎりでうまく左に飛び出してパスを受けたスアレスからの低いクロスにメッシがうまく合わせて美しいゴール。しかしエルザールに2発かなりやばいシュートを打たれて、いずれもテア=シュテーゲンの必死のセーヴに救われるなど、余り芳しい進行ではありません。それに今日のカンプノウは異常にすべるピッチで、いつもの感じではありませんでした。

後半26分Aゴメスが引きずり倒されて球を奪われ、シマノフスキと交代して出ていたマチスからウナイ・ロペスに回されて失点。このままエンパテかという大ピンチになりました。結局終了間際にネイマールがエリア内で足を掛けられてPK獲得。最近はPK・FKのスペシャリストとなっているメッシが決めてようやく2:1のリードとなりました。いくら不調と言っても、PK・FKで貢献できるのはさすがメッシです。なんとかこれで試合終了。

アナウンサーの大澤が、Aゴメスに非常にしつこくからんでいましたが、今日の試合の後半について言えば、確かに疲労が出ていた感じがしました。しかしせっかく解説者がいるわけですから、アナウンサーが選手の悪口を蕩々と述べるというのはあまり感じの良いものではありません。

大澤はラキティッチ押しのようですが、彼は体格・スタミナ・フィジカルに若干問題があるので、ボランチは適所じゃないと思いますよ。Aゴメスもボランチのスペシャリストじゃないので、できれば10m程前でプレーさせてあげたいのですが、ブスケツが出ないんじゃしょうがありません。来シーズンはCBを補強して、ウムティティとブスケツでこの重要なポジションをシェアして欲しいと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=DVS-eHgD91U

https://www.youtube.com/watch?v=YLQ2BodACSI

https://www.youtube.com/watch?v=9XfM63RCrfQ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月18日 (土)

ジョルジュ・プレートル 逝去

Candle_3愛すべき爺さん、マエストロ:ジョルジュ・プレートルが1月4日に逝去されました。

私は新聞では見つけられず、アリアCDのお知らせで初めて知ったのは不覚でした。

指揮する姿を見ているだけで感動する指揮者というのは希有です。晩年にはただじっと演奏するオケメンをみつめて、眼で指揮するというような場面も多かったようです。

ご冥福をお祈りします。

cf.

ラデツキー行進曲(ヨハン・シュトラウス) ウィーン・フィル
https://www.youtube.com/watch?v=6o7dmM3YNN8

ボレロ(モーリス・ラヴェル) RAI国立交響楽団
https://www.youtube.com/watch?v=V9SFKV_hzZk

タンホイザー序曲(リヒャルト・ワーグナー) フェニーチェ歌劇場管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=VeMedSZLFEk

ウィリアム・テル序曲(ジョアキーノ・ロッシーニ) フェニーチェ歌劇場管弦楽団
https://www.youtube.com/watch?v=8QEE_nbii3c

ローマの松(オットリーノ・レスピーギ) シュツットガルト放送交響楽団
https://www.youtube.com/watch?v=3ViYlBjamE0

交響曲第7番(ルートウィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン)ウィーン交響楽団
https://www.youtube.com/watch?v=fonK1UEdC1s

ルポルタージュ
https://www.youtube.com/watch?v=aPHPmX0UxUs

ドキュメンタリー
https://www.youtube.com/watch?v=kUAtZjYn5Eg








| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月17日 (金)

晋三の周辺にあらたな疑惑

総理大臣の奥方が名誉校長の小学校が購入した土地が、不当な廉価で国から払い下げられたのではないかという疑惑が話題となっています。大阪府豊中市の市議会議員木村真氏や朝日新聞などが追求しているようです。

--------------

800px

財務省近畿財務局が学校法人に払い下げた大阪府豊中市内の国有地をめぐり、財務局が売却額などを非公表にしていることが分かった。 朝日新聞が調査したところ、売却額は同じ規模の近隣国有地の10分の1だった。 国有地の売却は透明性の観点から「原則公表」とされており、地元市議は8日、非公表とした財務局の決定の取り消しを求めて大阪地裁に提訴した。

売却されたのは、豊中市野田町の約8770平方メートルの国有地。 近畿財務局が2013年6~9月に売却先を公募し、昨年6月に大阪市内で幼稚園を営む学校法人「森友学園」に売った。 契約方法は、公益目的で購入を希望する自治体や学校法人、社会福祉法人などを優先する「公共随意契約」がとられた。

財務局が森友学園に売った土地の東側にも、国有地(9492平方メートル)があった。財務局が10年に公共随契で豊中市に売ったが、価格は約14億2300万円。森友学園への売却額の約10倍とみられる。ここは公園として整備された。

森友学園が買った土地には、今春に同学園が運営する小学校が開校する予定。 籠池理事長は憲法改正を求めている日本会議大阪の役員で、ホームページによると、 同校は「日本初で唯一の神道の小学校」とし、教育理念に「日本人としての礼節を尊び、愛国心と誇りを育てる」と掲げている。 同校の名誉校長は安倍晋三首相の妻・昭恵氏。 籠池氏は取材に「(非公表を)強く求めていない。はっきりではないが、具体的な売却額は財務局が出したと記憶している」と説明している。

昭恵氏には安倍事務所を通じて文書で質問状を送ったが、回答は届いていない。

(朝日新聞社: 吉村治彦、飯島健太)

朝日新聞の調べでは、近畿財務局は14~16年度、森友学園と同じ公共随意契約で計36件の国有地を売却。 このうち35件は売却額を開示している一方、森友学園への売却分だけを非公表とした。

8日に提訴した豊中市の木村真市議(52)は記者会見で 「異常な扱いだ。訴訟では金額を公開するか否かを争うが、背景に何があるのか見極めないといけない」と述べた。

財務局が森友学園に売った国有地は、国土交通省大阪航空局管理の未利用地だった。 路線価に基づく国有財産台帳の台帳価格は12年時点で8億7472万円、13年時点で7億6302万円。 一方、国有財産特別措置法には、売却額を減らすことができる対象に学校施設が含まれている。

財務局の統括国有財産管理官は、今回の国有地売買は減額対象とせず、不動産鑑定士が算定した時価に沿って売却したと説明。森友学園への売却額と近隣の国有地、あるいは台帳価格との間に大きな差が生じたことについては、 「土地の個別事情を踏まえた。その事情が何かは答えられない」と話している。

森友学園が買った国有地に関しては、別の学校法人が森友学園より前に校舎用地として取得を希望し、 路線価などを参考に「7億円前後」での売却を財務局に求めていた。 これに対し、財務局から「価格が低い」との指摘を受け、12年7月に購入を断念したという。

それから約4年後、近畿財務局は同学園に1億3400万円でこの国有地を売却したとみられている。 こうした経緯について、一時は取得を望んだ学校法人の担当者は取材に「違和感がある」と話している。

--------------------

近畿財務局が森友学園に売却した大阪府豊中市の国有地(8770平方メートル)をめぐる経緯

・2010年3月 豊中市が東隣の国有地9492平方メートルを約14億2300万円で購入

・11年7月ごろ 8770平方メートルの国有地について、
別の学校法人が7億円前後の価格を財務局に提示。
価格交渉が折り合わず、同法人は約1年後に取得を断念

・13年6~9月 財務局が8770平方メートルの国有地の取得希望者を公募。
森友学園が小学校用地として取得を要望

・16年6月 財務局と森友学園との間で売買契約が成立 (1億3400万円?)

