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2008年11月23日 (日)

珪藻のゲノム

422pxhaeckel_diatomea_4ケイ素は地殻の主成分のひとつで、多くは二酸化ケイ素の状態で存在します。周期律表の同じ列のひとつ上は炭素なので、化学的な性質は似ているはずですが、なぜかこの元素を利用する生物はまれです。小説には結構よくケイ素生物というのが出てくるようですが・・・。

ケイ素を体の一部として利用する生物の代表的なものに珪藻があります。よく家の壁材として使われる珪藻土というのは、珪藻の化石が集積したといってもいい堆積物です。中生代の白亜紀以降の地層によくあるそうですが、1億8千5百万年前以前の化石がみつからないことから、この生物の先祖がケイ素の殻を獲得したのがこのころだったのでしょう。

珪藻は現在の地球上で最も成功した生物のグループで、南極・北極・赤道・氷河・塩湖・酸性の温泉などありとあらゆる環境で生育します。地球上の光合成の20%はこのグループが行っているそうです。ただ赤潮の実体で嫌われることもありますが、普通は魚の餌として重要な生物でもあります。海でプランクトン採集をして顕微鏡でみると、思い思いの美しい殻をもった珪藻が観察できます。つい写生したくなってしまいます。

図はウィキペディアに出ていた100年以上前に、エルンスト・ヘッケルによって書かれたスケッチですが、殻の形態が放射相称を示すものを中心珪藻、左右対称のものを羽状珪藻と呼びます。中心珪藻の一種が2004年にゲノム配列の解析を終えていますが、今年になって羽状珪藻の一種もゲノム配列が明らかになりました。それによると中心珪藻と羽状珪藻は9千万年前に分岐したにもかかわらず、類似した遺伝子を40%しか持っていないという結果となりました。ヒトとショウジョウバエでも50%くらいは類似した遺伝子があると言われているので、これは驚くべき事です。ゲノム中にレトロトランズポゾン(レトロウィルス由来の配列)を多く含んでいて、進化が加速されているらしいです。珪藻がもつ10,000以上の遺伝子のうち約1,400個が珪藻にユニークな遺伝子だそうで、これも驚きです。

今回解析された羽状珪藻のゲノムの解析によると、171遺伝子が紅藻由来のものということで、この生物が紅藻を体内に共生させることによってミトコンドリアを獲得したことを伺わせます。紅藻は藍藻を取り込むことによってミトコンドリアを獲得したと考えられているので、まあ泥棒の上前をはねたようなものですね。このうち11遺伝子はミズカビにもみられるので、珪藻の祖先がミズカビの祖先と分岐する(7億年前)以前に、ある祖先の生物が紅藻を取り込んだものと思われます。

ケイ素はガラスの主成分でもあることから、下記の論文は Genes in the glass house として紹介されています。核戦争で地上生物が全滅しても、その後珪藻はユニークな進化で地球に面白い生物相を構築するかも知れません。

参照:Chris Bowler et al. The Phaeodactylum genome reveals the evolutionary history of diatom genomes. Nature 456, pp239-244 (2008)

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