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2016年5月13日 (金)

やぶにらみ生物論18: 石炭紀の生物1

デボン紀に続く石炭紀は3億5900万年前~2億9900万年前の時代です。まず図1をみてみましょう。デボン紀の後期にFーF境界という謎の絶滅があって、しばらくしてから石炭紀になります。絶滅時代に13%くらいに落ちていた酸素濃度は石炭紀の初期には17%くらいにまで回復し、その後ペルム紀初期にかけてどんどん上昇していきます。生物の多様性はこの間全体的には進行していないことが読み取れます(赤いカーブ)。石炭紀の中央あたりに青▼の絶滅マークがありますが、これについてはよくわかっていません。二酸化炭素の減少に植物がまだ対応できなかったのか、あるいはゴンドワナ大陸とローレンシア大陸が衝突するという地殻変動の影響があったのかもしれません。

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デボン紀から石炭紀にかけて、陸上にはじめて森林が形成されました。現在の大気中の二酸化炭素濃度は 0.037% (370ppm) ですが、デボン紀はじめには 3600ppm 以上あった濃度が、石炭紀の中頃には現在と同じくらいの濃度にまで低下してしまいました。すなわちデボン紀・石炭紀の空気中の二酸化炭素は植物によって固定され、植物の死骸が土に埋もれて石炭になってしまって、空気中には戻らなかったのです。これはシアノバクテリアによって大気に酸素が放出されて以来の、生物による自然環境の激変と言えるでしょう。

http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2009/03/504.html

図2は石炭紀の風景です

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ここで疑問が湧いてくるのは、巨大な草食恐竜を育てるのに十分な森林があったジュラ紀・白亜紀などに起源を持つ石炭が少ないのはなぜか? これはよくわかっていないようですが、仮説はいろいろあります。石炭紀には未だセルロースやリグニンを分解して利用する微生物が少なかった(あるいはいなかった)ためとか、当時の樹木は根が浅くてすぐに倒れたとか、本当かどうかはわかりません。ピーター・J・ウォードの本(1)を読んでいると、石炭紀後期には酸素濃度が30%くらいあったので、落雷があるごとに火事になっていたという記述があって、それなら微生物は分解利用する暇が無いし、植物の死と再生のサイクルが早くて、石炭ができやすかったのかなと思いました。これも単なる想像なので、とりあえず石炭ができやすい地球環境があったとしか言えません。

参考書(1): 「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」 ピーター・J・ウォード著 垂水雄二訳 文藝春秋社 2008年
↑この本の日本語タイトルは内容と異なっており(原題は Out of thin air)、実はカンブリア紀からの生物と環境の関係を記述してある本です。

酸素濃度が非常に高かったということは、石炭紀後期は肺を持たない節足動物にとっては好適な環境でした。メガニューラというトンボのなかには、羽を広げたときの幅が70cmくらいある種もいました(図3)。彼らをはじめ多くの昆虫が、石炭紀に陸地に上陸したばかりか、空を飛ぶ機能まで獲得したことは、それまでの静かな陸地の状況を一変させました。その他体長1メートルあるいはそれ以上のヤスデやサソリもいたようです。ロバート・ダドリーによると、酸素濃度を高くした環境でショウジョウバエを育てると、体の大きなショウジョウバエが発生するそうです。

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デボン紀にいたイクチオステガやアカントステガという、まだ主に水中で生活していたと思われる生物(一応両生類とされている)から、陸上主体の生活をする両生類が出現するまでの間に相当する石炭紀前期の地層から全く両生類の化石が発見されず、そのことを指摘したローマ-にちなんでこの期間は「ローマ-の空白 Romer's gap」と呼ばれていましたが、ジェニファー・クラックが2003年にペデルペス(前回のデボン紀2の記事に図があります)というミッシング・リンクを発見して少し落ち着きました。ただ3億6000万年前から3億3000万年前までの期間は、両生類にとっては細々と生き延びていた雌伏の時期だったのでしょう。ピーター・ウォードの仮説によれば、デボン紀の大量絶滅から石炭紀前期の「ローマ-の空白」期に至るまでの期間、酸素が不足していたため、陸上にはほとんど動物がいなかったということになっています。

そして石炭紀中・後期にどんどん酸素濃度が上昇するとともに、上記の昆虫全盛期が訪れ、四肢動物もいよいよ陸上に進出しました。四肢動物が上陸を果たすには、これまでにも述べてきたように、浮力の無い地上でも歩き回れるような筋肉をもつ四肢、空気中の酸素を利用するための肺が必要でしたが、必要なのはそれだけではありません。水中での生活と縁を切るためには、胎生を獲得するか、殻付きの乾燥しない卵を地上に産むかという新機軸を獲得しなければなりません。

