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2016年2月26日 (金)

「あの日」 by 小保方晴子

Imgaaa講談社から小保方晴子氏の「あの日」が出版されました。渦中の本人が書いたドキュメンタリーですから強烈なインパクトです。

STAP現象については、小保方氏の論文の前にヒトでミューズ細胞というSTAP細胞と同様な多能性成体幹細胞が報告されているので、特段驚くようなことではありません。小保方氏の論文が初期に掲載拒否されたのは、主にキメラマウスの制作ができないことによるもので、小保方さん自身ミューズ細胞の論文はヒトの細胞なので、キメラマウスの制作が求められず、掲載拒否されないように周到に準備された論文だったと完敗を認めています。

さらに最近似たような現象の論文も出版されているので、ATP処理によって多能性を示す遺伝子が発現し、培養液中でスフィアを形成する。ここまでが小保方氏ができることであって、このスフィアから細胞系を樹立したり、キメラマウスを作ったりしたのは若山照彦氏と配下の研究者でした。この点に関して興味深い記述がありました。

以下引用:

増殖が可能になったと報告された細胞培養に関しても、どうしても自分で確認がしたく、「培養を見せてください、手伝わせてください」と申し出たが、若山先生は「楽しいから」とおっしゃり1人で培養を続けて、増えた状態になって初めて細胞を見せてくれた。

若山研では私以外の全員が、「胚操作」と呼ばれる顕微鏡下でマウスの卵を使った実験を行える技術を持っており、顕微授精を行ったり、キメラマウスを作製したり、クローンマウスを作製したりする実験を行うことができた。若山先生のところに来た研究員は皆、胚操作を若山先生から直接指導を受け技術を習得していた。しかし、私だけは胚操作を教えてもらうことはできなかった。 (中略) キメラマウスの作製に成功した頃、「私にもキメラマウス作製の胚操作を教えて下さい」と若山先生に申し出ると、「小保方さんが自分でできるようになっちゃったら、もう僕のことを必要としてくれなくなって、どこかに行っちゃうかもしれないから、ヤダ」といたずらっぽくおっしゃった。

引用終了

それ以外にも、若山氏はあらかじめストーリーに合った仮データをつくっておいて、それに合わない実験結果は棄却するという驚愕の研究法だったとか、コンプライアンスに関して多くの問題があったとかが指摘してあって、要するにこの本の肝は若山氏に対する疑念だということがわかります。この点については若山氏の反論が聞きたいと思います。ES細胞の混入はまだ解明されていない重要なポイントです。

小保方さんは、1)それまで生命科学についてズブの素人であった多くのマスコミ人がかなり勉強したこと、2)科学の世界とは無縁の国民にそのドロドロとした醜悪な内幕を暴露してくれたこと、3)理研は麗澤な研究費はあっても、その業績は多くの使い捨て研究者によってささえられていることなどを明らかにしてくれたことは、この本がベストセラーであるだけに高く評価したいと思います。ただNatureの論文はとても Erratum で修正して済むようなものではなく、論文作成のお粗末さは反省してもらわなくては困ります。

最後に醜悪だったのはマスコミで、彼らは笹井さんの死には幾ばくかの責任があることを自覚すべきだと思います。と同時に、これはマスコミの取材を法的に規制しなければ、何度でも繰り返されるであろう問題です。つまり国会議員の責任でもあります。この件とは少し離れますが、私は個人的には現行犯や、近隣住民に危険があるような場合を除いて、少なくとも地方裁判所で黒白がはっきりするまで、被疑者が特定されるような報道は一切禁止すべきだと思います。

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