・16年9月 豊中市議の情報公開請求に対し、財務局が売却額の非公表決定

・17年1月 朝日新聞の情報公開請求に対しても非公表決定

・17年4月 私立小学校が開校予定

--------------------

森友学園が買った国有地に関しては、別の学校法人が森友学園より前に校舎用地として取得を希望し、 路線価などを参考に「7億円前後」での売却を財務局に求めていた。 これに対し、財務局から「価格が低い」との指摘を受け、12年7月に購入を断念したという。

(爆)それから約4年後、近畿財務局は同学園に1億3400万円でこの国有地を売却したとみられている。

--------------------

「ほぼ週刊 まこと通信」大阪府豊中市の市議会議員、木村真氏のサイト
 より

豊中市内に建設中の私立小学校をめぐって疑惑が浮上
国有地を売却して金額は非公開!?
売却先の名誉校長は安倍首相の妻・昭恵氏!
法人理事長は日本会議・大阪の代表!

豊中市野田町で、いま、「瑞穂の国記念小学院」という私立小学校の建設工事が進められています。空港移転跡地だった国有地を、淀川区で幼稚園を経営する学校法人に売却したのですが、なんと、金額が非公開とされています。国有地は市民みんなの財産ですから、売却にあたって、金額を公表するのは当然です。現に、ほとんどの売却案件で金額が公表されています。なのに、なぜこの野田町の土地では非公開なのでしょうか? 近畿財務局は「公表すると契約相手に不利益が及ぶ恐れがあるため」と説明しますが、とうてい納得できません。

黒塗りの契約書
http://blogs.yahoo.co.jp/toyonaka_kimura/36086403.html

--------------------

塚本幼稚園(同じ経営者)園児による教育勅語暗唱
https://www.youtube.com/watch?v=Wo_fxeRIER4

園児に教育勅語教える“愛国”幼稚園  (産経)
http://www.sankei.com/west/news/150108/wst1501080001-n2.html

--------------------

瑞穂の國記念小學院
https://pbs.twimg.com/media/CpMCfUvUkAA2TBK.jpg
https://pbs.twimg.com/media/CpMCUUpUkAApH3O.jpg

名誉校長安倍昭恵先生、総裁・校長籠池泰典のごあいさつ、衆議院議員平沼赳夫先生から頂いたメッセージ
http://www.mizuhonokuni.ed.jp/about/

この学校の母体となってる塚本幼稚園の教育講演会に招かれた講師
http://www.tukamotoyouchien.ed.jp/lecture/

--------------------------

朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASK264H4YK26PPTB00J.html

豊中の土地代
http://www.tochidai.info/osaka/toyonaka/

瑞穂の國記念小學院 HP:
http://www.mizuhonokuni.ed.jp/

瑞穂の國記念小學院 公式ブログ:
http://blog.mizuhonokuni.ed.jp/

日刊ゲンダイ
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/199294

産経新聞
http://www.sankei.com/west/news/150108/wst1501080001-n1.html

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月15日 (水)

やぶにらみ生物論61: 酵素1

A酵素を誰が発見したのかというのは、やや難しい問題です。歴史をたどっていくしかないようです。

1752年、フランスの科学者ルネ・レオミュール(René-Antoine Ferchault de Réaumur、1683-1757、図1)は、消化されなかった食べ物を吐き出す習性があるトンビに目を付け、金網で囲った肉を食べさせて、はき出した金網の中の肉が溶けていたことを確認ました。さらにスポンジ(当時のことですから海綿)を食べさせて、はき出したスポンジから胃液を集め、その胃液に肉片を浸すことで肉片が溶けることも観察しました(1、2)。

この結果からレオミュールは、胃液には肉を分解する物質が含まれると考えました。

レオミュールという人は偉大な昆虫学者で、全六巻からなる大著「昆虫誌」(3)を出版しました。もちろんフランス語ですが、オープンライブラリーで閲覧可能なようです。

レオミュールの観察を受け継いだのは、イタリア人のラッザロ・スパランツァーニ(Lazzaro Spallanzani, 1729- 1799、図2)という人でした。

彼はレオミュールの実験をさまざまな動物で追試し、吐き出した海綿中に消化を行う物質があることは間違いないという確信を持ちました。それからが彼の異常なところで、1776年に同じ実験を自分自身の体を使って追試してみようと考えたのです。といっても思いつきでやってみたのではなく、イヌやヘビに布袋を飲ませようとしてかみつかれるなどの困難に直面した後の苦渋の決断だったようです。

A_14スパランツァーニはまず布袋にパンを入れて飲み込み、排泄された布袋の中からパンが無くなっていることを観察しました。

次に竹を削って木筒をつくり、そのなかにパンや肉片を入れ、小さな穴を開けた木筒を布袋に入れて飲み込みました。出てきた木筒の中の食物はなくなっていました。

これによって胃ですりつぶされて食物が粉々になったためになくなったわけではないことが証明されました。木筒に骨を入れた場合は、消化されずにそのまま出てきました。

このような実験を多数繰り返して、スパランツァーニは胃には鳥類の砂嚢のように食べ物を粉々にする作用はなく、胃液に含まれる因子によって食べ物が消化されるのだという確信を持ちました。

しかしもう一押し、胃液を取り出して、その中で食べ物が消化されるのを見たいと思うのは、科学者として必然のなりゆきでしょう。そこからがまた彼の凄いところで、指をノドに突っ込んで自分の胃液をはき出すトレーニングをして実行したのです。そして実際に自分の胃液の中で肉が消化されるのを観察しました。それは腐敗とは違うことも確認しました。さらに前記の肉片の入った木筒を飲み込み、しばらくして吐き出すという名人芸も会得し、中を調べてみると肉片が消化されかかっていました。

A_15スパランツァーニが一連の自分の体を使った人体実験から得た結論は、「消化は機械的粉砕や微生物による腐敗や発酵ではなく、胃液が促進する通常の化学反応だ」 というものでした。

彼の功績は「自分の体で実験したい」という本に詳しく記してあります(4)。この本の表紙を図3に示しました。布袋を飲み込みつつあるスパランツァーニの姿が表紙になっています。

