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2011年11月 5日 (土)

TPPって何?

TPPはバイオロジーとも少し関係があります。それは遺伝子操作で生まれた農作物が流入し、他の農作物が駆逐される恐れがあるからです。米国の農業メジャーは世界制覇を狙っているわけで、これにどう対処していくかというのは日本にとっても重要な問題です。

そもそも除草剤などの農薬に耐性の作物という非常にスジの悪い遺伝子操作からはじまったわけですが、その後も特定の昆虫を殺すとか、生態系を破壊するおそれのあるものとか、あまり良いものは利用段階にありませんし、種が農業メジャーに握られているというのが最悪です。さらに原発と同じ図式で、研究者も推進派しか生き残れないというシステムができあがっているようです。ともかく学者はカネとポストに弱いのです。

首藤氏のお話は大変わかりやすくて、TPPとは何かということがおおまかには理解できた気がしました。というわけでコピペしておきます。

オリジナル:http://sutoband.net/2011/03/20110224iwj.html

首藤信彦(民主党)衆議院議員に聞く インタビュアー:岩上安身
首藤(すとう)さんは元東海大学教授で危機管理の専門家だそうです。
オフィシャルサイト:http://www.sutoband.net/

最初、チリ、シンガポール、ニュージーランド、ブルネイの4ヶ国でスタートしたTPPは、アメリカが入って、まるで違うものになった。農業問題、貿易問題といわれているが、TPPの本質は本当は何なのだろうか?

【文字起こし:Part1】

岩上「皆さんこんばんは。ジャーナリストの岩上安身です。本日は首藤(すとう)信彦代議士の議員会館の事務所にお邪魔しております。首藤先生はTPPの問題にかなり詳しく、この問題にかなり危機感をお持ちの先生です。首藤先生こんばんは」

首藤「こんばんは」

岩上「よろしくお願いいたします。この間、議員会館の中で院内集会が行われましたですよね。その中で非常に危機感を持ったご発言をされているのを聞いて、是非お話を伺いたいということをお願いしたんですけれども。

 このTPP、分かったように解説するまあ、世の中の評論家とか、あるいはメディアも沢山あるんですが、私どもが取材していく中だけでも、どうもこれ関税を取っ払ってですね、自由貿易を図っていくとか、影響を受けるのは農業だけだとか、そんな問題ではない。24の分野に影響を受ける。じゃあ24の分野にどのような影響を受けるのか。これが全然情報が出てこない。非常に不可解なことが多くてですね、なぜこんなものがこんな急ぎ足で進められようとしているのか。いったい何が起こっているのか。非常に不思議でならないんですけれども、そういうあたりから今日はお話を伺わせていただければと思います」

首藤「TPP(*)ってのは何かっていうのは分からないですよ。だから、TPPっていうとよく言われるのはFTA(*)、Free Trade Agreement、自由貿易協定。それからEPA(*)、経済連携協定っていうのがあるんですが、その上にあるということですね。共通しているのは、通商協定、貿易協定なんですね。

(*)TPP:(Trans-Pacific Partnership、またはTrans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement) 環太平洋戦略的経済連携協定。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A
(*)FTA:(Free Trade Agreement)自由貿易協定。
物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした、2国間以上の国際協定である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%94%B1%E8%B2%BF%E6%98%93%E5%8D%94%E5%AE%9A
(*)EPA:(Economic Partnership Agreement) 経済連携協定。
経済条約のひとつで、自由貿易協定(FTA)を柱として、関税撤廃などの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、及び、サービス・投資・電子商取引等のさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進等をも含めた条約である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A

だけどこのTPPっていうのは、実は貿易協定じゃないんですよ。今まで貿易協定、自由貿易を推進するんだと進められてきたんですけれども、どうもおかしいわけですよね。そこで、話を聞いているうちに実は、自由貿易というのは、輸入関税を引き下げていくというのが基本的な内容なんですけども、そうじゃなくて、24部会、具体的には23部会ですね。23部会あって、そこの中で各制度の議論をしてるっていうことが昨年の終わりぐらいからようやく分かってきたんですね。そこで、皆驚いて、これは通商レベル貿易レベルでお互いに関税を0にしていこうとか、そうすると農業とか、どこの国でも農業は保護してますから、農業に影響があるとか、そういう話であったのが、俄然違う話になってきて。

そしてまたこれはアメリカではUSTRというですね通商代表部(*)がやってるわけですけども、そこに行った人がですね、アメリカから言われたことはまず最初にですね、日本の郵政問題ですね、郵政の民営化で残っている例えば、簡保の問題とか、郵政のあり方ですね。そういう問題が議論になったと。それで驚いてですね、そんな貿易と郵政とどういう関係があるのかということで、議論が一挙に火が着いてきたわけですね」

(*)通商代表部:(Office of the United States Trade Representative, USTR)はアメリカ大統領府内に設けられた通商交渉のための機関。USTR長官にあたる通商代表は、閣僚級ポストで大統領に直属。大使の資格を持ち、外交交渉権限を与えられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E9%80%9A%E5%95%86%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E9%83%A8

岩上「それはいつごろの話ですか?」

首藤「これは、昨年の11月ぐらいですかね。11月から12月にかけての話ですね」

岩上「この24の部会が話し合われてるというのは、どこで話し合われてるんですか?」

首藤「これは、TPPを持ち回りで各国でやってるわけですね」

岩上「9カ国」

首藤「ええ、9カ国でね、やってるわけですね。まあ基本的にこれよくご存知のとおり最初4ヵ国でスタートした。シンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリ。これはよくいうんですけど、小国デコボコ連合と言いますかね。鉱物資源しかないチリとか、牧畜しかないニュージーランドとかですね、石油しかないブルネイ。まあ要するにデコボココンビですね。4ヵ国でやってたわけですけども、それが急に昨年の半ばぐらいからねアメリカがこれに乗り出してきて、これはアメリカも驚いたわけですけども。アメリカでもなぜ急にオバマ政権の中で急にTPPが出てきたかというのは、驚きをもって色んなところで書かれるわけなんですけども」

岩上「アメリカ全体も合意があるわけではなく、アメリカの一部が推進していて、他のアメリカの政治勢力あるいはセクターの人たちには驚きがあると」

首藤「驚きがあるじゃなくて知らない。今でも皆さんでもね、TPPとか英語で調べてみたら殆ど記事無いわけですよ。全く無いんですよ。アメリカの議会でも問題になってないんですね。アメリカの議会で問題になってない典型的な例は、先日オバマさんが一般教書演説っというのをやるわけですね。今年の展望について話すわけです。彼はこの中でTPPと一言も触れないわけですよ。ですから、アメリカにおいてもTPPというのは議会の中で議論にもなっていない。我々の感覚としては今年の6月には菅政権はTPPに入るかどうか、交渉に参加するかどうかを決めると。そして、秋にはハワイでAPECの会談が開かれて、そこでオバマさんとも関係の深いハワイで、オバマさんがTPPを進めると言うことですね、声明を出すんじゃないかと。非常にスケジュールが詰まってるわけですけども。現実には今年の一般教書演説でも、TPPという言葉すら出ていない。

オバマさんが言ってることはアメリカの貿易を伸ばしていって雇用を増やすと。中国との関係があっても、中国に航空機を売りつけて、これで沢山雇用も生まれたと。こういう話であって、どうやってTPPをするかと言う議論も無いんですね。それは大変恐ろしいことで、我々はTPPが来て『これはなんだ』って驚いてるわけですよ。アメリカの中だって驚くわけですよ。例えば関税が0になってしまうとか、いろんなところでアメリカの制度的なものも変えていかなければならないとなると、アメリカ側も驚くわけですね。ですから、そういう議論がアメリカ側も進んでいないということですね」

岩上「アメリカの誰が進めようとしていて、そして寝耳に水だと驚いているのは誰なのか。これは政府の中の一部が進めていて、例えば議会は知らされてなくて驚いているということなのか、オバマさんは知っているのか知らないのか、この辺はどうですか」

首藤「オバマさんはある瞬間から、昨年のある瞬間から『アメリカの問題を解決するには、輸出が重要だ』と。こういう発想を持つに至ったんですね。それはなぜかと言うと、ご存知のとおりイラク、そしてアフガニスタンと軍事費が毎月1兆円程度かかってくるわけですね。それはすさまじい負担になってるんですよ。そういう中でアメリカは稼がなければいけない。どうやってやるかというと輸出しかない。言うところで、オバマ政権は最初登場してきたときには福祉よりであるとか、或いは社会主義的な政策であるとか、こういうのを全てペンディングにして、とにかく稼ぐこと。お金持ちを優遇したりしてとにかくビジネスを盛んにすること。これにシフトしていくわけですね。

その中から出てきたテーマが輸出の振興。ただ輸出振興するって言ったってできないですから、競争力があるわけではないので、アメリカの競争力っていうのは、金融だとか、サービスであるとか、保険であるとか、医療であるとか、こういうのがそうなんですけども、実際に輸出するって言ったって無いわけですね。そこで、アメリカの得意な、自分たちのグループを作ってそこで輸出を拡大しようというところから、おそらく出てきた話だと思います」

岩上「ある時から変わったと。そのある時というのは、首藤さんから見て『あの時だな、ああいうタイミングだ』こういう兆候は何かありますか」

首藤「それは、アメリカがイラクから撤退を始めると。そしてアフガニスタンからも撤退すると。その軍費がかさんできた。財政負担が非常に大きいというところで、昨年の半ばぐらいからそういうのが顕在化してくるんですね。その時に誰かが『これからは輸出だ』という形で吹き込んでいったんだと思うんですね。オバマはそれに乗って、輸出すれば雇用が広がると。これは、この間中国の指導者が来たときにアメリカの飛行機を売りつけて、これで20何万人の雇用が増えると得意げに言ってるわけですけども。今それだけオバマさんは追い詰められて来ていると。そこで、色んな手段があるとして、TPPというのを使うことを考えたんですね。

昔TPPにはアメリカも1枚噛んでたんですよ。ところがそれはもう意味がないというところでそれは撤退してその結果、先ほど言いました4ヵ国、ニュージーランド、ブルネイ、チリ、シンガポール、とかいう小国だけで仲間内で小さいグループを作ったんですね。

 ところがアメリカが入ってきたことによって、全く違うTPPになったんですね。4ヵ国は4ヵ国で契約のドラフトみたいなのを作ってるわけですよ。しかし、今回アメリカが昨年の半ばぐらいから入ってきたことによって、TPPっていうのは全く異質なものになってる。

 新しくアメリカが入ってきてどういう貿易体制にしようかというのは、全くのなぞなわけですよ。そこで、ようやく分かったきたことが、単なる貿易の自由化ではなくて、制度の均一化。アメリカの制度に他の国も全部合わせた貿易体制を作ろうと。いうなれば太平洋におけるEU(*)みたいなね。太平洋経済共同体みたいな。それを作ろうとしていることがだんだんとわかってきたということですね」

(*)EU:(European Union)欧州連合。、欧州連合条約により設立されたヨーロッパの地域統合体。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E9%80%A3%E5%90%88

岩上「太平洋におけるEUいうとですね、EUは大変結構じゃないか。共同体じゃないかというふうに聞こえるんですけども、例えばフランスとドイツという大きな強国が両方話し合いながら、まずこの両国間で何とか手を結び合う。戦争が起きないように。これは戦後努力して、そこから一つずつ積みあがっていったものですよね。一挙に制度を均してしまう。しかも誰にとってもフェアなものであればいいんですけれども、どうやらフェアなものではないんではないかという懸念があるわけですよね。
 例えば一部分かってきたことは、まずは法制府まで手を出してくれた。全然思いもよらなかった。しかしアメリカの弁護士は日本で開業することができて、そして、アメリカの巨大な弁護士事務所みたいなものを開業できる。ところが、日本の弁護士は相変わらずアメリカではそのまま通用するわけではない。当然言語の障壁も含めて。それは一方的なものであって、制度の均一化というとちょっと誤解されるんではないか、或いは実態は違うんではないか。どなたかが言ってましたけど、『小国のTPPから帝国のTPPに変わったんだと』っていう表現をされてる方がいましたけども」

首藤「小国のTPPっていうかね。その時は4ヵ国のTPPっていうのは貿易協定だったんですね。自由貿易協定だった。お互いに足りないところを補完し合うということだったんですね。しかし今アメリカがやろうとしているTPPは、太平洋共同体を作ろうと。その中で貿易を、アメリカの輸出を伸ばしていこうということですね。ここがかつてのヨーロッパの経済共同体と違うのは、時間軸がものすごく狭いということですね。EUに関しては、第2次大戦争が終わってから石炭の連盟とか、復興をいろいろやりながら」

岩上「石炭鉄鋼連盟(*)ですね」

(*)石炭鉄鋼連盟:(European Coal and Steel Community) 欧州石炭鉄鋼共同体。冷戦期に6ヵ国によって設立され、のちに欧州連合となっていく国際機関。英語表記の頭文字から ECSC とも略される。欧州石炭鉄鋼共同体はスープラナショナリズムの原則に基づいて設立された最初の機関である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E7%9F%B3%E7%82%AD%E9%89%84%E9%8B%BC%E5%85%B1%E5%90%8C%E4%BD%93

首藤「そうですね。そういうものをやりながらだんだんとやがて経済共同体になって、それがやがてEUになっていくという。そして最後が、マーストリヒト条約(*)なんかで法律とか制度も合わせていく。こういう発展段階を踏んでくるんですね。

