やぶにらみ生物論22: 三畳紀の生物1
カンブリア紀から現在に至るまでで最大の絶滅が発生したP-T境界(ペルム紀-三畳紀境界、1)から、恐竜の時代であるジュラ紀までの期間、2億5千100万年前から2億年前までの約5000万年の期間を三畳紀とよびます。種のレベルで90~95%の生物が絶滅したと言われるペルム紀末の大絶滅により、個体のレベルではほぼ100%生物は死滅し、ごくわずかの生き残りから再出発することになりました。
ではどんな生物が生き残ったのでしょう? 図1に三畳紀前期の状況を示します。ペルム紀に繁栄していた単弓類はほとんどが死に絶え、リストロサウルス・バウリア・サイノドンなどわずかなグループが生き残りました。リストロサウルス(図2 以下の図はウィキペディアより拝借)は見た目武器も防具も持たない平凡な草食動物のようですが、穴を掘って夏眠(冬眠)することができる動物だったとされています(2)。体長も数十センチの小型動物です。まず地下に住んでいたため火砕サージなどの直撃を免れたこともあるかもしれませんが、その後火山灰が降って植物も消え去り、砂漠のようになった大地で、彼らはわずかな食糧で生き延びることができたはずです。
リストロサウルスはエネルギーをごくわずかしか使わずに生きるという術を持っていたことが幸いしたのでしょう。バウリア(図3)はリストロサウルスと同様、平和的な外見の草食動物ですが、二次口蓋(のどまで続く鼻の穴)が発達するなどかなり哺乳類に近い生物だったようです。二次口蓋があるということは、食事しているときの呼吸が格段に楽になるというメリットがあります。草食動物にとってこのことは特に重要です。ウィキペディアのバウリアの項目にはヒゲまで描いてあります。おそらくリストロサウルスと同様省エネ生活が得意だったのでしょう。噴火後2~3ヶ月生き延びられれば、草原がある程度復活して、最低限の食糧は確保できたのではないでしょうか。
これらの生き残った草食動物は、さらにわずかに生き残った肉食動物にとって貴重な食糧となり、生態系の維持に大きな役割を果たしたと思われます。私たちのご先祖様であるサイノドンもいくつかのグループが生き残ったようで、サイノドンが全滅していればもちろん人類を含めた哺乳類は出現していないはずです。そうなると現在の地球の状況も随分違ったものになっていたでしょう。
サイノドンはおそらく内温動物で、三畳紀前期は酸素が15%くらいあるいはそれ以下しかなかったので、さすがにウォードが言っているように低酸素環境が圧力となって内温性が進化したのでしょう。内温性の進化はミトコンドリアの質的・量的発達を意味しているので、同時に呼吸の効率化が進み、低酸素に適応できたと思われます。
サイノドンでは門歯と臼歯がはっきり分かれて分業し(異歯性の確立)、二次口蓋が完成し、脳が発達してきました。また腹部の肋骨が退化してきました。これは横隔膜による呼吸をはじめたことによります。横隔膜で呼吸するためには、腹部はでたりひっこんだりしなければならないので、肋骨は邪魔になります。おそらくリストロサウルスなどのディキノドングループは横隔膜による呼吸法を獲得できなかったと思われます。彼らは腹部の肋骨を維持しています(4)。
トリナクソドン(図4)は代表的な三畳紀前期のサイノドンで、昆虫などを食べていた猫くらいの大きさの生物です。リストロサウルスなどと同様に多くの時間を穴の中ですごしていたと考えられています。顎骨に多くの穴が開いており、ヒゲの毛根を収納していたと思われます。私はヒゲがある生物はすべて体毛も持っていたと考えています。このほかプロガレサウルス(5)などもよく発掘されるようです。
2010年に六本木ヒルズで「地球最古の恐竜展」というのをやっていて、私も見てきたのですが、そこにサイノドンの1種として知られているエクサエレトドンの全身骨格があったのには感動しました(6)。三畳紀前期の地層から発掘されたもので、復元図はかなり凶暴な雰囲気ですが、実は草食動物だったそうです。
ここまで単弓類について述べてきましたが、双弓類もP-T境界で大打撃を受け、大変数が減ってしまいました。三畳紀後期には恐竜が登場するので、その祖先動物は生き残ったはずですが、明らかにはなっていません。恐竜や翼竜も含めて、これらのグループをオルニソディラとよびます。オルニソディラの基部に近い位置にある動物で、三畳紀の中期に生きていた動物はいくつかしられています。アシリサウルス(図5)は体長1~2mの大型で、マラスクスは猫くらいのサイズです。これらの生物は恐竜ではなく、共通の祖先から派生した動物だとされています。それにしても素晴らしくスマートな生物で、クルロタルシなどに狙われたときの逃げ足も速かったのでしょう。彼らより古い三畳紀前期に生きていた類似動物としてプロロダクティルスが知られていますが、残念ながら足跡しか化石が見つかっていないようです。オルニソディラの系統樹基部・恐竜の起源などについては、まだまだ謎が多いのです。