この本にはスパランツァーニ以外にも、自分をモルモットにして命がけで実験をした大勢の科学者の業績が記されています。命を落とした人もいるということで合掌・・・・・。

18世紀におけるレオミュールやスパランツァーニの偉大な実験にもかかわらず、多くの科学者が酵素の存在を確信するまでには、さらに1世紀もの長い時間が必要でした。

19世紀に入ると、まずパヤン Anselme Payen (1795‐1871) とペルソ Jean Francois Persoz (1805‐68)(図4) が、麦芽抽出液からデンプンをグルコースに分解する酵素を分離しジアスターゼと名付けました(1833年、5)。これは現在ではアミラーゼと呼ばれています。

A_18

スパランツァーニの研究もいくつかの研究室で引き続き発展しました。1834年ヨハン・エベールは乾燥させた胃の粘膜から消化能力のある溶液を調製することに成功しました。その溶液で処理すると、卵白アルブミンは溶けてしまうだけではなく、検出できなくなりました。

細胞説で有名なテオドール・シュワンはエベールの実験結果に注目し、1836年に胃液に含まれる成分がアルブミン以外のタンパク質も分解することを確認して、ペプシンと命名しました。しかしそのペプシンを精製することはできませんでした。

19世紀の生化学で優勢だったのは、パスツールが証明した「生物は生物からしか生まれない、そして発酵や腐敗は微生物によって行われる」という考え方で、消化もやはり微生物の作用あるいは何らかの生命力によると思われていましたが、一方でパヤン&ペルソらの酵素の作用による有機物の化学変化もまた無視できないという隔靴掻痒の状況にありました。

A_16そうした中で、1897年エドゥアルト・ブフナー(Eduard Buchner, 1860- 1917、図5)がすりつぶした酵母をろ過した抽出液(無細胞抽出液)の中で、糖が発酵してアルコールと二酸化炭素になることを発見したことは大きな衝撃でした(6)。すなわち生きた細胞がいなくてもアルコール発酵が行われることが証明されたことになります。

これで生気説は否定され、有機物の生成や分解も普通の化学変化にすぎないという考え方が勝利しました。ブフナーは1907年にノーベル化学賞を受賞しました。しかしその10年後に第一次世界大戦で従軍し、戦死しました。

最終的に酵素がタンパク質であるということが証明されたのは20世紀も深まってからでした。

1919年に米国の化学者ジョン・ノースロップ(John Howard Northrop, 1891- 1987、図6)はペプシンを単離して結晶化し、それがタンパク質であることを証明しました(7)。ノースロップはウレアーゼを結晶化したサムナーと共に、1946年にノーベル化学賞を受賞しています。

A_17結論的に言えば、酵素の発見は誰がというより、ここで述べた科学者達を中心とした多くの科学者達が、200年近くの歳月をかけてなしとげた業績です。

酵素の作用機構についてはすでに1894年からエミール・フィッシャーが「鍵と鍵穴」説を発表しており(8)、基本的には現在でも正しいと考えられています。

すなわち酵素には基質(=鍵)を凸とすると凹の形態を持った鍵穴があり、そこに基質を収納すると基質がケミカルアタックを受けて生成物に変化するという考え方です(図7)。

A_7

この過程を、レオノア・ミカエリス(1875-1949)とモード・メンテン( 1879-1960)(図8)は次のような化学式で表現しました。

酵素 (E) + 基質 (S) ⇄   酵素基質複合体 (ES) → 酵素 (E) + 生成物 (P)
E: enzyme, S: substrate, ES: enzyme-substrate complex, P: product

A_10

ここで重要なのはE+S⇄ SEの1段階目の反応は可逆的なのに、2段階目のES→E+Pという反応は不可逆的だということです。もしそうでなければ、デンプンを分解してブドウ糖を生成しエネルギー源として利用しようとしても、ブドウ糖がある程度たまるとデンプンに逆戻りしてしまうという不都合が発生します。ただし生成物が少量で良い時などには、フィードバック制御という別プロセスで酵素に阻害がかかり、反応が停止するということはあります。

酵素は触媒の1種ですが、金属触媒などを用いた無機化学反応と違って、基質濃度を上昇させてもあるところで頭打ちになってしまいます。基質濃度を横軸、反応速度を縦軸としてグラフを描くと図9のようになります。

A_11

1913年にミカエリスとメンテンは、このグラフを数式で表現する、ミカエリス・メンテンの式を発表しました(図10、参照9)。

A_12

図9において、最大反応速度はVmax、その2分の1の反応速度で反応が進行しているときの基質濃度をKmとしています。ミカエリス・メンテン式において、[S] = Km とすると、v = 0.5 x Vmax となります。

ミカエリス・メンテン式の導出のしかたについて興味がある方はサイト(10)を参照して下さい。

本稿でもうひとつ触れておきたいのは、酵素が化学変化の過程において、活性化エネルギーを低下させるということです。

物質Aは自然により自由エネルギーが低い物質Bに変化していくことは、熱力学の第2法則が示していますが、それでも物質Aが存在しているのは、物質Bに変化するために要する時間が無限大に近いことによります。

酵素は物質A(基質=S)が物質B(生成物=P)に変化するために必要な、自由エネルギーが両者より高い中間段階に持ち上げるための活性化エネルギーのレベルを下げる作用を持っています(図11)。このことによって変化に必要な時間を著しく短縮することができるので、生命現象に必要な化学変化を現実的な時間で実行することが可能になるわけです。

A_13

参照:

1)こちら1

2)http://contest.japias.jp/tqj2005/80064/kousohakkenn.html

3)René-Antoine Ferchault de Réaumur, Memoires pour servir a l'histoire des insectes. A Paris : De l'imprimerie royale (1734) 
https://archive.org/details/memoirespourserv01ra

4)「自分の体で実験したい 原題:Guinea Pig Scientists」 Leslie Dendy and Mel Boring 著 梶山あゆみ訳、紀伊國屋書店 (2007)

5)A. Payen and J.-F. Persoz, "Mémoire sur la diastase, les principaux produits de ses réactions et leurs applications aux arts industriels" (Memoir on diastase, the principal products of its reactions, and their applications to the industrial arts), Annales de chimie et de physique, 2nd series, vol. 53, pages 73–92 (1833)

6)Eduard Buchner, “Alkoholische Gärung ohne Hefezellen (Vorläufige Mitteilung)”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft vol. 30,  pp. 117–124 (1897)

7)Northrop J.H., Crystallin pepsin., Science vol. 69, p. 580 (1929)

8)Emil Fischer, Einfluss der Configuration auf die Wirkung der Enzyme. Berichte der deutschen chemischen Gesellschaft, Volume 27, pp. 2985–2993 (1894)

9)Michaelis, L.,and Menten, M., Die kinetik der invertinwirkung, Biochemistry Zeitung vol. 49, pp. 333-369 (1913)

10)こちら2

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月13日 (月)

2016~2017リーガ・エスパニョーラ第22節: 圧勝するもアレイシ・ビダルの重傷で沈痛なバルサ

Braugranaバスクの都ガステイスのスタジアム、エスタディオ・デ・メンディソローサでデポルティーボ・アラベスと対戦。今季カンプノウでは負かされたチームです。しかもコパ・デル・レイでは勝ち上がって、バルサとファイナルを戦うことになりました。

