資本主義の終焉
地球はひとつしかない有限の星です。ですから人間が経済活動を拡大していけば、いつかどこかで限界が生じ破綻します。現在おそらく太陽の活動が低下し、地球は氷河期に入ろうとしていますが、それにも勝る速度で、人間の経済活動拡大にともなうアマゾン川流域の開発・家畜の増加などの影響で二酸化炭素とメタンガスの濃度が上昇し、気候変動による飢餓がせまりつつあります。
しかしサルでもわかるような上記の事実を念仏のように唱えていても、現に資本を投下して稼いでいる人々、その人々に雇用されて生計を立てている人々、彼らに支持されている政治家達は決して経済拡張をやめようとはしません。ところがどうにかして経済を拡張しようとしても、どうしてもうまくいかないという時代がついにやってきたようです。資本主義は地球が無限の広さであるということを前提にして成立しているので、限界が見えてきてもそれを乗り越える方策は提供してくれません。
米国は限界が迫り来る事態を、情報収集力や軍事力を背景としたグローバル投資によって切り抜けてきました。国家は膨大な借金をかかえたままなのですが、エリート達は金融によって国家の富を独占して太りました。このやり方は中間階級の没落と、特権階級への極端な富の集中を招きます。
例えば、かわら版 No.934 によると「所得格差はオバマ大統領が再選された2012年に顕著に現れました。年間所得額でトップ10%に入る富裕層の所得総額が米国全体の50%に達しました(1979年には30%でした)。トップ1%の所得は総所得額の19.2%で、この割合は1927年以来最高です。」
http://www.nodayoshi.gr.jp/leaflet/detail/49.html
日本はどうか? 日本は2008年から7年間金利がほぼゼロです。金利がゼロということは、銀行がどこに投資してももうからないということでしょう。著者の水野氏はこのことが資本主義卒業の証であるととらえています。水野氏は「もう地球上のどこにもフロンティアは残されていない」と述べています。資本主義はフロンティア(未開発の周辺地域)に投資して経済活動を拡大し、資本家(中心地域)が利潤を得るというシステムですから、フロンティアがなくなれば終わらざるを得ません。実際BRICSがフロンティアから資本主義の中心に昇格してきた現在、アフリカの一部くらいしかフロンティアは残されていないでしょう。水野氏が言うように、資本主義の死期は近いと思われます。アフリカがグローバル資本主義に飲み込まれる時が最後の線香花火です。おそらくそれを一番実感しているのは、特権階級の中心にいるジム・ロジャースやジョージ・ソロスでしょう。
日本だけではなく、米国でもEUでも政策金利はほぼゼロで、いわゆる先進国では経済発展ができていません。それでも「現に資本を投下して稼いでいる人々、その人々に雇用されて生計を立てている人々、彼らに支持されている政治家達」は、必死にもがいて利潤を確保しようと狂奔するでしょう。それが何をもたらしたか、米国では極端な富の特権階級への集中、EUでは10%を越える失業率、日本でも非正規雇用者が30%を越えるという社会の崩壊を招いています。水野氏は「(経済)成長を求めれば求めるほど、資本主義が本来持つ矛盾が露呈し、システム転換にともなうダメージや犠牲も大きくなります」と述べています。全くその通りだと思います。
では資本主義に代わるどのようなシステムが可能なのか? それは水野氏も提供出来ないと述べています。彼が考えているのは、資本主義の崩壊過程でなるべくダメージと犠牲を少なくするためにはどうすればよいかということです。彼は「G20が連帯してグローバル資本主義と対決せよ」と提言しています。具体的には1.法人税の引き下げに歯止めをかける、2.国際的金融取引に課税する ということです。
日本については 1.国債を1000兆円より増加させない、2.国債を外国人投資家に売らない、3.エネルギー自給をめざす というような提言をしています。私はさらに食糧の自給をめざすべきだと思います。そうすればグローバル資本主義から決別することができるでしょう。TPPは米国のグローバル資本が、残されたアジアのフロンティアを絞り尽くそうという意図を持つもので、マスコミでは豚肉・牛肉がどうのとか言っていますが、そればかりではなく、ISD条項や医療保険などもっと凶悪な部分にも注目すべきでしょう。
水野氏はもうひとつ重要な指摘をしています。グローバル資本主義は一部の特権階級に富を集中させ、中間階級を没落させるので、真の民主主義は成立しません。普通にやると政権は国民の支持が得られないので、手っ取り早いのは仮想敵国をつくって愛国思想で支持をとりつけたり、そのほかマスコミのコントロールとか幻想を振りまくとか、年金資金を投入して株価を維持するとか、手練手管で国民をだまして政権を維持しようとします。それでも本質がバレてしまったら、全体主義に傾かざるを得ません。
特権階級が資本主義を延命させようとあがけばあがくほど犠牲は大きくなります。これを防ぐには国民が立ち上がって、新しい政治・経済システムを模索する政党を育てなければなりません。投資と利潤・経済の拡大によって維持される社会から、経済が拡大しなくても定常状態を保ってみんなが生活していける社会をめざすことが必要です。しかし水野氏が危惧するように、私も資本主義の終末はハードランディングになるのではないかと予想します。それは国民の安倍政権に対する評価から判断できるでしょう。
水野和夫氏はもちろんマルキストなどではなく、永年三菱UFJモルガンスタンレー証券に勤務して、執行役員・理事まで上り詰めた証券マンで、民主党政権では内閣府大臣官房審議官などを歴任し、現在は日大教授です。
「資本主義の終焉と歴史の危機」 水野和夫著 集英社新書 (2014年刊)
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