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2008年4月21日 (月)

幹細胞のDNA

細胞は増殖しますが、バクテリアと真核生物ではちょっと違う点があります。バクテリアの場合、ともかく自分と同じ細胞を複製すればよいわけですが、真核生物の場合それだけではわけのわからない細胞のかたまりができるだけで、生物の形をつくることができません。生物の形をつくるには骨も筋肉も皮膚も、その他もろもろの多様な細胞が必要です。

そのためには、細胞が分裂したときに親の細胞とは違う子供の細胞が生まれなければいけません。その子供の細胞が骨や筋肉や皮膚になっていくわけです。ただ全ての子供の細胞がそのように分化していいかというと、そうではなくて、親と同じように未分化な細胞もないといけません。例えば皮膚からは毎日垢がでますが、これは細胞の死骸です。ということはそれだけぶんの新しい細胞が補充されているということを意味しています。すなわち、分化した細胞はいずれ垢のようになって死ぬ運命にありますから、細胞を補充するという役割を持つ未分化な細胞がある程度残されていなければ、たちまち皮膚の細胞は枯渇してしまいます。

このような未分化な細胞には幹細胞が含まれています。幹細胞はバクテリアのように自分自身を複製することができると同時に、皮膚になっていずれ垢になって死んでいく細胞をつくることもできます。

Dna_2 昔からこの幹細胞にはオリジナルDNAのセットが含まれているというセオリーがありました。細胞が分裂するときにDNAも複製されるのですが、このときのコピーの作業によって、ゼロックスコピーも何度も繰り返すと画質が劣化するように、DNAもわずかに劣化します。それはコピー機の場合ほど露骨ではありませんが、やはりエラーが発生してわずかな変化が生じることを避けることはできません。

今までのセオリーでは、幹細胞は分裂したときに必ず図1のように黒色のオリジナルDNAセットを持つ子供の細胞をつくり、これによって劣化していないDNAのセットを保存して、一生涯の間狂いのない細胞を生み出すことができることになっていました。Aは自己複製時、Bは分化細胞を生み出す際の細胞分裂を示します。

Dna2_2 しかし Kiel 博士らが造血系の幹細胞について詳しく調べたところ、図2のように幹細胞にも分化する細胞にもDNAはランダムに配分され、幹細胞だけが原本のDNA(黒色)、分化する細胞はコピーのDNA(赤色)という配分(図1B)にはなっていないことが判明しました。これまでのセオリーの根拠となる実験がどうして間違っていたかというと、幹細胞の確定的なマーカーを使って実験をしていなかったことに原因があるとのことです。

そうなると長く生きていれば、幹細胞のDNAも次第に劣化してくるということで、ある意味当然な、しかし残念な結果ではあります。また今回確認されたのは造血系のみということで、皮膚・毛髪の幹細胞などについてもいずれ検討することが必要でしょう。

文献: Haematopoietic stem cells do not asymmetrically segregate chromosomes or retain BrdU. Kiel et al (2007) Nature 449, 238-242

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