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2008年6月15日 (日)

カタロニア賛歌

Photo ジョージ・オーウェルは1903年生まれのイギリス人で、名門イートンカレッジ出身の秀才ですが、若い頃はなぜか当時英領のミャンマーで警官をやっていたそうです。しかしその仕事に不満を抱いてイギリスに舞い戻り、ルポライター稼業をはじめるという変わった人物です。第二次世界大戦後「動物農場」という著書を出版して有名になりました。

スペイン内戦に兵士として参加したのも、ヘミングウェイのように国際旅団の一員としてではなく、個人的にPOUM(マルクス主義統一労働者党)傘下の民兵組織に身を投じたわけです。奥さんもすごい人で、バルセロナに移住して陰に陽に夫をサポートしました。彼が戦争に参加した理由は単純にファシストと戦う人民軍の一員として貢献したいということと、ルポライターとして命がけでいい仕事を残したいという目的もあったのでしょう。それはこの「カタロニア賛歌」で実現しました。

彼が到着した1936年末のバルセロナはすごい状態でした。バルセロナでは実際にサンディカリストの労働者が権力を握っていて、資本家や会社経営者を追い出し、会社を労働者の委員会で運営するというサンディカリズムが実現していました。彼らは民兵を組織し、富裕層や豪農達の家屋、教会などを破壊し、実際にフランコ派の本拠地サラゴサ近郊まで出撃して、主力部隊として戦闘を行っていました。オーウェルも興奮したようですが、街ではいたるところに黒と赤の革命旗がはためき、セニョールという呼称やブエノス・ディアス(おはよう)という言葉が廃止され、チップも禁止するなど、階級差別や貧富の差別がない本来の意味での政治・文化の大革命が実現していたのです。

私もこれほどまでに教会が労働者階層に嫌悪されてたことを知ってびっくりしました。この本には具体的なことは書いてありませんでしたが、おそらく教会は富裕層と密接に結びついていたのでしょう。ちなみにローマ教会はフランコ派に好意的でした。

オーウェルも民衆の大喝采の中で、英雄的に戦地に出発しました。戦争はお互いに武器が不足していて、膠着状態のことが多かったようですが、もちろん危険な場面もあり、命がけの戦闘場面の迫真的なルポもあります。そしてついに彼は銃弾がノドを貫通するという重傷を負いますが、九死に一生を得てバルセロナに帰還します。

しかし3ヶ月半後のバルセロナは、まるで別の街になっていました。POUMやCNT(全国労働同盟)と共に戦っていたはずのPSUC(カタロニア統一社会党)がソ連(ロシア)の影響で袂を分かち、POUM一派をトロツキストでファシストが裏で糸を引いている反革命集団として糾弾するという姿勢に転じていたのです。ランブラス通りの両側で、POUM・CNTの民兵と政府軍・PSUCが撃ち合うという戦闘がはじまり、電話局の攻防で500人が死亡するという歴史的事件もおこりました。スターリンのソ連にとって、サンディカリズムやアナーキズムは危険な思想とみられ、スペインからもこの勢力を掃討しようとしたのでしょう。コンティネンタルホテルにはソ連のエージェントが派遣され、毎日POUMはファシストの手先だというデマを流していたそうです。オーウェルはこの本の中で「マスコミ以外で嘘をつくのが仕事の人物を初めて見た」と書いています。バルセロナは革命に熱狂する街から死の街へと変貌しました。

ソ連の後押しの力は大きく、サンディカリスト、アナーキスト、そしてオーウェルの戦友たちも次々逮捕投獄されましたが、オーウェルは奥さんの機転もあって、危機一髪でスペインを脱出することができました。フランコ派はドイツ・イタリアというファシスト国家の援助で次第に力をつけ、結局ソ連が押す政府軍を撃退してスペイン全土を制圧しました。それによって革命軍の拠点であったバスクやカタロニア(カタルーニャ)では、現地の言葉や文化が禁止されるというひどい目に合うことになりました。

「カタロニア賛歌」はあくまでも戦争と革命の現場のルポですが、オーウェルは後に当時の政治情勢を分析して、非常に長い補論を出版し、それはこの文庫本にも掲載されています。資本主義の矛盾や限界は1930年代のスペインにおいても十分に認識されていたわけですが、資本家や経営者にとってもっとも怖いサンディカリストによる革命を圧殺したのが社会主義国家のソ連だったというのが、この本によってよくわかります。

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コメント

映画『Head In The Clouds』のメイキングで、主役がスチュアート・タウンゼントが役造りの為に、脚本同様に読み込んだ本とういことで、ジョージ・オーウェルの『カタロニア讃歌』を上げていました。

「スペイン内戦に兵士として参加したのも、ヘミングウェイのように国際旅団の一員としてではなく、個人的にPOUM(マルクス主義統一労働者党)傘下の民兵組織に身を投じたわけです。」

このような違いが「たが為に鐘はなる」とは異なった視点で描かれているのでしょうか。

是非、読んでみたいと思います。ブログでのご紹介ありがとうございます。

投稿: ETCマンツーマン英会話 | 2014年1月 8日 (水) 14:10

>ETCマンツーマン英会話 様

いらっしゃいませ。

それにしても世の中が次第にオーウェルが言ったとおりになりつつあるのが怖いです。

うちの団地でも監視カメラをつけるかどうかが話題になって言います。

投稿: monchan | 2014年1月 8日 (水) 21:31

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