« 上野動物園のフォッサ 再び & 都響ティータイムコンサート | トップページ | JPOP名曲徒然草174: 「最高の片想い」 by タイナカ彩智 »

2016年10月21日 (金)

やぶにらみ生物論40: 核酸構造解析のはじまり

Photo_2アルブレヒト・コッセル(図1)はミーシャーが生化学・生理学を学んだホッペ=ザイラーの研究室、といってもチュービンゲンではなくてストラスブール(現在はフランス)にあった研究室で1877年から1881年まで助手をしていました。

当時ホッペ=ザイラーはミーシャーが発見した奇妙な酸性物質ヌクレイン(後に核酸と呼ばれる)に関心を寄せていて、コッセルも巻き込まれることになりました。その後ベルリン大学、大学、マールブルク大学、ハイデルベルク大学で教鞭をとりながら研究を進めました。

19世紀末から20世紀初めにかけてコッセルは、化学の手法のみによって、エミール・フィッシャーをはじめとする多くの研究者の協力を得て、核酸(DNA)が4種類の成分、アデニン・グアニン・シトシン・チミンと糖を含むことを証明しました(図2)。

現在では低分子物質の化学構造は分析機器によって簡単に判るわけですが、当時は大変な作業で、いろいろと紆余曲折を経てようやく構造決定にこぎつけました。アデニン・グアニン・シトシン・チミンはまとめて核塩基と呼ばれます。

Photo_3

コッセルはこの業績によって1910年にノーベル賞を受賞しています。受賞講演の中で彼は、「核酸などの生体分子はビルディング・ブロックにたとえられる部品(ある種の原子のグループ)の集合体で構成されており、部品の段階で体内に吸収されて、体内で計画に基づいて生体分子が形成される」という考え方を述べています(1)。これは非常に先進的な考え方であり、コッセルのセンスの良さを感じます。

もうひとつの核の塩基ウラシルは、1900年にアルベルト・アスコーリによって酵母の核酸から発見されました。現在ではウラシルはDNAにはほとんど含まれず、もうひとつの核酸であるRNAの成分であることが知られています。現代的表現の構造式を図3に示します。

Photo_4

コッセルは核酸には糖が含まれることを見いだしましたが、糖と核塩基との関係、さらにミーシャーが核酸の成分としているリン酸との関係は明らかではありませんでした。これらの構造的関係を明らかにしたのがフィーバス・レヴィン(図4)です。

レヴィンは1905年にニューヨークのロックフェラー医学研究所の研究室長に抜擢され、ずっとそこで研究を続けました。当時この研究所には野口英世も在籍していました。

Photo_5レヴィンは1909年に核酸に含まれている糖がリボース(D-ribose)であるとし、1929年にはこれがデオキシリボース(2-deoxy-D-ribose)であると修正しました。

現在ではDNAの成分がデオキシリボース、RNAの成分がリボースであることが判っています。ここにいたってようやく ミーシャーのリン酸、コッセルの有機塩基、レヴィンのデオキシリボースというDNAのすべての構成要素が出そろったわけです。

レヴィンのもうひとつの大きな業績は糖・核塩基・リン酸の構造的関係を明らかにしたことです。

図5で示されるように、リン酸-デオキシリボース-塩基が化学結合し、核酸の基本的な構成ユニットとなっていることをレヴィンは解明しました。このユニットはヌクレオチド(nucleotide)と命名されました。

Photo_6

ここまではよかったのですが、レヴィンはこの構成ユニットがどのように連結されているかについて、テトラヌクレオチド仮説という誤った仮説を発表し、大きな混乱をもたらしました。彼の仮説によると、アデニン-糖-リン酸、グアニン-糖-リン酸、シトシン-糖-リン酸、チミン-糖-リン酸という4つのユニットが図6のように連結されて核酸を構成していることになります。レヴィンの業績については文献(2)にまとめられています。

