日本人の起源
日本人の起源は、今や分子生物学で明らかにされる時代となりました。
それを述べる前に2つの言葉の意味を知らなければなりません。それはハプロタイプとHLA領域です。
ハプロタイプとハプログループ:ヒトなどの動物は、精子と卵子は遺伝子(DNA)を1セットしかもっていませんが、その他の細胞は遺伝子をペアで持っています。ハプロタイプとはそのペアのうち片方の遺伝子のことを言います。片方のDNAにズラズラならんでいる遺伝子をみると、例えばA-b-c-D-eとか表記出来ます。このセットを持つヒトのグループをひとつのハプログループとすると、別のグループではA-B-c-D-eかもしれません。これは別のハプログループになります。
HLA領域:これはいわゆる白血球の型を決める糖タンパク質の遺伝子群が存在するDNAの部域のことです。普通ひとつの種は同じ用途のタンパク質は同じ構造を持っているわけですが、この糖タンパク質はヒトによって構造がバラバラで、それゆえに臓器移植が簡単にいかないという要因になっているのですが、個体の特徴を示すタンパク質と言えます。例えばウィルスが体内に侵入すると、その成分の一部をHLAタンパク質がとらえて、細胞外に旗のように突き出します。そうすると免疫細胞がその旗を認識して、こんどはウィルスを識別して処分することができます。いろんなタイプの病原体の攻撃にさらされたときに、生き残る個体を残すために生物が発明したメカニズムでしょう。
人種の関連を調べるには、誰でも同じ遺伝子を調べるより、ヒトによって異なる遺伝子を調べた方がよいに決まっています。HLAはそのような研究に最適の遺伝子群です。
さて写真は2万年前の日本列島です。
HLA領域のハプロタイプを調べると、ヒトの集団ごとに似ているとか似ていないとかの差が出てくるわけで、これを利用して日本人の起源を調べようという試みが行われました(「HLA遺伝子多型からみた日本人集団の混合的起源」中岡etc, Major Histocompatibikity Complex 21(1) 37-44, 2013.など)。
日本は4~5万年前には中国大陸と陸続きだったそうで、それが2万年前には海で隔てられたそうです(写真 ウィキペディアより)。ですから縄文人は自然に2万年より前に大陸から日本に渡ってきたと考えられます。ただ1万2千~3千年前くらいまで宗谷海峡はつながっていて、シベリアから北海道には移住できたようです(写真)。そのあと紀元前1000年から西暦300年あたりにかけて、朝鮮半島から弥生人が船で渡ってきたと考えられています。そこでその後どうなったかの可能性としては次の3つが考えられます。
A)弥生人が縄文人を追い出した。
B)弥生人は数が少なく、縄文人に吸収された。
C)弥生人と縄文人が混血して、現在の日本人となった。
HLA領域の解析から得られた結論はさてどうなのでしょうか?
1)琉球人とアイヌ人はよく似ている
2)本土の日本人は朝鮮人グループと琉球/アイヌグループの中間である
3)琉球人にはアイヌ人は持っていないハプロタイプが頻在する
ここから考えられるのは、弥生人が進入してくる前に、琉球人とアイヌ人には違いが生じていて、琉球人の遺伝子には東南アジア系から由来したハプロタイプがみられるということもわかっています。
4)本土の日本人は日本人と朝鮮人しかもっていないハプロタイプをもっている
5)本土の日本人は中国人や朝鮮人はもっていなくて、台湾のヤミ族・アリューシャンのアウレト族、アラスカのユピック族・アメリカインディアン・シベリア原住民などが持っているハプロタイプを持っている
ここから考えられるのは、日本には弥生人が進入してくる前に、北アジア系集団が移住していたであろうということです。さらに弥生人進入の後、上記のC)のように縄文人と混血することによって現在の日本人が生まれたということになります。ただどちらが強いかというと、やはりイネの水耕栽培など優れた文明をもっていた朝鮮系の人々が多くの子孫を残したようで、本土の日本人は朝鮮系の血が濃いということは否めません。
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