アラベスはベネズエラ代表Cサントスの1トップ。2列目はソブリノ・クルスティチッチ・カタイで、ボランチはDトーレスとMジョレンテ。DF:テオ・アレクシス・ラグアルディア・ビガライ、GK:パチェコ。

バルサはFW:ネイマール・スアレス・メッシ、MF:Aゴメス・ラキティッチ・負傷から復帰したブスケツ、DF:ディニュ・マチュー・ウムティティ・ビダル、GK:テア=シュテーゲン。

バルサのユニフォームはライトグリーンですが、3種類あって半袖・長袖・長袖のアンダーシャツに半袖。いろんなユニフォームの選手がいて、これは珍しいと思います。シーズンも深まり、ここまでくるとバルサは故障者が多く、アルダ・ラフィーニャ・マスチェラーノ・ピケ・マシップが故障欠場です。

アラベスは強引にチャージしてくる守備ではなく、接近してパスカットを狙う作戦。なので一応バルサのポゼッションは難しくはありません。16分絶好のチャンスにネイマールが切り返しをしくじりがっかり。25分にはなぜかアラベス左SBのテオ・エルナンデスに右サイドを独走されて1:1。これをテア=シュテーゲンがはじいて失点しなかったのは非常に功績大です。

37分ラキティッチが狙っていた右サイドのビダルに出して、ビダルが絶妙のクロス。これにスアレスがきれいにあててゴール。先制点はバルサに。さらに40分、GKの手→スアレスの頭→ネイマールとつながってたたみかけ2点目。

後半開始早々、Cサントスが絶好位置からのシュートをミスってくれて大助かり。アラベスは後半から作戦を変えて、攻撃的なフォーメーションになりました。中盤が押し上げてくるので、後ろがスカスカでカウンターが効きます。

14分メッシがドリブルで持ち込み3点目のゴール。18分カウンター攻撃からアレクシスのオウンゴール。20分にはやはりカウンターからスアレスがラキティッチに打ってくれとパス。これをラキがきれいに決めてマニータ。23分にはネイマールが打った球をGKがはじいたところにスアレスで6点目。

これで終わってくれればめでたしめでたしだったのですが、やけっぱちのアラベスが不穏な雰囲気で、40分ビダルがテオ・エルナンデスのスライディングタックルを食らって今季絶望の重傷となりました。これは痛すぎます。全くやってくれるよね。ビダルも折角バルサの右サイドで有効に機能しはじめたのに、ついてません。これはコパ・デル・レイのファイナルでチンチンにしてあげなければいけませんね。

https://www.youtube.com/watch?v=vXEdHt_luvs

https://www.youtube.com/watch?v=UHrBYMMcq5Y

https://www.youtube.com/watch?v=d3W97IsnVDw



| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月12日 (日)

怪死 事件なのか?

A1180_008583最近知ったのですが、昨年米国ではヒラリー・クリントンにとって都合の悪い人物が次々と怪死していたようです。

元国連総会議長のジョン・アッシュは2016年6月22日に、ニューヨークの自宅で死去したと報じられています。最初は国連は、「心臓麻痺」だと発表していました。しかし、地元警察はのちに、エクササイズ中に、バーベルを喉の上に落としたことが死亡原因だとしています。この2日後、法廷でヒラリーに不利な証言をすると見られていました。バーベルというのは落としても大丈夫な受け具を使ってエクササイズするのではないでしょうか? ノドに当たったそうなので、ベンチプレスでしょう。限界まで上げれば必ず落とすものでしょう。
http://cumbersome.ldblog.jp/archives/4584763.html
http://www.snopes.com/un-official-john-ashe-killed-the-day-before-he-was-to-testify-against-hillary-clinton/

民主党全国委員会職員のセス・リッチは7月10日、自宅近くで銃で撃たれて死亡。ヒラリーのメール情報を漏らしていたと囁かれる人物でした。警察は強盗の仕業としていますが、貴重品(財布、クレジットカード、時計)は何も奪われていませんでした。この件は最も政治テロを思わせます。
http://cumbersome.ldblog.jp/archives/9559866.html
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201608110001/

弁護士のショーン・ルーカスは民主党の候補者氏名争いでヒラリーに敗れたバーニー・サンダース支持者の代理人として、民主党に対して集団訴訟を起こしていました。8月2日、彼は風呂場の床で死んでいるところを恋人に発見されました。恋人によると、健康状態は良かったそうです。
http://sharetube.jp/article/3908/
http://heavy.com/news/2016/08/shawn-lucas-dnc-death-democratic-national-committee-lawsuit-fraud-bernie-hillary-clinton-process-server-seth-rich-murder-sanders/

クリントン周辺での怪死
https://news.nifty.com/article/world/worldall/12205-26153/
http://tocana.jp/2016/06/post_9975_entry.html
http://blog.goo.ne.jp/tumuzikaze2/e/42836efc69450b8fffa0d31931d6e826
http://cumbersome.ldblog.jp/archives/6049256.html

これらはグローバリストのエージェントの仕業ではないかとささやかれています。グローバリストは民主党の候補者争いで、ともかくクリントンを勝たせることに死にものぐるいになっていて、トランプは軽視していたようです。これが彼らにとって正解だったかどうか、注視していきましょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月10日 (金)

やぶにらみ生物論60: タンパク質の基本2

アミノ酸はアミノ基とカルボキシル基を持っているので、酸性溶液中ではアミノ基がNH3+となって塩基、アルカリ性溶液中ではカルボキシル基がCOO- となって酸となります。

A

図1は酸性の溶液にアラニンを溶解し、アルカリ(OHー)を加えて滴定したときのpH変化を示したものです。まずpH2あたりで勾配がゆるやかになりますが、このあたりではアラニンは

+HN-CHCH-COOH → +HN-CHCH-COO- + H+

のようになるので、加えたOH-はH+に吸収され、pHの上昇がゆるやかになります。もう1ヶ所、pH10あたりで勾配がゆるやかになりますが、これはこのあたりで

+HN-CHCH-COO- → HN-CHCH-COO- + H+

となってもう1個プロトンが放出されるので、pH上昇がもう一度ゆるやかになります。このような緩衝作用を2ヶ所で発揮するのが、両性電解質の特徴です。アミノ酸によって緩衝作用を発揮するpH領域は異なるので、アミノ酸の混合液は広い範囲にわたって、環境の変化に対してpHを一定に保つ働きがあり、生物に福音をもたらします。

+HNとCOO-が拮抗して存在するpHを等電点といいます。アラニンの場合6.00です。

タンパク質は1分子中に通常多数のアミノ基とカルボキシル基を持っているので、当然アミノ酸と同じく両性電解質です。ペプチド鎖のN末とC末以外のアミノ酸の種類によって、タンパク質の緩衝領域や等電点は著しく変化します。この変化に寄与するのは主として酸性アミノ酸(グルタミン酸とアスパラギン酸)と塩基性アミノ酸(アルギニンとリジン)です(図2)。