(*)マーストリヒト条約:欧州連合の創設を定めた条約。1991年12月9日、欧州諸共同体加盟国間での協議がまとまり、1992年2月7日調印、1993年11月1日にドロール委員会の下で発効した。協議は通貨統合と政治統合の分野について行われた。本条約の正式名称は欧州連合条約であり、その後の条約で修正が加えられた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%88%E6%9D%A1%E7%B4%84

このTPPっていうのは、簡単に言えばオバマ政権が生き残るための数少ない方策だということですね」

岩上「オバマ政権のために。米国ではなく」

首藤「米国というよりはオバマ政権ですね。ですから、ご存知のとおりオバマさんというのは大変な理想を持って、核廃絶使用とか、或いは非常に格差社会になってきたアメリカを、もうちょっと貧者や、或いはマイノリティーの人達に、良い生活をできるようにしようという高邁な理想を以て皆が期待して作った政権ですけど、現実はすさまじい財政赤字とか、社会の様々な問題に対応しなきゃいけないんですね。うまく対応できてないわけですよ。そのうちに、どんどんと時間は経ってもう後2年ぐらいするとまた大統領選挙になるんですね。この間大統領になったばかりだと、我々はそういう感覚がありますけども。もうすぐまた大統領選挙になると。
 更に、ご存知のとおり昨年に中間選挙があって、それによって地方が大々的に負けたんですね。その意味では、もはやオバマさん、そしてオバマさんを支えていた民主党の政権というのが揺らいでるんですね。こういうところで、大統領と言うのは2期ぐらいやらないとまともな政策は作れないんですけど、とにかく2期目までやるためには、オバマさんは妥協して妥協して、共和党が支えている保守勢力や、或いはまたお金持ちに対する減税とかそういうものを繰り返しながらともかく、2期目の選挙を生き残ろうというところで、アメリカ人の雇用を増やすというばら色の夢を持ったTPPにかけてる面があると思うんですね」

岩上「しかし、アメリカ人の雇用を増やすために、どこまでも日本やその他ニュージーランドとか、日本と同様アメリカに追従してきた国々を、帝国の植民地のように抱え込んで、そこへ物を売りつけたり。物だけではないですね。先ほど言った様々なサービスとかまで売りつけてきて、内部から改造してしまうと。こんなことやられた日にはたまったもんじゃないですね」

首藤「そうですね。ですから、じゃあ結構だと。関税を取っ払えばアメリカの製品が日本を含めていろんな所で大々的に売れるかというとそうじゃないんですね」

岩上「売れない」

首藤「売れないんですね。特にアメリカの中で大企業は事実上アメリカの外で多国籍企業化して生きてるわけですね。アメリカの雇用を増やすという点では、アメリカの中小企業なんかが重要なんですね。そうすると、そういう会社は日本で売れるかというと、たちまち日本の厳しい環境規制とか、或いはいろんな厳しい基準があると」

岩上「安全基準がありますね」

首藤「安全基準。それから何よりもマニュアルとかは日本語で出さなきゃいけない。申請も日本語で出さなきゃいけない。こうなるとこれ大変なんですね。大企業は既に日本に拠点を持っていて、すぐに日本語に直してできるんですけど、中小企業はできないわけですね。だから、アメリカにとって見れば日本のように特殊な国が何でも入札で日本語で書かなきゃいけないと。日本語で書類出すだけじゃなくて、日本人の担当者がいて、いつも行政機関に行ってご挨拶したりですね、そんなことはできないわけですね。ですから、そういうやり方はもう良くないんだと。アメリカのやり方で、要するにホームページを見てE-MAILを送って、それに入札できると。そういう形にしなきゃいけない」

岩上「しかも、それを英語でやるっていうのは、日本が日本でなくなるって事じゃないですか。日本語自体が障壁だという言い種ですよね」

首藤「そういうことなんですよ」

岩上「特殊っていわれたって、我々日本人で、日本語の文化と伝統を持ってるわけですから、それを捨てろと言われてる。若しくは経済で競争するときには英語でプレーをするのが当たり前だという言い種ですね。そしてそれを管理監督する行政もこれ英語でやれと。更に紛争が起こったらそれは全部英語でやれと。そのルールは我々のルールだ。そして紛争解決のプレーヤーも米国人がやるんだと。こんな言い種ですよね」

首藤「そのとおりですよね。それはアメリカ的な発想で言えば、英語は国際語だと。国際的なルールで世界で通用してると。だから、それが通用できないのは日本の特殊論だと。特殊にやってるからそういうことになるんだと。そういう発想はずっとあるんですよ。
 ところが、これはTPPの前から言ってきたことで。どの辺から言ってきたかというと、20年以上前の日米経済摩擦(*)の頃からずっと言ってきたわけですよ。更に、日米構造協議(*)というんで言ってきたんですね。最近では、年次要望書なんて」

岩上「年次改革要望書(*)ですね」

(*)日米経済摩擦:日米間の貿易収支の不均衡によって生まれた摩擦。アメリカは1971年に貿易赤字になり、80年代に入ってその赤字が増大し、日米の貿易摩擦も深刻になった。
http://kids.gakken.co.jp/jiten/5/50022110.html
(*)日米構造協議:(Structural Impediments Initiative (SII))アメリカと日本の間で、日米貿易不均衡の是正を目的として1989年から1990年までの間、計5次開催された2国間協議である。1993年に「日米包括経済協議」と名を変え、1994年からはじまる、現在の「年次改革要望書」への流れを形成した。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B1%B3%E6%A7%8B%E9%80%A0%E5%8D%94%E8%AD%B0
(*)年次改革要望書:日本政府と米国政府が両国の経済発展のために改善が必要と考える相手国の規制や制度の問題点についてまとめた文書で、毎年日米両政府間で交換される。
日本のノンフィクション作家、関岡英之は年次改革要望書はアメリカ政府による日本改造という観点から注目し、アメリカによる日本への年次改革要望書の性格は、アメリカの国益の追求という点で一貫しており、その中には日本の国益に反するものも多く含まれているとしている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E6%94%B9%E9%9D%A9%E8%A6%81%E6%9C%9B%E6%9B%B8#.E3.82.A2.E3.83.A1.E3.83.AA.E3.82.AB.E6.94.BF.E5.BA.9C.E3.81.AB.E3.82.88.E3.82.8B.E6.97.A5.E6.9C.AC.E6.94.B9.E9.80.A0

首藤「それで、郵政民営化なんかも進んだんですね。それを見ると実際アメリカは何を要求してるか、まだ我々なぞなんで何も知らないんですけど、大体アメリカはこういうことを要求するだろうというのは要望書の中に書いてあるんですね。例えば郵政に関してもですね、アメリカの企業はなぜ競争できないかというと、郵政なんて会社がありますね。そこには日本人は郵政って言ったら『ああ、郵便局だな』と。その後ろには郵政省というのがあって、『ここだったら安心だな』ってそのサービスを買ったりするんですね。こういうふうに名前からして国が背後にいて、安全だというものをけしからんと言ってるわけですね」

岩上「要するに日本の国家が危険だと」

首藤「アメリカの製品が売れないのは、日本の制度とか日本の文化とか、そういうものがアメリカ的でないと。だから売れないんだと。それをアメリカ化してくれたらアメリカの中小企業のものも自然に日本で売れるようになると。そういう発想があるんですね」

岩上「彼らにすれば日本は属国であって、その属国が特殊な言葉で制度を作っている。特殊って言われる筋合いないんですけど。彼らよりずっと古いんで、我々ずっと続けてきてるんですから。その言葉もやめてくれと。
 先生の資料にキルギスの地図ありますけど。キルギスっていうのはソ連の一部でしてね、そういう中央アジアの国々がそうであるように、独自の言葉や言語を持っている。全くロシアとは違う国々にロシア語を押し付けてきたわけですけども、言ってみれば日本という国を明確に完全な属国、属州、或いは植民地として、言葉までも含めて、制度までも含めて、アメリカの一部になれと。もちろんこういう国々で2ヶ国語しゃべれる人としゃべれない人といます。キルギスの言葉しゃべれる人と、ロシア語とキルギスの言葉と両方しゃべれる人もいますが、ドメスティックな言葉しかしゃべれない住人は、原住民扱いされて、2級市民扱いされますよね。いろいろ仕事の面でも不利益こうむります。
 日本人がこれからTPPに参加して、押し付けられていくというのは最終的に、日本国民というのは日本列島における単なる原住民、先住民、アボリジニとかインディアンみたいな扱いを受けて、2級市民化していくことを意味するんじゃないですか。人の自由化…」

首藤「いや、岩上さんそれはね、考え方が甘かったんですよ。甘かったということがようやく分かり始めたということですね。
 例えば、まず日本はアメリカとの戦争に負けたんですよ。普通負けるとやはり勝った国には言えないんですよ。それは歴史の厳粛な事実ですよね。我々はそんなことは思ってないんですけど、じゃあ現実で見たらって言うわけですね。それはなぜかというと、日本には基地があるんですよ、アメリカの基地が。これはご存知かもしれませんけど、世界にどこの国もアメリカの基地なんか無いんですよ。例えばカナダといえばアメリカの一番親しい国で、カナダなんてアメリカの一部じゃないかみたいな所ですけど、カナダにもアメリカの基地って一つもないんですね。じゃあドイツにあるじゃないかと。あれはアメリカの基地じゃなくて、NATO軍の基地なんですね。それは、集団的防衛体制ですから、アメリカも参加してるということで、アメリカの基地じゃないんですね。
 基地があるっというと、韓国にもありましたよね。韓国は交戦権、要するに戦闘指揮権、戦争が起こったときの指揮権も自国で持ってないです。それはアメリカが持ってるんですね。
 同じように、世界の中でこんなに沖縄に見られるように、沖縄以外にも横田基地がありますね。三沢基地もあります。いろんなところに基地があるんですけども。自国の中に外国の基地がある国なんて無いんですよ。これはね、国会の議論を見ていただければ分かるんですが、有事法制(*)議論っていうのがあるんですね。2004年ぐらいに徹底的にやったわけです。その中で、私はある質問をして、他にそういう同じような質問でね。外国の基地があるような国はね、国際法上どのような位置づけなのかと聞いたらですね、『外国の基地がある国はその外国の属国と定義される』と。何と外務省が答えたんで、仰天したんですけど。それはその頃の議論を見ていただければ分かるように」

(*)有事法制:有事(武力衝突や侵略を受けた場合など)に際し、軍隊(自衛隊)の行動を規定する法制のこと。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E4%BA%8B%E6%B3%95%E5%88%B6#.E6.88.90.E7.AB.8B.E7.B5.8C.E7.B7.AF
岩上「2004年」

首藤「有事法制論議の頃ですね。それはそうです。外務省の言い方によると、『国際法上外国の基地がある国はその外国の属国と見做される。それは国際法上の定義です。』としゃあしゃあと言ったわけですね。それは、厳粛な事実は我が国はアメリカと戦って負けましたと。占領されました。更に、日本にアメリカの基地がそのまま残ってます。ということは、国際法上はアメリカの属国と見做されるということですね。そういうことを我々は自覚してなかった。もちろんアメリカも日本人を奴隷のように扱ったわけじゃなくて、いつの間にか我々は対等であるし、場合によっては日本のほうが、Japan as №1. 何て言ってたわけですね。『Japan as №1. に!』何て言ったときに、アメリカがガーンと日本を攻撃してきて、それで今の日本の経済のガタガタな状況になってきたんですけど、よく考えてみたらあれは日本がアメリカを抜いたと思った瞬間に、アメリカは反撃してきたんですね。ですから、厳粛な事実としては、まだ日本は戦争は終わってないと。戦争は終わったんですけども」

首藤・岩上「占領は終わってない」

首藤「そういう厳粛な事実を我々はもっと自覚する必要があるということですね」

岩上「独立こそ必要なんじゃないですか」

首藤「それはそうなんですよ。それは、今回のTPPのことを日米修好通商友好条約(*)ですね。井伊直弼(*)が作った不平等条約と同じように考えるという人がいますけども。
 そういうものに対抗したのが、一つは明治維新。もう一つは思想的には福沢諭吉(*)なんですね。福沢諭吉は日本が独立しなきゃいけない。西洋の影響力を脱してね、やんなきゃいけない。そのためには国が独立しなきゃいけない。国が独立するためには個人が独立しなきゃいけない。だから、独立自尊(*)だと。

(*)日米修好通商友好条約:安政5年6月19日(1858年7月29日)に日本とアメリカ合衆国の間で結ばれた通商条約である。幕末の混乱期から明治初頭にかけて日本が列強と結ぶことを余儀なくされた不平等条約の一つである。幕府は同様の条約をイギリス・フランス・オランダ・ロシアとも結んだ(安政五ヶ国条約)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E7%B1%B3%E4%BF%AE%E5%A5%BD%E9%80%9A%E5%95%86%E6%9D%A1%E7%B4%84
(*)井伊直弼:幕末の大名。近江彦根藩の第15代藩主。
幕末期の江戸幕府にて大老を務め、日米修好通商条約に調印し、日本の開国近代化を断行した。また、強権をもって国内の反対勢力を粛清したが(安政の大獄)、それらの反動を受けて暗殺された(桜田門外の変)。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%95%E4%BC%8A%E7%9B%B4%E5%BC%BC
(*)福沢諭吉:日本の武士(中津藩士のち旗本)、蘭学者、著述家、啓蒙思想家、教育者。慶應義塾の創設者であり、専修学校(後の専修大学)、商法講習所(後の一橋大学)、伝染病研究所の創設にも尽力した。他に東京学士会院(現在の日本学士院)初代会長を務めた。そうした業績を元に明治六大教育家として列される。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E6%BE%A4%E8%AB%AD%E5%90%89
(*)独立自尊:福澤の代表的な言葉で戒名にも用いられた。その意味は「心身の独立を全うし、自らその身を尊重して、人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云ふ」(『修身要領』第二条)。

