透過型電子顕微鏡 その5 染色
切片をグリッドで拾い上げたら、濾紙の上において水分を除き乾燥させて切片とグリッドの接着を確実にします。その後グリッドをグリッドスティック(写真)という太い矢印のような糊のついたプラスティックバーに、グリッドの外枠の一部を利用してくっつけます。
このとき外枠が太いとのりしろが大きくなり操作が楽になります。さらに4での写真で示した thin bar グリッドには耳までついているので、耳を利用してスティックに接着できるので便利です。写真は外枠が細いグリッドを使った場合です。このように華奢なグリッドを使う場合は、特にはがすときにグリッドが変形しないよう注意が必要です。
バーにはスティックを貼り付ける場所に番号が書いてあって、写真では番号通り20枚のグリッドがひとつのスティックについていますが、ひとつおきくらいに貼り付けるほうがあとあと操作が楽になります。貼り付けた状態で染色するわけですが、すぐに染色しない場合は、15mlの培養用プラスチックチューブにぴったりはいるので、フタをして試験管立てに入れてデシケータに保管することもできます。
このグリッドスティックを発明したのは、目黒区碑文谷にあるマイクロスターという会社で、素晴らしいアイデアです。インターネットで電子顕微鏡用品+販売などと打ち込んでもなかなか発見出来ない会社で、外国人にはうらやましがられます。グリッドスティック以外にも、いろいろ気の利いた製品を販売しています。ときどきダイヤモンドナイフのセールなどもやるので見逃せません。ただメーカーなので、自社生産のものは売ってくれますが、多くの商品をとりそろえているわけではありません。
染色はまず鉛染色液で行います。あらかじめ精製水を真空吸引して空気を抜いておきます。これは炭酸ガスがあると、炭酸鉛という難溶性の化合物ができてしまって、染色液の調製に失敗するからです。1gの硝酸鉛と1gの酢酸鉛を50mlくらいの精製水に溶かし、これに1gのクエン酸鉛と2gのクエン酸ナトリウムを加えて82mlにメスアップします。この状態で攪拌しますが、液は濁ってしまって完全に溶解させることはできません。ここに1N-NaOHを滴下して攪拌すると、液は透明になり完全に溶解します。100ml にメスアップします。この鉛染色液を用いて5~10分染色します。
300mlくらいのビーカーを4個用意し、精製水を入れておきます。染色が終わるとグリッドスティックを取り出し、ビーカーに移して5分くらい静置し、次々ビーカーを代えて4回洗浄します。ビーカーのなかでスティックを激しく振ったりすると切片が落ちるかもしれないので、ときどき静かに動かすくらいにしておきます。
ビーカーから取り出したときにグリッドの周りがぬれているはずです。この水を吸い取ることによって効率よく洗浄出来ます。吸い取るには濾紙を手でちぎって、毛羽だった裂け目をグリッドの外縁に当てて吸い取れと習いましたが、その通りやっていました。
次にウラン染色ですが、あらかじめ1g酢酸ウランを25mlの50%エタノールに溶かします。溶けにくいですが、ビーカーに攪拌子をいれて一晩磁気攪拌装置で回転させ、力づくで溶かします。酢酸ウランは許可された者だけが買うことが出来る核燃料なので、電子顕微鏡室の責任者に必要量をわけてもらいます。各研究室の規定に従って使用してください。流しに廃棄することはできません。
http://www.agri.tohoku.ac.jp/denken/8uran.htm
15mlの試験管に酢酸ウラン染色液を10mlくらい注入し、そこにグリッドを貼り付けたグリッドスティックを差し入れます。15分~20分くらい染色します。300ml くらいのビーカーを4個用意し、精製水を入れておきます。染色が終わるとグリッドスティックを取り出し、ビーカーに移して5分くらい静置し、次々ビーカーを代えて4回洗浄します。
染色と洗浄を終了したら、グリッドを濾紙を敷いたシャーレに移して自然乾燥させ、室温で保管します。これで検鏡できますが、その前にひとつやっておいた方が良いことがあります。それは試料のカーボンコーティングです。微細なカーボン粒子を試料にまぶしておくと、電子線が照射されたときに試料が保護されるので、かなり長い時間観察することが出来ます。これをやっていないと、分単位の観察をやっているときに試料がダメージを受けて変形することもあります。
カーボンコーティングに使う炭素にはよくシャープペンシルの芯が使われますが、メイワフォーシスで売っている純粋カーボンのひもを使うのがベターです。これによるカーボンコーティングに便利な器機がメイワフォーシスから販売されています。これはおすすめです。
http://www.meiwafosis.com/products/cade/cade_tokucho.html
カーボンコーティングが終わったら、いよいよ検鏡です。私の経験では光学顕微鏡による検鏡より楽だと思います。では、良いデータを得られますようお祈りします
(了)
付録として業者・書籍・リンクを紹介しておきます。
●業者(電子顕微鏡関連器機と消耗品の販売店です)
日新EM: http://nisshin-em.co.jp/
イーエムジャパン: http://em-japan.com/index.html
応研商事: http://www.okenshoji.co.jp/
メイワフォーシス: http://www.meiwafosis.com/index.html
マイクロスター: http://homepage3.nifty.com/microstar/
●書籍(書籍はこのほかにも多数あります。電子顕微鏡の分野は日本が最も進んでいる領域なので、和書で必要十分な情報が得られます)
よくわかる電子顕微鏡技術 (医学・生物学電子顕微鏡技術研究会)
こちら
電顕入門ガイドブック 改訂版 (日本顕微鏡学会電子顕微鏡技術認定委員会)
こちら
●リンク
http://www.hitachi-hightech.com/jp/products/science/tech/em/sem/technique/chapter1_5.html/
http://www.jeol.co.jp/words/emterms/
http://www.amazon.com/dp/4431224297
| 固定リンク | 0
「生物学・科学(biology/science)」カテゴリの記事
- 続・生物学茶話254: 動物分類表アップデート(2024.12.07)
- 続・生物学茶話253: 腸を構成する細胞(2024.12.01)
- 続・生物学茶話252: 腸神経(2024.11.22)
- 続・生物学茶話251: 求心性自律神経(2024.11.14)
- 続・生物学茶話250: 交感神経と副交感神経(2024.11.06)
コメント