筋収縮の入門書
サイエンス社から「細胞の形とうごき」I~VIというシリーズが出版されるはずでしたが、現在出版されているのはVの「細胞の運動と制御」大日方昂著のみです。どうも出版計画が頓挫したのではないかと疑われますが、この唯一出版されている本がなかなかの名著です。
中身を開くとすぐに電車の絵が出てきたりするので啓蒙本かと思わせますが、実はこの分野をめざす初学者のための入門書に近い専門書です。論文の引用は図版の出典以外ほとんどありませんが、内容はきちんとしていて詳細です。「細胞の運動と制御」というタイトルですが、大半(1~5章)は筋収縮についての記述で、6章が非筋細胞のアクチン・ミオシン系。7章だけが微小管の話なので、いっそのこと筋収縮というタイトルの本にして、7章はなくてもよかったのではないかと思います。微小管の話のかわりに Rho ファミリー関連の制御機構について、もう少し詳しい解説を読みたかったと思いますし、ミオシンスーパーファミリーに関する話題も少ないと思います。
上記のような多少の不満はありますが、筋収縮については多くの図表を駆使して、すでにわかっている点はわかりやすく、わかっていない点もきちんと断り書きがあって、なかなかスマートかつきちんと述べられていて(これはとても折り合いを付けるのが困難な作業です)、筋収縮の入門書としては大変優れた書籍だと思います。
おまけで1枚自作の電顕写真(横紋筋のA帯、I帯、H帯、Z線などを撮影したもの。mt はミトコンドリアの略称です)を付します。
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