個人の独立自尊が無い国は、その国は独立しないんだと。こういうことを言ってるんですけど、やはり福沢諭吉はそういうことを良くわかってたということですね」

岩上「福沢諭吉の独立自尊は賛成できるんですけど、政治的にうっかりすると間違った方向に使われかねないのは、脱亜(*)ということですよね。そうなると、今もそうです。その問題と言うのは貿易、或いは経済問題に限らない。日米同盟の進化という名の下に、安全保障上の属国化も急速に進んでいて」

(*)脱亜論:新聞『時事新報』紙上に1885年(明治18年)3月16日に掲載された無署名の社説を指す。福澤諭吉が執筆したとされているが、原文は無署名の社説である。1933年(昭和8年)に慶應義塾編『続福澤全集〈第2巻〉』(岩波書店)に収録されたため、福澤が執筆した社説と考えられるようになった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B1%E4%BA%9C%E8%AB%96

首藤「いや、それもまた一つの」

岩上「パラレルですよね」

首藤「だからね、結局ヨーロッパ、EUを見れば分かるんですけども、経済の連携から段々と経済の様々な制度も同じになってきた。更に、様々な社会制度も同じになってきて、パスポートもいらなくなってきたと。制度っていうのは、もちろん宗教も違うわけですから、ある国では妊娠した女性のアボーション(abortion:人口妊娠中絶)を認めると。カトリックではそれを認めないと。そういうのを乗り越えてきてEUっていうのは作ってきたんですね。それだけかって言うと、EUはご存知のとおりNATOにしても、CSISにしても、ヨーロッパで自分たちの安全保障の体制を作っていこうと、自分たちは自分たちで安全を守っていこうという体制を作っているわけですね。
 じゃあこのTPPにしても、アジア太平洋でどうなるかっていうと、日本があるのは日米安保条約ですね。昔、10年前には民主党も日米同盟とは言わなかった。同盟と言うのは軍事同盟を意味するのであって、日本とアメリカは非常に緊密な関係にあるけれども、日米同盟という言葉は民主党は使わなかったですね。しかし、いつの間にか日米同盟というふうに。最近では、『深化』深く化けるという言葉を使うようになったんですね。これはやはり党内でも激しい議論があって、『深化とは何だ』と言うと、『強化と言えないから深化と言ってるんだ』と。言う人がいてですね、まあそれは言い得て妙だけれども。
 今、安全保障体制はアメリカにより寄りかかっていくという方向にあるんですね。だから、このTPP議論が出てきたときに国会でもやはり疑心暗鬼に多くの人がなってるんですが。それは、こんなに馬鹿げたTPPに乗りかかっていくのは、普天間基地なんかで立場が弱いから。アメリカに『普天間基地、辺野古に移転すると約束したじゃないか』と、言われると、『そこは待ってください。その代わり他の事では、例えば貿易なんかではアメリカの意見をより入れてあげますよ』みたいなところからTPP議論に乗っかってしまってるんじゃないかと。なぜTPPのようなわけのわからない泥船みたいな、ひょっとしてアメリカでも本当に静謐かどうか分からない。こんなものに乗りかかっていく。その背景には普天間基地問題があって、日本は一方では日米同盟の深化と言って、一方では普天間基地のように何もできない。と、いうところで安全保障で譲ってもらってる代わりに、これでアメリカに譲ろうと、こういう考え方があるんではないかと」

岩上「それはいったい誰が、それはつまり外務省なんですか、それとも官邸なんですか」

首藤「それは、政府ですね」

岩上「政府というのはどこですか」

首藤「どこかっていうのは何ともいえないですね」

岩上「分からない」

首藤「それは、菅さんなのか、前原さんなのか、その辺はよく分からないですね。この問題はまたいでるじゃないですか。鳩山政権から」

岩上「そうそうそう、まあ関わりがあるんでしょうけど」

首藤「鳩山政権の時にはTPPっていうのはあまり対象になってないですね。ですから、やはり菅政権になるというのと、普天間基地問題が深刻化するとか、その時にちょうど出てくるわけですね。

 ただ、政府側はそういうリンケージはないと言ってるんですけど、横から見てるとやっぱりリンケージじゃないかと思うわけですね。ですから、確かにこのTPPっていうのは経済問題ですけども、一方では日本はどうするんだという安全保障上の問題なんですね。

 特に、なぜアメリカがTPPと言ってるかというと、それは民主党政権になってから民主党はアジア重視というのを打ち出すわけでしょ。それは貿易ももちろん。現実に中国は日本の最大の貿易相手ですからね。ですから、中国、アジアと、発展していく東南アジアと、どんどん関係が深くなってくる。そこで、経済的な枠組みとしては、東南アジアにASEANってありますよね。ASEANプラス3(*)。要するにASEANと、東アジアの日・中・韓。これと一緒になって、自由貿易ゾーンみたいなのを作っていこうと考えた。更にそれだけじゃだめで、インドとかニュージーランドとか、オーストラリアを入れてですね、ASEANプラス6(*)、っていうところで、そういうのをやっていこうと、こういう考え方もあるんですね。前者は中国が主張し、後者は日本が主張してきたんですね。

(*)ASEANプラス3:東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に日本、中国、韓国を加えた計13カ国による様々な分野における協力の枠組みの名称。
http://www.weblio.jp/content/ASEAN%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B93
(*)ASEANプラス6:東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた計16カ国による様々な分野における協力の枠組みの名称。
http://www.weblio.jp/content/ASEAN%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B96

そこで、共通してるのは何かっていうと、アメリカっていうのが抜けてるんですね。そうすると、世界のどこでも分かるように今これから非常に経済が伸びていくのはアジアなんですね。そこにアメリカが入れないっていうことは、大変な危機感があって、そこで何とか入っていきたいというのが1つ。
 それからもう一つは、中国は脅威わけですから、中国と日本の間に目に見えぬ線を引きたいというアメリカの政策的な意図があるんですね。そう考えますと、TPPという形で日本は東アジアの国というよりは、太平洋の国だと位置づけて、アメリカと一緒です、ニュージーランドとオーストラリアと一緒ですと。こういう形で日本を目に見えないフェンスの内側に閉じ込めて中国との間に一線を画したいというのが、アメリカの政策担当者としての発想として当然考えられるわけですね」

岩上「漁船の衝突事件。あれも非常に、そういう意味では政治的に利用された事件ではないですか?」

首藤「それはそうですね。それはもうそのとおりで、日本はこんなこと言ったら恥ずかしい話ですけども、まともな政策、外交上の政策スタッフにブレインがない。哲学もないんですが。アメリカは世界で起こった事件をどのように自分たちの安全保障体制、或いは世界観に都合のいいようにしていくかっていうのは、四六時中24時間365日考えてるわけですよ。ですから、例えば今、中東で次々と起こってくる。そうすると例えばエジプトで問題がある。何とかエジプトはイスラエルとの関係があるから、アメリカ側に留めなければならない。しかし、ある程度紛争を収めなければいけない。しかし、この紛争が長期政権に対する反発ということであれば、是非イランにも伝播してもらって、イランの反米政権に脅威になってほしい。

 それからエジプトの隣のアメリカと敵対したムアンマル=カダフィーというですねアラブの指導者。これもどちらかといえばいなくなってほしい。というように利用するわけですね。ですから、アメリカは世界で起こっているつまらない国境紛争とかそういうものを四六時中見張って、それを常に自分達に都合のいい形に組み替えていくということですね。それは別にアメリカ悪いことじゃなくて、外交というものはそういうものであり、世界戦略と言うのはそういうものなんですね。残念ながら我が国にはそういう発想は戦争が終わってから65年間一切無かったんですけども。それはヨーロッパもそうで、フランスなんかもまさにそうなんですけども。他の国は、大国はみんなそういうふうに考えているということですね」

岩上「そのとおりで、だからこそ日本は考えてなかったじゃなくて、今からすぐ考え出さなきゃいけないと思うんです。何度潰されてももう一度起き上がって、自国の利益、或いは自国の国民のための利益を考えなきゃいけない。先ほど言ったように国民を総取り変えしてもかまわないんだという状態になってしまったら、大変なことになると思うんですけど。

 ここで、確認のためにお聞きしたいんですが。前者は中国、後者は日本という東アジアの共同体の考えですね。両者ともアメリカを抜きにしているというのは、なぜ抜きにしてきたのか。なぜ最初からアメリカを取り込んだ形でこういう構想を生むことができなかったのか。そして、実際問題アメリカは見えないフェンスの中に日本を抱え込んで、必要以上に例えば中国の漁船の事件などを政治的に利用して、日中間の対立を煽る方向に事を誘導していることも事実だと思うんですけど。日中間そうたやすく分断されないように手を組み且つ、アメリカを開眼しながらそこに引き込むということはできなかったのか。ちょっと長い質問で申し訳ないんですけども」

首藤「それは、国際問題と外交を考える時にはですね、自分が日本人でありここにいると考えて、自分がペンタゴン或いは国務省にいると思えば理解できるんで。アメリカにとって見れば日本と中国との間を一線を画させてお互いにライバル関係で敵対すると。一方日本の頭越しに中国に手を入れて、中国とアメリカとは直接連絡取り合って、日本をけん制すると。これは大国アメリカとしての考え方であって、これはずっと19世紀頃からそういうふうに考えて、実行してるということですね。それは、そういうもんだ外交と言うのはそういうもんだ。

 そこで、日本がどうするかということは、昔は結構色んな事を考えたんでしょうけど、私が知る限りでは、あの辺から日本の外交が変わっちゃったなと思うのは、1990年の第1次湾岸戦争(*)のときですね。日本はアメリカに軍隊派遣しない代わりにお金を出して、あまり関与しなかったんですけど。あの辺からアメリカは日本の独自外交を潰す方向に出てきたんですね。それまでは日本の例えばチャイナスクール(*)とか、ロシアスクール(*)とかですね、アジアとか中国とかロシアとかと綿密な関係を持っていて、産油国に関しても、イランなんかと非常に深い関係を持ってたりして、いうなれば独自外交のチャネルがいくつもあったんですね。ところが、第1次湾岸戦争のときにですね、そういうのも皆切って、今にしてみれば思い出しますけども、日本の外務省は中国や東南アジア、ロシアとかそういうもので際立って力を発揮してきた外務官僚を次々と失脚させていったんですね。その辺から外務省というのは北米一課とかいうように、アメリカの方を向いているところだけが外務省になってきて、完全に日本の独自外交というのはなくなってしまったというところですね」

(*)第1次湾岸戦争:1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻したのを機に、国際連合が多国籍軍(連合軍)の派遣を決定し、1991年1月17日にイラクを空爆した事に始まった戦争。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%BE%E5%B2%B8%E6%88%A6%E4%BA%89
(*)チャイナスクール・ロシアスクール:外務省には、研修語ごとの語学閥(スクール)がある。チャイナ・スクールの他にはアメリカ・スクール(米英語)、ジャーマン・スクール(ドイツ語)、ロシア・スクール(ロシア語)などに分かれる。したがって、中国語にのみそうした外交官のグループが存在しているわけではない。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB

岩上「これはこれですごく興味深くてですね、孫崎享(*)さんとか、天木直人(*)さんのようなやめられて、かつ口をつぐんでる方もいらっしゃいますが、口をつぐまないで日本の外交姿勢はアメリカ一辺倒で対米従属一辺倒の外交、これはおかしいというご発言をされているやめられた外務官僚の方いらっしゃいます。この点についても、非常に興味があるんですが。

(*)孫崎享:日本の元外交官、元防衛大学校教授、作家。『日本外交 現場からの証言』で山本七平賞受賞。元外務官僚出身だが、メディアには、元防衛大学校教授の肩書で登場することが多い。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%AB%E5%B4%8E%E4%BA%AB
(*)天木直人:元駐レバノン日本国特命全権大使、作家。イラク戦争当時、対イラク政策を巡る駐レバノン日本国大使として意見を具申した2通の公電により外務省から外交官を「解雇」されたと主張(外務省は人事の問題であって「勇退をお願いした」と説明)し、外務省を告発する著書が話題となった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%9C%A8%E7%9B%B4%E4%BA%BA

先ほどの質問、ちょっと長い質問で申し訳なかったんですが。日本の東アジア共同体構想という中に、はじめからアメリカを抜きにした構想が描かれている。中国がそういう構想を描くというのは、逆に中国の視点に立てばアメリカをけん制し、アメリカをうまく付き合いながらも他の国々は自分にひきつけておこうという政策、構想なのかもしれません。中国にはそれだけの帝国になる資格というものを幾つか持ってると思います。潜在的には持ってる。日本はなぜ先ほどのASEANプラス3、プラス6、という構想を、アメリカを抱き込まない構想を描いたのか。北米一課中心の外務省だったらばこういう構想は描けないんじゃないかと思うんですが」

