ミトコンドリアの秘密
生物を大別すると細菌・古細菌・真核生物の3つになりますが、私たち真核生物はほぼすべての種が細胞内にミトコンドリアを含んでいます。ミトコンドリアは図のような構造で、1.内膜・ 2.外膜 ・3.クリステ・ 4.マトリックスという構成になっています(ウィキペディアより)。
1995年に瀬名秀明氏が、ヒトの体内に閉じ込められていたミトコンドリアが反乱を起こすという面白い小説「パラサイト・イヴ」を出版し、私は小説を読んだばかりか、映画までみてしまいました。
映画「パラサイト・イヴ」
あらすじ http://movie.goo.ne.jp/movies/p29805/story.html
イヴ役の「葉月里緒菜(現 葉月里緒奈)」がなかなかチャーミングかつ凄味があり印象深いものがありました。最近あまり見かけませんがどうしているのでしょう。
ミトコンドリアが独自のDNAを持っているということは、50年前には知られていなかったので、ミトコンドリアがもともと独立した生物であったと考えられるようになったのは比較的最近のことです。ではどんな生物だったのでしょうか。
現在ではその生物はαプロテオ細菌の仲間だったと考えられています。αプロテオ細菌自体は現在でも多数の種が長い地球の歴史を生きてぬいて存続しているので、彼らにとっては真核生物に寄生するのは必須だったわけではなく、むしろ真核生物が大歓迎で取り込んだというのが真実でしょう。したがって寄生とか共生とか言うより、拉致監禁に近いものと思われます。αプロテオ細菌を取り込めなかった真核生物はほぼ全滅しました(例外がないわけではない)。
αプロテオ細菌の多くは光合成によって植物的独立生活をできるのですが、われわれの祖先が取り込んだαプロテオ細菌は、光合成の機能を失い、餌を食べて(有機物を取り込んで)効率的にエネルギーを産生する(学術的に言えば電子伝達系のシステムで酸化的リン酸化を行い、効率的にATPを産生する)ことができる細菌でした。この細菌をとりこむまでの真核生物は、解糖系という非効率なエネルギー産生系しか持っていなかったため、きわめて地味な生活をしていたと予想できます。
私たちはこうしてαプロテオ細菌を取り込んだ生物を起源として進化してきたわけですが、植物はさらに光合成ができるシアノバクテリアを取り込み、飼い慣らして葉緑体にすることによって、餌を食べなくても生きていける生き方を獲得したと考えられています。このようなことが起こったのは十数億年前~20億年前と考えられています。
当初ATPをホストであるわれわれの祖先に供給し、住居を提供してもらうという関係のミトコンドリアだったと思われますが、その後ミトコンドリアは、ある意味恐るべき機能を獲得しました。すなわちホストの細胞の生死を決定する機能です。私たちの体細胞は自殺するシステムを持っており、それを担うタンパク質である Bad, Bid, Bax, Bim, チトクロム c といったものや、制御タンパク質である Bcl-xL, Bcl-2 などがすべてミトコンドリアに集結しているのです。
この自殺機能は学術的にはアポトーシスと呼ばれていますが、たとえば胎児の時には手についていた水かきの細胞を死滅させるとか、癌になった細胞を自殺させるとか、様々な有益な機能を果たしていると考えられています。どうしてこのような機能をミトコンドリアが担うようになったのかはよくわかりませんが、思い起こすのはパソコンのハードディスクは自分自身では初期化できないので、他のハードディスクかメディアを持ってきて他殺的に処理しなければいけないということです。ミトコンドリアは細胞内に存在する半独立体なので、自殺機能を担わせるのには適当だったのかもしれません。
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