Photo_8

テトラヌクレオチド仮説に対する決定的な反論はスウェーデンの科学者、スヴェドヴェリ(Theodor Svedverg 1884-1971、参照3)によって行われました。スヴェドヴェリは超遠心機を開発し、分子の沈降速度からその分子の大きさを計測しました。それによれば、DNAはテトラヌクレオチドのような分子とは比較にならないくらい巨大な分子であることがわかりました。

このほかもしレヴィンの説が正しければ、アデニン・グアニン・シトシン・チミンは常に1:1:1:1で存在しなければなりませんが、測定が精密になればなるほどそうではないことが明らかになってきました。こうして謎が深まる一方の状況で、レヴィンは1940年に亡くなってしまい、世界は第二次世界大戦に突入します。

最後にヌクレオチド関連物質の命名法について述べておきましょう(図7)。

5炭糖(炭素原子5個を含む糖、時計回りにそれぞれの炭素原子に1~5の番号がつけられています)のデオキシリボースまたはリボースは、炭素原子4個と酸素原子1個からなる複素環にもう一つ炭素原子(5番)が結合した形になっています。1の位置の炭素が有機塩基(ここでは adenine だとします)の窒素と結合してC-N結合でつながっています。このデオキシリボース(またはリボース)と有機塩基が結合した分子をヌクレオシド(nucleoside, ヌクレオサイド)と呼びます。

ヌクレオシドの5炭糖の5の位置の炭素にリン酸が結合した分子をヌクレオチド(nucleotide, ヌクレオタイド)と呼びます。ヌクレオチドにはリン酸が1個または2個または3個結合する場合があり(図7)、区別が必要な場合はそれぞれ、ヌクレオシド1リン酸、ヌクレオシド2リン酸、ヌクレオシド3リン酸と呼びます。

A


ヌクレオシドには塩基として、アデニン、グアニン、チミン、シトシンが結合している分子があり、糖の2の位置がHだった場合、それぞれデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、(デオキシ)チミジン、デオキシシチジンと呼びます。糖の2の位置がOHだった場合は、それぞれアデノシン、グアノシン、RNAの場合にはチミンでなくウラシルが結合していて、この場合ウリジンと呼びます、そしてシチジンです。チミジンの場合、ウリジンと判別が容易なので、頭にデオキシをつけないことがあります。

5炭糖の2の位置の炭素にHが結合する場合の糖の名称はデオキシリボース、OHが結合する場合リボースです。DNAの構成要素はデオキシリボースです。アデニンとグアニンをまとめてプリン、チミンとシトシンとウラシルをまとめてピリミジンと呼ぶことがあります。

次にヌクレオチドですが、例えば図7のようにアデノシンに3つのリン酸が結合している場合で糖がリボースの場合、アデノシン3リン酸(ATP=adenosine triphosphate)と呼びます。2つのリン酸が結合している場合はアデノシン2リン酸(ADP=adenosine diphosphate)、ひとつだとアデノシン1リン酸(AMP=adenosine monophosphate) ということになります。これらの物質の名前は、生化学を学ぶときには嫌と言うほど頻繁に登場します。

糖がデオキシリボースの場合、例えばアデノシン3リン酸はデオキシアデノシン3リン酸ということになり、dATPと表記します。2リン酸の場合dADP、1リン酸の場合dAMPです。

参照:

1)アルブレヒト・コッセルのノーベル賞受賞講演
https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/1910/kossel-lecture.html

2)レヴィンの業績:PHOEBUS AARON THEODOR LEVENE 1869-1940、Proc NAS USA XXIII  pp.75-126 (1943)
http://www.nasonline.org/publications/biographical-memoirs/memoir-pdfs/levene-phoebus-a.pdf

3)https://en.wikipedia.org/wiki/Svedberg













|

« 上野動物園のフォッサ 再び & 都響ティータイムコンサート | トップページ | JPOP名曲徒然草174: 「最高の片想い」 by タイナカ彩智 »

生物学・科学(biology/science)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/133582/64378387

この記事へのトラックバック一覧です: やぶにらみ生物論40: 核酸構造解析のはじまり:

« 上野動物園のフォッサ 再び & 都響ティータイムコンサート | トップページ | JPOP名曲徒然草174: 「最高の片想い」 by タイナカ彩智 »