首藤「これは、もう一度年表を良く見れば分かるように、ASEANプラス3とか6なんて出てきた前の事情を考えると、中国っていうのは発展途上国なんですね。韓国も日本のまねをしていた発展途上国と先進国の中間ぐらいですよ。しかし、その後バブルが崩壊したりリーマンショックがあったりいろいろずっとあるわけですけども、その過程で中国というものが急激に大きくなってきたわけですね。20年前を考えて、中国が20年後には日本のGNPを抜くとは誰も想像してないですよ。やはり急速に中国が大きくなってきて。例えば、サムソン電子が日本のエレクトロニクスの会社全部合わせた利益よりも、サムソン電子のほうが大きいとかですね、そんな状況というのは20年前は誰も思わなかったですよ。ところが段々と中国が出てきて、韓国が出てくると。これは日本とこの辺を大きな発展のエンジンにしていこうという発想が出てきて、なってきたわけですね」

岩上「これじゃあ日本が発想したのっていうのは20年前でもない、ごく最近でもない、その中間あたりということですか?もともとの萌芽というものは」

首藤「それはそうですね。その頃は日本は元気で、実際景気も良かったし、経済力もあって、技術競争力もあったんですね。マハティール(*)さんの、ルックイーストポリシー(*)なんていうのは日本を見習えということですね」

(*)マハティール:(Mahathir bin Mohamad)マハティール・ビン・モハマド。マレーシアの政治家、医師。立命館大学第36号名誉博士。マレーシア第4代首相。マレーシアの首相の中では最長の22年を務め上げた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%8F%E3%83%9E%E3%83%89
(*)ルックイーストポリシー:日本・韓国の集団主義と勤労倫理を学べという、マレーシアの政策である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E6%94%BF%E7%AD%96

岩上「じゃあもっと古いんですね」

首藤「バブル時代の芳縁からずっとあったんですけども。それでやはり、これはもう日本もASEANとかアジアと密接な関係を持って、アメリカとの関係だけじゃなくてアジアにも強い絆を持ってバランスを取ろうと。そういう発想から出てきたわけですね。」

岩上「そうすると、淵源というかスタートラインは非常に古い。日本がもっともっと自分に誇りを持っている時代のシナリオであって、このシナリオを今の日本が考え出せるかというとそうではない」

首藤「それはもう条件が違っちゃってですね、例えば中国は今、世界第2位のGNPで以て日本を凌駕してるとかね。韓国が非常に経済的に延びてると。輸出も伸びてると。アメリカとのFTA、ヨーロッパとのFTAを成功させたと。こういうところで日本は焦ってるんですね。必ずしも焦る必要は無くて、例えば驚いたんですが、中国が日本のGNPを抜いたと。その時にBBCなんかを見てますと、『いや、これはたいしたこと無くて、中国がGNP抜いたと言うけど、一人あたりではもうめちゃくちゃに低いと。日本は2位から3位になっちゃったけども、生活水準はアメリカと殆ど変わらないと。一方中国は極端に貧しい』という論評があってね、ああなるほどなと思ったんですけども。ですから、中国がこんなに大きくなってもそんなに日本は慌てる必要は無い。向こうは一人っ子政策ですからね、たちまち高齢化社会になって、これは大変な問題があると。
 韓国に関しても、韓国はめちゃくちゃに輸出が強いわけですね。輸出がなぜ強いかと言うと実はウォンが安いんですね。自国の通貨が安いということは、経済が世界から評価されていないということで、経済がかなり難しいわけですよ。だから、ウォンが安くなるに従って輸出は伸びる。しかし、国内は決して豊かになってないわけですよね。日本以上に格差社会になって、若者の失業は非常に厳しいと。出生率は日本より低いというような厳しい状況にあるわけですけども。
 日本はやっぱり今自信を失ったといいますかね、中国にも抜かれて、韓国にも抜かれてる。だからこのTPPみたいなのに、韓国に追い抜かれちゃったと。ほっとくと日本の車も韓国との競争に負けちゃって、だめになるんじゃないかと。だから早くTPPに入ってですね、韓国を追い抜かさなきゃいけない。みたいな発想の人はいるんですけど。そういう人はTPPを推進しているんですね」

岩上「誰ですかそれは」

首藤「それはだから…」

岩上「政治家の中にいる、それとも官僚ですか」

首藤「政治家にもいるし、政府にもいるし、官僚も言ってるし、経団連も言ってるんですね。じゃあその根拠は何ですかというと、根拠はたいして無いんですよ。
 話題をTPPに戻しますと、TPPっていうの面白いことですけども、誰が本当の推進者かよく分からないわけですね」

岩上「そうですね」

首藤「ですから例えば、政府でいえばこれは経済産業省なんですね。そうするとTPPに入らなかった場合どれだけ損害があるか、日本の競争力がなくなるかと、こういう試算を一応するわけですね。しかし本当に入らなかったらそうなるかというのは誰も分からないですよ。例えばね、日本はアメリカへ車を輸出するとしたらですね、5%の関税がかかる。アメリカと韓国の間(の関税が)がなくなるとすれば、日本は5%の関税がかけられて大変かというと、ご存知のとおり関税は5%かもしれない。しかし円の交換レートは20%、30%今高くなってるわけですよ。ですから、関税が5%下がってもね、円が2割も3割も上がってる、そしてもっと上がるかもしれないというときには、意味なんて何も無いわけですよ。だからそれは、計算が合わないわけですね。じゃあ車が輸出できるかというとですね、そんなことは企業の方も分かってるわけで、主要な企業は皆海外に生産拠点を移してるわけですよ。だから、日産とかトヨタも5割から6割は海外で生産しているわけですね。我々がしょっちゅう乗ってる日産のマーチというのはですね、前年はこれタイで作ってるわけですよ。だから、そのようにですね、もう車社会、車を作っている製造会社もですね、殆ど海外で生産して、それによって円高を避けているわけですね。ですから、関税が下がったって何の価値も無いわけですよ。

 経団連っていうのは輸出を大規模にやってる大企業の連合体なんですけど、ではいったいなんで経団連が推進しているのか。これもわかんないし。『TPPに入れ入れと。入らないと大変だ、韓国に負けちゃうぞと』と、こういう話ですけど、とても理論的でないわけなんですね。ですから、経団連でどういう根拠に基づいてTPPを推進しているんですかと聞くとですね、あまりまともな答えが出てこないんですね。

 驚いたことに、経団連もそうですけど、マスコミがTPP大賛成なんですね。これは特に昨年のAPECがあったわけですけど、APECの前後からマスコミがTPP参加の大合唱をするわけですよ。それで、某テレビ局のコメンテーターなる人がですね、『これは日本は早く入らなければだめだ、菅政権も早く決めろ』とかね、『入らないと大変だ』とかいうことを毎日毎日言うわけですね。で、その方に『じゃあ1回国会に来てどういう根拠でそういうことを仰っているのか説明してください、私達もその根拠を教わりたいから』と言ったら来ないわけですよ」

岩上「だれですか」

首藤「いやそれは何とも言い難いですけど」

岩上「何とも言い難い」

首藤「何とも言い難いですけど、それは日本を代表するニュース番組のですね、コメンテーターの方ですけども」

岩上「ほにゃららステーションですよね(笑)」

首藤「(笑)それは本当驚く。普通どんな方でも国会議員が話しを聞きたいと言えば、来るわけですね。それで自分の主張をちゃんと言うわけです。それが全く来ないというのはですね、私はもう驚いてしまったんですが。

 また新聞も皆そんな論調でですね。ですからTPPっていうのはじゃあ何なんだと、どういう根拠があるのかっていうと、誰も書かないわけですよ。TPP賛成だと言う人のコメントは出るんですけど、じゃあなぜそうなのかっていうと出ないですね。
 その次にTPP問題で、問題の定義が間違ってるのは、さっき言った、貿易問題ではないいうのが一つですね。それから乗り遅れとか何とかそういうのも一つですね。もう一つはね、TPPは工業品の輸出、対、農業問題だ。これで日本は開国しちゃうとですね、安い農業産品が入ってきて日本の農業が全部潰れちゃうと。だから反対してるんだと。反対してる人間は皆農業関係のですね、守旧派だと。こういう定義なんですね」

岩上「レッテル貼ってますよね」

首藤「そうなんですね」

岩上「でもそれ前原大臣からレッテル貼ってますよね」

首藤「(笑)いやまあ」

岩上「アメリカで演説しましたよね。GDPの1%の人間に残りの99%が犠牲になってると」

首藤「それからコンニャクがですね、17倍ぐらいするから、1700%の関税がかかるとかね。そういう話をする。コンニャクはそれは日本の群馬とか埼玉で作ってる。そういうところでマンション作れば1坪100万円ぐらいの土地ですからね。そりゃそういう値段になって。一方ミャンマーの奥地で自生しているコンニャク芋はただみたいなもんですから、17倍ぐらい高いってそれは当たり前なんですけども。そういう議論は出ててですね、本当にTPPに入ったときにどういう部門が影響を受けるかという議論が何もないと。これはさっき言った農業はね、守旧派だということですけども、農業にどういう影響があるかっていうのはですね、誰も何も明確なこと言ってないんですよ。というのはなぜかというと、それはTPPが何を求めてくるかまだ分からないわけですよね。だから、例えば米に関しては日本は関税かけてるし、オーストラリアとの貿易交渉なんかではこれは除外してやるとか。除外できたりするのかと。例外を認めないのか。それから、0にするのは無理だとしても少し低いところにすれば認められるのか。そういう議論は全然分からないわけですね。
 伝えられるのは、日本が参加するならば例外をもう認めてあげた、あげないという話しかないんですけど、本当にそうなのかはもう誰も分からないと」

岩上「これ現実に発効して、動いてるのになぜだか分からないんですかね。ニュージーランドとか、オーストラリアでは既に反対論っていうのも上がってきてるというふうに聞きますけど」

首藤「だから、ニュージーランドとオーストラリアにですね、特にニュージーランドは一番最初のP4といいますかね、4ヵ国で始めたところの主唱者、提唱者なんですけども、それがすごい反対してる。それから、オーストラリアも反対なんですね、反対になってきてる。それはなぜかというと、アメリカとオーストラリアは貿易協定を結んでるわけですよ。そうした国の前例としてあるのが、NAFTA(*)といいますかね、北米の自由貿易協定なんですね。これはアメリカとを含んだ貿易協定の恐ろしさを示してるわけで、ここで貿易協定をやりますとですね、アメリカの法理論というね、法体系というものが適用されるわけですよ。

(*)NAFTA:北米自由貿易協定。アメリカ合衆国、カナダ、メキシコの3国で結ばれた自由貿易協定である。1992年12月に署名し、1994年1月1日に発効した。
http://ja.wikipedia.org/wiki/NAFTA

TPPもこれからそうなっていくわけですけども、当然のことながら、いろいろ摩擦が起こるわけですね。例えばアメリカからオーストラリアに投資をして拡大しようとすると。ところが、オーストラリアもいろんな産業を保護したり、それから原住民、マオリ族とかですね(マオリ:アボリジニの間違い。マオリはニュージーランドの先住民族)いろんな問題があったりして、そんなことはできないと。この土地は神聖だから絶対入っちゃだめだとか、いろいろ言いますね。そうすると、そこで大規模な水開発、資源開発しようなんていうアメリカ企業はですね、本来得られたはずの利益が得られない。いうことで、訴えるわけですね。どこに訴えるかと言うと、それはアメリカの法理論に従ってですね、おそらくはWTO(世界貿易機構)、或いはワールドバンク(世界銀行)の中に特別の訴訟組織、訴訟委員会みたいなのを作ってそこに訴えるわけですね。

そうすると、アメリカの法理論ですから、それはこのTPPというですね、或いはアメリカとオーストラリアの貿易協定の間ならそんな特殊な事情でね、それを差別するのはだめだと言って、オーストラリアが負けるんですね。そうすると、利益を得られなかったアメリカの私企業プライベートカンパニーはオーストラリア政府を訴えるわけですよ。そして、それはどこで議論されるかと言うと、さっき言ったワシントンにあるワールドバンクの世界銀行の特別訴訟委員会かなんかで決まっちゃう。そうすると、オーストラリア政府は敗訴するわけですね。そうすると、オーストラリアの政府はその会社に対して保証する、賠償するわけですね。それは税金で払うわけですよ。

ですから、貿易協定の恐ろしいのは、貿易協定は国で結ぶんですが、そこで企業が不利益をこうむると相手の国家を訴訟することができるという形なんですね。そうなると、オーストラリアもそうだし、ニュージーランドも、いろんな地元の弱い部門とか、ニュージーランド建国以来の問題が沢山あるわけですね。それが差別だとか言って訴訟されたらたまらないということでですね、オーストラリアやニュージーランでも大変な反発になってきていると」

岩上「これは現実にそういう訴訟が起こってるんですか」

首藤「現実にものすごいもう大量の訴訟がですね、アメリカとカナダとかですね、アメリカとオーストラリアとか、そういうところで起こってるといわれてるんですね。

ですからこれは、TPPの中には関税を下げるというのは確かに一つの項目ですけども、さっき言った24、具体的には23部会の中で」

岩上「24ではなく23というのはどういう意味なんですか?」

首藤「24部会なんですけど、24部会の一つは全体を統合するための部会だから、まあ言ってみれば会議のルールみたいなのを作るところで、そこは別として、あと23は各分野なんですね。そこで当然のことながら紛争解決、法的な問題というのも取り扱ってるんですよ。ですからそこでは、このTPPができますとですね、これは基本的にはアメリカの法的なルールに基づいて、おそらく訴訟はワールドバンク、ワシントンにある世界銀行に特殊裁判所みたいなのがあって、そこで審議されて、そこで結論が出て、TPPに定義されている自由貿易ができなかったときには、当然の事ながらその国が訴えられるという形になるんだと思うんですね」