A_2

この4種のアミノ酸が持つ側鎖の数によって、タンパク質の性質は大きく変わります。タンパク質の種類によって、例えば等電点には大きなバリエーションがあります(図3)。

A_3


例えばリゾチーム(ニワトリ卵白)という酵素のアミノ酸配列をみますと、塩基性アミノ酸の数が酸性アミノ酸の数を上回っており、このような場合タンパク質は塩基性となります(図4)。図3に示されるように、リゾチームの等電点は11を少し上回っています。

A_4


一方イヌのペプシンBのアミノ酸配列をみますと、酸性アミノ酸の数が塩基性アミノ酸の数を大きく上回っています。このような場合タンパク質は酸性となります(図5)。ペプシンの場合偏りが極端で、等電点が1となります。胃という特殊な環境で作用する酵素なので、特殊な構造をもっていると思われます。

A_5

生化学実験では等電点の違いを利用してタンパク質を分離精製するという作業がよく行われます。タンパク質の混合液に電流を流して、酸性タンパク質は+側に、塩基性タンパク質は-側に移動するのを利用するわけですが、実際には自然拡散や振動の影響を回避するため、タンパク質が移動できる程度のゆるいゲルを用います(図6)。

A_6

図6には両性電解質をゲルに溶かしておく場合を示していますが、ゲルを作成するときに予めpHの勾配を作ってあるのを購入して使うというのが簡便で、よく利用されます(1)。タンパク質は通常プラスかマイナスにチャージしているので、精製された分子同士は電荷の反発でくっつきにくいのですが、等電点周辺では分子としてはチャージがなくなるので接近しやすく、場合によっては沈殿が発生します。これは等電沈殿という現象で、等電点電気泳動を行う場合には注意しなければいけません。

等電点電気泳動法で分離した後、分子量の差を利用してさらに分離すると、少量とは言え、かなり純度の高いタンパク質が得られる場合が多いです(2、3)。もっと大量のタンパク質を精製する技術は、今でも生化学者の腕のみせどころで、非常に多くの方法が考案されています(4、5)。

タンパク質にはもうひとつ特徴的な性質があります。それはある条件で相転移を行うことで、典型的な例は熱変性です。図7のように生卵に熱を加えると、ある時点で不可逆的にゆで卵になります。これはαヘリックスやβシートというタンパク質の基本構造が、熱によって破壊されることが主な原因です。αヘリックスやβシートは弱い水素結合によって形成されているので、温度が上昇すると不安定になり、構造が破壊されてランダムに近い状態になってしまいます。これによって多数の分子がからまりあって集合し、不溶性のかたまりを形成します。ただしペプチド結合は破壊されないので、バラバラになることはありません(図7)。みずからバラバラにはなりませんが、タンパク質分解酵素で切断されやすい部分が露出して、分解されやすい状態にはなりやすいと思われます。

A_7

タンパク質には完成後に化学的修飾を受けて機能を発揮する分子も少なくありません。非常に色々な修飾が報告されていますが、ここでもいくつか紹介します。まずリン酸化について見てみますと、セリン・スレオニン・チロシンのOHがリン酸化されてOPO3-となります(図8)。リン酸化されているかいないかということが、あるシリーズの生体化学反応の起動スイッチになっている場合が多く、タンパク質のリン酸化は情報伝達のキーとなるイベントになっています。この分野のパイオニアはジョージ・バーネットとユージン・ケネディでしょう(6)。最近話題の抗がん剤オプジーボのターゲットであるPD-1もリン酸化されることによってスイッチを起動するタンパク質のひとつです(7、8)。

A_8

タンパク質のアセチル化も重要な化学修飾です。ヒストンの低アセチル化は転写が抑制されたヘテロクロマチン状態のマーカーとされています(9)。また癌抑制因子として最も有名なp53はアセチル化によって活性化あるいは安定化することも知られています(10-12)。すでに述べたシステインのSS結合や、糖の付加なども非常に重要な化学修飾であり(図9)、その他にも多数の化学修飾が知られています(13)。

A_9


参照:

1)http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/2d-electro/guide-3.html

2)http://www.gelifesciences.co.jp/technologies/2d-electro/guide.html

3)https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9003/9003_yomoyama_2.pdf

4)http://www.jaist.ac.jp/~yokoyama/pdf/02_1analysis1.pdf

5)http://www.gelifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/technical_tips/

6)G. Burnett and E.P. Kennedy, The enzymatic phosphorylation of proteins, J. Biol. Chem. vol. 211, pp. 969–980 (1954) こちら

7)http://www.ft-patho.net/index.php?Programmed%20cell%20death%201

8)Joseph Schlessinger, Receptor Tyrosine Kinases: Legacy of the First Two Decades.  Cold Spring Harb Perspect Biol. vol. 6,  pp.1-13 (2014) doi: 10.1101/cshperspect.a008912.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3949355/pdf/cshperspect-RTK-a008912.pdf

9)https://www.cstj.co.jp/reference/pathway/Protein_Acetylation.php

10)http://www.cyclex.co.jp/resource/keyword/jkeyword_2.html

11)田中知明、転写因子p53の翻訳後修飾と転写活性化機構. 生化学第82巻第3号,pp. 200-209 (2010)

12) Nature ダイジェスト : http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/79254

13)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BF%BB%E8%A8%B3%E5%BE%8C%E4%BF%AE%E9%A3%BE

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月 9日 (木)

貿易をどうする

PhotoNHKの報道によると(1)、アメリカで貿易問題を調査する国際貿易委員会は7日、中国から輸入された道路の舗装などに使う製品が中国政府による補助金によって不当に安く売られ、アメリカの企業が損害を受けていると認定しました。

これによって、中国の製品に対して372.81%の反ダンピング税と、補助金の効果を相殺する最大で152.5%の相殺関税が課せられることになりました。対中国貿易赤字が30兆円以上となる米国としては理解できる処置です。

米国の総貿易赤字(2016年貿易統計) 5023億ドル(56兆円)
対中国 3479億ドル
対日本 689億ドル
対ドイツ 649億ドル
対メキシコ 632億ドル

しかし中国より低いとはいえ、対日貿易赤字も相当なものなので、しかも輸出企業には消費税を実質免除しているというイカサマもやっているので、日本の製品に対しても懲罰的関税がかけられるのは時間の問題だと思われます。晋三がお金を使ってこれを阻止したとすれば(勘弁してもらったとすれば)、それは例によって一般国民からグローバル企業への冨の移転です。注視しましょう。

一見国と国の貿易対決のようにみえますが、先進国から途上国への生産拠点や輸出拠点の移転はグローバル資本主義の定石であり、それによって非正規職員に転落するなどの被害を受ける先進国の労働者がこれを回避しようとすれば、関税を高くするしかありません。それを行うなら国民ファースト、行わないならグローバル企業ファーストの政府ということです。つまり一般国民vsグローバル企業の対決が本質です。

