シーラカンスという生き方
シーラカンスは約3億8000万年前のデボン紀(図1)に出現した魚類の1グループで、白亜紀の後期(約7000万年前)に絶滅したと考えられていましたが、1938年に生きているシーラカンスLatimeria chalumnaeが南アフリカで発見され、その後も発見が続いて、いわゆる生きた化石として世界に知られることとなりました。
図2
シーラカンスの進化的位置は図2に示してあります。後に四足動物に進化する肺魚に近縁で、タイやヒラメよりかなり人間に近い生物です。シーラカンスは硬骨魚類に属しますが、硬骨魚類は条鰭類(じょうきるい)と肉鰭類(にくきるい)に分かれます。シーラカンスは肉鰭類です。主要な魚類のほとんどが属する条鰭類では,放射骨 (平行に走る骨の束) で,胸鰭と肩帯が関節でつながっています。これに対し肉鰭類では,胸鰭が一対の放射骨で肩帯と繋がっています。
シーラカンスは硬骨魚類と言っても、大部分の骨は軟骨で、かなり原始的な特徴を備えている生物でもあります。ただ普通の魚よりヒレは多数そろっていて、微妙な動きができるそうです(図3)。もちろんシーラカンスは高レベルの絶滅危惧種です。
シアトルにあるベナロヤ研究所のクリス雨宮氏らはシーラカンスゲノムの全塩基配列を研究し、結果を発表しました (Nature 496, 311-316, 2013)。ゲノムサイズは2.86ギガベース、遺伝子の数は約29000個ということで、ほぼヒトと同じです。生物が進化するには、タンパク質を構成するアミノ酸を入れ替えることが必要ですが、シーラカンスは四足動物に比べて、この入れ替えの速度が半分くらいだったことがわかりました。
今回発表された研究で、四足動物はシーラカンスではなく肺魚から進化したことが明らかになりました。シーラカンスは、両生類に進化する可能性があった陸上の池や沼に生息していたものは絶滅し、深海の岩礁などに棲むものだけが生き残ったと考えられます。彼らは環境の変化に適応しなければならないという圧力から逃れ、何億年もの間安定した環境で、ゆったりと生活していたと思われます。
進化というのはいわば「一将功成って、万骨枯る」というものであり、機能劣化の変異による無数の屍の上に、わずかなエリートが生き残って新しい生物をつくっていくことの繰り返しです。シーラカンスは物理的バリヤーがないにもかかわらず(深海に生きる生物ならシーラカンスに遭遇することは誰でも可能。時には浅海にも上がってくるので、人間すら彼らを発見することができました)、このような変化の圧力を逃れ、ひっそりと生き続けた生物です。
シーラカンスについて考えていると、私たち日本人が受けているグローバル化の圧力に思いを致さないわけにはいきません。日本一のお金持ち柳井さんが言っているのは、日本人の一般労働者は発展途上国の労働者と同じ賃金で働かなくてはいけないということで、まあ100~200万円/年で働くことになるのでしょうか。そして経営者・主要株主は年収数億円ということになるのでしょう。そして農林漁業は壊滅して、すべて輸入品でまかなうようになります。日本だけでなく、世界中でA族(企業経営者・高級管理職・株主・輸出企業関係者・高級役人)とB族(一般労働者・農林漁業従事者)の階級分化が明確になります。
グローバル化することによって、せっかく国内にエネルギー・資源があっても輸入した方が安いということで見捨てられ、せっかく農産物を生産出来る自然があるのに、輸入した方が安いということで壊滅せざるを得ないというのはおかしなことだと思います。食料・原材料・エネルギーを輸入し、工業製品を輸出して稼ぐという国家モデルを変更し、ともかくコストは高くてもエネルギーと食料を自国で確保し、輸出は一部の製品に特化して行うというモデルに変更すればいいのです。ノルウェーやスイスはそういうモデルで国家運営をやっています。彼らは別に鎖国しているわけではありません。輸入圧力はあれこれと非関税障壁を設けて押し返せばOK。これができなくなるTPPなどは論外です。輸出が少ない国に、無茶な輸入圧力はかからないでしょう。自動車会社などの日本のグローバル企業は、米国かEUなどの外国に本社をおけばいいでしょうし、ユニクロなどはそうするつもりでしょう。
グローバル化を逃れることによって、世界各地にそれぞれの文化、言語、生き方が保存され、より自由でのんびりした生活が確保されますし、パンデミックや気候変動などの危機にも対応しやすくなります。世界中で同じ種の作物がつくられている場合、一気に壊滅的不作ということが考えられます。生物学的にも、各地に隔離された遺伝子が保存されることは、ヒトが生き残るためには重要な意味を持っています。そうすれば、あるウィルスによって、ほとんどの人類が滅亡するような悲劇が起きたとしても、特定の地域だけには生存者が存在しているというようなことがあるかもしれません。
肺魚
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/11/post_a86b.html
http://morph.way-nifty.com/grey/2006/11/post_a3dc.html
沼津にはシーラカンスミュージアムがあります。
| 固定リンク | 0
« UEFAチャンピオンズリーグ バルサ FCバイエルン・ミュンヘンに悲惨な敗戦 | トップページ | 2012/2013 リーガ・エスパニョーラ第33節: ビルバオの気合いにバルサ押し込まれエンパテ »
「生物学・科学(biology/science)」カテゴリの記事
- 続・生物学茶話250: 交感神経と副交感神経(2024.11.06)
- 自律神経の科学 鈴木郁子著(2024.10.29)
- 続・生物学茶話249: 樹状突起スパイン2(2024.10.21)
- 昔の自分に出会う(2024.10.19)
- 続・生物学茶話248: 樹状突起スパイン1(2024.10.11)
「私的コラム(private)」カテゴリの記事
- コーヒーの木(2024.10.30)
- 2024 総選挙(2024.10.28)
- 食料が自給できない(2024.10.23)
- ニュース23 イスラエルによる国連軍攻撃を報道(2024.10.15)
- 地熱発電が日本を救う(2024.10.15)
コメント