「福島第一原発事故 7つの謎」 by NHKスペシャル「メルトダウン」取材班
籾井の会長就任以来、信頼感激減のNHKですが、ちょっと良い本を出版してくれました。「福島第一原発事故 7つの謎」(NHKスペシャル「メルトダウン」取材班著、講談社現代新書 2015年出版)というものです。
多数の現場関係者から東電の取締役まで、綿密なインタビューと調査により、福島第一原発事故を検証した労作で、読んでみて私もよく納得できる内容でした。
なぜベントがなかなかできなかったのかという疑問についても明快に記載があります。それは本書を読んでいただくことにして、私が特に興味を引かれたのは次の2点です。
ひとつめは、圧力容器(ボイラー)内の気圧が上昇したときに、外に蒸気を逃がすためのSR弁というのがあるのですが、その弁は中の圧力が高くなればなるほど開きにくくなって、それ以上の圧力を外からかけないと開かなくなるという構造になっていたということです。したがって、圧力容器の中でメルトダウンがおきたような場合には、役目を果たせなくなるという信じられない事態をまねいてしまう可能性が高まります。
ふたつめは、格納容器がたった550℃の熱で壊れてしまうということで、これでは何千度もある溶けた燃料が落ちてくるとひとたまりもありません。格納容器がかくも脆弱な構造になっているとは!! この執念のシミュレーションは、東電の幹部も否定出来ないくらいきちんとしたものだそうで驚きました。
これらはあきらかに設計上のミスであり、地震や津波とは別問題で、何もなくてもちゃんと改良しておくべき点でした。原子炉の設計というと優秀な技術者がやっていると素人は思うわけですが、実は原子炉関係の学術は数十年前から全く人気が無く、工学部の中でもローエンドの人材しか集まらないという現実があって、信頼性は非常に低いのです。
あらためて、4号機の使用済み核燃料プールが崩壊しなかったのは奇跡的な幸運だったとため息が出ます。これが崩壊していれば東京周辺に住んでいる私やあなたの人生は、例え生きていたとしても、現在とは全く異なる苦難に満ちたものになったことは間違いありません。
この本は新書というお手軽さもあり、日本国民必読の書だと思います。
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