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図4は卵生と胎生のメカニズムを図示したものです。両生類や魚類の卵はイクラをみればわかるように、子供と栄養(卵黄)をゼリーで被い、さらに卵膜で囲んであります。ゼリーや卵膜はアンモニアを透過するので、水中に生む場合は子供の尿(アンモニア)は拡散によってまわりに排出されるので大きな問題はありません。

ところが陸に卵を産んだり、母体で育てる場合には、アンモニアをどうするかが大問題となります。アンモニアはさわるとヤケドをするくらい危険な物質ですし、神経毒性もあって、とても体内にため込んではおけません。より毒性が低い尿素や尿酸に代謝する必要があります。爬虫類や鳥類は外界に殻付きの卵を産む場合が多いので、アンモニアを尿酸に代謝して尿膜腔という袋にためこみます。哺乳類は尿膜を胎盤と一体化させ、胎児が排出したアンモニアを胎盤を通して母親の体内に移して、母親が尿素に変換するというやり方で問題を解決しています。

しかしここで一つ疑問があります。爬虫類は最初から殻付きの卵を産んでいたのでしょうか? 両生類が産むような卵に、単に殻をつけて陸上に産んでしまうと、子供は尿毒症で死んでしまいます。その前にアンモニアをどうにかする代謝経路や、子供を包んで乾燥を防ぐ羊膜や尿をため込む袋とか構造的なものも準備しなくてはなりません。

内部が羊水で満たされた羊膜は爬虫類・鳥類・哺乳類が持っているもので、両生類にはありません。そこで爬虫類・鳥類・哺乳類をまとめて有羊膜類といいます。初期の爬虫類はおそらく羊膜をかぶせた胎児を羊水で満たされた羊膜腔で育てていたのではないでしょうか(胎盤はなくても胎生あるいは卵胎生)。アンモニアの代謝は現代魚類はある程度行っているので、初期の爬虫類もある程度できたのではないでしょうか。

今生きている爬虫類のなかにも、イエローベリー・スリートード・スキンク(Saiphos equalis)などのように、同じ種で胎生と卵生を行う場合があるので(下記の記事を参照)、結構胎生と卵生の変換そのものは、進化の過程でそれぞれの準備ができていれば、そんなに困難ではないと思われます。たとえば羊膜に包まれた卵を湿地に産んだり、干上がってしまったら産まずに体内にとどめるなどということもあり得たと思います。

そのうちに尿膜腔を獲得し、輸卵管からの分泌で殻をつくる術を獲得しという順で進化が進んで、典型的な卵生の爬虫類が誕生したと想像できます。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/3081/?ST=m_news

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哺乳類の場合胎盤を発達させて、これを通して胎児への栄養供給と老廃物処理を行うようにしたので、卵黄と尿膜腔はいらなくなりました。尿膜腔は胎盤と一体化したと述べましたが、卵黄嚢は別の用途で利用しています。それは胎児型赤血球の産生で、肝臓・脾臓・骨髄などの造血器官がまだ整備されていない胎児は、卵黄嚢などでつくられた赤血球を利用します。図5はエコーでみるヒト胎児の卵黄嚢です。

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図6はアンモニア・尿素・尿酸の構造式です。アンモニアと尿素は水に良く溶けますが、尿酸は難溶性です。尿素は水に良く溶けるので、濃度が濃くなると浸透圧が高くなって、子供の体から水を奪うことになります。このため殻付きの卵では、尿酸に代謝することが必要になります。

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図7はアンモニア無毒化のために私たちが使っている代謝経路で、尿素回路と呼ばれています。私たちだけでなく、一般的に魚類・両生類・哺乳類はこの回路を利用し、そしておそらく初期の爬虫類も尿素回路を使ってアンモニアを無毒化していたと思われます。

水生無脊椎動物はほとんどのものがアンモニアを排出します。硬骨魚類が排出する窒素化合物の大部分はアンモニアですが、尿素を淡水魚では全窒素の10%~20%、海水魚では20%~40%排出します。軟骨魚類のサメやエイは主として尿素を排出します。肺魚は水生生活の時、アンモニア(65%)と尿素(35%)を排出しますが、夏眠中は全てを尿素として体内に蓄積し、夏眠が覚めると一気に排出します。オタマジャクシはアンモニア排出動物ですが、変態してカエルになると尿素排出動物となります。

図1、図2: 国立科学博物館のプレゼン

図3: ウィキペディア

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