グローバル企業の問題と、異民族や異文化に対する忌避感とは次元の違う問題で、トランプはこの感情を利用して大統領になったので、リベラル派には全く受け入れられなくなってしまいました。グローバル企業の問題では北半分(緑)の民主党支持者はサンダースを支持していましたから、むしろトランプに近かったのです(下図)。

Photo_2


日本は1970年代には食糧自給はできていました。昔にもどせばいいのです。人が足りなければ外国人の力を借りればいいのです。米を作る人は中国にもタイにもミャンマーにも大勢います。一部肉類はオセアニアから輸入やむなし。ただしなるべく肉食はつつしむべきだとは思います。餃子と肉じゃがくらいでいいのではないでしょうか。鶏肉は日本で生産しても高価にはならないので輸入する必要はないでしょう。

衣料品はほぼ中国製で良いのではないかと思います。その分中国に買ってもらう製品は考えないといけません。自動車・医薬品・化粧品が最大の候補でしょうか。日本の安全保障のキーは中国ですから、いくらアンチグローバルと言っても、中国との経済関係が消滅するのは避けるべきです。

日用品・電化製品・自動車・鉄鋼・船舶・PC・携帯電話は極力輸入を避け国内生産にもどします。航空機もあと10年もすればさすがに製造可能でしょう。米国はアンチグローバルでいくわけですから、大いに結構で順次関係を薄くしていけばいいと思います。トヨタは米国企業として生きていけばいいでしょう。そうすれば日米貿易摩擦もたいした問題ではなくなります。

一番難しいのはエネルギーです。ここだけ解決すれば、グローバル資本主義をやめても日本は独立国としてやっていけます。中国は輸出でかせぐために大量の石油を消費しているのですから、米国への輸出が難しくなれば石油消費は少なくなり、原油の値段はさがると思われます。ですからエネルギー問題は解決しやすい方向に向かうと期待したいですね。日本がグローバル資本主義を止める方向に向かうためには、トランプの政策は大きなアシストとなります。このチャンスをのがしてはなりません。

1)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20170208/k10010868491000.html?utm_int=all_side_ranking-social_001

以下引用 from 天木直人ブログ

きょう発売の週刊文春(2月16日号)にとっておきの記事を見つけた。

それは、訪米の最大のお土産である米国雇用創設に国民の年金を差し出すという報道に、菅官房長官が激怒したという記事だ。その記事を書いたのは、いまや安倍首相に最も近いジャーナリストである山口敬之氏だから、その内容は間違いないだろう。

すなわち、2月2日の日経が「公的年金、米インフラ投資」と報じた。3日には朝日も「投資年金資産も活用」と書き、各紙も一斉に書いた。その報道を見た野党は国会で一斉に追及した。

菅官房長官は、「あそこまで怒ったのは最近では記憶がない」(官邸関係者)というほど怒り、安倍首相も「今回の騒動の主犯には落とし前をつけてもらうしかないね」と漏らしたという。

なぜここまで怒るのか。

それは図星であり、今度の訪米成功の最大のお土産であるからだ。そしてそれは決して国民に知らせてはならない国民を裏切るお土産であるからだ。

しかし、私がこの山口記者の記事で驚いたのは、リークに怒った安倍、菅コンビの事ではない。この情報リークに、トランプ政権側から外交ルートを通じてはっきりと不快感が示されたと書かれていたことだ。つまりこの土産は、日本の官僚たちがトランプ側と周到に示し合わせて作った、米国をよろこばせるための土産であったということだ。

それがばれてうまく行かなくなったら一番困るのはトランプ側なのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月 7日 (火)

2016~2017リーガ・エスパニョーラ第21節: パコ・アルカセルついに決める

Braugrana誤審とはいえ、マドリーの後姿が遠ざかっていく・・・。白星を蓄積するしかありません。今週はアスレティック・ビルバオをカンプノウに迎えての1戦。優勝は遠くなってきましたが、カンプノウは大盛況で、クラブはウハウハです。

非常に厳しい日程の中、バルサはコパ・デル・レイを勝ち進んでいるので、スアレスは疲労をとるためのお休みです。FW:ネイマール・パコ・メッシ、MF:アルダ・ラフィーニャ・Aゴメス、DF:マチュー・ウムティティ・ピケ・ビダル、GK:テア=シュテーゲン。なんとしてもパコ=アルカセルに得点をとらせたいバルサではあります。

ビルバオは1トップがイニャキ=ウィリアムス。彼はビルバオ出身ですがスペイン・リベリア・ガーナの3重国籍というめずらしい選手。2列目はムニアイン・ラウル=ガルシア・レクエ。ムニアインは非常に技術が優れた選手なので、このチームのなかでは最も要警戒です。ボランチはイトゥラスペとサン=ホセ、DF:バレンシアガ・ラポルト・ジェライ・デ=マルコス。GK:イライソス。ジェライは精巣癌の手術をしたようですが、無事復帰できてなによりです。

開始早々、パコのクロスにCBがすべって転倒。ネイマールが軽く決めるかと思いましたが、もたついて得点ならず。解説者は毎試合ネイマール・スアレス・メッシが好調とのたまってますが、本当に好調ならバルサが現在のような成績であるわけないので、やはりアジリティーとプリサイスネスが落ちてきています。ただネイマールは最近は元気をとりもどしつつあるとは思います。

ビルバオはアウェイでも厳しいプレスをかけてくる果敢に戦うサッカーです。12分にはCBラポルタが左に持ち込んで絶好のクロス。ウィリアムスがフリーでゴール正面からヘディングシュートですが、見事に失敗。これでほっとしたバルサは、18分ネイマールが左に突っ込み、うまくポジションを移動したパコにマイナスパス。これをパコがダイレクトにゴール。記念すべきリーガ初得点で、先制点はバルサに。

29分にはラウル=ガルシアにゴール正面から打たれますが、テア=シュテーゲンが阻止。40分、ゴール右側の角度のないところでメッシがFKを行いましたが、GKが油断していたのか、直接ゴールに蹴ってなぜかはいってしまいます。簡単にはじけそうな球だったので狐につままれた感じです。望外の2:0で前半終了。

後半はピケがマスチェラーノと交代。54分にはテア=シュテーゲンとぶつかったラフィーニャがラキティッチと交代。さらにメッシもセルジと交代。メッシのポジションにはビダルが上がります。そのビダルが67分、ゴール前に持ち込んで自分でシュート。これがはいって3:0。やはりビダルは貴重な戦力です。ルーチョが考えを改めて本当に良かったと思います。有能な人というのは凝り固まらないというもひとつの条件です。

ところでレアルマドリーはセルタ・デ・ビーゴとの試合が中止になりました。最初聴いたときはテロ情報が流れたのかと思いましたが、なんと風が強かったためというのでびっくり(1)。それでマドリーがスタジアムの屋根を緊急補修せよと要求したというのでまたびっくり。マドリーは2試合延期で、これはスケジュールは厳しくなる可能性がありますが、実は相手の試合が終わっているということは、目標がはっきりしていて有利という見方もできます。