【文字起こし:Part2】

岩上「結局、その国が訴えられて敗北して、そして、その国の国民の税金で、アメリカの企業が救済されていくと」

首藤「そういうことなんです」

岩上「早い話が、トラブルがある度に、それが日本に適用されると、いたずらにアメリカの企業に訴訟を起こされ、その度ごとに我々がお金を支払わされることになると」

首藤「アメリカは、弁護士の国で、何か問題があると救急車を追っ掛けてって、それでトラブルを解決して、という弁護士はたくさん居るわけですけども。そういう意味では、アメリカ中で貿易問題で商売していこうという弁護士が増えている、というふうに言われているわけですよね」

岩上「日弁連は、ついこの間まで気が付かなかったと。実際に、前農林水産大臣の山田正彦さんに取材させていただいた時(*)に、~先ほど話があった『TPPを慎重に考える会』の会長でもありますから~ お話をうかがったら、ほんの数日前に日弁連の宇都宮会長に会って、『こういう事態なんですよ』と説明したら、宇都宮さんは全然知らなくて、突然、占領軍に乗り込まれて、自分達が持っている弁護士の資格が通用しないかもしれない事態に陥ると」

(*)「山田正彦前農林水産相 2011年2月8日」、(株)インディペンデント・ウェブ・ジャーナル:http://iwakamiyasumi.com/archives/6578

首藤「いや、通用しないんじゃなくて、同じ資格をアメリカの弁護士が持つようになると。例えば、今まで、アメリカだったら、ニューヨークで資格を取って、次のコネチカットに行ったら隣の州でも別途、取らなきゃいけないですね。日本に来ると、もっと大変になるんですね。日本の東京で事務所を開設しても、大阪はどうだ、北海道はどうだと、それはまた別なんで、大変なんですよね。

 ところが、例えば、アメリカが要求してくるのは、恐らくはですよ、日本で事務所を簡単に作れるようにと。日本の弁護士資格をも、アメリカで弁護士資格を持ってれば自動的に日本でもできると。それから、国際的な調停とか交渉の時には、アメリカの弁護士が、アメリカ弁護士資格のままで代理できるとか、そういう制度の壁を乗り越えた形でアメリカの弁護士が活動できる、というふうなことが予想されるんですね。
ですから、全然議論にも何にもなってないんで、変な話なんですけど、日本で結構、いろんな法的な補助作業があるわけですよ。例えば、行政書士とか、いわゆるサムライ業(士業)、何々士というやつですね。それはみんな、日本では縦割りになっているんですが、それも全部乗り越えちゃって、アメリカの弁護士が全部できるみたいな形になっていく可能性があるということですね。

 で、日弁連の方は、国際化を迫られているのは事実なわけですよ。日本の弁護士も、ある意味では、アメリカに乗り込んでいったり、あるいはアメリカの各州に乗り込んでいったり、さらに中国とか東南アジアにも乗り込んでいってやると。そういうことから、国際化をやりたいという人も、恐らく居るんだと思うんですよ。

 しかし、今回のTPPが意図しているのはそうじゃなくて、アメリカの法制度とかアメリカの弁護士が、そのまま日本で活動できるようにしたいと。これは、アメリカの昔からの懸案ですからね。これは、恐らくTPPという形でやってくると。アメリカがTPPでメリットを感じるとしたら、二国間交渉でやると、それこそ日本はしぶとく反対するわけですから、それでは最後は水掛け論になってダメになってしまう、だから、思い切って多国の中で、日本の言い訳を許さないと。みんな反対して、日本だけがそんなこと言っているという形を作っていきたいんだと、そういうふうに思うんですね。

 だからそこで、TPPっていうのが恐ろしいのは、外交にあまり関心のない方は、いろんな国が入って地球がオープンになって、と思うんですけども、僕等が見たら、すぐ分かるんですよね。アメリカ、ブルネイですよね、それから、シンガポール、マレーシアですね、それから、オーストラリア、ニュージーランド、これはコモンウェルス(*)と言って、簡単に言うと、イギリスの植民地だったんですよ。みんな英語を話して、イギリスの法体系とか、そういうものの同じ仲間なんですよね。

そういう所が、わーっといって、日本だけがアジアの中で孤立しちゃうと。アジアに、他に例えば、マレーシアとかシンガポールとかあってもね、それは、元々、イギリスの植民地ですから。そういう所じゃなくて、じゃあ、タイがあるか、インドネシアがあるか、モンゴルがあるか、カンボジアがあるかっていうと、入ってないわけですよ。だから、日本の応援軍なんか誰も居ないところで、日本人が交渉力を発揮できる筈がないんですね。

 それから、この法体系で実はもっと恐ろしいのは、日本のビジネスの、いわゆる法的なレベルでの能力と、世界でのビジネスマンの法的な能力というのは、月とスッポンぐらい差があるんですね。で、何と言っても日本の強さっていうのは、製造業の強さなんですね。何を言われようが、下請けを含めて一生懸命働いて、24時間働いて、しっかりした物を安い価格できちっと作るというのは、日本の製品の強みなんですよね。しかし、法律とか、そういうのは全く弱いわけですよ。そこで問題となっているのが、貿易交渉におけるネガティブリスト(*)問題という、新しいテーマがあるんです」

(*)コモンウェルス(commonwealth):イギリス連邦。イギリスとその植民地であった独立の主権国家からなる、緩やかな連合。
「コモンウェルス」、weblio:http://www.weblio.jp/content/%E3%82%B3%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%82%B9
(*)ネガティブリスト:原則として規制がない中で、例外として禁止するものを列挙した表。特に、原則として輸入は自由とし、例外として制限する品目を列記したもの。輸入制限品目表。
「ネガティブリスト」、コトバンク:http://kotobank.jp/word/%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

岩上「ネガ方式というやつですね」

首藤「ネガ方式ですね。これは、はっきり言って、みんな、あまり知らなかったんですね。最近の貿易交渉では、よくこのネガ方式というのが出てきて、ネガというのは否定だから、ネガ方式っていう何か方式があるなと、(みんな)こう思うんですが、ネガ方式というのは、例えば、二国間でも多国間でもそうですが、『こういうことは絶対ダメよ』ということは『絶対ダメ』と書いてなきゃいけない。『絶対ダメ』と書いてないものは、みんなOKなんだと、これがネガ方式なわけですよ。

 どういうことかというと、アメリカ企業が、例えば、仮の問題ですが、ニュージーランドで水資源開発すると。水がないと農業もできないし、牧畜もできないし、水を抑えられたら儲からないということで、水資源開発すると。ニュージーランドは、そんなことされたら、たまったもんじゃないということで反対すると。アメリカは水資源開発をさせろと。で、契約する前に水資源を開発する。ニュージーランド政府は、『とんでもない、そんなものはダメだ』と。水掛け論になっちゃいますよね。で、契約の日が来るから、サインするわけですよ。ニュージーランドの方は、『こんなバカなことがあるか。絶対ダメだ』と”思っている”わけですよ。

 ところが、ネガ方式に基づくと、このニュージーランドが『絶対にダメだ』と言っていることが契約書に”書いてない”場合は、これを認めたのと同じことになるんですね。アメリカの中で水資源開発をしようという会社が、ニュージーランドに乗り込んできて、水資源を買い占める。そしたら、ニュージーランドの政府が『何言ってるんだ、そんなのは全然認めてない。水資源というのは国家の固有の権限である』と言って、拒否したり追い出したりするわけですね。そうすると、そのアメリカの会社がワールドバンクの裁判所に訴える。そうすると、ネガ方式だから、書いてないわけですね。書いてないから、負けちゃうわけですよ。かくして、ニュージーランド政府は、その会社にお金を払う。

 これは、現実にオーストラリアとアメリカとの間で、そういう危惧があって、オーストラリア政府は慌てて、ともかく全部国営化して、そういうことを避けたっていう事例が既に出ている」

岩上「あぁ、恐ろしいですね」

首藤「うん。だから、このネガ方式というのは、大変恐ろしいんですね。で、ネガ方式が恐ろしいのは2つで、一つは交渉する内に、何月までの調印の期限が迫っちゃったんで、こんな小さいことで全体を捨てるわけにはいかない、とか言ってサインしちゃうと、後でとんでもないことになる。もう一つは、リスクが分からないですね。その場にならないと分からないですよ。まさか、水資源を買い占めちゃうとかね、そんなことは誰も考えないわけですよね。ところが、実際に後になってみて、大きな問題が出てきた時に対抗できないと」

岩上「例えば、先ほど、少数民族の聖地みたいな話がありました。日本人にとって、あまりにも当たり前のことなので、明記することもないこと、例えば、神社の土地、あるいはお寺の土地、こういうものは、日本人にとって、宗派を超えて、それぞれの鎮守の森であったり、聖なる地であると普通に思っていて、まさかそこを買い占めて、ブルドーザーでひっくり返して良いと思わない。普通は思わない」

首藤「普通はね」

岩上「ところが、もし仮に、これを書き忘れたとする。伊勢神宮と書き忘れたとする。そして、ある日突然、伊勢神宮の土地を買っちゃって、ここを潰したということをアメリカがやった時に、『いやいや、それは普通、常識ではあり得ないでしょ』と言っても、『そんなことは知ったことか』とやられる。もしくは、多額の賠償金が日本の政府から取られる。こういうことが、極端に言うと、罷り通っていくわけですよね」

首藤「あり得るわけですよ。EUが成立するまでには、~今、一応、EUになりましたけど~ 65年掛かって、伏線が長いわけですよね。だから、少なくとも半世紀ぐらい掛けて、少しずつこんな問題があると、現実に訴訟も幾つか起こったのを解決しながら、制度というのは合わしていくわけですよ。それを半年ぐらいでね、制度まで踏み込んだ形でやるっていうのは、大変な問題ですよ。

 で、アメリカの制度でそのまま出来るっていうのは、法律の問題もそうですけども、例えば、医療問題なんか、そうなんですよね。日本は医薬品の認可が遅いと、欧米で使われていて日本では未だ新薬と認められなくて遅いと、確かにそういうところがあるんですよ。
 じゃあ、アメリカのままで良いかというと、そうはいかないわけですよね。それは、白人と日本人は違うし、いろんな制度も違ってくる、使い方も違ってくる、ということなんですが、そういうものが何ら通用しなくなるんですね。
 例えば、医師会なんかは、TPPなんか全然知らなかったわけですよ。TPPは貿易の問題だからと、医療なんて全然関係なかったんですね。しかし、医療部会の中で医療問題が取り上げられていて、そこで段々、おかしいなというのが分かってきたわけですね。で、どんな問題があるかっていうと、既に日本にも要求が来ていて、もう既に日本が対応しちゃっている部分もあるわけで、それは、医療ツーリズム(*)ということですね。それは、今までのような医療では、怪我したら健康保険持って行ったり、国民保険を持って行ったら、安くしてくれると。自己負担率が2割か3割だという話と、例えば、鼻を高くするとか、サルモネラ菌か何かを塗って皺を無くすとかですね」

(*)医療ツーリズム:医療観光(いりょうかんこう、メディカルツーリズム, Medical Tourism)。居住国とは異なる国や地域を訪ねて医療サービス(診断や治療など)を受けること。
「医療観光」、weblio:http://www.weblio.jp/content/%E5%8C%BB%E7%99%82%E8%A6%B3%E5%85%89

岩上「アンチエイジングとかですね。自由診療ですね」

首藤「そういうアンチエイジングとかね、自由診療がありますね。それから、医療だって、臓器移植もあれば、いろんな高度医療があるというところで、それを日本でも受け入れようと。日本でも優れた医者が居て、その病院で受け入れてやりましょうと。それは、良いことなんですね。実際、医療ツーリズムのためのビザ枠というのは、凄い拡大してきているわけですよ。それは、決して否定できない。やはり、優れた医者が、新しい技術を開発するのに必要かもしれない。しかし、それをあまりやり過ぎると、良いお医者さんは、地域の人から尊敬されて、世界からも評価されているけれども年俸が800万、それが、東京のナントカ病院に移れば年俸が8000万になるといったら、それはやっぱり、誰でも、(例えば)岩手県の診療所からこっちへ移っちゃうわけですよね。そうすると困るということで、今、医師会は、医療ツーリズムというものに、より批判的になってきているわけですよ」

岩上「なるほど」

首藤「しかしそれは、決して医療ツーリズムだけじゃなくて、全ての分野に関係してくるわけですね。そうすると、日本の国民皆保険、お金持ちも貧しい人も健康保険証を持って行って2割か3割払えば、それで基本的にはタダだという保険制度が崩れてくると。これは、各地の地方の病院が潰れていくのと同じような問題がいろんなところで起こってくるので、いま初めて医師会の人が真剣にこれを考え始めた、ということなんですね。ですから、アメリカと同じようにと言っても、アメリカっていうのはご存知の通り、医療保険も無いんですよね。だから、そういう所で保険を受けようとしたら巨額の保険を掛けなきゃいけない、というシステムが日本に伝播してきますと、日本の皆保険制度というのは一挙に崩れていくということですね。
 で、アメリカっていうのは、ある意味で先進国であるんですけども、一方で、あそこは狂犬病の汚染地域なんですよ。野生動物なんかに狂犬病が多いですね。ですから、アメリカのペットなんか、簡単に日本に入れられないわけですね。
しかし、今度、そういう形になれば、アメリカのペットも日本にどんどん輸入して、アメリカはペット王国だから、『日本はどんどん買え』というふうに言ってくるかもしれないと。ですから、制度を合わせるというのは、それぐらい、いろんな問題がある」

