タコのゲノム
最近Nature誌にタコのゲノム(遺伝子全般の情報)についての報告があり話題になっています。シカゴ大学のアルバーティン博士等は California two-spot octopus というタコ(写真 ウィキペディアより)の全遺伝子解析を行い、33,638個の遺伝子があることを証明しました。これはヒトの遺伝子数 22,287個に比べるとかなり多くの遺伝子を持っているというわけです。
タコというと足が8本あり、ヒトの2本の手と同様独立にものを握るなど様々な動きができます。これは文字通り想像を絶する運動能力です。しかもそれぞれに吸盤が付いていて、それらの制御もできるわけです。眼も盲点がないなどヒトを凌駕する性能も持っています。そのほか背景にあわせて皮膚の模様を変えるという、高度な機能も備えています。
哺乳類は中生代になってから出現しましたが、オウムガイなどと違う進化の方向をたどり、殻が退化した頭足類は古生代からいたそうです。ゲノムの歴史が億年単位で哺乳類より先輩なのでしょう。頭足類は同じ軟体動物の2枚貝などと比べると、圧倒的に知的な生物なので、革命的な進化がおこるときに科学者が用意している仮説、すなわち「全ゲノムが倍になって、倍になった遺伝子のうち一つが新しい遺伝子として機能するようになるという仮説」が正しいことの証明になると思ったわけですが、期待に反してそのような形跡はありませんでした。脊椎動物では全ゲノム重複の形跡が認められるので、頭足類の場合は脊椎動物などとは異なる特異な進化が行われたと思われます。
特に動物の形を決める上で重要なHox遺伝子がクラスター(列車のように遺伝子がつながっている)構造をとらず、バラバラに存在するという特異なかたちで存在していて、これがタコはエイリアンだというようなジョークを言いたくなるような不思議です。
その他、動物の形態形成に重要な遺伝子C2H2ジンクフィンガーについてみると、ヒトでは764個のところ、タコは1790個もあるということで、この遺伝子群が重要な役割を果たしていると思われます。私がちょっと注目したのは、このジンクフィンガー以外の転写因子グループはすべてヒトより少ないか圧倒的に少ないので、かなり特異な遺伝子発現の流儀を発明して進化したものと思われます。タコのゲノムの約半分がトランスポゾン(遺伝子を移動させる機能を持つDNA)で占められるというのも注目すべき点です。
タコは地球外生命体? 世界ではじめてタコのゲノム解析に成功
http://thecast.jp/archives/3663
「まるでエイリアン」-タコの全遺伝情報解読で神経生物学者がコメント
http://irorio.jp/jpn_manatee/20150813/252406/
Nature 要約
http://www.nature.com/nature/journal/v524/n7564/fp/nature14668_ja.html?lang=ja
http://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/66622
原著:
The octopus genomeand the evolution of cephalopod
neural and morphological novelties
Caroline B. Albertin, Oleg Simakov, Therese Mitros, Z. Yan Wang, Judit R. Pungor, Eric Edsinger-Gonzales,Sydney Brenner, Clifton W. Ragsdale & Daniel S. Rokhsar
nature vol.524, 13 August, 2015, doi:10.1038/nature14668
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