1)https://www.daily.co.jp/soccer/2017/02/07/0009896113.shtml

ハイライト:

https://www.youtube.com/watch?v=iB6XztHO9XY

https://www.youtube.com/watch?v=Oqd0qfo1WtM

https://www.youtube.com/watch?v=MFaDV1LkYq4


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月 5日 (日)

スノーデン by オリバー・ストーン

Imgsnowスノーデンの活動についてはすでにドキュメンタリーが撮影・公開されているので、左の映画パンフレットを見たときにはちょっと驚きました。

ジョセフ・ゴードン=レヴィットが扮するスノーデンはまるで本人のようで、演技もまるで本人が話しているかのようなキャラメイクでさらに驚きました。上官を演じるリス・エヴァンスも素晴らしく、緊張感と臨場感を盛り上げていました。

スノーデンはもともと愛国青年で、志願して特殊部隊に入隊して訓練を受けたほどでした。しかし体力では勝負にならず、除隊してCIAで働くことになりました。しかし2007年頃そこで行われている個人の私生活までのぞき見るというおぞましい活動に恐怖を感じて離職します。

当時ドイツのメルケル首相の携帯電話が盗聴されていたことが発覚したのが、私には衝撃的でしたが、すでに当時からCIAは個人のメールやSNS、チャットの内容などを、まるでグーグル検索のように検索できるシステムを確立していました。

民間に出たスノーデンでしたが、なんとその後NSAの契約社員として、東京のNSA本部で仕事をすることになりました。当時のNSAが東京で何をやっていたかということもスノーデンは暴露しています(1、2)

私たち日本人にとって衝撃的なのは、NSAが日本で行っていたことです。日銀や民間企業職員の自宅盗聴からはじまり、あらゆる市民が監視されている状態にあります。スノーデンは「米国によって、送電網やダム、病院などの社会インフラに不正プログラムが仕込まれ、もし日本が同盟国でなくなったら不正プログラムが起動し、日本は壊滅する」と証言しています(3)。

彼はその後ハワイのNSA工作センターに勤務し、そこからデータを持ち出して逃亡することになるのですが、どのような方法で持ち出すかというのがこの映画の山場です。是非その緊張感を味わって欲しいと思います。

現政権はともかくアメポチとして生きるのに必死で、そのために憲法に抵触するような法改正をどんどん行って、最後には憲法も変えようとしている連中です。スノーデンやオリバー・ストーンが願っているのは、そのような政権によって催眠状態にある日本人に覚醒して欲しいということです。

1) http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49507

2) http://mat-ottomo.jugem.jp/?eid=448

3) http://www.dailyshincho.jp/article/2017/02020557/?all=1

上映館: http://www.snowden-movie.jp/theater/

公式サイト: http://www.snowden-movie.jp/

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年2月 2日 (木)

やぶにらみ生物論59: タンパク質の基本1

タンパク質は生物の体を構成する要素として最も重要な物質であり、同時に栄養源としても重要です。タンパク質に含まれるアミノ酸の数をnとすると理論上20のn乗の種類のタンパク質があり得ますが、遺伝情報としてDNAに刻まれているのは、哺乳類では2万数千種類くらいです。それらは生物の歴史を反映したものであり、なかには細菌・古細菌・真核生物のすべてにおいて機能しているタンパク質も少なくありません。

これまでの復習もかねてタンパク質の基本構造を示すと、図1のようになります。まずアミノ酸がペプチド結合でつながった1次構造。すなわちつながるアミノ酸の順列が一番基本的な構造になります。次にαヘリックス・βシート・ランダムコイル・その他の規則的な構造などのローカルな共通構造を2次構造とよびます。数学で言う「次元」とは別の概念なので注意しましょう。

A

αヘリックスやβシートなどを空間に3次元的に配置したものを3次構造とよびます。図1のリゾチームの図がそれにあたります。リゾチームは多糖類を分解する酵素です。3次構造で示した同じまたは異なるタンパク質が、特定の配置で集合したような場合、その集合体を4次構造とよびます。

タンパク質の3次元構造は、X線結晶解析によって解明されました(1、2)。この功績によりジョン・ケンドリュー(1917-1997)とマックス・ペルーツ(1914-2002)(図2)は1962年のノーベル化学賞を受賞しました。同じ年にワトソンとクリックもノーベル医学生理学賞を受賞したので、この年のノーベル賞は、タンパク質とDNAの構造解明者が同時に受賞するという、分子生物学の歴史上最大の出来事と言っても良いでしょう。

A_2

ペルーツ自身はナチスが台頭する前にウィーンからイングランドに留学していたのですが、ナチスの侵略後は両親が難民となったため資金を絶たれピンチとなりました。しかしロックフェラー財団の援助で学業・研究を続けられたそうです。第二次世界大戦中は氷山空母を建造する計画に参加していました(3)。

ケンドリューは英国空軍の研究所でレーダーの研究をしていましたが、なぜかタンパク質に関心を持つようになって、生物物理学の分野にやってきた人です。ケンドリューとペルーツは二人ともケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所に在籍し、サー・ローレンス・ブラッグの高弟でした。ワトソンとクリックがDNAの構造を解明したのも、この研究所での仕事でした。

彼らが研究材料として用いたミオグロビンというタンパク質(図3)は、クジラなど海に棲む哺乳動物の筋肉に豊富なもので、酸素を強く結合して保管しておき、血液中の酸素濃度が低下したときに放出して、長い時間海に潜ったままで活動する彼らの生活をささえています。血液中の酸素リザーバーはヘモグロビンで、ミオグロビンと類似したグロビン分子4つで構成されています(図5)。ですのでミオグロビンはヘモグロビンよりかなりシンプルな構造であり、研究材料として好適だったわけです(4)。もちろんクジラからなので、サンプルが大量に確保できるという利点もありました。

A_3

ただちょっと複雑なのは、ミオグロビンはアミノ酸が連結した鎖だけでできているのではなく、ヘムという非タンパク質の、いわゆる補欠分子族といわれる物質を含んでいます。ヘムはポルフィリン環と中央部の鉄原子からなり、この鉄原子は酸素分圧によって、酸素と結合したり分離したりします(図4)。この反応を利用してミオグロビンは酸素不足時に筋肉に酸素を供給しています。ミオグロビンは8つのαヘリックスをもつ安定な構造のタンパク質で(図3)、ヘムを組み込むことによって適切に酸素を組織に供給する役割を果たしています。