湖沼や河川で生活していた生物は、完全に陸上に上がった生物に比べると、P-T境界を生き延びるチャンスが大きかったようです。この代表はクルロタルシ類で、上記のオルニソディラとは別系統の双弓類です(図1)。オルニソディラでは鳥類だけが現存し、クルロタルシではワニ類だけが現存しています。これにカメおよびその祖先動物を加えて主竜類とよぶこともあります。クルロタルシ類については次回で述べることにします。
主竜類以外の双弓類では、魚竜が三畳紀前期から出現していました。このグループの起源はよくわかりません。化石はみつかっていないようですが、おそらくペルム紀の頃から存在して、P-T境界を生き延びたと思われます。首長竜はオルニソディラやクルロタルシではなく、魚竜とも別のルーツを持つ双弓類のグループで、ペルム紀・三畳紀前期にもその祖先が存在していたことは想像されますが、証拠がみつかっていません。
せっかく肺を獲得して地上で生活していた動物が再び海をめざすということは複雑な話ですが、我々哺乳類においてもクジラやイルカはそういう運命をたどりました。三畳紀前期の魚竜の中で、ウタツサウルス(図6)は宮城県の歌津というところ(現在は南三陸町)で発掘されました。ウタツサウルスは初期の魚竜ですが、足はすでにヒレに変化しています。魚竜は白亜紀で絶滅しており、現在では生きている生物をみつけることができません。
両生類もP-T境界で大きなダメージを受け、ほとんどの種が絶滅してしまいました。リネスクスというトカゲっぽいグループ、クロニオスクスというワニっぽいグループ(もちろんワニではない)などが生き残りました。ペルム紀の生物とどうつながっているかはわかりませんが、三畳紀初期にトリアドバトラクス(図7)という、カエルの始祖と思われるような生物が新たに登場しました。まだ短い尾がついています。現在のカエルには尾はありません。
ペルム紀末の大絶滅によって、海洋の生物も大きなダメージを受けました。三葉虫・棘魚類・フズリナは絶滅してしまいました。絶滅はしないまでも、その後ずっとマイナーな生物として生き延びたグループとしては腕足類やウミユリなどがあげられます。棘魚類以外の魚類はなんとか生き延びることができました。
アンモナイトは大打撃をうけながらも、ごく一部がしぶとく生き延びて、2億3000万年前くらいまでにはペルム紀をしのぐほどの大復活をとげました。彼らは白亜紀大絶滅まで生き残ります。彼らの祖先生物と思われるオウムガイは、これらの大絶滅を乗り切って現在も生き続けています。また三畳紀には2枚貝が繁栄しました。アサリ・シジミなどの2枚貝は現在も繁栄を続けています。昆虫は非常に絶滅しにくいしぶといグループですが、それでもペルム紀に22目あったのが、P-T境界で14目に減りました。生き残った目に属する生物は、その後復活して現在に至っています。
1) http://morph.way-nifty.com/grey/2016/06/post-dd7b.html
2)「三畳紀の生物」 土屋健著 技術評論社 2015年
3)C. A. Sidor and R. M. H. Smith. 2004. A new galesaurid (Therapsida: Cyndontia) from the Lower Triassic of South Africa. Palaeontology vol.47, pp535-556
4) http://biggame.iza-yoi.net/Therapsida/Dinocephalians.html
5) http://viergacht.deviantart.com/art/Progalesaurus-lootsbergensis-438381312
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コメント
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