岩上「風土もあるし」

首藤「そうそう」

岩上「もちろん、伝統や習俗もある。言語ももちろんですよね」

首藤「そうそう。そういうものをしっかりと考えて調整していかなきゃいけないにも関わらず、それを半年でやれとか、6月までにやれとかね。それはやっぱり無理なんだ、ということですね。ですから、医療とか、そういう作法的な問題とかですね、いろんな問題がある。

 で、よく驚いてしまうのは、労働組合が結構、連合なんかも『TPP賛成だ』と言うんですよ。これは、私、驚いてしまってですね。このTPPの24部会の中には、人の移動が入っているわけですね。それから、地方はあんまり関心持ってない人も居るかもしれないですが、この中には政府調達というのが入っているんですよ。政府調達っていうと、何かステルス戦闘機を買います、みたいなことを考えるんですけど、現実には、オラが村の橋を作るとか、オラが村の道路を直すとか、そういうのは入札でやるわけですね。今度、例えば、入札は日本語でやるんですけど、『英語でもやれ。併記しろ。それをホームページに載せろ』と。そうすると、例えば、島根県なら島根県の業者じゃなくて、東京でも出来ると。東京どころか、ニューヨークでも出来てしまう。バングラディッシュでも出来るわけです。で、入札して、やると。そうすると、当然のことながら、簡単な修復とか、全ては人手ですから、そこで大量にバングラディッシュの人が来て、そこでコンクリートを打ってやれば、通常の半分で出来ちゃうと」

岩上「半分以下ですよね」

首藤「ええ、それで出来ちゃうんですよ。そうなると、雇用が崩壊していくわけですね。ですから、政府調達なんていうのは、大変恐ろしいことですね。そういうことも、実はあまり知らない。

 労働力にしてもそうですよね。例えば、今、経団連が何でTPP推進かって分かんないんですけども、経団連の主張とTPPで、ちょっとオーバーラップしているところがあるとすればね、それは労働力の輸入なんですよね。要するに、移民労働力なんですね。これは、経団連が前から言ってて、20万いる、30万いるみたいな話になっているわけですね。

で、さっき言いましたけども、輸出するっていうのは、日本からは限界があるわけですよ。どんどん円高になってきて、ドル安なんですからね。もう関税が無くったって、関税5%取り外してもらったって、円高が10%、20%いくわけですから。だけど、もしですよ、全ての製品っていうのは労働力が関係するわけですから、それがもの凄く安けりゃね、また違うんですね。労働力が、例えば、50%安かったら、十分に競争力が出来るわけですね。

 日本では、どんだけ若い人でも、ひと月で20万とか25万は払うわけですよ。福利厚生、いろいろ考えたら、50万ぐらい払ってるかもしれないですね。しかし、例えば、日系ブラジル人なんかもそうですけども、ともかく紛争地で移民でもいいから行きたい、ボートピープルでもいい、というような人達は、一家総出で1ヶ月で10万円でも十分、住む所さえあればいい、みたいなところに来る可能性があるんですね。そうすると、労賃が半分になれば、これは十分に日本からも輸出する競争力が出るわけですよ。

 ですから、ひょっとしたらですよ、経団連のTPP推進の主張の後ろには、そうした移民労働があるんじゃないか、というふうに心配しているんですね。経団連はもちろん、そんなことは絶対に言いませんけど。そんなことはあり得ないと言っているんですけども、誰しもそれは、感じるところですよね。ですから、やっぱり、真剣に考えなきゃいけない」

岩上「実質的に生産拠点を外に持っていく以外だったらば、国内に留めおきながら、日本人を替えていくしかない。日本国民の生活水準を維持させないで、要するに、外部の労働力を持ってきて、外国の生活水準のまま、労働力だけ日本人並みを求めると。もちろんそれは、結局、国内の需要を衰退させて、国内で物も売れなくなり、国力も疲弊するんですけど、当然、経済のミクロの単位で言えば、自分の経済合理性をひたすら追求すると、そういうことになりますよね。結局、合成の誤謬(*)になっちゃって、マクロでもダウンするんですけど」

(*)合成の誤謬:個々人にとってよいことも、全員が同じことをすると悪い結果を生むことをいう語。個人にとって貯蓄はよいことであっても、全員が貯蓄を大幅に増やすと、消費が減り経済は悪化するなど。
「合成の誤謬」、weblio:http://www.weblio.jp/content/%E5%90%88%E6%88%90%E3%81%AE%E8%AA%A4%E8%AC%AC

首藤「だから、それで分からないのが、何で労働組合が、連合がこれを是認する、是認どころか推進するのか、ということですね。TPPやって、良いことは何もないんですよ。特に連合も、基本的には大企業ですからね。中小企業やパートで働いている労働組合じゃないんですよ。ですから、大企業の労働組合なのに、何故、TPPを是認したり推進したりするのかは、全く理解に苦しむところですよね。

 これもまた、さっきも話しましたけども、TPPの場合は、一体、誰がどういう根拠で、TPPは素晴らしいのかと言うのか、誰も明確に言ってないですよ。なぜ良いのか、言ってくれないんですよ。だから、こちらも論破してやろうと思っているんですけども、実態が分からない。どこが良いか分からない。じゃあ、良いか悪いか分からないけども、何をやっているかだけ知らせてくれと。それも教えられてないといったら、どうしようもないんですね」

岩上「これ、菅政権になってから以降の前のめり方というのが、とりわけ、もの凄い甚だしいわけです。この間の院内集会の時に、非常に印象に残ったのは、首藤先生は『私は小沢派ではない。小沢派の議員達だけがTPPに反対していると思われがちだが、私は小沢派ではなく、小沢さんとは対立してきたことがある』と。その時は仰られなかったんですけど、代表戦では菅さんを支持されてたと、ブログ(*)にお書きになられてた。

ということは、小沢派どころか、むしろ、菅さんを積極的に支援した、そういう立場でありながら、今日の惨状というか、この状況を見て、とてもではないが菅政権が支持しているTPPなどというものは支持できない、というふうに非常に熱っぽく演説されてたのを印象深く聞いていたんですけれども。この辺りは、菅政権がTPPなどというものを導入することを見通せなかったから、自分は1票を投じてしまったという意味なのか。その辺はねじれがあると思うんですが…」

(*)首藤氏ブログ:http://www.sutoband.net/bloglist.html

首藤「いやいや、菅さんの代表戦とかの頃には、TPPなんて誰も知らないんですよ。だから、菅さんを代表戦で支持したんじゃなくて、菅さんとはずっーと一緒にやってる仲間の一人なわけですよ。だから、ずっと支援してるんです。菅さんにも、これまでも何度も電話して、『TPPはダメですよ。問題が大き過ぎます』と言ったんですけど、菅さんの方は『いや、首藤さんは農業問題の専門家だから』とか何とか言って。『いや、そうじゃないだ』ということを言ってんだけども、なかなか…」

岩上「それは、直近でもそういうふうな?」

首藤「最近は、『首藤さんは農業法務じゃなくて、いろんな問題があるということで反対してるんですね』と、この間は言ってましたからね。それは分かってきたんだと思うんですね」

岩上「菅さんご自身が、分かってないということですか?」

首藤「ある程度、段々、分かってきたんだと思うんですよ。だから、このTPPの政府の推進派は、決して菅直人ではないなぁというふうに、最近は感じてますけどね」

岩上「菅直人ではない?」

首藤「うん」

岩上「この間、BBLがあったんですね、民主党の勉強会で(*)。それで、内田樹(うちだ たつる)さんが呼ばれて、そこでお話をされた。そこに仙谷さんがいらして、意味深に、『小泉改革はなかなか面白かった。というのは、小泉路線というのは、アメリカに追随し、イラク戦争もやり、結局、アメリカにくっ付いて行きながら、アメリカの経済をボロボロにしたんだ。食い破った、内側から。そういうマヌーバ(*)的なところがあるんだ。TPPもいっそのこと、中に入って、食い破ってやったらどうなのか。そういう戦術もありかなと私は思う』みたいなことを言って、もう僕は唖然としたんですけど」

(*)「党BBLで「平成の攘夷論」講演受け議論」、民主党、2011年2月23日:http://www.dpj.or.jp/article/19786
(*)マヌーバ(maneuver):計略。策略。
「マヌーバ」、weblio:http://www.weblio.jp/content/%E3%83%9E%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%83%90

首藤「菅さんの代表戦っていうのは、昨年の春に行われたんですよね、確か。夏に参議院選挙がありましたから、その直前に行われたんですよ」

岩上「代表戦っていうのは、9月じゃないですか?小沢さんとの代表戦は9月ですよね。その前の6月に第一次菅政権が成立しましたね」

首藤「そうそう。それで、僕がTPPというのを知ったのは、10月の就任演説、国会の所信説明(所信表明演説)(*)の中でTPPというのがあって、TPPに参加すると。だから、10月になって初めて、TPPというのを知ったんですね。TPPっていうのが出た時も、それはASEAN+3とか6(*)とか、要するに、そういう環太平洋のアジアとの貿易交渉の一つかなぐらいに思ってたんです。

 そう思ってたんですけど、何故、TPPに関係するようになったかというと、その直後にインドネシアから貿易視察団が来たんです。そこの貿易通商大臣かな、財務大臣かどっちか忘れましたけど、女性の人が居て、これがアメリカで教育を受けて、英語でもいろいろ話したんですけども、彼女とその何人かが、『頼むから、菅さんには次の横浜のAPEC(*)の時には、TPPに日本が参加するとか、TPPは良いことだとか、そういうことを言わないでくれ』と頼むわけですよ。それで、こっちは驚いて、『TPPってそんなもんですか。何でインドネシアはTPPで困るんですか?』って言ったら、TPPっていうのは、彼女が言うにはね、貿易交渉だと思っていた、しかし、どうやら聞いていると、アメリカがインドネシアに要求してくるのは人権問題だと。それは、イスラムの問題もあり、女性の地位とか、地方の問題とか、それからニューギニアとの係争とか、いろんな問題があるんですけども、アメリカはインドネシアに、人権問題で過剰に迫ってくるということを聞いて、驚いて、『TPPって、そんなもんですか』と。そこで、初めて勉強したら、このTPPっていうのは、実は24部会あって、人権問題も制度問題も含めて議論されているというのが初めて分かったんです」

(*)「第176回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」、首相官邸、2010年10月1日:http://www.kantei.go.jp/jp/kan/statement/201010/01syosin.html
(*)ASEAN+3、ASEAN+6:ASEAN(東南アジア諸国連合)に、三ヶ国(日本・中国・韓国)を加えたものがASEAN+3、六ヶ国(日本・中国・韓国・インド・オーストラリア・ニュージーランド)を加えたものがASEAN+6。
「東アジア(ASEAN+6)」、経済産業省:http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/asean/index.html
「ASEAN」、weblio:http://www.weblio.jp/content/%EF%BC%A1%EF%BC%B3%EF%BC%A5%EF%BC%A1%EF%BC%AE
(*)「アジア太平洋経済協力 APEC JAPAN 2010」、外務省:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/apec/2010/

岩上「いつですか、それは?」

首藤「それは、菅さんがTPPに交渉への参加も検討すると言った直後ですよ」

岩上「10月?」

首藤「10月ね」

岩上「就任の記者会見に私も行きましたけど、その記者会見で初めて出ましたよね」

首藤「そうそう」

岩上「その後ですね」

首藤「その後、TPPって何だか分かんないし、APECでそういう話をすると。『そうかいな』と思って聞いてたわけですよ。だけど、その直後にインドネシアの人達が言って、これは、我々が考えていた貿易交渉と違うと。人権とか制度とか、そういうものが関係すると。そこで、やったら(調べたら)、案の定、外務省から、24部門会があって、そういう議論が進むことになっている、ということを聞いてですね…」

岩上「それは、外務省に問い合わせたら、やっと教えたというような形ですか?外務省は知ってたんですか?」

首藤「そうそう。何度も『TPPについて、説明しろ』と言ったら、その内容を言ってきた。その一番最後の所に、『24部会があって、議論をしてます』と2行ぐらい、小さな字で書いてある。それで、24の部会を見たら、制度とか知的所有権とか紛争処理とか、いろいろ出てくるから、『何なんだ、これは』と。それで初めて、TPPは大変だということで、調査を始めたんです。調査を始めたら、日本には何も伝えられてないということですよね。それで、内容を知りたければ早く参加しろと、そう言うわけですよね(笑)」

岩上「それは、誰が?」

首藤「政府側の某副大臣とか某政務官なんかが、僕等が『TPPの内容を教えろ』って言うと、『分からない』と。『分からないとは何だ?』って言ったらね、『交渉に参加しないと教えてもらえない。だから、早く参加を表明して、交渉に参加して、そして、そこで議論していけばいい』ということなんです。
 それは、『ちょっと待てよ』と。『それはアンタね、暴力バーと同じだろうと(笑)。”ダンナ、いいことありますよ””ドア開けて入れば、いい娘が居ますよ”って言うのと同じで、入ったら、ビール1本が10万円もするじゃないか』と。『そんなもの、入れるわけないだろ』と言って、怒ったわけです。その辺からもう、政府と党内でも激しく議論が沸き起こった」

