アクチンの系譜
1 メジャーなタンパク質
地球上で最も多量にあるタンパク質は植物の葉にあるルビスコ(ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxugebase:RuBisCO)だと言われています。これは空気中の二酸化炭素を生物の代謝経路に取り込むのに必要な酵素であり、私たちが利用しているガソリン・重油・ガスなどはみんなこの酵素によってとりこまれた二酸化炭素がもとになっています。
では動物にあるタンパク質で最も量的に多いものは何か? それはアクチンです。主として筋肉にあるので、肉食系の人はこのタンパク質をエサとして育ったといえるでしょう。アクチンも他のタンパク質と同様生物の数億年の進化の中であれこれ変化して、現在ではアクチンスーパーファミリーと呼ばれるくらい多様化していますが、それでも酵母とヒトとでわずか5%程度しかアミノ酸配列に差がないというくらい保守的なタンパク質です。
さて、生物はもともとLUCAという先祖から、細菌と古細菌というグループに分かれ、その古細菌の一部から私たち真核生物が分岐したというのが定説になっています。しかしアクチンについて研究を深めていくと、その説では説明できないような結果が出てきて、研究者たちを困惑させています。
細胞というのは液体を含んだ風船のようなものというのは誤解で、実は多くの線維・ケーブル、ミトコンドリアや小胞体のような構造体、運搬の役割を持つ球体、お掃除役のリソソームなどで満たされた混み合った電車のようなものです。
そのなかの線維・ケーブルに相当するのが細胞骨格です。細胞骨格にはアクチン線維・微小管・中間系線維の三種類があり、これらはいずれも細菌を含めたあらゆる生物が持つ基本的な要素であることが明らかになってきました。細菌の場合、アクチンは MreB、微小管は FtsZ、中間系線維はクレセンチンが相当します。
細菌ではそれぞれ下記に示すような用途で利用されています。アクチンは細胞がロッド状の形態を保つために利用されます。細菌は鞭毛を使って泳ぎますが、これは形がボートのようにきちんと定まっているからオールに相当する鞭毛でこいで泳げますが、本体が不定形だとうまく移動ができません。実際 MreB がない突然変異体では、大腸菌は生きていけないそうです。ではアメーバはどうなんだというつっこみがあるかもしれませんが、アメーバは細菌と比べるとかなり高等な生物で、細胞膜にあるアクチン構造体の一部を壊して、そこに足(偽足)を出して移動するという独特な方法で移動します。
アクチンのアミノ酸配列を比較すると、真核生物と細菌のMreBにはかなり差があるのですが、真核生物と古細菌を比較しても同様な差違があるので、古細菌と真核生物が同じルーツを持つという学説では説明できませんでした。このことから真核生物は古細菌とは別のLECA(last eukaryote common ancester)という生物がいて、それが細菌や古細菌と共生するなかから真核生物が生まれてきたという新説を唱える研究者もでてきました。
参考文献: BM Jockusch and PL Graumann: The long journey:Actin on the road to pro- and eukaryotic cells. Rev Physiol Biochem Pharmacol 161:67-85 (2011)
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コメント
>アクチンの系譜
古細菌のアクチン様たんぱく質はMreBによく似ているようですね。
ただ、最近、クレン古細菌からクレンアクチンという、アクチンに似たたんぱく質が発見されています。
投稿: さんぽ | 2014年1月 9日 (木) 21:52
> さんぽ 様
情報有り難うございます
Thermoproteales はなかなか興味深いグループですね
投稿: monchan | 2014年1月 9日 (木) 23:39