山小屋番人によるエッセイ集
山行を趣味としなくなってから久しくなりますが、ときどき山の本などを手に取ると、思わずひきこまれてしまいます。そもそも中学生くらいの時に、当時のブルーガイドなどを見て、「冬になると毎日のように熊が山小屋のドアをノックするので、開けてエサをやっていた」(雲の平小屋の話)とか、「梅雨時に歩いていると、上からどんどんヒルが落ちてきて、スパッツの中までもぐりこんで吸血されてしまう」(南アルプス南部の話)などの記述に引き込まれてしまって、それが山に関心を持つひとつのきっかけになったような気がします。
山小屋のおやじをやろうというのは、単に山が好きであるとか、都会が嫌いであるとかじゃとてもつとまらない、すごい決断だと思います。重い荷物を担ぎ上げる体力がまず必要ですし、接客や経営の才能も必要です。ただ冬期は閉める小屋が多いので、半年くらいはかなり自由な時間ができるというメリットはあるようです。そのせいか文才のある人も多く、この本には55人の小屋番諸氏が思い思いにエッセイを書いています。
丹沢は学生時代ホームグラウンドでしたが、鍋割山荘に泊まったことがないのは残念でした。ここの小屋番の草野さんは一回100キロの荷揚げ(ボッカ)をやっていたそうでたまげました。100キロって私では1ミリも動かせないでしょう。だいたい5百トンのボッカをやって、山小屋そのものの建築資材をゼロからひとりで担ぎ上げたというのですから超人です。しかし同じ丹沢尊仏山荘の花立氏によれば、丹沢は今笹が枯れ、ブナが立ち枯れるなど大きな危機に直面しているようです。ちょっと心配になりました。
かなり多くの著者がトイレについて語っています。これが山小屋の経営者としては大変な問題だと言うことがよく分かります。八ヶ岳の黒百合ヒュッテなどでは太陽光・風力発電で水を再処理して循環型の水洗トイレを実現しているそうで、すばらしい進歩だと思いました。富士山が世界遺産に登録されなかったのは、山小屋のトイレが垂れ流しだったことが最大の原因だったそうで、これは私たちにとって恥ずかしいことでもあります。
女性の小屋番の方が結構多いのにも驚きました。南アルプスの奥地にある両俣小屋の星さんなどは、30年もひとりで切り盛りされているそうで頭が下がります。彼女の記述の中によく訪れる外国人の話があって、「日本人はせっかく山に来ても、早く寝て早く起きてすぐ出て行ってしまうのが不思議でしょうがない。夜遅くまでお酒やお茶を飲みながらいろんな話をしたり、朝もゆっくりして山を楽しむのがいいのではないか」という意見ですが、それも一理あると思いました。日本人は山に来ると、ともかくピークを目指したり、縦走を急いだりする場合がほとんどですが、それはちょっと異常かもしれないなと考えさせられました。
「小屋番365日」 山と渓谷社 (2008) ¥1,600
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