毛髪夜話3 毛の起源
多くの恐竜が羽毛を持っていたことが最近明らかになってきていますが(1)、これは火山灰を一気に被ってそのまま保存されたなどの条件の良い化石が発見されたからで、私たち哺乳類の先祖である獣弓類が毛をもっていたという明白な証拠はありません。恐竜が6600万年前まで繁栄していたのに対し、獣弓類は多くの種が2億5千万年前に絶滅し、恐竜時代には細々と生き延びていたというのも、化石の研究には不利な条件です。
ただ下図(ウィキペディアより)のゴルゴノプスなど場合、頭蓋骨にヒゲの毛根を収容するためのくぼみが存在することが知られており、この復元図にはヒゲが描かれています。ヒゲを触角として使う場合、最低でも感覚神経が毛根に伸びてきていることが必要で、できれば動かすための随意筋も付着してほしいところです。ですからヒゲは体毛より進化した高級な毛であり、ヒゲが存在するからには体毛も存在する可能性が高いと思われます。
化石研究の他に、現在生きている哺乳類の毛に関連した遺伝子と、原始的と思われる爬虫類の対応する遺伝子を比較してみるのもひとつの研究方法です。毛といえばとりあえずケラチンです。ケラチンというタンパク質には大きく分けてI型(酸性)とII型(塩基性)の2つのグループがあり、両者がペアとなってコイルをつくり、それがさらにからまりあってケーブルをつくるという構造になっています。ケラチンはI・II型それぞれ数十種類の分子が肝臓などさまざまな臓器に存在しますが、ハードケラチンは細胞を埋めつくして硬い組織、たとえば毛・爪・角・うろこ・くちばしなどをつくることができます。
ヒトのハードケラチン遺伝子は、I型については11個の毛型と17個の非毛型、II型については6個の毛型と20個の非毛型が知られています。ハードケラチン遺伝子は魚類・両生類にはありません。ウィーン医科大学のEckhart博士らは、2008年にニワトリとアメリカカメレオンについてヒトハードケラチンと類似する遺伝子を探索し(2)、ニワトリにおいてII型1個、アメリカカメレオンにおいてI型2個およびII型4個の遺伝子が相当することを発見しました。これらのアメリカカメレオンのハードケラチンは四肢の先端に発現することから、かぎ爪の形成にかかわる遺伝子だと思われます。
毛型および関連ハードケラチン遺伝子の数
ヒト ( I型 11、 II型 6)
マウス ( I型 9、 II型 6)
アメリカカメレオン ( I型 2、 II型 4)・・・ただし毛と関係ない独自なI型 4
ニワトリ ( I型 0、 II型 1)・・・だだし毛と関係ない独自なI型 2
カエル なし
サカナ なし
つまり獣弓類はこれらのかぎ爪遺伝子を利用して、目的が異なる毛 (hair) をつくる方法を発明したと思われます。この研究によって、従来考えられてきた爬虫類のうろこと哺乳類の毛の関連性が否定され、むしろ爬虫類のかぎ爪と哺乳類の毛が密接な関連をもつと考えられるようになりました。
下図はウィキペディアからひろってきたかぎ爪の帝王テリジノサウルスの復元図です。かぎ爪を鎌のように使って、植物を収穫して食事していたようです。
1. http://morph.way-nifty.com/grey/2014/04/post-fcbc.html
2. http://www.pnas.org/content/105/47/18419.full.pdf+html?sid=9ee52545-4cb8-4e9d-bda9-e273afb05c39
| 固定リンク | 0
「毛髪・皮膚(hair/skin)」カテゴリの記事
- Wkalk down the memory lane 11: 毛の始まり(2024.09.28)
- アグーチ (agouti) 遺伝子の機能(2019.04.11)
- ヒトはなぜキスするのか?(2015.03.27)
- 面皰(めんぽう)経験談(2014.07.04)
- 毛髪夜話4 毛の生長(2014.05.01)
コメント