岩上「ぼったくりバーですよね、本当に」

首藤「本当ですよ。今、ニュージーランドの人達が怒っているわけですよ。ともかく、議論してるなら議論のドラフトを出せと。どんな議論が行われたか、その書類を出せと」

岩上「この、早く参加しろというふうに返答してきたのは、アメリカの国務省なんですか?どこなんですか?」

首藤「それは、今になってみれば、元アメリカの高官のヤイター(*)さんなんかが、そういうことを言ってるわけですね」

(*)クレイトン・キース・ヤイター:米国の政治家。元米通商代表。元農務長官。農業ロビイストとの評もある。
「クレイトン・キース・ヤイター 」、ウィキペディア:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A4%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%BC

「アメリカの正論で日本の亡国論がTPP参加」(眞悟の時事通信)、西村眞悟氏:http://www.n-shingo.com/cgibin/msgboard/msgboard.cgi?page=616

岩上「ヤイター?」

首藤「農業長官だったっけ。彼がそういうことを言ってるんですよ。日本側の台詞と同じで、早く入って交渉に参加しろ、みたいなことを言ってるわけですね」

岩上「日本側っていうのは、こういうアメリカの手先みたいなこといってるのは、これ外務省ですか?」

首藤「外務省は、最初はそんなことを言ってましたね。最近は、外務省も『これは大変だ』ということで、情報収集に必死になってる。で、情報が入ってこないと。だから、外務省も今は軟化して、一体、何なのかということで、一生懸命、今、情報を集めていると、そんな感じですね」

岩上「今まで、(情報を)集めてないで、『やりましょう、やりましょう』と言ってたんですか?」

首藤「そうそう。段々、6月が迫ってくるから。6月っていうのは、あと3ヶ月ですからね。だから、真剣になってきたわけですね。結局、外務省の立場とすれば、日本が、6月が迫って、『時間切れだから入っちゃう』と言いますよね。僕等が『ダメだ』と言っても、『入っちゃう』と言っちゃうんですよね。『入っちゃう』と言って、ドラフトを見せられて、『これじゃ、飲めません』と言って止められるかと。これはもう、目茶苦茶な外交的失点になるわけですよ。だから、外務省も真剣になり始めたと。急速に情報収集を始めたんですけども、なかなか情報が入らない。だから、TPPに入るという南米の国とかアジアの国に今、一生懸命、人を出して、『どんな議論でした?』と、こういうふうに聞いている状況なんですね」

岩上「遅過ぎますよね」

首藤「だから、そういうことでね、結局、外務省にしても、部会で説明するんですよ。ところが、政治家っていうのは、外交とかは分かんないんですよ。そんな外交とか外国のこととかを分かった人がね、当選しないわけですよ、はっきり言って(笑)」

岩上「そうですか?通りそうな気がしますけど(笑)先生は外国に詳しいじゃないですか?」

首藤「僕はたまたま、長く専門的にやっていたから、昔の余力でいろいろやってますけども、普通の人は、外交とかそういうのをやってて、当選なんかするわけないんですよ。当選するっていうのは、大変な努力なんだから。毎日毎日、朝から晩まで駅頭に立って呼び掛けて、地域を回ってやってんだから、外交のことなんてね、やれないんですよ。だから、外務省もチョロチョロっと書いてくるわけですね。さっきの24部会も、たった2行ですよ。

 で、今回、私が烈火のごとく怒ったのがね、結局、こういう台詞が書いてあるんですよ。日本は6月に入ると交渉に参加すると。要するに、TPPに参加するかどうかじゃなくて、TPPを作るための交渉に参加する、ということですね。6月に、その表明をすると。6月に日本が表明して、TPPの交渉に参加しますと、こういうわけですね。TPPに参加するんじゃないですよ、未だ出来てないんでね。TPPに日本が交渉に参加するかどうかは、アメリカ議会の承認事項であると、こう書いてある。たった一行書いてある。知らない人は、『へぇ』と思うわけですよ。

 これは何を意味しているかというと、恐らくご存知か、ご存知じゃないか分かりませんが、アメリカの大統領というのは、全ての権限を持っているようで、2つのことだけは絶対にできない。2つのことというのは、(一つは)インディアンと取引すること。例えば、アメリカの大統領が『元々、ここは、インディアンの土地だから、私達はもうヨーロッパへ帰りますよ』と、こういうのはダメなんですね。もう一つは、外国と取引してはいけない。それは、例えば、かつてはイギリスの植民地だったから、やっぱりイギリスの方がいいかと、イギリスに優遇的な措置をしちゃいけないと。だから、アメリカの大統領っていうのは、全権オールマイティのようで、2つのことは絶対にできない。即ち、インディアンとの取引、外国との取引。これは、アメリカ合衆国憲法に書いてあるんですよね。これは、ほとんどの日本人は知らないけども。だから、よく貿易交渉とか国際交渉なんかやってるけども、あれは全部、議会が権限を持ってるわけです。

 で、議会が(権限を)持ってて、一々、議会に相談できるかっていうと、できない。そこで、アメリカではファーストトラック、言ってみりゃ、早道って言うんですけど、抜け道じゃないけど抜け道を作っておいて、この交渉に関しては、ある程度、一定期間、進めることまで認めますと。その間に、進めなさいと。それが終わっちゃったら、もうダメですよ、というふうになってるんです。それをファーストトラックって言うんです。これはもう、時間切れなんですね、貿易に関してね。だから、(権限が)ないんですよ。

 で、アメリカの大統領のオバマさんは、TPPに入れとか、そういうことをする権限がないんですよ。権限がないといっても、アメリカ大統領で国際化の時代だから、そんなことできないと言って、(実際は)見做しファーストトラックなんですね。ですから、制度上は認められてないけど、まあ、やったらいいんじゃないっていうことなんです。だけど、さっき言いましたように、それは全て議会の権限だから、今まで9カ国で議論しているところに、ジャパンという国を入れて10カ国で議論をするということに関しては、アメリカ議会の承認を得ないとダメだと言うんですよ。これは、さっきの、基地のあるどっかの島国の話じゃないですけど、もう属国ですよね、はっきり言うと。だから、それはもう外交権の放棄と同じなんで、こんなことは認められないと、真っ赤になって怒ったんですけども、外務省は沈黙すると」

岩上「でもこれ、日米安保、日米同盟の構造と同じじゃないですか?」

首藤「同じなんです」

岩上「アメリカが日本を、いざ何かあったら守りますよ、と。だけれども、中国が攻めました、北朝鮮が攻めました、その時に、実際に戦うという時に、議会の承認が要ると。これと全く同じことですよね。笑っちゃいますよね。だから、いざとなったら『議会が認めてくれなかったから』となりますよね」

首藤「だから、外務省の担当者が心配しているのは、例えば、日本が国内世論を押し切って『参加します』と言ってね、アメリカ議会が『いや、そんなんダメだよ』と言ったら、日本の面子丸潰れでしょうね(笑)」

岩上「外務省の面子なんか潰れてもらっても、全然いいんですけど。でも、早い話が、日本にとって、国民的な不利益を被るかもしれないことを、アメリカの議会が反対してくれたら、むしろ、いいかもしれない」

首藤「それは困るから、結局、どうするかというと、アメリカ議会が通るように、妥協に妥協を重ねて、アメリカに有利なドラフトになってしまう」

岩上「そうなんですよね」

首藤「だから、議会の方は、アメリカの方はthank you very muchと言って通すと」

岩上「だから、早い話が、アメリカ国家の、アメリカ国民の、地域の、極めてドメスティックな利害が投影されるものにならなければ、実はゴーということはないということですよね」

首藤「そうそう。だから、オバマの一般教書演説(*)に戻れば、オバマは『これからは、貿易協定に関して、アメリカの雇用が増えなければ、アメリカの企業が儲からなければ、私はサインしない』と言っているのは、そういう意味なんですよ」

(*)「オバマ米大統領の2011年一般教書演説原稿(英文)」、ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版、2011年1月26日:http://jp.wsj.com/US/Politics/node_176161

岩上「首藤先生は、ずっと菅さんのお仲間だということで、ちょっと言い難いんですけど、菅さんは、『一に雇用、二に雇用、三に雇用』と仰ってた。これって実は、『一にアメリカの雇用、二にアメリカの雇用、三にアメリカの雇用』と言ってるのに等しいんじゃないかと。オバマと気脈を通じて。そんな気はなかったのかもしれないけれども。日本の雇用は、TPPやったらメチャメチャ壊滅的になりますよね。これは、どういうふうにお考えですか?批判し辛いと思いますけど」

首藤「これは、ちょうど今日ですけども、経済学者で有名な宇沢弘文(うざわ ひろふみ)先生が世話人代表になって、『TPPを考える国民会議』(*)っていうのを憲政記念会館で発足いたしました(*)。そこで、いわゆる農業関係者だけじゃなくて、例えば、消費者団体。だって、アメリカの遺伝子組み換えのあんなもん(作物)が自動的に入ってくるわけですね。それから、未だ集まらなかったんですけど、医療とか弁護士の皆さんとか、そういう皆さんもよく研究した後で、こういうTPPが入ってきたら大変だということで。私達は、反対してるんじゃないんですよ。先ずTPPというのは何かを、きちっと国民に開示しろと。それで我々は議論して、それから態度を決めたいと。そんな、暴力バーみたいなのに、入ったら良いことがありますよ、なんて言われても入れないと。

それから、早く入ったら交渉できますよ、とか。そんな交渉力があるんだったら、こんなに我々、追い詰められてないですよ。元々、英語もできないような外交官がやってるんだから。日本なんて、外交官のレベル見たら分かるでしょ。例えばね、結構、東大中退なんかでなってるんですよね。だから、大学すら出てないんですよ。東大出て、それは東大卒と見なすということなんだろうけども、世界でいったら高卒ですよ、それはね。向こうはみんな博士課程出て、法律家で弁護士で、法律事務所を運営している、という人がなるんですよ。勝負にならないですよね。だから、それは本当に慎重に考えないといけない。
 だから先ず、『TPPを考える国民会議』ということで、国民の主張としてね、TPPっていうのは何ですかと。どういうことが議論になってますかと。どういう影響が私達にありますかということを、きちんと議論していこうと。そういう運動を、今日、始めたんですよね」

(*)「TPPを考える国民会議」ホームページ:http://tpp.main.jp/home/
(*)「TPPを考える国民会議記者会見 2011年2月24日」、(株)インディペンデント・ウェブ・ジャーナル:http://iwakamiyasumi.com/archives/7231

岩上「そうですよね。我々も取材に行きまして、全部中継しましたし、ログでも見れるようにしました。甲府で開かれる第一回大会(*)も我々、取材に行こうと思ってます。この動きっていうのは注視しなきゃいけないし、やはり、取材を通じて、少しでも国民の多くの人に情報開示されなきゃいけないと思っているんですが、今に始まったことじゃないですけど、既存メディアの体たらくっていうのは異常なもので。私も、幾つもの、どこの新聞社にも知人・友人が居ますが、酷い某大手新聞の経済部なんていうのは、この間までTPPを全然知らなかったんですよ、デスクが。でも今、健筆をふるって、TPP大賛成なんです。でも、問い詰めたら、何にも知らない。何故、あんなことができるのか。もう、社を挙げての方針なんだと。で、ロボットのようになって書いているんですよ。これは一体、どういうことなんでしょう。しかも、各社横並びでね。これは、スポンサーの影響というのが当然あると思います。それから、政府の姿勢も影響してるんだと思います。何でだと思います、このクレイジーな状態というのは?」

(*)「TPPを考える国民会議(甲府) 2011年2月26日」、(株)インディペンデント・ウェブ・ジャーナル:http://iwakamiyasumi.com/archives/7411

首藤「いやぁ、一種の閉塞感と、やっぱり、焦りというかね、そういうところが、自分を失っているというか、取り乱しているんだと思いますね。そういうところで、日本人の中に、アメリカにくっ付いてりゃ良いとか、そういう人って結構、居るわけですよ。
 民主党もね、こんなこと言っては何ですけども、思い起こせば、小泉さんが登場してきた時に、民主党の中でも小泉改革を支援しようという人がたくさん居たわけですよね」

岩上「はい、分かります」

首藤「それで、ポスターも作って。小泉さんが何か重荷を引っ張っているとかね、それを自民党の保守派が抑えようとしていると。一方、小泉さんの後ろから、民主党の若手が押し上げて助けてあげます、みたいなポスターを作ったこともあったんですよ。ですから、現行の民主党の中には、小泉改革は良いもので、これは中途半端で終わった、だから、むしろ、それをもう一度、進めてあげなきゃいけないという人が結構居ると。
 また、やっぱり、アメリカが巧みなわけですよ。アメリカは最初、民主党政権になったら、どう変わるかっていうことで、ずっーと調査していってですね。そして、万が一、民主党政権が、例えば、日米安保を考え直すとか、むしろアジアに軸足を置くとか、東アジア共同体に動き出すとか、そういうことをブロックしようとして、網の目のように、いろいろと手を打ってきたわけですね。ですから、これは、アメリカはうまくいったと」

