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2015年12月 3日 (木)

やぶにらみ生物論1: 生物とは何か?

A0960_006844空蝉の 世の中なべて こんなもの
ならば離れて やぶにらみぞせん (管理人)

若い頃、自分は何者でどこから来たのか? 何のために生きているのか? と悩んだ人がいるでしょう。今悩んでいる人もいるかもしれません。継母に育てられた人は、特にそう思うかもしれません。まさしく生物学的な母を知ることができれば、その疑問は解消されるのでしょうか? 難しい問題です。

もう少しやさしい問題にとりくむことからはじめましょう。「いま私が使っているシャープペンシルとは何か?」 という問題になら答えられるかもしれません。まずシャープペンシルとそうでないものとを区別しなければなりません。鉛筆との違い、ボールペンとの違い、などを考慮するとかなり説明できるでしょう。解体して細部を観察すれば、よりきちんと説明できそうです。シャープペンシルを製造している工場を訪問して、プロセスを見学させてもらえば、より知識は深まるでしょう。生物学で言えば、分類学、構造学、発生学です。さらに博物館にある初期に製造されたものと、現代のものを比較すれば、それは進化学です。そこまでやれば「シャープペンシルとは何か」という疑問に、かなり正確に答えることができるでしょう。

次に「生物とは何か」という問題に進んでみましょう。まず生物と生物でないものを区別しなければなりません。これがシャープペンシルとボールペンの区別のように簡単ではありません。もともと生物は突然できたものではなく、生物でないものから徐々に変化して出来てきたものと想像されるので、どこかで線を引くというのはあまり意味のあることではないという考え方もできますが、実際に生物という言葉を使っている以上、定義をしなければ何を言っているのかわからないので、やはり避けては通れない問題です。

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孔子はある小さな国の政治をやってくれないかと頼まれました。しかしその国には予算は少なく、軍隊も弱い状態でした。弟子である子路は心配して、孔子に「そんなところで、先生は何をなさるのですか」とききました。すると孔子は

必也正名乎。名不正則言不順、 言不順則事不成。
(かならずや名をたださんか。名正しからざれば則(すなわ)ち言(げん)順(したが)わず、言順わざれば則ち事成らず)

という有名な言葉で答えました。この意味は「私はまず言葉を正しく定義する。もし言葉の定義が正しくなければ、何を言っているか意味がわからない。何を言っているかわからなけらば、何事もできなくなってしまう」 
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生物と生物でないものとの中間的なものが知られています。そのひとつは、日本ではわが北総ではじめて発見された「牛海綿状脳症(BSE)」の病原体であるプリオンです。これに感染すると脳の組織がスポンジ状になり、異常行動、運動失調などを示し、死亡するとされています。BSEに感染した牛の脳や脊(せき)髄などを原料としたえさが、他の牛に与えられたことが原因で感染が起こります。羊のスクレイピーやヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病も似たような病気です。

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プリオンはある種の異常なタンパク質で、正常なタンパク質と接触することによって、正常なタンパク質を自らと同じ異常なタンパク質に変換します。これが繰り返されると、体内に正常タンパク質が減って、かわりに異常タンパク質が蓄積し、最終的に発病します。

このプリオンを生物とみなさないというのは科学者のコンセンサスです。

しかしウィルスは違います。細胞にとりついて、内部に遺伝子を注入し、細胞のシステムを借りて自分の体をつくります。自分の体(遺伝子=DNAまたはRNA、遺伝子を包む殻などからなる)ができると、細胞を破壊して外界に飛び出し、また別の細胞をさがしてそれにとりつきます。こうなるとはて生物なのかそうでないのか迷います。現時点ではウィルスは生物ではなく、細菌は生物であると定義しています。

もう少しきちんと言葉で定義する試みはNASAの A.Lazcano (2008, Chemistry and Biodiversity vol.5, 1-15) によって行われました。それは

Life could be defined as a self-sustaining chemical system that is capable of undergoing Darwinian evolution

ダーウィン的進化が可能な自己保存的化学系」 というわけです。ちょっと難しくなってしまいました。この辺でおひらきにした方がいいようです。ただすべての科学用語が正確に定義出来るかというと、そうではありません。科学ではほとんど未知のものもとりあつかうので、そういう場合はファクターXとかY因子とか適当に名前をつけて話を進めます。

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