「そして偽装経済の崩壊が仕組まれる」 by 塚澤健二
昨今世界中で無茶苦茶な経済運営・金融をやっていて、これではいつか世界的な経済崩壊がおきるのではないかという暗雲がただよっています。この本の著者である塚澤氏はJPモルガン証券などでアナリストをやっていた方で、投資コンサルタントが本業のようです。
http://tsukazawa.com/
「そして偽装経済の崩壊が仕組まれる」 塚澤健二著 ビジネス社2015年刊
宣伝臭がする部分も多少ありますが、そこはスキップして読みました。
まずこの本を読むための予備知識から。
Kabuzen サイトの定義によると名目GDPと実質GDPの違いは
#名目GDP … 単純に金額から算出したもの
#実質GDP … 物量から算出したもの
となっています。説明すれば仮に去年のGDPが100兆円だったとして、今年の名目GDPが110兆円なら単純計算では成長率は10%という事になりますが、今年物価が10%上昇したとすると金額的には10%上昇していても物やサービスの量は変わりませんから実質GDPは100兆円のままとなり成長率は0%ということになります。
インフレの時は上記のように、実質GDP<名目GDPとなりますが、デフレの時には逆に実質GDP>名目GDPとなります(100円で売っていたパンを90円に値下げすれば、同じ物量が売れたとしてもその価値は10%下がる。したがって実質GDPは同じで、名目GDPは10%下がります)。
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著者がまず述べているのは、株式時価総額を名目GDPで割った「バフェット指数」についてです。日本のバフェット指数の平均値は 0.71 なのに、昨年春にはこれが 1.25 という異常な数値を示し、当然調整のために株価は下落しないといけないはずだったのに、安倍政権は国民が営々と支払ってきた年金を、株価が下落しないよう株式購入のために大量投入することに決めたのです。
これは単に国民のお金を使って、安倍政権がギャンブルをやっているという話ではなく、あくまでも株価を高止まりさせるために株式を購入したのです。株を売るとその目的にそわないので、上がっても売れません。これがペテンであることをまず著者は指摘しています。なんでこんな無茶をやったかと言えば、自分たちが統一地方選挙で勝つために他なりません。まったく腹立たしい話です。
それでも政府は昨年夏の株価暴落を防ぐことはできませんでした。年金や日銀の株購入に限界が見えたので、安倍政権の次の一手は、株をゆうちょ銀行に買わせることです。まさしく誰のお金であれ、使えるものは総動員して株を買えということです。どうしてこんな無茶をやるかというと、自分たちの政策である「秘密保護法」「安保法制」「憲法改正」を実現するためには、株価下落による国民の不人気を避けたいというエゴイスティックな目的のためです。
彼らは自分たちの政策を実現するためには、国民のお金を勝手に使うだけでなく、憲法も無視して良いという考え方なので、当然言論の自由も弾圧します。国境なき記者団の発表では、2010年の民主党政権時代には11位だった報道の自由度が、現在ではなんと61位まで転落しました。この本は経済に関する本ですが、私と同様著者もこの点には憤慨しています。
著者が注目するのは銅の価格で、これが実体経済の動向を判定するよい指標であるそうです。それは生産活動の広い分野で銅が使われているからだそうです。銅価格は2014年の7月から現在に至るまで次第に安くなってきていて、その間に中国で株の異常な高騰などがありましたが、すべて実体経済に基づかない、うたかたのバブルだったことがわかります。
著者によると商品相場に関する情報・予測についてはゴールドマンサックスおかかえアナリストの話しが最も信用できるそうです。彼らは多くのインサイダー情報を持っている上に、自社で商品の価格をコントロールする力もあるからのようです。彼らの予測では、2017年末には1ドル140円になっているはずだそうで、このことは覚えておきましょう。
著者は経済の専門家ですが、面白いのは20世紀から21世紀への価値観の転換について述べているところで、
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★20世紀:良いか悪いか、損か得か、正しいか正しくないか、疑似「幸せ」の洗脳社会、戦争の世紀
★21世紀:好きか嫌いか、信じるか信じないか、愛するか愛さないか、「幸せ」がなんだか正解のない社会、生命の世紀
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という指摘は面白く、私も良い線をいっていると思いました。特に21世紀を生命の世紀としたのは素晴らしい。そうなればいいですね。人の価値観というのは当然経済活動にも影響を及ぼすとはいえ、さすが経済の専門家はここまで考えているのかと感心しました。
これは私見ですが、安倍政権の問題点の一つは古い20世紀の価値観で政策を決めているところです。しかも大企業が栄えればみんな栄えるという発想ですね。とはいっても原発・船舶・家電・半導体・携帯電話・液晶など政府が推進してきたものはみんな敗退ですけどね。航空機・鉄道・宇宙開発もいずれ中国に敗退しなけりゃいいですが・・・。音楽やアニメなどは圧倒的に日本にアドヴァンテージがあるので、そのようなジャンルをもっと早くから中国で稼げるようにアシストする政治をやるべきだったと思います。さらに環境技術・海洋資源・水素・医薬品・コズメティックなどにも言えるかも知れません。
経済に戻ると、著者が心配しているのはオリンピックの年2020年から世帯数の減少がはじまるということです。人口が減少しても世帯数が増えている限りは、不動産・家具・家電などは売れるので経済をささえることができますが、これが減るということになると、経済に致命的な打撃を与えるおそれがあるという指摘です。
さらに著者がもっと緊急の懸念を抱いているのは、世界のデリバティヴ残高の異常さです。いま世界におけるその値は7京円(10の16乗円)=7000兆円の10倍という、実体経済からかけ離れた金融世界となっているそうです。ですから金利の上昇などちょっとしたことで(実際この本の出版後FRBは金利を上げました)銀行に支払い能力がなくなってバタバタ倒産という事態に至ることを著者は心配しています。
世界有数の投資家であるジム・ロジャースの言葉が引用してあります。
「安倍首相は投資家に対しては良い仕事をしてくれている。しかし、長期的な観点から見ると、日本の債務は多く、人口も減っており、彼のやっていることは日本を破滅させる方向に導いている」 私も同感です。ジムはもう米国と日本への投資は完全にやめて、2017年におこると言われている金融崩壊の終了を待ってから動けるよう待機しているそうです。
著者がもうひとつ指摘しているのは、日本には個人営業主が少なすぎる(サラリーマンが90%近い)ということで、これは私も同感です。私が住んでいる北総でも、商売に好適な土地はほとんどイオンなどの大資本が買い占めており、自分の土地で商売するのは不可能です。テナントで締め上げられるのがせいぜいで、町外れの一軒家で個人で商売する気にもなれないでしょう。それでもなんとかやっていけるのは医者と美容師くらいでしょうか。自分の人生や働き方を自分で決めてこそ生産性があがるというものです。
あとはどうやって人口を増やすかということですが、まずシリアの難民を受け入れるというところからはじめるべきでしょう。当初はいろいろトラブルがあっても2~3年もすれば、彼らもその地の習慣には慣れるものです。
もうひとつすぐにできることは、国籍法を変更して、日本で生まれた人はすべて日本国籍をもつことができるようにすることです。将来的に言えば、当用漢字を中国と同じにしたり、小学校から中国語を教えるようにしたりして、中国人が移住しやすい環境をつくることを私は推奨したいと思います。中国はいくら金満とはいっても独裁国家であり、より自由な国である日本に住みたいと思う人は少なくないでしょう。ともかく人口がどんどん減少していけば国家が消滅するということを肝に銘じて、日本人は考え方の転換を図らないとどうにもなりません。
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