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2007年4月10日 (火)

幹細胞の先駆者たち

Photo_122 もう一昨年のことになってしまいましたが、ソウル大学・黄禹錫(ファン・ウソク)教授の「ヒトクローン胚による胚性幹細胞の樹立に成功した」という論文ねつ造事件は、まだ記憶に新しいところです。その余韻はまだ残っているようで、オオカミのクローンを作ったという論文にも問題があることが、昨日報道されていました。

もし黄教授の発表が本当ならノーベル賞だといわれていましたが、ちょっと待ってください。もう臨床にも用いられている幹細胞の理論と技術のルーツはどうなのでしょうか? 放射線の分野の研究者なら、Till 博士と McCulloch 博士の業績は誰でも知っています。致死量の放射線を当てたマウスは造血ができなくなって、脾臓も紙のように薄くなって死亡します。しかしこのマウスに、他のマウスの骨髄細胞を注射すると、脾臓に「こぶ」のような細胞の固まりができて造血を行い、生き延びることを彼らは実証しました(1)。

この細胞の集塊をつくるのがまさしく幹細胞で、一つの細胞が白血球、リンパ球、赤血球、巨核球などさまざまな血液細胞を作りだすことができます(図は骨髄細胞の標本-筆者撮影)。幹細胞がこれだけもてはやされるようになっているのに、彼らがまだノーベル賞をもらっていないのは不思議な感じがします。

骨髄の幹細胞をシャーレで培養し、細胞を増殖させて、いろいろな細胞に分化することを証明したのは Metcalf 博士のグループです(2)。その後血液幹細胞を培養するという実験は大流行し、そこから胚性幹細胞へと研究がつながっていったわけです。胚性幹細胞は血液細胞だけでなく、あらゆる細胞に分化する能力を持っています。こうしてみると、誰かがヒトの胚性幹細胞を樹立したとしても、Till, McCulloch, Metcalf らを置き去りにしてノーベル賞をもらったとすれば、それはおかしなことだと思います。もう彼らも高齢なので間に合えばいいのですが。

私はまだ読んでいないのですが、東亜日報の記者である李成柱氏が、黄禹錫事件のすべてを克明に記したとされる「国家を騙した科学者」牧野出版は面白そうなので、そのうち読んでみようと思っています。

1) Till JE, McCulloch EA: A direct measurement of the radiation sensitivity of normal mouse bone marrow cells. Rad. Res. 14, 213-222 (1961)
2) Johnson GR, Metcalf D: Pure and mixed erythroid colony formation in vitro stimulated by spleen conditioned medium with no detectable erythropoietin. Proc. Natl. Acad. Sci. USA pp. 3879-3882 (1977)

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