今は亡き猫たち mimi 編
学生時代と卒業後しばらくの間はアパート暮らしのため猫が飼えなかったので、東京に出てきてから初めて飼ったのがこの白猫 mimi (オス)でした。当時の上司から譲ってもらった猫で、幼い頃から育てたので深い思い出があります。
電車も車もまったく平気だったので、北海道をはじめいろいろなところに連れて行きました。雄猫で家出をくりかえし、結局もどってこなかったのは痛恨事でした。最後まで面倒をみてやれなかったことを現在でも後悔しています。いきさつはサイドバーの門智安の作品集の最初の物語「サリーの帰還」を書く際に参考にしました(下に再揭・・・もう読んだ人にはごめんなさい)。といってもドキュメンタリーではなく、かなり脚色した部分はあります(名前も変わっていますし、眼はほんとはブルーじゃないし)。
こたつや押し入れが好きな猫で、写真でもそんなところにいます。成長してからの写真は筑波の某氏の家を訪問したときに撮影してもらったもので、このブログにはみられない高級なカメラのため精細な写真になっているようです。
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サリーは知人の飼い猫が生んだオスの白ネコだった。生後数週間の仔猫のときに譲り受けたが、半年くらい経つと眼がブルー、真っ白な短毛、長くてまっすぐなしっぽを持つ大型の美しい猫にすくすくと育った。おもちゃをわたすと、何時間も遊んでいる無邪気な性格だった。頭は右、後足は左という風に、体をねじって眠るのが特技だった。
しかしさすがにおもちゃにも飽きてきたのか、そのうちときどきベランダづたいに外に遊びに行くようになった。最初はすぐに帰ってきたが、しだいに長逗留するようになり、ある時家出して、ついに数日経っても帰ってこなかった。
あちこち探していると、近所の公園で、ベンチに座っている男から弁当を分けてもらっている白ネコをみつけた。間違いなくサリーだと思ったが、首輪が外れていて確認できなかった。思い切って話をしてみようと近づいたとき、男が立ち上がって歩き出した。すると、その白ネコも男の後をついて歩き出した。私は彼らの後をつけた。そしてたどり着いたのは、私の住むマンションの部屋の1階下、つまり2階の一室だった。
それから数日の間私はとても複雑な気分で、仕事も手につかず、悶々と暮らした。しかし一週間・二週間と経つうちに、「あの男に可愛がられているのなら、それもサリーの運命。まあ仕方がないか。それにあのネコがサリーだと確かめる方法もない」という割り切りができて、男と白ネコがいるかもしれない公園や、飼い主の男の部屋には近寄らないようにしようと決断した。
そして半年くらい経過したある寒い夜のことだった。玄関の方でニャーニャーとうるさく鳴く声が聞こえるので扉を開けてみると、なんとサリー(いやあの白ネコ?)がぽつんと座っているではないか!「まあ入れ」と声をかける間もなくネコは玄関に突入し、さっさとリビングに走っていってコタツに潜り込んだ。うちにいた頃もよく潜り込んでいたコタツだ。これは間違いなくサリーだと確信した瞬間だった。サリーは昏々と眠り続けた。久しぶりでエサと水とトイレをいそいそと用意した。
次の日、会社を休むわけにはいかなかったので、眠り続けるサリーを残して出勤したが、サリーのことが病気じゃないかと気になってまともな仕事にはならなかった。しかしそれは杞憂だった。帰ってみるとエサはすっかりなくなっているし、立派なウンチも確認した。サリーは家の中を何度もぐるぐる巡回して点検した。昔も1日2-3回は、家の隅から隅まで巡回していた。点検が終わると、またコタツに潜り込んでぐっすり眠った。もちろん体を180度ねじって・・・。
今度はベランダから逃げられないように、しっかりバリヤーを築いた。サリーがいない間は、帰宅するとただ黙って重い扉を開けるだけだったが、久しぶりで「ただいまー」と挨拶しながら扉を開ける幸福にひたることができた。サリーは私がベッドにはいると、ピョンとベッドの上に飛び乗って、私のふとんの中に潜り込んで眠るようになった。朝になると寝ぼけている私の顔をなめてエサを請求した。家に生き物がいるって、なんて素晴らしいことなのだろう。
そんな日々がしばらく続いた後のこと、ある日酔って深夜に帰宅したとき、いつものように扉を開けると、ただいまーの「た」も言わないうちに、何かの塊がすきまから飛び出した。サリーだと気がついたのは数秒後だった。一気に酔いがさめた。朝まで近所を探し歩いたが見つからなかった。次の日は会社を休み、パソコンで写真入りの張り紙をつくって、近所に貼って歩いた。それから毎日、帰宅するとネコ探しの日々だった。サリーを飼っていた男の部屋も訪ねてみたが出張なのか返事はなく、裏に回ってみても部屋に電気はついていなかった。男とサリーのいた公園にも毎日立ち寄ったが、男もサリーも居なかった。
しかしある日、ついに男をみつけた。彼は公園のベンチに一人で座って、不機嫌そうに弁当を食べていた。話しづらい雰囲気だったが、私は思いきって男に声をかけた。
「すみません。以前に白いネコを飼っておられましたよね」
男はうさんくさそうにこちらに目を向けた。私はあわてて
「私は3階に住んでいる長野という者です」と付け足した。
「ああ、マサオのことですか・・・。家出して帰ってこないんですよ」と男は暗い表情で答えた。最後の望みが絶たれた気がした。
なぜだか急に涙があふれてきたので「そうですか」とだけ言って、私はその場を立ち去った。どんどん歩いてふと振り返ると、男はヒザをかかえ、うつむいてベンチの上にじっと座っていた。
それから白い野良猫をみつけると、いつもサリーと呼びかけていた。しかしいつからか、それも心の中で呼びかけるだけになり、年月を経て私の脳裏からサリーは離れていった。私の手元に残されたのは数枚の写真だけになった。それでもときにはアルバムを開いて私はサリーにそっと言うのだ。
「ただいま サリー」
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