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2007年7月27日 (金)

黄禹錫(ファン・ウソク) 転落の経緯2

黄禹錫達のグループの2004年の論文は、242個の卵子を使って1回成功したという内容なので、他の研究者が追試してうまくいかなくても「ツキがなかった」とか、「腕が悪かった」とか考えてあきらめてくれるかも知れませんでした。卵子の入手方法の違法性についても、当事者が口をつぐんでいれば証拠もなく、そのうちうやむやになってしまうような雰囲気もありました。しかし韓国科学界の星に祭り上げられ、切手まで発行された黄禹錫としては、このまま何も成果があげられないという状況にはとどまれないところに追い込まれていました。そしてついにそれまでの小悪党からジャンプアップして、科学史に残る大悪事に手を染めることになったのです。

2005年の6月(電子版は5月)になって、11人の難病患者から皮膚細胞の核を取り出し、それぞれ別人の卵子に移植してES細胞を作るのに成功したという内容の論文を「サイエンス」誌に発表しました(下記3)。これはものすごいインパクトのある論文でした。もしそれぞれの患者の遺伝子を持ったES細胞が維持培養されたとすると、そのES細胞を使って正常な組織を作り、患者に移植すると、拒絶反応がおきないわけです。これは多くの難病患者にとって大きな福音と思われました。しかも今回は18人の女性から185個の卵子をもらって、11株ものES細胞を作ったというのですから驚異の結果でした。まあまともな研究者ならこれは眉唾ものだと思うでしょう。しかし問題は著者リストの最後にジェラルド・シャッテンという、この分野で著名な科学者の名前があったので、なんとサイエンス誌に受理されてしまったわけです。

3.Patient-Specific Embryonic Stem Cells Derived from Human SCNT Blastocysts. Woo Suk Hwang, Sung Il Roh, Byeong Chun Lee, Sung Keun Kang, Dae Kee Kwon, Sue Kim, Sun Jong Kim, Sun Woo Park, Hee Sun Kwon, Chang Kyu Lee, Jung Bok Lee, Jin Mee Kim, Curie Ahn, Sun Ha Paek, Sang Sik Chang, Jung Jin Koo, Hyun Soo Yoon, Jung Hye Hwang, Youn Young Hwang, Ye Soo Park, Sun Kyung Oh, Hee Sun Kim, Jong Hyuk Park, Shin Yong Moon, and Gerald Schatten
Science 17 June 2005: 1777-1783.

韓国内の反応は尋常ではありませんでした。黄禹錫は政府に「第一号科学者」に認定され、毎年30億円の研究費が保証されました。彼の研究は完全に国家プロジェクトに昇格しました。このとき黄禹錫は何を考えていたのでしょうか? このいかさまは、これまでとは違って必ずいつかバレます。それはわかっていたでしょう。おそらく多額の研究費を手に、なんとか1株でも神頼みででも成功させて、サイエンス誌に出した株はみんな死んだことにでもして逃げ切ろうと考えていたのでしょう。

しかし砂上の楼閣は内部から崩れ始めました。黄禹錫の使った卵子は金銭で得たものであり、研究の内容も信用できないという内部告発がテレビ局MBCに寄せられ、MBCのスタッフが調査をはじめると、韓国国内でブローカーの介在で卵子の売買、代理母の手配などが行われていることが明るみに出て、警察も動き出しました。黄禹錫の共同研究者であるミズメディ病院理事長の盧聖一(ノ・ソンイル)も捜査の対象になったことは、黄禹錫にとって大きな痛手だったでしょう。シャッテン教授はこれらを受けて、黄禹錫との共同研究を打ち切ると発表しました。これも大きな痛手でした。MBCは調査の内容を「黄禹錫神話の卵子売買疑惑」として時事ドキュメンタリー番組「PD手帳」で2005年11月22日に報道しました。

黄禹錫はさすがに観念したか、記者会見を開いて卵子提供に倫理的問題があったことを認めて謝罪し、いっさいの公職を辞任すると発表してソウル大学病院に入院してしまいます。ところがこれが終わりではなく、大騒動のはじまりだったのです。韓国の偉大な科学者をおとしめるとは何事かとMBCにキャンドルライトを持った抗議の群衆が押し寄せ、その後も激しいバッシングでスポンサーが降りて「PD手帳」という番組自体が打ち切りになってしまったのです・・・つづく。

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