岩上「アメリカの工作がうまくいったと」

首藤「そうそう」

岩上「アメリカの工作は、ウィキリークスが明らかにしましたよね(*)」

(*)「鳩山政権『自民党と全く違う』」、時事通信:http://www.jiji.com/jc/v2?id=20101206wikileaks_07

首藤「そうそう」

岩上「(2010年)2月3日に、キャンベル(米国務次官補)が韓国に行って、金(星煥、キム・ソンファン)外交安保首席秘書官と、『民主党の鳩山政権ではまずい。自分達のためにならない。自民党とは違う。だったら、菅・岡田と工作する』と。菅って名前は出てるじゃないですか。岡田って名前は出てるじゃないですか。だけど、今の政府は知らん顔ですけど、どんな工作がされたんですか?」

首藤「それは分かりませんね。ただ、一つ分かるのはね、民主党政権が出来た時に、核の持込とか、沖縄の秘密契約とか、そういうものを明らかにしようと。一番最初の段階では、例えば、財務省なんかも、アメリカに膨大なお金を払って、それがアメリカの連銀のある口座に入って、それがどうなったのか全く分からないとか、そういうことも、結構、みんな公表し始めたんですね。それが、ある瞬間から、全然出てこなくなったわけですよ。核の持込とか、秘密交渉とかね。だから、漸く時間が切れて、一般に公開されたようなのだけ、ちょこちょこ分かるようになりましたけども、本当の核心のところは、みんな公開しなくなってしまった」

岩上「アメリカ側が、ですか?」

首藤「日本側が」

岩上「外務省・財務省とかですね」

首藤「そうそう。だから、その頃から民主党政権というのは、アメリカに取り込まれちゃって、動きが取れなくなってきているんだと思いますね」

岩上「なるほど。世界的に見ても、リベラルというのは、実のところ、新自由主義と結構、親和性があったり、あるいは易々と取り込まれてしまって、本来はそんなつもりはなかった、と言いながら小さな政府を指向するというのは、日本の全共闘世代なんかは特にそうですけど、思想転向する過程でコロコロいきましたでしょ?」

首藤「そうそう。だから、日本の右翼の挙党っていうのは、みんな元共産党で、共産党で逮捕されたら、すぐ右翼になったという」

岩上「リベラルが、あるいは左翼が転んだ挙句、小さな政府で構造改革を目指すという、リバタリアン(*)になっちゃったってことですか?」

(*)リバタリアン:政治や経済などの分野で、自由主義思想の中でも特に個人主義的な自由を重視する政治思想であるリバタリアニズムを主張する者。
「リバタリアニズム」、weblio:http://www.weblio.jp/content/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B3

首藤「アメリカリバタリアンになっちゃった、そういう感じはありますね」

岩上「自由主義者になっちゃった。自由主義者というより、自由市場主義者になってしまった。その原理主義的な転び方っていうのも、非常に民主党の中に影を落としているんだろうとは思うんですけれども、それにしても、この状態であって、同時に政治的な問題でもある、政局にも絡むと思うんです。先生のお立場は非常に複雑だとは思うんですけれども、先ほど冒頭で申し上げた演説では、小沢派の議員だけじゃないと…」

首藤「だからそれは、今の新聞を見れば、要するに、『TPPに反対する民主党のグループが集まった。ほとんどが小沢派だ』と、毎日書いてあるんですね。そんな筈はないのに」

岩上「そうですね。『小沢はダーティだ』というレッテルを貼って、キャンペーンを延々としてきたわけじゃないですか。そのネガティブ・キャンペーンの負の遺産がちゃんと溜まっているんで、小沢というレッテルを貼れば、全部、守旧派…」

首藤「あと農業とね。農業は、ないとは言わないけども、ほとんど関係ないわけですよね。農業も結局、改革しないといけない、そのためには国を開いてTPPに参加して、みたいなことを言うんだけども、全然違う話なんですよね。すぐに出てくる決まり文句は、日本の農業は平均年齢が66歳だと。これじゃ、日本の農業は先行きがないから、ショック療法で、TPPで(笑)」

岩上「みんな死んじゃいますよね(笑)」

首藤「そんなバカなことを、よくまあ言うなぁと。それを平気で、コメンテータとか、そういう人が言うわけでしょ?」

岩上「私は言いませんけどね(笑)」

首藤「開国とかね」

岩上「あり得ませんよ。国を滅ぼすわけですから。亡国です」

首藤「これはもう本当に、江戸末期の日米通商条約と同じで、これがために、日本の富がどんどん海外に流れて、農村が疲弊して、そのツケに半世紀苦しんで、そのツケがやがては日本を大陸に呼び寄せて、そして、太平洋戦争になってしまったんですが、全て、ある意味では…」

岩上「やっぱり、原因があるんですよね」

首藤「そうなんですよ。だからね、本当に深刻で」

岩上「当然、昭和になってファシズムになったわけではない」

首藤「そうそう」

岩上「だから、原因があるんですよね」

首藤「そうそう。だから、歴史を鑑みないとね。しかし、国民的にいって、今日、私は1時間ぐらい話してるわけですけど、やっぱり、ある程度分かってる人に1時間話して、漸く分かるんですよ。だから、普通の人に話したら、『農業が遅れているんだから、早く、ショック療法の方が良い』みたいな人がほとんどなんですよね。でもやっぱり、国民もしっかり、自分達の運命を考えていただかないと。例えば、名古屋で起こっている、議会の人を半分にしようとか、給料を半分にすればいいだろうとか、税金下げろとか。今の税金でだって、酷く低いサービスしか貰ってないのに、税金を下げてできるわけないわけですよ。そういう意味では、やっぱり、国民も…」

岩上「減税日本には、批判的なわけですね」

首藤「批判的っていうか、あんなのはあり得ないことですよ」

岩上「なるほど。首藤さんのお立場だと、組めるのは誰なんですか?どこなんですか?」

首藤「それは、個人で少しずついろいろ考えて、勉強していこうということですね。
 で、日本の政治の悲劇はね、政局しかないんですよ。総理を誰にするかっていう議論で、みんな合唱連呼する。しかし、今、世界中は、民主主義をどうするかという議論が中心なんですよ。確かに、日本のねじれ国会ではうまくいかないと。やはり、イギリスの今の政権がうまくいかないと。ベルギーに至っては、7ヶ月も政府すら出来ないとか言ってるけども、もう、各国が新しい政治を作ろうということで、大変な努力を今、実験的にやってるわけですね。

 で、民主党が熟議ってことをよく言うけども、熟議の本を読んでいる人なんか、一人も居ないわけですよね。だから、何故、熟議というのが、ヨーロッパの民主主義の世界で言われているのかっていう、研究すら行われてないわけですよ。今、日本に問われているのは、誰が総理になるとか、どう組むかとか、税金を半分にするとか、そんな問題じゃなくて、日本はこれから、どういう民主主義にしていきますか、と。その議論が全くないということですね」

岩上「その場合、日本の独立ということを正面から見据えないと、話にならないんじゃないですか?まあ、お気付きになられていると思いますが」

首藤「それはね、また議論のあるところですよ。世の中ね、アメリカの属国でも何でも構わないと、そういう人が、実は凄く多いんじゃないかと」

岩上「それは、51番目の州にしてもらえると思っているんですよ。しかも、日本国民の権利を持ったまま」

首藤「それは、中国の魯迅の『阿Q正伝』(*)に出てくる『阿Q』と同じでね。だから、アメリカに依存して何が悪いんだと」

(*)阿Q正伝:中国の作家,魯迅(ろじん)の代表的中編小説。1921年作。日雇農夫阿Qの性格とその生涯をユーモラスに描く中に,中国民衆の精神のゆがみ,彼らを悲劇に追いやるもの,辛亥(しんがい)革命の実体等への批判を盛りこんだもの。
「阿Q正伝【あきゅうせいでん】」、コトバンク:http://kotobank.jp/word/%E9%98%BFQ%E6%AD%A3%E4%BC%9D

岩上「でも、気概を失ったらば、気概って非常に抽象的な言葉ですけれども、それこそ、ヘーゲルが言ったみたいに奴隷ですよ」

首藤「だからそれは、明治維新の時に同じような議論があって、アメリカに守ってもらいながら、【***、51:21】を残そうとした人も居ればね、やはり、犠牲を払って国を作り変えようと思った人も居ると。その作り変えようという人の、ごく一部の人は残って成功しましたけども、ほとんどは死んだ。
 で、笑ってしまうのは、坂本龍馬は、凄くテレビドラマなんかで(取り上げられて)、みんな政治家は坂本龍馬が好きなんですけど、自分も坂本龍馬だ、と。しかし、何故、坂本龍馬が殺されたかというと、それはまあ、いろんな説があるけども、否定できないのは、やはり土佐藩が殺したという説ですよ。やっぱり、土佐藩の侍からすると、最下級のところから出て、たった一人でいろんなことをやっちゃう人間は許せなかったと。直接、手を下さなくとも、どこに居るかぐらいは教えたという可能性は、否定できないわけですよね。

 ですから、日本はアジアの中でほぼ唯一、近代化を成し遂げて成功したんですけども、何故、日本が成功したかっていうのを、やっぱり、しっかり学ばなきゃいけないというふうに思いますね」

岩上「田中角栄を、何て言うのかな、人気があったんですけれども、ああいう人を非常に妬んでいた東大出のエリートも山ほど居たわけで。結局、ああいう人が政治的な生命を失われていく。喝采をもって迎えた人だって居たわけじゃないですか。あれも言ってみれば、さっき先生が仰った…」

首藤「だから、それはそうなんだけど、それもアメリカが関係して、中国とね…。だから、アメリカのパターンって決まってるんですよ。それは、日本をアメリカに引き付けておいて、アメリカは自分達のチャンネルを中国と結ぶと。これはまさに、あの時の状況で。そこで田中角栄は、遅れちゃいけないからと、フェンスを乗り越えて中国まで行ったと。それで、結局、抹殺されるわけですね。
 それはね、一つの努力体験。それを真似して、田中角栄の古い政治をそのまま引きずっていこう、っていうのは全く間違いですよ。

 今、どういう新しい政治を作ろうか、というところの議論が全くないんですよね。それは、確かに良い政治家が居ないというのも一つなんだけども、良い政治家は一生懸命、いろんなところで出て来ようとしているわけですよ。しかし、それを国民が投票しないんですよ。だからそれは、政治家だけの問題じゃなくて、民主主義はその国の政治レベル以上のものはできないと、よく言いますけど、やはり、国民の一人一人がそういうふうに考えなきゃいけない。特に問題なのは、日本の中で、若者に対しての政治教育ができてないですよ。歴史教育も。日本史も知らないし、日本のことも知らない。日本が何故、負けたかも知らない。何故、アジアの人が怒っているかも知らない。日本がどのように爆撃されて、どのように死んでいったかも知らない、ということですよね。

 で、この間、私はフランスに行って、フランスで大きなデモがあって、大暴動があって。それは何でかというと、フランスは財政的に苦しいんで、年金の受給年齢を引き上げようとした。それに対して、最も激しく過激に立ち上がったのは、フランスの高校生組合なんですよ。フランスは、高校生が組合を持っているんです。学生組合。全国高校生組合っていうのを持っているんですよ。それが、みんなに呼び掛けて、数十万人のデモが起こって、影響がある。
 で、そこの高校生の代表に会いに行ったんですね。『アンタ、高校生で年金といっても、17とか18(歳)とかでしょ。だから、アンタが貰うには、あと45年もあるんだから、関係ないだろう』と言ったら、彼が言うには、今、フランスでは、大学を出てから平均して7年間、定職に就けないと。それぐらい今、苦しいと。定職に就けないのは何故かっていうと、仕事をみんな、大人が持っているわけですね。それが、年金の受給年齢が遅くなると、今の大人達は、さらに職を手放さないことになると。そうすると、大学を卒業して就職するのも難しいし、高校もフランスは40%ぐらいは職業学校なんで、高校を卒業して就職していくのにも影響を与えると。だから、我々は死に物狂いでデモをしているんだ、と言うんですよ。これは本当に正しい考えなんですね。それを高校生が考えて、何十万人のデモを作り上げていくわけですよ。

 フランスを、みんなボロ糞に言うけども、結局は新しいことをやって、その中で生きていくわけで、やっぱり我々も、高校生ぐらいが立ち上がって変えて行くというふうにしていかないと、日本の未来も無いんじゃないかなと思うんですけどね。しかし今、私達は、高校生というものを、そういう新しい社会を作る人間というんじゃなくて、ただの消費者にしちゃってるんですよね」

岩上「そうですね」

首藤「本来であれば投資者、未来に投資する人間を、消費しちゃってるわけですよ。ですから、アルバイトだ、アルバイトだ、とやってて、アルバイトで全部人生を失っちゃうんですよ。青春という貴重な5年間をね、どうしようもない物を売ったり、すぐに捨てられてしまうハンバーガーを売ってることに費やしちゃってるんですよ。こういう社会を変えていかないと、私は、政治そのものは変わっていかないと思いますよね」

岩上「分かりました。すいません、予定時間を遥かにオーバーして、いろいろ本当に多岐に渡ってお話をうかがいました。実は今、一点一点、いろんなところに、まだお聞きしたいこともあるんですけれども、またできれば、チャンスを作っていただければ。
 これはきちんと、ログとして残しますし、今日、見ている人にも、いろいろ反応があると思います。できれば、小沢派だけじゃない、全然違う派からも(笑)。しかし、信念を持ってスポットライトを当てて、問題を投げ掛けていただいているということで、本当に敬服しております。これからもまた、よろしくお願いしたいと思います。どうもありがとうございました」

首藤「ありがとうございました」

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