A_4

ヘモグロビンはミオグロビンに類似したαグロビンとβグロビンを2個づつ組み合わせた4量体タンパク質で、前述の4次構造を持っています(図5)。それぞれのグロビンがひとつのヘムを持っているので、1分子のヘモグロビンには4個のヘムが存在します。ヘモグロビンのヘムは、ミオグロビンのヘムにくらべて酸素との親和性が低く、酸素を放出しやすい性質を持っています。ヘモグロビンやミオグロビンは単なるヘムの台座ではなく、必要な酸素を適切に供給できるようなシステムを提供していると言えるでしょう。

A_5

ヘムはミオグロビンやヘモグロビン以外にもいくつかのタンパク質に含まれており、シトクロムcもそのひとつです(図6)。シトクロムcはαヘリックスを4つ持ち、アミノ酸約100個からなる小さなタンパク質ですが、酸素呼吸を行う生物(細菌から哺乳類に至るまで)にとっては必須の生体分子です。

A_6

シトクロムcに含まれるヘムは、ミオグロビンやヘモグロビンのヘムbとは異なり、ヘムcという構造をとっています。ヘムcはタンパク質と硫黄原子を介して共有結合しています(図7)。ヘムについてより詳しい情報は文献(5)を参照して下さい。

A_7

ヘム以外にも補欠分子族にはさまざまなものがあり、図8と図9に主要なものを示しました。タンパク質と頻繁に結合したり分離したりする分子の場合、常時タンパク質に結合している補欠分子族と区別して補酵素とよぶこともあります。補欠分子族や補酵素はタンパク質以外の物質であり、同様な機能をタンパク質が持つ場合、それはサブユニットとよばれるタンパク質の4次構造の一部または独立の制御因子とみなされます。

A_8

A

補欠分子族・補酵素はビタミンと関係が深く、FMN・FADはビタミンB2から合成され、メチルコバラミン=ビタミンB12、ピリドキサルリン酸=ビタミンB6、ビオチン=ビタミンB7、チアミン=ビタミンB1、NAD+・NADP+はナイアシンから合成されます。

ミオグロビン・ヘモグロビン・シトクロムcはすべてαヘリックスとランダムコイルに近いペプチド鎖で構成されたタンパク質ですが、たとえばポリンのように、主要な構造がβシートで構成されているタンパク質もあります(図10)。ポリンは細胞膜にβシートが壁に相当するトンネルを埋め込んだような形で存在し、膜を通過する低分子物質の選別を行います。βシートはその通りシート状の構造や、かごのような構造をつくることもできます。

A_10

αヘリックスやβシートとは異なる、あるいはバリエーション的な規則構造をもつタンパク質も存在します。絹フィブロインは昆虫の繭の成分ですが、 Gly-Ser-Gly-Ala-Gly-Ala というアミノ酸配列の繰り返しを多数持っていて、図11のようにこの構造の逆順鎖と隣接することによって、まるでファスナーのように側鎖がかみ合って、繊維状の構造を形成しています。この側鎖が大小大小と交互に並ぶ特殊なファスナー様構造によって、絹は非常にちぎれにくい丈夫な繊維になることができます。

A_11

さまざまなタンパク質のアミノ酸配列およびその他の情報はデータベースに集積されており、誰でも閲覧することができます。たとえば pir=protein information resource (6)にアクセスして、上部のバーから search/analysis を選択してクリック、次の画面から text search を選択してクリック、そうすると選択と入力の窓がでてきますので、選択の方は protein name を選択、入力の方は globin と入力し、search をクリックします。検索結果画面の最初に Protein name and ID という欄がありますので、その HBA MOUSE をクリックすると、マウスのαグロビンに関する様々な情報が得られます。スクロールしていくと真ん中あたりにアミノ酸配列が記載してあります(図12)。

A_12

またはゲノムネットにアクセスし(http://www.genome.jp/ja/)、DBget search を開いて swiss prot というデータベースを探してクリックします。でてきた入力の窓に mouse globin と入力し、リストの中から HBA MOUSE を選択すると同様なデータが得られます。Swiss prot では、最後(ローエンドまでスクロールする)にアミノ酸配列の情報が記載されています。

このようなデーターベースの情報を用いて、すべての動物が持っているタンパク質であるシトクロムcのアミノ酸配列を、さまざまな動物について打ち出してみると、興味深いことがわかります(図13)。

A_13

左から3番目のアミノ酸をみてみますと、20種類の動物のうち16種類ではすべてバリンですが、七面鳥・鶏・鳩・王様ペンギンの4種類ではイソロイシンになっています。哺乳類はこのアミノ酸を魚類・両生類・爬虫類から引き継いでいますが、鳥類はある時点でバリンをイソロイシンに転換したということになります。これはたまたまなのか、何らかの意義があるのかよくわかりませんが、アミノ酸配列から進化系統について論ずることが可能であることが示唆されています。

もうひとつ興味深いのは4番目と46番目です。いずれもサル目のなかでクモザルだけが他と異なるアミノ酸になっています。ただし4番目の場合、爬虫類・鳥類・哺乳類のすべてがグルタミン酸(E)であるのにクモザルだけフェニルアラニン(F)となっています。対照的に46番目では爬虫類・鳥類・哺乳類のすべてがフェニルアラニン(F)なのに、クモザル以外のサル目の動物だけがチロシンとなっています。これだけのデータでも、サル目のなかでクモザルだけが独立したグループであることが示唆されます。一方で11~12番目をみると、クモザルを含めたサル目が、サル目以外の哺乳類・鳥類・爬虫類・魚類とは異なる共通配列を持っていることがわかります。

たった1種のタンパク質のアミノ酸配列を比較しただけでも、様々な生物の歴史や系統関係を調べる糸口になります。実際シトクロムcのアミノ酸配列を比較するだけで系統樹を記述することができたという論文もあります(7)。

参照:

1)John Kendrew et al., A Three-Dimensional Model of the Myoglobin Molecule Obtained by X-Ray Analysis., Nature vol. 181, pp. 662 - 666 (1958); doi:10.1038/181662a0

2)Max Perutz et al., Structure of Hæmoglobin: A Three-Dimensional Fourier Synthesis at 5.5-Å. Resolution, Obtained by X-Ray Analysis., Nature vol. 185, pp. 416 - 422 (1960); doi:10.1038/185416a0

3)Reviewed by Richard E. Dickerson, "Max Perutz and the secret of life" by Georgina Ferry,
Protein Sci. vol. 17, pp. 377–379 (2008) doi:  10.1110/ps.073363908
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2222719/

4)Myoglobin: A brief history of structural biology. Video presentation.
http://www.richannel.org/myoglobin-a-brief-history-of-structural-biology

5)Shigekazu Takahashi, and Tatsuru Masuda, Analysis of Heme in Photosynthetic Organisms. 低温科学 vol.67, pp. 327-337 (2009)
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/39163/1/67-048.pdf

6)http://pir.georgetown.edu/

7)Robert M. Schwartz and Margaret O. Dayhoff, Origins of prokaryotes eukaryotes mitochondria and chloroplasts. Science,
Vol. 199, Issue 4327, pp. 395-403 (1978)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年1月 | トップページ | 2017年3月 »