「死都日本」 石黒耀 (いしぐろあきら) 著
桜島がレベル4で厳重警戒となっています。火山の小説をということで「死都日本」(石黒耀著 講談社刊)を購入し3日程かけて読了しました。石黒耀の作品は以前に「昼は雲の柱」という、富士山の噴火をテーマにした小説を読んだことがあります。
http://morph.way-nifty.com/grey/2007/03/post_6432.html
「死都日本」は「昼は雲の柱」より前の2002年に書かれたものですが、非常にスケールの大きい加久藤カルデラ破局噴火のお話ですし、火山神の話を長々と続けることがなく、適当に分散させているので、「昼は雲の柱」より読みやすい感じがしました。ストーリーは大変面白いもので素晴らしい作品です。そのままハリウッド映画としても成立すると思いました(私なら主役の黒木准教授はマット・デイモンで)。
政権交代したばかりの政府が、この未曾有の災難に対処するわけですが、総理の名前は菅原ということで、これは菅と前原を合わせたものなのでしょうかね。東日本大震災と原発爆発に遭遇した菅政権を先取りしたような話でゾクッとします。危機管理センターと総理執務室を行ったり来たりという話も出てきます。違うのは菅直人は何の準備もなく、突然の大地震から対策がはじまったのですが、菅原和則はあらかじめ破局噴火が近いという情報は得ており、最善の作戦を考えて着々と準備を整えていたということです。
考えてみれば日本の政治・経済・産業の大部分は、東京・横浜・名古屋・大阪など明日起きても不思議でない東海・東南海地震と、それにともなう津波で壊滅してしまうような場所に存在します。このような状況を全く改善しようとしない政府はあまりにも愚かです。それどころか、これからますます東京・横浜に人が集中しそうな勢いです。愚かと言えば、よりによってかなり大規模な噴火が予想される桜島の近くにある川内原発を再稼働して、噴火なんて関係ないとうそぶいている連中にはあきれます。この小説の中で、菅原首相が噴火の情報を得て最初にやったのは、川内原発を停止し、炉心と使用済み核燃料プールから燃料棒を引き上げて移動させることでした。石黒氏は医師でありながら、火山だけでなく原発にも詳しいことには感服します。
噴火と言えば私たちはすぐ雲仙普賢岳の火砕流や、御嶽山の噴石直撃などを思い浮かべますが、この小説を読むと、火山の本当の怖さはそんなものではなく、山に蓄積した火山灰が降雨によって土石流(正確にはラハール=火砕物重力流とよぶそうです)となり、川の下流にある都市を破壊するということです。九州には阿蘇・加久藤・姶良・阿多・鬼界という破局噴火を起こす可能性がある5つの火山がありますが、これが実際におこると広島も、大阪も、名古屋も、東京もラハールで壊滅します。
破局噴火は長期的にも大きな厄災を招きます。上空に巻き上げられた火山灰のため日照時間が減って植物の生育が妨げられ、多くの動物が餓死します。ペルム紀の地球では、地球上のほとんどの動物が絶滅したという悲惨な歴史が知られています。縄文時代の日本人は鬼界カルデラの破局噴火に遭遇しており、西日本の縄文文化はそのときに壊滅したと考えられています。
「昼は雲の柱」が御殿場市民必読の書とすれば、「死都日本」は日本国民必読の書と言えます。
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